ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

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 千歌がμ'sに突撃訪問編の後編となります。
 憧れの先輩たちに囲まれて練習することになり、千歌の緊張はもう張り裂けそうで……


未熟と成熟なDREAMER

 

「どうして……どうしてこんなことになってるのぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?!?」

 

 

 神聖な神社の前で、頭を抱えてあたふたしている高海千歌という少女が1人。

 もはや気が狂いそうになるほど緊張が爆発しているようだが、よくよく思い返してみれば自分から練習の見学を申し出てきたんだよな……? まあ見学だけで今の状況のように一緒に練習をするなんて想像もしていなかっただろうから、脚が震えるほどに焦る気持ちは分からなくはない。見学をしている最中はいつものハイテンションだったのに、またここへ来る前の臆病な彼女に戻っちまったな……。

 

 そんな訳で見学予定だった千歌が急遽μ'sの練習に参加することになったのは、穂乃果を始めとしたμ'sみんなの提案だった。穂乃果に腕を引かれて有無を言う暇もなく連れ込まれ、しかもセンターのポジションに立たされるという高待遇っぷりだ。だがμ'sに憧れる千歌からしてみれば、いきなり練習に参加する羽目になった挙句、穂乃果たちとの初練習がセンターポジと来たものだからさあ大変。果たしてこの状況をどう切り抜けるのやら……。

 

 ちなみに俺は見てるだけだよ。だって水を差すのは惜しいくらい面白い状況じゃん今!

 

 

「とっても嬉しいのに何だろうこの気持ち……。シンデレラのお城に小汚い和室がポツンとあるような違和感が……」

「千歌ちゃんはセンターなんだから、お城のてっぺんのお星さまだよ♪」

「ちょっと穂乃果さん!? ただでさえ緊張してるんですから、余計なプレッシャーを掛けるのやめてください!!」

「えぇ~? 千歌ちゃん可愛いからセンターでもいいと思うんだけどなぁ~」

「か、可愛いってそんな! 皆さんに比べたらまだ子供ですよ!!」

「心配しなくても大丈夫ですよ、高海さん。穂乃果も精神年齢は子供ですから」

「海未ちゃん!? さっきの発言で穂乃果の先輩としての威厳がゼロになっちゃったよ!? 責任取れる!?」

「だったら、朝練に遅刻するなんて真似はこれっきりにしてください」

「うっ、痛いところを……」

 

 

 海未の言っていることはまさにその通りだから、周りにいる子たちも苦笑いで否定はできなかった。確かに穂乃果は勉強面の成績は上がってきたが、肝心な時に寝坊しそうになったり寝坊したり、講義の宿題をうっかり忘れていたりなど高校時代と大して変わっていない。だからこそ俺は尚更彼女が神格化のように扱われているのが気になっているのだ。現に今日の朝練も数分だけど遅刻してたし、自らみんなを誘ってμ'sを再結成したのにその言い出しっぺがこの調子では先が思いやられそう……。

 

 

「凛も千歌ちゃんの気持ち分かるよ。一度だけど、凛だってライブの本番前にいきなりウェディングドレスを着せられて、センターに放り込まれたことがあるんだから!」

「えっ、本番でいきなり!? そんなことになったら私、プレッシャーに負けちゃいそう……」

「それでも凛ちゃんはキチンとセンターの大役を担って、ライブは大成功だったんだよ。最初センターだったのは私だけど、絵里ちゃんたちから本番前まで絶対にバラしちゃダメだって言われてたからちょっと罪悪感はあったけどね……」

「花陽さんたちからのサプライズだったんですか!?」

「そうそう、試着室に入ったらいきなりウェディングドレスが置いてあるんだもん! あの時以上にかよちんに裏切られた気分になったことはなかったにゃ。まあ、今ではいい思い出だけどね!」

「その状況でもやり遂げられる凛さんが凄いですよ! 私なんてウェディングドレスを見ただけでも緊張しちゃいそう……」

 

 

 そんなことを言いながら、千歌は頬を染めつつ俺の様子をチラチラと伺っている。何を想像しているのかは知らないが、ただでさえ緊張の糸を張っているのにこれ以上張り詰めるとマジで糸が切れてしまうぞ……?

