「先生! 今日はSNS映えする激辛MAXたこ焼き作ってきました! 最新作なので是非食べてください!」
「なんだそのあからさまな地雷は!?」
「それじゃあチーズたっぷりとろとろたこ焼きはどうですか?」
「チーズで固めてあるだけだろそれ!? 普通に胃もたれしそうなんだけど……」
千砂都は満面の笑顔でもはやたこ焼きとも言えない物を食わそうとしてくる。コイツが俺に創作料理を作ってくるようになってもう結構経ち、最初の頃は普通のたこ焼きの改良版でまだ食えたモノだったが、最近はSNSや動画映えを狙ったのか言ってしまえばゲテモノが多い。激辛とかチーズマシマシとか、本当に自分で味見してんのかよコイツ。鞠莉やせつ菜もそうだけど、味覚偏屈者が飯を作るなよな……。
「つうかお前、最近よく俺に味見をさせに来るよな。前までは月に1、2回くらいだったのに、今は週に1回ペースだぞ。そこまでして俺に食って欲しいのか?」
「ふぇっ!? あっ、いやぁ~こういうのってかのんちゃんたちに食べさせづらいじゃないですか~」
「こういうのって、自分でゲテモノだって認めてんじゃねぇか……」
「あはは、先生だったら文句を言わず食べてくれるという私の信頼ですよ! 嬉しいですか?? 嬉しいですよね??」
「はいはい構ってくれてありがとな」
「むっ、なんて事務的な返事……」
変に挑発してくるところもいつもと変わんねぇなコイツ。
少し前は俺を顧問に勧誘する名目で可可がよく飯を一緒に食おうと引っ付いてきたが、最近は千砂都ともこうして昼を共にすることが多い。別にたこ焼きを貰うくらいは昼飯のおかずが増えるから別にいいんだけど、その目的って一体何なんだ? しかも新作のたこ焼きを短いスパンで開発しており、中にはそれなりに美味いと太鼓判を押したモノもあるのだが、それが本当に発売されたのかは定かではない。
もしかしてコイツ、俺と飯を食う口実のためにわざわざ新作のたこ焼きを作ってるんじゃ……? ちょっと鎌をかけてみるか。
「お前、最近よく新作のたこ焼きを作って来るよな」
「へ? ま、まぁ私の創作意欲の賜物と言いますか、これでも創意工夫は得意なんですよ! 昔から創作ダンスも大好きでしたから!」
「そうか。だけどたまには休むことも大切だぞ。スクールアイドルとバイトの掛け持ちで身体を壊したら大変だ」
「分かってますけど、新作を作るのをやめたら先生と合う時間が――――って、別になんでもないですっ!」
「フッ、あっそ」
「ちょっ、どうして笑うんですか!?」
「別になんでもねぇよ」
やっぱりそうだったか。新作のたこ焼きを味見させると言う口実で俺と昼を一緒にしようって魂胆らしい。真正面からぶつかって来る可可と比べて遠回りな手を使う彼女だが、それがコイツの可愛いところでもあったりする。イタズラっぽく色々策を張り巡らせてお近づきになろうとする、その小悪魔っぽさがコイツの魅力でもあるからな。そして毎回俺にその策を上回る動きをされて自爆するところまでがテンプレ。ま、女性に関して百戦錬磨の俺を出し抜くなんて思わないことだ。
そんなことを考えながら、彼女の作ってくれたたこ焼きを1つ摘まんで食ってみる。
「えっ? 先生?」
「やっぱ辛いなこれ……」
「どうして食べてるんですか!? さっきいらないって……」
「別に最初から食わないとは言ってねぇだろ。俺のために作ってくれたんだったら食すのが礼儀ってもんだ。それにお前なら本当に食えねぇモノは作らないだろうしな」
「あ、ありがとうございます……」
赤面して俯く千砂都。俺と一緒にいたい口実、そして話題作りのために変なたこ焼きを作っているのかと思ったが、毎回しっかり食えるモノを持ち込んでくるのでやはり自分の料理を褒められたくもあったらしい。見た目はアレだけど普通に美味いから、それなりに時間をかけて創意工夫で完成させたのだろう。そうやって手間をかけたからこそ俺に食べてもらいたかった、ってところか。活気ある様子とは裏腹に健気なところあるじゃん。
ちなみに女の子の中にはガチで食えないモノを悪気もなく作る奴もいるので、食えるってだけでマシなんだよ料理なんてさ……。
