今回は虹ヶ咲アニメの栞子回を回想した話がありますが、この小説での虹ヶ咲編がアニメ2期より前に連載されていた都合上、栞子のスクールアイドル加入の経緯はスクスタ基準となっています。(同好会と対立経験あり)
そのため、この小説ではアニメ2期の栞子回の話は少し改変されていますので、あらかじめご承知おきください。
「零さん」
「来たか」
「すみません。お待たせしてしまって」
「別にいいよ。お前からの誘いならいつまでも待てるさ」
とある日の放課後。スクールアイドルの練習と生徒会業務を終えた栞子と校門で待ち合わせをしていた。
珍しいことに昨日栞子から俺と一緒にお出かけしたいと申し出があり、だったら善は急げってことで今日の放課後となった。コイツ自身いいところのお嬢様が故か誰かと遊びに出かけること自体が稀であり、同好会に加入してからはその頻度は上がっているものの、こうして自分から誘ってくるのは非常に珍しい。しかも俺と2人きりという完全にデートシチュエーション。コイツなら俺を誘うだけでも緊張しそうだが、そこまでして俺と遊びたい理由でもあるのだろうか。
「えぇっと、私を見つめてどうかされましたか……?」
「いやこれから何をすんのかなぁ~って思ってさ。お前からデートのお誘いなんて滅多にないレベルだからな」
「デート。そうですよね、やっぱりこれってデートですよね……」
「そりゃ男女2人だとそうなるだろ。放課後デートって言葉もあるくらいだし……って、どうした?」
栞子は何やら複雑そうな顔をしている。恋愛経験が浅い彼女のことなので緊張しているのかと思ったが、どうやら様子を見るにそうではないらしい。デートをするのはいいとして、別の何かで葛藤しているように見える。
「考えていたプランはとてもではないですがデートには相応しくないもの。でも行くのであれば零さんと行きたいですし、どうすればいいのか……」
「おい、なにさっきからブツブツ言ってんだ?」
「えっ、あっ、い、いや、一応お出かけ先のプランは考えていたのですが、果たしてデートで行くようなところかと言われたら迷ってしまいまして……」
「なんだそんなことか。お前が行きたいところならどこでもいいぞ。知ってると思うけど俺はデート慣れしてるんだ。だからどこへ行こうが今更ドン引きしたりしねぇよ」
「そうですか。零さんとしか行けないところなので、それを聞いて安心しました」
俺とだけってことは、かすみたちとは行けないところってことか。お嬢様で平民の遊びを知らないコイツをアイツらは色々連れ回しているみたいだが、どうやらまだ行きたいところはあるらしい。しかも男と2人きりで行きたい場所となると、コイツなりに男女の関係をそれなりに意識しているのだろう。それを踏まえてどういったプランを立てているのか見せてもらおうじゃん。
「とりあえず夕食にしましょうか。幸か不幸か、生徒会業務が長引いたおかげで丁度いい時間ですから」
「あぁ。でもどこへ行くんだ? この時間だと、女の子と行くような店は予約しないと入れそうにねぇけど」
「大丈夫です。恐らくその心配は不要なお店ですので」
「ん? 行く店も決まってんのか?」
「はい、これもプランの内です」
三船家は日本由来の家柄なので、もしかしたらそれなりに高級な和食の店とかに連れていかれるのだろうか。美味い飯が食えるのであれば別にいいんだけど、お高くまとまった場所ってのは雰囲気だけで堅苦しくなるから苦手意識はある。俺の周りの女の子はお嬢様ポジションの子も多いから、こうした食事の誘いに備えてテーブルマナーくらいは身に着けておいた方がいいのかも……。
~※~
「こ、ここは……」
「一度こういうところに来てみたかったのです。ですが同好会の皆さんを連れてきて良いものか迷ってしまって……」
「なるほど。だから男の俺と一緒に来たかったのか――――牛丼屋」
栞子に連れられて来たのがまさかの牛丼屋。よくあるチェーン店であるため一般人の俺から見てみれば何の変哲もない。だが彼女にとっては物珍しく、さっきから何度も言っている通りいいところのお嬢なのでジャンクフード店には縁がなかったのだろう。いつもは物静かな彼女だが、今はやけにウキウキしているのが分かる。だって輝いてるもん、眼が。
だがこれで俺としか行けない理由が分かった。確かに女性しかいない同好会の奴らとはこういうところに行きづれぇよな。誘えば行ってくれると思うが、コイツの度胸ではそんなことは言い出せなかったのだろう。でも愛や璃奈、ミアあたりはこういうの好きそうだけどな。
「私、知見を広げるために今までやったことのないことに挑戦したいと思っていたのです。零さんに私のワガママに付き合わせるのは申し訳ないですが……」
