偏見かもしれませんが、2年生組って1年や3年組と比べると公式でもまとまった話がない気がする……
「あっ、あぁ……ッ!?」
「えっ、どうしたの歩夢……? そんな干からびた声を出して……」
「侑ちゃん……。い、いやちょっと……」
「もしかして太った?」
「ふぇっ!? ど、どうしてそれを!?」
「いや最近ずっとお腹周りを気にしてたし、みんなが見てない間にこっそり部室の体重計に乗ってたことも知ってるし……」
「え゛ぇええっ!? 見てたの!?」
「あぁ~この前たまたまね、たまたま」
スクールアイドル同好会の部室で体重増加に項垂れる歩夢。最近はずっと雑誌やネットで新作スイーツの情報を穴が開くほど調べてたからまさかとは思ったけど、本当にそのまさかが訪れるとは……。隠れて食べても体重は嘘をつかないからすぐバレるのに。そういったちょっと抜けているところが歩夢の可愛いところなんだけどね。
「うぅ、侑ちゃんも甘いモノ好きなはずなのにどうして私だけ体重が……。私の方がスクールアイドルの練習でたくさん運動してるのに……」
「歩夢がそういう体質なんじゃないの? でも傍から見たら別に太ってるようには見えないけどなぁ」
「そうだけど、体重計で具体的な数字が見えちゃうと焦っちゃうんだよ……」
「まぁ分からくもないけどさ。それにちょっと太ったところでお兄さんは気にしないと思うけど?」
「れ、零さん!? 零さんの前だからこそ体型はしっかり維持しないと! 絶対に!!」
「おぉぅ、恋する乙女は大変だねぇ……」
さっきまで意気消沈していたのに、お兄さんの話題になった瞬間に意気込みを熱くした歩夢。私は異性を好きになったことがないから分からないけど、やっぱり恋愛対象ができると見えない部分の身だしなみにも気を付けるものなのかな。まあお兄さんって女の子の変化に鋭いから、それでより神経質になっちゃうのかもね。私もまぁ、お兄さんが学園に来るときは身なりに気を付けてないことはないけどさ。
「はぁ、私の周りの子ってみんなスタイルがいいから羨ましいなぁ~……。せつ菜ちゃんとか愛ちゃんとか同い年なのにこの差だもん……」
「歩夢もスタイルはいいと思うけどね。でも確かにあの2人は女子高生のスタイルのレベルを逸しているというか、私でも羨ましいって思うよ。せつ菜ちゃんは前からスクールアイドルをやってたから体型維持も欠かしていないだろうし、愛ちゃんはよく運動部の助っ人に行ってるし、朝ジョギングもしているって言ってたからそりゃいいカラダにもなるか」
「おっ、なになにスケベな話?」
「「う゛わぁぁあああああああああああっ!?!?」」
いきなり後ろから話しかけられて私たちは女の子らしからぬ低い声で叫んでしまう。
振り向いてみるとそこには愛ちゃんと、その後ろで不思議そうに私たちを見つめているせつ菜ちゃんがいた。話に夢中で全然気づかなかったし、本人たちがいないところでその人のカラダの話題を出していたことがバレてちょっと申し訳なさが……。
「さっき『いいカラダ』って言ってたよね? 2人共堂々とそんな話をするなんて意外とむっつりさん?」
「ち、違うから!! 歩夢が太ったって言うから同い年の2人と比べてただけだよ!!」
「ちょっと今サラッとバラしちゃったよね!?」
「太った? 歩夢さんが……?」
「は、はい、不覚にも……」
「歩夢のことだから、スイーツの誘惑に負けてこっそり食べてたんじゃないの~? 最近一緒に帰っている時にスイーツのショーウィンドウをよく目で追ってたもんね!」
「うっ、愛ちゃんにもバレてる……」
歩夢は思っていることが顔や行動に出やすいからすぐバレるんだって。スイーツ店の前を通るたびにそのショーケースの中身を指を咥えて眺めている姿が容易に想像できる。そこから私たちにバレないように誘惑に負けてこっそり食べているところを想像すると……うん、可愛い。
「そんな感じで歩夢が唸ってるわけ。ま、いつものことだから心配しなくてもいいよ」
「侑ちゃん!? 確かに体重はいつも悩んでるけど……」
「それでしたらいいモノがありますよ」
「えっ?」
せつ菜ちゃんはカバンからタブレット端末を取り出してテーブルの上に置く。そこには『健康促進管理』と書かれたアプリが立ちあげられていた。私たちはテーブルの周りを取り囲むようにしてそのタブレットを覗き込んだ。
「ん? せっつーこれって最近流行ってるアプリじゃない? よくネットニュースでも見るから」
「はい。実は私も体型維持に悩んでいまして、それを知った秋葉さんからこのアプリを勧められたんですよ。毎日食べたものを記録して、カロリー計算や必要な運動量まで測定してくれる優れもので、どうやら秋葉さんが作成したモノらしいです。私もまだ使ったことがないので、これを機会に是非どうですか?」
「う゛っ、秋葉さんか。前にイヤな思い出が……」
「大丈夫ですよ。このアプリは一般にも使われているみたいですし」
「せっかくだからここにいるみんなで登録してみようよ! 歩夢もダイエット仲間がいた方がいいでしょ?」
「う、うんっ。みんなみたいな理想体型になれるように頑張るよ!」
「それでは皆さんの名前を入れてアプリを開始しますね」
せつ菜ちゃんはアプリに私たち4人の名前を打ち込みんで登録する。すると画面に『まずは簡単な方法で健康になってみましょう』と表示された。そんな簡単に健康になれる方法があるのかとこの時点で少し雲行きが怪しくなる。
でも、それ以降画面に変化はなかった。何か変わったとすれば急に寒くなったくらいだ。特に下半身。パンツが消えて外気が直接下半身に触れているかのようなスースーする感覚。最近は秋口になって涼しくなってきており、スカートで過ごすのが億劫になってくる時期。それ故に寒くなってきているのかも――――って、違う!! これって!?
