ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

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過去への扉:銀河の女王

「やっぱり早く帰れると清々しさが違うな。精神的にも体力的にも」

 

 

 最近は仕事も順風満帆であり、部活が休みであれば定時で上がれることも多い。別に教師としての仕事が辛いわけではないので残業が嫌ではないのだが、やはりまだ日が落ちていない時間に1日の仕事が終われると身も心も晴れやかになるってもんだ。特に最近はスクールアイドル部の顧問になったことで放課後はほぼ毎日練習に付き添ってたから、こうして早く帰れること自体が珍しかったりする。もちろん顧問は苦ではないし、むしろアイツらと一緒にいる時間が増えて楽しくはあるんだけど、よくある『結婚したけどプライベートの時間は欲しい』って感覚と同じだ。誰しも1人の時間を謳歌したいときはあるんだよ。

 

 そんなことを考えながら街中を練り歩いていると、金髪の少女が道端で誰かと会話をしている光景を目にする。金髪+美少女と言えば俺の身近にはたくさんいるが、ロングヘア―に美貌を伴った女の子は知りえる中で1人しかいない。

 

 

「すみれか……? てかあの男……誰だ?」

 

 

 すみれと話しているのは謎の男。爽やかそうで雰囲気も良さげだが、一体なにをしてんだアイツら? まさか付き合っている――――ってことはないか流石に。男の方は明らかに社会人っぽいし、女子高生と社会人がそういう関係になるのとか正気の沙汰じゃない。ん? まてよ? これブーメラン発言か……。

 

 とにかく、すみれが変な奴に絡まれているのであれば助けてやらなきゃいけない。スクールアイドルとして名が広まると男に声を掛けられやすい、というのは聞いたことがある。特にスクールアイドルは容姿が抜群に良くないと成り立たない故、そりゃ男に注目されるのは必然だ。Liellaも最近徐々にスクールアイドル界隈に認知されるようになってきたし、男が寄り付いてもおかしくないだろう。

 

 俺は人混みを避けながらすみれたちに近づく。だがその途中でアイツらの会話が終わったようで、俺が到着する頃には男は早々に立ち去ってしまったようだ。

 

 

「あれ? 先生?」

「よぉ。さっきの男はもう帰ったのか?」

「えぇ……。って、どうして先生が知ってるのよ? まさか見てたわけ?」

「たまたまだよたまたま」

「ちょっと焦ってる? ははぁ~ん、さては私がナンパされてると思って急いで止めに来たわね?」

「自惚れるなよ。教師として不純異性交遊をしていないか確認しに来ただけだ」

「アンタに不純異性交遊とか言われたくないんだけど……」

 

 

 まあそれに関しては一理、いや百里くらいある。コイツらは既に俺が虹ヶ咲の奴らと交流があることも知っており、しかも侑の仕業なのか俺と歩夢たちがいい関係を築いていることも知っているらしい(流石に身体を重ねたとかの事実は知らないだろうが)。そのせいで俺の女の子ネットワークが広いことがバレている、つまり教師のくせに女子高生とプライベートな繋がりが強い輩と認識されているのだ。だから俺が不純異性交遊を語るなんて確かに滑稽だな……。

 

 ちなみにナンパされているとは思ったけど、危機感を抱いていないってのは本当だ。そりゃコイツが誰に想いを募らせているのか俺が一番良く知ってるからな。他の男に靡くわけがないだろう。

 

 

「で? 結局なにを話してたんだ?」

「スカウトよ。ス・カ・ウ・ト。断ったけどね」

「え? スカウトって、お前が待ち望んでいたあの?」

「そうよ。とは言っても最近では珍しいことじゃなくなったけどね。Liellaとしてそこそこ名が知られるようになってから、さっきみたいに声をかけられることが増えたから」

「そうなのか。でもあまり嬉しそうじゃないな。断ったって言ってたし。スクールアイドルを始めたての頃はあれだけ渇望してただろ」

「これも環境の変化ってやつよ」

 

 

 もう半年くらい前になるか、春の時期のコイツはスカウトされたい欲が特に顕著で、放課後に街に繰り出してはショウビジネスの世界へ誘われるのを待っているという中々に難易度の高いことをしていた。動画のネタだったら間違いなく『スカウト耐久』のタイトルがつけられそうだ。自分からオーディションを受けずにあくまで誰かに誘ってもらうその女王様気質、俺は好きだけどよほど自分に自信がないとできないことなので感心するよ。もちろん世の中はそんなに甘くはないのでスカウトされることはなかったが、その後かのんにスクールアイドルの勧誘を受けてめでたくグループ入りした、というのがコイツの経緯だ。

