ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

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近江親子丼いっちょあがり!

「ふっふ~ん♪」

 

 

 とある日の放課後。今日は近江家で晩飯をご馳走になるため彼方と2人で帰路についていた。彼方は自分のバイト先のスーパーから食材をたんまり買い込んだので、よほど今晩を楽しみにしていると見える。両手に食材がたっぷり入った手提げバッグを持ち、しかも俺もその状態なのでどれだけ買い込んだのか分かってもらえるだろう。ぶっちゃけこれを1食で食い切れる気はしないのだが、本人が食事を振る舞うことをずっと楽しみにしていたのは知っているのでここは満腹を覚悟するしかなさそうだ。

 

 

「とうちゃーっく! こうして2人で家の前にいると、なんだか女の子の親に挨拶をしに来たみたいにならない?」

「いやそんな心構えできてねぇよ。今日はもっとゆったりとした食事を期待してたんだけど……」

「女の子の家に来てそんなのんびりしてたらダメですな~。今日はお父さんがいないから、お母さんと遥ちゃん、そして私だけなんだよ?」

「だけなんだよってお前、まさか女性しかいないからって俺に何か求めてるのか……?」

「さぁね~? でも一応言っておくと、遥ちゃんもお母さんも零さんのことものすごぉ~く気に入ってるから♪」

「遥はまだしもどうしてお前の母さんまで……」

 

 

 また会ったことのない女性に目を付けられてるよ俺……。この前も虹ヶ咲女子寮の警備員の女性に勝手に惚れられてたし、俺の名前ってどれだけ独り歩きしてるんだ……?

 疑念が晴れないまま近江家に上がる。さっきも言った通り親に挨拶しに来たとかそんな堅苦しい用件で来たわけではないのだが、女の子の家に上がるのは今でも少し緊張する。その子の親と顔見知りなら全然問題なのだが、初見の場合は親にどう挨拶していいのかいつも迷ってしまう。とは言いつつも毎回笑顔で受け入れてくれるので心配する必要はないんだけどな。

 

 そんなことを考えている中、靴を脱いで上がるなり階段を勢いよく降りてくる音が聞こえた。

 

 

「零さん! いらっしゃいですっ!」

「うおっ、遥!? 急に抱き着いてきたらあぶねぇだろ」

「えへへ、零さんが来ると聞いて楽しみにしていたのでつい♪」

 

 

 階段を降りるなり、彼方の妹の遥が俺の胸に飛び込んできた。靴を脱ぐ際に荷物を床に置いていたため両腕がフリーだったのが幸いし、無事に抱きしめることに成功した。凄い勢いで抱き着いてきたので両手が塞がってたら確実に転倒してたぞ。裏を返せばその勢いが付くくらい俺と会えるのを楽しみにしていたのだろう。 

 

 近江遥。彼方の2学年下で高校1年生。彼女も彼方と同じくスクールアイドルであり、東雲学院で1年生にして何度もライブでセンターを務めるスーパールーキーだ。ツインテール+小動物のような愛くるしさからファンも多い。こうして甘え上手なのも相まって、『妹』キャラというものを大いに実感できる存在だ。

 ただ、男性恐怖症という欠点がある。スクールアイドルが故にファンサは必須なのだが、男性恐怖症のせいでファンを蔑ろにしてしまうのではないかという悩みを抱えていた。だが俺とのコミュニケーションと特訓を通じてその恐怖症が解消――――はされておらず、結果的に俺にだけこうして懐いてくるようになってしまった。しかもこうして向こうから抱き着いてくるくらいには愛情表現たっぷり、まるで尻尾をブンブンと振る子犬のようだ。これも以前秋葉が言っていた『愛を受け取り過ぎている』現象の一端かもしれないな……。

 

 

