ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

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 今回はほのぼの日常回。
 侑と一緒にお化け退治にいざゆかん!


ゴーストバスター侑

「よぉ、ってあれ? 侑だけ?」

「こんにちは、お兄さん」

 

 

 今日も奴らの練習を見てやるために同好会の部室を訪れてみると、そこにいたのは侑だけだった。いつもは何を言っているのか聞き取れないくらい部屋中騒がしいから、こうも閑散としていると部屋を間違え方と思ってしまうくらいだ。それなりに広い部室ではあるのだが、誰もいないせいで今日は一段とだだっ広く感じるな。

 

 

「今日は練習が休みなんですよ。なのでみんな各々の用事でここには来ていないんです」

「はぁ? 今日は練習だって俺に連絡してきたのはお前だろ?」

「その件に関しては申し訳ないです。でもここまで来て何もせず帰るというのも勿体ないですし、ちょっと私に付き合ってくださいよ」

「待て、話が全然見えないんだが……」

 

 

 まるで俺を待ってましたかと言わんばかりの口振りだなコイツ。俺と会ったらあらかじめこの話を切り込むと決めていたような感じがする。まさかとは思うけど、嵌められた……??

 

 

「とりあえず行きましょう」 

「行くってどこに?」

「そりゃもちろん――――お化け退治ですよ」

「はぁ?」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「なるほど、虹ヶ咲で幽霊騒動ねぇ……。如何にも学校って感じの噂だな」

「そうです。だから私たちでその問題を解決してあげようと思いまして」

 

 

 校内を歩きながら侑に事のあらましを聞く。どうやら虹ヶ咲内で幽霊の噂がひっきりなしらしく、夕方の時間帯になると幽霊の怪しい声まで響き渡るという。それを正義に味方を気取っているコイツが解決しようって魂胆らしい。本来なら生徒会の仕事らしいのだが日々の業務で忙しいらしく、栞子から依頼を受け取って今に至るというわけだ。つうか先生や警備員に相談するというツッコミは野暮なのだろうか。それを言ったらおしまいだもんな、話のネタ的にも……。

 

 

「そもそもどうして俺までこんなお遊びに参加しなきゃいけねぇんだよ。俺は雑用係じゃねぇぞ?」

「今日は練習がなくなったので暇ですよね? だったら付き合ってくださいよ」

「お前、まさか1人じゃ怖いから俺を練習という名目で呼び出したって腹じゃねぇよな……? 元から幽霊調査に同行させる気だったんだろ?」

「そ、そそそんなわけありませんよ!! お兄さんがいたからって何が変わるって言うんですか!? 相変わらず自惚れ屋さんですねもうっ!!」

「じゃあ帰るわ」

「ゴメンなさいゴメンなさい1人だと怖いからついてきてくださいぃいいいいいいいいいいい!!」

 

 

 侑はUターンした俺の腰にしがみついて必死に引き留めようとする。最初から素直に自白していれば素直に同行してやったものの、変にツンデレを発揮するからこうなるんだよ。

 ていうか割と大胆にボディタッチしてきたからちょっと驚いた。いつもだったら身体に触れただけでも『破廉恥です!!』と怒ってくるのに。つまり今回はそんなことを言っていられないくらい俺のことを必要としているのだろう。

 

 

「分かったから離せ! 校内で男を抱きしめてるところを見られるなんて、破廉恥魔人のお前が一番嫌うことだろ??」

「なんですかそのあだ名!? まるで私がいつもエッチなことを考えてるみたいじゃないですか!?」

「破廉恥ってツッコミを入れられるってことは、目の前で起きている状況をエロいと判断できるってことだからな。そりゃそうだろ」

「う゛っ……!?」

 

 

 侑は顔を赤くして押し黙る。もう図星と言ってるようなものだぞ……。

 

 とにかく、このまま帰っても暇だから仕方なく付き合ってやるか。いつもとは違って俺の下手に出てるコイツの姿を見るのも楽しいしな。特に最近はコイツが抱く俺への評価がダダ下がりになっている気がするから、ここで恩を売って上げておくのも悪くないだろう。

 

 

「ッ!?」

「お兄さん? どうかしました?」

「いや、さっき視線を感じたような……」

「お兄さんってこの学校でも人気者ですから、誰かに見られるなんていつものことじゃないですか?」

「そうなんだけど、背筋が凍るような視線だったぞ今……」

「……? 別に怪しい人はいませんけど……」

 

 

 廊下ですれ違った子たちは何人かいるけど、特段怪しい雰囲気を持った奴はいない。さっき感じた全身を舐め回すような視線は一体なんだったんだ……?

