文化祭が迫る秋の中頃。生徒たちは皆それなりに浮足立っていた。文化祭と言えば学校行事の中でも青春ポイントの高いイベント。それ故に思春期女子のパリピ精神が掻き立てられるのだろう。
ただ、ここは女子高だ。つまり文化祭が持つ効果、『男女の距離接近』が使えないのは惜しいところ。人生の春とも呼ばれた思春期を過ごす女子が、この効果を活かすことができないのは大変勿体ない。そのせいなのかは知らないけど、最近やたら女の子たちが向ける俺に対する視線の熱量が半端な気がする。まあこの学校、男が俺しかいねぇしな……。
そんなわけで盛り上がりが上昇気流に乗る中、最近の結女の授業は文化祭の準備で時間が使われる日も多くなってきた。学校行事にも力を入れているこの学校だからこそだろう。
そして本日の夕方も授業がなく、文化祭準備の時間に割り当てられていた。
「テーブルゲーム部の人たちからお手製のすごろくを貰ったので、みんなでやってみまショウ!」
「なんなのよいきなり……」
スクールアイドル部の部室でステージの飾りつけを作っている最中、いきなり可可が入ってきてゲームの提案をしてきた。『リアル人生体験すごろく』と書かれた箱を持っている。
部屋にいるのは俺以外だとすみれと千砂都。すみれはいつもの可可の突拍子もない提案に呆れているが、千砂都はお祭りごと好きなのもあってか既に心が躍っているようだ・
「さっきテーブルゲーム部の友達からバランス調整をして欲しいと依頼され、試作のすごろくを頂いたのデス」
「遊んでいる場合じゃないでしょ。授業の代わりに準備の時間を与えられてるってのに、遊んでたら怒られるわよ。それに準備が長引けばそれだけスクールアイドルの練習の時間も減る。ラブライブまで期間に余裕があるわけないし、余計な時間を使うわけにはいかないの。はい、分かったら手を動かした動かした」
「もぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!! やりたいデスやりたいデスやりたいデスやりたいデスやりたいデス!!」
「だぁあああああああああああっ!? くっつくな!!」
「何やってんだよ……」
すみれの腰に絡みついて泣きつく可可。
普段はレスバトルしてるくせに、なんだかんだ仲いいよなコイツら。どうやらライブ衣装の参考にするため2人でウィンドウショッピングに行くこともあるらしいので、見た目ほど仲が悪くはないどころかもう友達以上の関係にしか見えねぇなこのスキンシップ。
「まぁまぁすみれちゃん、せっかくだしやってみようよ。部室だったら先生たちに怒られる心配もないしね」
「俺は先生じゃねぇのかよ……」
「だって先生ってむしろサボり容認派じゃないですか♪」
「そうだけど、笑顔で言われるとなんかムカつくな……」
千砂都の心をチクチク刺してくるような発言は2年生になっても健在だ。からかい上手なのは他の奴らに対しても同じだけど、俺に対してだけはやたらとネチネチ絡んでくる気がする。思春期特有の好きな子にはイジワルしたくなるあれか? それを教師に発揮するのもどうかと思うが。
「アンタ、部長のくせに甘いわよね。練習は鬼コーチになるくせに」
「やるときは徹底的にやるけど、休む時も徹底的に息抜きするタイプだからね。いいんじゃない、最近みんな授業と文化祭準備の連続で集中し過ぎてたし」
「ったくもう……。ちょっとだけよ」
「さっすが千砂都デス! 頼りになりマス!」
「そうでしょ~♪ 褒めたまえ褒めたまえ!」
なんなんだよこの茶番……。
「というわけで4人でやりまショウ!」
「えっ、俺もやんの?」
「当たり前デス。なんたって『リアル人生体験すごろく』、デスから!」
いつもの無邪気な笑み。だけど何か嫌な予感がするのは気のせいか……?
