色々と打ち明ける前にLiellaのライブの出番が間近に迫っていたので、とりあえず先にそっちに行ってもらうことにした。傍から見たらファンも興奮するライブだったのだが、俺の目からしたらどこか魅力に欠けた。恐らくアイツらの心が乱れに乱れていたためだろう。そりゃ好きな人に他の女、しかも1人ではなく大勢と関係を持ってるなんて知ったら普通であれば受け入れがたいはず。それが純粋な心を持つアイツらならなおさらだ。
ちなみにSunny Passionの2人も無事に自分たちのライブを終えた。アイツらも事の顛末を知りたいようだったが、俺たちのことは俺たちで決着をつけた方がいいとのことで席を外してくれた。その好意はありがたいが、全てに決着が付いたらアイツらにも真実を打ち明けておこうと思う。乗り掛かった舟のままだと気になっちまうだろうしな。
イベントも一通り終わり、ところ変わって結ヶ丘の学校の屋上。ライブ終了後はいつもであれば倉庫に衣装や小道具をぶち込んだのち、打ち上げで飯を食って解散の流れだ。だが今日は違う。柵を背にして待っていると、屋上のドアが開いてかのんたちがやって来た。
空は絵になるほど綺麗な夕暮れ。ただかのんたちにとってはそんなロマンティックな光景には見えず、落ち行く太陽を自分たちの沈みつつある心と重ね合わせ、より一層の不安と緊張を渦巻かせているに違いない。いつもならライブ終わりは達成感に満ち溢れているいい顔をしているコイツらだが、今の様子だけを見ていると直前に大盛り上がりのライブがあっただなんて思えないな。
「そんな顔をするな。俺はこういう人間なんだ、元からな」
俺のことを不審に思っているのか、それとも落胆しているのか、はたまた怒っているのか、そもそもどういった反応をしていいのか分からないのか、彼女たちの様子からは読み取れない。ただどれにせよ、俺の口から真実を1から10まで聞くまで自分がどうするべきか結論は出せないだろう。
「スクールアイドルの奴らとは俺が高校生だった頃から付き合いがある。付き合いってのは文字通り、男女の関係って意味だよ。それも1人だけじゃない。もはや数えるのすら億劫になるほどだ。お前らが俺の携帯の画面で見た名前のほとんどと付き合いがある。付き合いがなくても、こうして連絡を取り合うくらいは親しい仲ってことだ」
言い訳なんてしないし、そもそも毛頭するつもりはない。これが結論、これが真実。これが俺の人間関係の全てだ。
かのんたちの表情がまたしても曇る。そりゃそうだ、自分の好きだった男が他の女の子と付き合っており、しかも1人ではなく複数人だと言われたら『何言ってんだコイツ正気か?』と疑うのは当然。俺がコイツらの立場でも恐らく同じことを考えるだろう。
張り詰めた空気が続く中、最初に沈黙を破ったのはすみれだった。
「まだ全然整理できてないんだけど、アンタは二股以上のことをしてる、ってことでOK?」
「あぁ」
「それを私たちに隠していた、って認識でOK?」
「あぁ」
恐らく何を聞いても否定は返って来ないと分かっているのだろうが、俺の口から直接聞かなければ心の整理ができないのだろう。ただ整理ができても納得はできないとは思う。認めてしまったら自分の入り込む余地は最初からなかったと悩みに苛まれてしまう、そう考えているに違いない。もちろん俺は女の子にそんな絶望を抱かせることはしないけどな。
そしてすみれが先陣を切ったのを皮切りに、他の奴らも溜め込んでいた疑問質問を投げつけてくる。
「女性とお付き合いしたことがないと言うのも嘘だったんですね……」
「あぁ。たくさんの女の子と付き合ってるとか生徒に言えるかよ。下手に騒ぎになったらどうする」
「でもどうしてスクールアイドルの人たちとばかりお付き合いしているのデスか……?」
「どうやらスクールアイドルを引き寄せる体質らしい。ってのは冗談で、俺は女の子の笑顔が好きだからな。だからスクールアイドルの女の子と相性がいいんだ」
「それだけたくさんの女性とお付き合いして、悪気……みたいなものはないんですね」
「なぜ悪びれる必要がある。むしろ誇りだ」
