ラブライブ!~μ's&Aqoursとの新たなる日常~   作:薮椿

362 / 395
 中身が入れ替わってしまった穂乃果と千歌。スクフェスの予選が迫る中、μ'sとAqoursは無事に出場できるのか……!?


二重の苦渋

 現状を整理しよう。

 果南から、千歌と鞠莉が控室を抜け出し遊びに行ったまま帰ってこないと電話があった。その直後に絵里から、穂乃果と凛が同じようにいなくなったと電話がきた。μ'sもAqoursも予選の時間が迫っており、予選直前のミーティングや舞台セッティングの時間を考慮すると、Aqoursの予選まで残り1時間、μ'sの予選まで残り1時間半を切っている。しかもそれは電話を受けてすぐの話なので、実際のタイムリミットは残り40分ほどだ。

 

 しかも、問題はそれだけではない。

 なんとか迷子ちゃんたちを見つけ出したはいいものの、食べ歩きをしている最中に人の波に飲まれた穂乃果と千歌の頭が激突し、なんと2人の中身が入れ替わってしまったのだ。どんな原理でそんなことになったのかは知らないが、もう少しでAqoursの予選が始まるので、のんびりと解決策を考えている暇はない。

 

 

 ――――と、いう訳で。

 

 

「ちょっと零君!? これどういうこと!?」

「これってもしかして、もしかしなくても……」

 

 

 屋台から拝借してきた1本の太いゴムを、穂乃果と千歌の腰に巻いた。そして凛が千歌(中身は穂乃果)を、鞠莉が穂乃果(中身は千歌)を、お互いの身体を引き離すように引っ張る。そうなればもちろんゴムははち切れんばかりに伸び、凛と鞠莉が手を離せば2人の身体がどうなるかは一目瞭然だった。

 

 

「もう穂乃果ちゃん、暴れちゃダメだよ。凛、勢い余って手を放しちゃいそうだにゃ」

「ちょ、ちょっと待って凛ちゃん! まだ心の準備が……」

「鞠莉ちゃん、少し引っ張り過ぎじゃない……?」

「えぇ~? まだまだ足りないくらいよ。それに勢いをつけてぶつかった方が、元に戻れる可能性は高いはず!」

「絶対自分が楽しんでるだけだよね!? ホントに千歌たちのこと心配してる!?」

 

 

 古典的な方法だが、時間がないため思いついた順番に試していくしかない。2人が激突して中身が入れ替わったのなら、もう一度同じ現象を起こせば元に戻る可能性が高い。数学で例えるなら微分と積分の関係みたいなもんだ。

 

 

「穂乃果たち、このあと予選が控えてるんだよ!? もしこれでケガとかしちゃったら……」

「そもそも、元に戻らねぇことには予選に出場できねぇだろ。増してお前らはμ'sとAqoursのセンターなんだから、他の奴に代役を頼むどころか抜けることすらも許されない。だから、多少荒っぽくても仕方ねぇっつうことだ」

「それで元に戻らなかったらどうする気?」

「安心しろ、骨は拾ってやる」

「無責任!?」

 

 

 俺だってこんな方法は取りたくないよ? でもさっき言った通り、各グループのリーダーでありセンターであるコイツらが予選に出られない時点で、予選通過はできないと考えた方がいい。ただでさえA-RISEや虹ヶ咲、その他のたくさんのスクールアイドルがいるってのに、ライブの主役がいなかったらそりゃ勝ち目ねぇだろ。だから少し荒っぽくても、2人を元に戻せる方法があるなら片っ端から試すのが先決だ。

 

 とは言っても、穂乃果も千歌もビビっちまって最初の策ですら実行に移せないのが現状だ。これ以外に策もないので、ぶっちゃけた話この方法で問題を解決できるなら解決しておきたい。穂乃果の言う通り確かに身体の心配はあるが、ゴムパッチンでお互いの身体をぶつけ合うことくらい、コイツらにとっては造作もないだろう。ほら、コイツらって秋葉の発明品やらで鍛えられて意外とタフだからさ。

 

 

「こ、こんなことをしなくても、問題を解決する方法があります!」

「は?」

 

 

 穂乃果になっている千歌が、汗を垂らしながら俺に進言する。ゴムパッチンまでの時間を稼ぐための虚言なのか、それとも本当に解決案があるのか。俺たちには時間が残されていない上に、ゴムパッチン以外の方法は未だ思いついていない。とりあえず聞いてみる価値はあるか。

 

 

「千歌、μ'sのダンスの振り付けなら全部覚えてますから! 穂乃果さんの代役で出ることは可能ですよ!」

「そう来たか……。でも歌は?」

「もちろんマスターしています! でも皆さんが不安であれば、録音したものをライブ中にマイクから流してもらえれば。ダンスは完璧なので、穂乃果さんの歌に合わせて動けばバレないかと……」