「わっ、お姉ちゃんたくさん買ってきたね。どれだけ作るつもり?」

「だって零さんが手料理を食べてくれるんだよ? そりゃ彼方ちゃんの得意料理を全部食べるまで帰れま10(テン)だよ~」

「どれだけ食わそうとしてんだ。料理が尽きるより先に俺が死んじまうよ……」

「そうだよお姉ちゃん! 私も零さんのために手料理を振る舞うんだから、ほどほどにね!」

「お前も作ってくれるのか」

「はいっ! 今日という今日のためにお姉ちゃんからたくさん学びました!」

 

 

 健気だねぇ~。虹ヶ咲チルドレンの歩夢たちは良くも悪くも欲望が見え見えだから、こうして純度100%の思慕を感じられるのは久々で新鮮だ。淫欲に塗れた彼方に変なことを吹き込まれてないか心配だったけど、どうやらその心配はなさそうだな。

 

 再度食材の入った手提げバッグを持ってリビングに入る。すると超若々しい女性がこちらを視認するなり包み込むような笑顔を俺に向けてきた。

 

 

「あら、いらっしゃい」

「どうも……」

 

 

 なんだかコミュ障みたいな挨拶になってしまったけど、綺麗な女性を目の前にしたら男なら誰でもそうなる。もしかしてこの人が彼方と遥の……?

 

 

「カナちゃんと遥ちゃんの母です。よろしくお願いします、神崎零さん」

「よろしくお願いします。俺の名前、ご存じなんですね」

「えぇ。この子たちから耳にタコができるくらい聞いていますから」

 

 

 これが近江ママか……。さっきも言ったけどめちゃくちゃ若いな。2人の姉と言われても疑いもしないだろう。おっとりぽわぽわ系の彼方と小動物のような愛くるしさを持つ遥のどちらの雰囲気も兼ね備えているため、この人が2人の母さんだってことが良く分かる。しかも2人にはまだない大人の女性特有の母性を感じられるため、これは性欲真っ盛りの男子だったら性癖が破壊されるだろう。女性慣れしてる俺でも思わず見惚れてしまうくらいだ。

 

 

「2人から聞いていた通り、とてもイケメンさんですね。顔も良し、雰囲気も良し、オスとしてのフェロモンも良し。これならいつでも2人を任せられそうです♪」

「なんか最後だけ変じゃなかったか……?」

「はいはい、早く夕飯の準備を始めちゃうよ~。遥ちゃんもお母さんも作るとなれば時間もかかるからねぇ~」

「えっ、お前らだけじゃなくてお母さんも?」

「えぇ。カナちゃんがいつも『零さんは手料理をとても美味しそうに食べてくれるから大好き』って言ってるから、私もその気分を味わいたくなっちゃいまして♪」

「へ? それもしかして俺に惚れ――――」

「料理好きの母親としては、手料理を笑顔でたくさん食べてくれる男の子に興味があるだけですよ♪」

「えぇ……」

 

 

 おい、近江ママの雰囲気がちょっと怪しくないか?? そりゃ女の子より男の方が飯を食う量が多いから料理好き冥利に尽きるのは分かるが、どうもその笑顔に含みがあるような気がしてならない。なんかフェロモンって言葉も聞こえたし、普通に生きていて使う語句ではないのに初対面の相手に放つかそんな言葉……? どこぞの親鳥みたいに娘と同じくらいの年齢の男に余計な愛情を抱くんじゃねぇぞ全く……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 近江親子3人は和気藹々としながら夕飯の準備を進める。その姿をリビングのソファでくつろぎながら見ているわけだが、うん、やっぱり俺は料理している女性の後姿が好きらしい。もう何度もこの光景を目の保養にしているが一切飽きることがない。しかも美女&美少女がエプロン姿で俺のために料理をしているという、その事実が俺の心をくすぐってくる。他の誰にも味わえないこの優越感に浸れるこの状況、いつ見てもいいものだ。

 

 そんなこんなしている間に料理が出来上がった。テーブルに和食を中心とした料理が並べられている。俺の家では俺や妹の楓が洋食人間なので、こうして和食のフルコースを堪能できるのは新鮮。つうかどうして女性の作る料理は男の料理よりも美味しそうに見えるんだろうな。俺が作ったら犬のエサのような盛り付けになるのに……。

