ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

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心の距離

 俺が結ヶ丘のスクールアイドル部の顧問になって数日が経過した。部活動の顧問になったことで教師としての仕事は増えたけど、かのんたちと一緒にいる時間も増えて楽しいので苦ではない。むしろ今まで見られなかったアイツらのスクールアイドルに込める気概に感化され、顧問としてより支えてやりたいと思ってしまうくらいだ。それに美少女たちを合法的に眺めることができるってのはやはり眼福。未だに思春期時代の欲求が残っている俺からしたら、これ以上に適任な仕事はないだろう。指導自体はAqoursや虹ヶ咲でやったことがあるから慣れてるしな。

 

 俺が顧問になったことでLiellaとしてのスキルもアップするだろう――――と、最初はそう思っていた。

 意外というか、想定はできたかもしれないけどこれまでとは違う問題をアイツらは抱えていた。

 

 その問題は主に俺が練習を見てやっている時に発生する。

 

 

「どうしたかのん? 動きが悪いぞ」

「そ、そうですか……? でもそんなにじっと見つめられていると恥ずかしい……」

「ん? 悪い声が小さくてよく聞こえなかった。とりあえず動きにキレが戻るまで見続けてやるから安心しろ」

「そのせいで安心できないんだけどなぁ……」

 

 

「可可、お前いつもそんな大振りのダンスしてたっけ? 体力ないくせにいきなりそこまで飛ばすと後がもたねぇぞ」

「せっかく先生が顧問になってくださったのデスから、もっともっと頑張ろうと思って……」

「いやそれでも力み過ぎだ。リズム感もなさ過ぎる」

「で、でも先生に指導してもらっていることが嬉しくて、いいところをたくさん見せないと……」

「いいから一旦落ち着け」

 

 

「すみれ、さっきから先走り過ぎだぞ。どうしてそんなに焦ってんだ?」

「別に焦ってないわよ! ただアンタの前で無様な姿は見せたくないだけ」

「相変わらず見栄っ張りだな……。練習なんだからそこまで気にする必要ねぇだろ」

「気にするの! アンタの前だから余計にね……」

 

 

「どうですか先生! 先生が見てくれるからいつもよりやる気もアップアップですよ!」

「千砂都……。テンションを上げるのはいいけど、周りにも合わせてやれ。お前のダンスだけプロレベルで誰もついて来られてないから……」

「あっ……。先生にいいところを見せようと思ってつい♪」

「おいおい……」

 

 

「恋、動きがガッチガチだぞ。そこまで運動音痴だったっけお前?」

「い、いえそういうわけでは……。でも先生にご指導いただいているので、勝手に身が引き締まると言いますか……」

「なんだ緊張してるのか? 堅いのは性格だけにしておけ」

「先生の前で情けない姿を見せたくないと思っているだけで……。いや、それが空回りしているのかも……。うぅ……」

 

 

 といった感じだ。全員が本調子ではない。コイツらはこれまで何度もライブを経験してきているので、自分のパフォーマンスに今更恥ずかしがったりはしないはずだ。それなのにも関わらずただの練習でこの体たらく。俺に見られているからか緊張したり自分を良く見せようとして焦ったりと、誰一人として普段の自分を発揮できていなかった。

 

 ただこうなってしまうのも仕方ないのは分かる。これまで憧れで恋焦がれてきた先生が遂に自分たちの顧問になったのだから。だがその喜びで気持ちが先行してしまい、自分の身体が思うように動いていない。恋愛に関しては初心者なコイツらだからこそ、俺にまじまじと見られているという状況だけでも激しく動揺してしまう。見方を変えれば恋愛に勤しむ可愛い女の子たちで微笑ましい光景、とでも思えるかもしれないが……。

 

 とにかく、このままでは顧問がいなかった時代の方が濃密な練習ができていたという謎事態になりかねない。俺に向き過ぎている意識をなんとか自分自身に向けさせないとな。そうでないとそもそも練習にならないから……。

 

 そのためにはコイツらにとって俺の存在をもっと身近に感じてもらうしかない。緊張しない、焦らないくらいに身近に。教師と生徒の関係なのである程度の線引きはあるだろうが、コイツらにとっては俺という存在がまだ上の方にありすぎていると思うんだ。だから普段の練習でも自分をより良く見せようとして、つまり俺を意識し過ぎるがために動きが悪くなっているのだと思う。だから自然と肩の力が抜けるように仕向ける必要があるってことだ。

