ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

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日向ぼっこ大戦争!

 虹ヶ咲学園。

 自由な校風と専攻の多様さで人気の女子高で、各分野で活躍する人材が集まるいわゆる名門校である。校舎も新設されたばかりなので綺麗で、校内もそこらの大学のキャンパスより広く、部活やフードコーナー、リラックススペース、プールなどなど、もう校内だけで生活できるほどに設備が充実している。しかも東京のお台場という都会の中の都会の立地のため交通アクセスも良く、放課後に遊ぶところなんていくらでも存在する。更に学校としての実績も凄まじく、専門学科のレベルが高いためか進学および就職率は全国でもトップクラス。更に更に女子高は女子高でも生徒は美女美少女ばかりであり、そのため世間から(主に男たち)も注目されるほどの学校なのだ。

 

 そうなればもちろん毎年の入学希望者が後を絶たず、そのため入学は非常に狭き門となっている。設備の充実差から勉学にも励みやすく、一息つきたいときは遊ぶところが無数に存在する。学生であればそれほど恵まれた環境はないだろう。

 

 ――――というのは、表向きの謳い文句である。

 実はこの学校は俺の姉である秋葉が設立した学校だ。もちろんアイツがただ善意のために学校を立ち上げるわけがない。その理由は『神崎零に見合う女の子を育てるための施設』と言えば簡潔だろう。最高級の環境が用意されているのも、その全ては俺のため。俺のための女の子であるならば、その育成環境も最高級のものでなくてはならないという考えからだ。

 そしてこの学校に美女美少女しかいないのもまさにそれが理由。顔採用と言ってしまうと聞こえは悪いが、実際にそうなんだから仕方がない。しかも入学のために学力試験は実施するもののそれは選考基準の一部でしかなく、より重視されるのは容姿の良さと健康的なカラダを持っていること。スタイル云々は問題ではなく、どうやら俺とのカラダの相性の良さで決めているらしい。あとは俺を好きになる素質が高いこと。どうやって判別しているのかは知らないが、そのような理由から選別されるためある意味で狭き門となっているのだ。

 

 ちなみに唯一例外なのが高咲侑。アイツだけは別の理由で入学を認められたのだが、それはまたの機会に振り替えるとしよう。

 

 そんな美女美少女たちが集まる学校。そんな中で俺は―――――

 

 

「いい天気だ……。ねみぃ……」

 

 

 昼寝をしようとしていた。

 自分のことが大好きな女の子たちしかいない空間と聞けば興奮モノだが、もう何年も前からそういった環境に身を置いているので今更舞い上がることもない。むしろ俺がどんな行動をしても咎められることがない空間のため、この学校に対してはそっちの方に価値を見出している。こうして白昼堂々と外で昼寝をしていても全く問題ないわけだ。ご丁寧に校内が広いおかげで日向ぼっこに最適な芝生もあるため、もうここで寝てくださいと言っているようなものだろう。

 

 そうやって理由をこじつけて昼寝をしようとしていると、誰かが近くに寄ってくる気配がした。

 

 

「零さん、お昼寝してるの……?」

 

 

 俺の傍に駆け寄って来たのは璃奈だった。寝転がっている俺の顔を覗き込んでくる。

 超薄目で見ているため起きていることに気付かれてはいない。別に返事をするのが面倒ではなく、単純に眠いだけだ。

 

 

「私も一緒に寝て……いいよね?」

 

 

 璃奈は添い寝をしようとしてくるが、この行動は驚くことではない。俺が部室のソファで寝ている時も無理矢理隣を陣取って来るし、何かと俺に擦り寄ってくるためむしろ添い寝されない方が不自然に思えてくるくらいだ。抱き枕としても使えそうなくらい華奢なカラダは自分の腕に収まる程よいサイズで、添い寝をされると自然と腕を回してしまう。こんな愛くるしいマスコット系美少女なんだ、抱きしめない方がおかしいだろ。

 

 ――――と思っていたのも束の間、俺の予想は裏切られた。

 なんと璃奈は俺に添い寝せず、何故かうつ伏せで覆い被さって来た。抱き枕のポジションではなく掛け布団のポジションを取るなんて未だかつてなかったことだが、何の躊躇いもなく覆い被さってきたのでもう最初からこうすると決めていたのだろう。幸いにもコイツの体型的に体重は軽いので余裕で支え切れているが、左右が空いているのに上からのしかかってくるって何考えてんだコイツ……。