「いや、いくらでも付き合ってやるよ。どうせならお前のやりたいこと全部やろう」
「いいのですか?」
「やりたいことは我慢しなくていい。お前がスクールアイドルに入った時に学んだことだろ?」
「零さん……。そうですね。だとしたら、今晩はたくさんお付き合いをお願いします」
「あぁ、派手に自分を曝け出せ」
そうやって栞子を奮起させ、俺たちは牛丼屋に入った。少々小汚い感じがまさに牛丼屋って感じがして、俺は落ち着くな。
席についてメニューを見た瞬間、栞子の眼が余計に輝く。今まで食べたかった牛丼に色んな種類があることで目移りしているようだ。
「チーズにキムチ、大根おろしにネギ玉の牛丼、牛カレー、牛すき焼きって、なんですかこのラインナップ! ここはバイキング会場ですか!?」
「落ち着け。ありがちな普通のメニューだ」
「てっきり普通の牛丼だけが置いてあるのかと思いました。これは知見が広がりますね……」
「そんな知識を覚えてどこで使うんだよ……」
トッピングの豊富さや丼モノ以外のメニューがあることなんて一般常識レベルだから、知見が広がるってよりコイツの常識が一般に追いついただけだな。つまりマイナスからゼロになっただけなのだが、本人が楽しそうなので変に水を差さなくてもいいか。
「そういえば、牛丼屋にはメニュー表には載っていない裏メニューなるものがあるそうで」
「あぁ、キング牛丼とか超特大サイズのことか。あれはやめとけ、男でも普通にグロッキーになる」
「私が聞いた話だと、もっと呪文だったような気が……。確か――――メンカタカラメヤサイダブルニンニクアブラマシマシ」
「それは特定のラーメン屋だ……」
そもそも最初の麺カタで牛丼の呪文じゃねぇって分かるだろと思ったが、コイツのことだ、まさかその呪文がラーメンのオプションの頼み方だってことすら知らないのだろう。ジャンクフードに興味を持ち始めたからそういった店にも行く可能性あるし、間違っても呪文のような注文をしないように教え込んでおかないと。
結局俺も栞子も普通の牛丼を頼んだ。
そして目の前に差し出され、早速食らう。牛肉と濃厚な甘いタレ、とろける玉ねぎが絶妙にマッチして米が進む進む。カラダに良くないと分かっていながらも、その背徳感を味わってる感じがいいんだよな。
「これが……牛丼!? 牛肉と濃厚な甘いタレ、とろける玉ねぎが絶妙にマッチしてお米が進みます!」
「全く同じ感想じゃねぇか……。まぁでも美味しかったのなら良かったよ」
「はいっ! でも、これだけ美味しかったら女性に人気があってもおかしくはないと思いますが……」
「それは男の食い物だってイメージが根付いてるからだろうな。別に女性客がいないわけでもねぇし、好きな人は好きだから。少なくとも同好会の奴らは牛丼が好きなお前を見て偏見の目は持たないよ、絶対に」
「なるほど。それでしたら皆さんにもこの美味しさを伝えたいと思います!」
「あぁ、お前が先駆者になってやれ」
ここまでテンションの上がっている栞子はあまり見ない。ライブでステージに上がっている時の高揚さとは違い、こうして年相応で無邪気な様子を見せているのが珍しいんだ。普段は物腰柔らかで落ち着いているせいか、そのギャップの可愛さに思わず見惚れてしまう。また別の魅力を拝むことができたので、それだけでここに来た甲斐があったってものだ。
~※~
「どうだった?」
「とても美味しかったです。今度はトッピングありに挑戦してみようと思います!」
どうやら牛丼の魅力にハマったようだ。ジャンクフードなので好みは結構分かれるものだけど、味付けが濃いので若い奴なら食べ応えもあって満足できるだろう。まあイメージ的に女性は店に入りづらいから食べたことがないってだけで、一度食ってみると意外とハマっちまうのも可能性としてある話だろう。今のコイツみたいにな。
「つうか今更だけど、家に連絡しなくていいのか?」
「今日は親も姉さんもいないので大丈夫です。つまり夜遅くまで出歩くことができます。生徒会長なのに夜遊びとは、この逸る気持ちもさっきの牛丼と同じく背徳感から来るものでしょうか……?」
なんかコイツにイケナイ知識をどんどん埋め込んでしまっている気がする。規律を重んじる真面目な生徒会長にジャンクフードの魅力と夜遊びを教えるなんて、一種の調教モノと捉えられてもおかしくない。真っ白なキャンパスを黒塗りにするのが好きな俺ではあるが、ここまで真っ白だと自分の色に染めるのはちょっとだけ罪悪感がある。ちょっとだけな。
「で? 次にやりたいことは?」
「そうですね、次は――――」
もしかしてやりたいことって、また庶民生活の体験なのでは……?