 

 

「つうわけで、学校の調理室を貸し切ったからみんなで晩飯を作るぞ」

「どうわけよそれ!?」

 

 

 いきなり場面が変わったが、これこそ俺の考えた作戦だ。名付けて『共同作業をすることでお互いの距離を縮めよう』作戦。人が仲良くなるためには仕事とは関係のない無駄なことを共有して楽しむのが一番だからな。だから合宿みたいな感じで学校で一夜を共にしようってわけだ。一夜を共にと言っても変な意味ではないのであしらかず。

 

 

「晩御飯と言いましても、材料はどうするのですか?」

「料理部から許可を得ている。冷蔵庫の中身とか調味料とか、勝手に使っていいってさ。ほら、早く作った作った」

「へ? 先生は作らないのデスか??」

「なに言ってんだ? 俺の食事ってのは女の子から与えられるものなんだよ。だから自分で作らない。ていうか作れない」

「清々しいまでの傍若無人っぷりね。それをわざわざ女の子の前で言う普通?」

「ちーちゃん、こういうのってご主人様体質って言うんだっけ……?」

「う、うん。侑さんが言っていたのはこのことだったみたいだね……」

 

 

 俺の胃袋は基本的にジャンクフードか女の子からの料理しか受け付けない特異体質となっている。ほぼ毎日妹の楓の美味い料理を食っており、楓がいないときは秋葉か他の女の子を呼び寄せて料理を作ってもらっている。そのせいで胃袋がブルジョア化しており、もはや自分の適当に作った男飯では満足してくれない困ったちゃんなのだ。共同作業とか言っておきながら最初からコイツら任せなのだが、コイツらが作る役、俺が食べる役でいい役割分担だろう。

 

 

「どうであれ先生も含めてみんなで合宿みたいなことをするのって初めてだから、私は今とっても楽しいよ! それにLiellaを結成してから部活動以外でみんなで何か一緒のことをやるって今までなかったから、先生の歓迎会も兼ねていい機会かなって思うな」

「確かにそうですね。料理には自信がありませんが、私も精一杯貢献させていただきます」

「そう考える可可も楽しみになってきマシタ! まずは冷蔵庫の中身を確認してレシピを決めるところから始めまショウ!」

「アンタ料理作れるの? サニパと一緒の時は相当ヒドイ料理になってたけど」

「そっちこそ、腕が鈍っていないか可可が直々に確認してあげマス!」

「仲良くしようって会だから、いきなり煽り合わないで……ね?」

 

 

 あまり詳細な事情を話さずに誘ってしまったが、どうやらみんなやる気になってくれたみたいだ。教師生徒の関係性を考慮してコイツらとはプライベートであまり関わってこなかったので、俺としてもみんなと教師生徒云々抜きで交流できるのは楽しみだったりする。そりゃ1人の男として美少女たちと一緒の時間を過ごせるのは最高だからな。男としての欲望を満たしたくなったからこの合宿もどきを提案した、という背景もある。

 

 そんなわけでLiellaの面々によるお料理が開始された。冷蔵庫に入っている材料から5人でレシピを決め、それぞれどの調理を担当するかを迅速に割り当てて作業にあたる。まだLiellaとして5人揃ってからそれほど時が経っていないのに、メンバーの得意分野から役割を振り分けてすぐに作業に取り掛かる様子を見ていると、お互いのことをよく理解し合っているいいチームだと思う。チーム間の結束を高めるためにも今回の催しはやって良かったのだろう。

 

 それにしても、エプロン姿の女の子が自分のために料理を作っている姿を見るのは至福のひと時だ。日頃の仕事の疲れが全て吹き飛ぶっつうか、いい目の保養になる。しかも相手は女子高校生たち。未成年の美少女たちに料理を作らせ、自分はのんびりと完成を待つ。この待っている時間が溜まらなく快感なのだ。

 

 そんなこんなで料理は滞りなく進み、調理室のテーブルに食事が並べられた。洋食、和食、中華といった様々なジャンルが入り乱れており統一性はないが、各々の得意な料理を作ったようだ。合宿の飯だけど俺に振る舞うためかそれなりに本気を出して作ったのが良く分かる。

 

 

「先生! まず可可が作った小籠包、是非食べてみてくだサイ!」

「ちょっ、押し付けようとするなまだ熱々だろそれ!?」

「そうデスよね! だったらふーふーしてあげマス!」

 

