ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

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 今回は雪穂回です。前回に引き続き真面目回でもあります。雪穂の閉ざされた心と零君が遂に激突!!ちなみに今回は、いつもより文量が1.5倍の大ボリュームです!


 この話を読んでいる途中で、『あれ?これってR-17.9小説じゃなかったっけ?』と勘違いすること間違いなし!!(笑)


私、スクールアイドルをやめます

 

 同棲生活2日目。昨日は一日中練習漬けだったため、今日は逆に一日中休みの日となっている。明日からは学校が始まるし、立て続けの練習ほど効率の悪いものはない。

 

 こうして必死に練習するのはもちろん『ラブライブ!』の予選に向けてではあるが、今週末にはライブイベントに参加する予定が入っているのでその予行練習でもある。前回の『ラブライブ!』優勝者として、未だ人気が根強いμ's。ここ最近は月1以上のペースでライブイベントに参加している。それほど各地からのオファーも多いのだ。

 

 まだあのA-RISEには及ばないけど、μ'sもそれなりに知名度が上がってきたと思う。しかしそれは同時に、みんなへのプレッシャーにもなる。特に春から新メンバーとなった3人からしてみれば、穂乃果たち以上のプレッシャーを感じているのかもしれない。

 

 

「雪穂、俺と一緒に買い出しに行こうぜ」

「え?零君と一緒に……ですか?」

 

 

 俺の提案にキョトンとした顔で驚く雪穂。

 

 真姫と天体観測をした翌朝、俺は真姫以外の穂乃果たち8人を雪穂たちより早めに起こし、事の事情を伝えた。これは俺1人だけじゃなくてみんなに協力してもらおうという真姫の計らいだ。初めはみんな目を擦って眠たそうに話を聞いていたが、事態の重さが分かってくるとあのお寝坊常習犯の穂乃果までもがバッチリと目を覚ましていた。

 

 特に穂乃果と絵里は自分の妹が抱える問題でもある。そしてそれは俺も同じだ。兄妹だからこそ感じてしまう責任がある。

 

 

 話し合いの結果、全員がこぞって彼女たちに踏み込んでも雪穂たちのプレッシャーにしかならないので、俺と雪穂の2人だけで話し合える状況を作り出すことにした。亜里沙と楓には怪しまれないよう穂乃果たちが上手く取り繕ってくれるだろう。

 

 

「あぁ、たまにはお前と2人きりで話したいと思ってたんだ。ダメか……?」

「いえ、私も零君と一緒にお話するのは楽しいですから。行きましょう」

「雪穂……ありがとな。じゃあ早速準備しよう!!」

 

 

 かなり真正面からの提案だったが、とりあえず第一段階は難なく突破したな。一応断られた時の対処方も考えていたのだが、これは嬉しい誤算で助かったよ。

 

 でも本番はこれから。状況だけ見れば俺と雪穂の1対1だが、俺の心には穂乃果たち9人の想いを秘めている。特に穂乃果、安心してくれ。俺が絶対にお前の妹を、高坂雪穂を絶対に取り戻す!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「今から何を買い出しに行くんですか?買出しに行ったのって、結構最近じゃありません?」

「いや、スクールアイドル関連じゃなくてただの食材の買い出しだよ」

「だったら何で初めからそう言わないんです?」

「まぁいいじゃん!!アハハ……」

 

 

 雪穂はジト目で俺の顔を睨みつけてくる。真姫のようにツリ目ではないので目線に鋭さはないのだが、どことなくSの気迫が混じっているのは気のせいだろうか。

 

 ちなみに買い出しの内容を隠したのは、雪穂は俺と一緒で人混みが苦手らしいからだ。休日のショッピングモール、特に食品売り場には人がたくさんいるだろう。もしかしたらそれを理由に誘いを断られる可能性がある。備品の買い出しだったら意図的に人混みを避けて回ることができるけど、食品だとそうはいかない。

 

 

「人混みはあまり得意じゃないんですけど……」

「じゃあ今から帰るか?」

「ここまで来たならもういいですよ。最後まで付き合います」

「そりゃあどうも」

 

 

 イヤイヤながらも途中で諦めないのが高坂雪穂だ。これが勉強などを途中で投げ出してしまう穂乃果との違いだな。でもその決して"諦めない"というのは時に心に大きな負債を抱える。絶対に諦めないことを悪く言い換えれば、自分の意思を無視して無理矢理にでも突き通すということだ。それにストレスを感じない奴なんていない。

