女の子に群がられて羨ましいと思うのか、それとも酔っ払いに絡まれて心配と思うのか……
「ふぅ、危うく死ぬところだった……」
トイレで腹に溜まった不純物を流したことでようやく現実に帰ってくる。せつ菜の作った料理もどきを口にした瞬間、魂が昇天してこの世の存在から卒業するところだった。それでもせつ菜の笑顔を守るために何とか鍋の中身を1人で全て食い切り、命からがら這いながらトイレに駆け込んだ。女子高が故に男子トイレが少ないのがまた俺にとって試練であり、部室からトイレが遠いせいでその途中何度も死線を乗り越えた。奇跡的にも拾った命、これからの人生大切に生きていこうと決心した瞬間だ。
「あら、あなたは……」
「お前は確か……演劇部の部長だっけ?」
「はい、さっきぶりですね。こんなところでどうされたのですか? しずくがあなたの歓迎会をすると言っていましたが、なんだかげっそりしてません……?」
「この世にはな、度し難い絶望であっても受け入れなきゃいけない時があるんだ……」
「は、はぁ……」
しずくの所属する演劇部の部長と廊下でエンカウントする。俺の様子を見て心配してくれているようでありがたいが、残念ながらコイツには俺の体験した地獄は分からないだろう。人を死へ誘うために作られたと言ってもいいあの料理は、下手をしたら軍事兵器として利用できるレベルだった。だからあのとき璃奈が咄嗟に逃げた理由も頷ける。
「もしかしてしずくが何かご迷惑をお掛けしているとか? あの子、あなたとお会いできることをずっと楽しみにしていたので気分が高ぶっているのではないかと……」
「確かにテンションは高いけど、それはアイツだけじゃなくてみんなだからな。それに俺が疲れてるのはアイツらのせいじゃないから安心しろ」
「ならいいのですが……」
「アイツらの期待を裏切ることはしねぇよ。だから早く戻って元気な顔を見せてやらないとな」
俺がトイレに行く時、歩夢たちが気がかりな顔をしていたのを覚えている。せっかくの歓迎会であり、しかもアイツらは俺が来るのをずっと待ち望んでいたらしいからなおさら心配させるわけにはいかない。それにアイツらを悲しませたら侑にどやされてしまうからそれは避けたいところだ。
「そういえば差し入れの方はどうでした? 世界的にも有名なお店のチョコレートが同好会に差し入れされたって、しずくが言ってましたけど」
「えっ、そんなのあったかな……? 戻ったら確かめておくよ」
「私甘いモノに目がなくて、できれば1ついただけたらとしずくにお願いしているのですが、あの子覚えてるかな……?」
「しずくも歓迎会で相当熱くなってるから忘れてる可能性はあるな……。あとで聞いておいてやる」
「ありがとうございます。助かります」
「あぁ、それじゃあ。これからもしずくのことよろしくな」
「それはこちらこそですよ。それでは」
しずくの奴、いい先輩を持ったな。過去に色々あったからこそアイツらが有意義な日常を過ごせていることに嬉しさを感じる。今日1日だけでも幾多の騒動に巻き込まれて大変だったけど、それだけに平和だったからほっこりした気分になるよ。今ならせつ菜にあの料理を食わされたことも笑って許せるかもな。
演劇部の部長と別れて部室の前に到着する。
もういい時間だから歓迎会もそろそろ終わりか。そう思うと今日の出来事が思い出となって想起される。ギャルゲーのごとく数多のイベントが発生したがどれもこれも思い出深い。だが今日はこれ以上のイベントは起きないだろうから、あとはゆっくりさせてもらおう。
そうやって感傷に浸りながら部室のドアを開ける。
すると、歩夢がいきなり俺の胸に倒れ込んで来た。
「歩夢!? どうした!?」
「零しゃ~ん……しゅき……♪」
「どうしていきなり告白なんてお前らしくもない――――って、呂律が全然回ってないぞ? つうかこの部屋……酒くさっ!?」
歩夢の顔が真っ赤になっており、この舌足らずな感じは確実に酔ってやがる!! しかも部室全体が酒臭く、見てみればみんなフラフラと足元がおぼつかなかったり気持ちよさそうにトロンとした目をしていたりと、この中の誰1人としてまともな奴はいないようだ。これだけの女の子が一斉に酔っているせいで部屋全体に妖艶なムードが漂っており、さっきまでの和気藹々としていた雰囲気とはまた違った興奮に包まれていた。
机の上を見てみると、小さいチョコレートがいくつも転がっていた。これがあの部長の言っていた差し入れなんだろうが、どう考えてもこのチョコに酒が含まれているのは明らかだ。しかも部室中に匂いが充満するほど酒の含有量が半端ない。俺がこれだけ察しがいいのは過去に同じ体験をしたことがあるからで――――って、またこの展開かよ!? どいつもこいつも学ばねぇなオイ!!
