この小説としても最後の章となるので自ずとストーリー色がより濃くなると思いますが、最終回までお付き合いいただけると幸いです。
今回のお話はスクフェス当日――ではなく、前夜祭からスタートです。
今日は遂にスクールアイドルフェスティバル当日――――の前夜である。スクフェスはラブライブ本選よりも大規模な一世一代のイベントなので、本部は気合を入れて豪華な前夜祭を開いているのだ。高級ホテルのホールを貸し切って、一般人の人生では中々味わえないだろう豪勢な料理がテーブルいっぱいに並べられている。そこから好きなモノを取れるビュッフェ&立食形式になっており、人数の多さも相まってか人の往来がかなり激しい。ま、ここに集まってるのはスクールアイドルの若者ばかりだから、物珍しい料理に目移りするのも分かるけどね。
ちなみにスクールアイドルではない俺が何故この前夜祭に参加しているのかと言うと、まぁコネってやつだな。スクフェス本部は秋葉により一部資金援助を受けており、更に世界的アイドルのA-RISEからも支援を受けている。つまり、秋葉やA-RISEに手を回してもらったおかげで何食わぬ顔でここに忍び込めたって訳だ。スクフェス本部も秋葉やA-RISEの頼みとあらば、首を横に振る訳にはいかねぇだろうからな。
それにしても、当たり前だが会場のどこを見渡しても女の子ばかりだ。数年前はスクールアイドルと言えば高校生の部活程度の扱いだったのだが、今では中学生から大学生まで、幅広い年齢層の女の子が活動している。そのせいか、小学生にしか見えないようなロリっ子中学生の姿や、逆にプロのモデル顔負けのスタイルを持つ大学生など、もはや眼福を通り越して目に毒まである。しかもそんな中で男は俺1人。いやぁこうして見ると、まさに俺が女の子たちの主のような気分で心が躍ってくるよ。
「零、目が犯罪者ですよ」
「うおっ!? なんだ海未か、急に話しかけてくんなよな……」
「なんだとはご挨拶ですね。あなたがこの会場からつまみ出される前に、わざわざ警告してあげたというのに」
「そりゃどうも。でも生憎だけど、こんないい匂いのする空間から死んでも出たくないね」
「警備員さんにその発言を聞かせるだけで、一発アウトだと思いますけど……」
いくらこの会場内に男が1人だとしても、これだけの人数がいたら多少怪しい行動をしても気付かれることはない。それに俺は会場の隅っこでソファにどっかり座って飯を食っているので、わざわざこんな隅っこに目を向ける奴なんていないだろ。
むしろ過去に一度スクールアイドルをやっていた影響なのか、当時のことを知っている女の子たちが声をかけに俺のところへやって来るんだ。女の子たちの『あの時の歌とダンスに惚れてスクールアイドルになりました』とか、『実際に会ってみると更にイケメン』とか、浴びせられる賛美の声で飯が美味い。そしてその子たちに頑張ってと声をかけるだけで、女の子たちは顔を赤くして笑顔で立食パーティに戻っていく。もうこの会場って、俺のためにセッティングされたものと見て遜色ないんじゃないかな?