 

 

「そろそろ行きましょう。幽霊が出るところに」

「えっ、幽霊の出没スポットとかあるのか?」

「はい。頼りにしてますよ、お兄さん♪」

「全部俺任せかよ……」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ここの噂は通称『幽霊の断末魔』と呼ばれています。どうやら夕方になると悲鳴や呻き声が廊下に響き渡るそうですよ」

「もう夕方も夕方だしな。部活も終わって学校には人がほとんど残っていない。確かにその中でそんな声が聞こえたら不気味ではあるか……」

 

 

 夕日が差し込む部室棟の廊下。もう校内に生徒はほとんど残っておらず、俺たちの影だけが廊下に伸びる。どうやらここが最初の幽霊スポットらしいのだが、ぶっちゃけ夜じゃなくて夕方に出るなんてかなり早漏な幽霊さんだ。どうせ静かで誰もないから、適当な物音や足音が不気味な声に聞こえたとかそんなオチだろう。学校の怪談なんてそんなものなんだよ。

 

 ていうか俺はそんなことよりももっと気になることが――――

 

 

「お前、どうして俺の背中に隠れる? 粋がって俺を連れ出した割には逃げ腰じゃねぇか」

「だ、だって怖いもは仕方ないじゃないですか! ほらお兄さん、早く調査開始です!」

「もう何も隠すことなく俺をコキ使うようになったな……」

「お兄さんは女の子の笑顔を見るのが夢なんですよね? これを解決しない限り虹ヶ咲の生徒に笑顔はないですよ!」

「俺の夢を盾にするなよ……」

 

 

 侑は早く進めと言わんばかりに俺の背中を押す。俺に対して信頼を寄せてくれているのか、それとも本当にコキ使っているだけなのかは不明だが、コイツもかなり図々しくなったもんだ。出会った頃の警戒されまくっていた時期と比べるとフレンドリーになっていると思い込んでおこう。

 

 物静かなためか聞こえる音は俺たちの足音のみだ。特に怪しいことも何もなく、むしろ朱色の夕日に程よく照らされた廊下は風情があり心を奪われるくらいだ。こんな状況で幽霊の存在なんて1ミリも感じず、侑も同じことを思ったのか俺の背中から徐々に離れ、いつの間にか隣を歩いていた。

 

 

「分かっていたけどまぁ、何もねぇよな」 

「所詮噂は噂だったってことですね。そりゃそうですけど」

「よく言うよ。ほんのさっきまで俺の服を摘まんでビビり散らかしていたくせに」

「そのためのお兄さんなんですから最大限に利用しますよ――――ひゃっ!? なんですかこの声!?」

「確かに、何か聞こえるな。こっちか?」

「ちょっ、置いて行かないでくださいよ!?」

 

 

 噂通り謎の悲鳴や呻き声のようなものが聞こえてきた。俺はその声がする方向に向かって廊下を駆け出し、侑もその後を追ってくる。

 声の主は1人ではなく何人かいる。中には断末魔に近いような悲劇的な声まで聞こえてくるから、怖いものに耐性のない奴だと卒倒レベルの怪現象だろう。現に侑は俺の後ろにベッタリとくっついたままついてくるので非常に走りにくい。どうしてこんなメンタルで幽霊調査を引き受けようと思ったんだ……?

