歩夢の何気ない一言。それは私と歩夢、そしてお兄さんの3人一緒にお風呂に入ろうという衝撃発言だった。歩夢はお兄さんにデレデレだから時たまぶっ飛んだ発言をすることはあるけど、さっきのは過去一で驚いてしまった。確かに食卓を囲んでいる時はいい雰囲気だったとは言え、だから一緒にお風呂に入ろうという思考回路が宇宙どころか銀河系遥か彼方へとぶっ飛び過ぎている。
どんな間違いがあってもお兄さんとお風呂に入るわけがない。女性のカラダを性的にしか見てないお兄さんの前で肌を晒したらどうなることか。お兄さんの相棒として隣にいるとは言ったけど、裸の付き合いをするつもりは一切ないんだから!!
だから私は――――――って、どうして2人と一緒に脱衣所にいるのかなぁ!?!? またこのパターンだよ!! 否定しているつもりでも心はお兄さんに流されちゃってるこのパターン!! そもそも女の子同士でお風呂に入るのも結構恥ずかしいのに、それがお兄さんとだなんて……。
「侑ちゃんどうした? 早く入ろうよ」
「ぐっ……。行かなきゃダメ?」
「そのために服を脱いだんだよね? ほら、早くしないと先に行ってる零さんがのぼせちゃうよ?」
「そうなんだけどさ……」
髪を下ろし、服を脱ぎ、タオルを身体に纏ったまではいいもののお風呂のドアの前で躊躇する。この先にお兄さんがいると思うと緊張してしまいドアを開ける手が動かない。そりゃ一般の女の子であれば男性とお風呂に入るのは緊張して然りで、歩夢が特殊なだけだと思いたい。自分の周りの女の子はお兄さんLOVE勢ばかりだから常識外れが常識みたいになっちゃってるからね、私だけは健全者でいないと……。
とは言いつつも、背後には歩夢がいるので逃げられない。私に残された選択肢は1つ、お風呂場に入るだけ。でもそれができたら苦労はしないんだよね……。
「緊張してるなら手をつないで一緒に入ろ!」
「ちょっ、歩夢!? ちょっと待って――――――あっ!!」
歩夢は私の手を握り、こちらの抵抗する間もなくお風呂場のドアを開けた。タオル1枚を纏った私たちが手を繋いで、遂にお風呂場のお兄さんと対面する。
「零さん、お待たせしました♪」
「遅いぞ――――おぉ……」
「ジ、ジロジロ見ないでくださいっ!!」
「お前な、この状況で見るなっていう方が無理あるだろ。でもなんつうか……2人共綺麗だよ」
「ありがとうございます! よかったね侑ちゃん!」
「喜んでいいのかなぁ……」
当たり前だけどお兄さんに全身を見られてしまう。もちろんタオルで隠してるから大事なところは見えないけど、それでも肩や脚など普段見せない部分が思う存分曝け出されていて心底恥ずかしい。ただ羞恥心はあれど嫌悪感はないので、お兄さんに見られること自体に抵抗はない。そう考えると私も相当お兄さんや歩夢たちの雰囲気に飲み込まれてるなぁって思うよ。
そして当然お兄さんのカラダも晒されている。下半身にタオルを巻いているので流石に女の子の前で全てを露出させる変態さんではないみたい。
それにしてもお兄さんって意外といいカラダをしてるな……。こちらに背を向けて身体を洗っているけど、その背中の広さは男性としてのガタイの良さが現れている。カッコいいと思ってちょっと見入ちゃったよ。普段はあまり骨格がいい感じには見えなかったから着痩せするタイプなのかもしれない。
「零さん、私がお背中をお流しします♪」
「そうか、ありがとな」
「ほら、侑ちゃんも!」
「へ?」
「私は零さんの背中を洗うから、侑ちゃんは前から洗ってあげてね♪」
「へ……ふぇええええええええっ!?」
また出たよ歩夢の無茶ぶり!! お風呂に誘ってきたときもそうだけど、お兄さんが絡むと強引が過ぎる!!