チョコレートの入っていた箱に何やらカードが入っているのを発見したため、そこに書かれている文面を読んでみると――――
『零くん虹ヶ咲学園に初訪問記念! これを食べて大人な夜を過ごしてね! あなた想いのお姉ちゃん 神崎秋葉より』
なぁ~にが『あなた想い』だ遊びたいだけだろアイツ!! 帰ったら締め上げてやる……。
まぁカードを見る前からそんなことだろうとは思ったけど、まさか最後の最後でコイツが出てきて俺の平穏をぶち壊すとは想像してなかったぞ……。流石にもう何も起こらないだろうからゆっくりしようと言った矢先にこれだ。やっぱフラグは立てるものじゃない。つうかどうして俺がここに来てること知ってんだ――――って、アイツの思考なんて考えるだけ無駄だからやめよう。とりあえず今はコイツらの対処が優先だ。
とは言っても――――――
「零さぁ~ん! 歩夢しぇんぱいだけズルいですよぉ~」
「かすみ!? お前まで抱き着いてくんな!?」
「そんなこと言っちゃってぇ~。今日はかすみんたちをみんな抱くまで帰れないんですよぉ~」
「いや、歓迎会が終わったら帰る気満々なんだけど」
「そんなぁ~夜は長いんですよぉ~?」
「その指の動き辞めろ……」
かすみは左手の親指と人差し指で輪っかを作り、右手の人差し指をその輪っかに通して前後させる。それが何を比喩しているのかは確定的で、どうやらそのような行為をご所望らしい。
この野郎、超憎たらしい顔をしているので腹パンしたい。そして涙目になっているところを見たいドS精神が煮えたぎってきそうだ。
つうかコイツその手の話題に耐性あんのか? 俺に裸を見られそうになっただけでも発狂してたのに、やはり酔った勢いが故か。あぁクソめんどくせぇな酔っ払いって奴は。これまで何度も酔っぱらった女の子を相手にしてきたがいつまで経っても慣れる気配がない。慣れたくもないけど……。
ちなみにこうしている間にも、歩夢は腕と脚をフルに使って俺に絡みついて来る。普段のコイツなら羞恥心で絶対にしないような行為なのに、酔うだけでここまで人が変わるのか……。
「かすみちゃんばかり……。私も構ってくれないと寂しいですよぉ……」
「いや構ってるつもりだが……?」
「全然足りません!! ちゅー、してもいいですか? んっ……」
「こっちに唇を突き出すなこっちに迫ってくんな!!」
普段は清楚キャラを気取っている歩夢だが、今は酔いで顔が赤くなっているのも相まってかやたらと色っぽい。そのせいで目を瞑り唇をこちらに向けるコイツがやたらと艶やかに見えるので、このパニックとなっている状況でなければ容赦なく飛びついていたところだ。振り払おうにも反対側には既にかすみにホールドされているため動くに動けない。これもしかして、早速マズい……??
