毎日が超忙しくてこれからもしばらくそんな日常が続きそうですが、来週からは毎週投稿できるように頑張ります!
というわけで今回は可可メイン回です。
「先生! 往生際が悪いデスよ! そろそろ観念するデス!」
「………」
「可可もここまで執拗に付き纏いたくないのデスよ? でも先生が頑固だから、わざわざこうして可可が来てあげているのデス!」
「おい……」
「早く折れてくれれば楽になれマス。どうデスか? 顧問になってくれる気になりマシタか??」
「いや昼休みにまで押しかけてくんな!!」
昼休みとは社会人にとってひと時のオアシス。午前中に摩耗した精神と体力を回復し、午後のために英気を養う大切な時間だ。逆に満足に休憩ができないと午後の戦いを戦い抜くことはできないし、もし戦い抜いたとしても終業後には満身創痍となっているだろう。社会人にとってはそれくらい昼休みの時間は重要なんだ。
それなのに可可は昼休みになるとほぼ毎日俺のところにやってくる。ライブ直前でかのんたちと昼の打ち合わせがある場合は流石にそちらを優先しているようだが、それ以外の時は決まって俺の隣に来て飯を食う。しかもコイツの言動から『俺のせいで自分がまた来てしまっている』と、何故か被害者ヅラしてくる始末。こちらが何度あしらっても諦めずに俺のところへ通い続けるその図太い精神は凄まじい。最初は鬱陶しかったけど、今となってはその精神に感服するくらいだよ……。
そもそもどうして可可が俺に付き纏っているのか。それはスクールアイドル部の顧問になって欲しいということに他ならない。コイツがかのんと2人でスクールアイドルを始めた今年の春から『Liella』が結成されたこの秋まで、俺は何かとコイツらに世話を焼いてしまった。俺の今年の目標は静かに生きる(去年は虹ヶ咲の奴ら相手に相当ハッスルしてしまったため)だったのだが、やはりスクールアイドルの女の子を放ってはおけないのが俺の性らしい。気付けばいつの間にか首を突っ込んでおり、そのせいでかのんたちから一定の信頼を得てしまった、というのがここまでの経緯だ。
そんなことがあったためか、可可からはスクールアイドル部の顧問になれと今のようにしつこく依頼してくる。それはもう顔を合わせるたびに毎回。自分の夢のためであれば何があっても諦めない闘志があることは知っていたが、それがまさかここまで燃え上がってるとは思わなかったぞ。かのんもコイツにスクールアイドルに誘われた時はこの根気に負けたんだな……。
「ていうかどうして俺なんだよ? 顧問になってくれそうな先生くらい腐るほどいるだろ。それに今となっちゃ外部に依頼すればスクールアイドルのコーチなんて簡単に見つかる。断られると分かっている俺に時間を使うよりも、とっとと別のコーチを付けて練習に時間を割いた方が効率的だと思うぞ?」
「この世の中は効率ではなく自分の想い、つまりハートが大切なんデスよ! それに日本のアニメや漫画でも、気持ちの強さで修羅場を切り抜ける熱い展開が多いデス ! 可可はそれに感化されマシた! 能力なんかよりも自分がビビッと来た方々に自分の夢を預けたいのデス!!」
「俗に言う根性論って奴か。
「そうデス! 効率だとか能力だとかそういう問題ではなく、可可が信頼できる方々と1つの夢を目指す! くぅ~っ!! これこそ可可が待ち望んでいたスクールアイドル活動! かのんたちもいて、先生もいて、可可この学校に来て良かったデス!!」
「熱くなるのはいいけど、俺を勝手に含めるなよな……」
俺の隣で勝手に燃え上がっている可可。俺は平穏な昼休みを過ごして午後のために英気を養いたいのに、コイツがいるといつも騒がしくなる。賑やかな女の子は好きだけど、ほぼ毎日こんな感じだからそのテンションについていけなくなっていた。もしかしたら俺自身が歳を取ったせいで若い子のノリに合わせづらくなったとか……? まだ20代前半なのにもう歳の差を感じているのか俺……。
「逆に聞きマスが、先生はどうして顧問になってくれないのデスか? あそこまで可可たちの面倒を見ておいて顧問にはなりたくないって、やっていることと言っていることが矛盾してる気がしマス」
「教師として生徒の活動を手伝うのは当たり前だろ。だけど顧問になるほどこっちだって暇じゃねぇってことだ」
「むぅ、だったらどうすれば顧問になってくれるのデスか?」
「どうしようもないな、諦めろ。ま、困ったことがあったら助けてやっから心配すんな」