 

 可可は箸の先で摘まんだ小籠包を自分の息で冷まそうとする。必然的に唇がキスの形になるので、その表情はちょっぴりエロい。コイツのこの姿に惹かれてしまうあたり、俺も少なからず意識はしているのかもしれないな。

 

 

「これで大丈夫デス! はい、あ~ん」

「いや自分で食えるから……」

「自分の料理は自ら先生に食べさせる。それが先程皆さんを決めたルールなのデス!」

「みんなやるのかよ!? こんなことを聞くのもアレだけど、恥ずかしくねぇのか?」

「そりゃ恥ずかしいわよ! でも自分の料理をアンタに食べてもらうなんて初めてだし……」

「今日は先生の歓迎会でもあるから、先生におもてなしするのは普通でしょ!」

「それに先生にはいつもお世話になっていますから、そのお礼もかねてご賞味いただきたいのです」

「私も恥ずかしいですけど、手料理を先生に食べてもらえると思うと張り切っちゃいました……あはは」

 

 

 普段は恋愛弱者だけど、この前サヤに対して俺の身の潔白を主張していた時のように、やはりやる時はやる子たちだ。そりゃいざという時の覚悟がないとスクールアイドルなんてできないもんな。だったら俺もどっしりと構えてやろう。

 

 ってことで、その後はみんなに料理を食べさせてもらう介護プレイにより食事を進めた。流石の俺でも一度に5人の女の子から『あ~ん』攻撃をされるのは少し戸惑ってしまったが、どの料理も舌に合う絶品で文句なしだった。最初はコイツらが俺に抱く緊張を解すための合宿だったのに、どちらかと言えば俺がコイツらから与えられてる気がするな。でも女の子の手料理を、それを作った子が直々に食べさせてくれるシチュエーションに身を委ねない男はいない。客観的に見てみれば、なんかもう普通に恋人みたいなことしてるんないか俺たち……。

 

 さっき覚悟はあるとは言ったが、俺に手料理を食べさせるときは流石に緊張していたようだ。そりゃ想いの人に対して初めて手料理を振る舞うのだから仕方がない。俺に食べさせた時に俺からの感想を待っている時のあの表情は、なんというかこちらも見惚れそうなくらいだった。頬を赤くして、どんな感想を言われるのかドキドキしている期待半分・不安半分のあの表情、めちゃくちゃ愛おしくなったぞ。

 

 

 そんなこんなでみんなで料理を平らげて自由時間となった。いつもなら各々がプライベートに勤しむ時間の中、今日だけはみんなが同じ時間を共有する。普段学校内でしている何気ない日常会話も基本的には休み時間や下校時間までなので制限時間がある。でも今日は時間を気にせずお喋りできることから、時の流れがゆっくりに感じられた。

 

 同じ時を過ごしながらも、各々学校の宿題や自分に与えられたスクールアイドルの作業も並行して進めていた。

 そんな中、校内の宿泊部屋の外で星空を見ながらぼぉ~っとしているかのんを見つける。

 

 

「よぉ、作曲中か? 相変わらず変な方法で作曲してるんだな」

「へ、変って、そんなに変ですかね……?」

「千砂都から聞いたぞ。瞑想しながらとか、ヨガのポーズをしながらとか、とりあえず周りの雑音がなく集中して作業するのがお前風だってな。そうなると俺、邪魔だったか?」

「いえいえそんなことないです! むしろ先生が近くにいた方が落ち着きます……♪」

 

 

 驚いた。Liellaの中でもかのんは特に俺と一緒にいる時に緊張するタイプだったはず。それがいつの間にか落ち着くに変わっているなんて、やはり今回の合宿で心境の変化があったのだろうか。

 

 

「私、先生のことを手の届かない存在とか、雲の上の人とか、そんな感じで思っていました。先生は私の思い描く先生像の理想そのもので、親しみやすいけどどこか私とは生きている世界が違うって勝手に線引きしていたのかもしれません。でも、今日一緒に合宿をして分かりました。私、先生の隣にいるんだって。手料理を美味しいって言ってくれた時、とっても嬉しかったです。だからまた先生の喜ぶ顔が見てみたい。先生に笑顔になって欲しい。って、こんなこと子供の私に言われても迷惑ですよね、あはは……」

 

 