 

 

「どんなふかふかなお布団より気持ちいかも……」

 

 

 うつ伏せで俺に被さっているためか、彼女の慎ましやかな胸が俺の胸元に押し潰されている。ちんちくりんな体型をしているのにも関わらず、こうして感触を味わってみるとやっぱりコイツも女の子なんだなって思う。胸が薄くてもしっかりとその膨らみを感じられ、男の欲情を煽ることのできるカラダなのだと。まあこれだけベッタリと密着してればそりゃそうなんだけどさ。これで胸の感触がなかったら女装男子を疑うトンデモ展開になってたからな……。

 

 そして少し時間が経った。俺は寝たフリをして起きたままだが、璃奈の方は眠ってしまったのだろうか。微かに寝息のようなものが聞こえる。男のカラダの上で自分の胸を押し付けて寝るなんて相当な度量の持ち主だが、コイツもコイツで肝が据わっているところがあるから特別不思議なことではないのかもしれない。

 

 そうしている間に、また別の子が駆け寄ってくることに気が付いた。

 

 

「やっぱり零さんとりな子だった!」

 

 

 この騒がしい声で正体がかすみだと分かる。またさっきのようにバレないよう薄っすらと目を開けて確認して見ると、かすみは物凄いスピードで駆け寄ってきて寝ている俺の隣に腰を下ろした。

 

 

「りな子だけ零さんとお昼寝してるのずる~い! かすみんも一緒に寝ちゃうもんっ!」

 

 

 出たよ謎の対抗心。コイツは俺の隣に誰か女の子がいるだけでいつも張り合ってくる。今は璃奈に覆い被さられているが、誰かに添い寝をされている時もよくコイツは反対側を陣取って添い寝してくる。彼女は俺に心酔する歩夢たち初期勢9人の中でも特に独占欲が強く、絆が強く仲の良いニジガクメンバーの中でもその欲だけは心に宿している。そういった小悪魔系でかませキャラっぽいところが可愛いんだけどな。

 

 そしてかすみは横になって俺の腕に抱き着く。起きていることに気づかれないくらいの薄目で彼女を見てみるが、もうこれ以上にないってくらい満面の笑顔。最近はずっと俺の傍にいるからこのポジションは珍しくも何ともないのに、まだこれで幸せを感じることができるなんておめでたい奴だ。まあ俺の存在で笑顔が見られるならそれに越したことはないけどさ。

 

 そこからまた時間が経過し、怒涛の連続添い寝に対して吹っ飛んでいた眠気がまた戻って来た。璃奈とかすみがいい感じに温もりを与えてくれるので睡眠には最適な環境だ。かすみも寝たのかは知らないが、さっきから全く喋っていない。

 そんな中、またしても俺たちに近づいてくる影が1つ。

 

 

「こ、これは……注意した方がいいのでしょうか……?」

 

 

 この声……今度は栞子か。ただ璃奈やかすみとは違ってどうやらこの状況に戸惑っている様子。そりゃそうだ、男1人が女の子2人を侍らせて女子高の中で昼寝をしてるんだから。もし俺がそんな光景を見かけたら相手の言い訳を聞かずに通報しちゃうね。

 

 

「昼寝をするなとは言いませんが、外で寝ていると風邪を引いてしまうかもしれませんし……。ただ3人共よく眠っているようなので起こすのも気が引けると言いますか……」

 

 

 相変わらず超真面目だな。この学校の生徒の9割9分は寝転がってる俺を見かけたらコイツらみたいに躊躇いなく添い寝する奴らばかりだ。だからこうして注意しようと考える奴は栞子と侑くらいだろう。

 

 

「そ、それほどまでに零さんとのお昼寝は気持ち良いものなのでしょうか……? 確かにここは日当たりが良く休憩している方も多い場所ですが……。それに零さんの隣、まだ空いていますね……」

 

 

 真面目だと思ったけど誘惑にあっさり負けそうになってねぇか? 悶々として己の欲望と戦っている姿が薄目で見てもよく分かる。彼女は堅物そうに見えるが決して融通が利かないわけではなく、むしろ程よい冗談には乗って来ることもあるので意外とノリはいい方だ。だとしてもお嬢様系でド真面目系だから堅物な面もまだ結構多いけどな。

 

 

「少しだけ。少しだけならいい……ですよね?」

 

 