「おい侑、歩夢を何とかしてくれ!」
「…………」
「侑? 寝てんのか?」
「ひっく……うぅ……」
「えっ?」
「うわぁああああああああん!! お兄さんが歩夢ばっかり構うぅううううううう!!」
「はぁ!? ちょっ、なんで泣くんだよ!?」
侑に助けを求めようとした矢先、突然俺の脚元に縋り付く形で泣き出しやがった。酔っ払いの中で一番面倒なのが突然泣き出す奴だとよく言われているが、確かにこう真っ向から対峙してみると非常に面倒臭い。つうかコイツも俺に構って欲しいのか?? 素面の時はそんな素振りを見せないどころか敬遠してたのに、キャラ変わり過ぎだろ……。
「お兄しゃん、ひっく、私の夢を応援してくれるって言いましたよね?」
「あ、あぁ」
「私のことがお気に入りで大好きだって言ってくれましたよね?」
「そこまでガッツリ入れ込んでいるわけじゃないけど、まぁニュアンスは間違ってないな」
「電車の中で身体を触られて私は純潔を失いました。その責任を取ってくれるって言いましたよね??」
「重てぇなオイ!? そこまでは言ってねぇぞ!!」
「それなのに歩夢やかすみちゃんばかり構って……うぇええええええん!!」
「だから泣くなって……」
勝手に捏造した記憶に対して泣き出すとか救いようがねぇんだけど……。むしろ戸惑っているのは俺の方で、いつものツンケンしているコイツがべったりと擦り寄ってくるものだからどう対応したらいいのか分からない。泣いている酔っ払いは泣き止めば静かになる理論があるので、ひとまず放っておこう。これ以上刺激してもまた大声で泣きついてくるだけだから。
「もう、そうやってすぐに女の子を手玉に取るんだから……ひっく」
「果林……。耳元で囁くのはやめろ酒くせぇから」
「あなたは私たちの心をくすぐってばかり。だからこうして愛情表現したがるの……あむ」
「ちょっ、耳噛むな! そして俺の話を聞け!」
「夜はまだ長いわ。だから……ね?」
「下半身に手を伸ばすんじゃない!!」
果林は俺の背後から抱き着き誘惑をしてくる。果林のようなイイ女に誘われたら並大抵の男なら余裕で釣られるだろうが、残念ながら女の子に百戦錬磨である俺に対してはそうはいかない。とは言ってもコイツのねっとりお姉さんボイスで背筋がゾクゾクしてしまっているのは内緒。酔ってさえいなければ押し倒していたところだ。
「あれあれ~零さんやっぱり期待してるんじゃないですかぁ~。かすみんの魅力とテクニックですっきりさせてあげますよぉ~?」
「自惚れるなよ。男を知らないクソガキが俺を手玉に取れると思うな」
「だったら私たちみんなで攻めちゃおうかしら? ふ~」
「耳元で息を吹きかけるな。歩夢も隙あらばキスしようとしてくんな」
「口元が寂しいです……。私、今すぐに満たされたいです……。零さんのことを考えると頭がぽわぽわ~ってして、顔も熱くなっちゃって……」
「うん、それは酔ってるからだ。そして侑、俺の脚にしがみつくのはやめてくれ」
「こうしておかないとお兄しゃん逃げちゃうもん……。私に責任を取るまで返さないもん……ひっく」
歩夢とかすみに抱き着かれ、侑に脚を奪われ、果林が後ろから誘惑してくるこの構図。普通なら舞い上がるような状況でもこの酒の臭さとコイツらのダル絡みのせいで雰囲気が台無しだ。もう酒を何杯も飲んだかってくらいみんな酔っぱらっているので1人1人の相手をするだけでも疲れる。もう酔っているコイツらよりも俺の方が頭が痛くなりそうなんだけど……。
そうやって頭を抱えていると、背後から冷たいオーラを感じる。身体は動かせないので顔だけを後ろに向けてみると、そこには前髪で表情を隠したしずくが立っていた。歓迎会の飾り物であろう紙のテープを持って……。
「零さん……また私以外の女の子とイチャイチャ、イチャイチャイチャイチャイチャイチャ……ひっく」
「お、お前またそのキャラに――――って、演技じゃないんだよな? 酔ってるんだよな??」
「やっぱり零さんはしっかり束縛しておかないと……これで……」
しずくはさっき演劇部で演じていたのと同じ病み成分たっぷりのキャラになっているが、これ本心じゃねぇよな……? さっきから前髪で全然顔が見えないから普通に怖いんだけど……。
そしてしずくは一瞬でこちらとの距離を詰めて俺の手を握ると、自分の手首と俺の手首をテープでぐるぐる巻きにし始めた。
「おい何すんだ!?」
「もう一生私から離れないように繋ぎ止めておこうと思いまして……。おっと、暴れないでくださいね。どうしてもと言うのであれば……璃奈さん!」
「璃奈ちゃんボード、『拘束』!」
「ぶっ!? な、何すんだ!?」
「こうして零さんを拘束すれば、いついかなる時も零さんと一緒に居られるとしずくちゃんに乗せられた……ひっく」
