ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

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 今回は虹ヶ咲アニメの栞子回を回想した話がありますが、この小説での虹ヶ咲編がアニメ2期より前に連載されていた都合上、栞子のスクールアイドル加入の経緯はスクスタ基準となっています。
 そのため、この小説ではアニメ2期の栞子回の話は少し改変されていますので、あらかじめご承知おきください。




三船家の跡取り

「いらっしゃいませ、零さん。本日はご足労いただきありがとうございます」

「あ、あぁ……」

 

 

 想像以上に畏まった栞子の挨拶に適当な返事しかできなかった。

 今日は三船家にお邪魔している。事の発端は栞子の姉である薫子の提案であり、女の子と仲良くなるんだったらその子の住処に上がり込むのが一番という暴論から、話がとんとん拍子に進み今に至る。あまりに唐突な家庭訪問のため栞子も驚いていたのだが、いつも通り薫子の強引さに負けて俺をもてなすことになってしまったらしい。アイツなりに俺と栞子の仲が深まるように気を使ってくれたのだろうが、女の子の家にいきなり男を呼び込むなんて正気じゃねぇぞ。もっとデートとか色々あっただろうに……。

 

 

「それにしてもお前、どうして着物を着てるんだ?」

「こ、これは姉さんに無理矢理着せられてしまって……!! 男性をおもてなしするなら正装をするべきだと……」

 

 

 やりたい放題だなアイツ。そんなウソを信じ込んでしまうほど純粋なコイツもコイツだけどさ……。

 栞子は白を基調とした着物を着ている。厳粛で品行方正、清楚で清純な彼女に『和』のテイストである着物は非常にマッチしており、もうこれだけで絵になる。高校1年生とは思えないその美麗な姿は女性慣れした俺の目すらも惹きつけてしまう。そして普段から華道などのお堅い習い事をしているおかげか、お辞儀や佇まいなど動作1つ1つが無駄なく綺麗であり、見ているこちらまで身が引き締まってくる。名家の娘は俺の知り合いで何人もいるけど、ここまで荘厳な女の子は今まで見たことがないな。

 

 

「でも零さんをおもてなしをするのであれば、正装をするのもやぶさかでないと言いますか……」

「なるほど。つまり俺のためにわざわざ着替えてくれたわけだ」

「自分が似合っていると思う服を着た方が零さんからの見栄えも良いと思いまして……あっ、い、今のは忘れてください!! 決してそんな下心があったわけでは……!!」

「お前も欲がある人間だったんだな。むしろ安心したよ」

「そんなほっこりとした顔で見つめないでください!!」

 

 

 ただ秩序のために動いている子だと思ってたのだが、俺に自分を良く見てもらいたい欲はあるらしい。如何にも年頃の女の子らしい欲望であり、顔を赤くして照れている表情を見るにどこか俺に期待しているのだろう。和服を着てもじもじしているその仕草は、彼女の清純さも相まって非常に愛らしい。

 

 

「とにかく、お客様をいつまでも玄関先に立たせてはおけません。家を案内するので、どうぞお上がりください」

 

 

 栞子に導かれて三船家に足を踏み入れる。俺みたいな一般人の足の油をこんな高級住宅の床に擦り付けていいものかと思ってしまうため、お堅い雰囲気の家は今でも苦手だ。μ'sの海未やAqoursの黒澤姉妹、虹ヶ咲だとしずくの家も似たような和の趣のある家だが、そういった厳格な雰囲気のある家に来ると少しばかり緊張してしまう。来年教師になるとは言っても基本年上にすらタメ口で話すような礼儀のない人間なので、こういった品行な立ち振る舞いを求められるのは苦手なんだ。

 

 

「今日は家族はいないのか?」

「はい。1人を除いて用事で出かけています」

「その1人ってまさか……」

 

「やぁ、いらっしゃい零君」

 

「やっぱりお前か……」

 

 

 現れたのは俺をここへ呼んだ張本人で、栞子の姉である薫子だ。赤いメッシュの入った黒髪ロングに革ジャンと、だいぶロックな外見。格式を重んじるこの三船家には到底似合うはずもなく、コイツの存在感の大きさも相まって浮きに浮きまくっていた。

 

 