「はぁ……本来は不正に参加しているのですから、目立つ行動は慎んでください」
「こんな夢のような空間なんて滅多にないんだぞ? だからこそ己の欲望を丸出しにしなきゃ、なんのための前夜祭か分かったもんじゃねぇ」
「スクフェス参加者のための前夜祭ですが……」
「御託はいいから、早く料理を持ってきてくれ。こんな隅っこにいたら、料理のテーブルまで遠すぎるからさ」
「どうしてそんなメイドさんみたいなことを……。そもそも、あなたが今食べていた料理は誰が持ってきたんですか?」
「あぁ、それなら――――」
「コーチ。お料理お持ちしました」
「兄様、さっきのもう全部食べてる……って、この人は?」
「えっ、Saint Snowの鹿角聖良さんと理亞さん?」
「あなたは……μ'sの園田海未さん?」
そういや、コイツらは初対面だったか。そもそもSaint Snowってμ'sでは穂乃果としか関りがないのを思い出したが、もう知り合いのスクールアイドルが多すぎてどことどこが繋がってんのか分からねぇわ。
聖良と理亞の手には、俺の好物ばかりが乗せられた皿が置かれている。しかも肉、魚、野菜がバランスよく盛り付けられていた。メインの肉料理ばかりではなくちゃんと俺の身体を気遣えるとか、コイツらの食生活の良さが一目で伺えるな。
「どうして2人が零に料理を? まさか、2人を命令して持って来させているとか……?」
「そんな怖い顔すんなって。美味い飯がマズくなっちまう」
「海未さん、コーチを攻めないでください。これは私たちが自発的にしていることなので」
「そ、そうだったのですか……。でも、どうしてそのようなことを?」
「兄様に喜んでもらえるなら何だってやる。それに、兄様の好みに合わせて料理を盛り付けるのが楽しいから」
「なるほど、ことりがよく言っている『調教されている』というのは、まさにこのことですね……」
調教されていると日頃から口にしてるアイツも相当だが、今は敢えて言及しないでおこう。
聖良と理亞の言う通り、俺からはコイツらに料理を持ってこいとか依頼をしていない。2人が善意で行っていることなので、こちらから断る理由もないと思いこうして堂々と振舞っているのだ。だから俺がJK姉妹を使役して、ご主人様気分で料理を運ばせているなんてとんでもない。一流の主人ってのはな、わざわざ命令しなくてもメイドさんが動いてくれるものなんだよ。あっ、結局ご主人様気分かこれ……。
「ま、これから料理は海未に持って来させるから、お前らは前夜祭を楽しめ。それにA-RISEの舞台挨拶を見るために、ステージ近くを陣取るって言ってただろ? これだけの人数だし、今から席を確保しておいた方がいいんじゃないか?」
「そうでした! ならお言葉に甘えさせていただきますね」
「兄様、明日の私たちのライブ、絶対に目の前まで見に来て。私たちが優勝するって確信を持たせてあげるから」
「お、言ったな? なら俺の目にお前らの魅力を焼き付けてみろ。下手なライブだったら帰っちまうからな」
「「はいっ!」」
スクフェスの練習のコーチはしてやれなかったけど、2人の自信を見る限りでは相当スキルアップしたに違いない。あのA-RISEと一緒に練習したと聞いているので、スキルアップするのは必然っちゃ必然か。それにあまり彼女たちのことを構ってあげられなかったからこそ、2人がどんなパフォーマンスを披露してくれるのか楽しみではある。
「ほら、こうやって女の子たちのやる気を奮い立たせてやってんだから、俺がここにいる意味はあるだろ?」
「全く、調子がいいですね……。それでは私も穂乃果たちのところへ戻りますので、くれぐれもナンパだけはしないでくださいね?」
「いや、むしろ逆ナンされる立場だからぁ~辛いなぁ~」
「さようなら」
「あ、はい」
背筋が凍り付くような目で俺を睨み付けた海未は、それ以上なにも言わずに会場の立食ゾーンに戻った。確かにさっきから女の子に言い寄られてばかりで心が躍ってるけど、ノリがウザくなってきたと自分でも分かるのでそろそろ抑えようか。どうせたくさんの女の子を侍らせるなら、傲慢な態度で堂々としろと言いたくなる気持ちも分かるけどね。
「あっ、零君こんなところにいた!」
「穂乃果……?」
落ち着く暇もなく、今度は穂乃果が俺のテーブルへとやって来た。穂乃果が持ってる皿には、ステーキやチキンと言った肉類から、パスタやソーセージと言った付け合わせまで盛りに盛られている。その中に野菜が一切ないのが彼女の食生活の悪さを顕現していた。鹿角姉妹とは全くの逆だなコイツ……。
「もう零君! こんなところにいないで、みんなで一緒にお喋りしようよ!」
「あんな人混みの中で飯なんて食ってられっか。つうか、他の奴らはみんなあの中か?」
「うん。実は他のスクールアイドルの人たちにたくさん話しかけられちゃって、中々抜け出せないんだ。あはは……」
「お前らもそこそこ有名人だもんな。そりゃそうか」