「これで暴れることはできませんよ……。かすみさんたちに抱き着かれて身体も動かせないでしょうから……フフフ」
「お前本当に酔ってる……?」
璃奈のボードと彼女の身体によって俺の視界は完全に防がれた。そしてヤンデレの化身となったしずくの手首と俺の手首が完全に繋ぎ止められ、振りほどこうとしても外れる気配もない。それどころか俺の手を力強く握ってアイツの方からも離そうとしない。テープでもぐるぐる巻きにし、自分からも手を握って束縛するその執念はヤンデレキャラとして合格だ。感心してる場合じゃねぇけど……。
「おい璃奈、俺は別にどこかに行ったりしないからこのボードだけは外してくれ」
「ダメ。零さんは璃奈ちゃんボードの中、つまりずっと私の世界で暮らすの……」
「お前も相当怖いこと考えてんな……。だったら悪いけど力尽くで――――ん? なんだこの柔らかいの?」
「ひゃっ!?」
「えっ、なに!? その声は……愛か?」
「も、もう零さんってば……そんなに溜まってるの……?」
「まさかこれって……!?」
璃奈のボードに顔面を拘束されているので直視はできないが、俺の手に触れたのは間違いなく女の子の胸。このボードを外そうとしてしずくに拘束されている手とは別の手を伸ばした時、愛の胸に触れてしまったらしい。
まず一言感想、凄く大きい。シャワールームで見た時から高校生とは思えないスタイルとバストをしていると思ったけど、これは俺の手に馴染む。今までたくさんの胸を触ってきた俺なら分かる。この大きさ、柔らかさ、張りの良さ、どれも男を悦ばせる要素しかないと。俺なら耐えられるけど、思春期男子だったら我を忘れて病みつきになってるぞ絶対に。
「ひっく……言ってくれればいつでも処理してあげたのに……。零さんも男の子だもんねぇ~。こんなに大勢の女の子に囲まれちゃったらそりゃ溜まっちゃうよねぇ~♪」
「酔った勢いなのか本心なのかどっちだよ……。残念ながらお前1人が相手にできるほど俺の欲求は甘くないぞ」
「そんなに強がっちゃっていいのかなぁ~? もうりなりーたちに羽交い締めにされて動けないのにさぁ~。それに愛さんの胸を鷲掴みにしながらイキっても説得力ないよ~?」
「お前が俺の手を離さないからだろうが……」
俺の手を愛自身が握って抑えているため離すことができない。だからずっとコイツの胸の感触を味わっているのだが、もはや押し付けられすぎて柔らかさを感じなくなっている。これだけ自由自在に形が変わるってことは相当柔軟性が高いけど、これだけ長時間触れてると流石に飽きも来る。璃奈のボードで視界が遮られて直に触っている様を見られないのも影響してるのかもしれない。やっぱり女の子の胸は直視しながら鷲掴みにするその瞬間が最高だな。
そんなことはさて置き、これで俺の両手までもが封じられてしまった。両腕も背中も脚も顔も女の子たちに占拠されてしまい、これじゃダッチワイフのようだ。もう人が入り乱れて周りが見えやしない。
そんな中、お腹が暖かい感触に包まれる。また誰か俺に群がってきやがったな……。
「頭がぐるんぐるんして目が回るから、今日は零さんのお腹を枕にして寝るよ~……ひっく」
「彼方か……。普通にそこのソファで寝た方がぐっすり寝られると思うぞ?」
「零さんの温もり以上に安心できるものはないよ~。一家に一台零さんだねぇ~」
「お、おい、そんなに押すと――――うわぁっ!?」
彼方が俺の胸に飛び込んできたその勢いに負け、俺は後ろに倒れ込んでしまう。そのおかげでしずくと愛の手も離れ、歩夢たちの拘束からも逃れる。それでも彼方は俺を抱き枕にすることをやめずガッチリとホールドしているのだが――――そうだ、俺ってさっき倒れたんだよな? なんかやたら身体への衝撃が少なかったような気がする。ていうか頭にクッションのようなものがあって、それに倒れた勢いを吸い取られたと言うか……。
「れ、零さん……」
「エマ……? あっ……!!」
俺の顔が倒れ込んだ先はクッションではなくエマの胸だった。いやもうクッションと言っていいほど柔らかかったのだが、俺の後頭部がちょうと彼女の胸の谷間に入り込むような形となっている。見た目で大きな胸だとは思っていたけど枕にできるようなこの弾力は、コイツこそ一家に一台必要だろう。
「零さん……」
「わ、悪い、すぐに離れるから!」
「私に甘えてきてくださって嬉しいです!! ぎゅ~ってしちゃいます♪」
「うっ、ぐっ……」
エマはなんと俺の頭を抱えて胸で包み込んだ。さっきまでの胸の感触がより鮮明になり、頭がより深く彼女の胸に埋没する。男の頭をここまで埋めることができるなんてどれだけボリュームがあるんだこのおっぱいは……。2つの双丘で俺の顔を挟み込むことができるくらいに谷間が深く、他の奴らとは圧倒的に違うボリュームがあるのがよく分かる。