 

 そんな過去があるから正直スカウトを受けたら喜ぶものかと思っていたが、今のコイツは至って冷静。むしろスカウトされることをどこか鬱陶しいと思っている節がある。さっき男と会話してた時も冷めた様子だったしな。

 

 

「今はスクールアイドルに力を入れたいから他のことをする余裕なんてないのよ。なんだかんだ居心地いいしね、みんなと一緒にいるのって」

「なるほど。かのんたちに聞かせてやりてぇ」

「ぜっっっっったいにダメ!! 100%馬鹿にされるに決まってるわ。特に可可とか可可とか……」

「いいんじゃねぇの? アイツらも喜ぶだろうし、それだけグループの絆も強くなる」

「私が恥ずかしいからダメ!!」

「はいはい……」

 

 

 恥ずかしいと言いながら俺には素直な気持ちを吐き出せるってことは、それだけ俺のことを信用してくれているってことか。それか感謝の気持ちを本人たちの前で言うのは恥ずかしいだけか。どちらにせよ仲間想いなのは変わらないな。

 

 せっかくなので2人で帰宅することにした。すみれと2人きりになることはあまりないのでかなり新鮮。こうして美形の男女が横並びだと服さえプライベートのものであれば恋人同士に見えても不思議じゃない。制服の女の子と一緒に並んでいるので教師と生徒……よりかは兄妹っぽく見えるか。

 

 

「でも驚いたよ。最初はスクールアイドルなんてアマチュアだって言ってたお前が、今はスクールアイドルにお熱だなんて。スカウトされてプロへの道が決まりでもしたら、即グループから抜けるかと思ってたよ」

「アンタがいるからよ……」

「ん?」

「べ、別に!! も、もし私が抜けちゃったら寂しい?」

「そりゃかのんたちは寂しがるだろうけど、俺はどうだろうな。俺はスクールアイドルのお前を応援してるってより、お前自身を応援してるから寂しくはならないかもしれない。お前が別のステージで輝くっていうのなら俺は止めたりしない。別にスクールアイドルに拘りがあるわけじゃなくて、単に頑張ってる女の子を見るのが好きなだけなんだけどさ」

「ふ、ふ~ん……」

 

 

 すみれは赤面してそっぽを向いてしまった。人に質問しておきながらそっちからの返答はなしかよってツッコミを入れたかったが、どうやらまたクソ雑魚な羞恥心がくすぐられて本人はそれどころではないらしい。つうか俺がみんなに本心を語るたびに頬を赤くされるのか……。顧問になって距離も近くなったんだし、そろそろ恋愛弱者を卒業してくれると助かるよ。むしろ近くなったからこそ悪化してるとかあるのか……??

 

 

「そういえば、私がスクールアイドルをやる前もこうして一緒に帰ったことがあったわよね」

「そうだっけ? あぁ、スカウトされようと周りをキョロキョロしていて挙動不審なお前を補導しようとしてたんだっけか」

「違うわよ!! まああの時はそれなりに必死だったから怪しいと言えばそうだったかもしれないけど……。そんなことよりもっと大切なことがあったでしょ! と言ってもその調子だと覚えてなさそうね。私にとっては忘れられない時間だったけど……」

「かのんに勧誘されてた時期だっけ?」

「しっかりと覚えてるじゃない!! 惚ける必要あったわけ……?」

「お前と初めてまともに話した日だからな。そりゃ覚えてるよ」

 

  

 そういやその日も今日みたいに街中ですみれを見つけて話しかけたんだった。その日は今日みたいにスカウトされているところではなく、さっき言った通り怪しい動きをしているコイツのことが気になったんだ。それで思わず話しかけてしまった。

 

 

「あの時のお前は今以上にツンツンしてたよな。俺だけじゃなくて誰にでも噛みついていた気がする」

「あの時はショウビジネスの世界に行くことに躍起になってたから。それにかのんから何度も誘われるし、スクールアイドルなんて訳わかんない単語も出てくるし、それなりにうんざりしてたのよ」

「でも興味はあったんだよな? かのんと可可の初ライブまで見に来るくらいだから」

「それよそれ。アンタと初めて話した日にそう言われた時も驚いたわよ。今日もそうだけど、アンタ私のこと見過ぎじゃない??」

「可愛い女の子はつい目で追っちまうんだ。男だからな」

「顔がイイからってセクハラ発言が許されると思ったら大間違いだから……」

 

 

 目で追っているだけでもセクハラになるとは世知辛い世の中になったもんだ。だが俺だって女の子なら誰でも惹かれるわけではなく、自分のお眼鏡にかなう子にしか興味を示さない。つまりコイツから運命的な何かを感じ取ったってわけだ。何年も前から美女美少女と一緒にいる俺の関心を引いたんだ、それこそ誇ってもいいことだぞ?

