どうも俺と縁のある学校の生徒会はスクールアイドルを潰したがる傾向があるらしい。音ノ木坂の時は絵里、浦の星ではダイヤ、虹ヶ咲では栞子、そして結ヶ丘では恋。もはや同じ展開を見すぎて飽き飽きしていたくらいだが、一応本人たちもそれなりの理由があってスクールアイドルを否定していたので非難するつもりはない。ただ結ヶ丘でも同じ展開が勃発した際に『またか……』と呆れてしまったことを言いたかっただけだ。
結局のところ、最初は対立していた生徒会長たちはみんなスクールアイドル堕ちしている。その後は今までの威厳はどこへやら、RPGで敵側の時は強かったのに味方になると弱いというテンプレキャラと似たような末路を辿ることが多い。生徒会長はどこかポンコツでないといけないルールにでもなってんのかな……。完璧に見えるけど意外と抜けているところもあるというキャラとしてみれば、それはそれで可愛いのかもしれない。
「先生! 最近生徒の皆さんとの距離が近すぎます! 新社会人とは言えども教師なのですから、皆の手本になる行動を心掛けてください! あとは口の悪さ、服の着こなし、その他諸々、気を付けて欲しいことがたくさんあって――――」
本当に可愛いのか……? 恋と会うたびにこうしてガミガミ文句を言われるんだけど……。
俺は何故か生徒会室で恋から説教を受けていた。別に説教をするために呼ばれたのではなく、生徒会業務に勤しむコイツの様子を見に来たら説教が始まっただけだ。まあもう何度も同じ内容の説教を受けているので今更響かないけどな。それはそれで問題ありかもしれないけどさ。
「分かった分かった。善処するよ」
「いつもそうやってはぐらかして……」
「お前こそいつも同じ説教して飽きねぇよな。そんなに強張ってたら綺麗な顔が台無しになるぞ」
「な゛っ!? いきなり何を仰るのですか!?」
「率直なアドバイスだ。怒ってるよりも、いつもの澄ました顔の方が凛々しくて可愛いってことだよ」
「あ、あなたはいつもそんなことを……」
そしてそうやって恥ずかしがっている表情も非常に唆られる。女の子の百面相は見慣れてるけど、人が変われば表情もその数だけ存在し、雰囲気も個人ごとに全く違う。俺は女の子個々人の表情変化を見るのが好きなんだ。だから女の子を恥ずかしがらせる言葉も平気で言っちゃうんだよ。別に口説いているとかそういうことではなく、単にこの子のこの表情を見たいって好奇心だ。サディストなんでね。
「てか様子を見に来てやってる先生に対して即説教とは、お前も肝が据わってるな。まあ教師に堂々と意見が言える度胸くらいねぇと生徒会長にはなれないか」
「来てくださることには感謝をしていますが、素行の悪さの件とは別です。それに関しては生徒会長としてしっかり指導しますから。例え教師であっても……」
「おー怖い怖い。そういうところがお堅いって言ってんだよ」
「由緒正しき結ヶ丘を穢したくないだけです。親の性格が子に移るように、教師の素行の悪さは生徒にも移ります。私はそれを阻止しようとしているだけです」
「真面目だねぇ……」
色んな女の子と交流をしてきた俺であっても、流石にここまでド真面目でお堅い奴を見たことがない。栞子と通ずるところがあるくらいだ。恋と言えば名家の令嬢ではあるものの、その実は家が没落貴族一歩手前くらいの資金不足に陥っており、その話諸々あってかこの学校への執着が凄まじい。そりゃ亡き母が創設したこの学校を守りたいって気持ちは分かるけど、未だに俺にだけ厳しいのは愛情の裏返しだったりするのか? かのんたちや他の生徒たちには温和なのに……。
ちなみに生徒会業務の様子を定期的に確認して欲しいというのは理事長の依頼だった。朝の挨拶運動など何かと面倒事を押し付けられているが、どうやら生徒会の様子を見るのは俺でないといけないらしい。
「だったらどうすれば……」
「ん?」
「どうすればこの堅さをほぐすことができるのでしょうか。かのんさんたちからも『前に比べてマシになったけど、まだ堅いところがある』と言われることがありますし……。笑顔を作るのも苦手で……」
「スクールアイドルをやっていて柔らかい表情ができないってのは致命的だな。でもお前って別に仏頂面ではないし、笑うことくらいはできるだろ。ほら、俺に笑顔を向けてみろ」
「えっ、どうして先生に!?」
「なんだ、特訓に付き合ってやろうと思ってたのに嫌なのか?」