 

 声はとある部屋から聞こえていた。部屋の明かりが僅かに漏れてるが、点いているのかと疑ってしまうくらいには暗い。

 俺はその部屋の前に到着し、ドアに手をかける。そして未だにビビっている侑の手首を掴み、俺の身体に隠れるように配置してやる。

 

 

「ったく、そこにいろよ」

「あ、ありがとうございます……」

 

 

 侑は俺の服をぎゅっと掴み、俺が部屋のドアを開けるのを固唾を呑んで見守る。

 一体この先には何があるのか。流石の俺もさっきの不気味な声を聞いたら真剣にならざるを得ない。

 

 ドアを一気に開け放つ。

 そこにいたのは数人の女の子たち。

 

 

 ん……?? あれ、なんか見たことあるような……。

 

 

「お前……璃奈?」

「璃奈ちゃん!?」

 

「零さん? それに侑さん……?」

 

 

 部屋にいた1人は璃奈だった。璃奈はゲーミングチェアに座りながらコントローラーを握り、大きいモニターの前に座っていた。見ただけで高性能と分かる立派なパソコンとモニターがたくさん配置され、まるでゲーム実況者の部屋かのような設備が揃っている。部屋が多少薄暗かったのもモニターに映し出されるゲーム映像をより際立たせるため、つまり部屋で映画を見る時の手法を使っていたかららしい。

 

 

「お前こんなところで何してんだ?」

「なにって、ゲーム部のお手伝いだけど」

「やっぱり部活だったのかここ。お前ここの部員なのか?」

「違う。同好会の練習が終わった後とか、お休みの日にゲーム部の練習に付き合ってるだけ。だいたいこうなっちゃうんだけど……」

「他のみんな白骨化してるけど大丈夫なの……? 口から魂抜けてる子もいるけど……」

 

 

 璃奈以外の女の子たちはみんな机に伏せていたり床に転がったりしていて、見ようによっては殺人現場かのような殺伐さがある。もはや魂すら抜け落ちているみたいで、白目をむいて今にも天に召されそうだった。一体なにがどうなってこんなジェノサイド空間になってんだよ……。

 

 

「ゲーム部の特訓をしてあげているんだけど、毎回私が圧勝しちゃうせいでみんなこうやって打ちのめされるの」

「あぁなるほど、璃奈ちゃんゲーム得意だもんねぇ……。それにしても他のみんなをここまで戦意喪失させちゃうなんて……」

「いつもこうなるから、毎回やる前はちょっとは手加減しようと思ってるの。でもゲームが始まるとつい熱が入っちゃって……」

「それでコイツらの叫び声と断末魔が廊下にまで響き渡っていたってわけか」

「あっ、もしかしてお兄さん! 幽霊の正体って……!!」

「あぁ、間違いなくコイツらだな」

 

 

 日の暮れた夕方にしか聞こえなかったのは、璃奈が同好会の練習終わりという割と遅い時間にしかここに来れなかったからだろう。そしてこの部活に来た際には毎回部員たちに奇声を上げさせてボコボコにすると。確かにこれだと事情を知らない奴が幽霊と勘違いしても無理ないわな……。

 

 

「幽霊って最近噂の?」

「そうそう。それを解決しようと思って私がここに来たんだよ」

「な~にが『私が』だよ。俺がいなかったらお前1人で何もできてねぇだろ」

「お兄さんを連れてきたことこそ私の功績です!」

「自慢するところそこかよ……」

 

 

 幽霊の気配がないと分かった瞬間に俺の横に立つよな侑の奴。ちょっとでも幽霊の影がちらつくと後ろに隠れてビクビクしてるのに、事実確認が済んだら途端にいつもの調子に戻る。知ってはいたけど意外と子供っぽいよなコイツ。まあ愛の寒いギャグで大笑いするから薄々感じてはいたことだけど。

 

 

「とりあえず1つ目の噂は解決ですね。次に行きましょう」

「ったく、都合のいい奴……」

「頑張って。私はみんなを起こして特訓を再開するから」

「結構鬼だなお前……。あまり断末魔を上げさせないようにしてくれよ。幽霊と勘違いされるからさ」

 

 

