ラブライブ!~μ's&Aqoursとの新たなる日常~   作:薮椿
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 Aqoursが最後にやらなければならないことが明確に。
 確かに先生呼びのままで恋愛に発展したら……それはそれでアリな気がしますが(笑)


最後の決意

 千歌たちの着替え途中の部屋に突撃したことや、善子の『抱かれた』発言による騒動など、ライブ前に発生した波乱はとりあえず収まった。騒動の原因である誤解の連鎖を解くのにはそこそこ時間がかかったが、みんなが納得してくれたのでOKとしよう。変な誤解を持ったままライブに挑んで欲しくないしな。

 

 

「ったく、お前が妙なことを口走らなかったら苦労せずに済んだのに……」

「だからさっき謝ったでしょ。それに抱き寄せてきたのは事実だし」

「あぁ~もうこの話題は終わりな。またどこかで話が拗れて振り出しに戻っちまう」

 

 

 ただ誤解を解くならまだしも、俺の話を聞かずに理由を問い詰めてくる奴もいたり、顔を真っ赤にして気絶しそうになる奴もいたり、ピンク色の妄想に耽っている奴もいたりと、全員に平常心を取り戻させるだけでも大変なのだ。それもこれもライブ直前でみんなの気持ちが高ぶっているせいだとは思うが、どうして他人の失言の尻拭いを俺がしなきゃならないんだよ……。まあ善子も流石に悪いと思って誤解を解く手伝いをしてくれたし、これ以上そのことについては言及しないけどさ。

 

 既に決勝ライブ開始まで30分を切っている。もちろんすぐにライブが始まる訳ではなく、オープニングや出場グループの紹介等で十数分費やすため、実際にスクールアイドルたちがステージに上がるのはもう少し後となる。そうは言ってもAqoursは決勝ライブの1番手なので、余計な話題で騒いでいる場合ではない。全国から注目されるスクフェスという大舞台に立つんだ、これまでのイベントの時とは伸し掛かる緊張も段違いだろう。

 

 ちなみにみんなは既に着替えを終えており、後はライブに向けて精神統一をしたり緊張を解くなど、各々心の整理をするだけだ。昨日μ'sとの合同ライブを実施したことでAqoursの士気も大きく上がり、彼女たちが決勝に向ける闘志は更に熱く燃え上がった。ただでさえ大型大会に出場するのは初めてなのに、その初めてで決勝まで昇り詰めたんだ、そりゃみんなのやる気も上がるだろう。それに、彼女たちが抱く想いはライブへの闘志だけではない―――――――

 

 

「用も済んだし、俺はここで退散するよ。お前らの邪魔ばかりしてちゃ悪いしな」

「待ってください!」

「あん? どうした千歌?」

「あ、あの……もう少しだけ、ここにいてもらってもいいですか?」

「へ? あぁ、いいけど」

 

 

 控室から出ようとした時、千歌に呼び止められる。まださっきのことで問い詰めたいことがあるのかと警戒していたのだが、彼女の微かに寂しそうな表情を見る限り、どうやらそうではないらしい。あれこれ考える前に千歌のお願いを受け入れちゃったけど、どうして俺を引き止めたんだ……? Aqoursのライブは手で数えるくらいしか生で観たことないが、ライブ直前まで控室で一緒にいることは今回が初めてだ。さっきも言った通り、初の大型ライブで決勝という状況にビビってんのか? それとももう1つ別の感情が……? どちらにせよ、みんなの心が落ち着いていないのであれば傍にいてやろう。

 

 

 ……と、まぁそんな感じで10分ほど経過したのだが、Aqoursの控室は静まり返っていた。大型ライブに慣れているμ'sや、自分たちの力を信じて緊張なんて物ともしない虹ヶ咲の控室は何となく騒がしい様子が想像できるが、まさか千歌たちがここまで萎縮するとは思わなかったよ。緊張しつつもスクフェスの決勝に上がれた喜びは隠しきれないだろうと思っていたので、ここまで静かだと逆に心配になってくる。それ故に何となく声もかけづらいし、俺がいる意味ってあるのかこれ……。なおさら千歌が俺を引き止めた理由も分からねぇし、どうすっかなこの状況。元顧問として、何か元気付けてやった方がいいのだろうか。

 

