ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

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お嬢様を誑かす輩

 とある平日の夕方。今日は久々に仕事が早く片付いたので日が昇っている間に帰宅している。特に部活の顧問を請け負っていないメリットがここであり、自分の仕事さえ終わればそそくさと帰れるのが大きい。いつもは放課後に生徒たちから勉強で分からないことを聞かれる質問攻めに遭うのだが、今日は奇跡的にそれもなかった。だからこうして悠々と仕事終わりのアフター5を楽しめるってもんだ。

 

 楽しめるとは言っても基本的に俺はインドア派なので、時間があるからと言って仕事終わりにどこかに立ち寄る趣味はない。かと言ってせっかく早く帰れているのに何もせずに帰宅するってのも勿体なく感じる。家に帰れば楓が出迎えてくれるから暇ではないのだが……うん、どうせならアイツに何か買ってやるか。いつも家事(という名の俺の身の回りの世話)をしてもらってるからそのお礼だ。まあアイツなら『お兄ちゃんがいるだけでご褒美』とか言いそうだけど、たまには労ってやるのも家主の務めだろう。

 

 そんなわけで渋谷の街中を練り歩きながらいい感じのスイーツを探しているのだが、俺の目利きがないせいかどれを買っていいのかさっぱりだ。普段はそういったモノを食べない、食べるとしても女の子たちから貰う手作りお菓子ばかりなので、女の子向けにどのスイーツを買えばいいのかその知識がない。相変わらず流行りとか、そういうことに関しては世間知らずなんだよな俺……。

 

 そういや虹ヶ咲やLiellaの連中はよくみんなでケーキを食べに行ってたような……。俺も何度か付き合わされたし、若い女の子だったらケーキ好きなのは必然か。買ってやるにしてはありきたりなものだけど、そんな奇抜なモノをプレゼントする必要もないだろう。

 

 そう考えつつケーキ屋の前までやって来た。なんか男が1人で来るのは場違い感があるけど、俺以上に異様な雰囲気を醸し出している女性が近くにいた。

 

 

「お嬢様が好きなケーキ、今日は売っていてよかった。人気でいつも売り切れていますから……」

 

 

 俺の隣にいる女性は紛うことなきメイドさんだ。秋葉原にいるような萌えを売りにしたオタクに媚び媚びのメイドではなく、清楚さ全開のモノホンのメイドさんである。街中にまでメイド服を着ているのはかなり目立つが、それも自分の職務に誇りを持っているからだろうか。

 

 

「あら……?」

 

 

 えっ、なんかこっちを見てるんだけど……。ここまでまじまじと見つめられるともしかして知り合いなのかと思ってしまう。でも俺にメイドの知り合いなんていないし、流石に人違いだろう。まさか一目惚れ……は自惚れすぎか。

 

 

「あなた、もしかして神崎零先生ではないでしょうか?」

「へっ、そ、そうですけど……」

「やっぱり! 一度お会いしたいと思ってたので嬉しいです!」

「えっ、ちょっとどういうことだ??」

 

 

 いきなり俺に詰め寄って来た謎のメイド。名も知らぬ女性に会いたかったと言われ、初対面なのにこの近さ、もしかして怪しい勧誘業者か何かか?? メイドをやっているだけあって美人であり、この容姿であれば並大抵の男であれば即靡いてしまうだろう。女性経験が多い俺であってもちょっと緊張してるっていうのに……。

 

 

「申し遅れました。私、葉月家でメイドをしておりますサヤと申します」

「葉月……? あぁ、恋のところの」

「はい。よろしくお願い致します」

 

 

 いい笑顔でお辞儀をする葉月家メイドのサヤさん。ぶっちゃけ渋谷の街の真ん中でそんなことをされるとこっちが恥ずかしいのだが、街中でメイド服を着ているといいこの人には羞恥心はないのか……?

 それにしても恋の家にメイドさんがいたとは……。デカい家に住んでいることは知っていたけどメイドがいることは初めて知ったぞ。お金持ちの女の子となら何人か知り合い(真姫とか鞠莉とか)だけど、実際に本職のメイドを見るのはこれが初めてだ。俺が今まで見てきたメイドってコスプレばかりで、しかも大体が脳内ピンクの淫乱だったからな……。

 

 

「お嬢様からいつもお話は聞いています。とても頼りになる先生だとか」

「アイツがそんなことを? 学校では仏頂面でツンツンしてるんだけど……」

「お嬢様ほど素直な方はいませんよ。そうだ、お時間があるのであれば学校でのお嬢様の様子を聞きたいのですが、いかがでしょうか? 葉月家でたっぷりとおもてなしをさせていただきます……フフ」

「時間はありますけど……」

「けど?」

「いや、なんでも」

 

 

 なんかさっき不敵な笑みが見えたような気がしたが、俺の気のせいか?

