「葉月家専属メイドのサヤです。本日は恋お嬢様のご依頼のもと、皆様の着付けのサポートをさせていただきます。何卒宜しくお願い致します」
部室に恋のお付きであるサヤがやって来た。その背後には彼女が作ったであろうコスプレがハンガーラックにかけられている。
彼女が来た事の発端は、今度Liellaが外部案件による依頼で幼稚園に訪問する予定があるからだ。そこの園児たちと遊ぶためのコスプレを作成する必要があるのだが、彼女がそういったことが得意だと恋が教えてくれたので今回呼んだ次第である。以前の文化祭でも可可たちのクラスがコスプレ喫茶をやったのだが、動物コスはなく、新しく作る予算ももうないとのことなのでサヤにお願いしたのが事の経緯だ。
そして、どうやらもう作成済みの様子で、今日はみんなに実際に着てもらいながらサイズを調整していくらしい。
ちなみにみんなとは言ったが、9人全員で幼稚園に押しかけても圧迫感が強いので、行くのは今ここにいる千砂都、可可、きな子の3人だけだ。これまた見事に人懐っこくて性格も柔らかいメンツが揃っている。確かに俺もLiellaの中から園児と遊ばせるならコイツらを選ぶかもな。人あたりも良くて見た目も幼いから、園児たちから見ても威圧感はないだろう。まあ反応もリアクションが大きくて子供っぽい……いや、ウケが良さそうだしな。
そんなことを考えていると、例の3人からジト目で睨まれる。
「むっ、先生、なんか私たちを子供みたいって馬鹿にしてる……?」
「してマスしてマス。明らかに可可たちを子供だと思ってマスよ」
「先生すぐ顔に出るから分かりやすいっす……」
「他の奴らの総意で選ばれたメンバーなんだ、そりゃそう思うだろ……」
メンバーの選定に関しては一応みんなで話し合って決めたらしいのだが、その時に物議を醸し出したりしなかったのだろうか。園児と触れ合うわけだから、棘の強いすみれや強面のメイ、無表情の四季など論外な奴らを外していき、子供に寄り添える奴らを選んだらコイツらになるのは必然だろうけど。そこは『自分は子供ウケがいい』って喜ぶべきことなんだけどな……。
そうやって千砂都たちは口を尖らせながら、例のコスプレに着替えるため隣の部屋へ向かった。
「つうか高校生だってまだガキなんだから子供だろ……」
「神崎先生、子供だからって侮ってはいけません。特に思春期時期に得た学びは定着が早く、すぐ大人へと成長してしまうものです」
「そう言うものか」
「はい。かく言う私も、高校時代に主に躾けられるメイドのAVを観てからというもの、大人の階段を全速力で駆け上がってしまいました」
「今すぐ階段から降りてこい……」
葉月家専属メイドであるサヤの最大の欠点。それは密かにドギツいマゾ思考を保有していることだ。
この事実は他言しておらず、主である恋すらも知らない。俺が知るきっかけになったのは、恋が誑かされていると勘違いしたコイツに監禁された時。あの時はコイツがいつか恋に躾けてもらおうと思って持っていたSM器具で俺を拷問しようとしていた。紆余曲折あってその場は何とか助かったのだが、可愛い教え子のメイドがこんなドMだなんて知りたくもない事実を知ってしまった、あの時の俺の気持ちはテストの文章問題に出ても誰も解けまい。
てか俺、コイツといい七草といい、女性に監禁され過ぎじゃね……?