 とは言っても、こういう時ってどんな言葉をかけてやったらいいのか分からん! 素直に思ったことを口に出せばいいと思うのだが、一度こうして考え込んでしまうとどうも言葉が出てこない。食い物で言えば天然か養殖の違いって言うの? 僅かでも余計なモノが混じれば、それは自然ではなくなる。あぁ、教師って難しいよ。こういう時にサラッと生徒を応援できる笹原先生や山内先生って、やっぱ凄いんだな。今までよりも一層尊敬しちゃいそう。

 

 

 そんな中、最初にこの静寂を破ったのは千歌だった。

 

 

「あ、あの、先生に聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」

「ん? なんだよ?」

 

 

 ライブ直前のこの状況で俺に質問って、今しなきゃいけないことなのか……? だからと言って突っ()ねる理由はないので、ソファにふんぞり返りながら耳を傾けることにする。

 

 

「先生って、どうして私たちの顧問になったんですか?」

「はぁ? お前が脅してきたんだろうが。バスのことを知られたくなかったら、Aqoursの顧問をやれって」

「そ、その後のことです! 正直、無視して辞めることもできたはずです。でも先生は、教育実習で忙しい中もずっと私たちの面倒を見てくれました。そして、私たちが東京に来た時も練習を見守ってくれた。どうしてですか?」

「俺がやりたかったから……なんて言ったら根も葉もねぇか。でもそれが全てなんだよな。俺は興味のないことはとことんやらないし、あることは物凄く集中するタイプだから。お前らが俺の目に敵ったってところだろ」

「やりたいからって、たったそれだけの理由ですか……?」

「人が動く理由なんて、蓋を開けてみりゃそんなもんだろ。つうか、いきなりどうしてそんなことを聞く? いや別にいいんだけどさ、この状況で聞くような内容なのかなぁって思ってさ」

「そ、それはぁ……」

 

 

 状況に見合わない質問をしたらこう聞かれるのは分かっていたはずなのに、千歌は焦って口籠っている。どうやら俺の答えに納得できていないようで、疑問の解決にはならなかったみたいだ。そう言われても、俺がAqoursの顧問になった理由に深い意味なんてない。バスの中で千歌と一悶着あり、彼女に半ば脅される形で顧問になった経緯はあれど、教育実習終了まで顧問を続けていたのは俺の意思だ。

 

 俺の質問に対し千歌が返答に迷っているみたいなので、納得してくれるか分からないけど自論を語っておくか。疑問解決もしないまま、なあなあの雰囲気でライブ本番を迎えたくないしな。

 

 

「お前らからしてみれば、先生は慈善家だって思うかもしれない。でも、それは違う。誰にでも手を差し伸べるとか、そんな正義のヒーローみたいなことはしねぇよ。面倒だもん。俺が助けるのは、個人的に良いと思った女の子だけだ。これでも省エネ主義者なんでね、周りにいる人間全員に構っている体力はねぇってことだよ」

「ちょっと言い方は悪いかもしれませんが、私たちが目的だったってことですか? バスで千歌ちゃんを襲った時みたいに……」

「梨子、襲ったってのは語弊があるだろ……。ま、目的と言われたらそれもそうかもな。ぶっちゃけちゃうと、浦の星が統廃合の危機に陥ろうが、俺にはどうでもいい話だ。学校が残ろうがなくなろうが、今後の俺の人生になんら影響はないからな」

 

 

 この発言を聞いてみんなはどう思うだろう? 驚いたか、失望されたか、まさか顧問として信頼していた人が、自分たちの学校をそう思っているなんて想像もしてなかっただろう。しかし、実際にそう考えているんだから仕方がない。ここで嘘を言うのはもちろん簡単だけど、それはコイツらが望んでいる言葉ではないだろう。

 

 

「浦の星がどうなろうが知ったこっちゃない。でも、学校を守りたいと必死になっているお前たちを、俺は守りたいと思った。目標に向かってひたむきになっているお前らを見て、俺は決めた。脅されて成り行きで顧問をするのではなく、本気でお前らの顧問になりたいってな。だってほら、俺って輝いてる女の子が好きだからさ」

「意外と私利私欲に塗れた理由だったんですね。先生のことだからもっとこう、教師としての経験値を積むためとか、生徒に優しくして、生徒を通じて教育実習の成績を上げるためとか、そんな感じの理由かと思ってました。ほら、私の我儘を聞いて、水泳の練習も見に来てくれましたし」