最近はA-RISEや虹ヶ咲のメンバーとの接触が多くて忘れてたけど、μ'sもスクールアイドルの中ではトップクラスに有名だ。A-RISE一強と謳われていた時代に、彼女たちを打ち負かしてラブライブで優勝したんだから、もはやスクールアイドル界の偉人と言っても過言ではない。確かに穂乃果を見てみると少し表情がやつれているので、俺がここでふんぞり返って飯を頬張っている間にも他のスクールアイドルの応対をしていたのだろう。
ちなみにスクフェスには、PVと曲さえ自作できればどんなスクールアイドルでも参加できる。スクールアイドルが爆発的に増えている昨今、無名と言っていいほどのスクールアイドルも多い。だからこの前夜祭でも、名の知れたスクールアイドルであるμ'sやA-RISEが注目されるのは必然かもしれない。
「そういえばさっき聖良ちゃんと理亞ちゃんを見たんだけど、もしかして零君のところに来てたの?」
「あぁ。ちょっと一緒に飯を食った後、A-RISEの舞台挨拶を見るためにステージ近くに移動したはずだ」
「やっぱり! 知り合いのスクールアイドル大集合で、なんだか楽しいね! まだ前夜祭なのにワクワクしてきたよ♪」
「全国のスクールアイドルが予選から一堂に会するなんて、滅多にねぇからな。スクフェスは各地の予選を勝ち抜かないと本選会場には行けないし」
「もう今からここで、みんなでライブしたいよね!」
「ここにいる奴ら全員で騒いだら、人力で地震を起こせそう……」
「みんなと言えば、Aqoursのみんなは来てるのかな? まだ姿を見てないような――――――」
「おーい! せんせ~い! 穂乃果さ~ん!」
「あっ、噂をすれば千歌ちゃんだ!」
類は友を呼ぶっつうか、噂をすれば何とやらっつうか。まあスクフェスの参加者が全員集まっているため、この会場のどこかにはいたんだろうけどね。
会場の人混みから、千歌がこちらに手を振りながら走ってくる。その後ろには走る千歌を止めようとしているが止められず、困った顔をしている梨子もいた。
「お二人とも、お久しぶりです!」
「千歌ちゃん久しぶり! 梨子ちゃんも!」
「お、お久しぶりです。もう、千歌ちゃんったら急に走り出すんだから……」
穂乃果と千歌はお互いに両手を繋ぎ合って再会を祝っている。久しぶりとは言っても、合宿が3週間ほど前だからそれほど期間が空いていた訳ではない。そもそも6月には俺が浦の星に教育実習へ行き、7月にはAqoursがしばらく東京で練習を、8月はμ'sとの合同合宿だったので、月1ペースでは会っている計算になる。まあそんな短期間で会っていたからこそ、3週間の間が長期間に思えたのかもしれない。
相変わらずいつでも元気ハツラツな千歌だが、対照的に梨子は少し疲れている様子。大方、前夜祭でテンションが上がっている千歌にあちらこちら連れ回されてヘトヘトってところだろう。
「梨子、お前なんか疲れてる? 千歌に振り回されでもしたか」
「あ、当たりです……。千歌ちゃんがこの会場のどこかに先生やμ'sの皆さんがいるかもと、人混みを掻き分けて探してたんですよ。しかも目に付いた料理をあちこちで摘まみながら……。周りの迷惑にならないように見張ってるのが大変で大変で」
「えへへ、ゴメンゴメン。こんな豪華な料理は滅多に食べられないから、美味しそうなのを見つけたら思わず手が伸びちゃって!」
「ダメだよ千歌ちゃん。スクールアイドルたるもの、はしたない行動は慎まなきゃ」
「その肉山盛りの皿を見てから言えよ……」
後輩スクールアイドルである千歌に先輩風を吹かせ、ドヤ顔で先人の教えを伝授したつもりだろうが、穂乃果の持っている皿の惨状を見るとその教えの品位が一気に下がる。女の子だから肉をガッツリ食うなとか差別する気はないが、コイツにだけは言われたくない気持ちはみんな一緒だろう。まあ千歌は穂乃果と似たり寄ったりな性格なので、そんな穂乃果の言葉でもホイホイ信じてしまいそうだ。現に穂乃果と共鳴したのか、目を輝かせて彼女を眺める始末。こりゃ梨子も苦労するわな……。
「それにしても凄いお肉の量ですね。高坂さん、そんなに食べきれるんですか……?」
「もちろん! 家が和菓子店だからなんだけど、朝昼晩いつも和食しか出ないから嫌気が差してるんだよね。だからこそ、ここでたっぷりといいお肉を味わっておかないと!」
「その気持ち分かります! ウチも旅館なので、基本は和食ばかりなんですよねぇ……。だからこそビュッフェ形式のお食事会にずっと憧れていたんです!」
「ホントに!? いやぁこの気持ちを共有できる人がいて嬉しいよ! μ'sの誰からも共感を貰えなくて、自分がおかしいのかと思ってたから」
「私もそうですよ? 苦労を分かってくれないことに苦労しますもんね」
「いや、俺らの方が苦労してるよ。色々と……」
「ですね。もう慣れた感はありますけど……」
2人の性格が似ていることは周知の事実だが、まさか抱いている悩みまでもが共通してたとは。もうお互いがお互いの生き写しなんじゃねぇのか……?
