高咲侑です。
今日は栞子ちゃん、ミアちゃん、ランジュちゃんのユニット、R3BIRTHの単独ライブの準備をしている。初のユニットライブってことで3人はとてつもなく気合が入っているのはもちろん、私も3人のユニットの晴れ姿を見られるとなって準備段階からやる気マシマシだ。最近は虹ヶ咲も有名になったためか、スクールアイドルの事務局を通じて準備を手伝ってくるスタッフさんを雇えるようになり、それによってステージもより一層豪華にできるようになった。みるみるうちに組み立てられていくステージを見てると、もう明日の分を前借りをして今から興奮しちゃいそうだよ。
もちろん私はその準備をただ眺めているわけではない。これでもライブ企画の責任者としてあれこれ指示を出したり、意思決定をしたり、いつの間にか私も偉くなったもんだとしみじみ感じるよ。まあこれもお兄さんに企画書を添削してもらった結果で、私もお兄さんの指導の下で動いているだけなんだけどね。そう考えるとお兄さんのリーダーシップ能力って半端ない。お兄さんの言葉1つでみんながまとまるんだもん、まさに上に立つ器って感じ。
「すげぇな、もうステージ出来上がりそうじゃん」
「あっ、お兄さん。お疲れ様です」
今日はお兄さんも現場に来ている。いつもは準備の現場に来ることはないんだけど、今回はR3BIRTH初の単独ライブということで、ランジュちゃんたちから一足先にステージやリハーサルを見てもらいたいという要望を受けて足を運んでもらったんだ。
「ここまでスムーズに準備が進んでるのも、お前の采配のおかげだな」
「それこそお兄さんのおかげですよ。まさか自分が短期間でここまで成長できるなんて思ってなかったです」
「いやそれこそお前の吸収力の賜物だろ。いくら上手に教えてもやる気のねぇ奴には学ぶことすらしねぇからな」
「お兄さんがここまで褒めてくれるなんて、珍しいですね」
「だったらお前が俺の誉め言葉を素直に受け取るのも珍しいだろ」
「じゃあいつも通り会話でプロレスすればいいですか?」
「ご自由に」
私もお兄さんも思わず笑ってしまう。
あぁ、やっぱりお兄さんと一緒にいると楽しいな。歩夢たちとの日常がつまらないとかそういうことじゃなくて、頼りになる男性の隣にいるという安心感と、そんな人と気兼ねなく笑い合えるこの関係が自分にとって安らぎとなっている。そんなことを自然と考えるようになってしまうなんて、私もいつの間にかお兄さんに人生を侵食されちゃってるな……。
そうやって隣のこの人がかけがえのない存在である実感が大きくなっている中、そうなると心配事はただ1つ――――
「お兄さん、お身体の方は大丈夫ですか? 歩夢たち全員とキスしないと身体がもたないって最初は本当なのかと疑っていましたけど、最近お兄さん少しぼぉ~っとすることが多いじゃないですか。だから体調とか崩されてないかなぁって」
「だから大丈夫っつってるだろ。薫子にも同じことを聞かれたけど、お前らが思っている以上に全然平気だよ。その心配はありがたく受け取るけどさ」
「無理しないでくださいよ。倒れられたりでもしたら、歩夢たちが悲しんじゃいますから」
「そうだな。アイツらにも、そしてお前にもそんな顔をさせるわけにはいかねぇし」
「わ、私は別に……。歩夢たちの落ち込む姿を見たくないからで……」
「はいはい」
「な゛っ、どうして笑うんですか!!」
とツッコミを入れつつも、内心では『そうだよ私も心配だよ』とは中々言い出せない。前も言ったけど、私ってこんな典型的なツンデレだったっけ?? お兄さんとの出会い方が出会い方だっただけに、どうもからかいたくなってくるというか、素直になったら負けな気がしてならないんだよね……。なんかこっちがデレたらあの電車の痴漢も正当化されそうだし。『大好きな俺に触られて良かっただろ?』と調子に乗られそう。それだけは避けないと! あのネタで一生お兄さんを揺すってやるんだから!!