 とりあえず俺は誘われるがままに葉月家に向かうことになった。あまりにも突然すぎる家庭訪問だが、この人が実質恋の保護者的な立ち位置だと思うので、大切なお嬢様の生活ぶりを聞きたいと申し出ているのであればそれに応えてやりたい。恋の両親はもう亡くなっているからな、そういった意味でもこの人は恋を心配しているのだろう。だからこそ彼女をよく見ている俺がこの人の心配を払拭してあげないと。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 普段から庶民生活を満喫しているせいか、こういった豪邸クラスの家に来ると柄にもなく身が引き締まってしまう。海未や真姫の家もそこそこに大きいが、葉月家はそれ以上の敷地を誇っている。そもそも葉月家は没落貴族と言っても差し支えないくらい金銭に余裕がないのだが、この土地を維持するくらいにはまだ生活は困窮していないらしい。家賃が安いオンボロアパートに住んでいるとかじゃないから、それはそれで安心したかな。

 

 

「改めまして、ようこそお越しくださいました。葉月家特性のハーブティをお持ちしますね」

 

 

 案内されたのはだだっ広い応接室。柔らかいソファ、お高い机、豪華なシャンデリア、踏むのすら躊躇する綺麗な絨毯。何から何まで庶民離れした高級感溢れる家具のせいで若干居心地が悪い。俺自身それほどお洒落な性格ではないので、こういった堅苦しい場所は苦手だったりする。それにお上品な作法とかも分からないので必然的にソファに座ったまま何もせず固まらざるを得ない。これが知ってる人の家ならふんぞり返れるんだけどな。これでも教師で家庭訪問をしているわけだから、社会人として学校の面子を保つために失礼はないようにしないと。

 

 しばらくして、サヤさんがケーキスタンドとティーカップを持ってきた。ケーキスタンドには先程のケーキ屋で買ったであろうケーキが、ティーカップには葉月家直伝のハーブティーが注がれており、見た目からして俺には似合わぬ飲食物ばかりだ。俺はハンバーガーや牛丼といったジャンクフードが好きな人種。だから見た目は美味しそうだけど高級オーラ溢れる食事ってのは萎縮しちゃうんだよ……。

 

 その後は慣れないアフタヌーンティーを嗜みながら、恋の学校での様子やらその他諸々をサヤさんに話した。やはり付き人兼保護者である彼女からしてみれば恋のことが心配らしく、俺があれこれ話す前に食い気味で恋の学校生活について質問をしてきた。それだけ恋のことを大切に思っているのは分かるけど、引くくらいに必死に質問攻めをしてくるものだから少し怖かったぞ……。どこか大切にしている以上の何かを感じなくもない。主従の愛って言うのか、そういうものがひしひしと伝わってきた。

 

 

「あっ、そろそろお嬢様をお出迎えに行かなくては。すみません先生、少しの間ここを離れますわ」

「だったら俺も帰ろうかな。アイツが帰って来て俺がここにいたら驚くだろうし」

「そんな! お嬢様のことでもっとお話をお聞きしたいです!」

「そ、そうですか? まあ今日は時間ありますし、少しだけなら……」

「ありがとうございます! お嬢様を連れてすぐに戻るので、しばしお待ちを!」

 

 

 恋の話をしてから謎にテンションが高くなってるなこの人。それだけ大切な人だってことなのか。それにしても異様なまでに過保護っつうか、何か異質な愛みたいなものを感じるようなそうでないような……。

 

 つうか恋を連れて戻ってくるのはいいにしても、この家庭訪問って突然決まったことだからもちろんアイツは何も知らない。だから帰ってきたら俺がいて、しかも俺の口から自分のあることないことをサヤさんに話しているとバレたら怒られそうな気がする。いや、逆に恥ずかしがるか。どちらにせよ家に俺がいることでアイツの精神は掻き乱されることだろう。

 

 

 ――――と、思っていたのだが……。

 

 

「遅い……」

 

 

 全然帰って来ない。もう30分は経っているはずだ。この家から学校までの距離は短く、車を使えば片道5分もかからない。そう考えるともう恋を連れて戻ってきてもいい頃だがかなりの時間を待たされていた。