~※~
『リアル人生体験』なんて言い出すからどんな過酷なすごろくなのかと思ったら、中身は至って普通の人生ゲームのようだ。新卒社会人時代から老後時代までを駆け抜け、最後に持ってる資金が一番多い奴の勝ち。唯一普通の人生ゲームと違う点は、マスにイベントの内容が描かれておらず、止まったマスとサイコロの結果に応じてイベントが決まるということ。ここら辺はTRPGっぽさがあるな。
そんな感じでゲームスタート。新卒から開始されるため、最初はそれほどまでに金は稼げない緩やかな流れになるだろう。
そう思っていたが――――
「『ダンス大会で名声が上がる。10万円もらう』だって。おおっ、私にピッタリなイベント!」
「『エルチューバ―として成功。収益として50万円もらう』。ふふん、流石は私ね!」
「『SNSで不謹慎動画を投稿したことで炎上。罰金として30万円支払う』。ええぇえええっ!? 可可はそんなことしマセン!」
なんつうか、イベントが現代風だな。それ故に若い頃から一攫千金を稼ぐ手段も用意されてるってわけか。もちろん炎上騒動など人生が地に落ちるイベントも若い頃のマスから存在しており、まさにリアルな人生ゲームって感じだ。まあこんな大金が動きまくる波乱万丈な人生を送れる奴なんてほんの一握りだろうがな。
ちなみに俺が止まったマスはと言うと――――
『学生時代に付き合ってきた女性たちに貢がれる。30万円もらう』
『付き合っている女性たちの姉妹までもを恋人にする。人脈拡大カードをもらう』
『手に入れた女性の年齢層で「小学生」「中学生」「高校生」「大学生」「社会人」を全てをコンプリートする。実績カード、『ヤリチン』を手に入れる』
「なんだよこれ!? 全然リアルじゃねぇだろ!! アニメや漫画の世界かっつうの!!」
「いや、アンタにピッタリじゃない」
「まるで先生の人生そのものデス!」
「ゲームにまで自分と同じ人生を反映させるなんて、先生はどこまで行っても先生ですね」
「慰めになってねぇだろそれ……」
まさか人生ゲームですら自分のリアルと同じ人生を歩むことになるなんて……。
ただ流石にイベントの内容ほどクズな人生は送っていないはずだ。貢がれたと言えばお弁当を作ってもらったりしたけど、それはそれで可愛いものだろう。姉妹までをもモノにしたってのは、雪穂や亜里沙のことだろうか。そして年齢性は小学生~大学生の女の子たちとならそれなりに濃密な交流があった。確かに、こう振り返ってみると結構やることやってんなぁ俺。
そしてゲームは進み、すごろくも中盤戦。俺たちの駒はそれなりにいい大人となっている。
割といい感じのリアリティを演出するゲームに場が和気藹々とする中、千砂都が踏んだマスのイベントでみんなの顔色が変わった。
「こ、このマスは――――結婚イベント!?」
人生ゲームでありがちなイベント。結婚という言葉に敏感になるお年頃だとは思うが、これはたかがゲーム、そこまで気にすることでもない。
ただ、今回のすごろくでは事情が少し違った。
「結婚って、どうなるの……?」
「好きな男性プレイヤーを1人選んで結婚しマス。つまり今後は2人で1つの駒を動かして、資産も共有することになるのデス」
「ちょっ、それってマジモノの結婚じゃない。しかもここにいる男って……!!」
「先生と私が――――結婚!?」
千砂都の熱い視線が俺に浴びせられる。対して可可とすみれはさっきからずっと口をあんぐりと開けていた。
2人の駒が1つになり、資産も共有されて同じマスの効果も受けることなる。それはもう夫婦の共同生活そのもの、まさに結婚して添い遂げた状況となんら変わらない。ゲームだと分かっていても『結婚』というワード、そして結婚による共同作業のルールによって意識せざるを得なくなっているのだろう。
「やりましたね先生! 末永くよろしくお願いします」
「へ? いやゲームだからこれ。雰囲気出すぎだろ……」
「あっ、よく見たら他のプレーヤーは結婚したプレーヤーに5万円ずつお祝い金を渡すって書いてある。可可ちゃん、すみれちゃん、お願いね♪」
「千砂都、アンタ幸せオーラ振り撒きすぎよ……」
「なんか屈辱デス……」
好きだった男が別の女に取られてしまい悔しがるこの構図、本当にリアルでもありそうだな。ただそんなドロドロ展開は俺はゴメンだね。そうならないようにリアルでは上手く立ち回っているし、そもそも女の子たちが寛容なおかげで泥沼に陥ることもない。
