ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

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 今回はA-RISE回の後編です。
 成り行きでA-RISEの恋人役になった零君ですが、世界から注目されるアイドルとのデートは一筋縄ではいかず……


偽りの恋人

 

「どうしてこんなことになってんだ……?」

「零君なにしてるの? 早く行くよ」

「お、押すなって!」

 

 

 A-RISEの恋人役になったはいいが、3人同時にデートする必要はあるのだろうか……? ただでさえ個々人がとても目立つのに、3人並んで歩いていたら注目の的になるのは避けられない。更に男と一緒に歩いてるとなれば、ファンの間で物凄い勢いで情報が拡散されることだろう。

 

 男が近くにいれば確かにストーカーは減るだろうが、それとは別に今度はスキャンダル云々の問題が出てくる気がする。この作戦、本当にA-RISEのためになってんのか……? ま、本人たちが良ければそれでいいのかな。それにあのA-RISEとデートだなんて、この世の誰であろうとも叶えることができない夢を実現してるんだ。せっかくだから、その立場を存分に活かして楽しむとしよう。

 

 そうは言ったものの、早速周りの目が気になってる訳だが……。

 

 

「お前ら全く変装してないけど、少しは顔を隠そうとは思わなかったのか?」

「いや、変装したらこのデートの意味ないでしょ。私たちに男がいるって見せつけるためのデートなのに」

「そうだな。これでこの件が話題になってくれれば、ストーカー行為も慎んでくれるかもしれない」

「作戦に乗っておいてから言うのも今更だけど、そう上手く行くかねぇ……」

「上手く行くかどうか以前に、ツバサちゃんと英玲奈ちゃんは別の期待をしてるみたいだけどね」

「ちょっ、あんじゅ!?」

「わ、私はそんなこと……」

 

 

 あんじゅの言ってる意味は分からないが、どうやら事務所もこの件については容認しているみたいだし、スキャンダル的な問題も心配いらないのかな? あとは人目を掻い潜ってどうデートを決行するかだが、流石にここまで周りに注目されていると動きづらいったらありゃしない。でもデートの目的は俺たちの仲の良さをファンに見せつけることなので、人通りが少ないところに行ったら意味がない。

 

 おいおい、じゃあどうすりゃいんだ?? デートは男が先導するものだが、流石にここまで人の目を気にしながら街を歩いたことがないため判断に迷ってしまう。逆にツバサたちは周りの目をものともしていないので、流石トップアイドルといった感じだ。ただでさえ世界的にも有名なA-RISEと歩くだけでも緊張するのに、加えて無駄に注目を浴びてるせいでやりにく過ぎるよ全く。

 

 

「零君どうしたの? さっきから挙動不審じゃない?」

「君がそうなるなんて珍しな。いつもは堂々と構えているのに」

「プロアイドルのお前らと一緒にすんな。これだけの視線を浴びておいて、気にならない方がおかしいだろ」

「確かに言われてみれば。私たちはもう何年もこの状態だから、気にならないというかもう気にすらしなくなってるわね。でも零くんがオドオドしているところを見るのって初めてだから、ちょっと新鮮かも♪」

「A-RISEと肩を並べるって相当すげぇことなんだぞ? そりゃ緊張もするだろ」

「ふ~ん。私たちのこと、意識してくれてるんだ」

「まぁ……な」

「えへへ、ありがと」

「どうしてお礼を言われてんだ……?」

 

 

 別に意識してるって言ってもツバサが思っているような意味じゃないんだが、まあ喜んでくれてんのなら水を差す必要もないか。見れば英玲奈もあんじゅもさっきより一回り上機嫌な様子で、ツバサはともかくこの2人が高揚感を表立って見せるのはかなり珍しい。それだけ俺とのデートを楽しんでくれるならそれでいいけど、コイツらもしっかり年頃の女の子なんだと少し安心したよ。海外のニュースにも取り上げられるくらい凄い奴らだから、最近は手の届かない存在になったと1人で思い込んでたからな。

 

 

「ほらほら、零くんは私たちの恋人役なんだから、もっと近くに来ないとダメじゃない。そっちから来ないならぁ~」

「あ、あんじゅ!? 近いって!」

「え~恋人同士なんだし、これくらいは当然でしょ?」

「そ、そうだけどさ……。あぁもう分かったよ! ほらこっち来い!」

「ひゃっ!?」

「えっ、なに今の反応」

「べ、別に……」

 

 

