俺が結ヶ丘のスクールアイドル部の顧問になってから早数日が経過した。最初はかのんたちが俺のことを気にし過ぎていたせいでまともな練習にならなかったけど、合宿を経てお互いのことを良く知り、距離もぐっと縮まったことでようやくしっかりとした練習に漕ぎつけることができた。まあ想像以上に距離が近くなり過ぎて危うくマウス to マウスの展開になりそうだったけど……。
そんなわけでかのんたちとの日常は顧問になる以前よりも色濃くなり、教師としての仕事は増えたけどそれなりに充実した毎日を送っている。やっぱ汗水垂らしながら頑張っている女の子を見られるのは俺の趣味に合ってる。そのために教師になったみたいなところあるからな。完全に私欲だけど、それで女の子に迷惑をかけているわけではないから別にいいだろう。むしろ女の子たちから好かれるくらいだから誰にも咎められる言われはない。
と、まぁこんな感じで顧問としての生活も日常化してきたある日。
「えっ? 新しい先生?」
「はいっ! さっき理事長室の前を通ったら聞き慣れない声が聞こえたので、こっそり聞き耳を立ててみたのデス!」
「ウキウキしながら言うセリフじゃねぇな……」
「そうしたら中から若い女性の声が聞こえてきて、どうやら近々教師になるとかなんとか……。しかもその方、教師の仕事は初めてだそうデス」
「こんな秋も真っ盛りの時期に新人かよ。学期や年度の切り替わりなら分かるけど、どうして今?」
「さぁ?」
部室で可可は盗聴した内容を俺たちに披露する。教師としてはまずその汚い行為を注意すべきなのだが、俺の関心は新人教師の方に傾いていたためここはお咎めなしにしてやろう。
さっきも言ったけど、新しい教師が入って来るには時期が中途半端だ。しかも未経験の新人だなんて、この学校は生徒数だけではなく教師の数も足りてないのだろうか。いや、そういった話は今まで聞いたことがない。むしろ生徒数が少ないからこそ教師の数は少なくてもいい。しかも人を入れればそれだけ金もかかる。資金が潤沢ではないこの学校に新人教師を入れるなんて、、一体何を考えてんだあのクソババ……理事長のやつ。
それにしても若い女性の新人教師か……。もしかして俺、まだ1年目なのに先輩になっちゃうのか?? 女の子から『先輩』呼びで慕われるのってちょっと憧れてたから、そのシチュエーションが発生しようとしている状況に喜びを隠しきれない。高校時代は年下の奴らからは『くん』付けだった(μ'sの方針で)し、Aqoursや虹ヶ咲の奴らからは基本『さん』付けだからな。男ってのは『お兄ちゃん』だったり『先輩』だったり、呼び方1つでテンションが上がる単純な生き物なんだよ。
そんな感じでワクワクしていると、同じく部室にいるすみれがジト目で、千砂都がニヤニヤしながらこちらを見つめていた。
「アンタなにこっそり笑ってるのよ気持ち悪い……」
「いやしてねぇよ。してない……よな?」
「どうせ『若い女性』っていうところに惹かれたんじゃないですか~? 男性教師って年下の女子生徒ばかり相手にするから、同い年以上の同僚を好きになるってよく聞きますよ!」
「やけにリアリティのある分析だな……。いや、俺も意外と欲しているのかもしれないな……」
「なぜ!? 私たちがいるのに!?」
「そうよ! ショウビジネスで輝ける魅力のある私がいて何が不満なわけ!?」
「そりゃお前らはお前ら、他の女は他の女だから。お前らに魅力がないとは言ってねぇよ。むしろある方だから安心しろ」
「「うぅ……」」
「自分たちで焚き付けておきながら恥ずかしがるなよ……」
いくら俺に慣れたとは言っても羞恥に対する弱さは克服できていないようだ。てか自分を褒められてここまで顔を赤くして恥ずかしがれるのもすげぇよ。羞恥心の弱さってよりも俺に褒められたからなのかもしれないけどさ。