そしてそれは見事に的中し――――
「放課後の夜にゲームセンター。生徒会長の私が……!? 本当はいけないことなのに、私は……」
葛藤しながらも夜のゲーセンを楽しんだり――――
「家に帰らずにカラオケ。素行不良の生徒の鉄板生活をこの私がこの身で体験するとは……」
そうは言っても悩んでいるのは最初だけで、意外と歌を歌うことに関してはノリノリだったり――――
「生徒会長なのに買い食い。しかも夜にカップ焼きそばだなんてなんと背徳的な……。でも牛丼でお腹がいっぱいなので、半分お願いします」
「おい……」
コンビニで買ったカップ焼きそばを2人で分け合ったり――――
「おいここホテル街だぞ!? どうしてこんなところに来た!?」
「遊んでいる女性の嗜みだとお聞きしたのですが!? まさかここまでいかがわしいお店が並んでいるとは……」
「同好会の誰がお前に吹き込んだのか容易に想像できるな……」
かすみのイタズラだったり、愛や果林の悪ふざけだったり、しずくや璃奈の淫乱思考が暴走したとか、犯人候補は多い。まあ栞子が俺とデートするとアイツらが知れば、その最後にホテルに行かせようとするのは当然か。R-18展開に持ち込むことしか考えてねぇな虹ヶ咲チルドレンの奴ら……。
そして段々と夜も更けてきた。この時間まで外にいる栞子がヤバいってよりも、女子高生を連れ回している成人済み男性の俺の方がヤバいのではと思い始めてしまう。誘ってきたのは向こうだけど監督責任は俺にあるわけで……。ま、んなこと言っても高校時代からμ'sの奴らとフラフラ遊び回っていたわけだし今更だけどな。
「零さん、私のワガママにお付き合いいただきありがとうございました」
「いいものを見させてもらったから別にいいよ。はしゃぐお前の姿をな」
「そ、そんなに子供っぽかったですか……?」
「まだ高校1年生のガキだろうが。今のうちに思う存分遊んどけ」
子供っぽく無邪気に遊んで微笑ましく思われるのも今だけだからな。しかも可愛らしい女の子だけの特権。そういった意味ではいつもは表情の硬いコイツが年相応の笑顔を見せてくれたのは、俺にとって大きな収穫だった。いつもこのために女の子とデートするようなものだからな。
「もうやりたいことは終わりか?」
「え、えぇ……」
「まだあるみたいだな、その微妙な反応」
「そ、それは……」
頬を染めながら俺の顔を見つめたり、目を逸らしたりする栞子。そしてその様子を見て大体の事情を察する。俺を誘った本当の理由も何もかも。ただまだ男に対しては緊張を隠せないコイツのことだ、自分の本心をそう簡単には告げられないのだろう。
だったら――――
「なぁ、今度は俺に付き合ってくれないか?」
「は、はい。でもどこへ……?」
「大したところじゃない。2人でゆっくり話せる場所なだけだよ」
~※~
「星が、綺麗ですね……」
街中の展望台へとやって来た。今日は天気が良かったので夜空が綺麗に見えるかもと思っていたのだが、どうやらここに来て正解だったみたいだ。栞子は夜空に広がる星に負けないくらい目を輝かせている。展望台内は灯りが全くないが、そのおかげで星空が更に輝いて見えるので風情があるな。
ちなみに本来ここは夜も更け込んでいるので閉まっている場所なのだが、実は秋葉の所有物なので連絡をして開けてもらった。栞子と2人で来たと言ったら向こうも事情を察したようだ。
「本当に、今日はお前の表情がコロコロ変わって見ていて楽しいよ」
「そこまで珍しいですか? 私がこうやって楽しそうにしているのって……」
「いやマイナス面の意味じゃない。アイツらといる時とか、ライブをやってる時とか、それとは別ベクトルで楽しそうにしてるなって思ったんだよ。それこそさっき言ったみたいに、子供っぽく無邪気にはしゃいでいるお前がな」
