ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

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恋色渦巻く文化祭(閉幕)

 七草とウィーンの衝撃告白から幾ばくかの時間が経った。

 俺は手錠を外され無事に薄暗い監禁場所から救出され、しばらくぶりに日差しを拝むことができた。七草も流石にみんなに見られているあの状況で強行策に出ることはできなかったようで、諦めながらも解放してくれたのはありがたかったな。言動は破天荒だけど、自我を保っていて冷静ではあるのでヤンデレの類ではないだろう。もう病んでる奴を相手にするのは勘弁だからなこっちも……。

 

 しかし、今回の件はただ七草が暴走しただけ、という後に笑い話にできるお騒がせ事件って枠には収まっていない。七草とウィーンが俺を手に入れるために奮闘している以上、かのんたちはもう俺の近くにいる女の子というポジションに甘えてはいられないからだ。もちろん本人たちにそんな気持ちはないと思うが、恋のライバルが現れた以上これまでのように恋愛弱者を発症している場合ではない。彼女たちも変わらなければならない時が来たんだ。かのんたち2年生はまだしも、今年入学のきな子たちにしてみればかなり理不尽な要求だけど……。

 

 そんな中で俺に出来ること。ぶっちゃけて言えばただ待っているだけでいいポジションなので何もする必要はないのだが、アイツらもいきなりの急展開に戸惑うしかないと思うので、ある程度はこちらから先導してやった方がいいだろう。元々文化祭に誘われた時からそのつもりだったしな。

 

 そして文化祭2日間の内、自分の仕事がない時は出来る限りLiellaの面々と文化祭を回った。七草に監禁されていた時間は俺の仕事時間だったので、当初計画していたアイツらとの時間を削られることはなかった。

 ただ、俺に対するアプローチが明確な七草やウィーンを見てアイツらも思うところがあったのか、今まで以上に露骨に赤面したり恥ずかしがったりと、俺を明確に意識するような言動が見られた。文化祭の青春効果で今にも告白してきそうなくらい恋する乙女と化していたのだが、当然ながらそこまでには至っていない。それでも今まではそういった甘酸っぱい雰囲気になることすらなかったので、彼女たちの中で関係性を進展したいという気持ちが芽生えたのは確かなようだ。

 

 そんなこんなあって、2日あった文化祭も最後のプログラムを残すのみとなった。

 キャンプファイヤー。女子高のためお付き合いのある男女がダンスをしたり、燃え盛る炎の前で手を繋いで感傷に浸るみたいなことはないものの、文化祭を締めくくる定番のイベントなので、思い出を作るために友達と一緒に来たり、写真でこの光景を残している子は多い。

 

 俺は誰にも見つからない中庭の端に座り、夜のキャンプファイヤーを楽しむ女の子たちを眺めていた。

 ぶっちゃけて言えば、この2日は結構疲れた。監禁されたのもそうだし、これだけ短時間に色んな女の子たちとデートするなんて最近はなかったからな。それでもなんだかんだ楽しかったので文句は一切ない。

 

 

「せんせ~!」

 

 

「ん?」

 

 

 誰にも見つからないよう気配を消していたのだが、あっさりときな子たち1年生に見つかった。

 

 

「先生どうしてこんな隅っこにいるんすか?」

「休んでただけだよ。お前らこそ、キャンプファイヤーはいいのか?」

「さっき近くで見てきたから大丈夫」

「思い出写真もたくさん撮りましたの」

「だから私たちもちょっと休憩。色々考えることありすぎて疲れたんだ」

 

 

 まあ自分が初めて好きになった男が別の女に取られそうってなったら、そりゃ戸惑うわな。

 ちなみに、監禁現場でコイツらに俺の過去を説明したのだが、その後に俺の本性も1から10まで説明しておいた。μ'sやAqours、虹ヶ咲と言った色んな女の子たちと関係を持っていること、2年生たちは既にそれを知っていることも。

 好きな男が実はたくさんの女と繋がっていると知った時に驚いてドン引きされるかと思っていたが、意外にも反応は淡泊だった。ただそれは浮気野郎を受け入れたのではなく、ただ単に混乱しているが故に脳内整理ができていないだけだったのだろう。かのんたちもそうだったしな。

 

 ただ、そんな俺の本性を明かされた後もコイツらは俺と一緒に文化祭を回っていた。俺が最低な人間かどうか見定めているのか、それとももう受け入れたのか、メイが『色々感がることがあるから疲れた』って言っていたのも無理はないな。

 

 