 

 

「お礼に、最後まで付き合ってくれたらアイスを買ってやろう!!」

「子供扱いしないでください!!そんな餌がなくても手伝いますから!!」

「悪い悪い♪」

「全く……」

 

 

 言葉では否定しているが、顔を見れば満更でもない表情をしているぞ。やっぱり楽しみにしてるじゃん。やっぱり顔に出るという部分は穂乃果そっくりだな。クールで冷静沈着に見えて、根は負けず嫌い。感情を表に出すことはしないが、表情には出てしまう。本当に面白い奴だよ。

 

 

「そう言えば、お前とこうして2人きりで話すのって初めてかもな」

「そうですね。いつもは亜里沙や楓、練習中はお姉ちゃんたちも一緒ですし」

「だからこれを機にお互いの腹の中を話し合おうじゃないか」

「それ、遠回しに口説いてます?」

「そうか?でももっと雪穂にお近づきになりたいのは事実だよ」

「な゛っ!?9股している人は結構ですから!!」

「頼むから大きな声でそんなこと言わないでくれ……」

 

 

 雪穂からしてみれば、俺は相当軽い人間に思われているのかもしれない。女の子をただ1人と決めずに全員を選んでしまった俺のことを、もしかしたら嫌悪しているのかも。雪穂に始めて9股宣言をした時、素直に祝福はしてくれなかったからな。ただ自分の姉が幸せになるならばそれでいいと、無理矢理自分の気持ちを押し殺していたようだった。

 

 

「でもそんな俺と一緒に出かけてくれるなんて意外だったよ。雪穂は俺のことが嫌いだと思っていたから」

「えっ?どうしてですか?」

「だって最近はよく殴ってくるじゃん」

「あれは零君が皆さんにセクハラするからですよ。それにいいストレス発散にもなりますし」

「俺はサンドバックかよ……」

 

 

 特に亜里沙に手を出そうとした時の雪穂の制裁は本当に痛い。『手を出した』じゃないからな、『手を出そうとした時』だからな、未遂でも殴られるんだよ。それに雪穂にストレスを溜めているのは楓だな?よくこの2ヶ月、アイツと一緒にいたと褒めてやりたい。

 

 

「ストレスの発散ぐらいなら、いくらでも付き合ってやるよ」

「え?殴られたいとか……もしかしてドMなんですか?」

「待て待て!!俺は殴られたいから変態を振りまいているんじゃないぞ!!」

「ビックリした、てっきりその気があるのかと思いましたよ」

「被害妄想も甚だしいなオイ……」

 

 

 たまに発揮されるコイツのドSっぷりは何なんだ。真姫と同じく人をサラッと罵倒できる能力がある。いくら変態の俺でも、2個下の後輩のM奴隷になるのだけはまっぴらゴメンだ。俺は支配されるより支配する側の人間だからな。

 

 

「でもよかったよ。俺って雪穂から見たら、あまりよく思われてないと思ってたから」

「そんなことを思っていたら、一緒に買い物になんて出かけませんよ」

「いや、付き合い上で仕方なくかと……」

「別に私は零君のことをそこまで嫌いじゃありません。むしろ……好き……な部類です」

「え?好き?」

「あくまで"部類"ですから!!それこそ変な妄想しないでください!!」

「そこまで怒らなくても……」

 

 

 そりゃあこんな可愛い子に"好き"と言われたら妄想せざるを得ない。いくら好きな"部類"の最下層に俺がいようとも、雪穂が俺のことを僅かながらも意識してくれているのなら、それだけで嬉しくなってくる。

 

 

 そして場も十分に和んできた。今俺は雪穂の心の扉の前に立っている。穂乃果たちがセッティングしてくれたこの状況、決して無駄にするわけにはいかない。行こう、聞くなら今だ。

 

 

 

 

「なぁ雪穂」

「今度は何ですか?」

 

 

 

 

「お前……今悩みがあるだろ」

 

 

 

 

「は、はい……?」

 

 

 

 

 雪穂がその場で立ち止まる。

 

 

 余計なことはすべて省いた、非常にストレートな言葉。雪穂のその驚いた表情は、俺の言葉がストレート過ぎてその意味が理解できなかったのか。それとも自分の心を見抜かれて焦っているのかのどちらかだろう。ちなみに俺は雪穂の心を見透かしてはいるがほぼ上っ面だけの状態。ここではぐらかされたら……その時はその時考えよう。

