さて、この状況をどうしようか。
ピンクのライトだけが照らされる暗い部屋。その部屋の面積の大半を奪っている大きなベッド。ラブホテルかと言わんばかりの淫猥な雰囲気である。
俺は右手首に手錠をかけられてベッドの背もたれの支柱に繋がれている。そして俺を馬乗りにしている女子生徒、七草七海はしたり顔でこちらを見つめていた。
少しばかり気絶していたっぽいのでどれくらいの時間が経ったのかは不明だが、どうやら恋と夏美と別れた後すぐに気を失ってしまったらしい。目の前にいるコイツによってだ。後ろから声をかけられたと思ったら、振り向いて相手を視認した瞬間に気絶させられてしまった。まるでシークレットサービス並の早業で、もはや抵抗すらできなかった。
そして、こうして他の誰もいない2人きりの部屋に拘束されているわけだ。
「質問、3つだけ聞いたげる。正直もう我慢できなくて襲っちゃいそうだけど、無理矢理連れ去っちゃったお詫びはしてあげるよ」
親指、人差し指、中指を立てて微笑む七草。自分が圧倒的優位に立っているのでちょっと遊んでも大丈夫と思っているのだろう。
七草七海。2年生でかのんや可可とは連続で同じクラスで親友。必然的に俺のクラスの生徒でもある。明るい笑顔と活発な性格で人当たりも良い人気者。色々な部活動の助っ人をしては成果を出すので生徒たちだけではなく教師からも信頼が厚い。それでいて勉強もスポーツも万能で、虹ヶ咲の愛と並んで文武両道って言葉が似合う女の子だ。
そして、抜群の美少女。背は低く幼い顔付きだが、出ているところはしっかり出ているいわゆるロリ巨乳。紫がかった赤色の髪のツインテールで、制服は程よく着崩してイマドキ女子をアピールしている。
ただ、去年はこうではなかった。髪も三つ編みで制服もしっかり着こなしており、美少女は美少女だったがそもそもこの学校の生徒のレベル平均が高いため、そこまで大きく目立った存在ではなかったんだ。どちらかと言えばモブよりで、俺もかのんたちスクールアイドルを手助けするサポーターの1人程度の認識だった。
しかし、今年になって彼女は変わった。先程の通り見た目やオシャレにも気を配ったのか、ツインテロリ巨乳美少女という男にモテる要素しかない最強の女の子となったのだ。しかも時折見せる笑顔は蠱惑的で悪戯で、俺を見つめるその視線は熱く、それでいて誘惑されているかのよう。そんな風貌と言動から、オタク界隈で名が通っているいわゆるメスガキっぽさが滲みに滲み出ていた。
「あれぇ~? もう諦めちゃった感じ? もっと動揺するかと思ってたのに、意外と冷静なんだねセンセー」
人を小馬鹿にするような口調でニヤけ顔になる七草。
動揺するも何も、こんなの動揺するに決まってるだろ。顔には出さないが、ぶっちゃけ何が起こっているのか1ミリも分からない。分からなさ過ぎて何も反応できないだけだ。
とりあえず、変に気を逆立てないように質問してみるか。
「ここはどこなんだ? 学校?」
「学校の空き教室だよ。とは言っても隠されてるから、普通だと気付かない場所だけどね」
「なるほど、文化祭の準備を放ってここの準備をしてたってわけか。どうりでウチのクラスに全然いなかったわけだ」
「そうだね。私は信頼されてるから、多分みんな他の教室や部活のお手伝いに行ってると勝手に解釈してたんじゃないかな」
1年半もかけて信頼を築き上げてきた結果ってことか。かなり回りくどい作戦だが、隠れ空き教室に忍び込み、そしてビッグサイズベッドを設置するなんて大がかりなこと、普通だったら確実バレる。ただ信頼され過ぎているが故に、自分がちょっと準備をサボっても疑われないし、咎められることもないのだろう。
「あぁ~もう興奮が収まらないや。あと1つね、質問」
「理不尽な理由で1つ減らすなよ……」
「分かってないなぁ~センセー。この場を支配してるのは私なんだよ? むしろ溢れ出る恋心を抑えに抑え込んで譲歩してるくらいなんだから、感謝して欲しいくらい」
恋心ってマジかよ。2年生になってから俺を見る目が獲物を捉えんとするメスの目をしていたのでまさかとは思っていたが、ここまで肉食系だとは思ってなかったぞ……。
