ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

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 令和1発目!
 今回のお話は推理モノというよりかは、零君とAqoursの日常回としてまったり読んでいただければと思います。


浦女の下着ドロボー(後編)

 

 図書室をあとにした俺たちは、Aqoursの部室へと向かっていた。

 当時の状況を知るには被害者に直接話を聞いた方が良いと思い、当の本人である千歌に会おうとしたのだが――――――

 

 

「ち、違うんですこれは!! ちょっとパンツのサイズが小さくて気になるなぁと思っただけで、決して脱ごうとしていた訳じゃ……」

 

 

 千歌はこちらにおしりを向け、パンツに手をかけて今にも脱ぐ体勢であった。健康的な太ももと脚が見事なまでに晒され、おしりは触ってくれと言わんばかりにつんと上を向いている。まさに男を誘うようなポーズに、俺は思わず息を飲んでしまった。コイツの言い訳を聞くに脱いではいないらしいのだが、どこからどう見てもおしりを振ってこちらを誘惑しているようにしか見えない。いつも思うけど、千歌って無防備が過ぎる。誰とは言わないが、いつか汚い男に襲われても知らねぇぞ?

 

 ちなみに、ダイヤは口をあんぐりと開けて硬直している。学校の秩序を守る立場として、不純異性交遊や破廉恥なことにはうるさい彼女のこと。目の前の状況を見たら唖然とするしかないのだろう。

 

 

「言いたいことは山ほどありますが、まずはその格好を何とかしなさい」

「そ、そうしたいのは山々なんですけど、あいにく下着がキツくて……」

「じゃあどうしてそれを履いたのですか……」

「そもそも保健室に下着がこれしかなかったんですよ! でも履かないのはないなぁ~っと思って、渋々これを……」

「しかし履いてる間にキツくなって、部室に誰もいないのを見計らい緩めようとしたら私たちが来てしまったと」

「そういうことですね……」

 

 

 股に食い込みそうなくらいの下着を装着するなんて、もはや大人の玩具と何ら変わらねぇじゃん。そもそも、部室に誰かいようがいまいが野外で脱ぎだすこと自体が異常だ。この部室は体育館に面しているため、俺たち以外の誰かの目に触れる可能性もある。それもこれもこの学校に生徒が少ないが故の油断だったのだろうか。まぁ千歌のことだから、そこまで考えてはいないと思うけど。

 

 

「そんなことより、どうしてここへ!?」

「そんなことではないと思うが……。お前に当時の状況を聞いておこうと思ってな」

「当時って、私のパンツがなくなったプールの授業のことですよね? う~ん、私は授業中に更衣室へ戻らなかったので、その時の状況と言われても……」

「なんだ、役に立たねぇなオイ」

「ひどっ!? 被害者を労わることくらいできないんですか!?」

「パンツを盗られた女の子にかける言葉を知ってるのなら教えてくれ……」

 

 

 どうせ俺に女心なんてものは分からない。デリカシーのない発言をするのであれば、いっそのこと堂々と他人事でいた方がマシだ。そもそも犯人が男ではない時点で犯罪の線は消えたし、そのせいで俺ものんびりしてるって自覚はあるけどな。むしろ犯人の女性がどんな目的で千歌のパンツを盗んだのか、その理由の奇々怪々さに期待しているくらいだ。

 

 

「手掛かりは0ですか……。犯人の目撃者もいないようですし、追跡は諦めた方がいいのかもしれませんわね」

「おいおい、俺を犯人に仕立て上げてる時の勢いはどうしたよ。でも、このまま放っておくと二次被害が出ちまうかもな」

「それは避けたいのですが、今の状況だと何とも……」

「そうですよ! 先生たちには犯人を捕まえてもらわないと!」

「ダイヤの言いたいことは分かるけど、千歌、お前も犯人に相当怒ってるのな」

「あっ、そ、それは個人的な事情があると言いますか……。ま、まあ可愛くてお気に入りの下着だったことは間違いないですけど……」

 

 