いや落ち着こう。歩夢がこう言ってるだけでお兄さんは乗り気じゃないかもしれない。歩夢とはほぼ恋人同士みたいな感じだけど、私とは裸の付き合いをする間柄でないとお兄さんも分かっているはず。お兄さんは変態だけど性欲の権化ではない。だから歩夢の暴走も抑えてくれる――――
「侑、いいか……?」
乗ってきちゃったよ!! ていうかなにその目は!? 期待とか、興奮しているとか、そんな活気な瞳ではない。私を諭すような、吸い込まれてしまいそうな澄み切った瞳。恐らく試されている。敢えて自分からお願いするのではなく、こちらからどうアクションするのかを。まさに
「はい……」
頷いてしまった。いつもなら全力で拒否するのに、今日お兄さんの家に来てからというものずっと雰囲気に飲み込まれている。これもお兄さんの誘い方が上手かったから……なのかな? 自分でもどうして承諾しちゃったのか分からないけど、ここで拒否しちゃいけないような、そんな感じがした。
私はお兄さんの前へ行き、ボディスポンジを持ってしゃがむ。歩夢は既にお兄さんの背中を洗っている。
ボディソープをスポンジに沁み込ませ、お兄さんの胸元に当てる。背中を見たときから思っていたけど、実際に触ってみると男性らしいいい身体で胸板が厚くてたくましい。歩夢たちは毎回この胸に抱かれていたのか……。い、いや羨ましいとかはないけど、女性として頼りになる男性が気になっちゃうのは当然だよね。
それにしても、女子高生2人に前後から身体を洗わせているこの構図。私が男性だったら夢のような光景だと舞い上がってしまいそうだ。お兄さんは周りに女性が多いからこの状況にも慣れているんだろうけど、それでもお風呂場で女の子に囲まれているシチュエーションには今この世の誰よりも優越感を得ていると思う。
「お痒いところはありませんか~?」
「ない。てかそれって頭を洗う時に言うセリフだろ……」
「えへへ、言ってみたくなっちゃいました♪」
「楽しそうだな」
「はいっ! 侑ちゃんと零さんの家でお泊りできるのが嬉しくって!」
「私がいてもいなくても関係ないと思うけど……」
「大好きな侑ちゃんと一緒に大好きな零さんの家にお泊りできる。これほど嬉しいことはないよ♪」
「こんなご満悦な歩夢、中々見えねぇな……」
歩夢、すっごく幸せそう……。これだけ大好きなものに囲まれてたらそりゃそうもなるか。でも私までお兄さんと一緒にお風呂に入ったり、こうして洗ってあげる必要はないんじゃないかなぁ……。そうは言ってももうお兄さんにご奉仕しちゃっているわけだけど……。ていうかこれ、傍から見たらアブナイお店――――いやいや、その発言はダメでしょ!! いくら女子高生2人とお風呂にいるからと言って!!