「そういやお前、ダンスの方も調子いいのか? スクールアイドルを機に練習を減らしたって聞いたけど」
「は、はいっ、そちらも順調です。先生のおかげで続けられているんですから、疎かにすることなんてできません!」
「俺なんかやったっけ?」
「…………」
「なんだよそのジト目は……」
「先生って天然なのかわざとなのか分からないときありますよね……。こりゃかのんちゃんたちも苦労するなぁ~」
自分だけ惚れてないみたいな言い方してるけどお前もだろ……。てかかのんたちが俺に気があることを知ってんのな。まあアイツらの反応って分かりやすいし、勘のいいコイツなら気づいていてもおかしくないか。自分が俺に気があることを誤魔化しているくせにな。
「話を戻しますけど、ダンスを続けられているのは先生のおかげです。どちらも諦めずに続ける選択肢。あの時、手を取って教えてくれたじゃないですか」
「そんなこともあった気がするな。そう考えるとお前もあの時より笑うようになったもんだ」
「えっ、私ってそんな表情なかったんですか?? 自分で言うのもアレですけど明るかった気がしますけど……」
「いや明るかったよ。でも時折曇ってるっつうか、笑顔が作られてたしな」
「あぁ、そんなこともあった気がしますね」
「お前こそわざと
コイツはかのんと可可がクーカーとして初舞台に上がる前から2人の手助けをしていた。もちろんそれは紛れもない善意だったのだが、コイツの中ではかのんたちと一緒にスクールアイドルをやりたい想いと、自分の趣味で夢でもあるダンスを極めたいという2つの気持ちが混在していた。それに悩んでいたが誰にも話さず、ただただ仮面の笑顔を振りまいていたのが嵐千砂都という子だったんだ。
「でも驚きましたよ。『お前の笑顔ってどこか心配なんだよ』って先生に言われた時は。あの時はまだ入学したての春だったのに、新任の先生にそこまで見透かされてたなんて……」
「女の子の表情に対しては敏感だからな。心の底では笑顔じゃない奴を見ると、どうしても気になっちまう。あの時のお前がそうだった」
「あはは、確かに。自分の心の奥がバレそうになってたんで、あの時は頑張って誤魔化していましたね。でもかのんちゃんたちの名がどんどん知られていくようになっているのを見て嬉しくなったり、ダンスの大型大会の参加者に選ばれたりして舞い上がっちゃったり、それは嘘の笑顔じゃなかったですよ?」
「だろうな。だからこそお前には苦労させられたよ。本当の笑顔とそうでない笑顔を混在させるのが上手い」
千砂都はかのんや可可とは違い目に見えて分かりやすく悩みを外に出さない性格だ。心の奥を突っつかれそうになるとすぐに作り物の笑顔で誤魔化す。何も知らない奴からすれば笑顔=悩みがないと思いがちだが、残念ながら俺の目は誤魔化せない。他の奴らだったらこちらから会いに行きさえすれば感情を吐露することが多いだけに、コイツだけは本心を打ち明けてくれるまで時間がかかったな。
「それにしても先生ってお人好しですよね。私の作り笑顔に騙されてくれればこっちも楽だったのに、それが通用しなくて何度も私に話しかけてきて……。もしかして私のことが好き、いやストーカーかと思いましたよ」
「それすみれにも言われたぞ……。俺ってそんなにしつこいのか……?」
「フフッ、しつこいですよ♪ でもそのおかげで今の私がいるので結果オーライですっ!」
別に悩みを解消してやろうと思ってわざわざ会いに行ったとかではなく、たまたま顔を合わせたときに話をしたくらいだ。でも思春期女子ってのは自分の周りを嗅ぎまわる男子の動きに敏感だから、会話を仕掛けるだけでも気がある、もしくはストーカーと思われても仕方ないのかもしれない。いやそんな理由だけでストーリー扱いとか超絶理不尽なんだけど……。
「ただ結局、今の道を選んだのはお前自身だ。だから俺は大したことはしてねぇよ。そもそも俺は自己満足のために手を差し伸べてるだけであって、別に他人がどうなろうがどうだっていい。女の子の笑顔が消えるのは自分が許せなくなる、ただそれだけの理由だよ。俺が誰かを助けてるんじゃなく、お前らが勝手に助けられてるだけだ」
