虹ヶ咲学園の演劇部。この学校は秋葉が才能のある生徒を集めているので、どの部活も一定の成績を叩き出すほどの実力がある。ただここの演劇部はその中でも群を抜いており、出演する公演はいつも満席で、いくつもの賞も獲得しておりプロ界隈からも注目されるほどだ。
もちろん部に属する桜坂しずくも
ただそんな彼女であっても――――
「えっ、しずくが悩んでる?」
「はい。なのでもしお時間があるのであれば、しずくの演技を見ていただきたいと思いまして。お願いします」
演劇部の部長からしずくの演技指導の依頼を受けた。ご丁寧に頭まで下げて、そこまで深刻なのかと少し心配になる。ただ妊娠ドッキリで遊んでいたところを見るに悩みなんてなさそうだったけど……。
「アイツを見てやるのはいいけどさ、どうして俺なんだ? 部長のお前が見てやればいいんじゃねぇのか?」
「それは次に公演する演劇でしずくが妹役だからです。姉役は私ですが、しずくの演技を客観的に見るためにも私は役者の立場ではなく第三者視点で彼女の演技を見たいので、私の代わりを零さんにお願いしたいんです。妹さんがいると聞いているので、妹役のしずくの兄役としてはピッタリだと」
「えっ、俺も演技すんの!?」
「しずくの演技に合わせて適当に応対していただければ問題ありません。これはしずくのアドリブ力を測るためでもあるので」
確かに兄役となればそんじゃそこらの男より俺の方が適任だろう。そして妹の見る目は世界中の誰よりもあると言っても過言ではない。愛しの兄のために最強の妹を磨いた
「分かったよ。しずくに合わせるだけってなら協力してやる」
「ありがとうございます。助かります」
別に兄役でなくとも、こんなに畏まって依頼されたら断るに断れねぇよ。
そういやコイツも虹ヶ咲の生徒なんだったら、程度の違いはあれど俺のことは好き……なんだよな? 虹ヶ咲の入学者が全員俺に思慕を抱いている奴らばかりで構成されているのは秋葉から聞かされて知っているが、コイツは他の生徒とは違っていつも平常心すぎる。ここの生徒は俺を前にしたら頬を染めるような奴らばかりだから、ここまでの余裕さを見せるのは大したものだ。こういうポーカーフェイスの強さが演劇部の部長たるが所以なのかもしれないな。
~※~
「えっ、零さんが直々に演技指導を!? 部長が掛け合ってくれたんですか!?」
「うん。唸ってるあなたを見過ごせなくて、ついね」
「いえいえ! むしろ零さんに演技指導をしていただけるなんて嬉しいですっ!」
「妹キャラには詳しいけど演技に関しては素人だし、あまり期待すんなよ」
「大丈夫です! 零さんに厳しくされるだけでも嬉しいので!」
それは厳しく指導された方が自分のためになって嬉しいって意味だよな? 決して厳しく躾けられることに快感を得たいマゾヒストじゃねぇよな……? 清純ぶっておきながら変態的思考を持ってるのはどこかの淫乱バードを思い出してしまう。しかも自分が淫乱思考の持ち主だと分かっていて攻めてくるからタチ悪いんだよ……。
しずくはカバンから何やらノートを取り出す。表紙には『零さんと演劇をすることになったらやりたいコト』って書いてあるけど、まんま直球すぎるだろ。なに書いてあるんだよこえぇよ……。
「では私は客席から見てますので、しずくに合わせて演技してあげてください」
「あ、あぁ……」
やべぇ、この場で唯一の良心が行っちまった。目をギラギラさせて自分のネタ帳を食い入るように確認するしずくと2人きりだなんて、もはや貞操の危険を感じると言っても過言ではない。自分の欲望を隠さなくなった奴は恐ろしいからな。そういう奴を何人も知ってるし……。
「それじゃあ最初に練習用の設定を説明しますね。そっちの方が零さんも役にのめり込みやすいと思うので」
「えっ、設定?」
「零さんと私、つまり兄妹はとあるワンルームアパートの1室で同棲しています」
「なんか急に始まった。しかも年頃の兄妹がワンルームって無理あるだろ……」
「お互いに高校生で、学校でバイトも禁止されているのでお金は親からの仕送りのみの極貧生活」
「どうして2人で住まわせたんだよその親……」
「貧困なため、その中での唯一の娯楽は兄妹でカラダを重ね合わせることだけ」
「おい……」
導入から怪しいと思っていたが、どうやら想像以上にAVの企画やエロ同人の設定に近い内容のようだ。コイツ、こんな設定をノートに書いてたのかよ恐ろしいな……。
