「一局目はこのメンバーか」
遂に、神崎家に代々伝わる究極の麻雀が始まろうとしていた。中にはあまり乗り気じゃない奴もいるみたいだが、倉庫に封印されていた麻雀を解き放った時点でこの家は謎の瘴気に包まれ、ゲームをプレイしないと脱出できないようになっている。そのため否が応でも参加せざるを得なくなっており、もはやμ'sは崖っぷちに立たされている訳だ。まあ俺がこの麻雀を持ち出さなければこんなことにはならなかったんだけど、たまには刺激のある生活もいいんじゃねぇか?
そんな感じで、早速一局目が始まった。最初は俺と絵里、やる気満々の凛と全くやる気のない海未が卓を囲んでいる。
麻雀は初見の人からするとルールが複雑そうで取っつきにくいゲームなのだが、この麻雀なら安心。1巡ごとに1回、牌山から牌を1つ取ってきて手持ちの牌から1つ捨てる。それを繰り返し、同じ牌3つを1組として、合計4組揃えるだけだ。それ以外のややこしいルールはなく、どちらかと言えばゲーム性よりも罰ゲームの豊富さに重きを置いているのでそちらを楽しむべきだろう。
「これが麻雀……。凛、一度でいいからやってみたかったんだよね!」
「私もよ。でもいざこうして卓に着いてみると、少し緊張するわね」
「はぁ……。どうして私がこんな恐ろしいゲームに……」
三者三様の反応を見せる3人だが、どうであれその表情が恥辱の色に染まる時も近い。ゲームだから楽しんだもの勝ちってのはもちろんだが、敗者は敗者らしい罰が待っている以上、本気でゲームに臨まないと想像以上の大恥をかいて地に這いつくばることになるぞ。
そして、記念すべき第一局目が始まった。周りのみんなが固唾を飲んで見守る中、ゲームは着々と進行する。
「『揉む』……? 凛は別に揉みたくないし、これはい~らない!」
「中々揃わないわね……」
「皆さんの捨てた牌から見て、揃えやすいのは……。い、いやこうでしょうか……」
凛はルールを理解しているのかどうかも怪しいし、絵里は自分の揃えたい牌が来ていないみたいだし、海未は戦術を考察し過ぎて逆にドツボにハマっている。もはや俺が本当の実力を出すまでもなく、この対局は貰ったも同然かな。
~※~
「ど、どうしてこんな格好を……!?」
「言っただろ? 敗者は勝者の上がった時の牌に書かれていることを実行するって。つまり、敗者は勝者の言いなり人形って訳だ」
「で、でもこの浴衣は露出が多すぎです!!」
「知らんな。家にそれしかなかったんだから仕方ねぇだろ」
海未が着ているのは普通の浴衣と思いきや、よく見てみると肩は丸出しだし丈は短くてスカートのようになっているなど、明らかに男の目を引くために作られた扇情的な浴衣だ。胸元も大きく開けており、もはや衣類としての機能を果たしてない気がする。そんな背徳感満載の浴衣を海未が着れば、当然このように文句を垂れるのは着させる前から明らかであった。
ちなみに絵里はどう見てもサイズが小さすぎる旧スク水、凛は猫耳と猫レオタードという本格的に猫化の道を歩み始めるコスプレをしている。海未も相当動揺しているが、この2人も想像以上の際どいコスプレに頬を紅潮させながら悶えていた。
「こ、これって服を脱いで着なきゃいけなかったの……?」
「レオタードなんだから、服の上から着るもんじゃねぇだろ。それに猫は服なんて着ないから、そもそもその格好もおかしいんだよ。猫になり切るなら全部脱げ」
「別に凛は猫じゃないにゃ!!」
「その語尾で猫じゃないって言われてもなぁ……って、絵里? そんな端っこで何やってんだ? せっかくスク水なんて過去の遺産を纏ってんだから、もっと大っぴらに見せびらかさなきゃ」
「できないわよそんなこと!」
「その割には腕で胸を押し上げて、自分の胸のデカさを自慢してるようにしか見えないが?」
「そ、それは……」
絵里は部屋の片隅に蹲っているが、胸を両腕で挟むように抑えつけるという貧乳を殺すアピールをしている。恥ずかしがっている割には大胆なポーズだが、明らかに大きさがあっておらずピッチピチなスク水を見て大方の理由は察せた。
「なるほど、胸が水着からはみ出そうになってるのか」
「い、言わないで!! 最悪着るのはいいけど、ちゃんとサイズが合っているモノを渡して欲しかったわ……」
「そのスク水は胸の大きい女の子を締め付ける目的で作られてるから、それ以外のサイズはない。残念だったな」