「やっぱり変、でしたでしょうか……?」
「いや可愛かったよ。普段とは違うギャップのある子、俺は好きだ」
「ふぇあっ!?」
謎の奇声を発する栞子。これくらいで驚くなんてまだまだ純粋っ子ちゃんだが、歩夢たちが慣れているだけでコイツの反応は至って一般的だ。こういうところも年相応で愛おしく感じちゃうな。
「零さんはいつも私のことを見てくださっていますね。そして私のことをずっと気にかけてくれていました。初対面であれだけご迷惑をおかけしたのにも関わらず……」
「懐かしいな。でも俺って面食いだからさ、可愛い子にはつい自分の唾を付けたくなっちゃうんだよ。そして自分に笑顔を向けて欲しいとも思ってしまう。あの時のお前の仏頂面を笑顔に変えられたらなって思ったんだ」
「ただそれだけの理由で私のお側にずっと……」
「失望したか? 自分勝手な理由で」
「いえ、零さんのおかげでスクールアイドルを続けられていますので、むしろ感謝するのはこちらの方です。『お前の笑顔が見たい』と私に訴えかけてくれたあの時から、私は……」
コイツが同好会に加入する前のことは断片的にしか聞いてないけど、同好会の活動を停止させようとしたりとそれはそれで一悶着あったようだ。それからコイツも同好会の一員としてスクールアイドルを続けていたものの、表情の硬さや明るく振る舞えない自分の厳粛な性格が災いして、自分にはスクールアイドルの適性がないと思い始めていた。だから他の学校との合同文化祭の時は生徒会として裏方に回っていたのだが、そこで声をかけたのが俺だったんだ。
「あの時は驚きました。『適正なんてなくてもいい。スクールアイドルに向いてないと思うならそれでもいい。やめてしまうのならそれでもいい。だけど今回だけは、自分の最後のライブと思ってもいいから今回だけはライブをしろ。やる意味がないってのなら俺が作ってやるよ。それで続けるかやめるかを判断しろ』って、どれだけ横暴なんだと思いました」
「よく覚えてるなそんなこと」
「私がその意味を聞いたら、『俺のために歌え。俺のためにライブをしろ。それでもお前が満足できないのであれば、俺から無理強いはしない。俺はただお前の笑顔が見たいだけだから。ずっと見ているから、お前のことを』と。皆さんから聞いていた通り、本当に無茶苦茶な人だなと実感しました。でもそのおかげで私の隣でこれだけ応援してくれている人がいるということ、それに何より、私の笑顔を見たいと思ってくださる方がいたことに嬉しくなってしまって……」
「それでステージで『EMOTION』を披露したんだったか」
「はい、それでスクールアイドルを続ける決心をしました。あれだけ自己中心的な説得だったのに、不思議と熱くなってしましました」
理屈も道理もなく、ただ適当な理由を並べてそれっぽい説得をするのは俺の十八番だ。こんなのはこっちの熱意が伝われば何でもいいんだよ。結果的に栞子が再起したわけだし、全ては結果なんだ。まあ強いて理由を挙げるなら、俺は女の子の笑顔が消えていくのを見過ごせなかった。そもそも女の子を助けるのに大層な理由なんていらねぇしな。
「それからですね、より一層意識をし始めたのは」
「いいのか? たくさんの女の子と付き合ってるような男だぞ? 規律や道徳の化身のお前が意識するような相手じゃなかったはずだ」
「仕方がないじゃないですか――――好き、になってしまったのですから……」
相手を好きになる理由なんて人それぞれ。例え相手がどんな奴であろうとも、自分が好きになってしまったのならそれでいいってことだ。悪い奴と付き合って人生の転落コースに足を踏み入れてるのなら話は別だけど、本人がよければ他人がとやかく言う必要はない。そもそも俺だって他人がドン引きするくらいのとんでもない淫乱な奴らを好きになってるわけだしな、お互い様だ。
