ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

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【最終話】Colorful Dreams! Colorful lovers!

「ふわぁ~……」

 

 

 あまりにもいい天気、あまりにも平和なひと時に思わずあくびが出る。

 例の症状でぶっ倒れた日の翌日、紆余曲折あって熱が引いた身体は翌朝になるとすっかり元通りとなり、今までかつてないほどの健康具合だった。今朝ほど気持ちよく目覚められた日がかつてあったかどうか疑うレベルで身体も回復しており、いつも俺を起こしてくれる妹の楓が来る前に起きてしまったため逆に異常がないか疑われたほどだ。

 

 かくして、いつも通りの体調、いつも通りの日常に戻って来たので、今日もいつも通り虹ヶ咲へコーチをしに来ている。最近はずっと体調を崩していたためか、万全な状態となった今だとこうして歩いているだけでも周りの景色が明るく見える。みんなに心配をかけないように症状を黙っておこうと、ずっと抱え込んでいたストレスが解放されたってのもあるかもしれない。なんにせよ、人間は健康が一番ってことだな。肢体が満足に動くってことも、食欲があるってことも、性欲があるってことも健康あってのことだから。

 

 

「気が抜けてますね、お兄さん」

 

 

 そして俺の隣を歩く黒髪のツインテールで毛先が緑色のコケ……じゃなくてグラデーションをした、スクールアイドル同好会のマネージャーである高崎侑だ。顔よし、性格よし、スタイルそこそこ(他の2年生組が規格外すぎるだけ)、最近は俺の指導によってマネジメント能力もめきめき上昇しているため、今となっては助手として隣に置きたい女の子No.1だ。実際にかつて相棒の契りを交わしたので、俺もコイツもお互いが隣にいて然るべきという認識となっている。そのせいで歩夢たちからはよく夫婦とからかわれ、侑が全力否定するのがド定番となっていた。

 

 そんな侑は呆れ顔で俺を見上げる。(この身長差がちょっといい)

 

 

「そりゃ気も緩むだろ。身体も元通りになったし、また色々と手に入れちまったしな。お前とか」

「私って……。まさかキスしたことで、私がお兄さんに恋をしているとか、よもや恋人になったとか思ってるんですか……?」

「違うのか?」

「ち・が・い・ま・すぅ~!! あ、あれは治療の一環で、そうっ、人工呼吸をしただけです!」

「顔真っ赤だぞ」

「ぐっ……!!」

 

 

 いくら取り繕っても、どんな理由を並べようとも、俺とキスをしてしまったことには変わりない。しかもコイツがデカい声で言い訳をする時は、大抵自分の羞恥心を悟られぬようにしたい時と相場が決まっている。まだ出会ってから半年も経ってないんだけど、一緒にいる時間が長すぎてコイツの思考なんて全部読めるようになってんだよな。

 

 

「お前がなんて言おうと俺が全てを手に入れてしまった事実は変わらない。医療行為だろうがなんだろうが、お前には俺との唇の感触がずっと記憶と感覚に残り続ける。つまりお前は一生俺のことが頭から離れなくなったわけだ」

「なぁ~にをさっきからイキリ散らかしてるんですか。今にも死にそうになっていたくせに。誰のおかげで助かったと思っているのか、もう一度考えたらどうですか」

「はいはいお前のおかげだよ。ありがとな」

「頭撫でないでください!」

 

 

 侑の脳天を手のひらで掻き回してやったら即座に弾かれた。誰のおかげなのかと聞かれたからお礼を言ってやって、しかも感謝を示すために撫でてもやったのに拒否するとかそりゃねぇだろ。どうやら羞恥心を堪えるので精一杯で感情が乱れているらしい。多分だけど、1人でいる時は俺とのキスを思い出して『どうしてあんなことしたんだろう』って悶えてんだろうな。甘酸っぱいね、女子高生の恋愛ってのは。

 

 