 

 

「は~い零さん。彼方ちゃんが1から捌いた鯖の味噌煮だよ~。あ~ん」

 

 

 彼方が箸で鯖の味噌煮をひとつまみして俺の前に差し出す。虹ヶ咲の他の奴らもそうだけど、俺に手料理を作るたびにこうして食べさせようとしてくるんだよな。食べてもらいたいって気持ちは分かるんだけど、女の子に囲まれる生活が長いのにも関わらずこの行為は未だに恥ずかしい。食べさせてもらったり風呂で身体を洗ってもらったりなど、自分でできる日常的な行為を誰かにやってもらうのが気恥ずかしいんだ。

 

 嬉しそうに箸をこちらに向けて待機している彼方。臆していてもしかがないので箸に摘ままれている鯖の味噌煮を口に入れた。濃厚な甘みのある味噌と肉厚でとろみのある鯖が見事にマッチしており、彼女の愛情がたっぷり含まれているのも相まって一口だけで胃袋を掴まれてしまった。

 

 

「どう?」

「美味しい以外の言葉が出てこない。こんな語彙力なかったっけ俺……」

「ふふ~ん。彼方ちゃんは零さんの好みを隅から隅まで熟知してるから、味付けにも全く隙がないのだ~」

 

 

 得意気に胸を張る彼方。

 どこで誰に俺の好みの味付けを学んだのかは知らないが、ゲームで言えばvs神崎零の専用特攻かのような味付けだ。自分より相手に喜んでもらう、その気持ちはもちろん嬉しいからどこで学んだとかは気にすることもない問題だ。

 

 

「次は私の番です! 妹の味をい~っぱいご堪能くださいね♪」

「遥も? つうかなんでちょっと官能的なんだよ……」

「官能……?」

 

 

 あぁ、遥は男性恐怖症になるくらいの純情乙女だからそういった汚い言葉は知らないのか。そう考えるといつもの愛くるしさをより一層感じられるな。

 

 

「一番自信があるのはこの玉子焼きですっ! あ、まだ熱々なので少し冷ましますね。ふ~っ、ふ~っ、よしっ、大丈夫。はい、あ~ん」

 

 

 女の子が息を吹きかけて食べ物を冷ましている様子って、キス顔を見てるみたいでちょっと興奮するな……。

 というのはさて置き、遥が玉子焼きを摘まんだ箸をこちらに向けてきたので頂いてみる。これまた甘みのある味付けで、ふんわり食感で口の中でとろけた。またしても俺の好きな玉子焼きをピンポイントで狙い撃ちしてるのはホントにどこで学んだんだ……?

 

 

「あのぅ……どう、ですか?」

「美味すぎてビビってる。よく俺の好きな味付けを知ってたな」

「お姉ちゃんから零さんの好みは1から10まで聞いていますので! 好みの味付けも、好きな女性の特徴も、好きな体位? とかもですっ!」

「彼方お前、遥に何を教えてんだ……。しかも最後の言葉の意味分かってなさそうだぞ」

「これも大人の階段を上るための勉強だよ~」

 

 

 せっかくここまでこの世の汚れを知らずに育ってきた箱入り娘なのに、彼方によってドロドロに穢されようとしている。シスコンと呼ばれるくらいに妹好きなのにそれでいいのかと思ってしまうが、愛する人のことを教え込むのは平気だってことか。むしろ姉妹丼の道に引き込んでやろうとか? 俺はそれでもいいんだけどさ……。

 

 

「最後は私の番ですね。私はおふくろの味の定番の肉じゃがです。零さん、はい、あ~ん」

「えっ、お母さんも……?」

「遠慮せずに、はい、あ~ん♪」

 

 