「お互いに肉欲を満たし合いながら、こう思うのです。俺、私の運命の人はこの人だったんだと。恋を自覚してからはお互いにタガが外れ、近親相姦という背徳感でより一層に淫欲を高めながら、2人は結婚して幸せな人生を謳歌するのでした。終わりです」
「えらくトントン拍子に話が進んだな……」
「えっ、このノート1冊分ありますけど……要約しない方が良かったですか?」
「1冊丸々さっきの設定書いてあるのかよ……」
しずくはもう全身から嬉々としたオーラを排出しまくっている。俺と演劇をするために書き溜めた設定らしいから、実際にその苦労が活かされる時が来て嬉しいのだろう。気持ちは分かるが想像力豊か過ぎるのもそれはそれで問題だな……。
「あと重要なことが1つ。私から零さん、兄への呼び方を決めなければなりません」
「確かに妹役をやるのであれば重要か」
「はい。王道で万人受けする『お兄ちゃん』か、誠実で真面目な『兄さん』、清楚でお嬢様な『お兄様』、幼くて甘和え上手な『お兄』、もはや友達感覚の名前呼びっていうのもアリですね。どうされますか?」
「お前がどう呼びたいかでいいよ」
「そうですね……。それでは『兄さん』呼びで」
それは自分のことを誠実で真面目と思ってるってことか……? 格式のある良家の娘であることには変わりないのだが、最近の印象だとどうも無様に淫乱思考に支配された女にしか見えなくてな。ただコイツの透き通るような声で『兄さん』呼びをされると、それはそれで兄属性の俺からしたら来るものがある。楓からは『お兄ちゃん』、矢澤の下の姉妹からは『お兄様』と『おにーちゃん』、侑(妹ではないが)からは『お兄さん』と呼ばれているので、また違った新鮮味があるのだろう。
「それでは早速始めましょう。最初の設定は早朝で、妹が兄を起こすシーンからです。こほん―――――朝ですよ、兄さん、起きてください」
思わず衝撃を受けてしまった。しずくの演技を見ることはあれど、こうして真っ向から、しかも自分に対して何かしらの演技が行われることはあまりないからだ。しかもコイツの今回の役は俺の兄属性を刺激する妹キャラ。しかもコイツの『兄さん』呼びはもはや演技とは思えず、もう本当に自分の妹かのように錯覚してしまう。流石は女優の卵、演技開始から一瞬で役にのめり込んでいる。淫乱思考持ち云々の話が忘れ去られるくらいに今コイツの凄さを感じていた。
「ほら零さんのセリフですよ。夜遅くまで私とカラダを重ね合わせていたせいで、睡眠時間不足で眠たそうにしてください。そして腰を振り過ぎて腰痛になってしまっている描写も追加で」
「おい」
「そして兄は起きようとするんですけど、性的欲求に支配された日常にどっぷりと浸かり過ぎた兄は、ただ朝を普通に起きるだけでは満足できないんです。だから妹に『下半身のここにキスをしてくれたら起きてあげてもいい』と命令するんです。そうしたら私が『もうっ、兄さんったら♪』と呆れつつも嬉しそうにそれに従って―――――」
「おい!!」
「なんでしょうか? まだシチュエーションは始まったばかりですよ?」
「クライマックスだよ既に!」
初っ端から自分の書いた設定の妄想が広がり過ぎて1人で先に進んでやがる。しかも思いっきり事後描写だし、俺とどんなプレイを想像してたんだよ……。
「つうかお前、そんな設定どこで覚えて来るんだよ。AVとかエロ同人とか見てねぇと思いつかねぇ設定だろ」
「そんな下賤なことはしていません。世界最強の妹を名乗る方が兄に毎日やっていることとして、世界中の若い女性に衝撃を与えた設定なのです」
「誰だよその妹って」
「本名までは存じ上げませんが、巷ではMapleと呼ばれているらしいです。その人が説く妹道は素晴らしく、今や世界中のすべての兄持ちの妹がその方の格言に感銘を受けていると思われます。もちろん兄持ち以外でも、私のように心に響く人も多いかと」
「Mapleねぇ……」
Maple、メイプル、日本語にすると『楓』ねぇ……。もう隠す気ねぇじゃねぇか。
ていうかアイツ何を世界中に発信してんだよ。しかもしずくの話ではアイツのくだらない欲望が世界中を汚染してるって話だし、秋葉共々俺の姉妹は世界を牛耳り過ぎだろ。更に『兄に毎日やっている』とか言ってたけど、別に俺はアイツと毎日やったりはしてねぇからな……? 俺が実妹に毎晩カラダを求めてる近親相姦野郎って拡散されてるようなものじゃねぇかふざけんなよマジで……。