 

 

「街中にまで自分の先生に話しかけられて最初はウザって思ったけど、あの時があったから今の私がいるのかもね」

「そんな人生逆転のイベントなんてあったか?」

「アンタにとってはその程度かもしれないけど、私にとってはあったのよ。そもそも、ショウビジネスの世界に行くこともスカウトを待ってたことも、何もバカにしなかったのはアンタが初めてだったしね。しかも『俺はお前が街中でスカウトされてもおかしくないって思うぞ。だってお前美人で綺麗で、魅力あるじゃん』なんて恥ずかしいセリフ、普通は生徒に対して言わないわよ」

「そんなこと言ったっけ? でも魅力あるだろ、実際」

「だ、だからそういうことをサラッと言うのはやめなさい! はぁ、アンタの周りの女性って苦労してるわね絶対……」

 

 

 いやそれ侑にも耳にタコができるくらいに言われてる。なんならアイツが一番苦労してるまであるからな……。

 俺はどちらかと言えば自分の気持ちを隠さないタイプなので素直に口に出してしまう。しかも女の子を褒めることを恥ずかしいこととは一切思っていないため、そこで女の子たちと認識齟齬が起きるらしい。まあ褒めちぎって恥ずかしがっている様子を見たいという俺のサディストな心が疼く、ってのもあるけどさ。

 

 ちなみにすみれに魅力があるって言ったのは紛れもなく本心だ。嘘偽りなんて一切ないし、あの時から本気でスカウトされてもおかしくないと思っていた。だって色白の金髪美人でスタイルもいいって、男が放っておくわけねぇだろ。教師じゃなかったら俺が引き取ってやったかもしれない。

 

 

「でもアンタって褒める時は褒めるし、諭す時は割と厳しく諭してくるわよね。私がかのんたちスクールアイドルを馬鹿にしてた時、『アイツらは確かにアマチュアだけど、自分が輝くのにプロもアマも関係ないだろ。誰かに声をかけてもらうまでくすぶっている誰かさんより、アイツらの方がよっぽど夢に近づいてるぞ』って言ってきたくらいだし」

「気に障ったのなら悪かったよ」

「いえ、むしろ私がスクールアイドルになる着火剤になったわ。スカウトを待つだけのくすぶっていた私よりも、自分たちでゼロから必死でファーストライブに漕ぎつけて、しかも結果を出した2人の方がよっぽど輝いて見えたもの。心では分かってたけど、それを認めたくないからプロだのアマチュアだのうだうだ言ってたのよね」

 

 

 コイツは子供の頃に少しメディア進出した経験があるから、ズブ素人のかのんたちのことをおままごとだって思う気持ちは分からなくはない。すみれは確かに魅力的な子だけど、魅力だけで言えば自分たちの力で何もないところからステージに上がったかのんと可可の方が()()()()魅力的だった。それを自覚していたからこそコイツもアイツらのファーストライブを見に来てたわけだしな。

 

 

「それにスクールアイドルに誘ってきたのもアンタだった。かのんもそうだったけど、後押ししてくれたのはアンタだったわよね。『お前はどうなんだ? 自分が輝けるステージに、立ってみたくないか?』って」

「だってあのままだとまたスカウトを待ってるだけの存在になってただろ。だから自爆する前に引き込もうとしただけだ。ま、俺がいなくてもかのんたちが何とかしただろうから必要のない助言だったよ」

「いいえ、先生のおかげ。スクールアイドルをやる前も、その後も、ずっと背中を押してもらったから。視野が狭かった私の世界を広げてくれたわ」

「珍しいな。お前が素直に俺を認めてくれるなんて」

「昔に浸るときって感傷にも浸っちゃうじゃない? そういうことよ」

 

 