 まさか彼方の母さんにまでこんなことをされるとは……。

 包容力のあるぽわぽわした感じの母親かと思っていたが、割と強引な面もあるらしい。その勢いに負けて箸で差し出された肉じゃがのじゃがいもを頂くことにする。

 じゃがいもは想像以上に柔らかく、これまた俺の好きな甘みのある味わいがした。そしてじゃがいもや牛肉、野菜の混じった煮汁も程よい甘みを引き出しており、ぶっちゃけ今からこれを俺のおふくろの味認定してもなんら問題ないくらいだ。そういや母さんの作ってくれた肉じゃがもこんな味だった気がする。他人の家で実家の安心感を覚えるくらい俺に適した料理を作る近江ママ、すげぇ……。

 

 

「どうでしょうか? 零さんの好みに合わせたつもりなのですが……」

「いや普通に美味いですよ。でも俺と会うのは初対面なのに、よく正体も知らない奴の好みに合わせられたな……」

「カナちゃんたちの話で前々から零さんには興味がありましたし、それにこんなカッコいい殿方に自分の料理の腕を振るえると思うと……うふふ」

 

 

 なんか怖いんだけど大丈夫だよな!? ただ娘たちがよく話す男のことが気になってるだけで、それ以上の特別な感情はないよな!? もうこの人生の中で何度も性癖が歪んでる奴を見かけてきたけど、流石に人妻を相手にしていられるほどの余裕はない。つうかもし仮にカッコいいだけで惚れてるとしたらどれだけ面食いなんだよ……。

 

 その後は近江親子3人にテーブル全ての料理を食べさせてもらった。自分の手を一切使わないで飯を完食したのなんてこれが初めてだぞ……。

 しかも途中で彼方が口移しをしようとしてくるせいで遥まで便乗しそうになり、そして彼方ママは微笑むだけで助けてくれないしで大変だった。ただ飯は想像以上の美味さだったのでそこだけは満足かな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 食事が終わり、今度は一緒に入浴の時間――――とはならなかった。このままだと俺という不純物が親子の入浴に混ざるところだったので、なんとか言いくるめて回避して彼方の部屋に待機している。本来なら晩飯をご馳走になった時点で帰宅する予定だったのだが、彼方も遥ももっと俺とお話したいとのことなのでもう少しだけ家にいさせてもらうことになった。ただスクールアイドルの練習で汗をかいている彼方と遥は現在入浴中。つまり俺は風呂上りの女子高生2人を相対することになるのか……。入浴で身体が火照った女子なんて見た目だけで核兵器以上の威力だから頑張って耐えなければ…。

 

 それにしても彼方の部屋って彼方の部屋って感じだ。全体的にこう夢の中にいるようなふわふわした感じで、カーテンも絨毯もクッションもベッドも、部屋のどこにいても眠くなってしまいそうだ。抱き枕もぬいぐるみも完備され、あれを抱いたまま寝ているアイツが容易に想像できる。そして女の子の部屋だから当然いい匂い。なんで女の子ってこんなに男を刺激するような香りをしているのだろうか。俺の家でも俺の部屋と楓の部屋では別空間みたいだからな……。

 

 そうやって部屋を見回していると、唐突に部屋のドアがノックされた。

 そもそも自分の部屋ではないのでどう返答しようか迷っていると、ドアが僅かに開く。そしてその隙間から近江ママが顔を覗かせた。

 

 

「えぇっと、娘の部屋なのにノックする必要ないのでは……?」

「すみません、緊張してしまって……」

「緊張?」

「ご一緒にお話しさせてもらってもよろしいでしょうか?」

「は、はぁ……」

 

 

 娘の部屋なのにわざわざ俺の許可を取ったり、よそよそしく緊張している理由が分からない。だが変に勘繰るのも失礼なのでとりあえずご要望通りお話することにした。

 最初は何か偏った性癖を持った人だと警戒していたのだが、こうして話してみると娘思いのいい母親という認識に改まった。彼方のスクールアイドルのことや遥の男性恐怖症に関しても親として心配しており、スクールアイドルが上手く行っていることや遥の恐怖症を解消してくれたことを深く感謝された。それだけでなく、娘の日常生活の様子を聞いてきたりなどまるで俺自身が家庭訪問をする先生になったかのようだ。こんないい母親を偏屈性癖の持ち主と疑ったのは悪かったかな。