「ちょっ、なんでパンツなくなってるの!?」
「えぇっ!? って、私も消えてます……」
「愛さんもなんかスースーすると思ったらまさかホントに……??」
「うぅ、もしかしてこのアプリのせいなのかなぁ……?」
「やっぱり秋葉さんの作ったものに下手に触れるんじゃなかったね……」
私たち4人からパンツだけが消失してしまう異常事態が発生した。どういう原理で消えたのかはもはや秋葉さんだからという理不尽な理由で納得せざるを得ないジレンマ。
そんなパニックになっている私たちを他所に、アプリは次の画面に遷移した。
『まずは簡単な健康法であるノーパン生活から実践してみましょう。ちなみに今着ている服を着替えることはできませんし、そもそも許しません。パンツを隠すためにズボンを履こうとするなんて言語道断ですから♪』
「えっ、着替えちゃダメってどういうこと……?」
「よく分かりませんけど、部室のロッカーにジャージ入ってますよね? いったんそれに着替えちゃいませんか? そ、その下半身があまりにもスースーして落ち着かないので……」
「そうだね。それにもうすぐ零さんが来ちゃうし……」
「そっか、今日は別室の片付けで零さん呼んでたんだっけ? 零さんラッキースケベの能力があるから、ノーパンの愛さんたちももしかして……」
「う゛っ!? 着替えよう! 今すぐに!!」
今日は私たち2年生組で部室とは別のライブの小道具が置いてある部屋の片付け&別室への引っ越しをすることになっていた。流石に物が多いので男手が必要とのことでお兄さんを誘ったんだけど、こっちから誘った身としては『やっぱりなしで』とは言い辛い。しかも集合時間も迫ってるし、なんならお兄さんは今日このために学園に来てくれるから尚更『今から帰ってくれ』とは言えない。ここは無理をしてでも片付け作業を決行するしかないか……。
ちなみに私たち以外のメンバーはみんな用事で既に学園にはおらず、片付けを先延ばしにしようにも今日中に元の部屋を開けろという学園から緊急のお達しがあったため逃げ場は封じられていた。
だけどこのスカートでノーパンの状態だけは何とか回避したい。お兄さんはすぐエッチなハプニングを誘発するからいつスカートを捲られてもおかしくない。それだけは絶対に避けないと……。
アプリに表示されていた『今着ている服を着替えることはできません』が気になるけど、早くしないとお兄さんが来てしまうので急いで着替えることにした。
したんだけど……。
「おもっ!? なにこのジャージ全然持ち上げられないんだけど!?」
「鉛のように重たいですね……。まさか着替えられないってこういうことですか!?」
「見た目は普通の服と変わらず軽そうなのに、手に持った瞬間にカチカチになって持ち上げられなくなっちゃうね……」
「そういうことか。もう秋葉さんめ……」
着替えることができないってこういうことだったのか。しっかり退路を断っているあたり秋葉さんらしいと言うか……。
私たちの手に取る服は全て凍っているかのようにガチガチになっていて、とてもじゃないけど着替えることができない。手を離せば風圧でひらひらしているので、完全に秋葉さんの影響で私たちの身体に何か仕込まれているみたいだ。もはや原理なんて分からないけど、あの人の考えてることを知ろうとするだけ無駄だ。って、この前お兄さんが言っていた。こりゃお兄さんが秋葉さんに呆れる気持ちが分かるよ……。
「どうしますか? スカートのままで片付けをすることになっちゃいますけど……」
「さっきからずっと落ち着かないよ……。それに片付けの最中にちょっとでも大きく動いてスカートが捲れでもしたら……」
「あははっ、零さんにぜ~んぶ丸見えになっちゃうね♪」
「笑いことじゃないよ! どうして愛ちゃんは平気なの……?」
「う~ん、まぁもう見られちゃってると言うか……うん、そんな感じ?」
「えっ、見られてるってどういう……」
「どういうって、そのまんまの意味だよ、そのまんま。ね、せっつー!」
「ふぇっ!? どうして私に振るのですか!?」
お兄さんってみんなとデートをしたりしているみたいだけど、愛ちゃんやせつ菜ちゃんの反応を見る限りやっぱりエッチなこともしているのかな……。いや別に他人の私がとやかく言うつもりはないけど、身近な友達がそういったことをしていると知るとなんだかその子がもっと女の子っぽく見えてくると言うか、大人の魅力を感じてしまう。2人のスタイルがよくアダルティに思えるのもそういった理由があるからかもしれない。
それにしても今日はずっとこのままかぁ……。百歩譲って家の中でノーパンにされるのならまだいいけど、野外でノーパンは流石に羞恥心が爆発してしまいそうだ。しかもこの後お兄さんに会うことになるし……。もしかしてお兄さんが来る日を見越してノーパンにさせられたとか……?
