ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

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 メンバー集め5人目。地味にストーリーも進みます。
 絵里の回って大体彼女が壊れる話が多いですが、それもご愛嬌ということで……(笑)



※後書きにて告知があるので、是非最後までご覧下さい!


ポンコツであってもチョロくはない!

 

「ここみたいだな。スクールアイドルの総本部ってのは」

「初めて来たけど、思ったよりも大きな会社なんだね」

「そりゃスクールアイドルと言えば、今は全国イベントで注目されるくらいなんだ。お前らがμ'sをやっていた時とはもはや規模が違うんだよ。だからそのスクールアイドルのイベントを開催する会社も、それなりの規模だってことだ」

 

 

 俺たちは楓の飯を強引に胃へ詰め込んだあと、メンバー集めのために再度外へと繰り出していた。そして辿り着いたのはスクールアイドルの総本山であり、ここで働いている元μ'sメンバーの1人に会いに来た次第だ。

 ちなみにこの会社は主に『ラブライブ!』等のイベントを開催している企業であり、謂わばスクールアイドルというものを世に知らしめた存在である。メディアを通じて全国を魅了したのはμ'sやA-RISEなのだが、『ラブライブ!』というビッグイベントの場を提供したこの企業こそ、影の功労者と言えるだろう。今では地域ごとに発足するまでとなったスクールアイドルにミニイベントをプロデュースするなど、今なお熱気が続くスクールアイドルブームを更に躍進させ続けている。ここ数年で爆発的に増えたスクールアイドルだが、例え発足したばかりの弱小アイドルであろうとも推していくそのスタイルを見ると、いかにこの会社のスクールアイドル熱が高いことが分かるだろう。

 その熱気が凄まじいのは、この会社へ就職する人にスクールアイドル出身が多いのが原因の1つだったりする。この会社がスクールアイドルを推し始めてから恐らく5、6年くらいだろうが、そうなればその時代にスクールアイドルをしていた少女たちは当然社会人になる年代だ。それ故に、自分に夢と思い出を与えてくれたこの会社を就職先に選ぶ人も多いらしい。自分がたくさんの希望を貰ったから、次は自分が後世のスクールアイドルたちに希望を与える番。そう考えると素敵じゃん?

 

 そんな訳で、穂乃果たち元μ'sのメンバーからもこの会社に勤めている人が2人いる。今日はその中の1人を再びμ'sに引き込もうという穂乃果の算段でここに来たのだ。言ってしまえば楓とは別の意味で勧誘のハードルが高い人であり、楓が性格的に厄介なのに対し、今回の勧誘対象は社会的に勧誘難易度が高いのだ。そりゃ会社勤めってことは社会人として働いている訳だから、もう一度μ'sに誘い込もうとするなんて暴挙に出る方が無茶だろう。もちろん誘ってみるだけならタダなので止めはしないが、穂乃果のことだから断られてもそう簡単には引かないと思う。これはまた長期戦になりそうだな……。

 

 事前にここへ来ることは勧誘対象に連絡してあるので、とりあえずビルの中へ入りエレベーターで指定された階へと向かう。

 ビル内はもちろんエレベーター内にもスクールアイドルやイベントを推すポスターが盛りだくさんに貼られているので、格式高い綺麗なオフィスにも関わらずオタク臭溢れる秋葉原を歩いている気分だ。ただ会社の雰囲気がとても明るく見えるから、環境的にも働きやすそうだと初めて訪れたながらに思った。

 

 そして、エレベーターが所定の階に到着する。

 扉が開くと、そこには俺たちの待ち合わせの相手が小さく手を振っていた。

 

 

「あっ、絵里ちゃんだ!」

「穂乃果も零も久しぶりね! 元気にしてた?」

 

 