「昨日のキスが治療だって言い張るのならそれでもいいよ。でもあの時に言った言葉は本当だから。俺とのキスなんて忌むべき過去だって思ってくれてもいいけど、気持ちだけは受け止めてくれると嬉しいかな」

「な、なんですか急に……」

「お前のことも好きだってことだ」

「な゛っ……!? そ、そんな何回も言わなくていいですって!!」

 

 

 慌ただしい中での告白は気持ちがより相手に伝わりやすいと聞く。俗に言う吊り橋効果ってやつだが、コイツもその効力にまんまと引っかかったみたいだ。もちろんそんな効果なんて狙わなくても俺はいつも自分の気持ちを素直に伝えているつもりだけどな。ただ恋愛未経験者にとって年上の男からの告白は威力が強すぎたらしい。

 

 侑は昨日の俺の言葉がフラッシュバックされたのか、顔を赤らめたまま唸っている。治療とは言え男とキスをするなんて並大抵の覚悟でないとできないし、あの時は俺からの告白を受けて一応自分の中で納得と決心をしてからキスしたのだろう。だけどあの時はあの時、今は今。落ち着いた今だからこそ昨日の自分の決断を冷静に振り返り、そして恥ずかしさに苛まれているに違いない。

 

 

「私だって……」

「ん?」

「す、好き……うぐっ、き、嫌いではないですよ、お兄さんのこと……」

「なんだよ釈然としねぇな」

 

 

 最初普通に言えたと思ったのに、やっぱり気恥ずかしさが先行したのか無難な回答に戻しやがった。恋愛絡みでなければコイツは素直に自分の感情を表に出すタイプなので、ここまで誤魔化しを入れるのはやはり恋煩いのせいだろう。ま、恋愛初心者の女子高生なら当然か。しかもコイツの中では俺に素直になったら負けと思ってる節もあるみたいだしな……。

 

 

「で、でも、ウソをついた気持ちのままでは絶対にキスはしないです! 嫌いってこともウソでは言わないし、それにさっきの好きって言葉もウソでは言わないですから! はい、この話はこれで終わり!」

 

 

 なるほど。めちゃくちゃ遠回しな言い方だけど、結局自分の言葉や行動は事務的やお情けはなく本当の気持ちだってことだろう。普段はトキメキを感じたら即行動の前向きキャラなのに、ここまで不器用になってしまうのは俺のことをそこまで考えてくれているってことか。本当に面白いよ、コイツは。

 

 

「ど、どうして笑うんですか!!」

「いや別に。ま、これからもよろしく頼むよ」

「なんですかもうっ……。仕方ないので一緒にいてあげますよ、これからも」

 

 

 キスもして、お互いに好きを確かめ合ったのにお付き合いはしない謎の関係。でも俺たちはこのままでもいい気がする。恋人同士ではない、パートナーとしての別の絆が繋がっているから。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「零! もう具合は良くなったみたいね!」

「うおっ!? ランジュ!?」

 

 

 別の用事で音楽室へ寄っていくと言って侑と別れた直後、後ろからランジュがタックルするかの勢いで抱き着いてきた。

 相変わらずの無防備であり、その年齢には相応しくない巨大な胸を俺に存分に押し付けてくる。もちろん天然混じりのコイツに俺を誘惑しようって意図はないだろうが、この前のホテルでの件を思い返すとコイツも性的なことに興味を持ち始めている気はする。エッチな子は好きな部類だけど、何色にも染まってない子はそのままでいて欲しいって思いもあるから悩ましいな……。

 

 

「おかげ様で良くなったよ。むしろ人生で一番の健康状態かもしれないってくらいに元気かな」

「それにしては気ダルそうな顔してるわね」

「それはいつものことだ」

「どんな顔の零もカッコいいから、アタシは大好きよ!」

 

 