 

 ちなみに千歌が緊張しているのは突然センターポジションに抜擢されたというのもあるのだが、一番の要因は周りにμ'sメンバーが勢揃いしていることだろう。まあだからと言って穂乃果たちがこの場を離れる訳にもいかないし、これも千歌自身の精神増強訓練だと思って我慢してもらうしかなさそうだな。

 

 

「あれぇ~? 千歌ちゃん、零君の方ばかり見て何を想像しとるん♪」

「ひゃっ、の、希さん!? いえいえ大したことじゃないですよ!! せ、先生と一緒にバージンロードとか考えてませんから!!」

「心の声、全部出とるよ♪」

「えっ、あっ……な、何言っちゃってるの私ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

「もう希ったら……。反応が可愛いのは分かるけど、あまり弄らないの」

「ゴメンゴメン! でも絵里ちも言葉はちゃんと選んだ方がいいよ? ほら」

「え……?」

「絵里さんに可愛いって言われた絵里さんに可愛いって言われた絵里さんに可愛いって言われた絵里さんに可愛いって言われた」

「あっ、高海さんゴメンなさい!! そんなつもりじゃなかったのよ!!」

「ホントに、絵里ちも千歌ちゃんも面白いなぁ♪」

 

 

 希の奴、いくら自分が大吉ばかり引くラッキーガールだとしてもいつか絶対にバチ当たるぞ……。

 それにしても、千歌の口からバージンロードなんて言葉が出るなんて……。しかもその相手ってもしかしてもしかしなくても俺……だよね? お互いに告白じゃないけど告白紛いなことをした関係だけど、まさか彼女がここまでの未来設計を立てているとは思っていなかった。気が早いと呆れるべきなのか、それともまだ出会って一か月半なのにここまで好きでいてくれることを喜ぶべきなのか。ていうか、もし本当の告白をされた場合、俺とμ'sの関係ってどう話せばいいんだろうか……?

 

 

「ふぅ~」

「ひゃぁっ!? こ、ことりさん!? いきなり耳に息吹き掛けないでくださいよ!!」

「いやぁあまりにも千歌ちゃんが緊張してるみたいだから、解してあげようと思って♪」

「ビックリして余計にドキドキしちゃいますよ!!」

「ことり先輩は相変わらず官能的というか、流石お兄ちゃんと可愛い女の子なら誰でもいいと豪語するだけのことはありますね」

「もう楓ちゃん! それじゃあことりが変態さんに思われちゃうよ!!」

「ことりさんって清純なメイド系スクールアイドルとしても有名ですから、そんなことはないと思いますけど……」

「あなたはこの鳥さんの仮面を見て育ったんだね。嘆かわしい……」

「えっ、ど、どういうことぉ……?」

 

 

 千歌はことりと楓、どちらの言い分を信じたらいいのか分からず両者を交互に見て戸惑っている。彼女はμ'sの表の顔は知っていても裏の顔は全く知らないため、ことりがいきなり変態だと言われて信じる方が難しいだろう。だが現実はそう甘くなく、俺からしたらその選択は迷う必要もなく楓に軍配が上がる。そもそもことり自身が『変態さんに思われちゃうよ』と反論している時点でもう呆れるしかない。アイツが自分自身のことをどう思っているかは知らないが、これまでの所業を顧みてよくそんな反論が出てきたな……。いつもおちゃらけてる楓が珍しく正論を言っていることからもうお察しだ。

 

 

「千歌さん大丈夫……? さっきからずっと騒ぎっぱなしだけど……」

「あ、亜里沙さぁ゛ぁ~~ん!!」

「えぇっ!? どうして泣いてるの!?」

「いや、久しぶりに優しくされたなぁ~と思いまして……」

「μ'sの先輩たちはクセが強いから、私もいつも苦労させられてるよ」

「雪穂さんがですか? μ's内で最年少なのに大人だ!」

「でも雪穂も、なんだかんだ零くんに流されちゃうことよくあるもんね?」

「ね?って言われても……。しかもそれは相手が零君だからであって、普段の私だったら――」

「も、もしかして、雪穂さんも先生のこと……?」

「はぁ!? い、いやそれはそのぉ……ノーコメント!!」

 

 

 そりゃそうだ。だって後輩のスクールアイドルに、あなたの先生と付き合ってるなんて中々言えねぇよな。しかもそれを暴露し始めたら他のメンバーとも関係を持っていることを紹介しなければならないから、雪穂の咄嗟のスルースキルには感謝しなければならない。だが顔を真っ赤にしながら否定している時点で、カンのいい奴になら気付かれちまうくらいには分かりやすいけど……。しかし千歌は小さく首を傾げるだけでそれ以上の追及はしなかったため、とりあえずこの場は乗り切れたみたいだ。

 

 