薄暗い中でも栞子の紅い表情が良く分かる。展望台へ来る前の緊張はまだ続いているとは思うが、この夜の静けさと男女2人で夜空を眺めるこのムードに彼女の気持ちも後押しされているようだ。でなきゃさっきみたいな告白はできないはずだから。
「お前のその表情も最近はよく見るけど、今日のお前が一番可愛いよ」
「ま、またそんなお世辞を……」
「俺の言葉が嘘じゃないってお前なら分かるだろ? 女の子の笑顔なら誰でも好きってわけじゃない。俺が認めた、俺が惹かれた女の子の幸せそうな表情が好きなんだ。それをずっと見ていたい。お前のことも……」
「零さん……」
夜空の下で見る恋に満ちた女の子の顔ってこんなにも綺麗だったのか。栞子の顔立ちが美人なのも相まって余裕で目を奪われる。今まで他の女の子たちのこの表情を何度も見てきたはずなのに未だに惹かれるとか、やっぱり俺は自分に恋してくれる女の子のことが好きらしい。そして今、目の前にいるコイツのことも――――
「零さん、確かめたいです。直接、この気持ちを……」
「あぁ、思う存分確かめてくれ」
栞子がこちらに歩み寄って来たので、俺はその身体を抱き寄せた。
そして俺が顔を少し下げたのと同時に栞子が背伸びをする。お互いに顔を寄せ合い、そして――――唇を合わせた。
優しいけど熱い。今まで溜め込んで来た想いを全てこっちに吐き出して流し込んでくる。冬の夜の気温なんてなんのその、お互いの熱交換に夢中になっている俺たちは外気の温度を感じることもない。唇から伝わる想いの熱気、抱きしめ合っていることによる体温、お互いがお互いを暖め合って完全に自分たちだけの空間を作り出していた。少し息苦しくなるくらいに、それでもこの時を待っていたと言わんばかりの口づけの熱さに俺たちは無心であった。
そして、ゆっくりと顔を離す。
「ッ……!!」
「零さん……?」
「大丈夫。お前からの想いが熱すぎただけだ」
身体が熱い。彼女とのキスの熱さだけではなく、芯から燃え上がるこの熱さ。例のごとくこれまでと同じ現象であり、みんなとキスをするたびに俺の中の愛を受け止めるキャパシティが大きくなることに伴う副作用みたいなもの。カラダの内から火を付けられているようで物凄く熱いが、これも彼女から受け取った告白だと思っておけば耐えられる。だから今は心配をかけないようにしねぇと……。
「零さん」
「ん?」
「不束者ですが、これからもよろしくお願いします」
栞子はぺこりと頭を下げる。
「ぷっ……」
「えっ、どうして笑うのですか!?」
「悪い悪い。まるで結婚したみたいだからさ。でもそうだな、これからもよろしく」
「はいっ!」
今日イチ、いやこれまでで一番の笑顔を見せた。
これだよこれ。この笑顔を見るのが俺の生き甲斐で、そして女の子たちを幸せにしてやりたいと思う俺の信念だ。また1つ自分の夢を叶えることができたな。
「帰ろう」
「はい」
俺は手を差し伸ばし、彼女がその手を取る。
その握られた手は暖かく、今の俺たちの幸福を表しているようだった。
というわけで栞子回のクライマックスでした!
前半戦は無邪気な彼女の様子をお見せしましたが、これも零君とならそういった表情を見せてもいいと自分が意識せずとも思っていたのでしょう。
後半戦はこの小説では似合わないガチの純愛でした。自分は下ネタを絡めたギャグ系の話が専門なので、ロマンティックな描写は今でも苦手です(笑) それでも今回でまた私の中で栞子のことが好きになりました!
次回はミア回で、今回と同じく個人回のクライマックス編の予定です。