「社会的に問題があるとしてもですか……?」
「問題はない。社会以上にこの俺が全てなんだから」
もはや質疑応答ってよりかは反射だな。投げつけられた質問を握り潰すように受け止め、そのまま剛速球で投げ返す。多分コイツらも俺が自分たちの想定していた答えと違う方向性の返答をされるとは思ってもいなかっただろう。世間外れで常識外れだもんな、俺の考えって。まるで理解できないような顔をしているのがその証拠だ。
「そんなの、許されると思ってるわけ……?」
「どうして俺が許しを請う必要がある。これが俺の生き方。誰かに言われたからって折れてどうする。俺は俺の信念を貫くだけだ」
「どうしてそこまでしてレールから外れようとするのですか……?」
「たくさんの女の子の笑顔を、誰よりも近くで見たい。ただそれだけだよ」
当然のことだがこれだけだと納得しねぇよな。だけど俺はコイツらを自分の世界に引き込もうとか、増してや無理矢理にでも自分のモノにするために自分好みになるように調教してやろうとか、そんなことは思っていない。俺の考え、信念、そして夢、それを聞いてもなお俺についてくるか否かはコイツらが決めることだ。だから折り合いをつけるのはコイツらであって俺ではない。俺についてくるのであれば受け入れる、そうでなければ置いていく。それだけだ。
複雑そうな表情をする5人。その中でも特にかのんは真剣な面持ちでこちらを見つめていた。
「何か言いたいことがあるのか?」
「先生、いつもより達観しているように見えます。なんと言うかその、さっき自分の信念を語っていたときの先生、私たちではなくて別の何かを見つめていたような気がして……」
「そう見えたか? 俺は人と話している時は相手に集中するタイプなんだけど、流石に色々あり過ぎたからな、昔は」
「色々……? 私、先生のことをもっと知りたいです!」
「そういえば先生ってあまり自分のことを話さないよね。度し難いほどのお人好しになっちゃったのって、何か理由があるんですか?」
「それは貶してんのか千砂都……」
「いやいや、私も聞きたいなぁ~と思いまして。先生のことをたくさん知りたいのはかのんちゃんだけじゃないってことです!」
他のみんなも同意するように頷く。そういや俺の身の上話はコイツらにしたことなかったな。コイツらが知っていることと言えば姉の秋葉がいること、妹がいること(会ったことはあるが名前を明かしていない)、そして虹ヶ咲のコーチをやっていたことくらいだ。教師と生徒の関係だから深く話している方がおかしいことだろうが、俺たちはもうただの教師生徒の関係ではない。コイツらの瞳は真剣だ。本気で俺のことを知りたがっているのだろう。どうしてここまでたくさんの女の子を抱え込んでいるのかを。
「俺の夢の発端となった話か。自分で言うのもアレだけど、そんなに気分のいい話じゃねぇぞ? 聞いてる途中で辛くなるかもな」
「大丈夫デス! 受け止める覚悟はできていマス!」
「こっちはたくさんの女の子と付き合ってるってデカい爆弾を落とされてるのよ? 大丈夫に決まってるじゃない」
「先生ご自身の話を聞くのは初めてですから、先生のことを知ることができてむしろ嬉しいです」
「ったく、物好きだなお前ら……」
そう言いつつも話していいと思ってしまうあたり、俺もコイツらとの関係と大切に思っているらしい。特に隠すような話でもないんだけど、重い話だからこそ気が許せて信頼する奴にしか話したくない。話の圧力にコイツらがどれだけ耐えられるか分からないけどな。
やたらと俺の過去に興味津々なかのんたちに、仕方なく俺が俺である所以を話してやることにした。
どうして俺が女の子の笑顔に魅力を感じるようになったのか。その原因は大きく分けて2つ。
1つは高校時代に俺が優柔不断だったせいで、μ'sのみんなを苦しませてしまったこと。たった9日間の出来事だったが、あの時の日常はまさに『地獄』だった。体力も精神も何もかも擦り減らしていた気がする。たくさんの女の子に好かれて、その状況に浮かれて、何も答えを出さずに何もかもをキープし続けていた。そりゃ女の子は怒るよな。ああなったのは俺のせいだ。だからあの時は自分の罪を悔いて償いながらも、最後まで諦めずにアイツらの心に俺の想いを訴えかけていた。当時は我武者羅だったが、諦めなかったおかげでみんなを元に戻すことができたんだよな。