 どうやら欲望に負けたらしい。俺のもとに近づき、かすみとは反対側の隣に腰を下ろす。

 ちなみに彼女の方から添い寝して来るのは珍しい。俺が寝ていて自分に意識が向いていないと分かっているから大胆になっているのだろうか。歩夢たちと比べたら彼女からは形となる好意は寄せられたことはないが、こうして大胆になれるくらいに寄り添ってくるってことは想像以上に好意を抱かれているらしい。そう考えるとなんだか嬉しいな。ま、コイツも虹ヶ咲の生徒ってことは選別された女の子なんだから当たり前か。

 

 栞子が寝転ぼうとする。

 その時、また別の声が、しかもかなり近くから聞こえてきた。

 

 

「何をやってるの? 栞子さん」

「ひぃっ!? し、しずくさん!?」

「静かに。零さんが起きちゃうから黙ってね」

 

 

 いつの間に忍び寄ったのか、しずくが俺たちの間近にいた。栞子はいきなり後ろから話しかけられて肩をビクつかせ、この大胆行動を誰かに見られた恥ずかしさで顔を赤くする。対してしずくは少々機嫌悪そうにしており、ジト目で俺、というより栞子たちを見つめていた。

 

 

「全く、かすみさんの抜け駆け癖はいつものことだけど、まさか栞子さんまで……」

「抜け駆けだなんてそんな! 私はただその……そう、外で寝ていては風邪を引いてしまうかもしれないので起こそうとしていただけです!」

「今日はこんなに暖かいのに?」

「う゛っ……」

「うふふ、からかってゴメンね。でも栞子さんの気持ちは分かるよ。だって零さんに添い寝するのってとても気持ちいいから」

「そ、そうなのですか……」

「うん。それはもう……ね。うふふ♪」

 

 

 なんか怖いなしずくの奴……。1年生の中でもかすみと璃奈は直球の積極性があるが、しずくはなんだろう、ねっとりとした積極性がある。じわりじわりと外堀を埋めてくるような感じで、いつの間にか隣にいる。ヤンデレとはまでは行かないが、それに近しい雰囲気を漂わせてるんだよな……。

 

 

「栞子さんはそこで添い寝していいからね。私もやらせてもらうから、一緒に零さんを堪能しようよ」

「えっ、でも私がここで寝たら、もう零さんに添い寝できる場所はない気がしますが……」

「大丈夫。私とのテスト勉強から逃げて、挙句の果てに零さんの隣を陣取るかすみさんなんて許せないもん。だからこうして――――えいっ♪」

「ふぎゃっ!?」

 

 

 しずくは寝転がっているかすみのカラダを俺から引き剥がすように外側へ転がした。かすみは芝生の上をコロコロと転がされる。

 つうか今日のしずくがやたらヤンデレ気味なのはかすみが勉強の約束を蹴ったからなのか。それなのに俺とイチャイチャと添い寝してたら、そりゃ怒るだろ普通……。

 

 そしてしずくは満面の笑みでかすみが元いた場所を陣取り、俺に抱き着いて添い寝した。

 

 

「うん、やっぱりここが一番落ち着くな~♪」

「ちょっとしず子!? 泥棒猫しず子!!」

「テストの点数が22(にゃんにゃん)のかすみさんの方がよっぽど猫ちゃんだと思うけど?」

「きぃいいいいいいいいいいいいいいい!! しず子ぉおおおおおおおおおおお!!」

 

 

 あっという間に奇声を上げるなんて口論勝負弱すぎだろコイツ……。しずくの煽り力が高いと言うべきか。とにかく自分の聖域が侵されたことに『おこ』になっているかすみは、いつもの甲高い奇声を発して俺たちもとに戻って来た。

 

 

「お、お二人とも落ち着いて……」

「じゃあしお子の場所をかすみんに譲ってくれる?」

「えっ、それは……」

「ダメ……?」

「う゛っ……」

 

 

 出たよ、かすみお得意のぶりっこ涙目作戦だ。涙目+上目遣いのコンボ攻撃で栞子に着実にダメージを与えに行く。俺やしずくたちは腹黒ぶりっこ攻撃に耐性があるので跳ね除けられるが、純粋オブ純粋の栞子にとってはクリーンヒットものだ。反撃もできずに唸るばかりだし、こうなってしまったらもう折れるしかないか……?

 

 

「ダメです」

「ふぇ?」

「え?」

 

 

 へ?