「姉さん、今日は部屋から出てこないでくださいと言ったはずでは……?」

「なんで除け者にするの? 私だって零君とお話したいのに!」

「昨日いきなり『零君が来るから』と爆弾発言をして、しかも私にこんな格好までさせて陰で愉しそうにしている人を信用しろと?」

「でもそのおかげで合法的に零君におもてなしできるんだし、結果オーライじゃない? それに零君と距離を縮めたいって言ってたじゃん?」

「そうなのか?」

「な゛っ、それは秘密の約束では……!? お、お茶を入れてきます!! 零さんを客間に案内して差し上げてください。いいですね!!」

「ちょっと栞子! あ~あ、行っちゃった」

「お前のせいだろ……」

 

 

 栞子は顔を紅潮させてこの場を去ってしまった。そりゃ秘密にしておきたい相手の前でそれをバラされたら恥ずかしくなるだろ……。

 微妙な空気間の中で客間へ通される。案の定その部屋は和室であり、洋の生活に慣れている俺からすると堅苦しいことこの上ない。ただ薫子は脚を崩して品位の欠片もない座り方をしているので、俺もそれに倣って座る。正直そっちの緩い雰囲気の方が肩凝らずに助かるからな。

 

 

「で? 本当の目的は何なんだよ?」

「やだなぁ、もしかして裏があるかもって疑ってるの?」

「そりゃそうだろ」

「栞子といい零君といい、みんなヒドい!」

 

 

 自宅とは言えども和を重んじる雰囲気の家でロックな格好をしているのもそうだし、持ち前の破天荒な性格で栞子を無理矢理ツーリングやら何やらで色々連れ回しているのもそうだし、秋葉の計画に加担しているのもそうだし、そんな奴をすぐ信じられるか?? 別に悪い奴ではないんだろうけど胡散臭さが凄まじい。だから俺を家に呼んだのも何か裏があるのかと疑っていた。

 

 

「言っておくけど、別にこれといった理由はないよ。零君の身体を心配してるだけ」

「特に異常はねぇけどな」

「それでも栞子と仲良くなって、キスする必要があるんでしょ? だったらこれを機に交流を深めないと、いつか体調を崩してその身体が保てなくなっちゃうよ?」

「気遣いはありがたいけど、俺がアイツとの仲を深めるのは自分の身体のためじゃない。そんな打算的に仲良くなってキスをしても、それは本当の愛じゃないだろ。心で繋がり合いたいんだよ」

「おぉ~言うねぇ~。流石は楽園の王って感じ? そういう紳士的なところが女の子を惹きつけるんだろうね。私も油断したら惚れちゃうかも……?」

「言ってろ……」

 

 

 こっちは女の子を引っ掻けているつもりはないし、向こうから勝手に寄って来るだけだからな。

 ただどんな理由にせよ、自分のことを好きになってくれる、なってくれた女の子には全力で応える。それが俺のポリシーだ。だから例え自分の身体に異常が発生しようとも、その治療を目的に女の子と仲良くなりキスするようなことはしたくない。ここまで彼方やせつ菜、愛とかすみとキスをしてきたが、どれも男女のいい雰囲気になったからキスをしただけで、決して自分のためにキスをしたことは一回もないんだよ。

 

 

「なるほどね、栞子が惹かれるわけだし、秋葉さんも注目するわけだ。尊大な態度だけど誠実さがあって、自分が女性にモテることを謙遜せずに誇示する堂々とした男らしい態度。私も好きだよ、キミのそういうところ」

「そりゃどうも。勝手に好きになってろ。明確な好意を感じ取れたら相手をしてやる」

「おーおー、凄い貫禄だねぇ……」

 

 

 バカにしてんのかコイツ……? どうもイジリ甲斐のある奴が現れたから遊んでいるようにしか見えない。一応こっちの身体の事情は知っているので心配はしてくれてるみたいだけどさ。なんにせよ、人の本質を見抜くような口ぶりでウザ絡みしてくるあたり、アイツの普段の苦労が垣間見えるな……。

 

 そんなくだらない話をしていると、栞子が部屋にやって来た。湯呑を2つ乗せたおぼんを両手で持っている。

 そのおぼんを机に置くと、湯呑の1つを俺に差し出してきた。

 

 

「粗茶ですが」

「あぁ、サンキュ」

「あれ? 湯呑、もう1つしか残ってないけど?」

「これは私の分です」

「私のは?」

「姉さんのはこれです」

「これコーラじゃん!」

「俗物に塗れた姉さんにはちょうどいいでしょう。それに、いつもそういう身体によくないモノを好き好んで飲んでいるではありませんか」

「いやいや、客人の前で1人だけコーラって空気読めてなさ過ぎでしょ……」

 

 