「そういやかのんたちはどうした? 一緒じゃないのか?」

「先輩たちはウィーンさんを見送りに行ってるっす」

「あぁ、もしかして俺も行った方が良かったのか……?」

「いや、あの人うわ言のように『好きって言ってしまった好きって言ってしまった好きって言ってしまった』って言ってたし、むしろ行かなくて良かったんじゃねーか」

 

 

 ウィーン・マルガレーテ。まさか俺に会いに来るためにわざわざこの文化祭に来てたとは思わなかった。最初に会った時には持ち前のクールさを崩さんとばかりに取り乱していたけど、そりゃ俺が目的でここに来たんだったらそうもなるか。

 しかもさっきの監禁現場でしれっと『俺のことが好き』と告白してたので、想いを伝えるのは緊張するものの口に出すのは惜しまないタイプらしい。その点はコイツらと真逆。些細な差に見えるが、告白の一歩を踏み出せるかの意識があるのとないのでは雲泥の差だ。そういった意味では直接好意を伝えてくる七草やウィーンの方が、コイツらよりも圧倒的に恋愛に強く、何歩も先へ進んでいる。

 

 そう考えると、初めての恋愛なのにいきなり障害にぶち当たるって凄い経験だよな。他人事みたいに言ってるけど、これまで色んな女の子と付き合ってきた俺なら多少はみんなの気持ちは分かる。別に七草やウィーンがコイツらの邪魔しようとしているわけではないと思うが、それでもああやって別の女が自分より先に好きな人に告白したとしたら、少なからず焦らざるを得ないだろう。

 

 しばしの間、みんな黙っていた。キャンプファイヤーで燃え盛る炎とそれを楽しんでいる生徒たちを眺めるだけ。

 そんな中、夏美が沈黙を破る。

 

 

「先生は、七草先輩やウィーン・マルガレーテのことはどう思っていますの?」

 

 

 小さい声だ。恐らく躊躇いながらだったのだろう。もしかしたらその質問をするために俺のところにやって来たのかもしれない。

 

 

「どう思っているも何も、好意を伝えられたんだから真剣に向き合うつもりだよ」

「でも監禁されてた。それでも?」

「それでもだよ。むしろそれは監禁したくて我慢できないってことだ。だったら無視なんてできるわけねぇだろ」

 

 

 やり方はどうであれ、強硬手段に出るくらいはアイツも本気ってことだ。それにかのんたちの邪魔をして抜け駆けしようとしているわけではなく、あくまで自分の恋愛に対し真正面から向き合っているだけ。だから俺が跳ね除ける理由は一切なく、むしろその勢いを受け止めてやる覚悟が必要だろう。

 

 ただ、その俺の返答を聞いた1年生たちは暗然とした。

 理由は分かる。

 

 

「そんな顔すんな。俺の本性を知っただろ? 七草やウィーンがいくら積極的だったとしても、お前らには関係ないことだ。俺は来るもの拒まず、全てを受け入れる人間だからさ。だからアイツらがいくら攻めてきたとしても、お前らを蔑ろになんて絶対にしない」

 

 

 落ち込み気味になっていたみんなが顔を上げる。

 多分このままだとアイツらに押され続けると思っていたのだろう。自分たちだけが取り残され、もしかしたら俺が離れていくかもしれないと。

 もちろんそんなことはしない。今までのスクールアイドルのグループだって、同じグループ内に押しの強い子と弱い子が必ずいた。そのどちらとの恋愛も両立してここまでやって来られたんだ、コイツらだけ例外になんてさせるわけがない。それが俺のやり方で、今までと変わらない。

 

 ただ、今回投下された爆弾の威力が高すぎたのは事実。俺も久々に狂気寄りの愛情表現をされたからビビったし、海外からいきなりやって来た初対面の子に好意を寄せられるのも驚いた。だからこそ俺以上にコイツらの方が衝撃的な体験だったのだろう。初恋から数ヶ月にし、とんでもないことをやらかす女たちの登場で臆してしまうのも仕方がない。

 

 

「これからはどうするのかはお前ら自身が選べ。なんて言ったらプレッシャーだよな。選ばなかったら心残りはあるだろうし、これから先も同じスクールアイドル部の顧問生徒として一緒に活動していくわけだから、綺麗さっぱり元の関係とはいかないだろうし」

 

 

 このように、選ぶ方に多大なる負担がかかる。もし自分1人だけ俺を選ばず、他の3人が選んだ場合、自分はこれからみんなとどう接していけばいいのか想像もしたくねぇもんな。そんなことで俺や他のメンバーの対応が変わったりはしないけど、結局は自分の本心との闘いだから、他人が安心させられるものでもないと思っている。