 

 そしてしばらく話した後、彼方ママが腰を上げた。もう俺に聞きたいことはないから立ち去る。そう思ったのだが――――

 

 

「さてと―――――なるほど、娘たちが夢中になるわけです。あの娘たちが夢中になってしまうのであれば、もちろん私もそうなってしまいます」

「へ?」

「こうして近くで見ると、零さんカッコ良さが途端に際立ちますね。さっきまで大人として、そしてあの娘たちの母親として何とか自分を抑えていましたが、これはもう……」

「ちょっ!?」

 

 

 急に頬を染めた彼方ママは四つん這いのままこちらににじり寄って来る。俺は座ったまま後退りし、部屋の角へと追い込まれた。

 さっきまで娘を思うおっとりぽわぽわした母親の印象はそのままだが、何と言うか、目が妖艶になってきている。目の前の獲物を捕食しそうなサディスト性が混じった雰囲気は、その妖気により俺から抵抗する力を吸い取ってくる。歩夢たちにこういうことをされるのなら慣れているが、恋人の母親というポジションの女性にこんなことをされると戸惑って正常な判断ができなくなってしまう。

 

 

「アンタ、夫がいるんだろ……」

「それとこれとは話が別です。メスが強いオスに惹かれて媚びてしまう、いわば野生動物の本能なのです。そう、愛ではなく本能。それであれば浮気にはなりません」

「そんな暴論……」

「零さんだってそうでしょう? 自分の力、自分の好きなように自分の世界を作り、そしてカナちゃんたちみんなを恋人にしている……」

「そこまで知ってんのか……」

「だから私が加わっても問題ないはずです」

「いやその理屈はおかしい」

 

 

 ヤバいこの母親、俺の知りえる中でことりの母親とトップ争いができそうなくらいヤベー奴だ。娘2人が好きな男を娘の彼氏として気に入るならまだしも、自分も取り入ろうとするなんて頭大丈夫か?? これは元々この人がおかしかったのか、それとも俺が女性をこういう感じにしてしまうのか……。いや元からキチガイ染みてるわ絶対。

 

 

「カナちゃんとはもう淫らなことをしたと聞きました」

「アイツなに話してんだ……」

「だとしたら私も……いいですよね?」

「いい訳ねぇだろ黙ってろ」

「う゛っ!? い、いいですその乱暴な口調! メスをわからせる強いオスの言動、素晴らしいですっ! 女性を屈服させんとし、オスの頂点に君臨する貫禄! それにもう敬語まで抜けてしまって……」

「もうアンタには容赦する必要がないって分かったからな……。つうか別にわからせようとしてねぇよ」

「いや、あなたの乱暴な言動とオスのフェロモンが物語っています。これは媚びるしかありません。不束者ですが、そろそろ行かせてもらいますね」

「おいっ!? ちょっと待て!!」

 

 

 彼方ママに詰め寄られる。もしかして本当に俺と交わろうとしているのか?? 愛はないとは言ってたけど、別に愛がなくても性行為はできる。しかもこの人の目、未だかつてないほどメスの目をしてやがる。部屋の角に追い込まれて逃げられねぇし、どうすんだよこれ……!!