2つ目は虹ヶ咲の初期メンバー9人と実は幼い頃に会っていた話。火事の現場で動けなくなって召されるのを待つしかなかったアイツらを、俺は死に物狂いで救いに行った……らしい。らしいってのはその時の記憶がないからで、どうやらアイツらを救った後に気絶して当時の出来事だけすっぽりと記憶が失われていたとのことだ。秋葉やアイツらからそれを聞かされた時は嘘かと思ったが、アイツらが俺に向ける心酔と言っていいほどの愛を見ると信じるしかない。結局あの火事は俺を試すために行った秋葉の自作自演だったとか諸々あったけど、なんにせよ今の俺が出来上がる開幕の事件だったことには違いない。
どちらも俺にとっては大きな出来事だった。しかし、これはあくまできっかけに過ぎない。可愛い女の子が大好きってのは俺自身の欲望であり、女の子の笑顔を守りたいってのはその欲望から来たものだ。だから自分の過去に囚われて女の子に執着しているわけではない。もしそんな訳ありの男だとしたら心から女の子を愛せるわけないし、女の子もそんな男について行こうだなんて思わないだろう。
そして、そんなしがない話を聞いていたかのんたちだったが――――
「だから辛くなるかもって言ったろ……」
俺の話を聞いている途中から各々は眼に涙を浮かべていた。高校生に聞かせるにはあまりに悲痛だったか。流石のコイツらも俺がここまでの苦労を背負っていたなんて思っていなかったのだろう。俺も久しぶりに過去を振り返ったからか、物がパンパンに詰まっている押入れを久々に開けて中身が溢れだしたみたいな感覚で、自分の記憶を雪崩のように喋ってしまった。あの頃のμ'sとの関係性や悲痛な思い出を鮮明に想像できるほど詳しく話してしまった気がする。感受性が豊かなコイツらだからこそ、まるで自分が見てきたかのようにその時の光景が脳内に映し出されたに違いない。
「この話で同情を得ようとか、俺を理解してもらおうだとか一切考えてない。身の上話をしないと判断材料が少ないと思っただけだ。だからここからはお前たち1人1人が考えてくれ。まあどんな結論に至ろうとも、部活の顧問をやめるつもりはないから安心しろ。その場合はただの教師生徒の関係に戻るだけ、至って健全だろ」
これだけたくさんの女の子と出会ってるんだ、1人くらいは俺の考え方について来れない奴もいるかもしれない。だけどそれでもいい。価値観が違う奴ら同士で付き合ってもストレスだろうし、合わないと思ったらその段階で関りを絶てばいいだけだ。今の俺たちはその分岐点に立っている。
つうか顧問をやめるつもりはないって言ったけど、これでもしかのんたちが俺への恋愛線を断ち切ったとして、その先の関係を保てるかは不明だ。ただの教師生徒の関係になるとは言ったが、明らかに気まずいよな……。
「俺からこれ以上話すことはない。聞きたいことがあればまた連絡してくれ。こんな俺だけど、求めるのであればお前らが納得するまで話に付き合ってやるよ。それで俺が自分に見合う男かどうか判断しろ」
そうして俺たちは解散した。
屋上から立ち去る際も誰もこちらを見ようとはせず、俯いたままずっと考え事をしているようだった。
これからの俺たちの関係。それがどうなるかはアイツら次第。俺は自分の信念を曲げるつもりはない。今はただ、待つだけだ。
To Be Continued……
今回はかなり短めですが、遂に零君の本性がかのんたちに明かされた重要な回でした。久々に彼の俺様気質が見られたかも……
彼は『過去への扉』編でも語られた通り可能な限り彼女たちには歩み寄ったので、あとは彼女たちが彼との関係を続けていくのかどうか、それだけです。
次回はその『過去への扉』編の最後のかのん回で、最終回まで残り2話予定です。
最終回までこの小説らしからぬシリアス系のお話が続きますが、是非彼らの関係を見守っていただければと思います。