ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

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過去への扉:ずっと隣にいてくれたから

「先生。この資料の最終確認をお願いします」

「あぁ――――ん?? おい、俺は生徒会顧問じゃないぞ? サラッと仕事を振るんじゃねぇ」

「あら、そうでしたか?」

「柄にもなく惚けてんじゃねぇよ……」

「うふふ、すみません。先生いつも生徒会室に入り浸っているので、勘違いしちゃいました♪」

「楽しそうにするなよ……」

 

 

 絶対に勘違いしてないだろって笑みを浮かべる恋。そもそも俺が生徒会室にいるのは恋の様子を見に来ているからで、別に生徒会業務を手伝うためではない。コイツのことを心配している理事長からの命令で、1人で生徒会を背負っているコイツの面倒を見ているだけだ。俺はお人好しじゃないんでね、面倒事は何が何でも避ける。故に頼まれている以上のことはしない、よく覚えておいて欲しい。

 

 ちなみに生徒会がコイツ1人なのは別にブラック職場というわけではなく、ただ単に生徒数が1年生分しかいないこの学校では生徒会の業務も少ないからだ。それでも補佐役ぐらいは誰か引き入れた方がいいと思うのだが、恋の事務処理能力がハイスペックすぎて1人で賄えているのが現状。スクールアイドル活動と余裕で両立できている時点でそれはお察しだろう。

 

 

「それにしてもお前も変わったな。俺に対してそんな冗談を言えるようになるなんて、半年前のお前からしたら考えられなかった」

「そうですね。それだけ心の余裕ができたのかもしれません。これも先生のおかげです」

「随分と素直だな。それも前のお前ではあり得なかったことだ」

「何もかも、先生に変えられてしまいました」

 

 

 なにそのちょっとエロい言い方。コイツにそんな意図はないんだろうけど、女子高生の口からその言葉は犯罪臭がするっつうか……まぁ余計な詮索はしないでおこう。

 冗談を言ったり素直になった恋は本当に別人のようで、半年前のコイツはそれはそれは何かにつけて俺を睨み、何か言えば噛みついてきそうなくらいの狂犬だった。常に険しい顔をしているし、オーラからして氷のように冷たくて他を寄せ付けない。自分の使命、結ヶ丘を存続させるためだったら周りから孤立しても構わないと言う強固な決意から、使命の妨げとなる要素を一切合切を否定してきた。それがスクールアイドルであったり、そして俺でもあったわけだ。

 

 

「Liellaの5人の中でもお前には一番苦労させられたよ。ただコミュニケーションを取ろうとしただけで不機嫌になるなんて、ぶっちゃけお手上げになりそうだった」

「それは私も悪いと思っていますが、先生も先生だったと思います。教師なのに服を着崩し、女性に対する軽率な言動、それに迷惑しているのに何度も何度も話しかけけてくる執拗さ、何をとっても私の癇に障りました」

「多分お互いの相性が悪かったんだろうな。あの頃は」

「そうですね、あの頃は」

 

 

 ただ今ではこうやって生徒会室で2人きりで昔話ができるくらいの仲になっているから、運命ってのは本当に何があるのか分からない。ちなみに俺はコイツに苦手意識を持っていたのではなく、過去最高に手懐けるのが難しい女の子が来たと少し心が躍っていた。だって自分に牙を剥く女の子を懐柔したくなるのは男の性だろ? えっ、違う……?

 

 

「私がずっと1人でいる中、先生もずっと声をかけてくれましたね。『学校生活はどうだ』とか、『生徒会は大変か?』とか、『堅いな~お前。もっと楽に生きたらどうだ?』とか、学校に関係のない日常会話まで、生産性のない他愛のないお話ばかり。それで私も冷たく突き放していたのですが、決して先生との関係を断ち切ろうとはしなかった。もしかしたら自分では気づいておらず、心のどこかでは嬉しかったのかもしれません。同級生との関係を断ち切ったつもりでも、誰かとの繋がりを求めていたと思うのです」

「普通科を除け者にするって相当恨まれることしてたもんなお前。そりゃそんな奴と繋がりを持とうとする奴はいないだろうしな。だからせめて俺だけでもって思ったんだ。そうしないとお前だけ仲間外れになっちまってたぞ?」

「なってしまっていたと言いますか、本当になっていたと思います。だからこそ先生を拒絶しなかったのだと。自覚はしていませんでしたが本当は寂しかったのです。でも弱音は吐けなかった。自分がやらなければ誰がお母様の意思を引き継ぐんだと、そう思っていましたので」

 

 