「侑! 力強いって!」
「あっ、ゴメンなさい。考え事をしてました……」
「恥ずかしいから早く風呂から上がりたいってか?」
「いや、何故だか分からないですけどこの状況が嫌とは思ってないです。むしろ居心地がいい、なんて思っちゃったりしてます」
「そうか」
いやどうしてそこで微笑むのさ。いつもなら上から目線で『俺の虜になったか??』とか『俺のためにもっとご奉仕力を磨いてこい!』とか尊大な態度で言いそうだけど、今日はとても紳士だ。食事の時もそうだったけど、そんな優しい微笑みを向けられると調子狂うんだよね……。もしかしてこれ、女の子に優しくすることで篭絡しようとするお兄さんの作戦だったり……?? やはり女の子に対しては天才級の手練れ、私もまんまと罠に嵌めらそうになったよ。手遅れ感もあるようなないようなだけど……。
その後は歩夢がお兄さんの身体についた泡をシャワーで洗い流した。流石に下半身は自分で洗ってたけどね。
そしてお兄さんが終わったということは、次は――――
「あの……今度こそジロジロ見ないでもらえます? 全部見えちゃうので……」
「湯船に浸かってまったりしてるから、勝手にしてろ」
「いや見ないって確約が欲しいんですって! まあ歩夢ならともかく、私の貧相なカラダなんて見ても嬉しくないと思いますけど……」
「なに言ってんだ、十分健康的だろ。つうか虹ヶ咲は秋葉が俺のために作った学校だから、そこに入学できてるってだけで俺好みなんだよ。アイツ、入学させる生徒を容姿やスタイルで決めてたみたいだしな」
「別にお兄さんに好かれようとは思ってないですけどね」
「だろうな。ま、目は瞑っておいてやるよ」
「一応信じてはおきます」
結局のところ、見られていたかどうかは分からない。もし見られていた場合を考慮して、なるべく腕や泡で隠すようにしていたから大丈夫だとは思う。歩夢は結構無防備だったけど……。
歩夢に背中を流してもらったり、こっちも洗ってあげたりと、こうして2人で洗いっこをするのも幼いとき以来だ。まさか高校生にもなってこんなことをするとは思ってなかったし、少し恥ずかしかったけど、これもお兄さんが作り出した雰囲気に飲み込まれたからかもしれない。
ちなみに、その後もまた一悶着あって――――
「零さん、一緒に湯船に浸かってもいいですか!?」
「ちょっ、また私もって言い出すんじゃないよね!?」
「…………ダメ?」
「そんな悲しそうな目で見ないでよ罪悪感半端ない!!」
「俺はいいけど、流石に3人は入れるスペースはないと思うぞ。誰かが俺の後ろから抱き着いて、俺が残った方を抱きかかえれば話は別かもしれないけど」
「はぁ!?」
「だったら私が後ろに回るので、侑ちゃんを抱きかかえてあげてください♪」
「はぁああああああああああああああああああああ!?!?」
結局逃げることはできず、お兄さんに後ろから抱かれる形で湯船に入った。
死ぬほど恥ずかしかったせいで思考回路を『無』に徹し続けていたので、ぶっちゃけその時のことはあまり覚えていない。覚えているとすればお兄さんの肌は暖かかったこと、それだけだった。
~※~
お風呂から上がった私たちは、特に生産性もない他愛ない話をして夜を過ごした。着替えは楓さんのパジャマを借りたから問題ないけど、ブラコンのあの人のことだから後で何を言われるか……。
そしていい感じに夜も更け、そろそろ寝ようということになったんだけど――――
「あのぉ……零さん、一緒に寝てもいいですか……?」
「あぁ、いいけど」
「相変わらず話がぶっ飛ぶし、お兄さんもあっさり承諾しますね……」
「侑ちゃんも一緒に寝よ♪」
「うん、流石にもう驚かないよ……」
今日だけでも歩夢の爆弾発言は何回も聞いてるから、今更声を上げることもない。夜だから近所迷惑だしね。
それにしても一緒に食事をしたり、一緒にお風呂に入ったり、そして今度は一緒に寝るだなんてもうやってることが恋人なんだよね……。歩夢の場合はそれでいいけど、私はどうして律義に付き合ってるのか自分でもよく分からない。でもお兄さんとなら『まあいっか』と思ってしまうあたり、私の常識も相当歩夢たちに似てきているのかもしれない。