「でも子供ウケが良いってのは長所だと思うけどな。あの3人、裏もなくて純粋で性格もいい。幼い子って意外と人の純粋なところに惹かれるところがあるから、園児に人気があるならソイツの人格は本物ってことだ」
「ぐふっ!!」
「えっ、急にダメージ受けてどうした……?」
サヤは両手と両膝をついて項垂れる。
見た目は品行方正でお手本のようなメイドのくせに、歪曲した趣味趣向の持ち主のせいで行動の何もかもが読めない。ぶっちゃけあまり関わりたくない人種なのだが、残念なことにコイツのこんな性格を知っているのは俺だけで、コイツもようやく誰かにカミングアウトできて気が軽くなったのか、俺の前だけは自分を隠さなくなった。だから俺が相手をしなきゃならない雰囲気になってんだよな……。
「私には裏の性癖がありますし、マゾ属性がある時点で純粋ではなく、この通り性的な性格も捻じ曲がっています。つまり子供ウケする要素ゼロ。メイドとは老若男女、大人子供問わずご奉仕する清楚な存在。そんな私が受け入れてもらえない日がいつか来ると思うと……。うぐぅ……!!」
「だったら治せ、その歪んだ性癖」
「でもお嬢様に受け入れてもらえず、むしろ罵られるのであればそれはそれで一興かも……」
「アイツをどんなキャラにしたいんだよ……」
警戒心を煽るためにお前のメイドはこんな奴なんだぞって暴露したくなる気持ちもあるし、逆にこんな危険思想の持ち主だとバラして心配させたくない気持ちもある。どんな経緯で葉月家に拾われたのかは知らないが、没落しそうになっても恋の側を離れなかったところを見るにかなりの恩義と愛情がある様子。それなのに本人の本性はコレって、もう真っ当な忠誠心でお付きをしているのか、それとも己の欲望に従っているだけなのかどっちか分かんねぇな……。
そんなことをしている間に千砂都たちの着替えが終わったようで、隣の部屋から3人ができた。
さっきまで床に塞ぎ込んでいたサヤは、ドアの音が聞こえたのと同時に一切の音もたてずに立ち上がる。そして両手を下腹部に当て、如何にも着替えを待っていたメイドのような佇まいになった。この切り替えの早さ、手慣れてるな。恐らく普段から恋に見つからないよう自分の趣味にコソコソ明け暮れており、いざ見つかりそうになった場合の動きとして練習でもしていたのだろう。
「先生どうですかこれ? このウサ耳可愛くないですか?」
「きな子は猫っすけど、そんな大人しそうに見えるんすかね……?」
「可可はワンちゃんデス! 耳も手も本物みたいに気持ち良くて、サヤさんの技術に惚れ惚れしちゃいマス!」
「お褒めの言葉、光栄です」
千砂都がウサギのコスプレだ。地毛が白のためか白系ウサギのコスは非常に似合っており、元気のよい活発さに連動して長いウサ耳がピコピコ動く仕組みになっているようだ。
きな子は猫だが、のんびり屋で大人しいコイツにはピッタリだろう。ご丁寧に猫の手を模したグローブには本物さながらの肉球が付いており、まさに猫さながらになれるコスみたいだ。
可可は犬の格好をしている。人懐っこくコミュニケーションを取る彼女の性格は、尻尾を振り回しながら擦り寄って来る犬そのもの。その純粋さも飼い主の言うことを聞く犬の健気さっぽいしな。
素人目からもよくできている。やはり良家に仕えるメイドともなるとこの程度の衣装の創作は朝飯前なのだろうか。
ちなみにコスプレは全身が動物の毛皮に覆われているというわけではなく、あくまで耳や手、下半身や足など基本的な部分のみカチューシャやグローブ、スカートやブーツなどを装着するだけとなっている。そのせいで『人間の女の子』+『動物』、つまりケモナーの側面が強い。コスプレは動物なのにスカートだし、胸は人間のままだから乳房が膨らんでいるのが分かるなど、普通にオタク受けしそうな気がする。これもサヤの趣味なのか……?
「いいじゃん。似合ってるよ」
「私もとっても可愛いと思ってます! 抱き着きたくなりますよね??」
「それはまぁ……柔らかそうではあるな」
「そ、それはきな子たちを抱きしめてくれるということっすか……!?」
「えっ、なんでそうなる!?」
みんなの目が光る。文化祭デート以降、みんながそれなりに積極性を見せるようになってきた気がする。あの時にお互いの距離が縮まって、羞恥心もある程度解消されたのだろう。それに七草とウィーンと言った恋のライバル登場で、今まで見たいに恥ずかしがってばかりではダメだと自覚したのかもしれない。いい傾向だけど、みんなが一斉に積極的になられると流石の俺でも相手に困る。嬉しい悲鳴だけどな。