「そ、そんな……あっ、危ないっ!」
惜しい! もう少しで水着からおっぱいが零れ出そうだったのに、寸でのところで抑えつけやがった。まあ今日はこのゲームが終わるまでずっとその格好でいてもらう予定だから、いずれ生おっぱいのポロリシーンが見られることだろう。その前にピッチピチの水着がはじけ飛ばないかが心配だけど。水着の正確なサイズは測ってないが、恐らく小学生くらいが着るものだから、いくらスタイリッシュな絵里が着ようともサイズは確実に合わないだろう。
~※~
「二局目のメンツはお前らか」
「よしっ、頑張るよ!」
「にこの豪運で、アンタたちの服をひっぺがしてやるわ」
「うぅ、緊張する……」
次は穂乃果、にこ、花陽の3人と卓を囲むことになった。えっ、どうしてまた俺がいるかって? そりゃみんなのあられもない姿を拝むために決まってんだろ。それにただ拝むだけでは自分の気が済まない。μ'sの服を脱がせていいのは俺だけ。つまり、この麻雀で自らの手で勝利を掴んでコイツらの痴態を白日の下に晒したいのだ。だから俺は全ての対局に参加して、みんなを敗北のどん底に陥れる。それが俺の流儀だ。
そして、第二局目が始まった。
言ってしまえばコイツらも大したことはない。そもそも麻雀をやったことのないズブ素人だし、穂乃果やにこに至ってはバカだから戦略の"せ"の字も組み立てられないだろう。花陽は緊張して勝手に自滅するだろうから、結果はもう見えていた。
つまり、こういうことだ。
「穂乃果はメイド服だったけど、意外と普通のコスプレなんだね」
「私はナース服だけど、これスカート短くない!? は、恥ずかしい……!!」
「似合ってるぞ2人共。どちらも客相手にご奉仕する職業だから、俺のお世話をしっかり頼むな」
「ナースはそういうのじゃないと思うけど!?」
俺に負けてあっという間に服を脱がされた穂乃果と花陽は、それぞれメイド服とナース服に着替えた。言ってもコスプレとしてはかなり王道な部類なので、特別に驚くほどでもない。でもやっぱりメイドは太もものガーターベルトに興味を唆られるし、ナース服も畏まった衣装が逆に扇情的な雰囲気を醸し出すので何度見ても飽きることはない。穂乃果の絶対領域や、花陽の肉付きの良い脚が露になってるんだ。これだけでもこの麻雀をプレイした価値はあるだろう。
そして、もう1人――――――
「ねぇ、どうしてにこだけ音ノ木坂の制服なのよ!!」
「なんだ、久々に母校の制服を着られて懐かしいだろ?」
「どこがよ!? それよりもどうしてにこだけ普通の格好なの!?」
「は? まさかお前、自分からエロい格好したいのか? 痴女丸出しも落ちるところまで落ちたな」
「別に自分から進んでって訳じゃないけど、こうも他の子たちと違うコスプレだと違和感があるというか……」
「じゃあ全部脱げ。そうすれば他の奴らより存在感は高くなるぞ」
「それコスプレじゃないでしょ!!」
いちいち文句が多い奴だ。別にこの麻雀は脱衣麻雀のような低俗なゲームではないので、普通のコスプレも用意されている。これまでが特別際どい衣装だっただけであり、中には健全な命令が書かれた牌もあるってことだ。じゃあどうして今までみんなにエロいコスプレを着させることができたかって? そりゃ麻雀なんだから、自分の狙った牌で上がるなんて戦略を組み立てれば簡単だ。それに俺ともなれば、誰に何を着させるかまで狙い撃ちして牌を集めることができる。これがみんなと俺の決定的な実力差ってやつだな。
しかし、早く上がりたかったってのもあるから、にこの衣装は何でもいいと切り捨てて適当な牌で上がったんだけどね。まあコイツはお願いすれば何でも着てくれそうではあるから、ここで無理をして狙い撃ちをしなくてもいいという判断だ。
それに普通の牌もあるってことをみんなに知らしめておけば、雪穂や真姫の気も少しは紛れるだろう。ま、その安心したところに大胆露出なコスプレを突きつけることでより絶望に苛ませることができるんだけどな。自分で言うのもアレだけど、性格悪いよなぁ俺って。
~※~
「もう3局目か。最初から分かってはいたけど、案外あっけないもんだな」
「だったらもうやめたいんだけど。穂乃果たちの犠牲でも満足できないの?」
「正直に言ってしまうと、俺は全員の服を引き剥がすことが至極の目的だ。でもそれ以前に、ゲームをプレイしなければこの家から出られないことを忘れるな。誰か1人がプレイしたところで、結局は家から出られるのはソイツだけだ。だから結局は自分でプレイしないといけないんだよ」