しかし、今回の場合は――――
「えっ、『一番近くの女性プレイヤーと浮気する。お互いに浮気カードを入手し、これ以降、このカードを持っている男性プレイヤーは手に入れたお金の20%を浮気相手に渡す』だと!?」
「先生の一番近くにいるのは――――すみれ、デスね」
「そ、そんなヒドイ!? 私がいるのに浮気だなんて!」
「なにそのマジな反応!? これゲームだから! フィクションだから!」
「ふふん、先生も私の魅力の虜になっちゃったわけね」
「略奪愛なんてすみれらしいデス」
「なによ、蚊帳の外でヤキモチ?」
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ……」
どうすんだよこの状況。ゲームなのにマジになりすぎだろ。いや本気でやるのはいいんだけど、反応が結婚相手に浮気現場を目撃された状況とそんな変わらないので空気が重い。もはや金で勝敗が付くってルールすらも、そもそも金を稼ぐって目的すらも忘れそうになるくらいの展開だなこれ……。
「やっぱり先生は私が一番ってことよ」
「そんなことないよ! ねぇ先生!?」
「えっ? 誰が一番とか……。みんな大切っつうか……」
「今のはそういうのいいですから。私が一番と言うのであれば、私の好きなところを言ってください!」
「はぁ!? どうしてそうなる!?」
「結婚しているんですから当然ことです! ほらほら言ってくださいよぉ~!」
コイツ、さっきからやたらテンションが高いな。いつもそうなんだけど、ゲームとは言え俺と添い遂げられてそこまで嬉しいか。しかも好きなところを言い合うっていう付き合って月日の経った恋人みたいなことしやがって。
無視してゲームを進行したいのは山々だが、もう場の雰囲気が結婚相手と浮気相手の修羅場みたいになっており、どうにも逃げることは許されないらしい。仕方ない。
「子供っぽいながらも、部長としてみんなを引っ張る責任感があるところ。明朗快活で笑顔が絶えないところ。素直になれないから、からかうことで俺と距離を詰めようとする可愛いところ。あとは――――」
「も、もういい!! もういいですからぁ……。1つだけだと思ってたからビックリしちゃった……」
「千砂都、顔真っ赤デス」
手で自分の顔面を覆い隠す千砂都。だがそれでも顔の赤さは指の間から丸分かりで、もはや隠し切れていない。
それにしても、自分で褒めろとせがんで来たのにその通りに実行したらこれかよ。やっぱりからかってくるのは一種の強がりなのかもしれないな。
「このままだと可可だけ男なしの人生になってしまいマス。そんな色のない人生は絶対に嫌デス。だからここでいいイベントを引かないと……」
「そう簡単に引けるわけないでしょ」
「あっ、来た。『男性プレイヤー1人を選ぶ。その男性プレイヤーに不倫をされる。お互いに不倫カードを手に入れる』。らしいデス! 来マシタ来マシタ! これで可可も先生と肉体関係を持つことができマシタ!」
「大声でなに喜んでんだお前!?」
「そ、そんな、私がいるのに今度は不倫!?」
「浮気相手っていう遊び相手がいるのに不倫とか、度胸あるわねアンタ!」
「なぜ俺が怒られる!?」
イベントの内容的には怒られて当然なんだけど、なんか理不尽に思えるんだよなぁ……。
そしてこれで俺には結婚相手、浮気相手、不倫相手の3人が存在することになった。もうドロドロ展開の中の沼の底に到達した感じがする。こんな男がいたら速攻で誰かに刺されるだろ……。
ちなみに浮気と不倫の定義だが、不倫は結婚相手とは別の女性と肉体関係を持つまでに至ったことを指す場合が多いが、浮気は浮気ボーダーという言葉がある通り人それぞれ。結婚前で付き合っているカップルであろうともその言葉を使う機会はあるだろうし、結婚後も相手に隠れて他の異性と飯を食いに行っていたとかでも浮気になりえる。まあどちらにせよ冷たい目で見られる行動だな。
「いやぁ~不倫しちゃいマシタねぇ~先生♪」
「なんでそんな嬉しそうなんだよ……。結婚相手が目の前にいるってのに……」
「これが噂に聞く『寝取り』ジャンル!? カルト的な人気のあるジャンルだとは聞いていマシタが、この略奪愛、クセになりそうデス……」
「実際に脳内麻薬の分泌が凄いらしいわね、寝取り寝取られって」
「ダメダメダメ! 先生は絶対にそんなことで靡かないから! ねぇ先生!? 寝取りより純愛派ですよね!?」