 普通科を見下していた態度も、スクールアイドルを否定していたのも、別に嫌がらせだったわけじゃない。否定行為はあの時の恋にとって最良の選択肢だったんだ。その考え方の違いでスクールアイドル、特にかのんとは大きく衝突していたけど、それはそれでいい経験だったんだろうなって今になって思うよ。結果として上手く話が進んで今に至るわけだし、衝突した過去があるからこそかのんたちとの友情もより強くあるわけだ。ま、あの頃の静かに暴走していたコイツは中々見るに堪えなかったけどな。同時に手間がかかる奴を構ってやりたくなる俺の衝動もあったわけだ。

 

 それにしても、コイツが背負っていたものは女子高生が1人にしてはあまりにも重荷が過ぎた。そりゃ1人で来年の新入生を集客しつつ、学校の資金難を解決するってぶっちゃけて言えば無理な話だ。どうやら恋の入学前からそんな話になっていたらしいので、もしかして俺がこの学校の教師に選ばれたのはそれを解決するためだったりするのか? どうやら秋葉と理事長には繋がりがあるようなので、うん、ありえる。

 

 

「でもそんな私を見かねたのか、他の方は私と距離を置く中、先生だけはずっとずっと私に話しかけてきました。その理由を聞いたら何と仰ったのか覚えていますか?」

「いや」

「『どうして声を掛けるのかだって? そりゃ心配だからだよ、お前のことが』。あまりにも素直過ぎて虚をつかれてしまいました」

「俺はオープンな性格だからな。欲望も何もかも曝け出す。隠してたら自分の夢は叶えられないんでね」

「夢? 先生には夢があるのですか?」

「あれ、言ったことなかったっけ? そんな大層な夢じゃねぇけどな。ただ女の子の笑顔が見たい、それだけだ」

「それが先生の夢、ですか……」

 

 

 こうして口に出してみると本当に大したことねぇな俺の夢って。特に何か終着点があるわけでもなく、特に達成難易度が高いわけでもない。まあ夢なんて他人と比較するものでもないし、大小なんて関係ないから別にいいんだけどさ。

 恋は何やら物思いに耽っている。あまりにも大したことがなさ過ぎて呆然としているのか、あまり教師らしくないと思われているのか。なんにせよ、意外に思っていることだけは確かだろう。

 

 

「なるほど……」

「なにが?」

「先生がずっと私の隣にいてくださった本当の理由がようやく分かったのです。どうして私にそこまで構ってくるのか、その理由を聞いたら何と仰ったのか覚えていますか?」

「いや、だから覚えてねぇって」

「『嫌でもお前の隣にいてやるよ。そうでないとお前に寄り添ってくれる人、誰もいなくなっちまうだろ。お前は拒否しても、俺は味方であり続けたい』。これは先生の優しさでもあり、そして先生の夢のためでもあったのですね」

「もしかしてお前、俺の言葉を一言一句隅々まで覚えてんのか? こえぇよ」

「私を救ってくれた言葉ですから、決して忘れません。お墓まで、そして天国にまで持ち込む所存です」

「なにその決意に満ちた表情は!? 余計にこえぇよ!!」

「格言として家に飾っておくのもいいですね……」

「そんなことで真剣になるなよ……」

 

 

 感動してもらえるのは嬉しいけど、言葉だけを神のように奉るのは普通に恥ずかしいからやめろ。コイツってドが付くほど真面目だけど、天然の真面目ちゃんだから思考言動があらぬ方向に進むことがある。冗談を言えるくらいには堅物が抜けたのはいいけど、天然系真面目キャラが引き起こす渾身のボケには未だに呆気に取られることが多い。絵里といい、どうして堅物キャラは仲間になったら弱体化するんだろうな……。

 

 

「真剣にもなりますよ。笑顔になるきっかけを作ってくれた、先生からの大切なお言葉ですから」

「あの頃はお前の笑顔、全く見なかったからな。そういう意味では俺が最初にお前の笑顔を見た男、ってことか?」

「そもそもこの学校の男性は先生しかいらっしゃいませんけど……」

「そうだった……。でもまぁ、お前の笑顔が見たいってのは下心のない本心だよ。昔も、今もな」

「分かっていますよ、先生に曇りのない優しさがあることは。『俺はお前に普通の女子高生として生きて欲しいんだよ。誰からも恨まれず、日々疲弊するほど思い悩む必要がないようにな』。この言葉を聞いた時、この人は本気で私のことを心配してくれているんだと悟りましたから」

「そんな言葉まで覚えてんのかよ……」

 

 

 もう下手にキザったらしい言葉を恋の前で言うのはやめた方がいいかもしれない。格言として神格化され、忘れた頃に掘り起こしてきやがる。場合によっては黒歴史にもなりかねないぞこれ……。

 

 

「覚えています。絶対に忘れるはずがありません。だって先生がいなかったら私、今こんな素晴らしい幸せを噛みしめてはいませんから」

「それってまさか、俺と一緒にいられることか?」

「はいっ!」

「なんだよその屈託のない笑顔は……。マジか……」

 

