「はぁ? 新入部員歓迎会をやりたい?」
「はい。きな子ちゃんたちが部に入ってから、そういったのやってなかったなぁ~と思いまして」
廊下を歩きながら、かのんがいきなり提案してくる。放課後にいきなり時間はあるかと聞かれたので何をしでかすのかと思ったが、どうやら相談事だったらしい。
もうすぐ秋が本格到来する中で、今年度も半分が経とうとしているため歓迎会など今更感が強い。ただ最後のメンバーである夏美が加入してまだ1ヶ月半くらいしか経っていないので、フルメンバーとなったLiellaとしての活動期間はそこまでだったりする。だから歓迎会を開くのは遅いってわけでもない。かのんはそれを言いたいのだろう。
「歓迎会っつったってなぁ、何すんだよ?」
「最近は体育祭や文化祭の準備とかで忙しいし、練習も本格化してきてあまり凝ったことはできないので、無難に料理を作ってパーティとかですかね」
「ま、好きにやればいいんじゃねぇの。いつやんのかは知らねぇけど」
「えぇっと、言いにくいんですけど――――今日です」
「はぁ!?」
かのんは申し訳なさそうな表情で爆弾発言をする。
コイツ、紛いなりにも顧問の俺に何の事前連絡もなく夜にするって正気かよ……。
「すみませんすみません!! ちぃちゃんとすみれちゃんと可可ちゃんが『どうせ先生は手伝ってくれないから、当日にドッキリのように伝えて逃げ場をなくせ』って……」
「アイツら俺をどんな目で見てんだよ……。てかお前が暴露する役を押し付けられたってことは、お前のお願いなら俺は言うことを聞いてくれると思われてんのか」
「安心してください! 私は先生の味方ですから! いつでも!」
なんかすげぇ真剣だな。かのんは他の奴らとは違って俺に若干依存気味な性格であり、何かと俺にアドバイスを求めてきたり同意を得ようとしてくる。顧問に相談するのは当たり前なんだろうけど、どうも俺の意見1つで自分の考えを変えてるような気がしてならなかったり。だからこそ俺に寄り添ってくるのか。ま、今はどうでもいいことか。
「それで……来てくれますか? 準備に……」
「心配しなくても行くよ。どれだけ俺を薄情な奴だと思い込んでんだお前ら……」
「ま、まぁ先生のこと色々知っちゃったので、色々と……」
苦笑するかのん。そりゃこちらの本性を晒してしまったからには、俺の表の顔も裏の顔も全てコイツに知られている。だからこそ俺が手を抜くときはとことんサボりたがる性格も熟知しているのだろう。一応明らかにヤバいと思われることはまだ喋ってなかったりするのだが、例えば妹とデキているみたいな俺の中でも社会常識を逸脱し過ぎて宇宙にすら飛び出しかねない事実とかな。
そんなこんな話している間に家庭科室に辿り着く。なにやらいい匂いが漂ってくるけど……。
「あっ、先生が来マシタ!」
「先生お疲れ様でーすっ!」
「かのんさんも、先生をお連れいただいてありがとうございます」
「料理作ってんのか?」
「えぇ、歓迎会用にね」
中に入ると2年生たちが料理作り真っ最中だった。しかも1人1つ作ってるようなので結構豪勢にやるようだ。一緒にいたかのんもエプロンを着てオーブンの様子を見に行った。どうやら焼いている時間を利用して俺を迎えに来たらしい。
それにしても―――――
「似合ってるな、エプロン」
「「「「「えっ!?」」」」」
「んだよその反応……」
みんな自分の料理に戻ったかと思えば、俺の言葉にまた全員の目がこちらに向いた。しかもコイツら特性である頬赤らめを携えて……。そんなドキドキさせること言ったか俺……?
「だ、誰のエプロンが一番似合っていると思いマスか……?」
「誰のって、制服の女の子がエプロンを着てキッチンに立ってる様は男なら惹かれるだろ」
「あぁ~そういう性癖の一般化はいいですから」
「具体的に誰のエプロンが」
「一番似合っているのか」
「答えなさいって言ってんの」
「なんでそんな食い気味なんだよ……」
なんか物凄く圧をかけてくる。別に最初から誰かを特定して褒めたわけではないんだけど、恋心に支配されているコイツらにとって俺の思わせぶりな言葉は良く響くらしい。それは今に始まったことではなく、特に俺の本性を打ち明けてからより一層その傾向が強くなった気がする。そのせいでこっちにその気はないのにやたらと妄想を広げて来るんだよな……。これだと1年生たちとそこまで恋愛レベル大差ないんじゃねぇか……?