「「「…………」」」

「ふえっ!? 穂乃果さん? 凛さんも鞠莉ちゃんも、どうして黙ってるの!?」

「い、いやぁ、千歌ちゃんって意外と策士だなぁと思って……」

「堂々と不正な手を使うところ、零くんにそっくりだにゃ……」

「千歌っちが段々と先生の色に染まっているってことね!」

「そ、そんなつもりで言ったんじゃないってば!!」

 

 

 みんな千歌の発言に対して意見をしてるのに、さりげなく俺をディスってね?? まあ間違ってないから反論できないんだけどさ……。

 それにしてもみんなの言う通り、千歌の提示した策が想像以上に狡猾すぎて俺もビビった。アイツの考えることだから大した策ではないと、高を括っていた矢先にこれだよ……。

 

 

「千歌の作戦は悪くないが、リスクが高すぎる。バレなかったらって言うけど、もしバレたら今後お前らのスクールアイドル人生がどうなるか分かったもんじゃねぇぞ。それにマスターしてるとは言っても、必ずどこかで綻びが出る。もしこのまま元に戻らないのなら、μ'sもAqoursも辞退した方がマシだな」

「じ、辞退って! いくら先生の意見でも、それは納得できません!!」

「その通りだ」

「へ……?」

「だから辞退しなくて済むような方法を考えてるんだろ。それに俺はお前らの一番のファンなんだ。だからお前らを辞退させる訳ねぇだろ」

「先生……」

「さっすが零君、いざという時だけは頼りになるね!」

「それ、普段は役立たずだって言いたいのか……?」

 

 

 そのセリフを千歌の顔をした穂乃果に言われたことが腹立たしいが、ここでその問題に追及するのは時間の無駄だ。

 そんなことよりも、μ'sもAqoursもこんなところで辞退させる真似は絶対にさせねぇよ。μ'sがこれまで以上に最高の思い出を作ることも、Aqoursが学校を盛り上げて統廃合を防ごうとしていることも、どちらも邪魔させねぇ。それぞれの夢に向かう彼女たちをここまで先導してきたんだ、こんなところで終わらせて堪るかよ。

 それにこの世の誰よりも、コイツらの明るい笑顔を見たいのは自分だからな。

 

 

 そう、だから俺の取る手段は―――――――

 

 

「言ったよね、ゴムパッチンはやめようって!? さっきのカッコいいセリフが台無しだよ零君!!」

「さっきの言葉は千歌たちを安心させるための嘘ですか!? そうなんですよね!?」

「凛、鞠莉、2人をもっと引っ張ってくれ。」

「質問に答えないとか鬼!! それでも本当に教師!?」

「ゴムが切れそうなんだけど!? これで手を離されたら……」

 

 

 いくら喚こうが、どれだけ抵抗しようが、もうこの方法しか残されていないんだから仕方がない。せめてどんな原理で2人が入れ替わったのかが分かれば対応策の考えようもあるのだが、頭をぶつけたという物理的な理由だけではどうもなぁ……。

 

 そうだよ、そもそもどうしてこんなことになってんだ?

 そりゃ2人はおっちょこちょいだから、食べ歩きの最中にテンションが上がって思わず頭をぶつけてしまった可能性はある。でも、それにしても偶然過ぎる気がする。これだけ人がいるのに、予選に参加するμ'sとAqoursのリーダーがピンポイントで入れ替わるなんて、そんなミラクルが起こるものなのか? もしかしてこれはμ'sとAqoursを予選から外そうっていう誰かの策略で、裏で大きな力が働いているんじゃ……。

 

 

 ――――――って、流石に考えすぎか。

 

 

 穂乃果と千歌が同時にはしゃぎだしたらそれこそ騒音レベルなので、紆余曲折あってこんな事態になるのも不思議ではない。余計なことを考えて時間を潰すより、とっととコイツらを元に戻すとするか。

 

 

「下手に恐怖を長引かせるよりも、いっそのこと楽になったらどうだ?」

「その言葉のせいで余計に怖くなっちゃうから!! ていうか、穂乃果たちいつからこんな芸人さんみたいなこと……」

「今更だろそれ。出会った頃からお前は芸人だったよ」

「ひどっ!?」

「ったく、御託はもういいだろ。凛、鞠莉、もう手を離せ」

「わかった!」

「OK! 思いっきり行くわ!」

「そんなに力まないでいいよ鞠莉ちゃん!! って、まだ心の準備がぁ゛あ゛あ゛あ゛あああああああああああああああああ!!」

「えっ、う゛ぁあ゛ぁ゛あ゛あ゛あああああああああああああああああ!!」

 