 

 と思った矢先、部屋のドアが勢いよく開いた。

 そして彼方と遥が部屋に入って来ると、2人は自分の母親から俺を奪還して抱き着いてきた。

 

 

「もうっ、お母さんってば零さんを困らせたらダメ!」

「あなたたち、どうしてここに……?」

「今まで私たちが零さんの話をするたびに、お母さんがメスになるのを感じてたからだよ~。リビングにいなかったから嫌な予感がして急いでここに駆け付けたけど、これはお風呂を早めに切り上げて正解だったねぇ~」

「やっぱり予兆はあったのか……」

 

 

 じゃあ最初に疑っていた偏屈性癖持ちってのは間違いではなく、むしろドンピシャだったってことだ。どうやらヤベー性癖を持ってる女性を感覚で見分けられるようになっていたらしい。なるべくそういう奴には会いたくねぇから発揮されないで欲しいスキルだな……。

 

 彼方と遥は俺を守るために自分の胸が当たっているとかお構いなしに抱き着いてくる。さっきまで風呂に入っていたためかシャンプーのいい匂いが漂い、入浴で艶やかになった肌を存分に押し付けてくるのでこれはこれでどぎまぎする。風呂上り女子は核兵器以上だって言っただろ。しかも目の前に俺に媚びようとしてくる娘の母親までいるこの光景、なんだこれ……。

 

 

「えぇ~カナちゃんと遥ちゃんだけズル~い!」

「大人のくせにそんな子供っぽく残念がるなよ……」

「零さんは私のこと、魅力的に見えませんか? やっぱり2人みたいに性行為適齢期の若い年齢ではないと……」

「魅力はあるけどストライクゾーンではない」

「見捨てられてないのであれば、それは脈アリと同じです!」

「都合良いなこの母親!!」

 

 

 さっきからこの人ポジティブシンキングが過ぎる。俺に貶されることを悦びにしているようで、こうなってしまうと何を言っても相手に快感を与えるだけなので困ったものだ。ここは彼方と遥に任せるしかないか。暴走する母親を娘たちが止めるってどんな状況だよ……。

 

 

「でもこれはカナちゃんと遥ちゃんにもチャンスだと思うけどなぁ~。だって親子丼だよ? 愛する人に親子丼を堪能させるなんてまずできないことでしょう?」

「親子丼? さっき夕飯を食べたばかりなのにどうしてまた?」

「遥、お前は気にしなくていい。つうかアンタ、変なことを娘に刷り込むな」

「そうだよ~。零さんは処女厨だから、私と遥ちゃんだけ美味しく頂かれちゃうんだぁ~♪」

「お前も変なこと言うな。それにお前の初物はもうねぇだろ」

 

 

 親子丼か。確かに女の子に囲まれる人生であってもその状況になったことは片手で数えるくらいしかねぇな。そもそも俺は人妻好きでもなんでもないので、むしろその状況が訪れようものなら全力で回避する。でも目の前に母親、両サイドに娘2人がいるこの状況はもう親子丼ミニサイズと言っても差し支えなさそう。まだベッドの上で裸になっていないだけマシってことだ。そもそも人妻に手を出そうとは思ってないけどさ。

 

 

「とにかく、零さんは私たちと一緒にお話しするの!」

 

 

 そう言って遥は俺を自分の身体に抱き寄せる。

 

 

「そうそう、若い人は若い人同士で濃厚な時間を過ごすんだよ~」

 

 

 今度は彼方が俺を抱き寄せる。

 

 

「もう2人占めなんてずる~い!」

 

 

 そうやって嘆く母親。

 

 そしてそんな親子に囲まれる俺。

 この状況って男として喜んでいいのかな? 彼方と遥の姉妹丼だったら喜んで飛びついてたかもな……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「零さんゴメンね~。疲れさせちゃったよね?」

「別にいいよ。お前の母さんに好かれてるのは驚いたけど、変な趣味を持ってる人を相手にするのは慣れてるから」

「おぉ~っ、さっすがぁ~。器が大きいご主人様で助かるよ~」

 

 

 紆余曲折あったけど、なんとか人妻から自分の貞操を守ることができた。彼方と遥があの場を宥めてなかったら俺だけではどうしようもなかったけどな。

 その後に普通に親子3人とお話した後、もう夜も更けてきたので帰宅することになり、今は玄関で彼方にお見送りをされているところだ。

 