「い、嫌と言うよりも恥ずかしいと言いますか……」
恋は顔を赤くしたまま俯いてしまった。確かにいきなり笑顔を作れと言われて綺麗に作れる奴はいないし、意図的に笑みを見せるのは恥ずかしかったか。でもかのんたちと対立していた時と比べると表情は柔らかくなった方(それでもまだ堅いが)であり、俺以外の子たちには普通に笑顔を見せている。だったらどうして俺だけ……。
「そ、そんなジロジロ見ないでください! セクハラで訴えますよ!?」
「なんでだよ!? お前のためにわざわざ協力してやってんのに!?」
「とにかく見られていると笑顔を作れないので、先生はあっちを向いていてください。鏡の前で練習しますから」
「見られてるとって、スクールアイドルなんだから見られて当たり前だろ……」
「先生だからですよ……」
「なんか言ったか?」
「い、いえ!! とりあえず練習するのでこっちを見ないでください! 絶対ですよ!!」
「はいはい……」
つうか邪魔者扱いするんだったら生徒会室から追い出せばいいのに。一応生徒会業務の様子を見るという権限がある都合上、生徒会長の面目として追い出すに追い出せないのかもしれない。
締め出されないと言ってもこれ以上怒らせたくないので、素直に後ろを向いてやる。今まさに笑顔を苦労して作っている最中なのだろうか。慣れない笑みを必死で作ろうとしているその姿は想像するだけでも健気で可愛い。正直に言ってしまうとその様子を見てみたいのだが、今振り向けばこれまでにない罵声の雨を降らされるだろう。
「う~ん、何か違います……。もっと口角を上げる? 目を細めてみる……?」
色々試行錯誤しているようだが、自分の納得のいく表情になっていないようだ。まあ慣れてない奴がいきなり笑顔を作るってのは難しいよな。仕方ない、拒否されること前提で手を貸してやるか。数多の女の子の数多の表情を見てきた百戦錬磨の俺がな。
「上手く行ってないみたいだな。手伝ってやるよ」
「な゛っ!? こっちを見ないでくださいと言ったはずですが!?」
「このまま目を逸らしていても日が暮れるどころか年も越しちまうだろ。生徒の悩みを解決するのが教師の務めだ、任せとけって」
「う゛っ……不本意ですが、このままだとライブの時にかのんさんたちのご迷惑になりますから、仕方ないです」
「素直にお願いすりゃいいのに。よし、だったら――――」
「ふぇっ、ちょっ……!?」
俺は歩を進め、恋へと近づく。恋が後退りしてもお構いなしに生徒会室の隅っこにどんどん追い詰める。いつも俺に厳しい態度を取るコイツだが、余裕な顔をした年上の男に追い詰められると流石に何も言えないようだ。
そしてとうとう後ろへの逃げ場がなくなり、俺と壁に挟まれるしかなくなった恋。そこで俺は壁に手をつく、いわゆる壁ドンの体制を取った。
「ひゃっ!? えっ、へっ、ふえぇえええっ!?」
「いい表情じゃないか、柔らかくなってきてるぞ」
「ちょっ、ちょちょちょちょっと!! いきなり何をするのですか!?」
「こうしたら嫌でも表情筋を使うしかないだろ? つうか堅いどころかもう顔がふやけそうになってるぞ」
「み、見ないでください!!」
恋は自分の顔を手で覆ってしまった。それほどまでに自分が情けなく表情を崩していることを自覚しているのだろう。しかも箱入りのご令嬢だから男慣れしておらず、ただこうして追い詰められただけで顔を真っ赤にしてショート寸前になっている。かのんたちもそれなりに初心っ娘だがコイツは格別で、今にも目を回して倒れそうになっている。これくらいだったら虹ヶ咲の奴らは耐えられるので感覚が麻痺していたが、普通の女の子からしてみたら刺激は大きいよな。とは言ってもこれは表情を和らげる特訓、やめる気はない。
「てかそんな顔もできたんだな」
「これって笑顔を作るための特訓ですよね!? だったらこんなことをしなくてもいいではないですか!?」
「そもそもな、笑顔ってのは作るもんじゃねぇんだ。嬉しい時、楽しい時に心から出る表情なんだよ。だから無理矢理作ってもそれには気持ちが籠ってない。まあファン程度なら騙せるかもしねぇが、俺には無意味だ」
「普通にいいことを言っているようですけど、別に私の笑顔は先生のためにあるものではありません」
「あれ、そうだっけ? とにかく笑顔は自然に漏れるのが一番ってことだよ」