 俺たちが待ち合わせをしていた相手は絵里だ。

 絵里は今年の春から社会人として、このスクールアイドルの総本山で働いている。冷徹な生徒会長時代はスクールアイドルを踏みにじるほど馬鹿にしていた彼女だが、何だかんだμ'sに加入してたくさんの思い出を作り、今は後輩たちの思い出作りの手伝いをしている。そう考えると感慨深いというか、絵里にピッタリな仕事だと思うよ。アイスエイジと言われていたあの頃の絵里に今の状況を伝えても、絶対に信用しないだろうなぁ。

 

 ちなみに久しぶりというのはまさにそうで、いくら連絡を取り合っていると言ってもこうして実際に会うのは月に1、2回あるかないかくらいだ。まだ大学生である俺たちとは違って彼女はもう社会人、時間が有り余りながらも持て余してる俺たちとは違って、この世に貢献する社会の歯車なのだ。何もせずにダラダラとニート生活をしている俺からしてみれば、社会で輝く彼女の眩さで視力を失ってしまいそうだ。

 

 

「突然だったけどゴメンね。どうしても絵里ちゃんと直接会って話がしたかったんだ」

「本当に突然だったけど、穂乃果がそんなことを言うなんて珍しいから今日は特別。それに幸い、今日は仕事も少ないしね」

「穂乃果の用事もそうだけど、俺もお前に聞きたいことがたくさんあるから。今日は洗いざらい全部話してもらうぞ」

「えっ、尋問されるの私……?」

 

 

 絵里は一瞬怪訝な顔をしながらも、俺たちを来客用スペースへと誘導する。会社に断りもなしでいきなり訪れてしまったのだが、そこのところは絵里が上手くやってくれたのだろうか。まあ最悪穂乃果が持っているμ'sのリーダーという肩書きを周囲に振りまけば、スクールアイドル熱の激しいこの会社なら許してくれそうなものだが。

 

 そしてこれは今回の話題に全く関係のないことなんだけど、俺の前を歩く絵里は社会人だから当然スーツを着用している。とは言っても夏場なので上がシャツだけのクールビズスタイルなのだが、それが逆に男の欲情を誘ってきやがる。具体的に言えば、その自己主張の激し過ぎる胸がシャツを押し上げてもなお形を保って浮き彫りとなっているので、健全な一般男子の俺は目が釘付けとなってしまう。しかもスーツのスカートが妙に絵里のおしりのラインにフィットしているせいか、彼女が歩を進める度に形の良いおしりがふりふりと俺を誘惑するように揺れる。スーツ姿の女性なんて東京ならよく見るし、そのせいで今更欲情するなんてことはないと思ったのだが、やはり自分の彼女のスーツ姿はストライクゾーンに刺さる。これも教育実習で社会に出た経験があるからこそ、スーツ姿の女性により魅力を感じるようになったのだろう。

 

 

 少し歩いて3人で席に着く。

 そして絵里の奢りで出されたジュースを飲みながら、穂乃果の勧誘が始まろうとしていた。

 

 

「絵里ちゃん! もう一度μ'sに入って!」

「えっ、どうしたの藪から棒に……?」

「この会社で働いている絵里ちゃんなら知ってるでしょ? スクフェスの話」

「あぁ~来月末に行われる、スクールアイドルのイベントのことね……って、まさか穂乃果!?」

「そうそのまさか! 穂乃果も参加するの!」

「参加するのって、招待状がないと参加希望すら出せないわよ?」

「あるぞ。俺の家に資料と一緒に届いてた」

「う、嘘……」

 

 

 絵里は穂乃果に勧誘されたことよりも、俺の家に招待状が届いたことに驚いてるみたいだ。

 でもそこまで驚くことか? 絵里がスクフェスの仕事に関わっているかは知らないけど、実績があるμ'sに招待状が届いても別におかしいことはない。まあ何故俺の家に届いたのかなど疑問はいくつか残っているので、今日は穂乃果の勧誘と平行してその疑問を解決していこうかな。

 

 

「零。その招待状、今持ってる?」

「あぁ。ほら」

 

 