 

 

「何で……そう思うんですか?」

 

 

 予想していなかった返しが来る。ここで俺が嘘をつく必要もない、素直に話そう。自分の心を偽っていては相手の悩みなんてとてもじゃないけど解決できないからな。

 

 

「秋葉が言っていた。『お前の心には迷いがある』って」

 

 

「何ですかそれ?別にこれといってありませんよ」

 

 

 雪穂の表情がいつも通りに戻る。秋葉の言っていたことが本当かどうかは分からない。雪穂が嘘を付いているのかどうかも分からない。唯一分かったのは、雪穂の心の扉が今まで以上に固く閉ざされたしまったことだ。

 

 

 本当なら、ここで詮索をするのはやめた方がいいだろう。そのことには触れて欲しくない、そんなオーラが雪穂から伝わってくる。

 

 

 だけど――――――

 

 

「何かあるのなら俺に話してくれ。打ち明ければすっきりするかもしれないぞ」

 

「……」

 

 

 雪穂は黙ったまま俯いてしまう。俺が一番見たくない、苦しんだ顔をして……

 

 よく考えれば、『μ'sのみんなの悲しい顔を見ない』という俺の理念と、『無理矢理にでも相手の心に踏み込んで、その悩みを解決する』という俺の行動が矛盾している。μ'sに関わって間もない頃はこんなことを考えるどころか頭にさえ浮かんでこなかっただろう。これが穂乃果たちと恋人同士になった唯一の弊害かもしれない。良くも悪くも女の子の心に敏感になってしまった。

 

 

「今話してくれなくてもいい。でも心の整理がついたら、一緒に住んでいる間に一度俺に話して欲しい。お前だって、俺の大切な仲間だからさ」

 

 

 とりあえず今は雪穂の心の扉をノックするだけでいい。無理矢理扉をこじ開けて心に侵入するのはあくまでも最終手段、一番ベストなのは彼女から俺に直接話してくれることだ。

 

 

 今の状態ではこれ以上は無理か……もっと自然にこの会話へ持っていければよかったんだが、雪穂は意図的にその隙を作らないようにしているみたいだった。面倒くささで言えば絵里や希と一緒。でもその2人と同じならば、話し合いに漕ぎ着けた時点で悩みを解決できる可能性は高い。一番厄介なのは、穂乃果や凛など自身の感情が強くて正論が通らない奴だからな。

 

 

「――いてもらってもいいですか……?」

 

 

「え……?」

 

 

「私の悩み、聞いてもらってもいいですか……?」

 

 

「雪穂……」

 

 

 真っ先に感じたのは、雪穂の声が今にも泣きそうだったということだ。この数秒の間に彼女の心境がどのように変化したのかは分からない。だけど自分から扉を開けてくれた、それだけで十分だ。

 

 

「もちろん。じゃあ買い出しに行く前に、ちょっとそこの公園にでも寄ってくか」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ほい、オレンジジュース」

「ありがとうございます……」

 

 

 俺はベンチに座っている雪穂に飲み物を渡してその隣に座った。意外にも公園は静かで、いるのは砂場で遊んでいる親子1組だけだ。最近は子供たちの叫び声がうるさくて注意されたり、遊具が危険だからと公園で遊ぶ子供も少なくなっている。でもまさか休日にここまで人がいないとは思わなかったが。

 

 

「そう言えば、以前もここで雪穂から相談を受けたっけ。その時は亜里沙も一緒だったな」

「以前……?」

「半年以上前、穂乃果たちのことだよ」

「あっ、あぁ……」

 

 

 もう"あの惨劇"からそんなに時間が経ったのか。時が過ぎるのは早いな。あの時は雪穂と亜里沙からこの公園に呼び出され、穂乃果や絵里の様子がおかしいことについて真実を求められたんだ。その時の2人の顔は、寂しそうなんて言葉で言えるようなものじゃなかった。

 

 

「まあ昔話はいいとして、お前の好きなタイミングで話してくれて構わないぞ。それまで、ずっと側にいるから」

 

 

 相手に迷惑が掛かるとか、そんなことを考えちゃダメだ。俺が一歩引いてしまえば雪穂はまた心の扉を閉ざしてしまうかもしれない。言うなれば今は扉を半開きにして顔だけ外へ覗かせている状態だ。ここから優しく手を差し伸べて、外へ連れ出してやろう。

