ラブライブ!~μ's&Aqoursとの新たなる日常~   作:薮椿
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 スクフェスの決勝戦。
 神崎零は各グループとの思い出に浸りつつ、最後の決意を固める。


奇跡輝く

 

 出会いは最悪だった。

 バスの中で堪らず痴漢紛いなことをしたら、その子が俺の教育実習先の生徒だったこと。その様子をその子の友達に見られていたこと。痴漢したことをバラされたくなかったら、自分たちの顧問になれと脅されたこと。廊下で転んだ時に、女の子のスカートに頭を突っ込んだり、胸を触っちゃったこと。そのせいで堅物な生徒会長に説教され、着任早々要注意人物として狙われたこと。他にもあっただろうが、もはややらかしたことが多すぎて全てを覚えていない。教育実習生どころか人間的な地位からも解雇されるような悪行を働いた、という認識の方が大きいのだ。

 

 そのせいで、アイツらと打ち解けるのはそこそこ時間がかかった。μ'sとは成り行きながらも一緒にいたことで自然と仲良くなったのだが、やっぱり度重なる痴漢行為は彼女たちの警戒心を強めたようで、その当時は教師としても顧問としても信用してもらえなかった。まあ女子高で唯一の男だし、しかもその男が女の子のカラダを弄んだとなれば警戒するのは当然だ。全てはラッキースケベと言われる不慮の事故――――と言い訳できりゃ良かったんだけどなぁ……。

 

 そんな経緯もあって、アイツらが俺に抱いた第一印象は最悪だっただろう。しかし、その中でも俺を最初から知っていた奴もいて、過去に短期間だけスクールアイドルをやっていた俺を見て、密かな憧れと恋心を抱いていたようだ。着任早々解雇モノの所業を犯してしまったが、ソイツらが仲良くしてくれたおかげで俺はAqoursや浦の星から追放されることなく過ごすことができた。スクールアイドルを経験した過去がなければ、今頃アイツらとここまでの仲になっていなかったと言っても過言ではない。

 

 

「遂にここまで来たな……」

 

 

 アイツらの公式の大会の戦績は、決勝に進出するどころか予選ですら下位を取りまくるような結果だった。μ'sが9人でやっていた時代からも割と良い結果を叩き出していたのに対し、アイツらの結果はどうも奮わない。それは決してアイツらの実力が低いからではなく、ただ単にμ'sの時代とは違ってスクールアイドルの数に雲泥の差があるだけだ。単純にライバルが多ければそれだけ勝ち抜くのが難しくなる。スクールアイドル戦国時代とはよく言ったもんだ。

 

 しかし、遂にここまで来た。一度は支持者"0"で苦汁を舐めさせられたものの、"0"から"1"をモットーにここまで這い上がり、そしてスクフェスの決勝戦という嘗てないほどの大舞台に立つことができた。しかも肩を並べるのは憧れのμ'sと同年代で超人気の虹ヶ咲。舞台にせよ相手にせよ、これほど豪華なシチュエーションはないだろう。でもそんなシチュエーションだからこそ、アイツらの輝きもより際立つってもんだ。

 

 

「おにーちゃん? どうしたのぼぉ~っとして?」

「あっ、いや、ちょっと考え事をな」

「でも流石はお兄様です。お姉様たちのライブを観てここまで冷静でいられるなんて。私たちもですけど、お客さんの興奮が全然収まってませんし」

「どうかな? この中で一番テンションが上がってるのは俺だと自負できるよ」

「えっ、おにーちゃんテンション高いの?? 全然そうは見えないけど」

「みんなが感じてる興奮と、俺が感じてる興奮は少し違うのかもな」

「「……??」」

 

 

 こころもここあが首を傾げるが、まあコイツらであっても俺の気持ちを察知することはできないだろう。μ'sや虹ヶ咲、Aqoursのみんなとは濃厚な思い出がある。アイツらがスクフェスの舞台に立つ理由も、優勝を目指している目的も全部知っている。だからこそ、ただライブを観ている誰よりも彼女たちに抱く感情が違うのだ。これまでの楽しいことも悲しいことも、全部アイツらと共有してきた。言うなれば、俺はアイツらと一体になっていると言ってもいい。そのせいでステージにいるアイツらから心の躍動が伝わってきて、俺も一緒に興奮しちまうんだよな。