そして、暴走役がいれば静止役がいるのが常。千歌の被害者は間違いなく梨子や曜だろうが、穂乃果の被害者は俺なんかよりも圧倒的に海未の方が適役だ。一度でいいから暴走役被害者の会として、飲み会をしてみてぇわこれ。普段言えないような愚痴がマシンガンのように発射され、誰にも見せられないくらいブラックな飲み会になることは確実だろうけどね。
「あっ、零君! やっほ!」
「ツバサ? 英玲奈もあんじゅも」
「こんばんは零くん。テーブルの方に全然いなかったからどこにいるのかと思ったら、まさかこんなところでふんぞり返っていたとはね」
「やっぱり君も前夜祭に招待されていたのか。ツバサが君を招きたいと、上へ掛け合っていたという話は本当だったんだな」
「あぁ、そういう手筈だったのか。その辺は詳しく聞いてねぇや」
Saint Snow、μ's、Aqoursと来て、今度はA-RISEとエンカウントした。
俺がスクールアイドル限定の前夜祭に招待されたのは、秋葉とA-RISEの計らいとは聞いていた。だけど彼女たちがどのような手段で俺を上層部へプレゼンしたのかは聞いてないので、気になってはいたんだ。でも英玲奈とあんじゅの様子を見る限り、ツバサが色々根回しをしてくれたみたいだな。俺とA-RISEのデートを容認してくれたりと、コイツらのプロデューサーは中々に俺への信頼が厚いようだ。いや、むしろアイドルたちのガードが緩いことを危惧するべきなのか……?
「ツバサさん!? 英玲奈さんもあんじゅさんも?」
「久しぶりね穂乃果。こうして会うのは何年ぶりかな」
「お久しぶりです! ラブライブでμ'sが優勝した日以来だから、5年くらいですかね」
「えっ、もうそんなに経つんだ!? とは言っても、穂乃果は全然変わってないね」
「逆にツバサさんはお綺麗になって! いつもテレビ番組と雑誌を欠かさず見てます!」
「そうなの? ありがとね♪」
そうか、μ'sとA-RISEが本格的に再会するのは数年来のことだったのか。A-RISEってテレビや雑誌に引っ張りだこだから、ここ数年は俺たちの目に止まることが非常に多かった。だからこそ俺も先日会った時は、そこまで久々な感じはしなかったのかもな。
そして、A-RISEとの出会いに対して穂乃果以上に興奮している奴がここに1人。
千歌は目を最大限に見開き、唖然とした表情で口もあんぐりと開け、まるでUFOや宇宙人を目撃してしまったかと言わんばかりにA-RISEを凝視していた。
「り、梨子ちゃん! あ、A-RISEだよA-RISE! 本当に実在してたんだ……。映像じゃないよねこれ??」
「それはそれで何かと失礼な気が……。というより、今までバーチャルのキャラか何かと思ってたの……?」
「あなたたちは、確かAqoursの高海千歌さんと桜内梨子さんね」
「ふえっ!? 私たちのこと知ってるんですか!?」
「凄い、こんな有名な人たちに名前を覚えてもらえているなんて」
「あ゛っ、あっ……!! し、死んじゃいそう……!!」
「ちょっと千歌ちゃん!?」
スクールアイドルに憧れてスクールアイドルになった千歌からしてみれば、そのパイオニアであるA-RISEに出会って卒倒してしまうのも仕方がない。しかも一番の憧れである穂乃果までいるんだから、2大スクールアイドル偉人の揃い組で千歌の興奮は頂点に達しているようだ。あまりの衝撃的な光景に女の子が発したとは思えない野太い呻き声を上げ、もう失神寸前にまで陥っていた。梨子に支えられていなければ、そのまま後頭部が床に激突していただろう。
対して梨子はそこまで平静を失ってはいないようだ。まあコイツは元音ノ木坂学生にも関わらずμ'sを知らなかったので、スクールアイドルってものにそこまで興味はないのだろう。自分の趣味や仕事に没頭することはあっても、その手の有名人や実力者に興味はない人は少なからずいる。例えば野球は好きだけど、プロリーグには興味がないとか。だから彼女はその類なのだろう。