「それでは早速あそこにチュウを……」
「それはいいから、その……早く朝飯を作ってくれ」
「むぅ、兄さんは恥ずかしがり屋さんですね。夜はあんなにイケイケで激しかったのに……」
「あくまでその設定は続けるつもりなんだな……」
「当たり前です! 兄さんのために長年書き溜めた設定ですから!!」
「役にのめり込み過ぎて、普通の時でも俺への呼び名変わってるし……」
一度役になり切るとしばらく元に戻らないってのは親友のかすみが言ってたけど、本当にそうみたいだ。そして際どい設定のシチュエーションをこっそり書き溜めていたのも侑が言っていた通りで、歩夢とせつ菜の受け攻めプレイの内容を自分に披露してきたと言っていた。つまり今日のしずくは自身の本心が余すことなく全て曝け出されるってことか。俺の前だから別に隠す必要はないんだろうけど、想像以上に欲に塗れていて今でも驚いてるよ……。
「それでは朝食にしましょう。献立は『牡蠣』『アボカドとエビのサラダ』『うな重』『サバ味噌』、他には――――」
「ちょっ、朝からどれだけ食わせるんだよ重いっつの!! てか精力の付くモノばかりじゃねぇか!?」
「今は急だったので用意できていませんが、私、実際にさっき言った料理の練習をしているんです! 将来零さんのもとへ嫁いだ時のため、そしてかすみさんたちとエッチをした後にも精が枯れ果ててしまわないように!!」
「俺が一度に何人とヤってる想定なんだよ……」
「それは同好会の皆さん13人と……あっ、でも他のスクールアイドルの方もいらっしゃいますもんね。だとしたらもう1日中やり続けるしかないのでは……?」
「どうして毎日全員とヤる前提なんだよ……」
しかも同好会13人って、サラッと侑を含めてるな。アイツにそんな気があるのかと言われたら……流石にないか。
ちなみに言っておくと1日中ヤり続ける気力も精力も俺にはない。流石にそこまでカラダを求めらることはないだろうが、これから知り合う女の子が増えなかったとしても現状ローテーションでも1度ヤったら次にまた自分の番が回って来るのは数日、数週間待ちになることは普通らしい(某淫乱鳥が言っていた)。もう教師になるんじゃなくてそれを仕事にして女の子から金を貰った方が儲かるんじゃないかな……。
「実際の料理がないので食事シーンは飛ばすとして、次は――――お着替えですね」
「いや流石にそれは1人でやるだろ。介護じゃねぇんだから」
「妹は兄のお世話役なので、おはようからおやすみ、性処理まで妹の仕事だと聞いていますが?」
「それは楓……Mapleって奴のウソ知識だ」
「しかし、そうだとしても妹として、そして将来の伴侶として兄さんのお世話をしたいです! ダメ……ですか?」
「……ったく、分かったよ。分かったからそんな目で見るな」
「はいっ! ありがとうございます!」
物悲しそうなさっきの眼は俺を陥落させるための演技だったのか、それともマジだったのか……。なんにせよ女の子にそういう眼をされると断れないのが俺の弱点だな。
そして性処理が妹の役目ってのは如何にも楓がいいそうなことだ。しかも発言力が大きいせいで、これ全世界の何人の妹が真に受けているのんだか……。しかも妹なのに伴侶って、兄にとって妹こそが一番近しい女性だからお嫁になるのは当然と考えてそうだなアイツ。
「そもそも着替えってどこにあるんだよ? 演技らしくフリでもすればいいのか?」
「そこは問題なしです。部の備品として男性用の服もありますから。そしてちょうど部長が今日使う予定だったものがここに」
用意周到だな。女子しかいない演劇部だとしても男性が1人も出ない演劇をするのは無理があるので、使用頻度は微妙だけど一応準備はしてあるって感じか。特に部長なんて夢女子が発狂するくらいに美人イケメンなので、こういった男装もよく似合うだろう。客席で俺たちの演技を見ている部長に目配せをすると、どうやら俺の予想は当たっていたようで軽く微笑みかけてくれた。
つうかアイツ、しずくがこんな欲と俗に塗れた演技をして何とも思ってねぇのかな……。そもそもさっきからツッコミばかりで演劇をしているのか怪しい部類だけど……。
