オープンスクール。高校が中学3年生の受験生に向けて学校説明会、および体験授業や部活を開くイベントのことだ。受験勉強のスパート開始となる毎年の秋口頃に開催され、実際の授業や部活を体験させることにより学生たちへの関心を高め、より多くの中学生たちを学校へ呼び込もうとする意図がある。特に最近はそもそも子供の数が減りつつある社会になっているためか定員割れとなってしまう学校は珍しくなく、こうしたイベントで学生の興味を引くのは学校にとってはビッグイベント、生死を分かつ戦いなのだ。
とは言えども、我が結ヶ丘女子高等学校はそこまで苛烈を極める戦いに身を投じる必要はない。当初は出来立ての学校なくせに廃校になりそうという見切り発車のソシャゲ運営みたいになっていたが、かのんたちLiellaの活躍や、他の部活たちも一定の成績を収めているためか世間の印象はかなりいい。しかも偏差値もそれなりに高く、音楽科というプロへの道を担保された学科もあるため集客には困らないのだ。当初の資金がなくてあたふたしていた頃とは考えられないくらいの地位を築き上げていた。
だが、この学校の連中は集客できるからと言ってイベントに手を抜くような奴らじゃない。むしろ自分たちが輝くことができたこの学校の良さを存分にアピールするため、オープンスクールへの力の入れようは準備段階から半端ではなかった。どの授業も、部活も華やかに、そして真剣にイベントに取り組んでいる。
「すっげぇ人だな。お祭りかっつうの……」
人がごった返している、とまでは行かないが、どこを見回しても学生が多い状況ではあった。中学生たちの関心が高まっていたのは知っていたが、こうして目に見える形になるとこの学校の人気の高さが浮き彫りとなる。これも生徒たちが一致団結して学校おこしをしたおかげか。これには入学者の集客に躍起になっていた恋もにっこりだろう。
ただ人が多すぎるのも困りもので、まだ開花前の蕾である女子中学生たちをたくさん見られるのはいいんだけど、それゆえに俺の仕事が増えてしまう。そのせいでさっきから『このブースはどこにありますか?』やら『この部活の体験会はどこでやっていますか?』などなど、やたらめったら質問される。ただでさえ休日出勤でやる気ねぇのに、仕事量まで増えたら堪ったもんじゃねぇよ。
ほら、今だってそこに周りをきょろきょろとして如何にも迷ってますって女の子が1人――――
「生物の体験授業の教室は……? 地理の体験授業はどこっすかぁ~……」
「おい」
「飼育委員会の体験入部の場所は……って、このままだと体験の時間が過ぎちゃうっす!! あぁ~もうっ、学校が広すぎてわけわかんないっすよぉ~……!!」
「おい」
「うひゃぁああああああああああああっ!?!? は、はいっ!?」
明らかに都会慣れしていない田舎少女が道に迷い嘆いていたので、思わずこっちから声をかけてしまった。自分から仕事を増やすなんて俺としては言語道断だが、コイツの挙動が不審すぎて見てられなかったんだよ。それに田舎感が丸出しで周りから注目されてたし、当の本人はそれに気づいてねぇし……。
手元のタブレットで目の前の少女のプロフィールを確認する。いや裏ルートで独自に入手したとかヤベー情報などではなく、このオープンスクールに参加するためにこの子たちが書いた願書がデータ化され、イベント責任者ならいつでも閲覧できるようになっているだけだ。その願書にアンケート形式ながら、自分の興味ある科目や部活を記入するところがあるので、あくまで学校として今後の参考にするために用意されたものである。だから秋葉に頼んで将来有望な女の子を俺のモノにするために情報収集してたとか、そんなことじゃないから勘違いしないで欲しい。
ちなみにコイツは『桜小路 きな子』。どうやら北海道、それもそれなりの僻地からわざわざ結ヶ丘に来たらしい。なるほど、だから田舎感が満載だったのか……。
「えぇっと……もしかしてナンパっすか!?!?」
「ちげーよ!! どうしてそうなる!?」
「でもでも、都会ではナンパしてくる男性が多くて、気づいたら色んなところへ連れ込まれるから気を付けろって友達が……。色んな所がどこかは分かんないっすけど……」
「その友達も都会のこと誤解してるだろ……。俺はここの教師だ、だから安心しろ」
「あっ、先生だったんっすね。すっごくお若く見えるので、てっきり女子中学生が集まるイベントに紛れ込んで獲物を狙うナンパ師かと……」