「もう何を言っても抵抗すらさせてもらえないし、分かったよ」
「ただ寝ると言っても俺のベッドはそこまで広くねぇぞ。3人だったら身を寄せ合ってギリギリってところだ」
「だったら大丈夫ですね♪」
「えっ、身を寄せ合って? お兄さんに……? 一緒の部屋でとかじゃなくて、一緒のベッドでってこと!?」
「大丈夫だよ。零さんは暖かいから♪」
「今日の歩夢、いつも以上にどこかズレてるよね……」
「えぇ~そうかなぁ~!? って、いつも以上ってことはいつもズレてるってこと!?」
お兄さんが絡まなければお手本のような清楚系だけど、お兄さんが絡む話題ではとことん常識が欠如する。それは他のみんなも同じだけど、いつも常識人なのにお兄さん絡みだとツッコミを入れざるを得ない発言しかしなくなるそのギャップが凄まじいんだよ……。しかもさっきの反応を見てもらったら分かる通り、本人にその自覚がないっていうのまたね……。
戸惑っている歩夢はさて置き、もう口でも拒否の言葉を出すことなくお兄さんの部屋へと向かった。
部屋は意外にもしっかり片付けられており、特段綺麗好きでもないだろうからかなり意外だ。でも楓さんが家事好きお掃除好きだって聞いたから、もしかしたらあの人のおかげなのかもしれない。
そしてベッドに上がる私たち。ベッドの左側に私、その隣にお兄さん、更にその隣に歩夢。お兄さんを挟み込む形で川の字で寝転んだ。部屋は暗く、かろうじて月明りが差し込んでいるだけ。もう完全に寝る体勢なんだけど、こんなにもお兄さんにくっついていてすぐに寝られるわけがない。ポジション的にはいつもお兄さんの隣にいる私だけど、物理的にこんな近くにいるなんてお風呂の時もそうだったけどこれが初めてだ。私も一応思春期女子なわけで、お兄さんみたいなそれなりにカッコいい男の人に抱き着く形で寝るなんて緊張するにも程があるよ……。
「歩夢くっつきすぎだぞ。いくら秋だと言ってもそれだと暑くて眠れねぇだろ……」
「えへへ、ゴメンなさい♪」
「それでもやめる気はないってか」
「零さんと寝る時まで一緒にいられるのが嬉しくってつい……」
「ったく……勝手にしろ」
「はいっ! ありがとうございます!」
やっぱりお兄さんは甘い。自己中心な態度が目立つお兄さんだけど、その実は女の子に対して甘ったるいほど甘い。普段も歩夢たちが抱き着こうとしたら文句を言いながらも受け入れてるし、心の底では女の子たちへの対応を面倒だとは微塵にも思っていないのだろう。だからこそ歩夢たちだけではなく、他の女性からも好かれる。この人なら、絶対に自分を受け入れてくれるって分かってるから。決して自分をないがしろにされたりしない、そう確信できる。
こんなのもう夢中になるしかないじゃん。しかも他の男性に恋することなんてできなくなっちゃうよ。ま、私は別に好きとかそういう感情はないから関係ないことだけど??
「侑、おい侑」
「えっ、は、はいっ!」
「起きてたか。寝ようとしてたのなら悪い。なんかぼぉ~っとしてたからさ」
「い、いえなんでもないです! 気にかけてくれたんですね」
「お前にとっては刺激が強いイベントが続いてたからな」
「心配してくれてありがとうございます。大丈夫ですよ、思ったより」
「そうか。ならよかった」
本当にこの人は……。こうやって私にも目を向けてくれる。もう寝るだけだから黙っていればいいのに、そうでなくても歩夢が楽しそうだからそっちの相手をすればいいのに、わざわざ私にも声をかけてくれる。以前にμ'sさんとの飲み会にお邪魔させてもらった時も、私が肩身の狭い思いをしないようにずっと隣にいてくれたし、そういうところだよ本当に……。
私は反射的にお兄さんにぎゅっと抱き着いてしまう。自分でもどうしてこんなことをしたのか分からないけど、多分この温もり、お兄さんの暖かさが好きだからだと思う。(恋愛的な意味はない、ここ重要)