ただ千砂都が言っていた『若い女性』に惹かれたというのは本当の話だ。隠す必要はない。そりゃ男だから若い女の子に興味を持つのは当然のことだ。自分の周りにはたくさんの女の子がいるが、それでも飽きることはない。だから自分の日常に新しい若い女性が増えるとなれば、それはそれは大いに期待してしまうだろう。男ってのは性欲に従順だから……。
そんなことを考えていると、同じく部室にいるかのんと恋の会話が聞こえてくる。
「恋ちゃんは生徒会で何か聞いてないの?」
「いえ、こちらに全く情報は降りてきていません。なので新しい先生が来るなんて私も初めて知りました」
「そうなんだ。だったら私たちにも知る術はないし、気になるけど練習に行こっか」
「そうですね。理事長と面会しているということは、もう間もなく生徒にも紹介されるでしょうから」
「そうデスよ! さっき理事長と会っていたとすれば、まだ学校にいる可能性は高いと思いマス!」
「確かに! だったら私たちも一足先に会えるかも!」
「「へ……??」」
早速話の流れが二分されてるけど大丈夫かオイ……。新しい先生のことは気になるけど今足掻いても仕方ないと練習しに行こうとしたかのんと恋に対し、新人教師に興味津々な可可と千砂都。ただこのコンビの組み合わせは前者の2人が圧倒的に不利で、なんせ可可と千砂都なんて行動力の塊で声もデカい奴らだ。そんな奴らが一度暴走し出すと――――
「ちょっと先取りして顔を見に行ってみまショウ! 多分まだ校内のどこかにいると思いマス!」
「そうだね! 気になって練習どころじゃないから行こうよ、みんなで!」
「「みんな!?」」
まあこうなるわな。しかも練習をそっちのけにされるどころか、自分たちまで巻き込まれてしまい驚くかのんと恋。こうなってしまうと押しの弱い性格の2人は声のデカい可可と千砂都に対抗することはできず、心の叫びも虚しく話に流されるしかない。言ってもいつものことだけどな……。
「すみれちゃん!」
「この私に対抗できる魅力があるかどうか、いち早く確かめてやるわ!」
「すみれちゃ~ん……」
かのんは多数決勝負に持ち込むためにすみれを頼ろうとしたが、まさかの裏切りにより戦うことなく敗北してしまった。これで今日の練習サボりは確定。顧問が入ってようやく乗りに乗り始めたのにこれでいいのかコイツら??
ちなみに俺もどちらかと言えば気になるから、顧問としては練習を押すべきだろうが男としては『若い女性』に釣られてしまう。ま、練習はいつでもできるけど新人教師のフラゲは今日しかできない可能性があるので、気が散って練習に身が入らないのであればコイツらの興味を満たしてやるのがいいだろう。
~※~
「で? どこを探すんだよ? 外見容姿も分からねぇのに」
みんなで部室を飛び出したのはいいが、ぶっちゃけその新人教師がどこにいるか見当もつかない。しかもまだ学校にいるかもというのは可可の予想であり、最悪の場合もう帰ってしまっていて無駄足になる可能性もある。とりあえず好奇心だけで後先考えず突っ込むのはコイツの性格らしいけど……。
「ふっふっふ、実は事前にまだ学校に残っている友達から情報収集をしたのデスよ! もし新人教師っぽい人を見かけたらその特徴を教えて欲しいと。名探偵の腕は伊達ではないのデス」
「なにが名探偵よ。さっき裏で必死に電話して聞きまくってたくせに」
「こ、この世は結果デス! 結果的に新人教師さんを見つけられればOKデスから!」
「まぁまぁ、とにかくみんなからの情報を教えてよ可可ちゃん」
電話で多方面に聞けるくらい可可の人脈は広いらしい。まあ交遊的な性格なので誰とでも友達にはなれるか。そもそもこの学校は生徒数が多くないので全校生徒がほぼ顔見知りになっていてもおかしくない。ただ今は放課後で生徒数が少ない状況なので、正しい目撃情報をキャッチできるかは微妙なところかもな。