「そういやアイツらはどうした?」
「あ、あぁ、ランジュちゃんたちなら今ライブの衣装に着替えている最中です」
「零! 来てたのね!」
「あっ、噂をすれば」
着替え終わったランジュちゃんたちがこちらにやって来た。
――――って、ランジュちゃんやけに全力疾走じゃない!? そしてその勢いを落とすことなくお兄さんに――――!!
「うぐっ!」
「どうどうこの衣装?? アナタに選んでもらった柄を私なりにコーディネートしてみたの! カワイイ? 可愛いわよね??」
「ランジュ! 零さんが困っているでしょう!」
「零を見ただけで走り出すなんて、ホントにまだまだ子供だな」
ランジュちゃんは関節技を決めるかの勢いでお兄さんに抱き着いた。後から追ってきた栞子ちゃんとミアちゃんはそんな彼女の突発的な行動に驚き、呆れている。
ただお兄さんはこうして女の子に抱き着かれ慣れているのか、ランジュちゃんが飛び込んできても少しバランス崩しただけですぐに持ち直す。そもそも抱き着かれるときに既に受け入れモードとなっていたため、こういうところが女の子慣れしてるんだろうなって思うよ。
「可愛いから! 可愛いから離れろ! 大切な衣装にシワが付くぞ!」
「確かに、それは困るわ……」
「衣装を着たお前ならいつでも見てやるから。リハの時も本番の時も、目を離さずな」
「零……。えぇ、アタシという存在をとことん見せつけてあげるわ!」
相変わらずだけど、さりげなく本人を立たせる言動が上手い。ランジュちゃんは衣装を見てもらいたくてお兄さんにアピールしてたけど、お兄さんはその衣装を着た彼女をずっと見ると言った。衣装ではなく本人を。そういった些細なことでもドキッとさせてくるからズルいよねこの人。何か事件があって一気に惚れるってよりも、何気ない日常の中で少しずつ恋の外堀を埋めていき、いつの間にか女の子側から好きになってるってのがお兄さんの常套手段だ。
「零さん、私もその……私に似合うと言っていただいた生地をベースにした衣装なのですが……」
「ボクだって、零と一緒にデザインした衣装なんだけど……」
「もちろん、栞子とミアからも目を離すことはないよ。ま、目を離そうと思っても離せねぇけどな。魅力のある女の子には自然と惹かれるもんだ」
栞子ちゃんもミアちゃんも照れたのか、表情を悟られまいとそっぽを向く。あまりにも分かりやす過ぎるから意味ないけどね……。
それにしても、もうみんなお兄さんに対する反応が女の子って感じがするよ。お兄さんとの距離がグッと縮まっていることが今の反応を見ただけで分かる。キスノルマが発令される以前は精々友達程度の関係性だったのに、私の知らない間に恋人一歩手前くらいまで間柄を深めてるなんて……。やっぱりスクールアイドルキラーの名は伊達じゃないってことか。手の早さが恐ろしいよ。
「つうか今回のライブ衣装、全体的に少し露出が多くねぇか? ランジュはまだしも、栞子やミアが肩出しミニスカの衣装を着てるのって珍しい気がしてさ」
「こ、これは同好会の皆さんのアイデアでして、こっちの方が興奮させられるから良いと……」
「もしかして性的な興奮のことを言ってんのか? 観客にそんなことさせてどうすんだよ……」
「いや、興奮させるのはお前の方だよ、零」
「へ?」
「歩夢たちが露出が多い衣装の方が零の目を惹けるし、脱がせやすくていいってさ」
「アイツらいつもそんなこと考えて衣装造ってたのかよ……」
あぁ、今まで黙ってたのに遂にお兄さんにバレてしまった……。衣装デザインのアイデアがあまりにも不純だったから黙ってたのに……。
ライブ衣装は自分たちがライブをする曲に合わせてデザインするのは当たり前で、歩夢たちも当然そこは心得ている。だけどお兄さん大好き狂いのみんなはどうしてもお兄さんにどう見てもらえるかを気にしてしまい、いつの間にか露出が少し多めになっていることが常だ。もちろんその露出も見られて騒ぎになるような過度さはないので問題にはなってないんだけどね。歩夢たちがどれだけお兄さんのことが大好きなのか分かるエピソードだ。