 

 だからと言ってコイツらの行く末を見ているだけってのも味気ない。複数の女性に好かれているこの状況を堪能して、自分は何もせずどっしり構えているだけってのも悠々自適で気持ちいいのだが、流石にそれは俺のプライドが許さない。ただ単に女の子たちから与えられる無償の愛に甘えたくはないからだ。高校時代にその状況に浸り続けた結果、μ'sと()()()()()事態を引き起こしてしまったわけだしな。

 

 

「だからもう少しだけでいい、俺に付き合ってくれ。『ラブライブ!』もそこまで遠くないし、今ここでウジウジ悩んでいたらスクールアイドルの活動に影響が出る。そうなったらマズいだろ? 俺と一緒にみんなで夢を目指して、その過程で少しずつ考えてくれればいいからさ。その間の俺はもう何も隠していない、ありのままの俺だから。そんな俺を見て、今後こんな野郎とどう付き合っていくのかを決めてくれ」

 

 

 今すぐ決める必要はもちろんないし、俺の本性を知ったこれからこそ俺たちの関係が本番みたいなところがある。いくら他の女の子たちが俺の浮気癖を許しているとは言っても、コイツらが同じかと言われたらそうではない。だから判断するための期間を設ける。俺と関係を続けるのか今すぐ決めろというより、そっちの方が行く道を示されているのでコイツらも幾分か思い悩まずに済むだろう。

 

 

「きな子も先生のことをもっと知りたいと思っていたので、その案には賛成っす」

「そうだな。私もまだ頭の中ぐちゃぐちゃですぐ決めるなんて無理だから、ゆっくり見定めさせてもらうか」

「先生のこと、骨の髄まで理解してみせるから覚悟して欲しい」

「ちょっとでも変な色を見せたら、スクープとして取り上げてあげますの」

「えぇっ!? みんなそういう覚悟なんすか!? もっとこう、ロマンティックなラブロマンスみたいなのを想像してたっす……」

「お前だけは染まるなよ……」

 

 

 みんなに笑みが戻り、コミカルな会話が繰り広げられるようになったから気持ちはある程度落ち着いているようだ。まあこれからが本番なわけだが、今から気負っていても仕方がない。とりあえず今は文化祭の終わりを楽しむことだな。

 

 

「あれ! あそこにいるの先生たちじゃない?」

「あっ、先生たちこんなところにいた!」

「やっと見つけたデス……」

「随分と探しましたね……」

「こんな薄暗いところで何やってんのよ」

 

 

 1年生たちの気分を晴らした矢先、今度は2年生たちがやって来た。

 キャンプファイヤーの炎の灯りが薄っすらとあたる中庭の端っこ。むしろよく見つけられたと感心するよ。他の生徒が炎に見惚れる中で暗闇を動く影があれば、それはそれで逆に目立つのかもしれないが……。

 

 

「ちょっと今後の進路相談をな。それより、ウィーンの見送りは終わったのか?」

「はい。『今度はライブ会場で会いましょう』って。去り際の言葉はそれだけでしたけど……」

「相変わらずクールだな」

 

 

 言いたいことだけ簡潔に伝えて立ち去るって、まさにウィーンらしい。今回が初対面で一緒にいた時間もそれほど多くはなかったのに、何故かアイツの性格を丸裸になるくらい理解している。裏がなさそうな氷属性女子は特徴が掴みやすい気がするな。

 

 それになんだかんだアイツ文化祭は両日来ていたので、氷属性ながらも俺に会いに行きたい欲望が見え隠れして可愛い一面がある。そういう健気さの魅力もあるって思うよ。

 

 

「つうか七草はどうした? 今日姿見てねぇけど」

「あぁ~……。七海ちゃん、『なんか興ざめしたから今日は休むね。興だけに今日ってね』って朝に連絡が……」

「つまんねぇ」

 

 

 なんだよそのギャグ、案外余裕じゃねぇか……。

 人を監禁しておいて、それで他の女に邪魔されたから萎えて休むって正気か。俺たちに裏を見せたから、もう体裁を取り繕わず怠惰で休むことも遠慮なしってことか。他の生徒たちには未だに表の優等生の面しか見せてないので、ここで休んだところで何も怪しまれないだろうしな。表向きしかないウィーンとは真反対で、表と裏をよく使い分けている。手強いな、かのんたちにとっても俺にとっても……。

 

 