「お前も相当思い込み激しいな!?」
女の子から若く見られるのは嬉しいけど、だからってナンパしそうって思われるのは心外だ。俺ってそんなにチャラそうに見えるのか? 侑からはいつも『お兄さんの言動は軽く聞こえる』やら『お兄さんの言うことはいちいち癇に障る』やら『お兄さんって何かと上から目線で高圧的』やら、散々文句を言われてるからそのせいかも……。
「とにかく、どこかへ行きたいけど迷ってんだろ?」
「ふぇっ!? ど、どうしてきな子の行動が読まれているんっすか!? や、やっぱりナンパするためにずっと観察していたのでは……!?」
「だからちげーっつってんだろ!? そもそもお前、考えてることが声にも動きにも出ていて誰でも読めるっつうの!!」
「あっ、そうなんっすね」
「慌ただしい奴だな……」
なんつうか、Aqoursの連中とはまた違った田舎少女だなコイツ……。どちらかと言えば、いや、比べるまでもなくコイツの方がよっぽどヤベぇ。若い男に話しかけられただけでナンパと思い込むとかどうかしてるぞ……。
とりあえず変な誤解は解いたところで、桜小路の行きたい体験授業をやっている教室へ連れていくことにした。確かに校内は大学のキャンパスに負けず劣らずに広いが、オープンスクールの資料に書かれている案内図を見ればある程度は分かるはずだ。それすらも読めないってことは、やはり普段からこういったごちゃごちゃとした生活環境に慣れていないのだろう。隣を歩くコイツを見ていると、常に周りをきょろきょろと眺めていて物珍しそうにしているから慣れてないのが丸分かりだ。
そんなこんなで桜小路を連れて校内を練り歩く。幸いにもまだ生物学の体験授業までまだ時間もあるし、教室も1つ階段を上がった先なので流石にもう迷うことはないだろう。もうすぐLiellaの奴らの体験入部のイベントがあり、俺もそっちに行く必要があるからここでお別れだ。
「わざわざありがとうございした!」
「これが仕事だからな。気にするな」
「ま、またお礼をさせてください!! 友達たちからの話によると、女性は男性に優しくされたらホテルに案内すべきと……これどういうことっすかね?」
「とりあえずその友達とは縁を切った方がいいな……」
田舎の純粋無垢な少女に変な思考を埋め込む奴は万死に値するぞ。もうね、淫乱キャラは十分なんだよこちとらな……。
~※~
そうして桜小路と別れて来た道を戻っていると、とてつもなく特徴的な声が聞こえてきた。
「オニナッツー! 日々のあれこれエトセトラー。 あなたの心のオニサプリ、オニナッツこと鬼塚夏美ですのー!」
「な、なんだ!?」
「今日は結ヶ丘のオープンスクールに来てますの! 面白そうな体験ブースがあったらどんどん宣伝していくのでよろしくですのー!」
「動画を撮ってんのか……?」
階段の踊り場でスマホを設置した自撮り棒を持って、明らかに動画配信 or 収録してますよって感じの女の子が目に飛び込んできた。見た目も派手で、髪型は三つ編みのカール型、クリーム色とピンク色のコントラストでまるでスイーツだ。見た目が地味な桜小路とは性格的にも真逆だとすぐに察知できた。
「おい、一応言っておくけど校内のライブ配信は禁止だぞ」
「ん~? こ、これは緊急事態ですのっ! まだ高校デビューも果たしていないのに、まさかナンパされる事態に!! 次回、女子中学生を襲うナンパ師とまさかのコラボ撮影、ですのー!」
「おい適当なこと動画で拡散しようとしてんじゃねぇよ!! つうかナンパ師じゃねぇ」
「大丈夫、録画ですの」
「録画だからいいって問題でもねぇだろ」
コイツの正体を知るためにタブレットで情報を探ってみる。
彼女の名は『鬼塚 夏美』。さっき自分でも大声で名乗っていた上に、これだけ派手な見た目で公衆の中でも堂々と動画撮影ができる精神力からして特徴があり過ぎる。さっきの桜小路が田舎寄りだとしたら、コイツは完全に世俗に塗れた都会人間だろう。
つうかそんなことよりも、俺ってやっぱりナンパしそうな男に見えるのか?? これでも最近は社会人として尊大に見える態度とかを抑えているつもりなのだが、どうも軽いノリは抜け切れていないらしい。性格はそう簡単に変えられるものじゃねぇけどさ、ここまで勘違いされると俺の品位に関わるっつうか……。
「それで? 夏美の動画に割り込んで来たあなたはどこのチャンネルのお人で?」
「俺はエルチューバーじゃねぇ。この学校の教師だ」