それにこうして胸に顔を埋めて抱きしめられているとえげつないほどのバブみを感じる。みんなのママと言わている所以はそういうことだったのか。確かにこれは甘えたくなる気持ちも分かる。ただ今はコイツもみんなと同じく酒臭いので母性溢れるママとは到底思えないんだけどな……。
「零さんが嬉しそうにしてると彼方ちゃんも嬉しいよぉ~。彼方ちゃんもぎゅ~ってしてあげる~♪」
「おい足まで絡ませてくんなって!? 身動き取れなくなるだろ!?」
「ほらほら暴れちゃダメですよ~。もう夜も更けてきましたから、いい子はママたちのお布団とお枕でおねんねしましょうね~♪」
「誰が子供だ!? ぐっ、む、胸が……!!」
彼方もそれなりに胸が大きいため俺に抱き着くとその肉丘が存分に押し付けられる。そしてエマも本当のママになったかのように俺の頭を胸に埋める形で抱きしめる。前後から来るおっぱいの猛攻に俺はもがくが酔った勢いでパワーアップしているコイツらを引き剥がすことができない。それ以前におっぱいの魔力で力が抜ける。酒の匂いと酔っ払い軍団が充満する場所じゃなきゃ愉しめる状況なのに……!!
さっきまでは女の子たちに群がられ、今度はおっぱい地獄(天国?)に苛まれ一難去ってまた一難だ。次から次へと女の子たちが進軍してくるせいで身体が休まる暇も酔っ払い共を宥めることもできない。
どうしようかとあれこれ考えていると、俺たちの前で仁王立ちする1つの影が――――
「栞子……どうした?」
「皆さん、ここは学校です! こんな気の抜けたことではスクールアイドルの名が穢れますよ!!」
「は、初めてまともなことを言う奴が……。ってかそれを言うのならもっと早く言えよな……」
ここに来てようやく救世主現る。ぶっちゃけ手を差し伸べるのが遅すぎる気もするが、この女の子スパイラルから抜け出すためには誰かの力が必要だったから助かるよ。
そういや栞子の奴、酔ってないのかな? あのチョコレートは歩夢たちがキャラ崩壊するくらいに酒の量が多い。だから漏れなくここにいる全員を相手にする覚悟だったのだが、どうやらコイツが酒に強くて助かった。
「おい、とりあえず彼方とエマを引き剥がしてくれ。コイツら酔ってるせいか自分の世界に入っちゃって俺の声が届いてないみたいなんだ」
「…………」
「えぇっと、どうした?」
「生温いです……」
「は?」
「生温いです!! 意中の男性を射止めるためにはボディタッチではなく、心から本気にさせなければなりません!! ひっく……」
「って、お前酔ってんじゃねぇか!!」
コイツ、ここに来て裏切るのかよと思ったら最初からあっち側だったらしい。救世主かと思った栞子は他の奴らと同じくただの酔っ払いで、酔うとやたら声が大きくなってテンションが上がるこれまた面倒なタイプだ。普段がおとなしいせいかキャラ変わりのギャップが凄まじく、もう今のコイツを見て生徒会長だと思える人が果たして何人いるのやら……。
「恋愛は心です! まずは相手の心を奪うところから始まるのです!」
「そもそもお前、恋愛を語れるほど熟練者だっけ? まだ初心者も初心者だろ……」
「黙ってください!」
「あぁその威圧的な態度、出会った時のお前を思い出すよ……」
「あなたは私たちの心を奪った罪もあります! なので私も今からあなたの心を奪います! いいですね?」
「いや、それは――――」
「いいですね?」
「はいはい……」
なにが罪なのか、どうして俺の心を奪う展開になっているのか意味不明だが、酔っ払いの発言に対して理由を求めても仕方がない。救世主がいなくなったことで俺を助けてくれる奴は皆無なので、もう諦めて状況に流されるか。それにここまでヒートアップすれば勝手に疲れ果てて酔いも覚めるだろう。気付いたんだよ、酔っ払いは下手に相手をせず受け流すのが一番だと。そう考えると無駄な体力を使っちまってたな……。
「とりあえず、零さんも興奮状態になっていただく必要がありますね」
「どうしてそうなる……」
「というわけでせつ菜さん、お願いします」
「はいっ! 差し入れのチョコレートを私なりにアレンジしてみました! これを試食してみてください!」
「は? アレンジだと!? てかさっきお前の料理は全部食っただろ!?」
「実はお持ち帰りしていただく用に別でもう1品作ってあったのです!! まさかこんなところで役に立つとは思ってもいませんでしたが」
「俺ももう1回同じのを食わされるとは思ってもなかったよ!!」
まさかの同じネタで2段階オチされるとは想像もしてなかったんだが!? もうせつ菜に食い物を与えるのはやめろ!! いつどこで誰が地獄を見るか分からないぞ!!