「そういやお前ら、もうすぐ舞台挨拶があるんじゃないのか? こんなところで油を売って、何してんだ」
「今は自由時間。こんなに豪勢な前夜祭なんだから、そりゃ私たちだって楽しみたいじゃない?」
「そうは言っても、もうすぐメイクの時間だからゆっくりはしていられないけどな」
「えっ、ツバサさんたちが舞台挨拶をするんですか!?」
「穂乃果、お前知らなかったのかよ……」
「えへへ、美味しい料理が食べられることしか頭になくて」
「別に楽しみ方は人それぞれだし、いいんじゃないかしら。明日からの本番のために、自分の好きなことをして心を滾らせておくのは重要よ」
「流石あんじゅさん! 話がわかる!」
「俺が異端みたいな言い方やめろよな……」
別に穂乃果が大喰らいであることについて否定はしないが、スクールアイドルの品位というものを考えるとどうしても大食いは下品と囚われかねないだろう。もちろんそんなことを気にしていたら自分の好きなことなんてできやしないので、スクールアイドルとは言えアマチュアなんだから、世間の目はそれほど気にしなくてもいいかもしれない。
それにしても、スクールアイドルの交流会も兼ねている前夜祭なのに、A-RISEは今日も忙しそうだ。ツバサがさっきからチラチラと時計を確認しているところを見ると、これから舞台衣装に着替えたりメイクをしたりで、他のスクールアイドルと話す余裕もないことが分かる。一緒にデートした時もプロのアイドルとしての格を見せつけられたけど、今もコイツらがどれだけ多忙な日々を送っているのか実感できるよ。
「それじゃ、私たちはそろそろ行くね」
「えっ、もうですか!?」
「舞台挨拶もあるし、そのあとスクフェスに向けての直前インタビューとか、雑誌の仕事も入ってるんだよねぇ……」
「ふえぇ……そんなに忙しい生活、穂乃果だったら絶対に耐えられないよぉ……」
「あはは、慣れだよ慣れ。そういうことだから、明日からはお互いに頑張ろうね。千歌さんと梨子さんも」
「へっ!? あっ、はい! ツバサさんに激励してもらえるなんて、恐縮です!!」
「そんなに畏まってないで、せっかくA-RISEに会ってんだからもっと喋ればいいのに。さっきからずっと黙ったままだったじゃねぇか」
「だ、だってぇ……」
「驚いた。まさか千歌ちゃんがここまで萎縮するなんて……。初めて見たかも」
梨子の言う通り、コミュ力MAXの千歌がここまで口籠るのは珍しい。普段一緒にいる梨子ですらそう思ってんだから、千歌の緊張度はメーターを振り切っているのだろう。μ'sと並び憧れの存在であるA-RISEを目の前に、もう顔が真っ赤だった。まあ出会った直後は気絶しそうになっていたから、紛いなりもツバサと応対できているだけマシなのかもしれない。アイドル然り芸能人然り、テレビで見るよりも実際に生で見た方が綺麗だって感じる人は多いらしいから、千歌も今それと同じ気持ちなのかもな。
「千歌、お前の憧れたちがこうして揃ってんだ。Aqoursとしての、スクフェスの目標を言ってやれ」
「そ、そんな無茶振りを……!! え、えぇっと、学校のため、そして私たちのため、絶対にスクフェスで優勝します! もちろん楽しむことも重要ですけど、参加するからには誰にも負けません!」
「「「「おぉ~!」」」」
「穂乃果……さん? A-RISEの皆さんも、私、変なこと言っちゃいました!?」
「いや、むしろ正々堂々としていて好印象だったぞ。私たちにそこまで真っ向から勝負を挑んでくるスクールアイドルは、もういないからな」
「だからこそ、その心意気に感心しちゃったのよ。素晴らしいわ、千歌さん」
「うぇええっ!? な、なんかゴメンなさい……」