 かのんとの距離がぐっと縮まったのを感じた。彼女だけではなく他のみんなもそうであり、相変わらず積極的な可可と千砂都、悪態をつきながらも慕ってくれるすみれと恋。俺との接し方は違えど、この合宿で個々人とゆっくりコミュニケーションを取れたことでお互いのことを良く知ることができたことで、俺たちの距離はもうこうして隣にいるくらいにまで近くなったのだ。

 

 

「迷惑じゃない。むしろ俺のことをそこまで意識してくれていて嬉しいよ。今までも意識はしてくれていたんだろうけど、どっちかって言うと我武者羅で空回りしてたもんな」

「そうですね。あまり情けない姿を見せたくないと私も、みんなも強く思い過ぎていたんだと思います。でも今はもうそんな姿を見せたっていい。ありのままの私たちを先生に見てもらって、先生と一緒に『ラブライブ!』の優勝を目指したいです! 先生の喜ぶ顔、また見たいですから!」

「そうか。なら俺もお前たちの笑顔をもっと見たみたいよ。掲げる夢は一緒か」

「はいっ! ずっと先生と一緒にいたいです! 先生の笑顔、ずっと見てみたいので!」

「ずっと、か……」

 

 

 星空の下で見つめ合う俺たち。同じ夢を持っていることを確認し、お互いの心の距離を縮めた。

 かのんの頬がじんわりと赤くなっている。距離も近ければ、何故か顔も近い。このまま雰囲気に飲み込まれそうだ。このままお互いの顔が近づけば、男女の証を立ててしまうことになる。そうなってしまうのか、本当に――――――

 

 

「な~にを2人だけでロマンティックな雰囲気になっているのデスか……?」

「ふぇっ!? 可可ちゃん!?」

「ホントにアンタって抜け目ないわね。サヤさんの時もそうだったけど、すぐ告白するんだから」

「え゛っ!? き、聞いてたの……!?」

「覗き見するつもりはなかったのですが、あまりにもいいムードだったので様子を見るしかなかったと言いますか……」

「うんっ! いい告白だったよかのんちゃん! 私もちょっとドキドキしちゃった」

 

 

 まさか他の連中に見られてたとは……。まあ部屋から俺とかのんの2人が同時に消えたら不思議に思うのも仕方ないか。確かに当事者の俺からしてもさっきのムードはもうゴールインしそうな感じだったし、傍から見たら水を差すのは悪いって思うわな。それでも本当に1つになりそうだったから可可が耐え切れずに止めたってところか。

 

 

「ったく、雰囲気に飲み込まれそうになるなんて俺もまだまだだな。ちょっと冷えてきたし、そろそろ部屋に戻るぞ。おいかのん、座ってないで早く立て――――って、ん?」

「ふにゅ……」

「コ、コイツ、また気絶してやがる!? 結局こうなるのかよ!?」

「あ~あ、先生またやっちゃった」

「これ俺のせいなのか!?」

 

 

 いつもの恒例行事と言うべきか、かのんが告白文を放った後に羞恥心で気絶するこの流れ。せっかくのいいムードだったけど、もしかしたら唇を重ね合わせていた可能性があると思うと今のところはこれで良かったかもしれない。その代償としてかのんの羞恥心は抉りに抉られたわけだが……。つうか本人の意識が変わっても中々羞恥心は克服されないものだな。

 

 ただ、その翌日からの練習はかのんを含めてみんな動きに機敏さが戻っていた。

 かのんと恋は動きのガチガチさが消え、先走ったり大振りになっていた可可、すみれ、千砂都の動きは逆に緩和されていた。これも俺への気持ちを自分で見直して落ち着いた結果なのだろう。かのんの黒歴史がまた刻まれはしたけど、結果的には合宿は大成功だったんじゃないかな。

 




 この着実にハーレムが形成されていく流れが溜まらなく好きです!(笑) ハーレム好きな私が自分でハーレムモノを描くことで自足自給できているのが我ながら凄い……

 サヤさんの時も含めてかのんの告白文が結構目立っていますが、もちろん他の子たちも活躍させるつもりなのでお待ちください! 他のグループと違って5人しかいないので、どうせなら1人1人濃密に描いてあげたいですから。

 ここ数話はそれなりに真面目な話が続きましたが、次回からいつも通りに戻ると思います。なんせあの人が満を持して登場するので多分……(笑)

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