 薫子が湯呑でお茶を飲んでいる様が全く想像できないので、そういった炭酸飲料とかエナジードリンクを飲んでいる方が似合っている。堅苦しいのは性に合わないのは俺もだけど、コイツもコイツで教育実習生なのに髪型の派手さや赤メッシュを染め直さないあたりかなりの俗物塗れだ。我が道を行くことに特化した奴を相手にするのは大変だな栞子。まあそれに関しては俺も人のことは言えないが……。

 

 

「私のいない間に姉さんが零さんに粗相をしてないかとても不安です」

「今日はいつにも増して私への対応が雑だね……」

「大丈夫だ。コイツがどんな奴であろうとも俺を打ち負かせないから」

「あの姉さんの相手ができるなんて、素晴らしいです! 是非対応方法の伝授をお願いします!」

「そんなところで尊敬を感じられても……」

 

 

 今日イチ、いや今まで見た中でもトップクラスにキラキラと期待を込めた表情をしている栞子。普段が笑顔が少なく押しも控えめなクール系なので、キャラ崩壊するくらい俺に懇願してくるなんてよほど苦労してんだな……。

 

 

「それにしても、栞子が男性に興味を持つなんて今でも信じられないよ。個人の適性とか社会のルールとか、概念だけが恋人だった頃とは大違い」

「きょ、興味って、零さんには色々と相談に乗ってくださっていて、非常に頼りになるお方なので尊敬しているだけであって……。そ、そう、姉さんとは違うのです!」

「最後の条件だけで俺に+100万ポイントくらいありそうだな」

「もう零君までそんなことを……。でもそれだけ栞子が零君のことを好きってことか」

「す、好きって……。恐れ多いです!」

 

 

 そして今日イチで顔を真っ赤にする。侑もそうだけど、俺のことを好きかと聞かれるとみんな否定する。そりゃ肯定したらもう付き合っちゃえよって話になるから仕方ないけどさ。ちなみに顔を真っ赤にしてもじもじしている様子から、ある程度のその気があるのは丸分かりだ。そういった仕草が愛おしいくらいに可愛いから、それが見られるのであれば否定してもらって全然いいけどな。結局いずれ付き合うことになるんだし、付き合う以前の初々しい表情は今しか拝めないので是非堪能しておきたいところだ。

 

 

「俺から言うのもアレだけど、恐れ多いことはないだろ。俺はお前のこと、好きだぞ」

「ぴゃやぁっ!?」

「お前に似つかわしくない声が出たな……。でもお前の魅力からすれば男が惹かれるのは当然だ。文武両道で家事スキルも高く、事務処理能力も秀でていてそれで美少女ときた。そんなの自分のモノにしたいに決まってるだろ」

「私が零さんのモノに……!? そ、そんな……」

「こんなに乙女な栞子、姉として生きてきて初めて見るよ。恋は人を狂わせるって本当なんだね」

「夫婦になると言うことは、起床から就寝まで共にするということ。食事も睡眠も……入浴も!?」

「あちゃ~こりゃ相当な未来設計図を妄想してるねぇ……」

 

 

 妄想は人それぞれだからいいんだけど、栞子の中で俺の存在が妄想するくらいまで大きくなっていたことに嬉しさを感じる。初対面の時は歩夢たちを誑かす性悪な男と思われていて、突き刺すような眼光を向けられていたからな。俺への評価が文字通り天と地ほどの差だ。

 

 ちなみに昔話をすると、コイツが惚れ堕ちするまでには2つのターニングポイントがあった。

 1つ目は初対面で超警戒されていた時、つまり初デート(向こうはそう思ってなかっただろうが)。最初は俺をヤリチンか何かと考えていて疑いの目を向けていた彼女だったが、その日に一緒にデートをしていくにつれて態度が徐々に緩和。いつの間にか彼女から笑顔を引き出すことができるようになり、終いには帰宅時にまだ一緒にいたいと懇願されるようになった。まあ実際に話してみたら意外といい人だった、なんてよくある例だな。

 

 2つ目は虹ヶ咲が発起人となった秋のスクフェスにて、歩夢たちと比較して自分にはスクールアイドルの適性がないと落ち込んでいた時の話だ。歩夢たちは例の過去があったからこそ俺のためだけにスクールアイドルを始め、他人とは比較にならないの努力で今の地位を築いている。ただ栞子は途中加入で歩夢たちのように強い想いや夢があるわけではないため、そこに疎外感のようなものを抱いていたようだ。