「教師……? ま、まさか大人気エルチューバーの夏美を生徒として引き抜こうとしているんですの!? これは裏口入学、つまり動画のネタに……」
「話が飛躍し過ぎだ。校舎の中で動画取ってる派手な奴を見かけたら普通声かけるだろ、教師として。つうかサラッと社会の闇を動画ネタにするんじゃねぇよ……」
「な~んだ、冷やかしですの」
「どうして俺が呆れられる側なんだよ……」
流石にコイツのスペックは分からないが、それなりに有名なエルチューバ―なんだろうか。俺はその界隈に興味がないから詳しいことは不明だけど、有名人が動画で宣伝、そして入学したとなれば学校としてもコイツとしても名は売れるだろう。ただでさえLiellaを始めとした生徒たちの功績でオープンスクールにここまで人が集まるようになったんだ、SNS文化の今だからこそ動画宣伝の効果はあるはずだ。まあ由緒ある学園だからそんな不純な理由はダメだって恋が言いそうだけど……。
「つうかお前、オープンスクールに来た理由って動画撮影のためかよ」
「んー? 新設校って言うのもありますし、原宿も近い流行最先端学校に通えるってだけですの! なのでそんな不純な理由はないです!」
「いや十分私欲塗れだろ……。ま、人の理由なんて俺にはどうでもいいけどさ」
「そうだ! せっかく出会ったご縁です、これをどうぞ!」
「えっ、名刺? 『株式会社代表取締役社長CEO 鬼塚 夏美』……って、どれだけ役職盛ってんだよ。てかこんなの作ってるなんて割と本格的に配信者やってんのな」
「当たり前ですの! 夏美がこの学校に入学した暁には、先生をファン1号にして差し上げます! あっ、だったら生徒である夏美と教師であるあなたの禁断のお付き合いみたいな感じで、炎上商法を狙えるかも……」
「なにもかも必要ねぇ!!」
「あははっ、冗談ですの冗談! ではまたご縁がありましたら、ですのー!」
そして鬼塚は走り去っていった。まさに嵐のような奴で、動画配信者のテンションっつうのは凄まじい。しかもやたらと強引だったし、もしアイツが入学したら俺の気苦労がまた増えそうだ。入学したらの話だけど。
それに教師と生徒の禁断の恋愛って、俺にとってはぶっちゃけフィクションじゃないんだよな……。だからさっきアイツにバレてるかと思ってビックリしちまったよ。下手なことを言ったらすぐに動画で拡散されそうで怖いな……。
~※~
そしてまたイベントの見回りを開始する。今はどの教室も部活も体験授業、体験入部で忙しなく、どこも活気で賑わっていた。外では運動部の体験をしている子たちの楽しそうな声も聞こえてくる。昼だからか朝よりも更に人が増えているため、さっきまで感じていたこの学校の注目度の高さすらまだまだ途上だったってことだ。
そんな中でかのんたちスクールアイドル部の体験入部ももうすぐ始まろうとしている。当初は自分たちだけでやってもらえればいいと思っていたのだが、さっきから早く来いとの連絡が全員から送られてきて鬱陶しいので仕方なく部室へ行くことにした。
のだが――――
「だから私はいいって!!」
「でもスクールアイドル部の体験入部は午後のこの時間で全部終了。さっきもそうやって駄々をこねて午前の部は全てスルーしたから、これが最後のチャンスなんだけど」
「駄々こねたとか言うな子供っぽいだろ!!」
部室へ行く途中でやたら騒いでいる赤髪の女の子と、冷静沈着に淡々としている青髪の女の子がいた。廊下の真ん中を2人で向かい合いながら支配している上に、このままだと通れないので騒音の注意喚起も兼ねて声をかける。
「おい、痴話喧嘩なら外でやれ。廊下で騒いでると迷惑だ」
「誰が痴話喧嘩だ誰が!! って、誰……?」
「それなりの正装、イベントに参加している中学生の付き添いにも見えない、それに校内で私たちに注意をしてきたと言うことは学校関係者の可能性。つまりあなたは――――」
「そう、そのつまりだ」
「ナンパ?」
「なんでだよ!! そこまで来たら教師に行きつけよ!!」
この青髪、さっきタブレットで調べたら『若菜 四季』だったか。ミステリアスな雰囲気を醸し出して無口そうな子だが、早速ボケをかましてきやがった。意図的に発言したのか天然なのかどうかは分からないが、俺ってそこまでナンパしそうに見えるのか? しかもナンパ師って言ってくる相手は全員女子中学生、いわゆるJCだぞ? つまり、俺はロリコンに見えるってことなのか……??