 千歌は頬を染めたままそっぽを向いてしまった。まぁ女の子には女の子の事情があるのだろう。単にお気に入りのパンツを盗られて憤ってる可能性もあるが……。

 

 とにもかくにも、このまま引き下がるのは負けた気がする。だから、どんな手段を用いても犯人を白日の下に晒さないと気が済まない。可愛い教え子のパンツを誰かに寝取られるのは我慢ならねぇって訳だ。

 

 

「あのぉ、ダイヤさん。今日の練習ってどうします?」

「この騒動を解決しない限り、千歌さんも私も練習に集中できないでしょう。とりあえず、先生が犯人を見つけてくださるまで待機しておいてください」

「おっ、なんだかんだ俺のことを頼ってくれるのか。素直じゃねぇなお前も」

「いえ、先生なら下着を盗む人の気持ちが分かると思いまして」

「俺が常日頃から女の子の下着を狙ってるみたいなニュアンスやめろ」

 

 

 そりゃ欲しいか欲しくないかで言ったら欲しいけど、妹に頼めば好きなだけ貰えるので、わざわざ盗む必要はない。俺は鬼畜かもしれないけど非道ではないので、女の子の温もりを感じたいのなら本人を直接襲う。つまり、俺の場合はコソコソする必要はないってことだ。

 

 犯人を探すとは言っても、犯人側がほとんど手掛かりを残していないので、ほぼ手詰まりに等しい。今までありとあらゆる謎を解明してきた名探偵の俺であっても、こればかりはお手上げだ。もっと有力な情報があればこっちも検討をつけて動き出せるのだが……。

 

 

「お姉ちゃん? 千歌さんに先生も」

「おぉ、ルビィか」

 

 

 俺たちが犯人捜索に行き詰っている中、部室にルビィがやって来た。ルビィは自分の身体くらいの大きさがある布束を抱えており、もはや自分の顔が布の塊に隠れてしまっていた。そのため、その布束からひょっこり顔を出す形で俺たちと会話をしている。

 

 

「ルビィ、何なのですかその布の量は……」

「これ? 次のライブの衣装を作る材料だよ」

「次の衣装の担当はルビィちゃんたちだったよね。本担当の曜ちゃんはいるとして、今回は善子ちゃんと鞠莉ちゃんも一緒なんだっけ?」

「善子さんと鞠莉さんですか……。まともな衣装にならないような気が……」

「あはは……。そうならないように、ルビィと曜さんでセーブしたから大丈夫だよ。むしろ、しっかりセーブしないと堕天使の羽とか付けられそうだし……」

 

 

 衣装を鞠莉に任せたら露出多めのサンバ衣装になりかねないし、善子に任せたら堕天使のコスプレになりかねない。衣装担当は本担当の曜とルビィを含め、残りのメンバーから2、3人のローテーションで人員を回しているのだが、今回ばかりは衣装決めに相当な時間を要したに違いない。主に問題児2人を言い包めるために……。

 

 

「ルビィに面倒をかけるとは、善子さんと鞠莉さんにはあとでお灸を据えないと……」

「確かに衣装決めは大変だったけど、面白いアイデアがたくさん出てきて、今後の衣装作りの参考にはなったよ。曜さんも2人の奇想天外な発想に驚いてたし。もちろんそれだけ衣装を作るルビィたちが大変なんだけどね……」

「そういえば、プールの授業中に曜ちゃんがそんなことを言ってたよ。鞠莉ちゃんが提案する派手な衣装と、善子ちゃんが提案する黒系統の衣装が相反しているから困ってるって」

「うん。だからルビィも何か参考になるものはないかと思って、こうして色んな生地を持ってきたんだ」

 

 

 どうやら次のライブの衣装作りはかなり難航しているようだ。曜とルビィの発想ではどうしても可愛い系統に偏ってしまうため、Aqours内でも屈指のキチガイであるあの2人の意見を上手く取り込むのが難しいのだろう。

 

 