女の子の笑顔が好きすぎる自分の趣味と、ここ数年ずっと美女美少女たちの笑顔を自分のモノにしてきたので『女の子の笑顔=自分のモノ』という方程式が勝手にできあがってしまっていた。そう考えると相当痛い奴だな俺……。
それはともかく、自然に零れ出す笑顔が一番ってのは気休めではなく本当だ。俺は幾多もその笑顔で心を打たれてきたから間違いない。だから俗に言われる営業スマイルは素人であれば騙せるかもしれないが、真に笑顔の効力を発揮するためには自分が嬉しい、楽しいって思わないといけないんだ。
「先生が言う笑顔は最もですが、こうして私を追い詰めるのとどんな関係が……」
「ただお前の反応を見たかっただけだ」
「そ、そういうことをするからセクハラ扱いで訴えられるのですよ!?」
「訴えようとしてんのお前だけだから……。まあそれは建前で、お前の緊張を解してやろうと思ったんだよ。お前って俺といる時いつもお堅いからさ」
「こんなことをされたら逆に緊張しますよ……」
「それでいいんだよ。恥ずかしがって熱くなれば凝り固まった心も和らぐだろ」
「それでもこれは強引過ぎです!!」
本人は気付いていないかもしれないが良い表情になってきた。俺と一緒にいる時は畏まっている時が多いから、こうして年頃の女の子っぽい仕草をさせれば緊張も解れる――――と思っていたのだが、想像以上に戸惑わせてしまったようだ。でもそのおかげで羞恥に悶えるいい顔を見ることができたから結果オーライかもな。
これ以上壁ドンしたままだと本当にショートさせかねないので離れてやる。すると恋は何故か息を荒くしており、ただ追い詰められていただけなのに疲労が溜まっているようだった。
つうか顔を赤くして息を切らしてるとか超絶にエロい。恋が美人系だからかその淫猥さが良く似合っている。もはや教師なのに生徒をそんな目で品評するとか終わってんな……。
「…………」
「ん? どうした胸に手を当てて。まさか意外とドキドキしてたり? なぁ~んてそんなわけ……ないよな?」
「…………」
「恋?」
「ひゃいっ!? えっ、そ、そうですね……」
「えっ、そうなのか!?」
「へっ? す、すみません適当に答えてしまいました……」
「何を物思いに耽ってたんだよ……」
俺が離れた瞬間から何やらぼぉ~っとしていた恋。一体何を想像していたのかは知らないが、頬が紅潮しっぱなしなのと関係あるのだろうか。口では俺のことを拒否してたけど、いざ離れてみると温もりを感じられなくなって寂しい――――って思ってくれていたら嬉しんだけど流石にないか。コイツもそうだけど、Liellaの子たちは虹ヶ咲の奴らと比べると好意を表に出さないから俺のことをどう思っているのか掴みづらいんだよな。それだけ恋愛弱者ってことだから、それはそれで反応が新鮮で楽しめてはいるけどさ。
「とりあえず、笑顔を作る練習はやめにします。先生が言っていた『笑顔は嬉しい時、楽しい時に自然と出るもの』というアドバイス、納得しましたから」
「だろ? ま、ステージに立ってライブを楽しめるようになれば自然と笑えるようになるよ」
「先生って、たまに先生らしいところがありますね。たまにですが」
「2回言わなくてよろしい……。まだ新米教師の身だけど、これでもお前らよりちっとは人生経験積んでんだよな」
「そうですね。私がスクールアイドルになれたのは、先生のおかげでもありますし」
「特別なにかをやったわけじゃない。教師として当然ことをしたまでだよ」
「そういうところですよ。そういうところ」
恋は小さく微笑んだ。なんだ、普通にいい顔できるじゃん。小さくても本人から僅かな幸せを感じることができる微笑みだ。どうして笑ったのかは分からないけど、一応教師としては認められているみたいで良かったよ。
その後、生徒会の作業が片付いたので俺は生徒会室を後にした。次は自分の仕事を始末しようと職員室へ向かっている時、偶然にも俺に生徒会の様子見係を命じてきた理事長と遭遇した。
「あら、もう終わったの?」
「言い草だな。アンタの個人的な事情に付き合わされてるこっちの身にもなってくれ」
「なんのことかしら?」
「惚けんなよ。亡き親友の娘だからか知らないけど、心配してるのがバレバレだっつうの。でも理事長の自分が個人に依怙贔屓するわけにはいかないから、代わりに俺に恋を見守らせてるんだろ?」
「な~んだ、気付いてたんだ」
「当たり前だ」