「助けてくれるのなら最初から顧問でいいじゃないデスか……」
可可は頬を膨らませてぷりぷり怒りながら弁当を食べる。コイツの言うことは最もだが、俺は俺のやりたいようにできる環境が好きなんだよ。正式な顧問になると部活の責任者として学校に活動の報告をしたり外部とライブの調整をしたりしないといけないから、そんな面倒なことはしたくない。これまで俺が指導してきたAqoursもSaint Snowも虹ヶ咲も、みんな俺のやりたいようにやらせてもらったからその環境に慣れてしまったのだろう。堅苦しいのは好きじゃない。この考え方自体が社会人に向いてないのかもしれないけどな……。
「俺が根負けするのを粘ってるのならやめておけ。俺はお前のようなひよっこが靡かせられるほど安い男じゃない」
「ひよっことか言いながら、可可たちを何度も何度も魅力的だって言って褒めてくれたじゃないデスか!」
「まあ魅力はあると思うよ。勧誘の仕方は鬱陶しいけど、お前と飯を食えるのは楽しいと思ってるぞ。そりゃ女の子と飯の席を一緒にできて嬉しくない男はいねぇと思うけど」
「だったらなおさらスクールアイドル部の顧問になるべきデス! 可可よりも魅力的なかのんたちがいるんデスから!」
それは確かにそうだ。やはりスクールアイドルをやる奴ってのは容姿が優れており、Liellaもその例に漏れていない。共学の学校であれば間違いなく男子からの人気ランキング上位に食い込むような奴らばかりだ。普通の男であればそんな子たちの部活の顧問なんてハーレムだから喜んで引き受けるだろうが、俺からしたら女の子だらけの環境なんて珍しいことではない。だからそれをエサにされても俺は靡かないってことだ。こちとらもう何年も前から美女美少女に囲まれた生活をしているからな。
その後も可可の勧誘を軽くあしらいつつ、妹の楓が作ってくれた愛妻弁当を食べ進める。今日は天気がいいので外で食っており、そのためか既に飯を食い終わったであろう生徒たちの往来が激しい。そうなればもちろん俺と可可が1つのベンチに並んで座って食事をしている風景をみんなに見られることになる。ただの男女カップルであれば誰も気に留めないだろうが、俺とコイツは教師と生徒の関係。思春期女子が故にあらぬ考えを持つ輩も多くて――――
「ねぇねぇ、可可ちゃんって先生と付き合ってるの?」
「えっ!? ど、どうしてそんな話に!?」
「だって可可ちゃん、先生と一緒にいること多いじゃん!」
「そうそう! 今日こそは先生を説得してみせるんだって、いつも意気込んでるから気になっちゃって!」
「ち、違いマス!! それもこれも先生の往生際が悪いせいで……!!」
「はいはいご馳走様! じゃあ私たち委員会があるからもう行くね」
「2人きりの時間を邪魔するのも悪いしね。じゃあまた後で!」
「ちょっ、ちょっと待ってくだサイ!! うっ、行っちゃいマシた……」
可可の友達なんだろうが、言いたいことだけ言って立ち去りやがったな……。
そしてやはりと言うべきか、何か勘違いされているようだ。そりゃアイツらの言う通り、俺のもとに足繁く通ってるんだから俺に気があると思われてもおかしくはない。本人は否定しようとしていたみたいだが、動揺のあまり弁解すらできずに友達に逃げられてしまった。どうやら周りからは公認カップルか何かと思われているみたいだ。まあ男性教師と女子生徒がほぼ毎日一緒に飯を食うなんて、勘違いしてくれと言ってるようなもんだしな。
「先生! さっき言ってたことは全部デマ! 信じてはいけまセン!!」
「さっきのって、お前が意中の相手に対して素直になれず、顧問になれと説得しに行くのを口実に昼飯を一緒に食うってやつか?」
「事細かに説明しなくてもいいデス!! ていうか話に変な着色するなデス!!」
「アイツらの話を要約するとそんな感じだろ?」
「うぐっ……」
あれ? 意外とダメージ受けてる? あらゆる手段を使って全力で否定してくると思ったのに、予想に反して顔を赤くしてしおらしくなっている。まさかアイツらの言っていたことは本当で、マジで俺に会いに来るために……?? もしそうだとしたら不器用なんてものじゃないが、言いたいことをダイレクトに伝えるのがコイツの性格なので意外な一面ではある。日常生活では気が強いのに、恋愛沙汰になると途端にウブっ子になるギャップ萌え系のパターンか……。