 

 

「あっ、もう始まるよ! 最初は……おねーちゃんたちからだ!」

 

 

 スクフェス決勝戦のラストライブ。最初はμ'sの出番だ。

 μ'sは4年前のラストライブを最期に解散していたが、穂乃果の一存によりスクフェス限りでの復活を果たした。メンバー各々の夢のため解散以降はμ'sとしての活動は一切なかったが、やはり12人で集まっていた時の思い出は忘れられないのだろう、最初は再びのメンバー収集に難色を示していた奴も、今はこうして笑顔でライブを披露している。

 

 アイツらがスクフェスに出場している目的は、ただ単に思い出作りだ。もう一度みんなで集まって同じステージに立つ。それだけのこと。Aqoursのように自分たちの想いや学校の存続を背負っている訳でも、虹ヶ咲のように過去の因縁に決着を着けようとしている訳でもない。だが、目的が他よりも薄いからと言って輝いていない訳じゃない。むしろ今まで重荷を背負ってきた経験があるからこそ、こうして何も背負わずとも輝ける。ただみんなと楽しく一緒に、それがアイツらにとっての一番なんだ。だから、アイツらがスクフェスに馳せる想いは他のグループに負けていない。

 

 

「虹ヶ咲スクールアイドル同好会さん……でしたっけ? ライブは今回のスクフェスで初めて観ましたけど、お姉様たちと同じくらい興奮しちゃいました!」

 

 

 次は虹ヶ咲の出番。

 アイツらとの思い出はここ直近で色々ありすぎてパンクするくらいだ。実際には10年以上前から出会っており、そこでの悲痛な経験、俺の記憶喪失も相まって、その10年間は思い出はぽっかり空いたままだがな。しかし、一昨日の秋葉との一件以降、過去の真実が全て明らかとなり、俺たちはようやく思い出を遡ることができた。

 

 アイツらは俺に助けられた過去から、俺のことを心酔している。それはやがて愛となり、こうして9人でスクールアイドルを結成するまでに至った。その後、歩夢たちはその愛を力にして密かに練習を重ね、表舞台に出て即座に人気を得るほどの地位に上り詰めた。その実力と魅力は一般人から見ても圧倒的であるが、その力の源は全て俺への愛。みんなの想いを一心に背負い学校の存続を担っていたμ'sやAqoursと違い、完全にただ1人のためだけにスクールアイドルを結成した。それ故に愛する人へ向けて魅せる輝きは美しく、結果的にそれが世間の評判にも繋がっている。だからこそ、他のどのグループとは違った魅力があるのだ。

 

 

「最後はお兄様が激推しのAqoursの皆さんですよ」

「Aqoursのライブを観てる時のおにーちゃん、なんだか嬉しそうだもんね!」

「そんなにか……? いや、そうかもな」

 

 

 個人的にはライブで興奮しても表情には出ていないと思っていたのだが、どうも感情が抑えきれていなかったようだ。まあアイツらの魅力に圧倒されていたんだから仕方ないわな。

 

 最終ライブの最後、予選から続く全てのライブのトリを飾るのはAqoursだ。

 Aqoursはμ'sや虹ヶ咲とは違い、学校の存続を背負っているという重圧がある。ここで浦の星をアピールすることで来年の入学者を増やし、統廃合を防ぐのが一番の目的だ。全国から注目されるスクフェスで優勝できたとなれば、そりゃ学校の名前もAqoursと共に知れ渡ることになるだろう。μ'sも虹ヶ咲も自分たちのためにスクフェスに出場しているの対し、Aqoursは浦の星の期待も背負っているのだ。

 

 だが、だからと言って千歌たちに棘々しい闘争心はない。スクフェスに優勝して学園を救わなければ――――という使命感に駆られている訳でもなく、彼女たちは彼女たちなりにスクフェスを楽しんでいる。自分たちが輝きたいという純粋な気持ちでスクフェスに挑み、そして決勝の舞台にコマを進めた。ただ使命感に捕らわれ躍起になっていては、本来の自分たちの力を発揮できないと分かっているのだ。だから、まずは自分たちが全力でライブを楽しむ。そしてその楽しさを観てくれている人に伝える。それこそ学校を救う一番の方法なんだ。合宿の時に立てたそれらの決意が、決勝の舞台で今まさに発揮されている。