 その時に感謝を示せなくても、時間が緊張を解して素直になれることもある。いつもは顔を真っ赤にして突っかかってくるくせに、今のコイツは一回りも二回りも大人に見える。いつもこうだったらいいんだけど、ツンデレのたまに見せるデレの威力は凄まじいのでこれはこれでありなのかもしれない。決してツンツンされたいってM属性じゃないからな……。

 

 

「そう考えると、今年の私の人生ってずっとアンタがいた気がするわ」

「なんだ、またストーカーだって言いたいのか?」

「そうね、かのんも可可もそうだけど、頼んでもないのにお節介を焼いてくる人たちばかり。みんなストーカーよ」

「それだけお前のことが気になって、好きだってことだろ。でなきゃ付きまとったりしねぇよ」

「……アンタも私のことが好きでその……付きまとってたわけ……?」

「さぁな? 俺は俺のやりたいことだけをしたまでだ」

 

 

 俺は利己主義者だから誰かを助けようと思って行動することはあまりない。自分のやりたいように行動してたらたまたま誰かのためになっていただけだ。とか言ってもみんな微笑むだけで誰一人として共感してくれないのは何故……?

 

 

「自分がやりたいから……ね。だったらこの前、私が初めてライブのセンターになるからってアガってた時に励ましてくれたこと、あれも自分のため? 『大丈夫、お前が見えるところで見守ってやるから安心しろ』って、私の彼氏かっての」

「あぁ~そんなこともあったな。別に彼氏面をするつもりはなかったし、教師としてでもなかったよ。ただあのままお前が輝く機会から降りてしまうことを見逃せなかっただけだ。そうしないと俺が後悔するからな」

「ふふっ、なんだかんだ言い訳してるけど、やっぱり私のため――――」

「それ以上はいい。全部俺のためだ」

 

 

 なんかコイツ、俺のことを分析し過ぎてないか……? あまり調子に乗らせると面倒だから会話を打ち切ったが、なんか得意気に笑っているので遅かったかもしれない。俺のこういうところって付き合いの長いμ'sの奴らやずっと隣にいる侑には見抜かれてんのかな。だから『俺のため』って言ってもアイツらは微笑んでたのか……?

 

 

「自分のためであれ相手のためであれ、アンタのおかげで今の私がいるのは確かだわ。なんだかんだ一緒にいてくれたときは安心して、鼓舞されるたびに自分の世界が広がった。私の中で先生の存在はもう大きすぎる……。だから私は先生のこと……」

「…………」

「あっ、もうここでいいわ。送ってくれてありがとね」

「あぁ。じゃあまた明日。宿題ちゃんとやって来いよ」

「小学生じゃあるまいしそんな忠告いらないから! じゃあね!」

 

 

 そう言って分かれ道ですみれと別れた。

 アイツが最後に言いかけたセリフ。その最後にくる言葉は容易に想像できる。だが、アイツもまだその時ではないと思って言わなかったのだろう。アイツが言わなかったら俺が話題を変えていたと思う。

 

 それにしても、こうして過去を振り返ってみるとコイツらとまだ半年しか一緒にいないのに色々あったと感傷に浸ってしまう。俺が教師になって初めて担当した生徒ということもあるだろう。それになにより、俺たちの関係がどれだけ進んだかが浮き彫りになる。他の奴らとも同じように振り返ったらその浮彫がより鮮明になるんだろうな。たまには過去を見つめ直すのも絆の繋がりをより強く感じられていいかもしれない。

 

 今はまだ保っておきたいこの関係。でももしかしたら、コイツらともいつか……。

 ま、そんなナーバスにならなくてもいいか。今は教師として可愛い生徒たちに囲まれるこの生活を謳歌するとしよう。

 




 今回はすみれとの過去回でした!
 まだ1年生なのに美人で仲間想いでネタもこなせる万能キャラなので、私としても非常にお気に入りのキャラです! 特にセンターを任された時の回は非常に彼女らしく、仲間からも頼りにされていることが分かるいい回だったと思います。

 これからも定期的にLiellaの面々と零君との過去回は描いていく予定です。ただもう一歩踏み込めばゴールインしそうな感じがするのは気のせい……?


 虹ヶ咲編もアニメ2期が放送している間にまた始動させたいと考えています。ただタイミングはいつになるか不明で、もしかした来週あたり唐突に虹ヶ咲編2の1話が差し込まれて投稿されるかもしれません(笑) まあそれは気分次第ってことで……
もし虹ヶ咲編2を投稿する場合はLiella編と同時並行になると思います。

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