 

 女の子が上げてはならない野太い声が、屋台エリアに響き渡った。

 つうか、もうすぐで予選なのにこの声のせいで喉潰れねぇだろうな? ゴムパッチンを仕掛けた張本人が言うのもアレだけどさ……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「あぁ、惜しい人を亡くしてしまったにゃ……」

「そうね。私たちができることは、こうして石を積み重ねてお墓を建てることくらい……」

「「生きてるよ!!」」

 

 

 古典的な作戦だったが、なんとか2人の魂を元の身体に戻すことができた。2人の身体が衝突した衝撃で――――みたいなR-18G展開にはならず、俺の見込み通り持ち前のタフさでピンピンしている。つうか全然ダメージがなさそうだから、コイツらのワガママなんて無視してサッサとこの方法を試しておけば良かったよ。

 

 そうだ、穂乃果たちが見つかったことをこころとここあ、そして先生たちにも連絡しておかないとな。結局自分で見つけちゃったから、みんなに時間を取らせただけになったのは本当に申し訳ないと思ってる。俺たち以外の部外者にも迷惑をかけて、これで予選に間に合わなかったら『相変わらずおっちょこちょいだなぁアハハ』じゃ済まされねぇぞ。

 

 

 よし、これで連絡完了っと。

 そうだ、時間! 今の時間は!?

 

 

「えっ、あと20分!? おいお前ら早く控室に――――」

 

 

 その時、スマホにコールがかかってきた。その相手は果南。

 ちょうどいいタイミングだ、千歌たちを見つけたからそっちに向かわせると伝えよう。

 

 

「もしもし果南か? 千歌たち見つけたから、今からそっちに――――」

『それが、言いにくいんですけど……』

「え、どうした?」

『予選、出られないかもしれません……』

「はぁ? どういうことだ? 今から急いで戻ればまだ間に合うだろ!?」

『さっき予選の直前の打ち合わせがあったんですけど、この時点で準備ができていないのは問題だって……』

「マジかよ……」

 

 

 案外厳しいんだなと思いつつも、普通に考えたらライブ開始20分前になってもメンバーが集まっていないのは問題か。小規模なイベントならまだしも、スクフェスは世界からも注目される大規模イベントだ。今やスクールアイドルのファンは世界中におり、国の経済としても貢献しているコンテンツであるため、メンバーが集まらないというグループ個人の都合でイベント進行を妨げられては堪ったものじゃないだろう。俺が公式の立場でも、恐らく同じ判断を下したと思う。

 

 μ'sはまだ40分ほど余裕はあるが、Aqoursはライブ開始までの時間が絶望的だ。今から戻ってやっと準備出来るくらいだが、ギリギリの時点で公式側からしたら遅いのだろう。そりゃそうだ。個々のグループのライブだけで、一体どれだけのスタッフが動いているのか想像するに余りある。しかもAqoursの後にもたくさんの予選が控えているので、遅刻でなくとも余裕を持った準備ができていないのは言語道断。グループ個人の遅刻だけで、迷惑をかけてしまう人は果てしなく多いだろう。

 

 

「果南。とりあえずスタッフに交渉しておけ、千歌も鞠莉も絶対に合流するから予選には参加できるってな」

『は、はい……』

 

 

 とりあえず、果南たちは果南たちにできるだけのことをやってもらおう。どれだけ足掻いたって時間は待ってくれないため、残り時間でできることをするしかない。μ'sは予選までまだ余裕はあるので、絵里たちへの連絡は後回しだ。とにかく、今は千歌と鞠莉を控室に送り届けないと。

 

 

「千歌、鞠莉、走れるよな? ていうか、走ってもらわないと困る――――って、え……?」

 

 

 電話を切って振り向いてみると、千歌が俯いて涙を流していた。鞠莉も涙は見せていないものの、普段の明るさが嘘のように顔色が真っ暗だ。穂乃果と凛も、2人の様子を見て困惑していた。

 

 

「ゴ、ゴメンなさい! 千歌が勝手な行動を取ったばかりに、みんなに迷惑を……う、うぅ……」

「千歌っちのせいじゃないわ! 私が食べ歩きに誘ったからこんな……」

「うぅん、リーダーなのにしっかりしてなかった千歌のミスだよ……」

 

 

「いい加減にしろ」

 

 

「「え……?」」

 

 

 事態が急転してから、2人が初めて顔を上げる。千歌は涙で瞳が覆われており、鞠莉も顔を上げて初めて目尻に涙を溜めていることが分かった。

 ったく、余計なことで時間を使いやがって……。

 

 