 そんなこんなで無事に1つ目の幽霊騒動は解決した。

 てか今知ったんだけど、噂って1つじゃねぇのかよ。どれだけ俺を引っ張るんだオイ……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「次はここ、『悲痛の幽霊』と呼ばれる場所です。どうやらこのあたりで幽霊の苦しむ声や嘆く声が響き渡るらしいんですけど……」

「また大層な噂だな……」

 

 

 俺たちは部室棟から離れ本館へとやって来た。またしても夕日に照らされた廊下が目の前に広がっているわけだが、本館なだけあってかここには部屋も多く道も広い。今は放課後からそれなりに時間が経っているので人はいないが、本館なので普段は生徒もたくさん通る場所だろう。そんな賑やかなところに幽霊なんているのか……?

 

 

「さっきはたまたま声が聞こえたおかげで問題を解決できたけど、別にいつも聞こえるわけじゃないんだろ? だったら解決しようにも解決できねぇと思うけど?」

「そこは大丈夫です。だってお兄さん、女の子に対してだけは巻き込まれ体質じゃないですか。女子高の幽霊ってことは女の子だと思いますし、向こうからやって来ますよきっと」

「幽霊なんかよりもずっと解決したい問題なんだけどな……。それに幽霊の方から来るってのはあながち間違いでもない」

「もしかして経験あったり? いやお兄さんでも流石にそれは……」

「あぁ~まぁ……うん」

「えっ!? ホントに……??」

 

 

 実際に浦の星女学院で教育実習をしていた頃に本物の幽霊に会っている。その幽霊はなんだかんだあって成仏したのだが、後に天国から俺の家に旅行感覚で戻ってきて再会したという過去もある。よく考えればソイツに連絡してこの学校に本当に幽霊がいるのか確かめてもらった方が早いような……。

 

 

「とにかく、適当に歩いてみて何もなかったら次へ行くぞ。俺だって暇だけど暇じゃ――――ん?」

「ひっ!? 聞こえてますよ何か!!」

 

 

 またしても廊下に響く声。噂通り唸ったり嘆いたり、どこか悲し気な声が聞こえてくる。妙にリアリティのある悲壮感増し増しの声は第一の現場の時とは別ベクトルで不気味だ。

 そして侑はまた俺の服を強く握りしめ密着する。

 

 

「こっちだ。行くぞ」

「は、はい……。あれ、でもそっちって……」

 

 

 恐る恐る歩を進めると、とある部屋の前に辿り着く。

 普通の部屋とは違い割と立派なドアで、部屋のネームプレートを見てみるとここがどこなのか一瞬で判明した。

 

 

「やっぱり生徒会室ですよここ。栞子ちゃんたちがいる場所です」

「でも声の発生源は間違いなくここだぞ。悲痛そうな声がずっと聞こえてる」

「もしかして生徒会の人たちが危険……とか?」

「だったら中にいる奴らに気付かれないようにちょっと覗いてみるか」

 

 

 部屋の状況を確認するためにもまずドアを少し開けて中の様子を見てみることにした。

 俺は音を立てないようにゆっくりと少しだけドアを開け、2人で中を覗き込む。

 

 すると、栞子を含む生徒会室いる人の声がはっきりと聞こえてきた。

 

 

「会長、下期の予算見通しですがこの部活とこの部活、かなり厳しくないですか……?」 

「えぇ。他の部活との兼ね合いを考えても下期はかなり厳しくなりそうです……」

「電卓を叩きすぎてもうボタン壊れそうですよ……」

「そういえば上期予算が未達の部活への対処はどうしましょうか……」

「とりあえず過達のところは報告書だけでいいとして、未達のところは下期の予算をどうするか検討をしていただかないと……」

「分かってはいましたが、半期の終わり頃は大変です……」

 

 

 あまりにも重い話に、俺はそっと生徒会の扉を閉めた。

 

 