 

 それとは別で、Aqoursと学校の名を知らしめるついでに、自分たちの輝きを見て欲しい人がアイツらにはいる。最悪の出会いから、最高の思い出へ。その間に生まれた感情を、この舞台で全て曝け出している。俺には分かる。彼女たちのライブを観ていると、相手に自分たちの輝きを見てもらいたいという意志の強さを感じる。そして俺は、そんな彼女たちの魅力に飲み込まれていた。

 

 まだ、出会った頃は未熟だった。『ラブライブ!』の予選で最下位を記録する奴らで、練習の指導をしている時も我が子を見守るような感じだった。だからこそ、μ'sや虹ヶ咲に負けないくらいの光を放っていることに感動しているのかもしれない。

 

 最初は最悪な出会いだったが、毎日を一緒に過ごしていく間に楽しいこともたくさんあった。その過程でみんなとの心の距離はどんどん接近していき、俺が浦の星を去る頃には隣り合わせになっていた。更にアイツらがスクフェスの練習のため東京に来てからも、楽しい思い出をたくさん作れた。

 そしてなにより、俺が自分自身を見失いそうになった時、アイツらがいてくれたからこそ本当の自分を見つけることができたんだ。その時に気付いた、俺は伝えたい。俺とアイツらの心は、もう既に――――――

 

 

「ほらおにーちゃん、やっぱり笑ってる!」

「えっ、そ、そうか?」

「まさかお兄様、お姉様たちを捨ててAqoursの方々に!?」

「んな訳ねぇだろ。俺は誰も切り捨てたりしねぇことくらい、お前らなら分かってるだろ」

「そうだったね。おにーちゃんは女の子を弄んで自分のモノにするのが好きだもん!」

「その言い方やめろ。ニュアンスが違うだけで合ってはいるけどさ……」

 

 

 こころとここあのようなガキに煽られるほど、俺のアイツらを見る目って変なのか……? だがアイツらとの思い出に浸っていると、勝手に自分の中で楽しかった記憶が蘇り、自然と笑顔が零れてしまう。確かに傍から見られると不気味な奴と思われるかもしれないが、思い出を振り返りながら笑顔になれるって、凄く幸せなことじゃないか? アイツらとの出会いが出会いだっただけに、楽しい思い出をたくさん作れたことが嬉しいんだよ。

 

 しかし、これまでの思い出だけで満足できる訳がない。今も、これからも、アイツらとはこれまで以上の思い出を作りたい。そのためには、俺たちの関係を最後まで前進させる必要がある。まぁ、その決意は決勝ライブを観た時から既に固まっていたんだけどな。決勝のラストライブを観て、その決意がより強くなった。何度でも言うけど、女の子ってすげぇよやっぱ。俺の心をここまで滾らせるなんて。もう変態なまでに女の子好きだと罵られようがどうでもいい、俺は俺に恋をしてくれる女の子が好きなんだよ。

 

 

 そうやって自分の想いと再び向き合っている間に、Aqoursのライブも終わった。これでスクフェスで開かれるライブは全て終了し、後は結果発表を残すだけとなった。順位付けの方法はこれまでと同じく審査員と観客の投票で決まる。どのグループのライブもこれまでのライブを上回るほどの熱狂を生み出したため、観客の票はまた大きく割れることになるだろう。

 

 

「おにーちゃんはどのグループに投票するの? やっぱりμ's?」

「さぁて、どうかな?」

「さっきAqoursの方々のライブを観て楽しそうでしたし、Aqoursさんですかね?」

「どれだけ詮索したって言わねぇよ。もう決まってはいるけどな」

「えーーっ? 誰に投票するの? 教えて教えて! 私の投票するグループも教えるからさぁ~」

「どうせにこがいるμ'sだろお前は。何を言われても内緒だから」

「お兄様が私たちに無理矢理しゃぶらせてきたことを公表すると言っても?」

「ぐっ……。そ、それでもダメだ」

「なるほど。お兄様が皆さんを想う気持ちはそれだけ堅いってことですね。うん、合格です」

「なんで試されてんの俺……」

 