「さぁ兄さん、脱いでください! 上だけでいいので全部!」
「えっ、ここで?」
「恥ずかしいんですか? あの兄さんともあろうお方が??」
「煽ってんのかお前……。そもそもこんなデカい講堂のステージで服を脱ぐことに抵抗があるだけだ」
「今は私と部長しかいませんけど……」
「例え2人でもじろじろ見られながら脱ぐのはハードル高いだろ、男だとしても。どんな羞恥プレイだよ」
しずくは瞳をギラギラと輝かせている。客席を見ると部長も何か期待をしているようだし、どうやら多数決では敗北しているようだ。
つうかしずくの奴、俺の裸なんて何回も見てるはずなのに今更興奮してるのは何故なんだ。コイツのことだから俺に対して羞恥プレイを仕掛けてくるとは思えないし……。
「さぁ兄さん、迷っているのであれば私が服を脱がせてあげます!」
「おい勝手にボタン外すな!」
「兄妹なんですから、裸を見られたところで何の問題もないはずです! むしろ兄妹だからこそ裸のお付き合いをするべきだと思います!」
「少しずつ欲望が見えて来てるぞお前!?」
「服はこちらで預かっておくので! また洗濯をして返しておきますので!」
遂に本性を現したな。いやさっきからずっと表に出ていた気もするが、今の発言でようやく分かった。大体俺の服を脱がそうとしたり預かっておくとか言う奴に渡すと、十中八九その服は返って来ない。別に俺はファッションに興味もないし、服がなくなるくらいはどうでもいいのだが、その服が性的搾取の道具に使われてることが何とも言えない。日々スタイルのいい女性が男の下種な目線にストレスを抱えてる理由が分かった気がするな……。まあ俺はストレスは全く感じてないし、むしろ呆れてるくらいだが……。
それよりもしずくの瞳のギラつき方が尋常じゃない方がこえぇよ。どれだけ俺を求めていたのか、どれだけ俺とこの演劇をやりたかったのか、その目を見ただけで分かる。もうエサを見つけてウキウキなただの獣だな……。
「さぁ兄さん! 全てを妹に委ねてください! 服も性欲も何もかも!!」
「ちょっ、引っ張るなって!!」
「こら、しずく。落ち着いて」
「いたっ! ぶ、部長!?」
しずくはいつの間にかステージに上がって来ていた部長に頭を軽くこつかれて正気に戻る。さっきの獲物を狙う獣のような目から一転、こつかれて少し痛かったのか涙目になっていた。
「もう満足したでしょ? 零さんと一緒に演劇したい欲、満たせたんじゃない?」
「どういうことだ?」
「黙っていてすみません。しずくが演技に悩んでいた真の理由は、零さんに自分の演技を見てもらい、そして一緒に演技をすることだったんです。その欲が日に日に募って独り言も多くなっていたので、今日こうして私から零さんを誘った次第で……」
「だったら最初からそう言えばいいじゃねぇか」
「ゴメンなさい。最初からしずくの欲求不満に付き合わせると言ってしまうと、承諾してくれないような気がしたので」
「別に拒否はしねぇけどな、渋りはするかもだけど。ま、なんにせよ悩みが解決できたのならよかったよ」
「はいっ! とてもスッキリしました♪」
本日一番の笑顔を見せるしずく。そりゃあれだけ自分の欲望を外に発散できたんだから気持ちいいだろうよ。欲を満たした後にこの屈託のない笑顔をされるのも複雑感あるけどな……。
~※~
「すみません零さん、片づけを手伝ってもらって」
「別にいいよ。どうせ暇だしな」
しずくの暴走が鎮まり、演技指導も中途半端だったがとりあえず無事に終わった。そのまま帰っても良かったのだが、ステージに出しっぱなしの小道具がたくさんあったので男手が必要ってことで残ることにした。今は俺としずくで舞台裏、部長はステージ側の掃除をしている。
それにしても欲望に支配されたしずくには驚いた。最近はそういった片鱗を見せることは多くなっていたものの、やはり普段は清楚系で通っている子があそこまで自分を曝け出すのはそのギャップにビックリする。まあ俺の周りにはコイツと同等以上の変態さを持った女の子がたくさんいるので、今更コイツ1人が増えたところで何の問題もない……と思う。それに女の子側から自分を求めてくれるなんて、普通に考えたら男にとって夢のような設定だしな。喜ばしいことなのだろう。
「零さん」
「ん?」