 後ろから抱き着きながら、俺の肩越しににっこりと笑うランジュ。

 コイツ、俺が何をしても肯定してくるよな。俺のやることなすことに何にでも興味を持ち、そして褒めてくれる。それは俺に限った話ではないが、これは全肯定のランジュと言われても仕方がない。生まれながらの全肯定ウーマンであるエマに並ぶ時も近いかもしれない。

 

 

「ランジュ。また零さんにご迷惑をおかけして……」

「栞子か。いや別に迷惑ではないが」

「そりゃそれだけ大きな胸を押し当てられてたら、零みたいなドスケベにとってご褒美だろ」

「ミア……。相変わらずの口ぶりだなお前も……」

 

 

 いつの間にか栞子とミアもやってきた。

 思えばコイツらが3人で俺の前に登場する時って、いつもランジュが先に飛びついてきて、その後に2人がやって来るシチュエーションな気がする。もはやトリオでしっかりキャラ付けが決まっていて、ランジュが突っ走る役、栞子がツッコミ役、ミアが呆れる役と言った感じ。R3BIRTHのユニットを結成してまだ間もないってのに、1人1人のバランスとボケとツッコミによる絆の強さは既に形成されているようだ。

 

 

「アナタたち、アタシが零に抱き着くといつも迷惑だ~とか言ってるけど、指を咥えて見てるのがイヤならアナタたちも抱き着けばいいじゃない」

「私たちが負け惜しみを言っているみたいに言うのはやめてください! それもこれも零さんにご迷惑をおかけしていないか心配しているだけで……。ミアさんも何か言ってあげてください」

「そうだな。今更恥ずかしがることはないんだし」

「えっ……?」

 

 

 栞子の隣にいたミアが俺の左隣にまで歩み寄り、何と俺の腕に絡みついてきた。

 あっという間に仲間がいなくなって目を丸くする栞子だったが、もちろん俺だって驚いている。コイツは自分からあまり積極的には動こうとせず、むしろ俺にいきなり抱き着くランジュを咎める役、つまり栞子側だった。ただ今は何の恥ずかし気もなく俺の腕に抱き着き、それどころかこれくらい普通といった態度だ。俺の隣にいるのも、抱き着くのも当たり前と言わんばかりに……。

 

 

「ミ、ミミミミミミミアさん!? 何故!?」

「何故って、もうキスした仲なんだし別にこれくらい普通だろ。それにステイツではハグくらい挨拶みたいなものだから」

「キスをしたからって、そんなに気安く触れていいわけでは……」

「唇同士で触れ合ったんだし、身体でぎゅ~ってするくらい栞子にだってできるわよ。アタシだってできているんだもの」

「ランジュは見境がなさ過ぎるんです!」

「ディスられてるみたいだよ、ランジュ」

「それほどでもないわよ」

「褒めてません!!」

 

 

 漫才しに来たのかコイツら。人を取り囲みながらコントしてんじゃねぇよ……。 

 それはともかく、どうやら栞子はまだ俺と身体的接触をするのは恥ずかしいらしい。普段からスキンシップの激しいランジュや、アメリカではハグやキスが日常的なミアとは違い、本人の真面目な性格も相まって物怖じする理由は分かる。しかも相手が年上の男だしな、緊張もするだろう。あの時に抱き合ってキスをしたのも満開の星が広がる夜空の下ってシチュエーションであり、そのロマンあるムードに後押しされたってのもあった。そのため改めて抱きしめ合うとなると怖気づいてしまうのも仕方ないだろう。

 

 ただ抱き着きたくないと言ったらそうではないようで、さっきからチラチラとこちらの様子を窺っている。どうやら俺の反応を見てコイツらと同じ行動をするのか迷っているようだ。

 ったく、面倒な奴だな。

 

 

「いいよ別に。そもそも迷惑がってないって最初から」

「そうそう、零の懐の広さは無限大なんだから! それこそ女の子が何人抱き着いてきてもしっかり受け止めてくれるわよ!」

「信頼が厚いのは嬉しいけど、流石に潰れるからやめてくれ……」

「そ、それでは右腕に失礼しても……?」

「いいよ。校内だったらお前みたいな謙虚な奴の方が逆に珍しいからな」

「なるほど……。それでしたら行きます!」

 