「脱がせやすいって、俺が女の子の衣装を脱がして愉しむような奴に見えるのかアイツら……」
「ライブ終了後の興奮が冷め止まぬ内にホテルに誘い込まれてもいいと、皆さん仰っていましたから……」
「そして興奮の熱気と汗水が染み込んだ衣装を脱がしてもらって、そのまましっぽりってのが歩夢たちの考えらしいぞ」
「汚ねぇな。シャワーくらい浴びてからベッドに上がれ」
「そういう問題ですかね……」
脱ぎやすい衣装にデザインしているのは、曲から曲の間に着替える手間を少しでも減らしたいものかと思っていたけど、まさか想像以上に不純な理由だった。流石に私もここまで欲に塗れた理由があったとか聞かされていない。もうお兄さんに期待しまくりでしょ歩夢たち……。まあそれだけお兄さんのことが好きだってことなんだろうけども。
ていうかさ、そんな理由が織り込まれた衣装を採用する栞子ちゃんたちも栞子ちゃんたちだよ。もしかしてお兄さんに侵食され過ぎて、ホテルで
「だったら今日のライブの終わりにみんなで行きましょうよ! ホテルに!」
「えっ、お前さっきの話聞いてた?? 何をするのか分かってんのか……?」
「もちろん。アタシは零と
「自分の魅力を見せつけるどころか、俺の魅力にハマってんじゃねぇか……」
「えぇ、アタシがこんなにも人に見惚れることがあるなんて今までなかったもの。世界中の誰よりもアナタのことが興味深いと思っていて、そして一番好きよ」
「えぇっ!? ランジュ!?」
「相変わらず大胆だな……」
まさかの告白。破天荒なランジュちゃんだから恋そのもののハードルが私たちよりも低い可能性があるけど、言いたいことは直球で伝えるタイプなので意外と本気なのかもしれない。その証拠としていつも自信満々な彼女からは見られない、恋する乙女のような柔らかい表情をしている。頬も紅くなってるし、お兄さんのことを男性と見ているのは明らかだ。
そしてそれは栞子ちゃんとミアちゃんも同じ。この2人は積極的に自分を表に出す性格ではないから気付きにくいけど、お兄さんのことを熱い視線で見ていたり、ランジュちゃんと同じく恋する乙女、お兄さんが使う汚い言葉で言うと『メスの顔』をしている。もうお兄さんに対して
「私も、ホテルとかは今は勇気が出ないですが……わ、私のライブの感想とかいただけると嬉しいかなって……」
「ボクも、今回作曲した曲は今まででも最高傑作だから、ボクのライブを目に焼き付けるくらいに観て欲しい。それくらいに本気で……」
「もちろん。そのためにお前らを観に行くようなもんだからな」
ファンや観客に魅せるライブをするのはもちろんだけど、3人共心の奥底にあるのはお兄さんのために輝く自分を観てもらうためのライブにしたいということ。そこにはもう否定しようがない『恋』が芽生えており、本人に今の表情を鏡で見せたら悶絶しそうなくらいだ。
「そういえば侑もありがとう。私たちのために睡眠時間を削ってライブの企画をしてくれたって、みんなから聞いたわよ」
「別に大したことないよ。それにこれが私の仕事だから」
「仕事とは言いつつも、自分で立てた企画を零に褒められて凄く喜んでいたじゃないか。だからそれなりに楽しんでやってたんだろ?」
「よ、喜んでいたってそんなこと……」
「いえ、とても嬉しそうでしたよ。皆さんが良く使う言葉で言うと……女の子の顔、でしたっけ……?」
「えっ??」
えっ、私そんな顔してたの!? みんなに『メスの顔』とか言っておきながら、私も同じ顔だったってこと? だっさ! 私ダサすぎる!! しかもお兄さん私のことをずっと見つめたままだし、そんなに見ないで欲しい。多分見せてはいけないカオになってると思うから……。
そして私を混乱させるだけさせて、ランジュちゃんたちはリハーサルの準備に行ってしまった。