 ただ強い想いがないのであれば今から持てばいいと伝えてやったり、夢なんて大きくある必要はなく、どんなちっぽけでもいいから探してみろとアドバイスしたり、さっきのように歩夢たちに負けていない彼女の魅力を語ってやったところ、どうやら調子を取り戻したようである。まあその頃からコイツが俺に向ける目線の熱さが何倍にも膨れ上がった気がするけど……。

 

 そんな過去があり、コイツから見た俺の評価は徐々に上がっていた……と思う。俺の想像だけどな。

 

 

「このまま行くと、零君が三船家の跡取りになるのは確定だね」

「はぁ!? なんだよその話?!」

「ね、姉さんその話は!!」

「あれ、栞子から聞いていなかったんだ。ウチの両親が言ってたんだけど、栞子があまりにも零君にお熱だから、だったらその人を婿に迎えて三船家の跡取りにしたらいいよってね」

「オイなに勝手に話を進めてんだ!? 跡取り? 俺が!?」

「も、申し訳ございません! 私が両親に零さんのお話ばかりしているせいでこうなってしまって……」

 

 

 三船家の中で驚愕な計画が進んでやがる……。もちろん寝耳に水なのだが、そりゃ娘が気になる男の話をしたら両親がその気になるのも無理はない。親であればコイツのお堅い性格を知っているだろうし、色恋沙汰なんて縁がない性格だってことも知っているはずだ。だからこそ彼女の口から嬉しそうに何度も同じ男のことを語られれば、その男こそが娘の運命の人だと思ってしまうだろう。だからと言って顔も知らない男を跡取りにするなんて……。栞子に男ができそうなことを相当喜んでるみてぇだな。

 

 

「実は両親が零君と栞子のツーショットをたまたま見ちゃってさぁ~。そしたら『こんなにイケメンで娘のことを大事にしてくれている男性だったら跡取りに何の問題もなしっ!』って、もう家を継がせる気満々なんだよ」

「顔バレしてんのかよ!? そういや俺と一緒に写真を撮って欲しいって頼まれたことがあったな。いいライブの衣装が出来上がったから、だっけか。あぁ、あの時の写真を見られたのか」

「申し訳ございません申し訳ございません申し訳ございません申し訳ございません申し訳ございません申し訳ございません!!」

「いや攻めるわけじゃねぇけど、想像以上にフィーリングで跡取りを決めちゃうんだなって」

「当たり前だけど私の親でもあるからね。私がこういう性格なのは誰のせいなのか察してよ」

「つまり親の適当な部分がお前に遺伝されて、まともな部分が栞子に遺伝したと」

「そう言われると私がダメ人間みたいじゃん……」

 

 

 ただコミュニケーションが器用なところは姉に、不器用なところは妹に遺伝しているので一概にダメ人間でもないけどな。でも薫子の適当な性格を見ていると、コイツらの親がノリで俺を跡取りに選ぶのも分からなくはない。勝手に跡取りにされそうになってるこっちのことも考えて欲しいが……。

 

 

「申し訳ございません申し訳ございません申し訳ございません申し訳ございません申し訳ございません申し訳ございません……!!」

「もういいって。別にお前らの親が認めてくれるのなら悪い話じゃねぇからさ」

「そうなんだ。だったら栞子とお付き合いするのもやぶさかでないと?」

「俺は最初からそのつもりだが? イヤだとは今まで一言も言ってねぇだろ」

「零さんと私が!? ひっ、あっ、そ、その、よろしくお願いします……」

「早い早い! 話が早い!」

 

 

 このままだと明日には両親にご挨拶しに行く流れになりかねないぞ……。つうか栞子はまだ高校1年生。まだ幼気なそんな子と結婚前提でお付き合いしていますとか、人によっては犯罪者扱いされそうだ。

 

 

「つうかお前はいいのかよ、俺が跡取りになっても」

「そこらの得体の知れない男なんかよりも、こうしてありのままの自分を出せて気楽にいられる零君の方が圧倒的にいいよ。堅苦しい財界のお坊ちゃまとか連れてこられても面倒だしね」

「一般庶民で悪かったな。でも俺もお前のこと、結構好きだぞ」

「ぶぅぅううううううううううう!!」

「姉さん!? コーラ噴き出さないでください!!」

「ケホッ、ケホッ! ちょっ、何言ってるの零君!?」

 

 

 あれ? 意外にもウブな反応を見せるんだな。もうちょっと遊んでる女なのかと思ってたけど、たった一言で顔色が赤くなったのであまり恋沙汰に耐性はないらしい。遊んでそうとは言っても男との交流はなかったパターンか。案外可愛い一面もあるんだな。