「もういい加減練習を始めるわよ。にこは午後、アイドル養成所のレッスンが入ってるんだから」

「ご、ゴメンなさい!!」

「どうしてあなたがあやまるのよ? 悪いのはさっきから話を脱線させまくってる穂乃果たちでしょ」

「にこちゃんに同意。ホントに、いつもこうなのよね。時間通りに集まったとしても、話が盛り上がって練習開始が遅れるなんてザラよ」

「あはは……12人もいますもんねぇ……」

「まあ話が盛り上がる的な意味では、にこちゃんもその仲間に入ってるけどね」

「なによ? 真姫ちゃんだっていつもなし崩し的に会話に混じってるくせに」

「ま、まぁまぁ! それにしても、お二人は仲いいんですね」

「「よくないわよ!!」」

「ほ、ほらやっぱり……」

 

 

 喧嘩するほど何とやらという格言もある通り、真姫とにこの関係は高校時代から何一つ変わっていない。お互いに憎まれ口を叩き合う展開はいつものことなので穂乃果たちは全く気にしていないが、このやりとりを始めてみる千歌は若干戸惑っていた。本人たちは超ツンデレなので仲良しを否定しているけど、誰の目から見ても分かりやすいので千歌であっても2人の中の良さは見て取れたようだ。仮にもラブライブの本選で優勝する実力を持つ彼女たちだから、仲が悪いなんてことは絶対にないんだけどな。

 

 

「よ~し、それじゃあ練習始めよっか! 千歌ちゃんはμ'sの曲ってどれくらい分かる? ライブ映像の見様見真似でもいいから、とりあえず適当に合わせてみようよ!」

「μ'sの曲なら全部歌えますし、振り付けもかなり覚えてます!」

「す、凄い……。穂乃果なんてもう半分くらい忘れちゃってるかも……」

「えぇっ!? 自分の曲、ですよね……?」

「だって4年もブランクがあるんだよ? 全部覚えてる訳ないじゃん」

「穂乃果。本格的に練習が始まる前に、過去の自分たちの動画を見て復習しておくように言ったわよね……?」

「そ、そうだったっけ……? あはは、絵里ちゃん顔怖いよ……」

「お姉ちゃんって夏休みに入ってから朝寝お昼起きの毎日で、遊び惚けて復習なんかしてる暇なかったんですよ」

「雪穂ぉ~それは言っちゃダメだってぇ~……」

 

 

 あまりにも不規則な生活に周りから咎められている穂乃果だが、俺は彼女の気持ちに同情せざるを得なかった。というのも、俺も夏休みに突入してから穂乃果と同じようなライフサイクルを送っているため、堕落した生活の心地よさを共有できる存在だからだ。そして絵里たちが穂乃果に反省を求める中で、楓だけは俺の方を見て悪戯そうにニヤついている。俺から穂乃果に助け舟を出してやれないことを悟って笑っているのだろうが、俺としてもみんなに不規則な生活を送っているなんて知られたくないし、元々助けるつもりなんてないけどな。自分の生活は自分の手で守りたい。だから許せ穂乃果。

 

 

「と、とりあえず練習を始めるよ!!」

「話を捻じ曲げたにゃ……」

「あぁ~もう何も聞こえなぁ~い!! とにかく、準備はいい千歌ちゃん!?」

「は、はいっ! よろしくお願いします!!」

 

 

 話の流れが自分に不利過ぎるので、穂乃果は千歌の横のポジションを陣取って無理矢理練習を開始する。堕落した生活を送っているのは最悪自己責任なのでいいとしても、忘れてしまった歌やダンスの振り付けくらいは覚えて来いよと思わなくはない。μ's再結成の発起人がこんなことでは、勧誘の時にも散々言われていたけどマジで勢いだけだと思われても仕方ないぞ……。まあその勢いで何とかなっちゃうのが穂乃果だから、みんなも中々強く責められないんだけどね。

 

 そして千歌は特に憧れを抱いている穂乃果の隣で一緒に練習できるのが嬉しいのか、いつの間にか脚の震えも止まりまるでμ'sの一員かのように周りに溶け込んでいた。彼女のダンススキルはμ'sには劣っているものの、穂乃果たちも4年のブランクがあるためかそこまで目立ったぎこちなさは見受けられない。もちろん13人で動きを合わせようとしているのでメチャクチャ一体感があるとは言えないが、何より練習を楽しんでいる様子が見学しているこちらにもひしひしと伝わってきた。そのおかげか、お世辞にも整っているとは言えない歌やダンスも自然と息が合っているように見える。

 

 