七草は目を細めて怪しく微笑む。心待ちにしていたのだろう、この瞬間を。俺を捕捉し、自分の好き勝手にできるこの時を。1年以上も準備をかけて、ずっと。
「文化祭なんて生温い。本当の文化祭、そう、『裏文化祭』の始まりだよ、センセー♪」
~※~
「お~いっ、恋ちゃ~んっ!」
「かのんさん。こっちです」
澁谷かのんです。
自分のクラスに戻って裏方作業をしていたら、急に恋ちゃんに呼ばれたので科学室の前までやって来た。その理由を電話口で聞かされた時は半信半疑だったけど、恋ちゃんの心配そうな顔を実際に見ると事はそう小さいものではないことが分かる。一緒にいる夏美ちゃんも同じ面持ちだった。
「先生がいなくなったって本当?」
「はい。私と夏美さんが四季さんの発明品のチェックをしている間に、先生が近くの教室の見回りをするはずだったのですが、どうやらいらっしゃらなくなってしまったみたいで。近くの教室の方々も先生の姿は見ていないと……」
「携帯に連絡してみた?」
「何度もしましたの。でも電源を切っているみたいで、全然繋がらないんですの」
「う~ん……」
事は先生の行方不明。話を聞いた時は思わず『えっ!?』と大きな声をあげちゃったけど、よく考えてみたら先生が神出鬼没なのは今に始まったことじゃないんだよね。私たちが困っていたり悩んだりしているといつの間にか隣にいるし、逆にこちらから頼み事をしようと思って探そうとすると簡単に見つからない。やるべき時とサボる時の両立が非常に上手い人で、それは学生時代からそうだったみたい。
だから、行方不明とは言ってもどこかで休んでいるんじゃないかと思う。それにたくさんの女の子と別々の時間で文化祭を回る予定を立てているようなので、見回りの仕事も含めたらそりゃ疲れちゃうよねって話。午前中だけでも私たちが連れ回していたのもあってほぼフル稼働だったみたいだし、むしろ余計な詮索はせずに休ませてあげたらいいのかな……?
「そういえば、このことは他の先生には言ったの?」
「いえ、それはまだです。行方不明とは大袈裟に言いましたが、お疲れになってどこかで休んでいる可能性もありますので」
「それでも私たちに何の連絡もないのはおかしいのですの」
「だよねぇ……」
ただ単に誰にも見つかりたくないから? でも何も言わない方が心配されて連絡される気もする。それに今回は後で合流すると自分から恋ちゃんと夏美ちゃんに言ってたみたいだし、唐突にいなくなるのは流石に不自然かも。ちょっといい加減なところもある先生だけど、私たちに迷惑をかけることだけはしない人だと思うから。
「一応、さっきLiellaのグループチャットの方だけには連絡しておきました。ただ、行方不明が確定事項ではないので事を荒立てぬよう、自分のクラスの仕事をしながら合間合間で何か情報収集をしていただければとお願いしています」
グループチャットを見てみると、やはり突然失踪した先生を心配する声ばかりが上がっていた。流石にインパクトが大きかったのか、可可ちゃんとかコスプレ喫茶のシフトを抜け出してまで探しに行こうとしていたみたい。だけど失踪が確定していない以上余計な騒ぎになるといけないので、今シフト中の人たちには来店した生徒や教師など学校関係者たちに先生を見ていないか、それとなく聞き出す役に徹して欲しいと恋ちゃんが頼んでいる。
「ん?」
「どうしたの夏美ちゃん?」
夏美ちゃんが廊下の端に駆け寄ると、しゃがんで床に落ちていたモノを拾い上げる。
「これは腕時計、ですの」
夏美ちゃんが拾ったのはそこそこいい値段がしそうなシルバーの腕時計だった。
ぱっと見だと今日ここに来た来場客の誰かが落としたものと思うかもしれないけど、私たちにはそれに見覚えがあった。
「これって先生の、だよね?」
「そうですね。いつも身に着けているのを見ているので、間違いないと思います。ですが何故こんなところに?」
「そもそもの話、手首に巻き付いている腕時計が落ちるなんて考えづらいですの」
「確かに、バンドが緩んでるとかじゃない限り、自分から意図的に外さないと落とさないよね……」
ポケットから取り出す時に自然と落ちる、ようなモノではない。ということは先生が故意にこれを落としたってことかな。でもどうしてそんなことを……?