 

 

 雪穂は大きく深呼吸して、今まで頑なに動かさなかった口を遂に開けた。

 

 

「私は……劣等感を感じているんです」

「劣等感?誰に?」

「お姉ちゃんたちμ'sの先輩、そして亜里沙と楓にも……」

「μ's全員じゃねぇか……」

 

 

 "劣等感"という言葉だけを聞いて、俺は穂乃果たち9人のことを思い浮かべたのだが、まさか亜里沙と楓に対してまでコンプレックスを抱いているとは思わなかった。

 

 

「中学を卒業して、春休み中はずっと亜里沙と練習をしてきたんです」

「ああ、知ってる」

「あの頃に比べれば、たった数ヶ月でダンスも歌も格段に成長しました。海未ちゃんや絵里ちゃんの指導、零君の指摘、他の皆さんからも色々と教わって、自分でも上手くなったなと実感できるほどに……」

「じゃあなんで……?」

 

 

 俺もこの1年、ただぼぉ~っとμ'sの練習を眺めてきたわけじゃない。全体の動きを見て、誰にどうのような指摘をすればいいのか判断ができるようになっていた。その目で見れば、雪穂がこの数ヶ月で格段に成長したというのは間違っていない。

 

 

「それでも……誰にだって届いていないんです。お姉ちゃんたちはもちろん、亜里沙はセンス抜群だし、楓は完璧を自称することだけあって私よりも難なくレッスンをこなしています。置いていかれているんですよ、私だけが……」

 

 

 雪穂の言う通り、亜里沙は絵里の妹なだけあってダンスも歌もセンスは抜群。天才肌と言ってもいいだろう。そしてμ's加入前の楓は明らかに誰よりも劣っていたのだが、今や穂乃果たち9人と並ぶぐらいの実力を付けていた。でもどちらも練習を怠けていることなく、雪穂と同等に努力しているのは俺が一番良く知っている。

 

 そして、雪穂が引っかかっているのはその"同等に"の部分だ。同じ時間、同じ練習をしているのに、明確な差を感じているらしい。

 

 

「先月のアキバでのライブも大成功だったじゃないか」

「多分私以外はみんなそう思っているんじゃないですかね……」

「どういうことだ……?」

「あとであのライブの映像を見て……私だけ、笑ってなかったんですよ」

「なんだって……」

 

 

 それは気がつかなかった。『ライブが大成功した』と、そう思っていたから真面目に映像を見ていなかったという方が正しいか。俺自身も成功したと思い込んで、穂乃果たちもそう言っていたから、たった1人で悩んでいた雪穂のことに気がつかなかったんだ。それは俺も反省すべきだな。

 

 

 

 

「みんなが笑っている中、私だけがダンスや歌に必死な顔でした!!それを思い出すたびにみんなとの差を感じるんです!!たった数ヶ月で、1年間練習をしてきたお姉ちゃんたちに追いつけないことぐらい分かっています!!でも亜里沙も楓もお姉ちゃんたちに付いて行っている!!取り残されたのは私だけ!!だから私がいなかったら、あのライブは大成功だったんですよ!!」

 

 

 雪穂は涙を流し、真正面から俺の顔に向き合う。彼女がこれほどまでに感情を表に出したことがあっただろうか?少なくとも俺は見たことがない。

 

 雪穂が抱いている感情は人間なら誰しもが持ち得る感情だ。どれだけ体裁で取り繕うとも、心のどこかでは自分と他人を比較する。そこで僅かながらでも差異があれば、そこから劣等感が生まれてしまう。いくら平等を冠していたとしても、全く同じというのはほとんどありはしない。

 

 例えばテストで80点の生徒が2人いたとしても、間違えた問題まで一緒とは限らない。その生徒個人にとって重要なのは、点数ではなくて間違えた問題にある。同じ教科でもどの分野の問題で間違えたのかでその2人の能力は大きく異なってくるだろう。

 

 だが雪穂が言いたいことはそれ以上のこと。亜里沙や楓と比べ、どの分野を取っても自分は勝てない。ダンスや歌は点数では測れないが、点数で示さなくとも分かる明らかな差。それを雪穂は感じ取っているのだ。

 

 

「私、スクールアイドルをやめます」

「諦めるのか……?」

「……それがμ'sにとって一番だと思います」

 

 