 

 腕に絡みつくだけでどれだけ気合を入れるんだよ……。とは言いつつも、さっきも言った通り彼女のド真面目な性格を考えるのであれば男に触れるってだけでも大仕事なのだろう。

 栞子はおずおずと俺の右腕に抱き着く。他の2人とは違って抱き着くとは言っても触れるくらいだが、それでも俺と触れ合った瞬間から安心した表情となっているため、やはりコイツも心の奥底では俺を求めていたのだろう。そりゃキスした仲だしな、もうただの男女の関係ではない。

 

 

「零さんって、温かいですよね。心も身体も……」

「そうなのよ! 零を目撃した瞬間にこうして後ろからガバって抱き着いてしまう衝動に駆られるわ。もしかしたらそういうフェロモンが出てるのかもしれないわね」

「そいえば璃奈がモノづくりをする時は零の膝の上でプログラミングすると捗るって言ってたし、ボクも作曲する時は零を椅子にしてみようかな……」

「お前ら言いたい放題だな。もっと好きな男を敬うとか、敬愛的なモノを感じさせろよ……」

 

 

 ランジュに悪気がないのも分かってるし、ミアも膝に乗せて欲しいって意味なんだろうけど、捉えようによっては俺が女子を狂わせる匂いを発していたり、俺が女の子に座られることが好きなMプレイ信者とも思われる。てかそうとしか思えないニュアンスだったからツッコミを入れたのだが……。

 対して栞子は何故かうっとりしている。さっきまで抱き着きを咎めていたコイツはどこへ行ったのか、一度(たが)が外れると男に没頭するタイプか。確かに純粋過ぎるが故に恋愛と言う新たな快楽を知るとどっぷり浸かりそうなタイプではあるな。

 

 それにしてもこの廊下の真ん中で3方向から擦り寄られてると――――歩けねぇ……。

 

 

「こうして零に抱き着いてると、キスした日のことを思い出しちゃったわ。もう今日はこのまま帰ってあの日の続きをしましょうか! 栞子とミアも来なさい!」

「もしかしてそれって乱交ってやつか。ボクには無縁の言葉だと思ってたけど、遂に該当者に……」

「えぇっ!? 私たちと零さんが……!?」

「もう恋人みたいなものだし、当然よね」

「いやいやお前らユニットライブの申請書を生徒会に出しに行くんだろ!? その後も練習があるってのに!」

「あら、みんなとはヤってるのにアタシたちとはイヤなの?」

「ちげーよ。何度も言ってるけど俺は雰囲気重視派。そんな軽いノリでやったりしねぇだけだ。いつも言ってんだろ」

「分かってるわよ」「分かってるよ」「分かってますよ」

 

 

 3人に一斉に笑われる。もしかしてからかわれてるのか? それくらいお互いの距離が縮まったと思えば聞こえはいいが、まぁ焦らずとも()()()()()()()をする機会はいくらでもあるだろう。もうずっと一緒なんだからさ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 ランジュたちから解放され、ようやく同好会の部室にまで辿り着いた。虹ヶ咲の校内は地球上のどこよりも女の子に絡まれる率が高く、目的の場所へ行くまでに相当な時間を費やすことも多々ある。そしてさっきみたいな身体接触が多いと無駄に体力を消費させられるため、そういった意味ではここ数ヶ月で自分のHPが大幅に上がった気がするよ。流石に何度も何度も四方八方から抱き着き攻撃を受けてたら耐性もできるって。

 

 そんなことを考えながら部室のドアを開くと――――

 

 

「零さん退院おめでとうございま~す♪」

「えっ、かすみ!? ぶはぁ!!」

 

 