「それ同じことじゃ……。でも、終わり良ければ総て良しって言葉知ってます? 結果的にみんなが満足してるから慕われているんですよ。音楽科と普通科の関係が少しギクシャクしていた頃も、先生への気持ちだけは一致団結していました。2つの学科に在籍していた私が証人です!」
「別に慕われようとは思ってないけどな。俺が好き勝手にやってるだけだから、そっちも勝手に助けられてろって感じだ」
「先生ってやっぱり肉食系ですよね……」
「これが俺なんだ、諦めろ」
「いや、ガツガツ来られた方がむしろ好きと言いますか……と、とにかく! 先生は今のままでも全然大丈夫だってことです!」
もしかしてコイツ、肉食系の男が好きなのか? 積極的な男の方が頼りがいがあって好きって奴もいるけど、コイツ自身世話焼きでグイグイ来るタイプだからどちらかと言えば守りたくなる男の方が好きなのかと思ってたぞ。Sっ気のある者同士は惹かれ合わないというのはオタクの考え方なのかもしれない。
「先生こう言ってましたよね、二兎追うものは二兎とも取れって。その言葉だけでも肉食系だって分かりますよ。スクールアイドルかダンスどちらかで悩んでるのならどっちもやればいいなんて、最初は何を言ってるのかと思いました。それで悩んでるんだって言ってるのに言葉の意味分かってる? 大丈夫この先生? って」
「ひでぇこと考えてたんだな……。とりあえず、まず常識から打ち破ってやらねぇとって思ったんだよ。お前はスクールアイドルでもダンスでも輝ける、俺はそう信じてたんだ。だったらどっちも取れば2倍輝ける。そしてその姿を俺自身が見てみたい、そう思っただけさ」
「どちらも諦めずにやれって命令された時はもうどうしようかと。強欲で、貪欲で、そして強引。生徒の立場からしても、教師がそんな適当な教え方でいいのかとも思っちゃいましたよ。でも、先生がずっと見てくれていたおかげでどっちも頑張れました。ダンスの練習をしている時も、スクールアイドルの練習をしている時も、先生はどっちにも顔を出してくれましたよね? それが嬉しくて、どちらの私も応援してくれる人がいるならどっちも諦めたくないって思ったんです」
千砂都がダンスを始めたのは、かのんにとっての歌のように、大好きで夢中になれることをできるようになろうという決意からだった。そんなコイツがダンス大会に向けて抱えていた決心とは、もしも大会で優勝できなかったら退学し、海外へダンス留学をするというもの。『かのんの横に立って支えたい』という思いが、やがて『かのんを支える強い人になるには、彼女のできないことを自分一人で出来なくてはいけない=1人でダンスの結果を出せなければ、かのんの近くにいる資格が無い』と思い詰める原因にも繋がり、それがコイツに退学という選択肢を強いていたんだ。本当はかのんの隣で一緒にスクールアイドルをやりたかったはずなのに、自分自身の夢に縛られていた。コイツ自身、過去にイジメを受けていたところをかのんに救われ、それで彼女に見合う人間になりたいという願望が強かったのだろう。
それに対して『どちらもやれ』と助言したのが俺だった。傍から見れば理不尽なアドバイスだったかもしれない。だけどそんなことは関係なく、ただ単に俺がスクールアイドルでもダンスでも輝いている彼女の姿が見たかっただけのことだ。ま、少々入れ込み過ぎて感は否めないけどな。教師として特定の生徒を贔屓しようとは思わないけど、男として気になる女の子に構いたくなるのは当然だろ? しかもその子のとびっきりに笑顔を見たいとなれば、その子のやりたい何かを未練がある状態で諦めてもらっては困る。完全に自分の都合でしかないけど、これが俺なんだよ。
「それで結果的に両立しちゃいました。先生のせいですよ、どっちも本気でやるの大変だったんですよ?」
「それにしては嬉しそうだな」
「はいっ! 自分の夢、やりたいこと、どちらも叶えることができたのは先生のおかげですから! でも今はスクールアイドルに集中しちゃってますけどね。ダンスの方は大きな大会で優勝して満足したのでいったんお休みです。それでもたまに思いっきり身体を動かしたくなるので続けてはいますけど、これは妥協ではないので結果的に今ではどちらも楽しめてます!」