 

 コイツら、俺たちの事情を何も知らないくせに……。そうは言っても、俺の様子を見ていればアイツらのことをどう想っているかくらいは察せるか。この2人ともいつかそんな関係になる時が来るのかもな。

 

 さっきも言った通り、どのグループに票を入れるかはもう決まっている。μ'sもAqoursも虹ヶ咲も、俺にとって大切な子たちだから、誰に投票するかなんて選べない――――なんて甘ったれた考えはない。アイツら自身がお互いにお互いを尊重しつつ競い合ってるんだし、どのグループにも票を入れないなんてことをしたらアイツらの気持ちを無視してしまうからな。

 

 

 そして遂に、運命の結果発表が行われる。投票時間や休憩時間を考慮するとライブ終了後からかなりの時間が経っているのに、会場の熱気は未だ収まっていない。むしろこれから開示される結果に向け、観客の興奮もまた上がってきたようだ。決勝ライブが始まってから相当な時間が経っているのにまだここまで騒げるとは、やはりドルオタの体力って半端ねぇよ。こころとここあもずっと興奮しっぱなしで、さっきから延々とライブの感想を2人で語り合ってるしな。なんか羨ましいよ、その持久力。俺もこれから訪れる運命の瞬間のために気を引き締めないと。

 

 決勝のラストライブまで勝ち抜いたスクールアイドルたちと、司会のスタッフがステージに上がる。

 いよいよだ。いよいよスクールアイドルの頂点が決まる。各々の想いが交錯し、お互いに高め合い競い合ってきた結果が間もなく明かされる。アイツらも観客も、そして生放送で会場の様子を見ている人も、みんなが緊張の一瞬だ。

 

 

「3日に渡ったスクールアイドルフェスティバルですが、遂に最後の結果発表となりました。栄えある優勝に輝いたのは――――――!!」

 

 

 前振りはほとんどなく、司会の一言で巨大モニターに映っていた画面が切り替わる。

 そこに映し出されたのはもちろん優勝のグループ名。最終ライブを突破したグループ発表の時と同じく、会場は一瞬だけ静寂に包まれる。

 

 

 世界に自分たちの魅力と輝きを一番伝えられたグループ。それは――――――

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 結果発表後、会場の雰囲気は大熱狂と言わんばかりの興奮で満ちており、スクフェス全てのイベントが終了した後でも盛り上がりは色あせていない。それに昨今は実際の会場で盛り上がった後にSNSで感想会をやる流れが定番なので、今頃はネットの世界でスクールアイドルたちの栄光が全世界に伝えられていることだろう。

 

 そんな中、俺は誰もいない一室のソファに腰を掛け、アイツらが戻ってくるのを待っている。

 ライブが終わったみんなに声を掛けてやりたいのは山々なのだが、あんな大勢に対して一度に自分の気持ちを伝えられる訳がない。だから他の2グループにはあらかじめ後で合流するとだけ連絡を入れ、俺はそれ以外、言ってしまえば優勝したグループの控室に来たのだ。

 

 アイツらが今頃どんな顔をして、どんな気持ちでここへ戻ってくるのか、全く想像できない。笑顔でいるのか泣いているのか、それとも意外と冷静でいるのか、想像するだけでも微笑ましくなってくる。もちろんどんな感情を抱いていようが、俺はアイツらを祝福し、そしてやるべきことをやるだけだ。

 

 

 そうだ、俺はこの時をずっと待っていたんだ。

 

 

 間もなく、控室の扉が開く。

 そこには最終ライブを終えた女の子たちが、自分と共に輝いたステージ衣装を纏って集まっていた。

 

 

 その子たちは、部屋にいた俺の姿を見て言葉を失っているようだ。

 

 

 今こそ―――――

 

 

 

 

「優勝おめでとう」

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 果たして優勝したのはどのグループなのか……って、話の流れから分かりそうなものですが予想してみてください(笑)


 スクフェス編は次回で完結。その後、後日談を数話投稿してこの小説自体も完結予定です。
 次回が遂にクライマックスなので、零君たちの物語もこれで一区切りとなります。なんか安心したような寂しいような……





新たに☆10評価をくださった

南ことりの自称弟さん、sin0408さん

ありがとうございます!


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