「最後に1つだけ。もう1つだけワガママを言ってもいいですか?」
「あぁ」
「キス……したいです」
思わず作業の手を止めてしまう。しずくの方を振り向くと、そこには頬を染めてそわそわしている彼女の姿があった。
「さ、さっきの演劇は私の欲求不満からでしたけど、キスはその……零さんと相対して演技をしている間にそういう気分になったと言いますか……。つまりさっきみたいな汚い欲望とは違うってことです!」
「自分で汚いとか言っちゃうのか……」
「それに最近皆さんが零さんとキスしているような雰囲気を感じ取って、だったら私もと思いまして……」
「フッ、なるほど」
「えっ、どうして笑うんですか!?」
理由が子供っぽいなと思っただけだ。1年生なのに同好会の中では比較的お大人っぽいところがあり、見た目や性格の誠実さも相まって精神的にも成長していると思われがちな彼女だが、意外と中身はこうして子供っぽかったりもする。実際に1年生組で集まると敬語が外れて年相応にムキになったり、ガキがするようなイタズラを仕掛けることに躊躇もないなど、彼女を良く知れば知るほど微笑ましくなってくる。だからキスをしたいのも他の奴らからそんな空気を感じ取って、自分もやって欲しいとある種の幼さが残る嫉妬を抱いていたからだろう。
「可愛いな」
「ふえぇぇっ!?」
「あっ、声に出てたか?」
「もうっ、そうやって思わせぶりなところが零さんのズルいところです……。だったらこっちも容赦しません!」
「えっ、んっ!?」
「ん……ちゅっ……」
しずくはこちらに駆け寄ってきて、そのまま俺の首に腕を巻き付けて唇を押し付けてきた。彼女の熱い想いと甘い香りが押し寄せてくる。想いを伝えるまでは不器用だけど、一度決意するとさっきの演技や今のように欲望のまま相手を貪りつくしてくる。唾液の音を艶めかしく鳴らしながら、何度も何度も俺の唇に吸い付いてくる。まさに彼女の性格を表しているかのような口付けだ。こちらが引いても向こうはそれ以上に自分を押し付けてくるため、俺も彼女の身体を支えながらその欲望を受け止めていた。
そして虹ヶ咲の子たちとキスをするってことは、また俺の中で愛を受け止める器のキャパシティが広がったようだ。その代償としていつも通り全身に熱気が走る。前の果林の時と同じく、そろそろ耐えられる熱量を超えて来ていた。
「ぐっ、はぁ……」
「ちゅっ……んんっ……れ、零さん?」
「なんだ、もう離していいのか?」
「私がどうこうよりも、零さん喘いでなかったですか……?」
「んなわけねぇだろ。お前みたいな淫乱と一緒にすんな」
「ヒドい!?」
果林の時もそうだったけど、熱さに反応しちまって相手にバレそうになってるな。せっかくのキスなんだから女の子には何も余計なことを考えず、俺にだけ集中していて欲しい。だからバレないように体裁を取り繕っているつもりだが、そろそろ危ないかも……。
「これで満足か?」
「はい。でも将来的には演技ではなく、本当にああやって零さんにご奉仕するのが夢です。だからそのために女優として桜坂しずくという人間を磨いて、最高の形の『現実』として零さんにお届けするので覚悟しておいてください♪」
シチュエーションではなく現実か。
だったら俺もさっきみたいにコイツの欲望に驚いたりせず、堂々と受け止められるように器を広げておかないとな。
ちなみに、ステージで1人片づけをしている部長は――――
「零さんって、しずくみたいなエッチ……ちょっと変態っぽい女の子の方が好きなのかな……」
1人で悶々としていた。
今回はしずく回でした!
この小説に限らず、何故か世間からは性欲が強くて変態的性のある子と言われている彼女ですが、こうして描いてみるとその気持ちが良く分かる気がします。なんかしずくと変態的な描写って似合うんですよね(笑) 私以外にもそういった小説があるのをよく見かけるので……
今回出てきたもう1人、演劇部の部長さんですが、どうして名前が付けられていないのかが気になります。あれだけキャラが立っていてアプリにも出ているのに……。名前がないせいでこの小説でも『部長』と呼ばせるしかないのがもどかしいところです。
キスノルマはこれで8人で、残るは歩夢、栞子、ミア、ランジュの4人となりました。こうして見ると意外と虹ヶ咲編2も終わりに近づいていますね。
零君のカラダ、果たして大丈夫かな……?