「アンタ、にこたちにしっかり合わせられるなんてかなりセンスあるじゃない。誇っていいと思うわ」

「そうですか……? にこさんに褒められるなんて、感激です!!」

「私たちにブランクがあるとは言え、ここまで息がピッタリだと高海さんもμ'sのメンバーみたいですね」

「ふぇっ!? わ、私がμ'sのメンバーになるなんて恐れ多いと言いますか……」

「そんなに緊張しなくても、別にμ'sのメンバーになる訳じゃないでしょ?」

「あっ、そうでした……」

「千歌ちゃん本当に可愛いし面白いねぇ♪」

「こ、ことりさん!? だから耳元で囁かないでくださいって!!」

 

 

 穂乃果にセンターポジションへ連れ込まれた時は緊張と羞恥で情緒不安定になりかけていた千歌だが、今では海未の言う通りμ'sの一員のようなやり取りを交わしている。そんな彼女からは自然と笑顔が零れているため、もう緊張で死んでしまう心配はしなくてもいいだろう。未だにことりや希に弄られると純粋な反応で驚いてしまうことはあるが、それも楽しそうに応対しているため見ているこちらも自然と笑みを浮かべてしまう。千歌とμ'sの仲の良さをAqoursのメンバーが見たら、それこそ梨子たちがμ'sに嫉妬してしまうかもな。

 

 そして練習は滞りなく1時間ほど続き、これからμ's単独での練習をするため千歌は一時見学に回ることとなった。

 終始笑顔でμ'sと練習をしていた千歌は、タオルで汗を拭いながら縁石に腰を掛ける。練習から外れたのに彼女はまだ楽しそうで、多分俺の想像以上に充実していたのだろう。その証拠に、見学しながらも練習で流れている曲のリズムに合わせて身体もリズミカルに動いていた。

 

 そんな千歌の姿を見てちょっと悪戯をしたくなった俺は、クーラーボックスからスポーツドリンクを取り出して、彼女の隣へ座ると同時に頬にペットボトルを押し付ける。

 

 

「きゃっ! 冷た!!」

「アイツらにのめり込むのはいいけど、しっかりと水分補給もしろよ。興奮しすぎて熱中症とかシャレにならねぇし」

「ありがとうございます!」

 

 

 千歌はペットボトルの蓋を開け、身体へスポーツドリンクを一気に流し込む。

 なんだろう、千歌のくせに妙に色っぽいな……。汗に塗れた女の子が、首にタオルを掛けながらペットボトルの先端を口含んでいる構図って中々エロくない? さっきまで彼女の楽しそうな笑顔でほっこりしてたのに、今やアダルティな彼女に魅力を感じている……。幼気な顔つきをしているくせに、恐ろしい奴!

 

 

「μ'sの皆さんって、とっても仲いいですよね。4年のブランクなんて感じさせないほど12人の一体感がありましたし、皆さんに褒めてもらって申し訳ないんですけど、正直練習についていくだけで精一杯でしたよ」

「4年前、みんな同じ夢を持って一緒に掴み取ったんだ。それ以降はそれぞれの夢へ向けてμ'sは解散したけど、またアイツらは同じ夢を掴もうとしている。バラバラになっても尚またみんなで一緒に何かを成し遂げたいと思うのは、やっぱりアイツらの絆が強いからなんじゃないかな」

「夢に絆か……素敵ですね!」

 

 

 今の穂乃果たちはそれぞれの夢へ向かって勉強をしたり就職をしたり、中には夢を掴み取る直前まで漕ぎ着けている子もいる。そんな状況であってもまた同じ夢を追いかける理由はただ1つ、過去に結び付いたμ'sの絆の強さだ。自分の夢を叶えることももちろん大切だけど、みんなともう一度手を取り合って笑いあうのもこれまた一興。だから人生を寄り道してまでも、またこうして12人が集結したんだと思う。自分個人の夢を目指しながらも、みんなで1つの夢をも追い続けるその貪欲さは一体誰に似たのやら……。

 

 

「μ'sの皆さんを見ていると元気を貰えますが、スクフェスで同じ舞台に立つとなるとやっぱり敵わないなぁって思います。強すぎますよ、μ'sの絆は……」

「穂乃果たちの仲はたかが1、2年で作られたものじゃないからな。だけど、そこはお前の気にするところじゃない。俺が浦の星から去る時に言っただろ? Aqoursのグループとして絆を育めって。そうすれば今まで以上にスクールアイドルが楽しくなるはずだよ。楽しくなれば、それだけ自分たちが笑顔になれる。自分たちが笑顔になれれば、それだけ大勢の人も笑顔にできる。それは別のスクールアイドルと競い合うものなんかじゃない。お前らは自分たちが夢として思い描くスクールアイドルを目指せばいいんだよ」