 

 否定される覚悟での冗談交じりの発言だったのだが、まさか本当に俺と一緒にいることに喜びを感じていたとは……。いや嬉しいことなんだけど、素直過ぎるってのも困りものだ。流石の俺も柄にもなく取り乱しそうになってしまった。これなら暴走機関車だけど単純思考の可可の方がまだ扱いやすいぞ……。

 

 

「かのんさん、可可さん、千砂都さん、すみれさん、そして学校の皆さん、その全員と繋がることができたのは先生のおかげです。私の凍てついた心を溶かしてくださった先生には感謝を伝えても伝えきれません。それに私がスクールアイドルになってからもずっとサポートしてくださって、こうして生徒会室にも足を運んでくださっている。そんな先生の隣にいられることが楽しくて、いてくれるという事実が私を勇気づけて、そして……」

「そして?」

「い、いえっ! ともかく、今の私があるのは先生のおかげということですっ!」

「なんかありきたりな言葉で無理矢理まとめたな……」

 

 

 恋の奴、めちゃくちゃ赤面していて今にも爆発しそうだけど大丈夫か?? 最後に何を言おうとしていたのかは知らないけど、今のコイツは俺に相当な執着があるようだ。それはかのんたちも変わらないだろうが、俺によって一番変わったコイツだからこそ俺に対する気持ちは大いに積もっていることだろう。って、自分で解説するのも気恥ずかしいな。

 

 

「なんにせよ、今が充実しているならそれで良かったよ。まだ俺の目的は達成されてないけどな」

「目的?」

「可愛いお前を見ることだ」

「ぶぅぅぅぅっ!!」

「なに水噴き出してんだよ!! 女子のくせにはしたねぇぞ!!」

「せ、先生が変なことを仰るからです!! そ、そんな私なんて可可さんや千砂都さんみたいに愛嬌があるわけでも、かのんさんやすみれさんみたいに美人でもないですし……」

「いやお前マジで言ってんのか……」

「へ?」

 

 

 そりゃLiellaの面々はみんなそれぞれの魅力があり、他のスクールアイドルの奴らもそうだが、それはもちろんコイツも同じだ。まさかここで特大ブーメランを自分で自分に投げつけるほどの天然だったとは。いや謙遜なのか? 自分で自分の魅力を分かってない女の子を分からせてやるのも俺のやりたいことだ。そっちの方がステージでより輝くことができるだろうしな。全く、ブーメラン発言をする奴には困ったもんだ。

 

 ん? この場に侑がいないのに睨まれてる感じがするのは気のせいか……??

 

 

「笑顔を見るってのはスタート地点だ。俺の夢は更にその先にある。だからこうしてお前たちの前に立つんだよ」

「だとしたら、私がステージで輝けば輝くほど、先生はずっと私を見てくださる。ということでしょうか……?」

「逆だな。俺が見てるからお前が、お前たちが輝くんだ。だからもっと想いを募らせろ。俺もお前への、お前たちへの気持ちを高鳴らせておくからさ」

「先生が私たちを……。私も先生を……。はい、私、もっと先生の心を踊らせてみせます」

「言ったな。精々楽しみにしてるよ」

 

 

 少し告白っぽくなってしまったが、恋愛下手なコイツにはこれくらい率直に気持ちを伝えた方がいいだろう。そのおかげかどこか腑に落ちた様子だし、これでより一層輝いて、魅力的で、そして可愛いコイツの姿も見られるはずだ。

 

 それに半年前のコイツの冷徹さを考えると、まず可愛い姿を見られるというスタートラインに立てただけでも喜ぶべきことなんだよな。かのんたちと和解して、学校のみんなに溶け込んだ時は親のように嬉しかった。それだけでもコイツにとっては大きな成長だ。

 

 もちろん俺はそれで満足はしない。ただ魅力的、ただ可愛い女の子だけだったら他にたくさんいる。俺は俺にその魅力を向けてくれる女の子が欲しい。だから恋を助けたのも全て私利私欲のためだ。コイツに想いを向けられているのも全てもたらされた結果なんだ。

 

 スタートは既に切られている。かのんたちも、恋も、まだ走り始めたばかりだ。

 だからこれから、もっともっと俺を楽しませてくれよ。

 




 女の子が過去を背負っていれば背負っているほど零君を介入させて助けるイベントを発生させられるので、非常に話が書きやすくて良きことです(本音) それでも先生が生徒にしてあげることの範疇を超えているような気がしますが、そこは零君なので……(笑)

 過去編も残すところあと1人となりました。そしてこのLiella編も残り数話、時期的には8月中~9月半ばに完結予定です。
 Liella編の後に何をやるのかは……まだご想像にお任せということで!(笑)

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