 若干のためらいがあったが、雪穂はスクールアイドルをやめることをかなり前から決意していたのだろう。追いつけないから諦める、それは間違った選択肢ではない。だけど――――

 

 

「これは1年前から今まで、ずっと続いている話だ」

「……?」

「花陽や凛はダンスが苦手だ。にこやことりは身体は柔らかいが、声が独特すぎて歌が苦手だ。穂乃果は全体的に先走る。希も得意な分野があるわけではなく、海未は人前で踊ることにまだ緊張している。真姫に関してはまだ身体を動かすことにすら慣れていないし、絵里もバレエをしていただけで、スクールアイドルについては完璧超人じゃない」

 

 

 これは俺が1年間穂乃果たちを見続けてきて得た、今の彼女たちの現状だ。『ラブライブ!』を優勝したと言っても、個々の能力だけを見れば申し訳ないが俺や楓の方が遥かに高い自信がある。だが彼女たちの強みはそこじゃない。

 

 

「でも穂乃果たちは、誰よりもスクールアイドルを楽しんでいる」

「スクールアイドルを……楽しむ?」

「そう。確かにスキルの上達も重要だ。だけど闇雲に練習したとしてもスキルが向上するわけがない。だったらどうするか――――楽しむんだよ、精一杯」

「精一杯……楽しむ」

「これは頑張るとか、努力するとか、それ以前の問題だ。最近、お前はスクールアイドルの活動を楽しいと思っていたか?」

「い、いえ……」

 

 

 ただ自分の力を向上させようと、必死に、闇雲に……そこでストレスを抱えればそれこそ負の連鎖に陥る。だから始めは何も考えなくてもいい、ぱぁーっと楽しむ。だって初めから上手い奴なんていないんだからさ。

 

 

「でも、初めはすごく楽しかったです。憧れていたお姉ちゃんたちと一緒に踊れること、親友の亜里沙と一緒にスクールアイドルができること、新しくできた親友の楓とも一緒に歌えること。その時は自分の能力とか、そんなもの一切考えず、ただ楽しんでいただけでした」

「そうなんだ、それだけでいいんだよ。まずは楽しさを忘れないことが前提条件、そこから能力を伸ばしていけばいい」

 

 

 『まずは笑顔で楽しむ!!』俺が穂乃果たちにも言い続けてきた言葉だ。笑顔でいるには楽しまなくちゃいけない。ステージの上で必死な形相で踊って歌っているアイドルなんて誰が注目するかよ。重要なのは笑顔だ。そうすれば自分だけではなく、仲間も、観客も、みんな笑顔になる。

 

 

「でも、努力しても能力が伸びなかったら……?」

「いくら頑張っても、いくら努力しても、結果が実るとは限らない」

「だったら――――」

「だけど、努力しなかった奴は何も掴めない」

「!!!」

「努力した奴だけが何かを掴む権利がある」

 

 

 努力と結果が常にワンセットとは限らない。時には誰かに邪魔されることだってあるだろうし、自分自身の選択で未来を縛ることもある。だがそこで諦めればそれまでだ。一歩前へ踏み出した奴だけが、何かを掴める可能性がある。

 

 

「まあ何が言いたのかといえば、お前は気にし過ぎたってことだよ。お前が誰かより劣っているなんて誰も思っていない。そんなことよりも、お前がいなくなってしまうことの方が、みんな悲しむと思うぞ。スクールアイドル、そしてμ's。この楽しみを共有できる仲間が増えて、穂乃果たちはとっても嬉しそうだった」

 

 

 特に穂乃果は雪穂が一緒の学院、一緒の部活に入ってくれることにとても喜んでいた。それは自分の妹だからという感情もあるだろうけど、むしろ雪穂と一緒に歌って踊って楽しめるというのが一番の感情だと思う。

 

 

「よし!!神崎零先生の講義はこれまで!!」

「は、はぁ……」

「じゃあ雪穂!!スクールアイドルを続けるのか否か、今ここで決めろ」

 

 

 ここで『やめる』って言われたら……どうしようかねぇ?でも、そんな心配はいらなそうだ。彼女の表情はもう――――

 

 

 

 

「続けます!!また亜里沙や楓、お姉ちゃんたちと一緒に歌って踊りたい!!スクールアイドルを、みんなと一緒に楽しみたいです!!」

 

 