「先生……」

 

 

 ラブライブの本選など、勝敗がはっきりとするイベントで勝利を目指すのも間違いではない。このスクールアイドルに勝ちたいから自分たちはそれ以上のスクールアイドルを目指すと意気込めば、それが自分たちの夢となる。そしてその夢を叶えるためには、自分たちがスクールアイドルを楽しまなければならない。だってスクールアイドル以前にアイドルって観客たちを楽しませるものだろ? だったら何より自分たちがみんなに笑顔を振り撒かないと、到底観客の感動を煽ることはできないだろう。

 

 

「私もなれますかね? みんなに笑顔を届けられる、スクールアイドルに……」

「なれるよ――と俺が保証するのはお門違いかな。それはお前らAqours次第だ」

「も~う! そこは素直になれるよって答えてくれれば、先生への株が上がったのに!」

「残念でした。俺は何事でも直球だから」

「知ってます。私は先生のそういった強気なところが好きですから」

 

 

 千歌はスポーツドリンクを飲む手を止めて、俺の顔をじっと見つめてくる。そんな千歌の視線に捕らわれるように、俺も彼女の顔をまじまじと見つめていた。夏の暑さや練習による熱さではない、彼女の顔の火照りが伝わってくる。微妙に汗を拭いきれていないため、少々濡れている頬がこれまた色っぽい。

 そして俺たちはどちらが近づいたのか、それともどちらも近づいたのか、次第に顔と顔の距離が縮まっていた。このままいけば、確実にマウスtoマウスは逃れられない。もはや勢いと現状に任せて何も考えられなくなっている俺は、ただこちらに接近してくる千歌の顔を見つめながら待っているしかなかった。

 

 あと数秒もいらない。この刹那さえ乗り越えれば、俺たちは1つになってしまう――――――

 

 

 その時、俺の顔にプラスチック製の容器がぶつけられた。

 

 

「いてっ!!」

「ふえっ!? せ、先生……?」

「これ、ペットボトルか……?」

 

 

 俺が咄嗟に声を出したことで俺も千歌も我に返る。

 そして近くを転がっているペットボトルを手に取ると、少し離れたところから女の子たちの声が聞こえてきた。

 

 

「お兄ちゃ~~ん? ちゃんと練習を見てくれないとダメでしょ??」

「ウチらを放っておいて、2人だけでイチャイチャとはお熱いことで!」

「すぐ女の子に鼻の下を伸ばすんだから……ホントに意味分かんない!」

「私たちが練習をしている側で、なんて破廉恥なことを……!!」

「にこの前でそんなことをするなんて、いい度胸してるじゃない」

 

「ち、違います!! これは流れと言いますか、練習で疲れてぼぉ~っとしていただけで何も疚しいことはないですから!!」

「お、おい千歌――――って、行っちゃったよ……」

 

 

 千歌は顔を真っ赤にしながら、再びμ'sの輪の中に飛び込んでいった。中には黒いオーラを放っている者や微笑ましい笑顔をしている者、呆れた顔でみんなの様子を見ている子など修羅場全開で、俺が入ったら確実に火に油を注ぎそうな集団だ。

 千歌は弄られたり問い詰められたりと散々な目に遭っているが、これまた彼女がμ'sと仲良くなる一歩となるだろう。まあ本人は焦りに焦って困り果ててるけど、弁解をするために輪の中に突撃していった所を見ると、少なくともμ'sに対しては緊張することがなくなったと見て間違いなさそうだ。

 

 

「先生も皆さんに説明してくださいよぉ!!」

「頑張れ」

「えぇえええええええええええええええっ!?!?」

「頑張れじゃなくて、零君にもみっちり訳を聞かないとね♪」

「あはは、やっぱり……?」

 

 

 やっぱ俺って、どこかで修羅場を作らないと生きていけないのかな……?

 

 




 千歌がμ'sの練習に参加してみたら――という展開を想像しながら執筆してみたのですが、前回の感想を読む限りでは大体皆さんの想像とも同じだったようで(笑)
 今回は登場人物の数が肥大化しないようAqours側からは千歌だけの出演だったので、今後以降は随時μ'sのキャラとAqoursのキャラを絡ませていきたいと思います!

 そして今回の投稿で恐らくUA(小説へのアクセス数)が100万件を突破するので、次回はその記念回として妹たちとのお話になる予定です!
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