「せ、先生は可可のこと、迷惑だとか鬱陶しいとか思ってマスか……?」
「あん?」
「だ、だって友達から見ても可可が押しかけているようにしか見えないようデスし……」
これまた意外だ。他人の迷惑なんてお構いなしで自分の情熱を刻み込む猪突猛進タイプだと思っていたのに、心の内ではしっかり俺のことを考えていたんだな。突っ走る性格に見えて仲間への情が熱い奴だってことは知っていたが、どうやらそういった繊細な部分が今まさに発揮されているらしい。さっきまでは何が何でも俺をスクールアイドル部の顧問にさせようと必死だったのに……。
それにしてもコイツ、こんな恋する女の子っぽい顔もできたんだな。普段の見た目ももちろん可愛いけど、いつも元気ハツラツな女の子のしおらしい反応は俺の好みに合う。俺が単純に女の子の恥じらう姿が大好きなドSなだけかもしれないけど……。
「そりゃさ、毎回毎回昼休みに突撃されて迷惑と思わない奴はいないだろ」
「そうなりマスよね……」
「だけどイヤではないぞ? 女の子と一緒に飯を食えるってだけでも男としては嬉しいことだし、増してお前みたいな可愛い奴と一緒に居られるなんてむしろ歓迎だ」
「ふぇっ、ふぃっ、えぇっ!?!?」
「なんだその意味不明な泣き声は……」
「だ、だって急に可可のこと可愛いとか何とか……!! 先生ってそんなキザなことを言うような人じゃなかったデスよね!? 今までの生涯で一度も女性付き合いどころか女友達もいなかった寂しい男性と聞いてマシたから!!」
「あぁ、そういうことね……」
そういえばこの学校ではそういったキャラで通していることを忘れてた。字面だけ見ると超失礼な噂であり、流石の俺も自分からそんな話を誰かにした覚えはない。ただ生徒たちに『今まで女の子と付き合ったことはない』と言っただけなのだが、やはりそこは恋愛話大好きな思春期女子、噂はあらぬ形で大きくなる。その結果が寂しい男扱いだ、悲しくなるな。だからなのか普段からも女の子たちに同情の意味を込めて話しかけられることが多い。まあこの学校では真面目に先生をやっているから、性格も顔もいい男が新品だったら思春期女子たちが黙っちゃいないわな……。
もちろん好きで自分の素性を隠しているわけではない。たくさんの女の子と付き合っていると生徒たちに知られれば当然そのことを追及されるし、そもそも教師という公的な立場として隠しておくのが普通だ。それに過去に何度もスクールアイドルの手伝いをしていたことがバレるとコイツの勧誘が更に激しくなるから、そりゃ本来の自分を裏の顔にしておくのが最善ってものだろう。
俺の話はさて置き、問題はさっきよりも頬を染めてあたふたしている可可だ。いつもの癖で流れるように女の子に対して『可愛い』発言をしてしまったが、本人に与えたダメージは想像以上に大きい。コイツが男慣れしていないってのもあるだろうが、それなりに気にしている男から急に容姿を褒められたら誰でもこうなるか。そういえばかのんも俺が褒めるとすぐ顔を赤くしていた気がする。やっぱ初物の女の子の反応は見ていて面白いよ。こういうところが女垂らしだって侑に怒られるんだろうな……。
「女性付き合いがあろうがなかろうが、教師として生徒を褒めるのは当然のことだろ」
「普通の教師であれば女生徒のことを可愛いとか言いまセン!! 最近はそういうのに敏感な世の中デスから、すぐにセクハラで通報されマスよ!!」
「でもお前はしないだろ?」
「えっ、そ、それはそうデスけど……」
「お前は俺のことを信用してくれてるからな。それに俺も自分が見込んだ女の子にしか可愛いとか言わねぇよ。だからお前自身のことを鬱陶しいとか迷惑だとか思ったことはない。むしろお前みたいな可愛い元気な子が会いに来てくれるのは嬉しいぞ? ま、会うたびにセールスのような勧誘をしてくることだけはちょっとウザいって思うけど、その情熱もお前の良いところだから受け入れてるよ」
「先生が可可のことをそこまで……。てっきり嫌われてるかと思ってマシた……」
「んなわけねぇだろ。これでもスクールアイドルの活動で半年も面倒を見てきたしな」