「まあ打算がなかった訳じゃねぇよ。でも男なんだから、多かれ少なかれ女の子に下心を持つのは当然だろ? 特に曜みたいな女子水泳部に誘われたら、そりゃホイホイ釣られちまうって。最低な話かもしれないけどさ、男という性別である時点で仕方がないんだよ」

 

 

 そういや数年前、海未にそのことを指摘された記憶がある。2人で海へ出掛けた時、俺がアイツを抱きしめた時に言われたのが『私たちと付き合っているのは身体目的なのか?』だ。その時の答えもさっき俺が言ったことと同じような内容であり、結局は純度100%の心を持ち合わせている奴なんて中々いないってことだよ。どちらにせよ、相手を好きって気持ちは変わらない。むしろ自分の本心を隠して上辺だけの好きを伝えるよりも全然いいと思うけどな。

 

 

「それが、私たちの顧問でなくなっても指導を続けてくださる理由ですか? さっき千歌が言ってましたよね? 私たちが東京に来てからも、ずっと練習を見守ってくれたって」

「なんだ、果南は俺の指導なんていらないってか?」

「い、いやそういうことではなくて!!」

「悪い悪い、ちょっと意地悪した。まぁあれだ、顧問だとか顧問じゃないとか、役職名なんてどうでもいいんだよ。お前たちの輝いてる姿を間近で見たいから、笑顔でいて欲しいから、俺はお前たちの隣にいるんだ。それじゃあダメか?」

「いえ。というより、嬉しいです……」

 

 

 果南だけじゃなく、みんなも頬を染めてそわそわしている。もはや俺のセリフは告白と言わんばかりだが、コイツらと一緒にいる理由なんてそれ以上でもそれ以下でもない。一緒にいる理由なんて、一緒にいたいからで十分だろ。

 

 

「一緒にいたいってのは山々だけど、このままだとどうしても元教師と生徒って関係が付きまとう。お互いに気にしなくても、心のどこかでは意識してしまう。だから何か、何かあと一歩踏み込む必要があるんだ。教師と生徒の関係をぶち壊す、何かがな」

「それって、さっきアンタが言ってた『名前呼び』を実行しろってこと?」

「まあそれが一番の進展になるだろうけど、キツいんだろ? お前が顔を真っ赤にして逃げ出すくらいだからな」

「わ、忘れなさい!! 別に呼べない訳じゃなのよ。こう、喉に引っかかって上手くアンタの名前を言えないだけだから……」

「それを呼べないっつうんだよ……」

 

 

 名前呼びをすることが、今の教師生徒の関係を覆す最大の一手になることは間違いない。千歌たちが俺のことを『先生』と呼んでいる以上、お互いに上下関係を感じずにはいられないだろう。その関係を断ち切るとまでは行かなくても、少なくともお互いが対等な立場にならなければ仲は進展しない。問題なのは、コイツらが名前呼びという難題を突破できるかどうかなんだけどな……。

 

 

「先生を名前で呼ぶことは難しいですけど、それでもルビィは頑張りたいです。今の関係のままでも、先生と一緒にいるのは楽しいです。でも、ルビィはもっと楽しくなりたい。これまで以上にもっと、もっと!」

「そうだな、俺もだよ。あとから修復するにしても、今ある関係を崩しちゃうのはもちろん怖い。だけど、それをしないといつまで経っても前へ進めないんだ。だから挑戦する価値はあるんじゃないか。ルビィもそうだけど、みんなも同じ気持ちだろうからさ……って、花丸? 目を輝かせて、どうした?」

「なんだか、ルビィちゃんの決意を聞いたらマルもやらなきゃって思いました。正直、善子ちゃんが逃げ出したところを見て、マルも同じことをされたあぁなっちゃうだろうなぁと考えてましたから」

「なるほど、善子がトリガーとなっていい教訓になったってことか」

「なんか、黒歴史を出汁に使われて気分良くないんだけど……」

 

 

 黒歴史は掘り返されるから黒歴史なのであって、一種の思い出でもある。掘り返されずネタにもされなかったら、それはもう記憶から消えていくだけだからな。だったらいっそのことネタにしてもらった方が、今後の思い出話にもなるからいいと思うけどね。

 