「そうか。いい顔になったな、ホントに」
「えっ?」
「春からずっとお前を見てたから、夏に色々吹っ切れたお前を見てようやく本心から笑顔になれたよなって思ってさ。あの時は本当に嬉しかったよ」
「どうして先生が嬉しくなるんですか? 感謝するのは私の方なのに……」
Liellaの5人の中では最もアクティブである彼女だが、意外と頭脳派な一面もある。それ故に色々考えて悩み込んでしまって1人で抱えることも多く、しかもそれを周りに悟られないようにするのも頭脳派ちゃんの困ったところ。だからこそ本当の笑顔を表に引き出すことができて嬉しかったんだ。本気で笑顔になれない女の子を放っておけない俺のこの性格も困ったもんだな。ついつい構ってやりたくなる。分け隔てなく人を助けるようなキャラじゃねぇのにさ。
それでも身体が動いてしまうのは、やっぱり俺は女の子の笑顔が――――
「大好きなんだろうな」
「ふぇっ!? えぇっ!? す、すすすすす……き??」
「なんだよいきなりテンパったりして。あれ、俺今なんか言ったか?」
「そ、そそそそんな!! この前の幽霊騒動の時もそうでしたけど、先生って私のことをそこまで……ちょっ、ちょっと待ってください心の準備をするので!! そっか、先生が私のことを……」
「ん……?」
ここまで顔を真っ赤にした千砂都は初めて見たかもしれない。恥ずかしがったり照れたりした表情はこの1年で何度も見てきたが、今ほど爆発しそうになっているのは中々なかったぞ。表情を見られないように両手を俺に前に突き出したり、自分の顔を覆ったり、もはや誰の目から見ても恋心の波動しか感じられない。
つうか俺、心の声が漏れてた? もしかして千砂都が恥ずかしがってるのって、さっきの言葉の最後をお漏らししたからなんじゃ……。意味を捉え違えていて、『お前の笑顔が好き』という意味だったのに『お前のことが好き』と勘違いしてるパターンだこれ。
言い直そうと思ったけど、本人は照れているとは言え嬉しそうでもあるからこのままいい夢を見させてやるか。それに『笑顔が好き』=『その子のことが好き』とニュアンスはあまり変わらないから、コイツの勘違いがあながち間違いでもないしな。
「おいいつまで恥ずかしがってんだ。もうすぐで昼休憩終わっちまうぞ」
「えっ!? ま、まだお返事が……!!」
「やっぱそう捉えてるよな……。ま、すぐじゃなくてもいいよ。心の整理がついてからでな」
「そ、それって!! やっぱりさっきのってこ、ここここ告白―――――ッ!!」
これ本当に勘違いを正してやらなくて良かったのか……? 想像以上にパニックになってるけど……。このままだと告白返事待機待ちの関係になってしまう気がするが、それで本人が俺のために練習を頑張ってくれるならそれでいい。遅かれ早かれ、好意を抱かれてるのならいつかは向こうから想いを打ち明けてくれるだろうしな。こうやって女の子からの告白を待つ行為、いい気分だけど侑とかにまたグチグチ文句を言われそうだな……。
「せ、先生はお味噌汁の味は濃い派ですか薄い派ですか!? 目玉焼きにはソースですか醤油ですか!? それとそれと、一緒になるなら考えることが多すぎるぅうううううううううううう!!」
「ちょっ、落ち着け気が早すぎる!! まずスクールアイドルに専念しろ!!」
この後、千砂都を宥めて次の授業に遅刻してしまったのは別の話……。
今回は千砂都との過去回のお話でした。
基本はアニメと同じストーリーを零君も経験している設定ですが、今回は千砂都がまだダンスを趣味レベルで続けていたりと少し改変してしまいました。零君がいたらスクールアイドルと両立させるだろうなぁ~と勝手に想像した結果ですが、ぶっちゃけ両立してる設定はこの小説ではあまり活かされないと思います。この小説のコンセプト自体普通に日常系の小説なので(笑)
千砂都はアニメ初期の方から可可にスクールアイドルに誘われて微妙な反応をしてたりと、ところどころ闇が垣間見えました。それを零君が解決してくれたわけですが、たまにこういったカッコいい零君を描くと私も思わず筆が進んでしまいます!
残り3人との過去編も定期的に投稿する予定です。