「はい、いただいたい情報を上から読み上げていきマス。若い女性……は可可の予想通りデスね。他は……綺麗な黒髪ロング、背が高くてスタイルもいい、美人すぎて女の自分でも惚れそう、頭が良さそうなオーラを感じる、お姉ちゃんに欲しい……」
「な、なんか凄い……。凄いしか言えないけど……」
「最後のとかただの願望だったけどね……」
「本当に存在するのですか? そこまで女性としての理想を詰め込んだ方って……」
「ふ、ふんっ! ま、まぁまぁの魅力ね……」
みんなから貰った情報には、女性なら誰しもが思い描く理想の女性の要素がこれでもかというくらいに詰め込まれていた。カタログスペックだけでここまで、異性ならともかく同性の生徒たちにここまで言わせるなんてどんな奴が着任してるんだ……? 情報を聞く限りでは女の子たちはかなりその先生に惹かれているようだ。情報の中に願望が紛れ込んでいたのがその証拠。かのんたちも唖然としていた。
ただ、俺としては気になるところがある。それは自分のよぉ~~く知っている人物にさっきの情報全てに合致する奴がいるってことだ。だが名前を呼んではいけないアイツは今年に入ってから海外にいるため日本にはいないはず。だから別人だとは思うのだが、俺の嫌な予感は大体当たるから怖いんだよな……。
「でもこれだけ魅力的な女性だったら歩いているだけでも注目されるよね。もしまだ校内にいるとしたら探せばすぐ見つかりそうだけど……」
「というより、校内にいるかどうかは理事長に聞けば分かることじゃないの? ほら、可可ちゃんが盗聴してたのってまだ20分くらい前だし」
「いえ、この時間は別の仕事で外出すると仰っていました。その先生との面会が終わった後なのでもう出かけているはずです」
「やはり探偵の鉄則は足デス! 皆さんにここまで言わせるような女性のお顔、是非この目で拝見しマス!」
可可の乗り気は変わらないが、最初は探すことを渋っていたかのんと恋にもやる気を感じられた。ここまで属性を盛りに盛った奴のことが気になって仕方ないのだろう。誰一人として酷評する人はいなかったのは本当にソイツに魅力があるのか、それとも飲食店のサクラレビューのようにヤラセなのか。どのみちこの目で見てみれば分かることだ。俺も俄然興味がある……と言いたいが、アイツの顔がチラつくからあまりやる気が出ないんだよな……。
その後、校内を回って例の人と会話をした生徒たちから色々情報を聞いた。
聞いたのだが――――
「さっき音楽室に来たときに、壊れて困っていたピアノをすぐに直してくれたの! あんな短時間で修理できるなんて凄いよ!」
「化学の実験で行き詰っていたのですが、あの方の助言のおかげで大成功を収めました。少し話を聞いただけでこの結果、何者ですかあの方は……」
「料理の味付けに困っていたんだけど、あの人のアドバイス1つで劇的に美味しくなっちゃった! これで料理部の大会にも自信を持って参加できるよ!」
「この問題をどう生徒に教えようか悩んでいたけど、その教え方を指導してもらいました。教師として非常に勉強になり、尊敬します」
などなど、行く先々で人助けをしているようだ。
その事実にかのんたちも驚きを隠しきれないようで――――
「見た目も完璧で人助けをする優しさもある。どんな聖人が先生になったの……?」
「まだ姿を見たことないのに噂を聞くたびに株が上がっていくわね……」
「しかも生徒だけじゃなくて先生にも手助けして感謝されているなんて、とんでもない人が先生になったものだね……」
美人で壊れ物の修理ができ、化学に精通していて料理の知識もあり、そして聡明。更にその知識をフルに活用して人助けをしている。かのんの言う通りの聖人だが、俺の想像で思い描かれる姿は悪魔そのもの。この想像が俺の思い過ごしだと助かる、というか思い過ごしであって欲しいが……。そもそも利己主義者のアイツが誰かの手助けをするなんて考えられないから、流石に別人だろう……って納得できればこんなに悩まねぇよ!!