「泣く暇があったら走れ。ここで立ち止まってたら絶対に予選には出られない。でも走ればもしかしたら、もしかするかもしれないだろ? それに今からライブなのに、そんな顔じゃお前らの魅力を世界に伝えられねぇだろうが。ギリギリまで踏ん張って、そして笑顔でステージに立とう。な?」

 

 

 両手で千歌と鞠莉の頭を撫でてやると、2人の表情がみるみるうちに笑顔に変わる。

 やっぱり、女の子は笑顔が素晴らしい。確かに今回の事態を招いたのはこの2人だが、この切羽詰まった状況で原因を追究しても何の解決にもならない。幸いにもここから控室はそこそこ近いので、走れば10分程度は準備時間があるだろう。ここまで来たら1分1秒と無駄にできない。だからこそ、こんなところで蹲っていたら夢も希望も捨て去ることになるのだ。

 

 

「先生……。千歌、先生が先生で良かったです」

「もうっ、こんなにドキドキさせられちゃったら、逆にステージに立てなさそう……。でも、悪くないわね♪」

「そりゃどうも。じゃあ行くぞ」

 

 

 そして少女たちは、夢に向かって走り出す。人生なんて理不尽なことは付き物だが、それを真正面から立ち向かえる奴だけ未来を掴み取る権利がある。ただ立ち尽くす者に、希望はない。

 懐かしいなこの言葉も。μ'sの誰かにも言ってやった記憶があるのだが、誰だったかな? 

 

 すると、隣から妙に怪しい2つの目線を浴びせられていることに気付く。

 

 

「なんだよお前ら。ニヤニヤすんな」

「いやぁ久々に零君のくっさいセリフを聞けたなぁと思って!」

「凛たちもこうやって言い包められてきたんだって、傍から聞いてて分かったよ」

「それ褒められてんのか!? それに、お前らもμ'sに迷惑をかけているって自覚忘れんなよ」

「それは本当に申し訳ないよ……。あ~あ、控室に屋台のタダ券なんて置いてあるからこんなことになっちゃったんだよ」

「えっ、なんだよそれ……」

「それです! 千歌たちもそのタダ券を見つけちゃったから……」

「は……? じゃあお前らが自発的に行こうって言ったんじゃなくて、発端はその券なのか?」

「はい、そうですけど」

 

 

 さっき引っかかっていたけど無視していたことが、また気になり出した。

 2人が偶然ぶつかったのも怪しいと言えば怪しいし、怪しくないと言えばそうじゃないけど、タダ券のことに関しては明らかにおかしい。だってこれから予選に参加するスクールアイドルの控室に、屋台のタダ券なんて置くか普通? だって買いに行こうにも準備や打ち合わせで控室から出られず、出ようと思うのは穂乃果や千歌たちのような食いしん坊だけだ。まともな思考をしていたら、タダ券なんかに釣られて大切な予選を棒に振るような真似はしない。

 予選に参加するスクールアイドルたちへの参加賞と言われたら、まあ分からなくはないけど……。それでも大規模なスクールアイドルの祭典に、屋台のタダ券は参加賞としてあまりにも質素すぎる。スクールアイドルは女の子しかいない訳だし、もし参加賞があるならもっといいモノを用意するはずだ。

 

 

 考えすぎだと言われたらそうかとしか言えないが、さっきから違和感が半端ねぇぞ……。

 

 

 その時、またスマホにコールが入る。

 画面を見てみると、相手は絵里だった。

 

 

『もしもし零? どういうこと?』

「は? 何が?」

『えっ、あなたじゃないの? μ'sとAqoursのライブ順が後回しになったこと。上手いこと手回ししてくれたのかなぁ~と思って』

「はぁ!? 知らねぇぞそんなの!? それいつ聞いたんだ?」

『ホントに、ついさっきよ』

 

 

 果南たちが対応してくれたのか? それにしても運営の動きが早すぎないか……?

 

 

 どうなってんだよ、今日はおかしなことばかり起きてるぞ……?

 やっぱり、スクフェスの裏で何かが――――――?

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 一難去ってまた一難、次回もまた零君に試練が……
 とある人物から語られるのは、『嘘』




 別件になりますが、前々から予告していたラブライブの企画小説『ラブライブ!~合同企画短編集~』が25日(日)より投稿されています!
 何気に主催の私がトップバッターを切っているので、私の担当分は既に投稿されていたり……。最近本編の方がシリアスなので、もっとゆったりとした日常モノが読みたい方は、是非企画小説の1話目を覗いてみてください!

 そして、もちろん本日も別の作家さんの小説が投稿されているので、私の小説を含め是非ご覧ください!

 もしよろしければ、企画小説の方にもご感想をいただけると嬉しいです!

 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。