「謝る必要なんてないよ。だってあなた、Aqoursの目標を宣言する時だけは凄く真剣だったもの。本気の気持ちを包み隠さず他人に宣言できるのって、簡単そうに見えて意外とできないことだからね。それに、オドオドしていたあなたが急に真剣になったものだから、ちょっと驚いたってのもあるかな」
「あ、あはは、そうですか……? それじゃあ、素直にお気持ちを受け取っておきます」
千歌は自分の失態が肯定的に見られたことに疑問を抱きながらも、先輩たちからの好意をとりあえずの形で受け取る。未だに少し震えているところを見ると、素直と言いながらも半分程度は納得していないのだろう。
穂乃果もツバサたちもそうだけど、意外と千歌や梨子と変わらず普通の女の子なので、そこまで畏まる必要はないんだけどな。一緒にデートした身からすると余計にそう思える。まあ千歌からしてみれば4人は憧れの人たちなので、粗相をすることに敏感になってしまう気持ちは分からなくもないが。
千歌に多少の後悔を残しつつ、A-RISEは舞台挨拶の準備のためこの場を去った。
さっき普通の女の子とは言ったが風格はあり、未だに穂乃果が尊敬しているグループであると考えると、彼女たちのカリスマ性は凄まじい。同じ年なのに穂乃果はツバサのことを敬称で呼んでいる光景を見れば、A-RISEの格の違いが伺えるだろう。
「千歌ちゃん。そろそろみんなのところに戻ろ――――って、あれ? 千歌ちゃん??」
「あぁ、アイツならここだ」
「え……?」
千歌は頭を抱えたまま俺の座っているソファの端っこに蹲り、何やらお経のようなものを唱えていた。
「失礼なこと言っちゃった失礼なこと言っちゃった失礼なこと言っちゃった失礼なこと言っちゃった失礼なこと言っちゃった失礼なこと言っちゃった失礼なこと言っちゃった失礼なこと言っちゃった失礼なこと言っちゃった失礼なこと言っちゃった失礼なこと言っちゃった失礼なこと言っちゃった失礼なこと言っちゃった失礼なこと言っちゃった失礼なこと言っちゃった……」
「ちょっ、千歌ちゃん!? そ、そこまで気にしなくても……」
「意外と繊細なんだね、千歌ちゃんって」
「ま、お前に比べたら楽観的ではない方かな。むしろお前が無鉄砲すぎるというか、何も考えてないだけなんだろうけど」
「もしかして、バカにされてる??」
スクフェス前日にして、千歌に軽いトラウマが刻み込まれたようだ。
そうは言ってもコイツもコイツで切り替えは早い方なので、少し放っておいて美味い飯でも食わせときゃすぐにテンションは戻るだろ。
「あぁ~ん!! さっきの会話やりなおした~~い!!」
To Be Continued……
μ's、A-RISE、Aqours、Saint Snowが1話内で同時に登場したのはこれが初めてですね。さすがに全員を同時に喋らせると誰が誰だか分からなくなるので、加入離脱させる形で出演させてみました。こうやって見ると、スクフェス編ってかなり豪華ですよね(笑)
次回は前夜祭編の後半で、まだ登場してない虹ヶ咲や秋葉さんは次で登場します。
同時に、ストーリーも徐々に進行予定です。
まだ評価を付けてくださっていない方、是非☆10評価を付けていってください!
小説執筆のやる気と糧になります!
ここからは別件となりますが、2年以上前に開催されていた『ラブライブ!』の企画小説を久々にやることになりました!
【概要】
参加者各々が好き好きにラブライブ小説を執筆し、それらを私が毎日1話ずつ投稿するというものです。作家ごとに世界観や登場させるキャラも違うと思うので、毎日新鮮な気分でラブライブワールドを楽しめると思います!
【参加について】
ラブライブ小説を執筆している人はもちろん、これまで書いたことがない人で『実はこういうネタを持っていたけど、書く機会がなくて……』みたいな人でも大歓迎です!
小説の提出期限等の詳細は私のTwitterの固定ツイートをご覧ください。
また、参加表明はTwitterでもハーメルンのメッセージでも、私に伝わる者であればどんな方法でもOKです。