とりあえず平静を取り戻したけど、お兄さんに変な風に思われてないかな……。
「まさかお前が喜んでるなんて思わなかったよ」
「そりゃまぁ、褒められたら誰でも嬉しいですよ……」
「そうだな。それで可愛い反応を見られるのなら、いくらでも褒めてやるよ」
努力しただけお兄さんは褒めてくれるから、みんな頑張ろうって思えるんだよね。私もそれは同じで、お兄さんに褒められて微笑みかけてもらいたいって思っちゃうあたり、やっぱりお兄さんに人生を侵食されていると感じちゃうよ。
それはさておき、私には聞きたかったことが――――
「ランジュちゃんたちとあれだけ仲が進んでるのなら、みんなとキスできるのはもうすぐみたいですね。カラダがいつまでもつか分からないですし、今回のライブが終わったら早々に攻めちゃってもいいんじゃないですか?」
「それはタイミングを見て決めるよ」
「なんだったら、お兄さんであればもっと早くにキスすることくらいは――――」
「おい」
「は、はい……?」
やけに真剣な声色。思わず喋る口が止まってしまった。
「俺はな、そんな義務的な感じでキスをしたくねーんだ。確かに俺から攻めればこの身体ももっと早く元に戻せたんだろうけど、だからと言ってノルマとかミッションとか、そんな達成条件のために女の子の唇を汚したくはない。やるならお互いの心が真に繋がり合ったとき、お互いの愛をお互いに理解し合ったときにしてぇんだよ。アイツらの愛情は何の曇りもない俺の心で受け止めたい。だから待ってたいんだ、アイツらがもっと本心を見せてくれるのをな」
その本気の眼差しに私は言葉を失う。
お兄さんが女性のことを大切にする人だとは知っていたけど、改めてその気概を知ることができた。これがお兄さんの信念で、いつも語っている俺様系の自分勝手な信念とはまた違う説得力がある。あまりにも確固たる勢いに私は何も言い返すことができず、納得するしかない。同時に、お兄さんのことを見惚れるくらいにカッコいいと思ってしまった。
そして、反射的に頭を下げていた。
「すみません。軽率な発言でした」
ただただ目の前の事態を解決することだけしか考えておらず、みんなの気持ちを考慮していなかった自分の非礼を詫びる。
だけど、頭にそっと手が置かれた。もちろんお兄さんの手。頭を上げてお兄さんを見つめる。
「別に謝らなくていい。俺を心配してくれてのことだろ? お前がここまで俺に気を使ってくれるだけでも嬉しいよ。ありがとな」
「い、いえ、普通のことですから……」
「俺と同じ発言だな」
「確かにいつも言ってますもんね。『そんなの普通のことだろ』って」
「お前も俺に似てきたってことだ」
「ふふっ、そうかもしれませんね」
いつもならお兄さんに似ているって言われると全力で否定しちゃうけど、今はそんな気分じゃない。むしろ嬉しいと思ってしまう。そういえば頭を撫でられることにも抵抗がなくなっているので、自分の中でお兄さんのことがどれだけ大きくなっているのか……。
「あっ、もうすぐでリハーサルが始まるみたいですよ。客席に行きましょうか」
「あぁ」
ランジュちゃんたちとお兄さんの関係性がどれだけ深まっているのか実感できる時間だった。そして私自身も、この人の存在がかけがえのないものになっていることも……。
お兄さんのカラダのことはもちろん心配だけど、ここはお兄さんを信じて待ってみよう。それが相棒として、お兄さんの帰るべき場所になることこそが私の今やれることだから。
今回は次回以降のための回、いわば序章でした。
今回では4人のヒロインたちが彼に抱く感情を分かりやすく明らかにし、より一層彼の女っ垂らしっぷりが実感できたのではないかと思います(笑)
次回からは栞子、ミア、ランジュの個人回を3週に渡って1本ずつ投稿する予定です。
この3人との関係の結末を見届けていただければと思います。