理事長は何かと面倒事を俺に押し付けてくる。そしてその面倒事の内容は大抵が恋や他の生徒が関わることが多い。そのおかげで新米教師にして生徒たちとあっという間に仲良くなったのだが、俺に生徒を任されているという事実にはもちろん気付いていた。理事長は恋の死んだ母親の親友で、その親友と共に築き上げたこの学校を守るためにも生徒のいざこざ、悩み、はたまた日常的な生活の見守りまで俺にやらせているんだ。生徒思いっつうか、過保護っつうか……。
「やっぱりあなたに任せて正解だったわ。思春期という多感な時期の女の子の心に寄り添うなんて、ベテランの教師でも中々できないから」
「俺が思春期女子に強いってこと、どこで知ったんだ? まあ言わなくても分かるけど」
「そう? じゃあその話はまた今度ということで。これからもあの子、そして生徒たちのことをよろしくね」
「ったく。直々に依頼してくるんだったら特別待遇で給料上げろよ」
「あら? 教師としては当然のこと、だったかしら?」
「っ……覚えてろよクソババア」
「ひどい! これでも理事長だからあなたよりは目上なんだけどねぇ~」
「
浦の星に虹ヶ咲に結ヶ丘。俺が行く学校は悉く女子高であり、しかも容姿レベルの高い生徒ばかり集まっている。もはや何者かに仕組まれている(虹ヶ咲はマジモノの意図的だが)としか思えない。まあその犯人の正体はもう知っているので今更言及しないけど、もし仮にこの学校にまで顔を出して来たら徹底的に問い詰めてやる。
そんなわけで俺は理事長の個人的な理由により恋を見守っていた。まだアイツに厳しいことを言われたりはするけど、普通科と音楽科の一件を経てその関係も大きく緩和された気がする。なんだかんだ生徒会室から追い出されなかったのがその証拠だ。
「あ、そうだ。あの子のことを見守って欲しいっていうのは私のお願いでもあるけど、あの子のお願いでもあるのよ」
「えっ?」
「ふふっ、慕われているのね」
「アイツが俺を……?」
そんな匂わせることを言い残して理事長は去っていった。
慕われているってことは俺のことを好き……とか? さっきも言ったがかのんたちは俺が見たことないくらいの初心っ娘すぎて逆に心が読みづらく、俺にどこまで好意を抱いているかはまだ未知数だ。だけど理事長のさっきの言葉、アイツから俺を指名してきたとなると……う~ん、分かんねぇ。もっとアイツらの近くにいれば心の内を知ることができるかもな。
もっと近くにいるために、そうなると―――――
そして、俺がいなくなった生徒会室。恋はスクールアイドルの練習へ向かう準備をしながら、ここ半年の出来事を思い出していた。
『堅いな~お前。もっと楽に生きたらどうだ?』
『どうして声を掛けるのかだって? そりゃ心配だからだよ、お前のことが』
『普通科を除け者にしていいのか? 自分だけ仲間外れになっちまうぞ?』
『嫌でもお前の隣にいてやるよ。そうでないとお前に寄り添ってくれる人、誰もいなくなっちまうだろ。お前は拒否しても、俺は味方であり続けたい』
『俺はお前に普通の女子高生として生きて欲しいんだよ。誰からも恨まれず、日々疲弊するほど思い悩む必要がないようにな』
『一度だけでいい、かのんたちと面と向かいあったらどうだ? 自分の気持ちを押し付けるんじゃない。相手の気持ちを受け取ったうえで、自分の思いを打ち明けるんだ。大丈夫、アイツらも同じだ。今こそ同じ土俵に立って、向かい合って見ろ』
『スクールアイドルになったのか。そりゃ良かった』
『ありがとうございましたって、俺はなにもしてねぇけどな。教師として当然のことをしただけだ』
『いい初ステージだったな。やっぱり笑ってる方が可愛いよ』
「何をやっても当然ことだって、どれだけお人好しなんですか……ふふっ」
どんな時でもずっと寄り添ってくれた人を思い出し、恋は今日もスクールアイドル活動に勤しむのであった。
あけましておめでとうございます! 今年もこの小説をよろしくお願いいたします!
というわけでキャラ紹介を兼ねた1回目の個人回が終了しました。メインキャラが5人しかいないおかげで各キャラをより深堀することができ、しかもメインを担当させられる回数も増えるのがLiella編の特徴になると思います。虹ヶ咲編では主人公格の侑を除き、各キャラの登場話数がかなり少なかったので……
次回からはいつも通り日常回に突入していく予定です。