 周りの目なんて気にせずグイグイ来たかと思えば、肩を抱き寄せた瞬間に少し俺から離れてしまうあんじゅ。しかもさっきまで余裕ありげな表情だったのに、今は髪の毛を指でくるくる回して顔を伏せている。頬も少し赤くなってるし、緊張するくらいならやめときゃいいのに……。彼女はいつも達観しているように見えるが、意外と純情な一面もあるんだな。可愛いじゃん。

 

 そんな純粋な反応を見せるあんじゅとは対照的に、ツバサからは鈍感と言われた俺でも分かるジェラシーを感じる。正直に言って周りの目線よりも、彼女からの目線の方が格段に痛い。女の子の嫉妬が如何に恐ろしいのかは、実際に痛感したことある俺ならよく分かる。これ、3人同時デートなんて本当に成り立つのか……?

 

 

「ねぇ、あんじゅだけズルくない?」

「ズルいと言われても、どうすればいいんだよ……」

「そりゃまあ恋人なんだし、手を繋いで歩くくらいはしてくれてもいいんじゃない……?」

「3人いるのにそれは無理あるだろ」

「なら私はいい。恋人とは言えども役は役だ。君にそこまでの負担をかけたくはないからな」

「そもそも俺は許可してないんだが……」

「もうっ、女の子に恥をかかせる気?」

「トップアイドルのくせに、人目を気にせず男とデートする奴らなんて想定外だったんだよ……」

 

 

 コイツら、青春時代からスクールアイドルに魂を捧げてきてるから、てっきり男慣れなんてしていないと思ってた。でも実際は3人共かなりの手練れであり、俺はさっきからコイツらの手玉にされてる感が否めない。これもトップアイドルの余裕ってやつなのか、それとも俺に心を許してくれているからこその言動なのか。時折恋する乙女のような反応を見せながらも、ここまでグイグイ系なのはμ'sやAqoursではあり得ない行動だ。

 

 

「ほら、グズグズしない!」

「ちょっ、手!」

「いいでしょ恋人なんだから」

 

 

 ツバサは何の躊躇いもなく俺の手を握りしめる。しかもこれは俗に言われる恋人繋ぎだ。μ'sのみんなとこのような繋ぎ方をするのは慣れたものだが、それ以外の女の子から、しかも久々に会った子からここまで積極的に攻められると流石の俺も動揺してしまう。周りの注目を浴びている雰囲気に飲まれてるってのもあるが、女の子に素直に緊張するのは何年ぶりだろうか。むしろ今は女の子と一緒にいることが日常となってしまい、純粋に心が高鳴るのは久しぶりかもしれない。

 

 とは言ったが、手を握った瞬間、ツバサも相当緊張していることが分かった。

 彼女の手のひらはしっとりと濡れており、夏の暑さだけでかいた汗の量とは到底思えない。久々に会った男にも物怖じしないグイグイ系女子かと思ったけど、やはり意外と純情女子のようだ。

 

 

「だったら私も、えいっ!」

「えっ、お前も!?」

「英玲奈ちゃんが譲ってくれたってことは、そういうことだって分かってるでしょ? 男だったら男らしく、ツバサちゃんを受け入れてあげなきゃ」

「まあこの際だからいいけどさ、そもそもお前はこんなお遊びで男と手を繋いで大丈夫なのか? ツバサと英玲奈をからかうためだけに、わざわざ無理する必要ないんだぞ」

「あら、心外ね。お遊びで殿方と手を繋ぐ方がよっぽどゴメンなんだけど」

「周りから見られてるこの状況だと、本気は本気でちょっと困るけどな」

「…………ホント、ツバサちゃんが苦労するのも分かるわね」

 

 

 いや、俺も察してはいるんだ。これまで鈍感野郎とかデリカシーがないとか散々な罵倒を受けてきたが、長年たくさんの女の子と付き合ってきてある程度の女心は汲み取れるようになってきた。だからツバサたちが抱いている想いは大体分かる。

 まぁ、分かっているだけでこちらからは何も行動してないんだけどな。今の関係に慣れちまったって言うか、この距離感に安心し過ぎて自分から動こうとは思わないんだ。女心に気付いてるのに踏み込まないとかクズ扱いされるかもしれないけど、むしろ心地よい関係でいることのどこが悪いんだって話じゃないか? μ'sの時はこの距離感を無責任に保ちすぎて関係が拗れてしまったが、今となってはそんな心配はいらない。それに女の子の気持ちを無下する訳じゃなく、自分の気持ちに嘘を付かないだけだ。この距離感に安心してるのに、それを無理に詰めようとする方が厚かましいだろうしな。距離を詰めるならこんな騒がしい状況ではなく、もっとゆっくりと仲を深めたいもんだ。