 

 

「なるほど、結局姉さんも私と同じだったわけですか。あれだけ零さんと私の関係をネタにしておきながら、自分も零さんとの関係に心地良さを感じているではありませんか」

「いやいや、他の男よりマシってだけで、栞子みたいな恋愛方面では……」

「想像してみてください。起床から睡眠まで共にする零さんとの日常生活を。目覚めたら目の前に零さん、食事の時にも目の前に零さん、入浴時にも一緒に零さん、就寝時にも目の前に零さん。何をする時にも隣に零さんがいる生活を!」

「あっ、あぁ……!!」

「どうですか? 脳内に幸福アドレナリンが大量に分泌されて妄想の世界から帰りたくなくなるでしょう?」

「くっ、うぅ……!!」

「姉さんへの復讐がこれほど愉しいだなんて……」

「おい変な性癖に目覚めんなよ……」

 

 

 栞子は薫子を妄想の世界に幽閉し、幸福アドレナリンとかいう合法ドラッグを流し込むことにより徹底的に復讐をしている。いつもイジラレていたからその腹いせなのか、こんな黒い笑顔をした栞子は見たことがないぞ。薫子も薫子で普段は余裕ぶってるのに今は妄想に悶え苦しんでるし、ここまで狼狽えているのは見たことがない。でもまぁ、こういったいつもとは違う女の子の顔は学校では見られないので、これこそデートイベントの特権だな。今回がデートに分類されるのかはさて置き……。

 

 そんなこんなで三船姉妹とコミュニケーションを取りながら1日を過ごした。姉も妹も可愛い一面を見られたので、俺としては満足かな。薫子は栞子にしてやられて不満気だったけども……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そして帰宅の時間。栞子が玄関先までお見送りに来てくれた。空はいい感じの夕暮れとなっており、彼女が未だに着ている着物がより鮮やかな朱色となっているため非常に見栄えが良くなっている。

 そんな中、栞子は深々と頭を下げた。

 

 

「零さん、本日はありがとうございました。色々とお見苦しいかったとは思いますが……」

「いや、お前も薫子も可愛いところがあるんだなって分かったからいい収穫だったよ」

「も、もうっ……」

 

 

 栞子はまたしても頬を染めて俺から目を逸らす。スクールアイドルで注目されることには慣れているんだろうけど、まだ自分が褒められることに関して耐性はないようだ。それは意外にも姉の薫子も同じだったな。ここは姉妹で似ている点らしい。

 

 

「それもそうだけど、まさか家族ぐるみで俺のことを跡取りにしようとするくらい信頼してくれている、って知れたことの方が収穫かな」

「零さんは私から見ても魅力的な男性だと思います。それを親にありのままに伝えただけです。で、でも、本当に跡取りになるのかはしっかり考慮した方が……」

「そうだけど、別に俺は構わないよ。お前と一緒にいられるのならな」

「そ、そんな恐れ多いです……。しかし、私も零さんと一緒にいられるのであれば、それほど幸福なことはないと思っています」

「お互いに、ってことか」

 

 

 彼女とここまでお互いの気持ちを確認し合ったのはこれが初めてだ。意外も心の距離が近くて驚いたが、仲が進展していると知れたのは嬉しいことだな。

 

 

「じゃあもう帰るよ。じゃあな」

「零さん」

「ん?」

 

 

 返ろうと思い背を向けると栞子が呼び止めてくる。振り向くと何やら迷っている表情をしているのが見えたが、すぐに決意に満ちた顔に変わる。

 

 

「またいつかお話させてください。今度はその……2人きりで!」

「栞子……。あぁ、楽しみにしてるよ」

「はいっ! よろしくお願いします!」

 

 

 また深々と頭を下げる栞子。もしかしたら、男女の関係になるのももうそこまで時間はかからないのかもしれない。

 

 




 今回は栞子回でした! 三船姉妹の回とも言えなくもないですかね?
 書いていて思いましたが、女の子たちの親がいつも零君に寛容すぎますね(笑) まあ寛容ではなかったら話が作りにくくなるので仕方がないですが、彼方ママみたいに変な方向にシフトする人もいるので、跡取りを勝手に決めるくらいはまだまともな両親だったと思います!(笑)

 栞子との関係も、もうお互いに告白してもおかしくない段階まで来ているので、次に個人回が来たときはもしかしたらもしかするかも……?
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