お兄さんの身体に回している腕が歩夢の腕と当たる。恐らくお兄さんを挟んで向こう側にいる歩夢も抱き着いているのだろう。お風呂でもベッドでもJKサンドイッチを堪能できるなんて、この世でお兄さんだけだよ全く。その状況を私と歩夢の2人で自主的に作り出しているから軽口を叩ける立場じゃないんだけどね。
少し時間が経ち、私たちの間にも会話がなくなった。お兄さんの身体が寝息で上下に動いていることから、もしかしたらもう寝ちゃったのかもしれない。まあお兄さんは女の子に囲まれる状況にも慣れてるだろうからすぐ寝られるのかもね。私はまだ緊張してるって言うのに……。
「侑ちゃん……」
「えっ、歩夢まだ起きてたんだ」
「うん。今日はずっと興奮しっぱなしだったから眠れなくて」
「あはは、だろうね。お兄さんは寝ちゃってるみたいだけど」
お兄さんを挟んだ向こう側から歩夢に話しかけられる。眠れないのは歩夢も同じだったらしい。そりゃ料理の時もお風呂の時もテンションMAXだったから仕方ないよ。お兄さんと一緒にいる時の歩夢は常にお兄さんに付いて回ってまるで子犬のようだから、そんな大好きな人と一晩を共にするんだから興奮もしちゃうよね。こんな楽しそうな歩夢を見られたのなら今日誘ったのは正解だったかもしれない。
「侑ちゃんは今日どうだった? 零さんと一緒に夜を過ごしてみて」
「う~ん、意外とまともだった……かな? お兄さんのことだからもっと仰々しく私たちをこき使うと思ってたけど……」
「零さんと一緒にいるとお世話してあげたいって思っちゃうんだよね。これって私だけなのかなぁ……」
「いや、みんなそうだと思うよ。それに私もそうだった。でなきゃ料理を作ってあげたり、身体を洗ってあげたりなんてしなかっただろうから」
なんかお兄さんってそういうご主人様オーラがあるというか、女の子が必然的に惹かれてしまう何かがある。普段はお世話になってるからその恩返しがしたい、そんな感じかな。なんて、本人の前では絶対に言えないけどね。
「ふふっ、侑ちゃんも零さんのこと好きになっちゃいそうだね」
「いや、それはない」
「言い切ったね……」
「でもお風呂もベッドも共にしちゃったし、もうこれって健全な関係のボーダーラインを超えてるような気が……」
「零さんはその、ほら、そういった基準とか全部無視しちゃう人だから……」
「あはは、確かに」
たくさんの女の子と付き合う常識外れ。いずれ近いうちに歩夢たちともそういった関係になるだろう。
だけどそれを止めようとは思わない。むしろどうなるのか隣で見守りたい、手助けをしてあげたいと思ってしまう。私の常識も世界も、何もかもお兄さんに変えられてしまった。だけどお兄さんの世界は嫌いじゃない。今でも脳裏にしっかりと焼き付いている。初めてお兄さんに押し倒された時に言われたこのセリフ。
『二兎追う者は二兎とも取れって言葉があるように、俺はみんなを幸せにする。俺にはその力がある。みんなが笑顔みんなでハッピーになれる、それ以上のことってあると思うか?』
最初はなんて横暴な人だと思った。でも納得させられた、強制的に。みんなが笑って幸せになれる世界があるとすれば、それほど素晴らしいことはない。そして更にお兄さんは今それを実行している。とっても幸せそうな歩夢。そして、私も――――
「お互いにお兄さんからは逃げられないってことだね」
「私は逃げるどころか、むしろ自分から追いかけちゃってるけどね。そうさせちゃうのが零さんの魅力なのかも」
「だね」
なんか今日は歩夢とお兄さんの話しかしてない気がする。そもそも私もお兄さんのことばかり考えてる気がするし、これが恋……んなわけないか。別に好きとかじゃないし。ただちょ~~っと魅力的な年上のお兄さんってだけなんだから。
「ふわぁ~眠くなってきちゃった」
「うん、私も。もう寝よっか」
「時間も結構遅いしね。じゃあおやすみ、歩夢」
「おやすみ、侑ちゃん」
その後は私も歩夢もすぐに夢の世界に落ちた。
そして―――――
「ったく、本人の前で本人に向けた女子トークをするなよ。気恥ずかしくて眠れるかっつうの……」
~※~
「んっ、んん……あ、朝か……」