「なんか、大変そうですね……」

「あぁ、お金関係は常にトップ層を悩ませるからな」

「つまり2つ目の噂は生徒会役員たちの悲痛の叫びだったってことですね。さっきの光景を見て納得です……」

「学園の未来を考えてくれているアイツらに注意することはできねぇし、幽霊問題は解決してないけどそのままにしておくか」

「はい。いつか栞子ちゃんを遊びに誘って気分転換させてあげようと思います……」

 

 

 今回の幽霊はまさかの生徒会役員たちの業務疲れであることが発覚した。見た感じメンタルがボロボロになってそうだけど、それこそトップ層の仕事だから今は何も言わずに静観しておこう。

 そんなわけで2つ目の噂はあっさりと解決(?)した。なんか後腐れが残りそうだけど、俺たちからは口出ししない方が良さそうだ。しかし疲れ切った社畜の怨念と言われたら、それはもう幽霊なのかもしれないな……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「最後はここです。通称『幽霊たちの円舞曲(ワルツ)』と呼ばれている場所ですね。幽霊たちが楽しく騒いでいる声が聞こえるそうです」

「なんだろう、さっきまでとは違ってノリが陽キャっぽいな……」

 

 

 生徒会室から離れ今度は教室棟へやって来た。しかし最後の最後にして全く怖くなさそうな噂が流れているようで、侑もそれほどビビッていないようだ。だがこれまでの部室棟や本館に比べれば放課後に生徒が頻繁に訪れる場所ではないため、逆にここで大盛り上がりしている幽霊となるとそれはそれで謎ではある。人がいないからこそ幽霊にとっては住みやすいとか、そういった感じだろうか? そもそもこれまで幽霊とか全く関係なかったわけだけど……。

 

 

「てかもう早速聞こえてね?」

「ほ、本当ですね……。なんかとても興奮していて楽しそうだから怖くはないですけど……」

 

 

 陽気に響き渡る声。そしてこれまでの噂が幽霊とは全く関係なかったことも相まって、俺たちの気分もかなりお気楽だ。侑は幽霊の声に怖気づくこともなく俺の後ろに隠れることもしなくなっている。

 もはや消化試合感もあるが、念のため警戒はしながら声の発生源を追跡する。すると、とある空き教室に到着した。窓には黒いカーテンが張られ中を確認することはできない。

 

 

「中にそこそこ人がいるみたいだな。さっきみたいにコソコソするのも面倒だからもう突入するぞ。一応俺の後ろに隠れとけ」

「は、はいっ。ありがとうございます」

 

 

 自分の身体で侑の姿を隠しつつ、楽し気な声が聞こえる幽霊スポットのドアを開けて足を踏み入れた。

 そこにいたのは予想通り幽霊ではなく女の子たち。その中の1人には見慣れた顔もいた。

 

 

「せつ菜!?」

「零さん!? 侑さんまで!? どうしてここに……??」

「どうしてはこっちのセリフだ。なんだよこれ本屋か何かか??」

 

 

 見たところ本のようなものを販売しているようだ。しかも本は本でも薄い本、いわゆる同人誌ってやつだ。空き教室かと思ったらプチ即売会の会場に足を踏み入れてしまったらしい。

 そして突然乱入したからか、周りの目が一気に俺たちに集まる。それだけではなく何やら黄色い声も聞こえ、今までとは違って現場に入っても状況が掴めない。陽気な声の正体は即売会を楽しんでいるコイツらだってことが分かったけど、そもそもどうしてこんなところで同人誌を……?

 

 

「実は漫画研究部が定期的に同人誌を販売していまして、この学校でもこうして教室を借りて即売会をしているのです。もちろん学校には認可されているのでご安心ください」

「なんか高校生とは思えねぇことやってんな……。それにしても盛り上がり過ぎてる気もするが」

「ここの漫画研究部の作品は学校内外どちらも評価が良くて、近々公式に書籍化されるものもあるのです」

「割と本格的なんだな――――ん? どうした侑?」

「えぇっと、この本の表紙のキャラ、どこかで見たような……?」

 

 