 絵里は俺からスクフェスの招待状を受け取ると、それに描かれている文字やイラスト、裏面まで事細かにチェックする。

 そして一通り確認が済むと、俺に招待状を返してきた。ただ、彼女の雰囲気は再会を祝していた歓喜さはなく真剣そのものであった。

 

 

「私、この会社で一度スクフェスの招待状を見たことがあるの。その時はまだ見本だったけど、零が持ってるその招待状と文字もデザインも全く同じだったわ。それに正規の招待状には複製できないよう特殊な印字がされているんだけど、それもピッタリ一致。つまり、その招待状は本物ね」

「お前、この招待状が偽物だと思ってたのか?」

「そっか、あなたたちは知らなかったのね。実はこの招待状、現役でスクールアイドルをやっているグループにしか送られていないの」

「ま、マジで!?」

 

 

 絵里の口から語られた事実に、オフィス内ながらも驚きで大きな声を出してしまう。

 つまり、スクールアイドル界から引退してしまったμ'sにスクフェスの招待状が届くはずがないってことだ。そもそもの話、こんな大企業が宛名も何も書いてない封筒に大切な招待状を入れて発送するはずがない。ということは、やっぱり誰かが俺の家のポストに直接招待状入りの封筒を投函したってことになる。事実を知れば知るほど、謎が深まるばかりだなこりゃ……。

 

 

「招待状が入っていた封筒には何も書かれてなかったけど、流石にこの会社がそんなことしないよな?」

「当たり前でしょ。とにかく私が言いたいのは、得体の知れない招待状は全部回収したいってこと」

「えぇっ!? 回収されちゃったら、穂乃果たちスクフェスに出られないよ!?」

「ほ、穂乃果? さっきの話、聞いてた……?」

「うん、おバカな穂乃果でも分かりやすい話だったよ」

「だったらどうして参加しようとしてるの……? 誰が送ってきたかも分からないこの招待状で」

「う~ん、穂乃果はもう一度みんなと歌って踊れればそれでいいから!」

「相変わらず良くも悪くもマイペースな奴……」

 

 

 歌って踊る以前に、誰が送ってきたかも定かではない招待状で参加するのはスクフェスの規定として大丈夫なのか……? 公式な招待状でなければ参加できないのが普通だが、俺たちの手元にある招待状は絵里の鑑定により本物らしいので、会社に相談すれば参加できる可能性は高い。しかし絵里が危惧しているのはそこではなく、得体の知れない人物が送ってきた招待状で無闇にスクフェスに参加するなってことだろう。この招待状を送ってきた人物が、どうやって正規の招待状を手に入れたのかも分かってないしな。僅かでも怪しさが残っているのなら、下手に踏み込まない方がいいという絵里の大人な判断だ。

 

 

「むしろ、穂乃果は謎の招待状だからこそ受けて立った方がいいと思うんだよ! それにまたみんなでスクールアイドルができるチャンスなんだよ? この機会を逃す訳にはいかないよ!」

「穂乃果、あなたねぇ……。気持ちは分からなくもないけど」

「という訳で、絵里ちゃんもまたμ'sに入ってくれるって話だったよね?」

「どこでどう歪曲したらそんな話になるのよ!?」

「やっぱり絵里ちゃんがいないとμ'sが締まらないというか、今のままだと海未ちゃんの負担が大きくて……」

「それはあなたたちがしっかりすればいいだけの話でしょう……。ていうか、海未はOKしてくれたのね。意外というか何というか」

「うんっ! 穂乃果の強い情熱を海未ちゃんの心に響かせてね!」

 

 

 嘘付け。ツイスターゲームで海未の羞恥心を煽って、抵抗できなくしたのはどこのどいつだよ……。でも情熱を響かせたのは事実であり、勢いだけの言葉足らずの勧誘であっても、その熱い心はしっかりと海未に伝わっていた。褒められた勧誘の仕方ではないが、あながち間違ってもいないから何とも言えねぇな。

 

 