カーテンの隙間から程よい日光が部屋に差す。どうやらもう朝のようだ。
身体を起こしてみるとお兄さんはまだ寝ていて、歩夢の姿はない。いい匂いがすることから朝食を作っているのだろう。寝るのが遅かったのにも関わらずよくやるよ。それだけお兄さんへのご奉仕精神が極まっているのか、もういいお嫁さんになる以外の道がないね。
それにしてもお兄さん、ぐっすり眠ってるなぁ。カーテンをしているとは言っても隙間からの日光のせいでそれなりに部屋は明るいので、私みたいに自然と目を覚ましてしまいそうなのにこの熟睡具合。そういえば楓さんがお兄さんは女の子に起こしてもらうまで中々起きないタイプって言ってた気がする。どれだけ王様なのこの人……。
「お兄さん。起きてください、お兄さん」
「んっ……ん……」
「起きないし……」
少し身体を揺すってみても起きない寝坊助さん。でも起こそうとするたびに声を漏らすのはちょっと可愛いかも。よく見たら寝顔もイケメンなところはあれど可愛いところもある。いつもとのギャップに愛おしくなり、思わず構ってあげたくなっちゃうよ。
私は自分の顔をお兄さんの顔に近づける。
「朝ですよ~起きてくださ~い」
「ん……」
これでも起きないのか。女の子に起こされるだけでなく、何回も呼びかけないとダメっていつもどれだけ王様な日常を送ってるのかなこの人は……。いつも起こしてるのは楓さんなんだろうけど、あの人もあの人で楽しんでやってそうだから誰も損はしていないのか。
ていうか、こんなに顔を近づけてたらキスしてるみたいだ。そう思うとなんだか恥ずかしくなってきたから早く離れよう。
そう思っていた矢先、部屋の外からシャッター音が聞こえた。
冷汗をかきながら音のした方を見てみると――――
「か、楓さん……ッ!?」
「浮気現場。キス未遂。全て保存したから」
「ち、違うんですこれはそのぉ……!!」
お兄さんの妹である楓さんがいつの間にか帰って来ていたらしい。そしてスマホでさっきの状況を激写されて……って、お兄さんじゃないんだからそんなオチはいらないんだって!!
「あっ、楓さん。帰っていらっしゃったんですね――――え゛っ゛ぇえええええええええええええええ!? 侑ちゃん、零さんに何をして……」
「いや別に何もしてないよ!?」
「でも四つん這いで覆い被さって……」
「あっ、い、いやこれは違う!! ただ起こしてあげようと思って!!」
「起こすためにキスですかそうですか……。お兄ちゃん、まさかこの子の調教がここまで済んでいたとは……」
「だから違うんですってぇええええええええええええええええええええええええ!!!!」
あらぬ誤解が広まり人生の終わりかと思ったけど、時間をかけてなんとか勘違いだったことを信じてもらうことができた。
だけどその代わり――――
「うるせぇぞお前ら!!」
私たちの大声で寝起きが悪く不機嫌なお兄さんに3人共怒られちゃいましたとさ。
――――って、起こそうとしていただけだよ私!? なんか理不尽!?
そんなわけで久々に侑視点での日常回はいかがだったでしょうか?
アニメの最新話を見るたびに『このキャラでこんな話を描きたい』というのが先行してどんどん生まれるので嬉しい悲鳴を上げていたりします(笑) もちろん今はLiella編なので虹ヶ咲の話を投稿できないというジレンマが……
ただLiellaの話はLiellaの話で書きたいことがたくさんあるので、そっちをないがしろには絶対にしません!
そういえばスーパースターに新しいキャラが登場したみたいで。虹ヶ咲の方でもランジュやミアが残っているのに、また新しい子が出てくると中々対応しきれないのが悩みですね(笑)
恐らくアニメ2期からの登場でこの小説のLiella編もまだ続いているとは思いますが、今のところ進行中のLiella編については初期の5人の登場に抑える予定です。もしかしたらチョイ役か、特別編か何かで登場したりするかもしれませんが……
次回の投稿からまたLiella編に戻りますが、虹ヶ咲アニメ放送中にまた特別編を投稿するかもしれません。