「はぁ……。お前らも知ってるだろうけど、俺は誰が一番なんて決めねぇよ。全員が一番だ。それだけは圧をかけられても変えることはない」
「なるほど。やっぱりそう来ますよね、やっぱり」
「ま、アンタならそう言うわよね」
「なんだよ、悪いか」
「いえ、むしろ先生らしい答えが返って来たので安心したと言いますか」
「ここで誰か1人を選ぶことがあったら逆に怒っていたと言いますか」
「それこそ可可たちが尊敬する先生デス!」
なに? もしかして試されてるのか俺!? それともただ単にからかわれているだけなのか。やっぱりいくら歳を重ねても、いくら女の子たちと付き合おうとも女心ってのは複雑で分からない。女心を理解するのは男にとって永遠の課題なのかもしれない。
ただコイツらがさっきの問いかけをしてきた気持ちは分からなくもない。俺がどう答えるかなんてこっちの本性を知っているコイツらかしたら分かり切っているだろうが、それでも『みんな似合ってる』という言葉が俺の口から直接欲しいんだ。恋人同士でもよくあることだけど、お互いに好きと分かっていても相手に好きって言って欲しい気持ちと同じだな。
そんなこんなで本格的に料理に取り掛かった2年生。料理下手はいない(今のところそう見える)のか、みんなそれなりの手つきで作業を進めている。
そういや俺、なんのために呼ばれたんだ?? 理由は分からないがただ眺めているってだけでも暇なので、それぞれのキッチンを見て回ることにした。
「千砂都はいつも通りたこ焼き……じゃなくて、焼きそば?」
「はいっ。たこ焼きはみんないつもバイト先に食べに来てくれるので、せっかくの歓迎会だし別のモノがいいかなって思って」
「にしても、焼きそばを丸くする必要はねぇんじゃねぇか? お好み焼きみたいになってるぞ」
「いやぁ~やっぱり究極の丸を求めてこその私ですからね~。おぉ~いい丸型になってきた~♪」
ヘラを使って鉄板で焼いている焼きそばを丸の形にまとめていく千砂都。誰にだって特殊性癖みたいなものはあると思うが、ここまで丸いモノに執着する偏屈趣味は流石に驚かざるを得ない。たこ焼きを作ってる時も楽しそうにしており、時折熱が入り過ぎて眼がガンギマリになっていることもあり少々怖いのだが、それもそれでコイツの魅力だろう。丸いモノを見たときの無邪気な反応とか、自分で丸いモノを生み出している時の元気の良さとか、一緒にいて楽しい子だって思うよ。
「たこ焼きとか焼きそばとかお好み焼きとか、お前って屋台の定番料理がよく似合うよな。俺そういったジャンキーなの好きなんだよ」
「好き!?」
「えっ、なにその反応……」
「好き、好き、かぁ……。そういえばこうして並んで料理してるのって恋人っぽいかも……」
「おい」
「先生と一緒にキッチンカーで並べばお客さんに恋人同士って思われるのかな? 友達に恋人ってことを茶化されたりするかも?? それはそれで嬉しいけど、恥ずかしくなってたこ焼きを作る手が止まっちゃいそう……!! だけどバイトがクビになっても先生が貰ってくれればそれで……♪」
「聞こえてねぇな俺の声……」
好きって言ったのは料理の方であって千砂都ではないのだが、どうやら勝手に自分のことが好きと告白されたと勘違いしたらしい。しかも恋人同士になった妄想まで繰り広げてやがる。いやコイツのことは好きだけどさ、ちゃんと会話の文脈くらい読め。変にポジティブに思考をしてしまうコイツの性格は時にメリットで、時にデメリットだな……。
妄想はしているが手は動かしているので、この場は離れていいだろう。変なシチュエーションに巻き込まれる前に次の奴のところへ行こう。
「恋は――――卵焼きか?」
「はい。皆さんと比べて大したものではなくて申し訳ないのですが」
「いやそんなことねぇよ、って歓迎する側の俺が言うのもおかしいけどさ。でもお前って料理できたんだな。てっきりメイドのサヤに任せてるのかと思ってた」
「普段はそうなのですが、自分でも学んでおきたいと思いまして」
「へぇ、どうして?」
「そ、それは……」
ま~た顔を紅くして俯きやがった。なんかもうどんなことでも勝手に恋心がくすぐられるのな。だったらいくら言葉を選んでも意味ねぇじゃねぇか……。
恋の作っている卵焼きは至ってシンプルなモノだが、卵焼きなんてこれくらいがちょうどいいんだよ。大根おろしと醤油さえあればいくらでも食える。見た目もふっくらとしていて色も艶やかでぱっと見ミスをしているようには思えないが、どこか恥ずかしがる要素があるのだろうか?