「こういった状況だから気にになるのでしょうけど、やっぱりこの学園ってスカートの丈が短いですね……」
「確かに短めではあるよね。まさかノーパンにさせられることで違和感に気付くことになるなんて……」
「スカートが短いせいでちょっと屈んだら色々見えちゃいそうだよね。ほらっ!」
「ちょっと愛ちゃん!?」
「歩夢ナイスブロック! ていうか普通に全部見えそうだったんだけど何してんの!?」
「あ~どのくらいまでなら見えないかなぁ~と思ったけど、こりゃ相当危険なことになってるねぇ愛さんたち」
突然足を着いたまま身体をくの字に曲げた愛ちゃん。思わずスカートの中身が丸見え、つまり全てが曝け出されるところだったけど、咄嗟に歩夢が全身でカバーしたことで私の目にそれが映ることはなかった。それでも超ドキドキしたけどさ……。
愛ちゃんの言う通り、ウチの学園のスカートは短いせいで動き回ったりすると丈がひらひらとして太ももがかなり見えてしまう。ただ掃除をするくらいならいいんだけど、大なり小なり大きさのあるライブ用品を持ち運んだりするとそれだけで大きく動くため、スカートの中が見えてしまうリスクは大きい。ギリギリ全部は見えないとしても下着を履いていないことは丸わかりになってしまうため、お兄さんがいつもの変態を発揮してイタズラされる可能性も……。
ていうか、この学園のスカートが短いのも全部秋葉さんのせいなのでは……? この学園って秋葉さんがお兄さんに見合う女の子だけを入学させて楽園を作るために創設されたから……。ん、待てよ? そうなるとスカートが短いのもお兄さんの趣味ってことだよね? つまり私たちは秋葉さんの悪ふざけと零さんの変態趣味のせいで今不幸のどん底にいるってこと? もう神崎姉弟といるとトラブルが絶えないよ全く……。
「これはもう諦めてこのまま作業するしかなさそうですね。なんだか既に下半身がムズムズしますけど……」
「愛さんちょっとクセになっちゃうかも。慣れてくれば解放的で、それに見られるかもってスリルがあってドキドキするじゃん?」
「私は恥ずかし過ぎてもう……。零さんに見られちゃうと思うと動けないよぉ……」
「逆にそれで零さんを誘惑したらいいんじゃない? 歩夢に足りないのは押しだから、自分からイケイケで誘惑すればギャップ萌えってやつで零さんも興奮するっしょ!」
「いやいやいやいやいやいや! 無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理!!」
「おぉそこまで否定されるとは、なんかゴメン……」
「いや私だって恥ずかしいですよそれは……」
「でもせっつーだって零さんに裸を見せたことあるでしょ?」
「それは不可抗力です!! し、然るべき場所と雰囲気さえあれば別にいいですけど……」
タイミングさえあればそれでいいんだ……。
なんにせよ私は絶対に見られたくないから細心の注意を払わないと。でも怖いのはお兄さんの主人公補正であるラッキースケベ能力と、愛ちゃんが悪ノリでスカート捲りをしてこないかだ。しかもそれが高確率で起こりそうだから心配なんだよ……。
そうやってビクビクしていると、携帯に通知が入る音が聞こえた。
相手は案の定お兄さん。学園に来たから早く合流しろと、相変わらずの命令口調での連絡だった。
「お兄さんから連絡が来ちゃった。もう腹を括るしかないか……」
私たちは緊張の中、遂にお兄さんと相見えることになった。
果たして私たちは無事に大切なところをお兄さんの瞳に映すことなく引っ越し作業を切り抜けられるのか。それとも――――――
To Be Continued……
本来は1話に収める予定でしたが零君の登場までに文字数を使い過ぎてしまったので、今回は珍しく前後編です。
次回、侑たちが零君にノーパンであることをバレずに場を切り抜けられるのか乞うご期待です!(笑)
小説が面白いと思った方、是非ご感想や評価をよろしくお願いします!