「それはそうと、お姉ちゃんと先生はどうしてここに? まだ練習の時間じゃないと思うけど……」

「知ってるだろ、コイツのパンツが盗まれたって話。その調査をしてるんだけど、進展がなくてさ」

「それ、学内SNSで回ってたような……。でも、みんなそこまで気にしていない様子ですよね?」

「それは先生がこの学校の生徒を誑かしているせいですわ。さっきプールの更衣室へ行った時に、皆さんの豹変具合に驚いてしまいましたから……」

「人聞きが悪いな。俺がアイツらを変えたんじゃなくて、アイツらの才能が勝手に開花しただけだ。ま、水泳部の連中は俺の目から見てもやり過ぎだと思うけど……?」

「先生? どうかされましたか?」

「い、いや、何でもない。とにかく、ダイヤはダイヤで聞き込みを続けてくれ。俺は行くところがあるから」

「せ、先生!? ここへ来て用事って……って、行ってしまいましたわ……」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「あぁ、勢いで持って来ちゃったけど、どうしよっかなこれ……」

 

 

 校舎の渡り廊下、1人の少女が制服のポケットの中を探りながら歩いていた。時折ため息をつきながら、どんよりとした雰囲気を醸し出している。

 俺は渡り廊下の柱にもたれ掛かりながら、その子の様子を眺めていた。その子は前を向かず自分のポケットに意識を集中しているためか、俺の側を通りかかってもこちらに気付くことはない。ま、あんなことをしたんだから気にするのは当然と言えば当然か。

 

 

「おい、無視すんな」

「ひゃぅ!? せ、先生!?」

「水泳部のあとにアイドル活動とかお疲れだな、曜」

 

 

 俺はAqoursの部室へ向かっている曜を捕まえ、彼女の進路を遮るように立ちふさがる。

 曜は慌てた様子で俺の顔を見ながら、一歩二歩後退りをして距離を取る。よほど後ろめたいことがあるらしいのだが、俺からしてみればそれはもうお見通しだ。

 

 

「ど、どうしたんですか? もう部室にいるものだとばかり思ってましたけど……」

「お前を待ってたんだよ。生徒を出迎えるなんて、いい先生だろ?」

「は、はい、そうですね……」

「なんだ、元気ねぇな。まるで興味本位で手にしてしまったものを返すに返せなくて困ってるような、そんな顔をしてるぞ」

「えっ、どうして分かったんですか!? って、いや、何でもないです……」

「今更言い直しても遅いって……」

「ぐっ……」

 

 

 曜は観念して幾分か気が楽になったのか、強張っていた表情が徐々に落ち着きを取り戻し始めていた。とは言っても罪状が軽くなるかどうかは、この後の尋問にコイツがどう答えるかで変わってくる。プールの更衣室へ殴り込んだ時からコイツは隅っこで気配を消していたので、最初から怪しいとは思っていたんだがな。まさか本当に女の子が女の子のパンツを盗むとはねぇ……。

 

 

「別に盗ろうと思って盗った訳じゃないんです! そ、そのぉ、一瞬の気の迷いと言いますか……」

「まぁ誰でもそういうことはある。でもそれで済まされたら警察は要らねぇよ」

「もしかして私、退学……だったり?」

「お前が千歌のパンツを盗んだってことは俺しか知らない。だから、俺が言いふらさなければ大丈夫だ」

「そ、そっか、良かったぁ……」

 

 

 何を安心しているのか。もし俺がここで『退学になりたくなければ、俺の言うことを何でも聞いてもらう』系の展開に持ち込んだら、自分の身体が無事では済まされないっていうのに。それだけ俺を信頼してくれているとしたら嬉しいけど、曜に至っては最初から好感度が高かった気がするんだよな。どうしてかは知らねぇけど。

 

 

「で? どうして盗んだんだ?」

「厳密には盗んではないです。って、先生ならもう理由が分かってるんじゃないですか?」

「あぁ、善子と鞠莉の無茶振りのせいだろ?」

「あはは、よくご存じで。次のライブの衣装をどんな風にするかを、プールの授業中や更衣室で迷ってたんですよ。授業が終わって1番乗りで更衣室にいた私は、ふと千歌ちゃんの下着が目に入っちゃったんです。それを手に取って、あぁ綺麗だなぁ可愛いなぁとか、衣装の参考になりそうだなぁとか思ってたら、シャワーで身体を洗い終えたみんなが更衣室に戻ってきてしまいまして……」