「しょ、将来のために練習しておきたくて……。その……せ、先生はお料理が得意な方がお好きだと噂で聞きましたので……」
「噂ってどこ発信源だよ……。まぁ女の子の手料理は好きだけどさ」
「つまりお付き合いをしたら、先生に自分の手料理を振る舞うことも多くなるわけで……。先生の胃に入るものですから、それはもうたくさん練習をして、たくさんお褒めの言葉をいただけると嬉しいと言いますか。できれば一緒に隣に立ってくださると嬉しいと言いますか……」
「また自分の世界に入りやがった……」
出たよ得意技。ここまで自分の物語を妄想内で繰り広げられるのはある意味で才能かもしれない。ただ口に出してしまっているので、この音声を録音して後で聞かせたらどんな反応をするのか。それはそれで見てみたい気もする。
ていうかさ、キッチンで隣に立つ行為がお付き合いしてないとできないと思ってるのがもはや
脳内寸劇がまだ続きそうだから、こっそり次へ行こう。
「かのんはクッキーか」
「はい。恋ちゃんと同じで凝った料理はあまり作れないので、私も簡単なモノですけど」
「でも普通に上手くできてんじゃん」
「お店の手伝いでちょっと作ったことがあるので……」
「あぁ、お前んち喫茶店だもんな。でもお菓子作りができるって女子力が高い証拠だし、俺そういう子結構好きだけど―――――あっ」
「す、好き……!?」
やばっ、今回はナチュラルに地雷を踏み抜いてしまった。当然と言うべきか、かのんは俺から一歩後ろに離れてわなわなと取り乱す。耳の先っぽまで赤くして、こちらと目を合わせようとしない。
てか『好き』って言葉だけでここまで恥ずかしがれるのもやっぱり才能か。それとも俺が恋愛というものに慣れ過ぎて、何気ない言葉も普通の女子高生にとっては突き刺さるものなのかもしれない。いやそれでもコイツらが弱いだけのような気がするけど……。
「せ、先生!!」
「なんだ? 声の音量間違えてるぞ……」
「機会があればでいいので、え、えっと……またウチの喫茶店に来てください!!」
「いいけど、そんな覚悟を決めたように言わなくてもいつでも行ってやるって」
「そのためにはクッキーだけじゃなくてもっと他に作れるように勉強しないと……。せっかく先生が来てくれるんだから、カフェオレを入れる練習もして、しっかりおもてなしできるようにしないと。でも先生のために練習してるとか言ったら、お母さんとありあが絶対にからかってくるなぁ……うぅ……」
「もうツッコまないぞ……」
この5人の中でもかのんは特にこうなりがちだ。元々緊張しやすく優柔不断な性格で、自己評価も極端に低いため、そんな奴に恋心が目覚めれば悩みに悩みまくって妄想スパイラルに陥るのは当然ことだろう。昨年度の1年間スクールアイドルでステージに立って注目されることや、1人で歌う恐怖心もそれなりに克服したのに、こういった小心者な性格はいつまで経っても治らねぇな。それがコイツの持ち味なのかもしれないけどさ。
そんなわけでまだ目をぐるぐるさせて唸っているようなので、放っておいて次の子のところへと向かう。
隣のすみれのいるキッチンからは既にいい匂いが漂っていた。
「お前、もう完成したのか」
「えぇ。変に凝っても仕方ないしね。料理部の人に使っていい材料を聞いたから、それだけでパパっと作ったのよ」
「酢豚か。お前料理上手いんだな。めっちゃ美味そうだし」
「親が忙しい時も多いし、妹もいるから必然的にね。あっ、美味しそうだからってつまみ食いはダメよ。私が作ったんだから美味しいに決まってるけど、今日はあの子たちの歓迎会なんだから」
「ガキじゃあるまいし、んなこと分かってるよ」
相変わらず容姿は抜群にいいのに口は可愛くねぇなコイツ。ただ美人でスタイルも良くて料理も上手いという相当属性を盛っており、それに加えて姉だからか世話焼きで面倒見が良い。そんな子が手料理を振る舞ってくれるのであれば、男としてこれほど至高なことはないだろう。
「全く仕方ないわね。そんなに食べたいのなら食べさせてあげるわよ」
「いや何も言ってないが??」
「そ、そういう顔してたのよアンタ! ほら、食べなさい! 早く!」
「だからそんな食い気味じゃなくても――――んっ」
すみれに酢豚を摘まんだ箸を口に突っ込まれる。甘酢の程よい酸っぱさと厚みがあるけど柔らかい豚肉、そして食べ応えのあるピーマンと玉ねぎ。1つ1つの具材に絶妙な調理が施されており、ぶっちゃけこれだけで胃袋を掴まれてしまった。
味の感想を言おうとすみれの方を見てみたのだが、やはり食べさせる行為にそれなりの度胸があったようで、さっきまでの奴らと同じく頬を染めてブツブツと何かを呟いていた。
「さ、さっきのまるで恋人みたいじゃない!! 私ってば一体何を……!?!?」
恥ずかしいと思うのなら最初からやるなよな……。
ここで俺が声をかけても逆効果だろうし、最後に可可のところへ行って職員室に戻るとするか。
「って、コゲくさ!? なんだこの石炭は!?」
「ま、麻婆豆腐デス……」
「お前、やっぱ料理下手だったんだな。1人暮らしだろ? 飯はどうしてんだ?」
「ほんっっっっとうに簡単な即席モノなら少々。あとは外食したり、すみれがタッパーに手料理を詰めて持ってきてくれたり……。なのでこんな無様な醜態を晒すのは今回だけデス!!」
手と膝を床について絶望しながら叫ぶ可可。醜態を晒したのはサニパとの合宿の時もそうだった気がしたが、記憶から消してんのか……?