 ドアを開けた瞬間にかすみが懐に飛び込んで来た。なんとか受け止めることには成功するが、その勢いが強すぎて多くの息が漏れる。

 徐々に落ち着いてきたので部室を見渡してみると、謎に飾りつけされていることに気が付く。そしてホワイトボードには『零さん元気になった記念!!』とでかでかと書かれていた。

 

 

「どういうことだよこれ。てか退院って、別に入院してねぇぞ」

「細かいことはいいんですよ!」

「実はかすみさんの発案で、零さんがお元気になられた記念のパーティを開くことになったんです」

「それでみんなで準備した。この飾りつけも、この料理も」

「マジかよ……」

 

 

 まるで誕生日や入部歓迎などのお祝いかってくらいに装飾も料理も豪勢だ。たかが風邪のような症状から復帰しただけなのにここまでやってくれるなんて、それほど俺のことを心配していたのだろう。でもそれくらいでパーティを開くって如何にもお人好しでお祝い好きなコイツららしい。誰かの誕生日とか、ライブの打ち上げとかも結構豪勢にやるからなこの同好会。

 

 

「ほら零さんこっちに座って座って! 愛さんたちが作った手料理をご堪能あれ!」

「私も腕によりをかけて作りました! 久々のお料理、楽しかったです!」

「せ、せつ菜が作ったのか……?」

「安心してください。私がせつ菜ちゃんの隣にいたので、変な味付けにはなってないかと」

「あぁ、助かるよ……」

 

 

 2年生組に促されて椅子に座らせられる。いわゆるお誕生日席ってやつだが、ここまで注目されると流石の俺でも恥ずかしいんだけど……。

 愛の料理は相変わらずの得意料理の和食。そしてせつ菜もお得意の紫が入り混じった汚料理――――ではなく、歩夢の監修があったためか見た目はかなりまともだった。あとはエマやかすみが作ったであろうお菓子など、みんなの得意分野の料理がテーブルに所狭しと並べられていた。もうコイツらだけでコース料理を提供できるんじゃないかってくらい豪華だな……。

 

 目の前のご馳走に圧倒されていると、またさっきみたいに誰かが後ろからのしかかってきた。

 

 

「あ~これこれ~。零さんの温もりが帰ってきて彼方ちゃん嬉しいよ~。最近の零さんはちょっと体温が低かったからね~」

「彼方か。まあずっと体調悪かったからな……」

「彼方ってば料理に本気を出しすぎて疲れちゃったから、ずっと零さんのことを待っていたのよ。こうして抱き枕にするためにね」

「それだったら私も疲れちゃったから、零さんに甘えてみようかなぁ~なんて。失礼しま~す♪」

「お、おいエマ……」

「あら、だったら私も」

「おい!?」

 

 

 あまりにも積極的な3年生組に驚いている間に取りつかれてしまった。こうなったら飯食えねぇだろと思ったけど、どうやら食べさせてくれるみたいで……。いやもう病人じゃないからそんな介護いらねぇけども。と言ってもコイツら今テンション爆上がりしてるし、止めようにも止めらんないんだろうな……。

 

 

「エマ先輩たちズルいです! 最初はかすみんが食べさせてあげようと思ったのに!」

「弱肉強食の世界って怖いわね」

「むぅうううううううううううううううう!!」

「そうだよ、かすみさん。私だってうかうかしてられないかな。零さん、次は私の手料理を――――」

「私も……この璃奈ちゃん印のハンバーグを、どうぞ」

「みんなに抜け駆けされた!? こうなったら割り込んででも!!」

「ちょっ、待てって!!」

 

 

 なんかコイツらの目の色、いつもと違うんだけど!? 最近は体調が悪そうにしていたから激しく絡むことは遠慮していたけど、元気になったのを機にこれまで抑えつけていた鬱憤をここで発散しているようだ。俺の中で女の子の愛を受け止める器が広がったのはいいけど、今度はコイツら自身が俺への愛情を抑え切れなくなってないか……? いつもの俺が帰ってきて嬉しいのは分かるけど、その興奮具合はもう俺1人では宥めることができそうにない。