 

 

「客人を待たせるとかどういう神経してんだよあのメイド。ったく、もう勝手に帰らせてもらうか」

 

 

 これ以上遅くなるとせっかくのアフター5が無駄になってしまう。そうならないためにも悪いがここで帰らせてもらうことにした。もしかしたらどこかで事故ってるのかもしれないが、だとしたら余計にここで待っているわけにはいかない。それに遅れるなら遅れるで連絡を寄越せばいいだけの話だ。俺の連絡先を直接知らなくても学校経由で教えてもらうことはできるはず。それすらもしていないってことは意図的に放置されているか、それとも本当に何かあったのかの2択だろう。

 

 どちらにせよここで待っていても状況は変わらないので帰る支度をし、この部屋から出ようとする。

 だが――――

 

 

「なに!? 開かない!?」

 

 

 ドアノブを回したけど一向にドアが開く気配がない。壊れているのかと思ったけど部屋に入るときは普通に入れたからそれはないはずだ。だったらどうして……? ていうか俺、ここに閉じ込められたってことか!?

 

 

「残念ながら、あなたを帰すわけにはいきません」

「サヤ……さん? どうしてここに??」

 

 

 恋を迎えに行ったはずのサヤさんが、何故か俺と同じ部屋にいた。少しホラーチックではあるが、そんなことよりも彼女の様子がさっきまでとは違う。清楚なメイドを具現化したような彼女から一転、冷ややかな目でこちらを見つめてくる。あからさまに怒ってますよと言わんばかりの表情であり、さっきまでの穏やかなオーラは完全に消えていた。

 

 ていうかどうしてこの人がここにいるんだ?? それに部屋から出て行ったはずなのにどうして密室の子の部屋にいるんだ?? それに怒っている意味は?? もう何が何だか全然わかんねぇ……。

 

 

「お嬢様を誑かす輩……ここで粛清します!!」

「ちょっ、どういうこと!? 一体何を言ってんだアンタ!?」

「はぁ……やはり無自覚野郎でしたか。流石はお嬢様を誑かすだけでは飽き足らず、他の女子生徒まで毒牙にかけているだけのことはありますね」

「失礼な言い方だなオイ……。もしかして俺が恋たちを惚れさせてるとか、そんな風に思ってる?」

「当たり前です!! 女子高に男性が1人! それでケダモノにならない男がいますか!? そんな輩にお嬢様が……お嬢様がぁああああああああああああああああああああ!!」

「いや何もやってねぇからな!?」

 

 

 うん、なんとなくこの人の本性が分かった気がする。最初に話した時から恋への愛情がどこか異質だとは思っていたからな。それでもこの壊れっぷりは相当アイツに入れ込んでると見える。もしかして俺、とんでもない地雷を踏んでしまってるのか……??

 

 

「何もやってない……? だったらどうしてお嬢様があんな乙女な表情をするのです!? 『恋』という名前なのに今まで『恋』をしてこなかった初心っ子のあの方が、ここに来て急に乙女チックになっているというのに……!!」

「サラッとアイツのことを馬鹿にしてるような……。ていうか別に思春期女子だったら恋ぐらい普通だろ」

「そのせいで……そのせいでお嬢様が私のことを見てくれる時間が減ったというのに!?!?」

「知るか!! 一緒に住んでるんだったらそれこそ一緒にいる機会が誰よりも多いだろ。それでも不満なのかよ」

「1分、1秒でも話す時間が減るのが私にとってどれだけキツイことか……。目の前の私がいるというのに、妄想の中の男にかまけるなんて……」

「その男ってもしかして俺のことか?」

「そうですよ!! お嬢様を穢した罪、ここで断罪させていただきます!!」

「おいおい……」

 

 

 これまた面倒な奴に巻き込まれたもんだ。言わんとしていることは分からなくないが、あまりにも被害妄想が過ぎる。お嬢様LOVEなのは咎めないけど、恐らく恋はこの人が百合妄想が甚だしい残念メイドだってことを知らねぇんだろうな……。

 

 

「いいから落ち着けレズビアンメイド」

「レズ!? 私はそんな悪趣味はないですよ!! ただずっとお嬢様のお側にいて、お嬢様とお話しできるだけでいいのですから!!」

「いや俺には見えてるぞ。アンタの後ろにムチとかロウソクとかボンテージ服とか、明らかにアイツと何かする気満々じゃねぇか」

「こ、これはあなたを粛清するための道具で、決して私がお嬢様に躾けてもらいたいとか、そういった類の趣味は一切ないですから!!」

「もう全部口に出てるぞ淫乱レズビアンメイド」

 