 予想外の返答にかすみだけではなくしずくも、そして俺も心の中で驚いてしまった。

 

 

「ここは――――ここは私の場所ですっ!!」

「しお子!? まさかしお子がここまで零さんにハマっていただなんて……」

「この気概、演劇をやっている私なら分かる。これは――――本物」

「そんな目を丸くしてこちらを見ないでください! ただ私は零さんの隣があまりに気持ちいいと聞くので、それを検証すべく場所を譲りたくないだけです。こ、このままでは皆さんが添い寝に夢中になって勉学やスクールアイドル活動に支障が出るかもしれませんし、生徒会長として確認しておくことは重要かと……」

「「ホント……?」」

「そんな疑い深い目で見ないでください!!」

 

 

 驚きの目を向けられたりジト目で見られたりと、自身の行動の1つ1つが自爆へ繋がっている栞子。何かと言い訳を放っているが、自分の欲望を抑えつけるだけで精一杯なのだろう。ここまで自分の欲求を前面に押し出すコイツは珍しいけど、俺に添い寝をするのってそこまで気持ちいいのか? 確かに女の子を抱き枕にすると質の良い睡眠ができるので、それと似たような感じか。妹の楓もよく同じことを言ってるしな。

 

 

「だったらかすみんの場所がないじゃん!」

「大丈夫。零さんは私と栞子さんのカラダを使ったあったか~いお布団で快適な睡眠が取れるようになるから」

「璃奈さんもいますけど……」

「「あっ、本当だ」」

「今まで気づいていなかったのですか!?」

「いやぁ~あまりにも零さんと一体化していたからつい忘れちゃって……」

 

 

 いくら体格が小さいとは言っても一体化しすぎて気付かないは無理ねぇか……?? てか俺も今まで璃奈の存在忘れてた。覆い被さられているのに忘れるとか体重軽すぎだろコイツ。

 でもベッタリと引っ付いているのは本当で、俺のカラダに腕を回し、慎ましい胸を潰すくらい押し付けて寝ているので、確かにこれは一体化していると言っても過言ではない。

 

 つうかこれだけ3人が騒いでるのに寝続けられるって意外と寝坊助なんだな。彼方ほどまではいかないだろうが、隣で添い寝バトルが繰り広げられている戦場の真っただ中で眠り続けるその精神力は素晴らしい。いや、ただ鈍感なだけなのか……。

 

 

「璃奈さん、コアラの子供みたいに零さんに抱き着いていますね」

「りな子のおっぱい、ぎゅ~ってなっちゃってる」

「へ、変なこと言わないでください……」

「かすみさんの大きさではぎゅ~っとはならないよね」

「それどういう意味? それにしず子もそんなに大きさ変わらないじゃん」

「み、皆さん、清純な虹ヶ咲の女子高生たるものあまりそういう会話は……」

「変わるもん。ねぇ栞子さん?」

「そもそも、しお子って大きさどれくらいだっけ?」

「もうやめましょうこの話!!」

 

 

 男の前で胸の大きさ談義をするんじゃねぇよ。そういうのは夜のパジャマパーティーみたいなところで女子だけでやることだろ、どういう気持ちで聞けばいいんだよ……。

 ちなみに胸の大きさは『璃奈』<『かすみ』<『栞子』<『しずく』の順番だ。女の子の胸の大きさを把握してるなんて気持ち悪いと思うかもしれないが、事あるごとに抱き着かれてたら嫌でも個々人の大きさは分かる。それに秋葉が作ってくれた女の子の健康管理、という名目の身体測定アプリが入ったタブレットも持ってるしな。それを使えば女の子のプロフィールは恥ずかしい面も含めて赤裸々にできる。

 

 栞子が淫らな話題をぶった切ったが、結局誰がどこで添い寝をするか戦争は終結していない。戦争とは言ってもしずくとかすみの戦いなだけで栞子は巻き込まれているだけなのだが。それに璃奈は完全に知らぬ顔、ていうか寝たままだし……。

 

 

「話も終わったことだし、私は零さんの添い寝に戻らせてもらうね」

「ちょいちょいちょいちょいちょい! そこっ! かすみんの場所!」

「かすみさんはテスト勉強があるでしょ?」

「だったらしず子も付き合ってよ! そういう約束だったじゃん!」

「先に裏切ったのはかすみさんの方だよね!?」

「落ち着いてください。私もお付き合いしますので、終わったらまたみんなで添い寝をすれば良いかと」

「う~ん、仕方ないか」

 