「それで千歌のパンツを戻す暇がなく、咄嗟に自分の制服に隠してしまったと。そもそも、親友の下着を手に取るなんてどんな趣味してんだよ……」

「仕方なかったんですよ! 可愛くて衣装のアイデアが広がりそうだったんですから!!」

「開き直んなよな……」

 

 

 でも曜ならやり兼ねないと思ってしまうあたり、本人に対して失礼だろうか。梨子といい曜といい、どうも親友関係以上に千歌に入れ込んでいる節がある。そのせいか、千歌の下着を盗んだのは故意なのではないかと、本人の口から真実が語られるまで疑いが晴れなかった。μ'sもそうだけど、スクールアイドルの女の子たちって百合百合しい一面があるよな。μ'sもAqoursも、俺が介入してなかったら女の子同士でどんな関係になっていたことやら……。

 

 それにしても、蓋を開けてみれば事件でも何でもなかった訳だ。まぁ見ず知らずの人が犯人で、騒動が大きくなるよりかは良かったのかもしれない。

 

 

「それで物は相談なんですけど、このことは内密にお願いしたいなぁ~と」

「俺は別にいいけど、どうやって返すんだそのパンツ」

「それは先生が『そこらに落ちていた』と言ってくれれば……」

「そうなると俺が盗んだと勘違いされるからパスだ。ただでさえダイヤから疑われてるっつうのに……。いっそのこと、プールの更衣室に戻しておけばいいんじゃね? 次に入った奴が気付くだろうし、お前が犯人だとは特定されないだろ」

「そうですね……」

 

 

 知らぬが仏という言葉もあるので、このことは俺と曜の内緒にしておくか。

 そういや、なんかコイツとの内緒事が多くなってきた気がする。雨の日に曜と公園で雨宿りをしたことがあるのだが、その時に起こった出来事は口が裂けても誰にも話せない。今でもどうしてあんなことになったのか、思い出すだけで少し罪悪感があるからな……。

 

 

「そういや、アイツのパンツってどんなのだったんだ? お前が目を引くくらいだから、相当奇抜な柄だったんじゃ……」

「そ、それが、千歌ちゃんにしてはちょっと大人っぽいと言いますか、ピンク色でこの生地の薄さ、しかもレース模様なんですよ」

「確かに、子供っぽいアイツには合わねぇよな」

 

 

 俺は曜に手渡された千歌のパンツを受け取ると、何を思ったか広げてしまった。

 よく考えてみれば、これは店で下着選びをしているのとは訳が違う。数時間前まで千歌が実際に履いていたモノなのだ。そう考えるとなんかこう、くるものがあるな。

 

 

 だが、運の尽きとはまさにこのことだった。

 

 

「せ、先生!? やっぱり……!!」

「えっ、ダ、ダイヤ!? いや違うんだこれは!!」

「そうですわね。着任早々私たちにセクハラをするような先生が、シロなはずないですわ。さぁ、生徒会室へ連行します!」

「誤解だって! おい曜――――って、いない!? アイツ逃げやがったな!!」

「なにを騒いでいるのですか! 千歌さんの言っていた下着の柄と全く同じモノを持っているそれこそ、動かぬ証拠ですわ!」

「だから違うってぇえええええええええええええええええええ!!」

 

 

 神崎零の教育実習生編、これにて完……?

 




 前編からかなり時間が空いてしまいましたが、既に完結しているので今後も不定期にまったりやるつもりです。楽しみにしていただいている方がいましたら申し訳ないです。


 次回はこころとここあ回を予定していますが、ネタは色々溜め込んでいるのですり替わっているかもしれません()



新たに☆10評価をくださった

黒電話の所有者さん

ありがとうございます!

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