「生徒から教師まで様々な方々を助けているということは、校内全体を見回り歩いているということですよね。これだと中々お会いできない気がします」
「このまま諦めたくはありマセン! むしろここまで聖人だともう今すぐにでもお目にかかりたいくらいデス!」
「いや、俺帰っていいか?」
「えっ、どうして?」
「う~ん、なんか顔を合わせるべきではない気がして……」
別人かどうかはさて置き、余計なことが起こるのであれば最初から首を突っ込まないのが定石だ。災いの予兆を感じ取ったのなら嵐が来る前に逃げるに限る。自分の危険予知には従った方がいい。特に俺の不幸センサーは敏感だからな……。
「新人教師が聖人すぎるからビビってんの? 案外臆病なのねアンタ」
「お前な、この世には出会ってはいけない奴がいるんだよ。アイツの織り成す地獄を知ってたら臆病にもなるって」
「先生がこの世の果てを見たような顔をしていマス!? 一体何があったのデスか!?」
「何があったも何も、何かなかったことの方が少ねぇからな? その新人教師ってのが人違いであれば助かるんだけど……」
「いや~人生ってのはね、上手く行かないようにできてるものなんだよねぇ~」
「「「「「えっ!?」」」」」
「お前……」
美人の黒髪ロングで容姿良し、スタイル良し、機械や化学に精通していて料理もでき、頭がいい。こんな最強スペックを持ち合わせている奴はやっぱりこの世で1人しかいない。俺にとって時にかけがえがなかったり、時に人生を狂わせた悪魔。
「やっほ! 久しぶり――――零君♪」
「秋葉……」
神崎秋葉。俺の実姉であり、人の不幸を嘲笑う悪魔の研究者。悪魔。悪魔。悪魔。以上。
ちなみに生徒たちが可可に送った容姿の情報はその通りで、外見だけ見れば世界中の男が付き合いたいと思えるくらいの美麗である。ただコイツは男どころか他人に興味はなく、ただの実験モルモットとしか考えていない。人知を超えた発明ができるくせに、それを世界平和に役立てようとか貢献しようとか一切考えておらず、ただただ自分の愉悦のためだけにその力を奮う。唯一興味のある人間が俺らしいので、基本的にはその力は俺の周りに降り注がれるのだが……。
「久々なのになにその顔! まるで私に会いたくないって言ってるみたいだけど?」
「会いたくねぇよ」
「いい即答だね。でも私は海外にいる間と~~っても零君に会いたかったんだから! 実家にいた頃は毎日顔を合わせていたのに、これが失って分かる寂しさってやつかな~」
「てかどうしてここにいるんだよ。仕事はどうした?」
「飽きたから帰ってきちゃった。零君がいない生活なんてつまらないしね。それにこの学校の教師になれば、零君と一緒にいる時間が増えてそっちの方が楽しいもん。だから教師になっちゃった♪」
「かるっ!? そんな簡単に教師になれねぇんだよここまでのプロセス知ってるか!?」
「零君が一番よく知ってるでしょ? 私に常識なんて通用しないこと」
「全国の教師目指して頑張ってる奴らに謝れ……」
相変わらず自由奔放っつうか、もうやりたい放題だな……。海外に仕事に行っていたはずだがそんな理由で帰国して、現地の人たちは大丈夫なのだろうか。そして勝手に教師になったそうで、免許なり面接なりはどこへ行ったんだ……。でも常識が通用しないと言われて頷くしかないのが悔しいよ俺。
あっ、そういえばコイツらを放置したままだった。見てみればみんなこちらを眺めたまま固まっていた。聖人だと思っていた女が俺と親しげに話しているんだから、そりゃそうもなるか。
「えぇっと、その方って先生の知り合いなんですか……?」
「いや、赤他人だ」
「相変わらずつれないなぁ~もうっ! こんにちはLiellaの諸君。近々ここの教師になる神崎秋葉です!」
「えっ、神崎って……」
「みんな大好きなこの零君のお姉ちゃんです! よろしくね!」
「「「「「ふぇっ……え゛ぇぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?!?!?」」」」」
この驚き方、前も見た気がするぞ……。
そんなこんなで実姉であり悪魔でもある秋葉がこの学校にやって来た。今まで平穏な毎日を過ごしていたのに、今日からまた波乱になるのか……!? おいおい勘弁してくれよ……。
ようやくLiella編でも登場させることができました!
今までは零君とかのんたちの関係を進めることがメインだったので登場は渋っていましたが、その関係性もある程度進んだので話のネタのためにも彼女に来てもらっちゃいました(笑) この小説では現実ではありえないネタをするために必須のキャラなので、Liella編でも大いに活躍(?)してもらう予定です。