 

 蓋を開けてみたら想像以上に趣味趣向が偏ってるメイドで、驚くのを通り越して唖然としてる俺がいる。同性愛がどうとか俺からしたらどうでもいいことだが、ドM趣味は流石に擁護できねぇぞ……。しかも今からそれを俺に使おうとしているらしい。うん、面倒臭い。早く帰りたいけど密室にされてしまっているから付き合うしかねぇんだよな……。

 

 

「お嬢様に群がる悪い虫は私が追い払います。いや、追い払うどころか二度と纏わりつかないように地に這いつくばらせなければ……」

「お付きのメイドがこんな性格だと知ったら、アイツなんて思うだろうな……」

「な゛っ、まさか脅す気ですか!? ですが心配ありません。今の私を知っているのはあなたのみ。でもあなたはここで終わる。つまり真の私を知る人はこの世で誰もいなくなるというわけです」

「終わるって何をする気だよ……」

「お嬢様に使ってもらうはずだったこの調教道具を逆に私があなたに利用することで、あなたを下僕にするだけです!」

「使わせる予定だったって、そんなことしたらいずれお前の性癖がアイツにバレてただろ……」

「大丈夫です! お嬢様はお嬢様が故に天然ですからね、この手の知識は全くありません。つまりイケナイことをしているという概念すらないはずです」

「ちょくちょくアイツのこと馬鹿にしてるよなお前……」

 

 

 確かに恋は今流行の動画配信を知らなかったので、世間の俗物というモノにはかなり疎いのだろう。だからSMプレイどころか『S』や『M』の意味すら知らないと思う。つまりコイツは恋のそういった純朴さに付け込んでこっそりSMプレイを楽しもうとしていたらしい。策士なのか外道なのか、いや、ただの変態か……。

 

 暴走する変態メイドに面倒なことをされる前に戦線を離脱したいのだが、生憎部屋はロックされており逃げ出せない。ぶっちゃけこの淫乱メイド1人であれば俺1人でもなんとかなるんだけど、いくら相手がド変態だからって手荒な真似はしたくないんだ。相手は女性、これでも紳士なんでね。

 

 

「さて、お話は終わりにしましょうか。ここからたっぷりとその罪を身体に味わってもらうのですから……フフ」

「どうでもいいけど、そろそろやめておいた方がいいと思うぞ? 後悔する前にな」

「なにを言っているのですか。後悔するのはそちらの方です。お嬢様に手を出した報い、ここで受けてもらいます!」

 

 

 ロウソクに火をつけ、ムチを片手にこちらに迫る変態メイド・サヤ。その姿を見るとS属性に見えるけど本人はM属性。両方はプレイが中途半端になりがちだからどっちかにしろってのがAVの鉄則なんだけどな。つまりこいつもまだまだにわかだってことだ。

 

 そして、じりじりと詰め寄って来る変態メイド。だが俺はその場から一歩も動かなかった。

 

 

「もう逃げることすら諦めましたか。往生際が良いのは助かります」

「いや、逃げる必要がないだけだ。変態の扱いはこの世の誰よりも慣れてるからな」

「それはどういう意味です……」

「それに俺を閉じ込めるにしても場所が悪かったみたいだぞ」

「えっ……?」

 

 

 

「サヤさん? どこに――――あっ、いました……って、サヤさん!?」

 

 

 

「お、お嬢様!?」

 

 

 

 密室のはずだったドアを開けて部屋を覗いたのは、家主でありこのメイドの主でもある恋だった。そしてその後ろにはかのんたちLiellaのメンバーが勢揃い。

 さて、次は俺ではなくこの淫乱メイドがどうこの危機を乗り越えるのか、間近で拝見させてもらうとするか。

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 Liella編で初めての前後編ですが、ぶっちゃけ本番は次回で今回は完全にネタです(笑)
 今回のメイド・サヤさんはアニメでも登場したキャラですが、万が一アニメを見ていなくてこの小説だけ見ている人がいたら絶対にキャラを勘違いさせてしまいそうですね……。そういう人っているのかな?


 次回はLiellaメンバーが零先生の誤解とを解くため、胸に秘めた想いを打ち明けます!
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