「教師に向かって性癖を試す質問をすんじゃねぇよ……」
もしそれで俺が寝取り好きとか言ったらどうすんだ? まあ俺はそういった略奪愛には興味がないから安心させることはできるが、みんなのテンションがおかしな方向に上がっているこの状況、もうどんな回答をしようともどこかで火が上がるのは目に見えて分かる。浮気や不倫の言い訳現場ってこんな感じなんだろうか。ゲームと言えどもこんなドロドロなリアリティは体験したくねぇって思うよ。もちろんリアルでも。
「なんとしても先生の愛を取り戻して見せる。何かいいイベント来て……!!」
「もう昼ドラもビックリの展開だな……」
「えっ、き、来た!! 出産イベントですよ先生!!」
「マジかよ。そんなのもあるのか」
「私と先生の子供ですよ! やっぱり先生が一番愛してくれていたのは私だったんだ……!」
「なんでちょっと涙流してんだ……」
本当に子供ができたかのように喜んでやがる。ゲームでここまで幸せの絶頂を体験できるのは凄い。ゲームの作者に感情をコントロールされているようでちょっと怖いけど。
そんな幸福に浸る千砂都だったが、他の2人の目は明らかに穏やかではなかった。
「ゲームを続けるわよ! 私だってこのまま黙って見てるだけじゃ――――あっ、私も出産マス! 浮気カードを持ってるから、浮気相手との子供ができるわ!」
「えぇっ!? 先生、まさか結婚相手の私を裏切って……!?」
「ゲームの話だろ!?」
「ぐぬぬ、だったら可可も――――よしっ、可可も出産マスに止まりマシタ! 不倫カードを持っているので、不倫相手との赤ちゃんができマス! しかもイベント報酬2倍ボーナスで赤ちゃん2人! 双子! 双子デスよ先生!」
「先生のヤリチン! ハッスルし過ぎ!!」
「だからゲームの話だろ落ち着け!!」
混沌とし過ぎてきてもう何が何やら……。片や俺のヤリチン具合を非難してくるし、片や浮気している相手との赤ちゃんができて喜び、片やソシャゲのイベント期間かと言わんばかりの赤ちゃんボーナス2倍に嬉々としている。これ、どう収拾つけんの??
そうか、ゴールすればいいのか。まだ終盤に差し掛かる少し前だけど、ここまで溜め込んで来たサイコロを振る回数を増やすカードを1ターンに一気に使えばもしかして。このままチマチマと進めていたら何度もまた昼ドラ展開を見せつけられるだけだし、ここでもうこの血生臭い関係を終わらせてやろう。
そして俺の番にサイコロプラスのカードを使用し、サイコロを一気に振る。
結果は――――
「ゴール! 先生が一着でゴールデス!」
無事に完走。ゲーム中は毎ターン毎ターン何かしら修羅場イベントが発生していたため、ようやくこれで爛れた女性関係を解消できるようになった。別に自分が浮気してたり不倫してたわけじゃないのにこの疲労感は一体なんなんだよ……。
もちろん、それはみんなも同じのようだ。
「なんか、息抜きの予定だったのに余計に疲れたわね……」
「大声を出し過ぎたせいで喉が少し痛いデス……」
「私、とんでもないことばかり言ってたような気が……」
賢者モードになっていた。周りの人が聞いたら誤解されかねないことを大声で連発していたので、また新しい黒歴史が刻まれそうになったのは言うまでもない。
「そういえば、先生って文化祭は誰かと一緒に回るんですか?」
「いや別に。やることと言ったら見回りくらいだ。文化祭のメインは生徒で、教師はあまりすることがないからな」
「そっか、じゃあ時間があったら一緒に回りましょう!」
「ま、別にいいけど」
「千砂都だけズルいわよ! 浮気相手として、私を誘わない手はないでしょ!」
「浮気相手だから隠すんじゃねぇのか……」
「だったら不倫相手の可可だって、先生と回る権利はありマス!」
「てかその設定生きてんのかよ!? 絶対部室の外で言うなよ!?」
そんな感じで文化祭の予定を無理矢理埋められた。
一緒に回るのはいいけど、下手に俺の取り合いになって、その設定を大声で連呼されるのだけは防がないと……。
実際に零君はゲームであっても自然とハーレムを築いてしまう、そんな天の恵みの下で生きています。
そういえば、この小説を書いている間にLiella3期生のお披露目生放送があったみたいで。アニメがいつになるのかはまだ不明のようですが、とりあえずこの小説のLiella編2期が終わるまで待って欲しい……。虹ヶ咲編2が終わって、ようやく小説がリアルに追いついてきたので(笑)