 

 

「あははっ、みんな盛ってるねぇ~♪ 歩夢とせっつーは加わらなくていいの?」

「そうしたいのは山々だけど、もう零さんの空き場所が……」

「そうですね。皆さんに囲まれ過ぎて、零さんの身体が全然見えなくなっちゃってますし……」

「女の子たちに囲まれて外から中の様子が分からないって相当だよね。でもこれこそ零さんって感じ!」

「うん。女の子を侍らせてるのが似合うよね」

「アニメや漫画みたいなフィクションだとご主人様キャラはたくさん見ますけど、まさか現実で本物のご主人様を目の当たりにできるとは……。凄いですよ、零さん」

 

 

 なんか離れたところから2年生たちが俺を分析しているみたいだ。てかそんなことを言ってないでこの暑苦しい状況を何とかしてくれ。もちろん女の子たちに抱きしめられるのは自分が慕われていると実感できて嬉しいよ? だけど自分の身体のあらゆる部分が埋め尽くされているせいで、女の子たちの甘い匂いと熱い想いに圧し潰されてしまいそうだ。また熱上がるぞこれ……。

 

 

「ほら私たちも行くよ!」

「えっ、もう抱き着ける場所なんてないですけど……」

「大丈夫! 零さんの懐の広さなら9人くらい余裕余裕!」

「懐と言うより場所の問題だと思うけど……。でも、私も零さんに抱き着きたい! 元気になっておめでとうございますって言いたい!」

「歩夢さん!? み、皆さんがやるのであれば私も……」

「よし決まり!」

 

 

「お前らマジかよ!?」

 

 

 結局全員が参戦したせいで、誰がどこに抱き着いているのか全く分からなくなった。俺の身体の関節が変な方向に曲がっていてもおかしくねぇぞこれ……。

 ただ凄いことに、みんなの顔が全員分目視できる。さっきまで多少のポジション戦争はあったが、それでも俺に認識してもらえるように1人1人が配慮してこの配置となったのだろう。身体の肉付きが良いエマと彼方が枕になってくれて、身体が小柄なかすみや璃奈が手狭になる俺の肩~腕ポジションに陣取るなど、もはや事前に相談していたのかってくらいの完璧な陣形。これだけの人数でなくても一斉に抱き着かれることは過去に何度もあるので、コイツらも自分の適切なポジションがどこか分かってるのだろう。

 

 

「みんなにぎゅってされる気分はどうですか? 私もみんなもいくらでも抱きしめます。零さんになら、いつでも、どれだけでも」

 

 

 歩夢が問いかけてくる。

 ぶっちゃけると言葉にできないくらい気持ちいい。女の子特有の柔らかな身体で抱きしめられ、甘い香りが鼻腔を唆り、そして大好きを伝えてくれる。スクールアイドルとしてもそうだけど、一般女子の中でも最上級に位置する美少女たちにここまでの愛を受けるのは男としての自尊心も高まる。身体が震えるくらいに自分の立ち位置が最高級のものなんだと理解させられる。

 

 なるほど、秋葉が言っていた楽園ってこのことだったのか。もちろん分かってはいたけど、愛を受け止める器が大きくなった今だからこそ、これからもみんなからの愛を無尽蔵に受け入れて愛してもらう。そしてこちらからも愛する。終わることのない恋の連鎖。心を重ね合わせることも、唇を重ね合わせることも、身体を重ね合わせることも、心体全てを使って俺たちは愛し合っていく。誰にも邪魔されない無限の恋と愛。これが楽園なんだ。

 

 そんな快楽に浸っていると、部室のドアが開く音が聞こえた。

 

 

「あぁああああああああああっ!! みんなズルいわ! アタシを差し置いて零と愛し合っているだなんて!」

「いやさっき十分に甘えていたでしょう……」

「相変わらず騒がしいな……」

 