「だから絵里ちゃんお願い! 穂乃果たちともう一度μ'sを結成しよ?」

「待って待って! そもそも私、社会人だから参加できないわよ!?」

「その言葉を待ってました! 心配しなくても、招待状と一緒に届いたこの要項には年齢制限はありませんって丁寧に書いてあるから!」

「あ、あの穂乃果がちゃんと要項を読んでいるなんて……!! 生徒会の資料すらまともに読まなかった穂乃果が!?」

「驚くところそこなの!? そこは『私も参加資格あるんだ』って喜ぶところじゃないの!?」

 

 

 穂乃果がゲームの説明書を読まないタイプなのは周知の事実だが、勧誘をするとなったら話は別らしい。絵里が社会人なことを考慮して、参加者規定をじっくり読み込んでいたみたいだ。

 

 だが、穂乃果の用意周到さはこんなものではないらしい。彼女の笑顔が妙に黒くなっているから、恐らくここから褒められない方法で引き入れが始まるのだろう。あぁ、また勧誘という名の茶番に付き合わなきゃいけないのか……。

 

 

「穂乃果はね、知ってるんだよ。絵里ちゃんが裏でコソコソやってること……」

「な、何よそれ……脅す気?」

「べっつに~? でも亜里沙ちゃんから噂程度に聞いただけで、真実かどうかは分からないけどね」

「亜里沙からって、ま、まさか……!!」

「いやぁ、あの絵里ちゃんが1人でそんなことをしていたとはねぇ~」

「そんなことって、どんなことだ?」

「零君も知りたい? 実はね、絵里ちゃん家で1人きりの時に――――」

「ダメェエエえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」

「耳元でデカい声出すなよ……」

 

 

 さっきまで招待状の件を冷静に分析していた絵里だが、穂乃果の攻撃により一瞬で態度がコミカルに変わる。正論でスクフェスへの参加を諭していた彼女はどこへやら、招待状の謎解きをしていた時の張り詰めた雰囲気が緩々になっていくのを感じる。そしてこの流れは、絵里の『賢さ』が徐々に失われておバカになっていくあの流れだ。どうして賢いキャラってのは、ギャグ方面になるとおバカキャラと同等の知能になっちゃう宿命なんだろうな……。

 

 

「亜里沙ちゃんから聞いた噂を聞くに、絵里ちゃんはスクールアイドルに未練があると思うんだけどなぁ~? どうなのかなぁ~?」

「ぐっ……」

「社会でキビキビと働く絵里ちゃんは、まさにキャリアウーマンの鏡だよ。でもね、まさかその社会のお手本がラブアロ――――――」

「ストップストップ!! 分かったわよ! μ'sに入ればいいんでしょ!?」

「やった♪」

「えぇっ!? チョロ過ぎんだろお前!」

「チョロくはないわ。身の保全ために必要だから……」

「はぁ……」

 

 

 なんかこれ以上にないヒドい勧誘を見た気がする……。海未の時はまだ穂乃果の情熱の欠片を感じることができたが、今回ばかりは単なる脅しだ。社会人をスクールアイドルに引き込むのは一筋縄じゃいかないことくらい予想は付いていたが、まさかこんなあっさりと勧誘に成功するとは。これも参加要項を読み込み、絵里への一番効果的な武器を用意していた穂乃果の賢さ(?)勝ちなのかもしれない。

 

 対して絵里は顔を赤くしながら涙目で身体を震わせているので、もはや招待状の謎を解析していた頃の賢さは失われていた。あの穂乃果に賢さ(狡賢さと言った方がいいか)で負けたら、俺だったら確実に人生やり直すために転生目的で命を絶つ自信がある。それくらい不名誉なことだから。

 

 

「今まで穂乃果の勧誘に抵抗していた奴は何人かいたけど、一発でノックアウトしたのはお前が初めてだぞ?」

「初めてだぞって言われても、あのことを公にされたら……」

「絵里がマジでビビってるんだけど、穂乃果お前何を知ってんだ?」

「絵里ちゃんの精神と引き換えに、ファンが爆発的に増える。そんな話題だよ♪」

「悪魔と取引でもしたかのような言い方だな……」

「いや、本当にしちゃったわよ。μ'sに入る代わりに、黒歴史を隠蔽する哀れな選択をね……」

 