 侑は販売されているとある同人誌を手に取って俺に見せる。

 表紙には大学生くらいの男キャラと高校生くらいの女の子キャラが描かれている。しかもその女の子が男の上に覆い被さるという中々に大人向けのシーンだ。大人の男が年下の女の子に攻められるシチュエーションは良くあるので珍しくはないが、侑の言う通りこのキャラには見覚えがある。いや、どこかで見たことがあるとかそんな次元ではない、コイツらは――――

 

 

「俺と侑じゃねぇのかこれ!?」

「あっ、本当だ! ということは……私とお兄さんがエ、エッチなことを……!? こんな破廉恥な同人誌を学校で売っていいの!?」

「ち、違いますよ侑さん! 表紙はアレですけど健全な本ですから! 表紙のシチュエーションはただのイメージです、多分……」

「つうかどうして俺たちモチーフのキャラなんだよ……」

「この本の作家さん曰く、普段から仲の良い2人を見ていたら構想が思いついたんだそうです。特に侑さんが年上の零さんにも容赦なくツッコミを入れているところとか、年下の女の子キャラが年上の男性を尻に敷くといったシチュエーションにピッタリの配役だと。それで最近虹ヶ咲の間ではこっそり『侑×零』のカップリングが流行っているんです」

「オイちょっと待て、『侑×零』が流行ってるだと?? もしかしてそれ、『幽霊』の噂のことか……?」

「そういえば幽霊の噂が出始めたのも最近だし、も、もしかして……!!」

「あぁ~確かにそれはあるかもですね……。即売会は学校公認ですが、販売はこうしてひっそりとやっているので『侑×零』の言葉を勘違いした人が間違えて『幽霊』が流行っていると思って間違えたのかも……」

「おいおい……」

 

 

 その瞬間、俺も侑も一気に肩の力が抜けた。幽霊なんて全く関係なかったのもそうだが、勝手に作られた自分たちのカップリング名に踊らされていたという事実に情けなさを感じてしまう。音ノ木坂でも浦の星でも怪談話はあり、それなりに良いオチだったからこそこの落差がヒドい。こんなものに振り回されていたと思うと気も抜けるっつうの……。

 

 それにそういった幽霊の噂が間違って広まった結果、ゲーム部の断末魔や生徒会の呻き声が幽霊の声に聞こえたのだろう。あまりにも拍子抜けで『な~んだそんなことか』と笑い飛ばすこともできねぇよ……。

 

ちなみに最初に感じた視線は『侑×零』愛好家のものだったらしい。俺と侑が仲良く話しているのを見て興奮していたそうだ。

 

 

「お兄さん、その……騒ぎ立ててゴメンなさい」

「いやいいよ。これで変な噂が消えてくれたのならな」

「あとはその……守ってくれて嬉しかったです」

「あぁそのことか。別に俺がやりたくてやっただけだ」

「……!? そうですよね、お兄さんはそういう人ですもんね。そういうところですよ、お兄さん♪」

「どういうところだよ……」

 

 

 骨折り損のくたびれ儲けかと思ったが、侑の怯える姿や今のようなしおらしい様子が見られただけでも収穫としておこう。最近はコイツに嫌われるようなことばかりしていたけど、これである程度信頼を取り戻すこともできたしな。コイツの中で俺の評価が上がったのなら儲けものだ。

 

 

「侑さんと零さんの関係……イイですね! この本読みますか!?」

「読まねぇよ!! 何が悲しくて自分が出演してる同人誌を読まなきゃいけねぇんだ!?」

「ちょっと気になるかも……」

「え゛っ!?」

 

 

 聞くところによるとその後『侑×零』モチーフの同人誌の続編がいくつか創作されたようだ。

 本人の俺からしてみたらめちゃくちゃ複雑だし、その話題を挙げると侑が顔を赤くしてしまうのでコミュニケーションにも困る。

 

 

 ていうか侑の奴、同人誌の中身を知ってそうだからもしかしてリピーターになってねぇだろうな……??

 




 侑ちゃん全然ゴーストバスターしてない件。それでもいつもとは違う可愛い面もお見せできたので私は満足です(笑)


 面白いと思った方は是非とも感想・評価をください!
 今後の執筆活動の糧となります!


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