「貸して」
「「「ひゃああっっ!?」」」
後ろから突然話しかけられて、私たちは奇声を上げるとともに身体が飛び上がりそうになってしまう。
振り返ってみると、相変わらず表情変化のない四季ちゃんがこちら、というより夏美ちゃんが持っている腕時計を見つめていた。そしてゆっくりとそれに手を伸ばして奪い去る。腕時計の全体を見回しているみたいだけど、一体何をしてるんだろう……。
「これ、本当に先生の?」
「多分そうですの。この廊下を通って、かつ同じ時計を持っている人なんて確率なんて低いと思いますの」
「そう。だったら分かるかもしれない、先生の居場所」
「「「えっ!?」」」
「これを使う」
「「それは……!?」」
「えっ、なに??」
四季ちゃんの自信に驚く私たちだけど、いつの間にか背後に設置されれていた謎の装置を見て納得をする恋ちゃんと夏美ちゃん。つまりこの状況で置いてけぼりなのは私だけで、一体なにをどうしたら先生の居場所が分かるのか全く分からない。
「えぇっと、説明してもらってもいいかな?」
「この後ろの装置は、人の髪の毛1本や粘液1滴があれば、その人が半径300m以内にいるかを探知できる。つまり普段使いしている腕時計であれば先生の油が付着しているはずだから、それを媒体として探知することが可能」
「なにそれ。ストーカー用……?」
「なので生徒会として出展は見送りにさせていただきました」
「でもここで活躍したら、その功績を讃えて出展させて欲しい」
「それは……考えておきます」
先生は見つけたいけど、ストーカー御用達の発明品は世に送り出したくないという恋ちゃんのジレンマを感じる。そもそもどういう原理で人の探索ができるのか分からない装置を作れる四季ちゃんも凄い。なんか秋葉さんに色々学んだことがあるとか言ってたし、変な悪影響を受けてる気がする……。
それはさて置き、先生が身に常に着けているモノであれば、そこに付着している痕跡から居場所を追跡できるらしい。つまりその腕時計ってことだけど、そうなれば話は早い。これで先生がどこかで休んでいるなどで簡単に見つかれば良かった良かっただし、いなければそれを証拠に正式に他の先生たちに捜索を頼むことができる。前者で杞憂に終わってくれればそれでいいけど……。
「腕時計をこのビーカーの中に入れて――――うん、これでOK」
「でもこれ、半径300m以内にいる場合しか見つけられませんの」
「学校の敷地はそう広くない。それにここは敷地の中心に近いところだし、300mでも十分のはず」
「しかし、まさかこの犯罪の機械が役に立つ時が来るとは思いませんでした」
「モノは使いよう。それに漫画やアニメでも悪と言われているキャラが、ふとした理由で正義に振る舞うダークヒーロー的な立ち位置になることも珍しくない。それと同じ」
「普段は悪って認めちゃうんだ……」
ストーカー御用達っていうもあながち間違いじゃないって言うか、本人もその認識だったんだね……。
そんな感じでビーカーに入れた腕時計が緑色の発光した溶液に浸けられる。壊れちゃいそうで心配になるけど、そんなことを他所に機械の取り付けられているモニターにレーダーのようなものが映し出された。赤い丸が点滅している箇所、ここに先生がいるってこと……?
「意外と近くにいる」
「じゃあまだ学校内にいるってことですの」
「だとしたら校内のどこかで休んでいる、ってことかな?」
「しかし、この先には出し物をやっている教室はないはずです。休めるところもない気がしますが……」
確かにそうだ。文化祭とは言ってももちろん学校全体を好きに行き来できるわけではなく、来場客の立ち入りを禁止している箇所もある。このレーダーっぽいのが差しているのはまさしくその場所で、文化祭の見回りを仕事にしている先生が人のいないところにいるのは考えづらい。でもレーダーを見るとここにいることになってるし、一体どういうことなの……?