 

 急に卑屈になり始めたぞコイツ。絵里は心の悲しみが深くなると徹底的に沈んでしまう面倒な性格をお持ちになっているので、下手に擁護せず放っておいた方が良さそうだ。μ'sの中では一番お姉さんキャラでしっかりしてそうなのに、ちょっと羞恥心を突っついてやるとこれだからなぁ……。だから『賢い可愛いエリーチカ』がネタにされるんだよ。まあシュンとしている姿が可愛いのは認めるけどね。

 

 

「良かったね絵里ちゃん! これは1人でコソコソ練習していたあの決め台詞を、大舞台で言えるチャンスだよ!」

「練習なんてしてないから! たまたまだからあれは!」

「そっかぁ~。本人がそう言うならそうなのかもねぇ~」

「馬鹿にしてるでしょあなた……」

 

 

 穂乃果はここまで4人の勧誘をそれほど時間を掛けずに成功させてきたので、浮き足立って調子に乗っているのが一目で分かる。現に絵里から賢さを失わせたうえで屈服させたから、その勢いは今後も止まることを知らないだろう。普段は人をここまでからかうことがない穂乃果だからこそ、その絶好調さが見た目だけで伺える。このままだと、μ'sの約半数が穂乃果に脅されて加入することになりそうだけど、それってメンバーの団結力的な意味で大丈夫なのかな……?

 

 

 まあ穂乃果たちだったらどうとでもなるだろと思っていると、遠くから絵里を呼ぶ声が聞こえてきた。どうやら同じ会社の先輩のようだ。

 

 

「絢瀬さーん! 少しいいかしらー?」

 

「はいっ、すぐ行きます! ゴメン、ちょっと抜けるわね」

 

 

 絵里は俺たちに小さく手を立てて謝ると、一旦休憩室から抜け出して仕事に戻った。

 今思ったんだけど、遠くにいた社員さんの声がここまで聞こえたってことは、絵里の叫び声はこのフロア全体に響き渡っていたんじゃないか……? 賢くない彼女が本性とまでは言わないけど、案外おバカなキャラなのかもって先輩たちに知られてしまった可能性はある。穂乃果の勧誘が絵里の社会的抹殺にならなければいいが……。どんな黒歴史を握ってんのかは知らないけどさ。

 

 

「そういえば、零君は知りたい? 絵里ちゃんの超キュートで可愛い一面を知りたい??」

「あぁ、できるなら知りたいよ。俺だけ会話に混ざれなかったんだから」

「いいよ。今ちょうど絵里ちゃんもいないし、零君だけ特別にね♪」

「口止めされてるのにいいのかよ……」

 

 

 特別と銘打ってる穂乃果だが、本心は誰かに言いたくて堪らなかったのだろう。もう高揚しているその態度と、ニヤけにニヤけているその表情で察せる。どのような闇ルートで絵里の情報を仕入れたのかは知らないが、その情報を隠蔽することを約束に彼女をμ'sに加入させたのに、ここで堂々とバラそうとするんだから人が悪い。こんなのがリーダーでμ'sを再結成して大丈夫なのか……?

 

 

「最近の話なんだけど、亜里沙ちゃんが見ちゃったんだって。絵里ちゃんの部屋のドアの隙間から、可愛く決めポーズをしている本人をね」

「決めポーズ?」

「うん。どうやら絵里ちゃんは家に1人しかいないと思い込んでたらしくて、それで気が抜けちゃったんだろうね。鏡の前で海未ちゃんの決め技、ラブアローシュートを振り付け込みで真似をしていたらしいよ」