 

 現状に戻ろう。

 俺は右手をツバサ、左手をあんじゅに握られ、文字通り両手に花状態となった。周りからは黄色い声や驚きの声が聞こえてくるが、いちいち気にしたら負けだと思うのでスルーしよう。

 そして、もはや自分だけの世界に入ってるツバサとあんじゅだが、俺も2人を見習った方がいいのか……? この己の妄想に没頭する能力と、プロのアイドルとして周りの状況に流されない芯の強さは別問題な気もするが……。

 

 

「なぁ、いったんここから離れねぇか? これだけの目に入ったら、目的も達成できただろうし」

「そうだな。想像以上に人が集まり始めてるから、騒ぎになる前に場所を移動しようか」

「私としては、もう少しみんなに見せつけてもいいと思うけどね」

「もう欲望ダダ洩れだなお前……。あんじゅはどうする?」

「ふぇっ? ゴ、ゴメンなさい、聞いてなくて……」

「まさか、手を繋ぐだけ繋いでトリップしてたとか?」

「そ、それはぁ……。と、とにかく移動しましょ!」

 

 

 誤魔化しやがったなコイツ。ツバサや英玲奈のことを散々弄っておきながら、いざ自分が男と触れ合ってみたらこのザマかよ。まあそんなギャップが可愛いところではあるのだが、こりゃ後から逆にツバサたちからたっぷり煽られそうだな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 俺たちはさっきの場所とは打って変わって、人通りが少ない脇道へと避難した。いくら鋼のメンタルを持つ俺であっても、世間の見世物にされることには慣れていない。対して周りの注目にも動じない堂々としたツバサたちを見て、改めてコイツらの凄さを実感したよ。

 

 

「狭い裏道の方が息苦しくないって相当だな……」

「あはは、零君もう疲れちゃった? UTXを出てから1時間も経ってないよ?」

「デートってもっと気楽なもんじゃねぇのか……? あんなに注目されてたら、ドラマの撮影でデートしてるみたいじゃん」

「私たち3人が素顔を出して歩けばいつもあんな感じだよ。まあ、変装してもバレる時はバレるんだけどね」

「そんなんだと気軽に遊びに行けないだろ。プライベートが縛られてちゃ、プロのアイドルと言っても勝ち組コースとは程遠いな」

「そんなこと、A-RISEになった時点で覚悟していたさ。私たちは好きで今の立場にいるんだ」

「注目されるのが快感に感じられればいいと思うけど、もはや熱い視線には慣れ過ぎてんじゃないか?」

「そんなことないよ。あんじゅみたいに、観客の視線を浴びてゾクゾクするような変態じゃあるまいし」

「変態だなんて失礼な! ただテンションが上がって、ステージ会場にいる誰よりも高みにいる自分に酔ってるだけよ!」

「それを変態っつうんだよ」

 

 

 あんじゅって割と自己顕示欲が強いんだな……。でもアイドルは弱肉強食の職業だから、どんな手段であれ向上心を持てるならそれでいいと思っている。控えめに振舞って自分の魅力をひた隠しにするよりも、多少強引に振舞って自分の素を見せていかないと、この業界では生きていけないだろう。作り物のキャラなんていつかはボロが出るしな、にこみたいにさ。

 

 

「さて、こっからどうっすかな。もう人目につくところはゴメンだぞ」

「済まないな、ヘトヘトになるまで付き合わせてしまって」

「いや、これでお前らが妙なファンにビビらなくなって済むなら、俺の体力なんていくらでも差し出すよ。本物のアイドルと外を歩くってのを完全にナメてたのは否めないけど」

「優しいね。やっぱり零君に頼んで正解だったよ」

「お前らみたいな有名アイドルだったら、もっとまともなボディガードを雇えただろうに。グラサン黒服の屈強な男とまでは行かなくても、ファンがお前らに手出ししたくないと思えるくらいの警護は付けられたんじゃないのか?」

「それはそれでファンを見捨ててるから、そこまではやらなくていいと思うわ……。それに零くんじゃなければダメだったのよ。これでもプロのアイドルなんだから、肩を並べるならそれ相応の人じゃないとね」

 

 