 ルビィといい花丸といい、普段は引っ込み思案の2人が真っ先に決意を表明した。最近は想像以上の積極性を見せる2人だったが、ここまで来るとAqoursの誰よりも度胸があるかもしれない。出会った頃はみんなの後ろの方でおどおどしているような奴らだったのに、これも俺の教育の賜物……か? 教育というよりも、気兼ねなく喋れる仲になったと言った方がいいのかも。

 

 

「名前を呼ぶのか呼ばないのか、それはお前らに委ねるよ。別にみんなで呼び方を統一する必要もない。誰かが名前呼びだからって、自分もそうしなきゃいけないとか、そんな縛りは一切ないからな。そこは好きにしてくれ。他の誰がどう呼ぶかを模索するくらいなら、この決勝ライブで9人一丸となることに集中しろ。俺のこともそうだけど、学校のこともあるんだしさ」

「確かに、私たちには学校の統廃合を防ぐため、ここでAqoursをアピールする必要がありますわ。それこそ、スクフェスに参加した最大の目的です」

「さすがダイヤ、よく分かってんじゃん。俺のために頑張ってくれるのはもちろん嬉しいよ。でも、俺に現を抜かして本来の目的を忘れてもらいたくはない。俺が見たいのは、目的達成のためにひたむきに頑張るお前らなんだ。合宿の時も言ったけど、自分たちのやるべきことを見失わないで欲しい」

「そうね、まずは目の前のライブに全力を注ぎましょう。浦の星に輝きを取り戻す、そのためのAqoursなんだから。私たちがもっともっと輝けば、学校も活気付くし、先生にもたくさんアピールできるしね♪」

「おっ、いいこと言うじゃん鞠莉。ま、そう簡単に行ったら話は楽だけどな。決勝にはμ'sもいれば虹ヶ咲もいる。その他にもラブライブの比じゃないくらいの強豪ばかりだ。ソイツらに負けず輝けるか?」

 

 

 なんて質問をしてみたが、コイツらにとっては愚問だったな。既にみんなの目は決意に満ち溢れており、例え先輩たちや自分たちより人気の高い同期を相手にしようとも、コイツらはビクともしない。むしろ相手が強ければ強いほど自分たちも輝ける、そういった熱い意志を見せていた。これは想像以上に千歌たちの魅力が観られるかもしれない。なんか俺、どんどんコイツらにハマっているような気がするぞ。いいことなんだけどね。

 

 

「μ'sとの合同ライブでより一層やる気も出たし、今日はライブもキラキラも、誰にも負ける気がしませんよ!」

「なんだ千歌、急に元気になったな……」

「もやもやってしてたことは全部解決したので、俄然テンションが上がってきました!」

「でも千歌ちゃん、キラキラって……フフッ、子供みたい」

「え~なんで笑うの梨子ちゃん!? 可愛くない?? ねぇ曜ちゃん!?」

「可愛いとは思うけど、そう思ってる千歌ちゃんの方が可愛いかな」

「えぇ~なにそれっ!?」

 

 

 千歌の幼さに満ちた発言をきっかけに、控室に暖かい雰囲気が戻る。笑顔と興奮を届けるライブなのに、本人たちが本気になれなかったら元も子もねぇしな。

 うん、女の子はやっぱりこうでなくちゃ。俺好きなんだよ、こうやって女の子たちに笑顔になる瞬間ってのが堪らなくな。みんなのこの笑顔を見られただけでも、コイツらの顧問をして良かったと思えるくらいだ。

 

 

「あっ、もうちょっとで始まる! 先生、それではAqours、行ってきます!」

「あぁ、限界を振り切るくらい楽しんでこい」

「「「「「「「「「はいっ!!」」」」」」」」」

 

 

 遂に始まるスクフェスの決勝。全てのスクールアイドルがそれぞれの想いを抱き、輝きを放ち、ステージに立つ。

 彼女たちが出す最後の答え、この目で見届けてやる。そして、俺のやるべきことも、もう最後だ――――――

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 千歌たちが零君のことを名前で呼ぶところを想像してみたのですが、もう2年以上も先生呼びで描写しているので、何かと違和感が多いです。でもその違和感をぶち壊してこそ、彼らの関係は進展するのでしょう。それに先生呼びのままで恋愛をしたら、それこそかなり背徳的になっちゃいますしね(笑)





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