社会人になってからは穏便にのんびり日常を過ごしたいと思っていたのに、スクールアイドルに魂をかけるコイツの熱さを見ていたらいつの間にか手を差し伸べてしまっていた。女の子の恥じらう様子は好きだけど、頑張る姿を見るのはもっと好きだ。それに己の夢に向かって突き進む子を応援したくなるのは侑の影響もあるのかもしれない。持ち前のお節介とお人好しのせいで可可に付き纏われる毎日となってしまったが、さっきも言った通り可愛い子が隣にいてくれること自体はイヤではない。まあコイツの勧誘は宗教の入信文句かってくらいスクールアイドルの良さを俺に力説してくるから、勧誘の仕方は鬱陶しいと思ったけどな。
「そういや有耶無耶になってたけど、どうして俺に顧問になって欲しいんだ。そりゃここまで自分の面倒を見てきたのならその流れで顧問になれって主張は間違っちゃいないけど、このご時世だからスクールアイドルの指導者としてプロ級の奴はいくらでもいるだろ」
「先生じゃないとダメなのデス!! 指導の仕方とか技術とかそういうのではなく、先生じゃないと!!」
「だからどうして?」
「うっ、そ、それは……」
また頬を紅潮させて黙っちまった。俺に拘る理由はここまで一緒にやって来たが故の愛着なのか、それとも……。
「ま、俺がいいってのなら諦めろ。こちとら教師としてやることがいっぱいあって時間ねぇんだよ。ま、今までみたいに困ったことが合ったら相談くらいは乗ってやるさ」
「なんか納得できマセン……」
「お前は俺が顧問にならなきゃ何を言っても納得しねぇんだろ……。じゃあもうお昼終わるから、お前も次の授業に遅れんなよ」
「は、はい。次は絶対に顧問になってもらいマスから! 顧問堕ちというやつデス!」
「なにその新しいジャンル!? 日本の汚い知識を覚えるのはやめような……」
どうやら友達に押しかけ妻と勘違いされても俺への勧誘をやめる気はないらしい。その心意気は買ってやるけど、周りに勘違いされてもお構いなしに俺へアプローチしてくるのは相当な理由があるからだろう。結局『俺でないとダメ』という声デカ主張に押し切られて、そうでないといけない理由を話すことはなかった。その本心を打ち明ければ俺の心も動くかもしれないけど、暴露するのは本人が耐えられなくなるのだろう。俺としては本心を伝えるかどうか迷っておどおどしている可愛い姿を見られるから、それはそれでいいけどな。
そして俺が立ち去ってからも、可可はしばらくベンチに座ったままであった。
「可可が先生に拘る理由なんて、そんなの決まってるじゃないデスか……」
可可は春からの出来事を思い出す。
『分かった分かったから! 手伝うだけだからな?』
『お前の情熱の強さは俺が認めるよ。だからかのんも分かってくれるさ』
『みんなに内緒で体力作りしてるのか? 闇雲に練習しても仕方ないから、俺がお前でもできるような練習メニューを考えてやるよ』
『ファーストライブか。ようやく夢へ第一歩だな。見ていてくれるかだって? そりゃお前のファン一号なんだから当たり前だろ』
『俺の中ではお前たちが一番可愛かったし、輝いてたよ』
『きっとかのんが千砂都を連れてきてくれる。だからお前は自分が今できることをやって、アイツを歓迎してやれ』
『喧嘩するほど仲が良いってか? でもすみれと一緒に、同じLiellaのメンバーとしてステージに立ちたいんだろ? だったら自分の気持ちを誤魔化さず、お前なりの方法でアイツに伝えてみろ。一度心がすれ違ったら、二度と元に戻れなくなるかもしれねぇぞ』
『どうして手伝ってくれるのかって? そりゃ女の子の笑顔が好き、ただそれだけだよ。それにお前って慌ただしいからほっとけないしな。傍で見守っていてやるよ』
「可可は、先生じゃないとダメなのデス……。だから……だから絶対に顧問になってもらいマス! 覚悟しておいてくだサイ!!」
可可はベンチから立ち上がって大きな声で意気込む。
そして俺は職員室に戻る途中、背筋に悪寒が走るのであった。
虹ヶ咲では唯我独尊で尊大な振る舞いばかりを見せていた零君ですが、前回のかのん回の時と同じく今回もやたらまともで作者の自分ですら少し困惑してます(笑) これが社会人になるってことか……
可可はアニメでも序盤から活躍してたこともあり、その魅力は第一期の12話だけでも十分に伝わってきました。アニメではムードメーカーだった彼女だからこそ、今回のように零君に対してしおらしくなる様子は新鮮で可愛いと思っています!
特に虹ヶ咲編では女の子たちが零君に対して超積極的な肉食系ばかりだったので、Liella編は至って普通の女の子たちの恋愛を見せられたらと思います。むしろ歩夢たちが零君を心酔し過ぎていて、そっちの方が異常だったかもしれませんが……(笑)