「はぁ……やっぱり付き合わなかったら良かった」
「まあまあ、せっかくみんなで遊べる機会なんやから、楽しまんと損じゃない?」
「いいこと言った希。真姫も雪穂も、もっと肩の力を抜けよ」
「「無理」」
3局目のメンバーは希と真姫、雪穂になったのだが、どうもやる気のない連中が多くてゲームの盛り上がりに欠ける。ゲームはみんなで楽しくやるもの。その空気を壊す奴はこの俺が徹底的に粛清してあげないと。とは言うものの、どれだけやる気に満ち溢れていようがそうでなかろうが、俺と一緒の卓を囲んだからにはコスプレで町内一周する気概くらいは見せて欲しいもんだ。そう、つまり敗北する覚悟ってやつをね。
しかし、これまでの奴らと違ってこの3人は要注意な点がある。それは3人みんなが賢いってことだ。ゲームには不慣れだろうが、これまでの対局を見ていたコイツらなら麻雀のセオリーくらい既に掴んでいると言っても過言ではない。これまでの相手は緊張に縛られている子がいたり、そもそもアホの子だったりとこちらに有利な条件しかなかったが、今回だけは少し俺も本気を出す必要があるかもしれない。なぁに、天才肌ちゃんが相手だったらその立ち回りすらも考慮に入れて動けばいいだけの話だ。警戒するにしても、し過ぎる必要はないってことだよ。
そう、だからこういう風に――――――
「キャビンアテンダントなんて、またマニアックやね。それに、胸がもうはじけ飛びそう……」
「天使のコスプレって、テレビでしか見たことなかったけど本当に売ってるんだ……。でもこれだけ露出が多いと、天使の純粋さなんて微塵も感じない……」
2人のコスプレはこれまでと比べてかなり趣向が偏ってるが、王道から外れているからこそ興奮できるものがある。もちろんこの麻雀の罰ゲームだからまともな衣装ではなく、希が着ているキャビンアテンダントの服は絵里のスク水と同様で、成人前後の女性が着たとしてもかなり小さい。だから希の胸の大きさ的に衣装が形を保てるわけがなく、いつ胸元のボタンが吹っ飛んでもおかしくないくらいだ。
雪穂が着ている天使衣装は、紅白歌合戦での演出に使われるかのような派手な衣装であり、ご丁寧に本物の羽毛を使用した羽も着いている。だが天使らしい衣装はそこだけであり、やはり他の衣装と同様に露出は多い。肩、腋、胸元、へそ、ふともも、ふくらはぎ等々、もはや服を着てるのかすらも怪しまれる。それに雪穂は肌が白く、天使衣装もかなりの純白なため、白と白がマッチし過ぎて本当に何も着ていないようにも見える。本来そこまで卑猥な衣装ではないのだが、目の前に全裸の天使がいると思うと途端に艶やかに見えてくるな。
「ちょ、ちょっと、どうして私がこんな格好なのよ!?」
「似合ってるぞ真姫。上半身がセーラー服で、下半身がブルマなんていい格好じゃないか」
「どこがよ!? 着させるならせめて統一感を持たせなさい!!」
「そう言われても、俺が揃えた牌はセーラー服とブルマだったから仕方ねぇだろ。ま、ちゃんと写真に撮っていつでも見返せるようにしておくから安心しとけ」
「誰がそんな黒歴史を見返すのよ!! って、こっちに携帯向けないで!!」
上はセーラー服で下はブルマとか、全くもって中途半端な格好をしやがって。でもさっきも言ったが、王道から外れているからこその興奮も存在する。真姫の衣装がまさにそうで、まさに男の汚い欲求を全て具現化してくれたのが今の彼女だ。
ちなみに、セーラー服も例に漏れずサイズがかなり小さく、白い裾が真姫のへそを隠しきれていない。セーラー服+ブルマの組み合わせだけでも相当エロいが、へそ出しともなれば卑猥度は一気に上がる。天使雪穂もへそ出しだが、やっぱセーラー服からチラ見せするへその方が100倍背徳感があるよ。
~※~
そんなこんなで最後の4局目となったのだが、ここで想定外の事態が起きた。
本来なら最後も俺の圧勝でμ'sのメンバー全員の服をひん剥いてやる予定だったのだが、ことり、楓、亜里沙の力はこちらの想像を遥かに超えていた。
例えば、亜里沙の場合だと――――――
「零くんの捨てた牌をもらいです! はい、ローン!!」
「えっ、もう!? まだ3巡目だぞ!?」
「えへへ、上手いこと揃っちゃいました♪ えぇっと、零くんの捨てた牌に『揉む』って書いてありますから、私が零くんを……!!」