  

 ランジュたちが部室にやって来た。歩夢たちが隙間なく俺に抱き着いているせいで外からこっちは目視できないはずなのだが……まぁコイツらがこぞって抱き着く相手と言えば俺しかいないからすぐに分かるか。

 

 そして、もう1人――――

 

 

「はぁ……。お兄さんは結局お兄さんか。みんなもいつも抱き着いてるのによく飽きないね……」

「ねぇねぇ、侑ちゃんもこっちにおいでよ!」

「はぁ!? い、行かない!! それに、そういうのは2人きりでゆっくりとするものじゃん……」

「ん? 何か言った?」

「別に!!」

 

 

 部室内がより盛り上がる中、これにて楽園計画は完璧に成就された。

 新たに4人の女の子たちからの告白やキスを経て、俺も男としての器がまた広がった気がする。楽園のような幸せを感じられるからこそたくさんの女の子と恋愛するのはやめられないな。複数の女の子に手を出すクソやろうって思われてもいい、打算的な恋愛とか言われてもいい。たくさんの女の子を幸せにして、笑顔にして、そして相手から好かれまくって何物にも負けない優越感に浸る。国宝級の美女美少女に囲まれる最高の生活。これが俺の生き方。男として至福の幸福を手に入れる、それを叶える力が俺にはあるんだ、使わないと勿体ないだろう。

 

 

 これからも新しい女の子の出会いに期待しつつ、今は歩夢たちからの甘い恋慕に酔いしれ、楽園のトップとしての悦びに浸ろう。

 




 そんなわけで、今回が虹ヶ咲編2の最新回でした!

 以下、虹ヶ咲編2を完走しての私の感想を。

 これまでの章よりも短い話数での完結にはなりましたが、当初から予定していた栞子、ミア、ランジュとの恋模様、そして侑との関係のとりあえずの決着がつけられました。やりたいことが全部できたので、私的には大満足です!

 1つ心残りがあるとすれば、全体的な話数が少なかったために13人分の個人回を入れるとなると、それ以外の日常回があまり描けなかったことですかね。ハーレム描写もそこそこになってしまったので、せめてもの足掻きとして最終話はハーレム要素マシマシにしてみました(笑)
 そんな中でも新規キャラの栞子、ミア、ランジュは個人回も複数あり、メイン回も多くあったので、零君との関係性は皆さんの目に見える形で形成できていたかと思います。

 今回の虹ヶ咲編2ではキスがメインテーマとしていました。
 理由は歩夢たち初期キャラ9人の活躍の場を与えたかったからですね。歩夢たち9人は既に彼への好感度MAXで、しかも身体でやることもやっているのでもうこれ以上は日常回くらいしか活躍の場がないと思ったので、今回は零君のピンチをメインに取り入れた次第です。
 ただそれは表向きの理由で、実は前回で突如として行われた侑とのキスを描くためにこのテーマにしたってところが大きいです(笑)

 さて、これで虹ヶ咲編2は終わりとなります。
 恐らくアニメ3期が作られることはなく、これ以上メインキャラが増えるとも思えないので、虹ヶ咲単体で長編を作成するのはこれで終わりになりそうです。
一応今年に映画があるので、その内容次第では特別編で何か描くかもしれませんが、いったん虹ヶ咲の面々とはこれでお別れということで。

 そうは言いつつも1つ描きたいネタがあるので、次回は虹ヶ咲編2の特別編の予定です。ちょくちょく後書きに投稿していた『にじよん(この小説ver)』も、同時に来週完結予定です。

 そして4月からは新章突入ということで、是非ご期待ください!


 それではまだ特別編はありますが、虹ヶ咲編2の本編はこれにて終了です。
 皆さんここまでありがとうございました! また新章が投稿された際にはよろしくお願いいたします!

 今回分を含め、虹ヶ咲編2通してのご感想の投稿、および評価を入れてくださると嬉しいです!

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