「案内して、そこに」
またしても後ろから誰かに話しかけられ、私たちの身体がビクッと跳ねる。
意志の強い女性の声。どこかで聞いたことがあると思って振り返ってみると――――
「ウィーン、マルガレーテさん……?」
~※~
裏文化祭、と言ったか。R-18系によくある文化祭の裏でヤることを目的とした、誰も来ない廃校舎や空き教室で行われるイベント。七草の奴、ここでおっぱじめる気じゃねぇだろうな……。
とりあえず、あと1つ好きな質問をしていいらしいから時間を少しでも引き延ばすか。本当は後2つなんだけど、既に性欲が滾っているようで焦らされている。俺に馬乗りになっているコイツが体位的にも立場的にも有利であるため、下手に暴れると即挿入みたいな自体になりかねない。それくらいコイツの顔は誘惑と悪戯に染まっていた。
「せんせぇ~。質問するなら早くぅ~」
「一応言っておくけど、片腕しか封じられてないから抵抗することはできるんだぞ?」
「それで勝てると思ってるんだ、可愛いねセンセー♪ 私、結構強いよ? しゅっ、しゅっ」
俺の目の前に拳を突き出してシャドーボクシングをする七草。鼻尖に当たりそうでちょっと怖い。
どうやら俺に無理矢理抵抗されても抑えつけられるらしい。小柄で女の子のコイツに大人の男性を制圧するのは難しいと思うが、正直本性を垣間見れたことで底が知れなくなっているため油断はできない。
「それにさぁ、先生は女の子に手出しできないでしょ? 女の子の笑顔を守るのが夢で、どれだけ自分のことを傷つける女の子であっても、自分から傷つけることはないもんね」
「よく知ってるな、そんなこと」
「そりゃ分かるよ、ずっと好きだったもん」
「ずっと? 1年生の頃からか?」
「ずっとはずっとだよ」
何やら含みのある言い方。もしかしてずっと前から俺のこと知っている系女子か? 虹ヶ咲の歩夢たちみたいに、俺の知らないところで勝手に俺の存在が知れ渡っている可能性はある。そういう時って大体
とにかく、服をひん剥かれる前に質問を投げて時間を稼ごう。そうすればアイツらが捜してくれるはずだ。あからさまに手がかりを残しておいたからあまり時間はかからねぇとは思うんだど……。
「質問。お前の目的はなんだ? 今やろうとしてることみたいに、俺と1つになることか?」
「う~ん、それは結果かなぁ~」
唇の下に人差し指をあって考える素振りを見せる七草。その仕草だけを見れば可愛いんだけど、やってることが痴女過ぎて警戒は怠れない。俺を連れ込んだ手際の良さを考えるに、油断をしていたらお互いに裸になって即合体の展開も余裕であり得るからな……。
「これも好きな先生を手に入れるためだよ。澁谷ちゃんたちがウジウジし過ぎて見てられないから、もう私が貰っちゃおうと思ってね♪」
「そのためにここまで……? でもかのんたちって、お前アイツらのこと応援してなかったか?」
コイツはかのんたちが俺のことを好きなのを知っている。だからそのことをからかったりもしていたし、同時に応援もしていたはずだ。この前の新生徒会の顔合わせの時だってかのんたちの恋心を巧みに引き出そうとしていた。
つまり、いつまで経ってもアクションを起こさないかのんたちを見かねたってことか。自分も好きだけど敢えて一歩引いて応援していたのに、親友や後輩たちが中々動かないせいで業を煮やした。いつしかそのストレスが嫉妬に代わって、略奪愛に目覚めた……とか?
完全に俺の想像だけど、それは今から彼女の口から語られるだろう。
「私の方が先に好きになったのにね。それなのにわざわざサポートに回ってあげて、あれだけお膳立てしたっていうのにまだウジウジ悩んでさ。後輩ちゃんたちならまだしも、澁谷ちゃんたちに至っては1年半も前から背中を押してあげてるのにこのザマだよ」
「それで嫉妬したってことか?」
「まさか、そんなことするわけないじゃん。嫉妬も喧嘩も、同じレベルでしか起こらないんだよ」
「じゃあお前はアイツらより上だってのか?」
「そりゃそうでしょ」
悪戯な微笑みを魅せる七草七海。言動から薄々感じていたが、ナチュラルにアイツらのことを見下していたのか。確かにアイツらは恋愛事に関して弱く、奥手で中々自分から一歩を踏み出せない。ただ文化祭デートに誘ってくるくらいには成長してるし、それはコイツが発破をかけたからだと思っている。でもコイツからしたらそれすら生温いのだろう。
「でもどうしてわざわざかのんたちの後押しをしたんだ? 俺のことが好きなんだったら、最初から俺にだけ狙いを定めればいいだろ」
「しぃ~。質問し過ぎだよ、センセー。もうとっくに3つ超えちゃってる。このまま黙って私を受け入れればいいんだよ。どうせセンセーは抵抗できないしね」
「やろうと思えばできるけどな」
「強がっちゃって。できないでしょ? μ'sの人たちとあんなことがあったり、スクフェスで自分の過去を思い出したり、自分の行動理念が固まった瞬間がたくさんあったもんね♪」
「お前、どうしてそれを……!?」
目を細め、にんまりと怪しい笑みを浮かべる七草。
何故俺の経験を知っているのか。その腹の内はまだまだ底が見えそうになかった。
恋敵が登場ってこの小説で初めてかもしれない。楓の初期時代はそんな感じだったので、それを思い出すかもしれません。ただシリアス展開にはならない予定です。
それにしても、アニメではただのモブキャラの七草ちゃんをここまで設定を肉付けしてしまって、アニメ3期で何か設定が加えられたらどうしようって思います(笑)
そして前書きにも書きましたが、文化祭編はストーリー主体なので、いつもの日常回を期待してくださる方はもう少しお待ちください!
恐らく文化祭編はあと2話で終わる予定です。愛しの先生を狙って先に動いてきた女の子の登場で、急げLiella! ということで、次回もよろしくお願いします。