「お、おい亜里沙さん? 目がマジなんですけど……」
「行きますよ~零さん。えへへ……♪」
「ちょっ、待て――――うわ゛ぁ゛あ゛あ゛あぁぁぁぁぁ!?」
俺の対面に座っている亜里沙は、麻雀卓を飛び越えて飛びついてきた。そこからはありとあらゆるところを揉まれた……というよりかは、くすぐられたって感覚に近い。無意識だとは思うが男の局部にまでくすぐりが進行していたので、不覚ながらも刺激を感じてしまったのは内緒だ。まさか亜里沙に好き勝手される日が来るとは世も末だな。
しかし、俺の予想を絶するほど亜里沙の実力は高い。もちろん運の高さもあるだろうが、彼女の直感は実力者を唸らせるほどの威力を誇っている。現にこの俺が全く歯が立たないため、もはやゲームではなくて一方的な殺戮に近い。そのせいでことりや楓もとばっちりを受け、例のごとくサイズが合っていない体操服や、ローター付きショーツと言った嘗てないほど危険な下着を装着させられていた。
だが、俺に降りかかっている悲劇は亜里沙だけによるものではない。
なんと、ことりと楓も想像を絶する実力を発揮しているのだ。2人は俺ほどではないがそこそこの天才肌なので、μ'sの中でもコイツらが自分の敵であることはある程度認識していた。しかし蓋を開けてみると自分の予想以上の実力を発揮され、逆に俺がいつもの力を引き出せずにいた。
「ロン! また零くんの負けだね♪ 今度はどんな服を着てもらおっかなぁ~」
「私も上がり! さ、お兄ちゃんお着替えの時間だよ♪」
こんな具合で、俺が勝つこともあれどコイツらも同じくらいの勝率を見せ、お互いに服を引き剥がしては着替えさせのサイクルを続けていた。
そうなればもちろん、さっきの真姫のような奇抜な格好になっていくのは目に見えている。1人1人が色んなコスプレを混ぜ合って着てるから、まるでキメラだな……。
「おいお前ら、どうして俺ばかり狙い撃ちすんだよ!? さっきから俺ばかり負けてないか??」
「えーそれは気のせいだよ。零くんここまでずっと対局続きだったから、集中力が途切れてるだけじゃないかなぁ~?」
「ことり先輩。お兄ちゃんはプライドが高いですから、私たちに負けて嫉妬してるんですよ。まぁ負けたら罰ゲームで変な衣装を着させられたりするんで、負けを認めたくない気持ちは分かりますけどね」
「お前ら、俺が敗者だからって言いたいことばかり言いやがって……」
「お兄ちゃんは女の子のカラダを揉みしだくの好きだけど、女の子から攻められるのは苦手だもんね♪ そりゃ負けを認めないで必死にもなるよ」
「別に認めてない訳じゃねぇよ! それに認めてなかったらこんな格好してねぇだろうが!」
俺の格好は全身タイツにメイドカチューシャという、誰が見ても全く嬉しくない姿をしている。女の子たちがその格好をするなら注目だが、男が被害を受けてコスプレをしたところで取れ高なんて一切ないと思うぞ?
でも、ことりと楓はそうでもないみたいだ。俺が敗北するたびに怪しい笑顔を見せ、俺の着ているコスプレがキメラ化すればするほど目が輝いている。恋人と兄が屈服する姿を見てそんなに嬉しいのかとアイツらのサディスティックな性格に疑問を抱くが、それは俺も同じなので言い返せないのが癪だ。
それにしても、まさかこの3人がここまで麻雀に強いとは思ってもなかったぞ。これでは俺のμ'sを全員脱がせて恥ずかしい姿にさせる計画が台無しになってしまう上に、この麻雀をやろうと言い出したのに最終的にはボコボコにされる屈辱まで味わってしまう。こんなことでいいのか? やられっぱなしなんて俺の性に合わない。でもどうやって勝つ? 豪運と謎の実力を持つ3人を相手に……?
その時、俺はまだ気付かなかった。
周りに渦巻いている、深淵よりも闇の深い陰謀が暗躍していることに――――――
To Be Continued……
今回は珍しく前中後の3部構成です。1人1人のコスプレ描写すらも満足に描けてないのに、無駄に引き延ばしてしまって申し訳ないです。でも久々に零君とμ'sみんなでワイワイする話を執筆できて楽しくはありますけどね(笑)
次回、零君が自分が負け続ける理由とその陰謀を暴き、悪を打ち砕く!(?)
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