それに別に無様だとは思ってない。中には自分が料理下手だと気づいていない優木なんちゃらさんもいるし、しかも周りの奴らが謎の優しさで指摘しないせいでむしろ自分の料理が美味いと思い込んでる輩だから、ソイツに比べれば自覚しているだけまだマシだ。笑顔で汚物を食わせてくる奴ほど害悪な奴はいねぇからな……。
「先生は……料理が得意な女の子の方が好きなのデスか……?」
「えっ? 別にそんなことねぇよ。俺の知り合いの女の子の中でも料理苦手な奴たくさんいるしな」
「でも手料理を作ってくれたら嬉しいはずデス!!」
「そりゃ女の子から貰えるものはなんだって嬉しいだろ、男だったらな」
どうやら1人だけ料理ができないことを悔やんでいるようだ。まあそんな取柄がなくても苦手な分野に立つ必要はないんだし、別の何かを極めてもらえばいいと思うのだが、やっぱり女の子にとって料理ができないってのは気にするものなのか? いや女の子が料理好きってのは時代錯誤過ぎる発言だったか。ただ周りのみんなができて自分だけができないとなると、それなりに気にしたりするのだろう。
「決めマシタ! 今年の目標はラブライブ優勝に加え、料理の達人になることも追加しマス! 先生の舌を唸らせるまで朝昼晩毎日特訓デス!」
「いやスクールアイドルの練習もしろよ……。そんな目標を高くしなくても、食えるモノならいつでも貰うからさ。食えるモノならだけど」
「先生のお隣にいると決めた女子として、そんな中途半端な状態で食べてもらうなんてできマセン!」
「俺の隣って、そんな覚悟決めてたのか……?」
「へっ、あっ、そ、それは日本語で言うと言葉の綾というもので……!! うぐっ……可可、とりあえずケーキか何かおめでたいモノ買ってきマス!! それではまた後で!!」
「おいっ! 逃げやがった……」
可可は2年生の中でもかなり積極的な方で、俺と密着してもあまり取り乱さないので精神力は強い奴だ。ただ流石に恋人ってのを意識すると気になりまくるらしい。スクールアイドルとしてステージに立つ時は誰よりも堂々としてるのに、やっぱ恋ってのは心の強さに関わらず別種の刺激があるんだな。物理防御で固めているところに魔法攻撃を打たれるようなものだろう。
それにしても――――
「みんなまだ自分の世界に耽ってやがる……」
俺の本性を明かしてからもう半年くらい経ち、コイツらも本当の俺とのコミュニケーションに慣れてきたと思ったが、それどころかまず自分たちが恋愛下手だってことを自覚する方が先だな。大変だねぇ、恋する乙女って奴は……。
そして結局俺が呼ばれた理由は分からないままだった。もしかしたら手料理を味見してもらいたい、という考えがあったのかもしれない。コイツらの反応を見てるとそんな気がしてきたな……。
今回は2年生(1期生)編でした!
本編中にも零君が言っていましたが、かのんたちの恋愛レベルがあまりどころか全然変わってなかったです(笑) 彼が本性を現したこと、そして彼女たちがそれを知ったことで、逆に彼のことをもっと意識するようになったのだと思います。いつかまともな恋愛ストーリーを送れる日が来るのか、それとも恋愛クソ雑魚のままなのか、乞うご期待ということで!
そういえばラブライブ5代目である『蓮ノ空』もキャラとかストーリーとか、少しずつ勉強し始めています。スクフェス2も含めまだどちらもアプリは入れていないのですが、ストーリーの評判はいいっぽいのでそこらも含め参考がてら順次見ていこうと思います。
なんの参考にするのかは……内緒で(笑)