そして若菜と一緒にいるのが『米女 メイ』。若菜とは違って血気盛んで真逆の性格のようだ。なんか妙に目力が強く殺気みたいなのが出てるし、そんなことだと不良に見えちゃうぞ? だがさっきからそわそわして、やけに女々しく見えるのは何故だろうか。いや女の子だから女々しくてもいいんだけど、性格や見た目と会わなかったからつい気になってな。
「この先はスクールアイドル部の部室しかねぇぞ? まさかお前ら、スクールアイドルに興味があるのか?」
「はぁ!? そ、そんなわけないだろ!! 道に迷ったんだよ……」
「なんつう苦しい言い訳だ……。別に行きたきゃ連れて行ってやるよ。これでもスクールアイドル部の顧問だしな」
「こ、顧問だったのか……。まぁ私にとってはどうだっていいけどな!!」
「あっそ。こっちも無理強いするつもりはないからいいけどさ」
「………」
「なんだよさっきからこっちをジロジロ見て」
「本当にナンパ師じゃなかったんだって」
「まだ引きずってたのかよその話題……」
よく考えれば女子中学生に声をかける成人男性って字面だけでも危険か。とは言ってもこっちは仕事だから許してほしい。ってかどうして俺が許しを請う立場になってんだ……。
それはさておき、スクールアイドルに興味がある奴をようやく見つけることができた。探していたわけじゃないが、校内を回っている間にあまりスクールアイドルの体験入部に行ってみようって話題を聞かなかったからだ。ライブがあるのでそちらに興味を示す子はたくさんいたけど、体験の練習に参加しようって子は全然いなかったからな。
「無理矢理連れて行く気はねぇからいいんだけどさ。だったらお前はどうなんだ?」
「私はメイの付き添いだから、スクールアイドルには興味ない」
「淡々と言い張りやがって……。ま、体験練習に行かないならせめてライブでも見て行け。夕方にライブやるからさ」
「見る!! それは絶対に!! あっ……!!」
「やっぱ興味あるんじゃねぇか。ツンデレとか、意外と可愛いところあるんだな」
「そう、メイは可愛い」
「うるせぇえええええええええええええええええええええええええええええ!!」
髪の色と同じくらい顔も赤くなりやがった。好きなら好きって言えばいいのに己のプライドが許さないか。もちろん無理強いはしないのでこれ以上は誘ったりしないが、人は見かけによらないっつうか、不良少女っぽいコイツでも意外と女の子っぽいところがあるってのが気に入ったよ。古い言葉で言うギャップ萌えみたいなの、割と好きなんだよ。
「せっかくだからお前も見に来いよ」
「ナンパ?」
「なんでだよ!? お前も可愛いんだから少しは可愛げのあるところを見せろよな」
「…………もしかして口説かれてる?」
「えっ、普通のこと言ってるだけだろ」
「…………天然ジゴロ。付き合っている女性は苦労してそう。行こ、メイ」
「あ、あぁ……」
「なんだその見透かした目は!? おい!!」
若菜の奴、言いたいことだけ言って立ち去りやがった。なんか冷静にこちらのことを分析されてそうでちょっと怖いんだよな……。
それで結局あの2人はスクールアイドルの体験練習には行かなかったようだが、夕方のライブを見に来ていることは確認した。そのライブで米女がかなり興奮していたので、やっぱスクールアイドル好きなんじゃねぇかアイツ。入学したらもしかしたら、もしかするかもな。
こうして結ヶ丘のオープンスクールは無事に終了。俺と出会った子たちはみんなキャラが濃くて印象に残る奴らばかりだった。今日少し話しただけでも色濃かったから、もしアイツらが入学したらと思うとまた色々と厄介事に巻き込まれるんだろうな。楽しみでもあり、それ以上に気苦労が多そうだ。
ちなみに俺は結局部室に行かず、あの後もずっとオープンスクールに参加している女の子たちの対応をしていた。(女の子たちから話しかけてきたので、決してナンパではない)
そして、それをかのんたちに話したら不貞腐れてしまった。なんで!?!?
今回は前書きの通り、スーパースター2期で新登場した1年生組の4人を先行登場させてみました。虹ヶ咲ですらランジュやミアをまだ登場させられていないのに、この4人を登場させるとなったら一体いつになるのか……と考え、今回特別ゲストとして登場させた次第です。流石にこれ以降はメインであるかのんたち5人を描きたいため、少なくともこのLiella編での再登場はないです。
1年生4人の性格はまだアニメ2話や自己紹介の動画を見ただけなので、ぶっちゃけまだ小説の描写として活かしきれているとは言い難いです。ただこれからアニメでどんどんキャラに肉付けされていくと思うので、今後フルパワーで彼女たちを描けるときを楽しみにしてます!(いつになるのかは分かりませんが……)