 そういえば、せっかくコイツの家に来たんだからキスをするミッションを達成しておけばよかったかな。でも義務感でやる行為ではないし、やはりやるのであればそれなりのムードの中でするべきだ。自分の身体を守るためにはキスをしなければいけないんだけど、その事情を話して事務的にやられても困る。やっぱりキスをするなら本気の愛を感じたいからな、またの機会でいいだろう。そんな悠長なことを言ってる猶予があるかは別として、キスは女の子の気持ちを何より優先したいんだ。

 

 

「じゃあそろそろ帰るよ。また明日から練習頑張ろうな」

「あっ、ちょっと待って」

「へ? んっ!?」

 

 

 立ち去ろうとしたその時だった。彼方がこちらに駆け寄り、背伸びをする。そして彼女の顔が迫って来たと思ったら――――唇を奪われていた。

 柔らかい唇の肉厚。そこまで深いキスではないのに伝わってくる暖かさ。ふわっとした彼女の雰囲気がキスにも表れていた。ただふんわりしているとは言っても彼女から流れ込んでくる愛は本気で、俺を感じたいからか唇を押し当てる力が少し強くなっているのが分かる。

 そして何故か俺の身体が熱っぽくなる。今までキスでこんな現象に見舞われたことがないので、恐らくこれが秋葉の言っていた『キスをすると愛を受け止めるための器が広がる』という現象なのだろう。それが俺の身体で今起こっているのかもしれない。

 

 しばらくして、彼方が唇を離した。

 

 

「えへへ、どうしてもこれだけはやっておきたくって~。彼方ちゃん的にはもっと甘えたいんだけど、2人きりになれていいムードになれるタイミングが中々来なくてね~」

「いや、嬉しいよ。俺もお前と2人きりでこういうこと、したいと思ってたからさ」

「おぉ~相思相愛はいいぞ~。でも彼方ちゃんはこれだけでは満足できないよ? 大好きな零さんにもっと大好きなことをしてもらいたいんだから~」

「あぁ、いくらでも相手になってやる。でも今日はありがとな」

「ん~? どうして零さんがお礼を?」

「お前からの愛を感じられて、自分は特別な男なんだって優越感に浸ってる」

「おっ、いつもの零さんに戻ったねぇ~。だったらこれからはいつでもどこでもアプローチしちゃうからよろしくね~」

「人前であまり過激なのはやめてくれよ……」

 

 

 まさか彼方からいいムードを作ってくれるとは……。でもやはりキスは事務的にやるよりもこうやって相手の心と会話しながらやる方がいいな。そのおかげでまた彼女のことを好きになってしまった。

 いつも一緒にいる彼女だが、再度お互いの気持ちを確認できたことでより深く繋がれた気がする。残りの11人ともこういった関係になれるといいな。

 

 




 零君は拒否していましたが、私なら実際にこの親子3人にああして迫られたら二つ返事で受け入れちゃいます(笑) キャラのビジュアルがここまでいい親子3人がいるアニメなんて早々ない気がしますね。
 ただ親子丼回でありながらその要素が少なかったのが僅かに心残りです。3人バスタオル1枚で零君に迫るみたいなシチュエーションくらいすればよかった……

 そして前回で掲げられたキスするミッションを早速1人目クリアしました。前回は不意打ちで水曜日に臨時投稿したので、もしまだご覧になっていなければ前回も是非ご覧ください。
 読むのが面倒な方のために、前回掲げられたミッションの内容をまとめます。これだけ覚えていればいいですが、ぶっちゃけ覚えてなくても普通にハーレムモノとして楽しめる話にはするつもりです(笑)

《ミッション内容》
・虹ヶ咲チルドレン9人(歩夢たち初期メンバー)と恋人のようなキスをする
・栞子、ランジュ、ミアと交流を深め、惚れさせたうえでキスをする
・上記12人とキスをしないと零が女の子たちからの愛を受け止めきれなくなり、体調不良に見舞われる
・キスをすれば愛を受け止めるための器が広がり体調不良を回避できる

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