せつ菜は笑顔で俺に改造チョコレートを差し出す。酒の匂いはキツイが、それ以上にこのチョコレートからは禍々しい邪気を感じる。さっき食べた時はせつ菜が殺戮兵器を作るなんて思ってもいなかったから何の抵抗もなく口にしたけど、今回は知っているからこそ覚悟がいる。栞子の作戦では俺がこれを食うことで酔い状態になると考えているようだがそれこそ生温い。こんなのを食ったら酔うどころか一発で戦闘不能だ。
「はぁ、はぁ……零さんが興奮して肉食系になられる姿、早く見たいです……。あのとき私に『遊び』を教えてくださった記憶が蘇ります……はぁ、はぁ……」
「それが目的かよ!? つうか妄想で興奮すんな!!」
「分かりますよ栞子さん! 零さんに組み伏せられてねっとりカッコいい言葉で誘惑されるシチュエーションは全世界の女性が夢見てますから!」
「そんな世界があったら今頃ハーレム王国を築いてるよ……」
「さあ、零さん。おとなしくせつ菜さんのチョコレートを召し上がってください。とは言っても、皆さんに抱き着かれているこの状況では抵抗することはできないと思いますが」
「えっ、え!?」
彼方とエマに抱き着かれているのは知っていたが、いつの間にか他のみんなも床に転がっている俺に密着していた。中には酔いが回り過ぎて今にも寝そうな奴もいて、もはや呼びかけてどうにかなるレベルではない。久々に実感した、万事休すって言葉を……。
「零さん、私たちと一緒に気持ちよくなりましょう! 大丈夫ですよ、怖くないですから♪ ひっく……」
「いや怖いのは酔いじゃなくてお前の料理だ……」
「私たちはいつも一緒です。だから零さんも私たちと同じ至福の世界へ……」
「それはお前らが酔っているだけで気持ちいいのは一時的な――――――むぐっ!? んっ……がぁっ!?」
喋っている最中にせつ菜にチョコを口に押し込められる。
その瞬間、俺は本日二度目の地獄を味わった。
酔っ払いの女の子たちに抱き着かれているせいで抵抗できず、ただただ気が遠くなるを待つばかりだった。
「今なら零さんとちゅーできるかも……」
「いやさせねぇよ!?」
どうやらおちおち気絶することもできないらしい。あまりに過酷すぎる……。
To Be Continued……
虹ヶ咲編の1話からここまでの話は全て1日の出来事なのですが、零君の体力と精神が保てるかそろそろ心配になってくる頃に……。ハーレム主人公としてはこれくらいで音を上げられても困るので、彼にはもうひと踏ん張りしてもらいます(笑)
今年の投稿はこの最新話をもって終了です。
アニメは終わってしまいましたが、この小説では独自で虹ヶ咲メンバー+高咲侑の活躍を描いていくので来年も引き続き読んでくださると嬉しいです!
そのうちアニメに登場した遥ちゃんや藤黄学園、東雲学院のキャラ、今界隈を騒がせているスクスタのキャラなども登場させられたらと思っています。
よろしければお気に入り、感想、高評価をよろしくお願いします!
今後の小説執筆の糧となります!