「先輩たち。昨日からかなりあっさりしてるけど、なんか悩んでる~とか、意外な敵の登場で身構えてる~とかないのかよ?」

「えっ、どうしてデスか?」

「七草先輩とかウィーン・マルガレーテのことですの……」

「別に大して気にしてないわよ、私たち。そりゃいきなり本性を現して監禁するとか、海外から好きな男に会うためにやって来るとか、中々にぶっ飛んだことをしてるとは思うけど」

「先生のことですから、少し変わった女性のお知り合いもいらっしゃることは承知の上です」

「先輩たち、意外と冷静……」

「先生と一緒にいると変なことによく巻き込まれるからねぇ~。耐性が付いちゃったのかも」

 

 

 世界で一番不必要な耐性だな。だけど騒動のタネである俺の周りにいたら必然的にお騒がせ事件に首を突っ込むハメになる。これまで付き合ってきた女の子たちもそうだけど、唯一謝罪するとしたらそういった余計な騒動に巻き込んでしまうことだな……。

 

 それにしても、かのんたちはノーダメージとは行かなかったが、やはりきな子たちと比べると1年も長く俺と一緒にいるからちょっとした騒動には動じないらしい。俺の周りに女の子がたくさんいるなんて元から知ってたし、侑からもそのことを散々聞かされてるだろうからな。

 

 

「流石に七海ちゃんの裏の顔を知った時は驚いちゃったけどね。それに危機感が全くないって言うとそうでもないかな。決めないといけない。でも『ラブライブ!』が控えてるから、まずはそっちを頑張らないとね。先生のことはこれからもっと一緒にいれば自然に分かって来ると思うから、結論は急がなくてもいいって言うのが私たちの本音かな」

 

 

 想像以上に大人になってるなコイツら。確かに七草に対抗心を燃やしても仕方ないし、そもそも2年生たちは俺が特定の女性と付き合ったとて、他の女の子とも関りを絶つような奴じゃないと分かっている。コイツらに俺の本性をカミングアウトしてから8ヶ月程度、出会ってから1年半以上、これだけ長い付き合いだったら俺の性格くらい熟知しているか。

 

 でも意外と余裕そうで良かったよ。今度は2年生のメンタルケアをする予定でいたから、手間が省けて助かった。子供だと思ってた奴らがいつの間にか成長していると、教師目線としても嬉しくなってくるな。

 ――――この発言、超オッサン臭い気が……。

 

 

「きな子ちゃんたちは大丈夫……と思ってたけど、もう悩みはないみたいだね」

「大丈夫っす。もっと自分と一緒にいて、そこから考えればいいって、先生がアドバイスしてくれたっすから」

「へぇ、またアンタ女の子を口説いてたのね」

「女の子が心配そうな顔をしてるとすぐ首を突っ込むんだから、先生は♪」

「でもそういうところが先生らしいですね」

「教師を煽るんじゃねぇよ……」

 

 

 悩みを解消してやったのにその言い草はねぇだろ……。困っている女の子を相手にすると手当たり次第に声をかけちゃうこの性格に問題があるのは知ってるけどさ……。

 ま、みんな思ったより調子が乱れてなくて良かったよ。逆に七草とウィーンの登場は、俺たちの関係を進展させるいい起爆剤になったのかもしれない。

 

 

「よ~しっ! それじゃあみんなでキャンプファイヤーに行きまショウ!」

「そうだね。まだみんなで写真も撮ってないし。先生も行きましょう」

「えっ、俺も?」

「そうですよ! 先生も部の一員なんですから! ほらほら!」

 

 

 なんかみんなのやる気が凄い。俺は手を引かれて、背中を押されて強制的に歩かされる。そんな楽しそうな様子を見ていると、堅苦しく考えなくても、俺との関係をどうするかなんて答えはもう決まっているのかもしれないな。

 

 文化祭最後の夜。キャンプファイヤーの炎が照らす灯りの中、少女たちはまた新しい恋の一歩を踏み出した。

 




 これにて長かった文化祭編は終了です。お疲れ様でした!
 若干最終回っぽい感じがしますが、もちろんまだまだ続きます! ただ以前のLiella編の第一章のように、純愛路線が太くなっていく予定です。Liella編と言えばこういった路線にして行こうかなぁと考えています。

 今回の文化祭で、自分の気持ちに素直になる必要があることを自覚した女性陣。これからは恋愛弱者だった彼女たちが積極的になる様子も少しは見られる……かも?


 とりあえず、次回以降はいつもの日常回に戻る予定です。
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