「なるほど、だからアイツにとっては黒歴史なのか――――――!?」

「残念ながら動画はないらしいけど、想像するだけでも可愛いよね!」

「お、おい穂乃果……」

「だってあの絵里ちゃんだよ? キャリアウーマンのお手本のような絵里ちゃんが、まさか『あなたのハートを打ち抜くぞぉ~♪』とか言ってる光景を想像したらもう愛くるしくなっちゃって! それでいてちょっぴりおバカで面白いから、さっき絵里ちゃんと久々に顔を合わせた時、思わず笑っちゃいそうになったもん♪」

「お前、ちょっと喋りすぎたな……」

「えっ……?」

 

 

 穂乃果は背中にただならぬ覇気を感じたようで、首をロボットのように震わせながら後ろを振り向く。

 そこには、怒りの炎を身に纏った絵里が腕を組みながら仁王立ちしていた。その表情は般若そのものであり、もはや賢さの面影はどこにもない。ただ目の前の裏切り者を怒りの業火で焼き尽くすだけの鬼であり、穂乃果を見下す目線には慈悲や容赦の欠片も感じられなかった。

 

 そして穂乃果は鬼の形相を見て、身体の水分が全部抜け切ってしまうくらいの大汗をかいていた。強迫したり脅す側は脅される側の仕返しを常に考慮しておかないと、いつか痛い目をみるからな。今がまさにその時だ。

 

 

「穂乃果……あなた契約を交わして数分で裏切るとか、いい度胸してるわね……」

「ほ、本物の悪魔だ……。だ、だって零君が知りたいって」

「俺を売るな! お前が自分から言い出してきたんだろ!?」

「言っておくけど、あれは家に1人しかいないと思ったからやっちゃっただけで、普段からあんなことしてないから!! 誰だって経験あるでしょ!? 家に誰もいない時に、ちょっと楽しくなって変な行動を取っちゃう時が! ほら、大声で歌を歌ってみたり、大げさに動き回って側転してみたりすることが!! 海未の真似をしようと思ったのもほんの些細な出来心だったのよ!! 分かってくれるわよね!?」

「「いや」」

「うっ、ぐぅ……お、おウチ帰る!!」

「えぇっ!? 絵里ちゃんまだ仕事中でしょ!? ゴメンゴメン! 謝るから帰ってきてぇええええええ!!」

 

 

 社会人になってより大人っぽくなった絵里だけど、やっぱりそう簡単に内面は変わらないみたいだ。むしろ高校時代よりも行動がお茶目になっているような気がするのは、俺の勘違いだろうか? そのことを本人に伝えたら明らかに涙目で否定されるだけなので、この疑問は俺の中だけに留めておこう。

 

 ちなみに、家で1人きりの時に奇妙な行動を取ってしまうことはない訳ではない。何でか知らないけど、何故か楽しくなっちゃうんだよな。でも海未のラブアローを真似するのはちょっとな……。

 

 

 そしてまた何だかんだでメンバーの勧誘に成功したのだが、さっきも言った通りμ'sの団結力は大丈夫かこれ……? それもこれも穂乃果のリーダーシップに期待するしかないみたいだ。こんな詐欺紛いな勧誘ばかりしてる奴に、期待を煽るのもどうかと思うけど……。

 

 

 とにかく、メンバー集めはまだまだ続く。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 Aqours編以降、この小説で絵里が登場するたびに彼女の黒歴史が浮き彫りになっている気がしてならない……。別に彼女をイジメたい訳ではなく、ギャグ小説として美味しいネタなもので(笑)
まあイジメたい願望がない訳ではないので、あながち間違ってないかも……?



【告知】
 私と同じくハーメルンで『ラブライブ!』を執筆されている"たーぼ"さんの小説『ラブライブ!~奇跡と軌跡の物語~』との2回目のコラボが決定しました!
 前回は向こうの小説の一周年記念でコラボ依頼を貰ったのですが、今回はこちらから依頼を出して快く引き受けてくださいました。

詳しい投稿日程や内容はまた後日の発表しますので、こちらとあちらの最新話共々、コラボ小説もよろしくお願いします!




 次回は亜里沙を攻略(勧誘)回です!

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