 つまり、コイツら的には俺は隣にいても違和感がない存在なのか。素直に喜んでいいのか分からないけど、世界デビューしている女の子と同じ立場だと思えば悪くない。しかし、俺が世界に出たら各所の美少女が全員惚れちまうぞ? この3人とデートしているだけでも人目に晒され疲れるくらいだから、カラダの方は全然もたなそうだけど……。

 

 

 世間話で小休憩をしている、その時だった。

 メインストリートから裏道に差し掛かる分岐路の辺りに、多くの人が集まっていることに気が付く。さっき表通りを歩いていた時も相当な人だかりだったが、今もかなりの人が集まり出している。裏道に入ると道幅が狭くなっているためか、さっきよりも人が密集しているように見えた。恐らくそれは見た目だけではなく、この場所にA-RISEがいるという情報が拡散された結果、このようにファンが集結し始めたのだろう。

 

 裏道に隠れてもなお簡単に見つかっちまうから、アイドルファンのセンサーって凄まじいほどの検知性能だよな……。って、そんな冗談を言ってる場合じゃねぇか。

 

 

「やばっ! 見つかっちゃったよ……」

「ここなら人通りも少ないからゆっくりできると思ったけど、誰か1人に見つかるとすぐ情報が伝達されるから意味ないのかもな」

「それにアイドルが裏路地で男性と一緒にいるなんて情報を見たら、ファンの人は飛んででも確認しに着ちゃうわね……」

 

 

 むしろ男性と並んで歩いているよりも、グループメンバー全員が裏路地でコソコソしている方がよっぽどスキャンダルになる気がする。例え世間話をしていただけであっても、結局は世間にどう見られるかで評価が変わっちまうのはアイドルの辛いところだよな。それを知っているからこそ、俺は社会的な有名人にはなりたくないんだ。自己顕示欲は誰よりも強いけど、プライベートが窮屈になるのだけはゴメンだからな。

 

 そうこうしている間にも、人だかりは大きくなっていく。この騒ぎを聞きつけてわざわざ持ち込んだのか、A-RISEのグッズを手にしているファンもいるくらいだ。中にはドルオタと言われる、彼女たちが俗に言う過激なファンっぽい人たちもちらほらいる。ツバサたちの引きつっている表情を見ると、あの中に見覚えのある熱狂的なファンもいるようだ。ストーカー紛いな行為をしている奴かは知らないが、このままだとツバサたちがもみくちゃにされかねない。

 

 強引だけど、状況が状況だし仕方ないか――――――

 

 

「おい、走れるか? 逃げるぞ」

「えっ、そんな急に!?」

「グズグズするな。行くぞ!」

「「「あっ……」」」

 

 

 俺は右手でツバサとあんじゅの手を2人同時に、左手で英玲奈の手を掴み、駆け足でこの場を立ち去った。幸いにも執拗に追ってくるファンはいなかったが、裏道に逃げ込んでもすぐ見つかることは証明されたので、人とすれ違うことのないよう適当な喫茶店に入って難を凌ぐことにした。

 

 

 その時、俺は気付いていなかった。

 3人の頬が空の夕焼けをも焦がすほど熱くなっていたことに。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「想像以上にファンの熱気がヤバかったな。英玲奈ファンの女の人とか、目が血走ってたぞ」

「ファンが多いのは嬉しいことなんだけどね。あれだけ迫られたら話は別っていうか……」

 

 

 ツバサはジュースをストローで啜りながら、自分たちの置かれている境遇にため息をつく。

 本来ならたくさんのファンに囲まれるなんて嬉しい悲鳴のはずだが、あれだけの人数に追いかけられたらうんざりする気持ちも分かる。それでも疲れた様子を見せないのはアイドルとしてのポーカーフェイスなのか、それとも慣れ過ぎてしまっているのか。どちらにせよ精神疲労は半端なさそうだ。

 

 

「まああれだけ多くの人に目撃されたんだから、とりあえず目的達成ってことでいいんじゃねぇか?」

「あぁ、本当に助かった。特にさっきは君が咄嗟に私たちを連れ出してくれなければ、あの人混みに飲まれていただろうからな」

「今までは変装がバレちゃったら、仕方なく写真を撮ったりとかファンサービスをしていたのよね。そのせいで私たち、プライベートで外出するのが少し億劫になっていたりもしたの」

「でも、今日は零君と一緒でとても楽しかったよ。最初はあまり乗り気じゃなかったみたいなのに、ちゃんと私たちをエスコートしてくれて嬉しかった!」

「俺の乗り気云々よりも、お前らの心配をしてたんだよ。男と一緒に歩いて大丈夫かってな」

「私たちのことを……?」

 