 

 いや俺がいつまで寝てること想定なんだよ。ただの昼寝だぞこれ……。しかもコイツらの騒ぎに耳を傾けてる間に眠気も覚めちまったし……。

 

 

「もしテストで赤点だった場合、部活に参加することを禁じられる可能性があります」

「しお子そんな殺生な! 友達だよね!?」

「親友ですが生徒会長なので」

「出た! 塩対応のしお子だ!」

「まあまあ栞子さん。私たちで教えれば赤点くらい簡単に回避できるよ」

「しずくさんも、最近夜な夜な零さんとの情事を演劇の台本として書き留めていると聞きます。それで勉学がほんの少しですが疎かになっていることも」

「ど、どうしてそれを!?」

「ですのでお二人とも、今日はみっちりとテスト勉強を仕込んで差し上げますのでご覚悟をお願いします」

「「うっ……!!」」

 

 

 なんか物凄く恥ずかしいプライベート事情が暴露された気がするが、大体想像はつくので驚くことではない。表で清楚ぶってる奴ほど裏で何やってるのか分からないからな。

 

 そんなこんなで栞子がテスト勉強を仕切るという形で日向ぼっこ戦争は終結した。騒がしくはあったけど、それも仲が良いことに現れだってことで納得しておこう。結局のところ戦争の勝利者は栞子ってことになった……ってことでいいのかな。

 

 そして、3人が立ち去ってすぐのことだった。璃奈がいきなり身体を上げた。目覚めたのかと思ったが、寝ていたにしては上体を起こすのがやけにスムーズだ。一体何があった……?

 

 

「おはよう零さん。おはようと言うより、ずっと起きてたんだよね?」

「…………知ってたのか」

「うん。薄目で見てたの気づいてたもん」

「気付いてたって、お前も起きてたのか?」

「うん。零さんを堪能するのに夢中で喋れなかったけど」

 

 

 同級生が周りであれだけ騒いでたのに俺に覆い被さることを優先してたのかコイツ。しかも途中で自分のことが話題に上がったのにも関わらず、それでもなお俺に抱き着いたままツッコミすら入れなかったってどれだけ夢中になってたんだよ……。

 

 

「でもこれは作戦通り。今日はかすみちゃんがしずくちゃんとテスト勉強をするのを知っていた。そしてかすみちゃんが飽きて零さんのところへ行くのも、昼寝していると知ったら添い寝することも、探しに来たしずくちゃんが対抗することも。そして栞子ちゃんが生徒会の仕事で見回りをしに来て、昼寝を注意しようとすることも」

「真顔でそう言われるとマジで掌の上って感じがして怖くなるな……」

「しずくちゃんが夜な夜な零さんとの情事を台本に書いていることも、本人から聞いて知ってる。しずくちゃん、かすみちゃんに弱みを握られないようにえっちなプライベートのことは話さないけど、どうしても誰かに話して欲求不満を解消したいときは私に話すから。それを利用して事前に栞子ちゃんに告げ口しておくことで、しずくちゃんもテスト勉強に強制参加させられるという作戦。上手く成功した、ブイ」

「いややっぱりこえぇよお前!!」

「勝負は残酷。戦いというのは最後に立っていた者が勝者」

 

 

 真の勝利者は璃奈だったか……。流石はゲーム好き、戦略を組み立てる才能に秀でてるな。いつかその戦略で俺も嵌められそうだけど……。

 

 

「というわけで勝者の特権。零さんと本当の意味で『寝る』ことができる」

「へ?」

「脱いで」

「そっちの意味かよ!? 特権とか勝手に決めんな!! って、ズボンに手をかけるなおい!!」

 

 

 ある意味で、一番自分の欲望に忠実なのは璃奈なのかもしれないな……。

 




 今回は1年生回でした!
 1年生が集まるとしずくが無邪気になるところが好きなので、この4人の集まったお話は描くのがとても楽しいです!

 そして虹ヶ咲編1では歩夢たち初期メンバーをメインに据えていた影響であまり活躍のなかった栞子ですが、今回はしっかりと話に絡ませることができて満足です。虹ヶ咲編2が始まったばかりなので満足するのは早いのですが、キャラも段々と掴んで来たので、この小説でもっと彼女を魅力的に描ければと思っています。

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