「今日は着付けメインだから。もう下校時刻も迫ってるし、部外者もいるしでそんなことをしてる暇はねぇだろ? したくないとは言ってないけど……」
「だったらだったら! もし幼稚園でのイベントが成功したら抱きしめてくだサイ!」
「えっ、私も私も! 頑張った結果としてであればいいですよね?」
「き、きな子もお願いしたいっす!」
「ちょっ、ったく……分かったよ」
「「「やった!」」」
ご褒美に対して笑顔で喜べるその様子に幼気を感じる。この健気さ、やっぱり幼稚園に出向かせるんだったらコイツらだな。
あまりの押しの強さに承諾してしまったが、イベントが成功するも何も、園児たちと遊んだり歌ったり、劇の手伝いをするだけだから簡単なミッションなんだよな。だから失敗するはずがないんだけど、本人たちが俺の抱擁で頑張れるのならそれでいいか。単純に考えて、ご褒美と言えども男性教師が女子生徒に抱き着いてやるなんて普通は懲戒免職ものだけど……。今多いからな、男性教師の不祥事。
「なるほど、そうやってアメを与えて女子生徒を我が物にしているのですね」
「失礼なこと言うな。信頼で勝ち取った結果だ」
「しかし、お嬢様まで男性の手に染まるのはメイドとして複雑です。ここまで手塩に掛けて育ててきたお嬢様が……」
「そのお嬢様に調教してもらいたいって妄想してるくせによく言うよ。どっちが穢してんだか」
「いやでも待ってください。ノンケとなったお嬢様がレズ気質の私に対して裏切り調教をし、脳が破壊される寝取られ展開もあり……ですかね?」
「ねぇよ。てか聞くな」
マゾ気質だけではなく寝取られ展開も許容してるとか、人間として絶対に関わっちゃいけねぇ奴だろコイツ……。
長年あらゆる性癖を持つ女の子たちを相手にしてきた俺だからコミュニケーションできているが、真っ当に生きて来た奴の場合はコイツと話をするだけでもハードルが高いだろう。まあ超えなくてもいいハードルなんだけどさ……。
それにしても、とんでもねぇ奴に目を付けられたもんだな俺も。恋がスクールアイドル加入する前のいざこざの時は至って普通で、まるで保護者かのような優しいメイドだったのに、今となってはこれだからな。
さっきも自分が男性の手垢が付いたお嬢は受け入れられないと自覚しようとしたが、後に寝取られ展開でもOKと認識をアップデートするなど、思考回路がどんどんマゾ脳に支配されていく。もしかしてこれ、コイツの本性を知ってる俺が抑制してやらないといけないのか……? それは勘弁してくれ……。
「う~ん……」
「どうした?」
「なんかおしりの方に穴が開いているような気がして、さっきからスースーするんですよね」
「きな子も同じこと思ってたっす。もしかして、きな子たちのおしりが大きすぎて破れちゃったとか!?」
「ええっ!? 可可、最近はずっと甘いモノ抑えて減量してるので大丈夫のはずデス! 多分……」
確かにどの衣装の臀部にちょっと穴が開いている。見せパンなので穴があっても最悪問題ないのだが、どうもこの穴、破れたような跡がない。まるで最初から穴を開ける前提で作られたかのようだ。
おしりに穴。そしてこのコスプレを作ったのはサヤ。まさか――――!!
「お前……」
「その顔、何か勘違いされている様子ですね。その穴は
サヤが取り出したのはケツにぶっ刺すアナルバイブ――――ではなく、動物の尻尾だった。ウサギ、猫、犬と3人の衣装の合わせた尻尾であり、これまた本物と言わんばかりの出来である。
「これを臀部に刺せば完璧です」
「あのぉ~。尻尾の付け根の部分にボールが付いているみたいですけど、一体それはなんすか……?」
「えっ、それって……!!」
「これですか。これはおしりに刺した瞬間に膨らんで、穴から抜けないようにするための装飾です」
「おい、ちょっと来い!」
「?」
サヤの手首を掴んで部室の端まで引っ張る。ただの尻尾の人形だと思っていたのだが、あのボールの形状と仕組みはまさしく――――
「あれSM器具だろ!? 直接ケツの穴に挿いれるタイプのあの!!」
「そうですね。余っているアナルプラグを改造して造りました。自信作です」
「胸を張るな……。つうか余ってるって、持て余すほど持ってることにドン引きだよ……」
「ちなみに皆様の衣装もSM用のコスプレを改造したものです。つまりあの穴は私が故意に開けたのではなく、最初から開いていたのです」
「いや自分の責任じゃないみたいな言い方すんなよ……」
「不要になったモノを有効利用しているだけですよ」
「それを女子高生に着させてんのは道徳的にどうなんだ……」