 

 一時のお悩み解決のためだけに俺を誘いデートをするなんて、そんな暴挙に出てコイツらの未来がどうなるか心配だったんだ。アイドル業界はいつの時代もスキャンダルに厳しく、むしろそのスキャンダルをスクープとして金を稼ぐ会社もあるくらいだからな。俺はコイツらがそんなつまらないことに巻き込まれる可能性を危惧していただけだ。もちろん、本人たちがいいのならこちらから拒否する必要はないと思ってたけどね。

 

 

「不思議な男だよ、君は」

「いきなりどうした?」

「ずっと思っていたんだ。君にはμ'sがいるのにも関わらず、どうして私たちのためにそこまで自分を犠牲にできるんだと。正直に言ってしまうと、今回の依頼も断れるかもしれないと考えていたんだ。しかし、君は快く承諾してくれた。赤他人であり、μ'sのライバルでもある私たちにここまで塩を送れるのが不思議でならない。そのことがずっと気になっていてね」

 

 

 ツバサとあんじゅも頷いているので、彼女たちも英玲奈と同じことを思っているのだろう。

 3人は俺の返答を聞くのが怖いのか、少し顔を伏せている。

 

 

 英玲奈の言うことは最もだ。だけど―――――

 

 

 

 

「男が女の子を助けることに、理由なんているのか?」

 

 

 

 

 3人はその言葉を聞いた瞬間、目を丸くして顔を上げる。

 

 

 

 

「そもそもさ、俺がμ'sに肩入れしてるとか、お前らがμ'sの敵だろうがライバルだろうが、赤他人だろうが、そんなの関係ねぇだろ。目の前で困ってる女の子がいたら、手を貸すなんて普通だと思うけど。それがお前らみたいな可愛い女の子たちだったら尚更な」

 

 

 キザなセリフを吐いておいて今更だが、俺は誰であろうが手を差し伸べる善人ではない。面倒事は全力でスルーするし、全くの赤の他人がどうなろうが俺には知ったこっちゃない。だけどそれが女の子、しかも俺の目を惹く美女美少女だったら話は別ってだけだ。つまりμ'sやAqours、A-RISEを含め、そいつらが例外なだけなんだよ。

 

 ツバサたちは何も喋らない。夕日よりも朱に染まった頬が目立ち、とてもじゃないがアイドルとして人前に出られない女の子すぎる表情だった。

 

 

「さっきのが理由の全てだ。とは言っても、女の子を助けるのに理由はないってのが理由だから、説得力には欠けるかもしれないけどさ。ま、くだらないことで悩んでないで、スクフェスで俺に最高のパフォーマンスを見せられるよう努力だけしておけ――――って、やべ、楓から早く帰って来いって連絡来てる……。悪い、今日はここまでで! お金は置いておくから、また困ってることがあったら呼んでくれ」

 

 

 いい感じの雰囲気だったのに、アイツがご立腹のせいで現実に引き戻されてしまった。そのせいで最後は駆け足になっちまったが、俺の言いたいことは伝わっただろう……多分。理由がないってのが理由ってのも相当適当な言い分だけど、()()()()()()()()()なら損得勘定なんてないのは事実だ。つまり、俺にとっては毎日風呂に入ったり歯磨きをしたりするくらい当たり前のことなんだよ。

 

 

 それにしてもツバサたち、別れ際にも全然喋らなかったけど生きてるよな??

 

 

 

 

 そして、俺がいなくなった喫茶店ではこんな会話があったそうな。

 

 

 

 

 

「ダメ、心臓がバクバク鳴って止まらない……。まさか、零君が私たちのことをそこまで考えてくれてたなんて」

「ねぇツバサちゃん、私も……狙っていい?」

「な゛ぁっ!? べ、別に私はど、どうでもいいし!」

「そうか、なら私もチャンスはあるのか……」

「「えっ!?」」

「い、いや忘れてくれ!! でも、この気持ちが―――――」

 

 

 

 

 茜色の光が差し込む喫茶店内で、少女たちは自分の熱い気持ちを抑えられなかった。

 

 




 なんか久しぶりに零君が主人公っぽいセリフを言った気がする……
 最近は女の子たちに振り回されてばかりでしたから、たまにはカッコいいところを見せつけないと(笑)



 次回は虹ヶ咲メンバーの個人回ラスト、果林回となります。




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