「そうか……なら俺も全力でサポートする!!また躓きそうになったら、俺が手を引いてやる!!穴に落ちそうになったら、俺が引き上げてやる!!大船に乗ったつもりで楽しめ!!」

 

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 

 あら?俺が今まで見たことがないくらい顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまったぞ。また俺無自覚に変なこと言っちゃったかな……?穂乃果たちから結構注意されてるんだよな、『天然タラシ野郎』って。

 

 

「よし!!じゃあ今日は赤飯だ!!花陽が怒るとか関係ねぇ!!今晩は赤飯にするぞ!!」

「せ、せせせせ赤飯って何でですか!?!?それこそ関係ないですよね!?意味分からないですよ」

「あっ、さっきの真姫風に言ってみろ」

「い、イヤですっ!!」

 

 

 そして俺たちは笑い合う。やっぱり雪穂は笑顔が一番似合ってるよ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

~翌朝~

 

 

「うぅ~ん、重いな――――って、え゛ぇえええええええええええ!?!?」

 

 

 昨晩、俺と一緒に寝床を共にしたのはことほのうみの幼馴染トリオなのだが、穂乃果とことりが俺を抱き枕にして眠っていた。しかも寝ている最中に暑くなってきたせいか、パジャマが思いっきりはだけていて2人の胸が丸見えだ!!揉みたい!!突っつきたい!!吸いたい!!朝の生理現象も活発になってきやがった!!

 

 

「海未は……まだ寝てるのか。アイツは無理矢理起こすと怖いからそっとしておこう……それにこの状況を海未に見られるわけにはいかねぇな。とりあえずコイツらを引き剥がさないと俺の命が……」

 

 

「お姉ちゃんたち、朝ごはんだよ……」

 

 

「な゛っ!?雪穂……」

 

 

 俺の寝室に入ってきたのは雪穂だった。初めはとてもいい顔をしていた雪穂だったが、この状況を見るなり俺のことを汚物を見るような目で見下す。久々に見たな、その目……

 

 

「なに……してるの?」

 

 

 言葉に覇気があるってものじゃない!!これは魔王だ!!逆らったら、朝ごはんの魚をさばいた包丁で俺も"裁かれる"。ここは誤魔化しても仕方がないか……

 

 

「こ、これはコイツらが勝手にやってきたことで、俺は別に何もしてないぞ!!」

「お姉ちゃんとことりちゃんを見て思ったことは?」

「おっぱいを揉んで突っついて吸いたいと思いました!!――――――ハッ!!しまった!!」

 

 

 雪穂はゆらゆらと俺のベッドに向かって歩いてくる。こ、これはもしや!!久々にいつものあのオチでは……?

 

 

「変態……クズ……9股野郎……痴漢……セクハラ魔……天然タラシ……エロ魔人……」

「おい、罵倒ボキャブラリーを全部開放するのはやめろ!!ま、待て雪穂!!話せば分かる!!」

「問答無用!!」

 

 

 

 そして俺の悲鳴が目覚ましとなり、みんなの目が覚めてしまったとさ。そのあと?そのあと俺がどうなったのかなんて言えるわけねぇだろ!!

 

 

 でもいつもの雪穂に戻って、俺は嬉しいよ!!

 

 

 

 

「嬉しいって……やっぱりドM!?」

「違うわ!!」

 

 




 ということで、無事に1人目のお悩み解決です!そして久々に零君のカッコいいところも見られたと思います!こういった真面目回でないと、イケメンな彼を登場させられないのがこの小説の難点ですね。

 この話を書いていて、『新日常』ってこんな小説だったっけと疑ってしまいました(笑)穂乃果とことりのお風呂回とか、凛の誘惑回とか、全然雰囲気が違っていて笑うしかない!

 やはり個人回は女の子目線の方が心情が伝わりやすくてよかったでしょうか?今回はまだ恋愛回ではないので、視点はすべて零君にしました。雪穂視点での話もちょっと書いてみたいと思ったり。

 どうでもいいですが最近久々にお寿司を食べに行ったので、その時に考えていた零君とμ'sメンバーが回転寿司に行く回を日常回として書こうと思っています。すごくどうでもいいですね(笑)

 コラボ小説はもう少し時間が掛かりそうかな?


Twitter始めてみた。今地味に回転寿司に行くμ'sメンバーを募集してたりします(笑)
 https://twitter.com/CamelliaDahlia










いらっしゃい雪穂ちゃん!!零君ハーレムへようこそ!!

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