もはや悪気や躊躇なんて一切感じてないのが逆に清々しい。確かに見た目は可愛らしいコスプレだが、実はSM衣装を元にしてましたなんて明かされたらもうそういった目でしか見られなくなってくる。純粋無垢な可可たちに着させる衣装として、そして園児たちと触れ合うコスプレとしてこれほど似合わない元生地はねぇな……。
「大丈夫ですよ。直接臀部の穴に突っ込むわけではないですから。あくまで衣装の穴に挿れるだけです。流石に思春期の麗しき乙女の穴にアナルプラグは可哀想ですから。そういった拷問は私が引き受けます」
「引き受けるって、なに被害者ぶってんだよ。悦んでやるだろお前の場合」
「よくご存じで。女のメスの部分を見抜く才能があるようですね。女性調教が得意な立派なご主人様になれますよ」
「そんな鬼畜な主になるつもりねぇよ……」
久々に会話に疲れるパターンのやつだこれ。何にツッコミを入れても自分の世界に取り込んで、自分の都合のいいように解釈されてしまう。これだから偏屈趣味の持ち主は……。
とりあえず会話を切り上げて可可たちのところに戻る。不思議そうな顔をされてたし、それにいつまでもコイツと2人きりで話してるとこっちのツッコミが追い付かなくなって疲れるから……。
「えぇっと、その尻尾を差し込めばいいんでしたっけ? 座ったりするとボールが邪魔になりそうですけど……」
「大丈夫。短パンのウエストに引っ掛ける形に変えるから。ケツの穴は塞いでおくよ、コイツがな」
「な゛っ!? それは寝耳に水ですっ!! 私の芸術作品になんてこと――――!!」
「よかった。それなら安心っす!」
「いくら見せパンを履いているとは言え、穴が開いてると気になってしまいマスから……」
「反論させてくれない雰囲気に……!!」
そりゃ1vs4ならこうなるだろ。教師として教え子に変な格好をさせるわけにはいかねぇからな。
それにしてもSM衣装の改造を芸術って……。確かに見た目だけでは普通のアニマルコスに見えるので、改造の技術点だけは高いかもしれない。でもアナルプラグの穴を塞がず活用している時点で自分の性格が表に出てしまっているので、そこだけでマイナス無限点だ。秋葉といい理事長といい、この学校関係者の大人はまともな奴いねぇな……。
「私の作品、やはりお気に召しませんでしたか……。愛情を込めて1つ1つ丁寧に作成させていただいたのですが……」
「愛情、入ってんのか……?」
今度は床に突っ伏したりはしないものの、分かりやすく落ち込んでいるサヤ。さっきの醜態を見るに愛情なんてなく、むしろ自分の欲望だけを詰めんだハッピーセットになっているのは誰の目にも明らかだ。
だけど――――
「ちょっと変なところはありマシタけど、可可このワンちゃんのコスプレ大好きデス!」
「きな子も可愛いと思うっす!」
「子供たちにも楽しんでもらえそうだよね! 何に落ち込んでいるのか分からないですけど、サヤさんには感謝してますよ!」
「皆様……。うぅ、優しすぎる!!」
いい子だなコイツら。ここで実はその衣装はSM用だと暴露したらどんな反応をするのか気になるが、コイツらの純粋さに免じて我慢しておこう。
そしてその純真さはサヤの穢れも多少浄化できたようで、今まで感じていなかった罪悪感も生まれたようだし、それすらもコイツらによって自然と赦されたようだ。ま、これに懲りたら偏屈趣味は自分1人だけで楽しむことだな。そういうのは人に押し付けるものじゃない。
これでサヤも少しはまともに――――
「いや、こうやって優しくされるということは、痛めつけられることが好きな私にとっては拷問。拷問、つまり痛み、それは快楽。私にとって、優しくされることは痛みと同じなのでは……?? 先生、閃いたかもしれません!」
「私って天才みたいな顔すんな!!」
せっかくいい雰囲気で終わりそうだったのに、何言ってくれちゃってんのコイツ!?
やっぱりマゾ属性は隔離するに限るな……。
そんなこんなで一応着付けは無事に終わり、ついでに幼稚園でのイベントも成功に終わった。
これに味を占めて、アイツがまた暴走しないことを祈るばかりだよ。
Liella編の第二章も今回から後半戦です。アニメだったら後期のオープニングに変わるってやつですね!
そして今回からまた日常回に戻って来たのですが、キャラを捻じ曲げてしまったサヤさん暴走回でした。アニメキャラではありますが、これ3期でいい感じにキャラ付けされた状態で登場したらどうしようってビビってます(笑)
来週の更新ですが、引っ越し作業のためお休みになる可能性があります。空き時間で可能な限り書こうとは思っていますが、もし更新されなかった場合はお察しください。