ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

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かんざきれいくんのぼうけん

「なにが起こってんだよ今度は……」

 

 

 起きたら自分の身体が子供になっていた。

 意味が分からないどころの話ではないが、見たところ小学校低学年、下手をしたら幼児に見える背丈になっている。寝ている間に背が縮んだせいか部屋着はダボダボであり、このまま立ち上がるとそのまま脱げてしまいそうなくらいだ。ベッドも自分の部屋も一回り大きく見えているのが自分が小さくなったことをより強く実感する。

 

 こんな状況に陥っている原因は間違いなく秋葉(アイツ)だろう。実際に携帯を見ると奴からのメッセージが届いている。内容を見る前からアイツの笑顔が思い浮かんで神経が逆なでさせられるが、このままの姿でいるわけにもいかないので仕方なく見ることにする。

 

 

『幼児化のクスリの実験台になってもらっちゃった! ゴメンね♪』

 

 

 ノリが軽すぎる……。

 人の身体を容易に伸び縮みできる薬物とか、もはや完全犯罪も余裕の代物を軽々しく使い過ぎだ。つうか試すのなら適当なモルモットで試しておけばいいのに、まず俺に投与してモノホンの人間で効果を確かめる時点でマッドサイエンティスト感が半端ない。

 

 ただこれまで幾度となく身体変化の実験に付き合わされてきたけど、こういうのは久々な気がするな。アイツの薬は大体が時限式のため、このまま自室に引き籠っていれば1日で効果が切れるはず。そういうところにまだ温情があるのだろうか。

 

 そんなことを考えていると、メッセージに続きがあることに気が付く。

 

 

『今回は時間制限で効果が切れないし、いつも通り誰かにバレたら元に戻らない効果もあるから、そこのところ頑張って♪』

 

 

 はぁああああああああああ!?

 温情とか、ちょっとでもアイツを信頼した俺が馬鹿だったよ。いやそもそも人に無許可で怪しい薬を投与する時点で温情もクソもなかったな……。

 

 時間経過で解決しないってなると、じゃあどうすりゃいいんだよ。まさか自分が帰ってくるまで待ってろとか言い出さねぇよな? アイツ基本は家にいねぇから、もしかしてこのまま数日待たされるとか……? いや明日普通に仕事だぞ!? この姿で教卓に上がるのか!? いやバレたら元に戻れなくなるから、そもそも学校に行く選択肢もねぇのか……。

 

 取り乱す中、メッセージに更に続きがあることに気が付いた。

 

 

『解毒剤は、金色のお花の(つぼみ)から貰ってね♪』

 

 

 なんだよこれ謎解き?? どうしてガキにされた挙句にこんな茶番に付き合わないといけないのか。でも付き合わないと元の姿に戻れそうにもないので、ここは仕方ないが従うしかない。なんかいつもこうやって逃げ場をなくされて、アイツの都合のいいように誘導されている気がする。

 

 代わりに楓に外へ出てもらう選択肢もあるのだが、残念ながら今日は不在。自分で何とかするしかないか……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 とりあえず家にいてもやることがないので外に出た。

 服はガキの頃に着ていたものが今でも残されていたので、タンスの奥から引っ張ってきて軽く洗濯してから着てみたら見事にピッタリ。20年以上前の子供の頃の服なんて捨ててしまおうと思っていたのだが、神崎家の女性陣たちの猛反発により永久保存することになった。どうやら思い出のためらしいのだが、ブラコンや子煩悩を拗らせすぎだろ……。

 

 そんなわけで花がたくさん咲いている公園に来てみた。謎の意味は分からないが、『蕾』と書いてあったのでとりあえず花を頼りにしてみた次第だ。

 とは言いつつも、ぶっちゃけ金色の花なんて品種改良をするか、製造しなければ存在しない。名前に『金』がつく花はあるが色は黄色よりだし、そもそもそんな花がそこらの公園に咲いているわけがない。これもしかして大きな庭園とか行かないといけない感じ? 流石にそれは面倒だからやめてくれ……。

 

 それにせっかくの休日に何やってんだ感が強く、若干ナーバスになる。こんな暗い雰囲気の園児がいたら、誰かに話しかけられて――――

 

 

「あなた、何してるの?」

「えっ……?」

 

 

 公園の花壇の前で座り込んでいると、後ろから幼い女の子の声で話しかけられた。振り返ると、赤いカチューシャに金髪ショートカットの少女。見た目的に小学生くらいだ、どこかで見たことのある既視感があるのは気のせいだろうか。

 その子は座り込んでいる俺を見下ろして不思議そうな顔をしている。

 

 

「何をしてるって、花を見てるんだよ」

「珍しいね。男の子なのにそんなに真剣に花を眺めてるなんて」

「まあ色々あってさ……」

「悩み事?」

「そんなところ」

「言えない?」

「あぁ……」

 

 

 こんな小さい子に心配されるなんて、二十歳を超えた男が何してんだよって話だ。ただ見た目は園児とそう変わらないから許してくれ。

 でも小学生から見ても分かりやすいくらいに悲壮感が漂っていたのか俺。園児の姿でそんなムードを醸し出していたら、そりゃ家庭で何かあったのかと思われて心配する気も分かる。

 ただ自分の今の状況をバラしてしまうと元に戻れないらしいので、残念ながら事情を打ち明けることはできない。毎回毎回誰かに頼れないように徹底されてんだよな……。

 

 

「よしっ! それだったら私の買い物に付き合ってよ!」

「はぁ? どうしてそうなる!?」

 

 

 屈託のない笑顔でいきなり自分の都合に巻き込もうとする金髪少女。さっき話せない悩み事があると知ったばかりなのにこの暴挙。

 それにしても、根拠のない自信満々なこの表情、やっぱりどこかで見たことがある気がするな……。

 

 

「落ち込んでいるとき、暗い気持ちのときは気分転換が一番だよ!」

「別に落ち込んでるわけじゃねぇけどな。なんで俺、休みの日にこんなことをしてるんだろうって思ってるだけで……」

「暗い気持ちに大小なんてないから! それに幼稚園児は幼稚園児らしく元気でいればいいんだよ! ほら行くよ!」

「お前も小学生くらいだろ――――って、手引っ張んな!」

 

 

 美少女JSに合法的に手を握られる構図。こうやって小学生に手を触られるだけでも何故か成人男性が犯罪者扱いされるこの世の中、子供の一切の曇りのない無邪気さは意外と怖かったりするものだ。

 それはともかく、コイツどういうつもりだ……? 最近は秋葉やら七草やら、とにかく裏がある奴が多すぎて人を疑いがちなんだよ。まあ小学生だから裏表はないだろうけど、見ず知らずの年下男子に対してここまで世話を焼くなんて、普通に人がいい奴なのだろう。

 

 あれ? 金髪で面倒見がいいってやっぱりどこかで……?

 

 そんな疑問を抱きつつ、彼女に手を引かれて公園を出る。安心させるためかずっと手を握ってるから、もう完全に悩み多き幼稚園児と思われてんだろうな……。

 

 

「おいどこへ行くんだよ?」

「薬局に薬を買いに行くの。お姉ちゃんが風邪気味でね。それよりも――――」

「えっ、なに?」

 

 

 手を握ったままこちらに顔を近づけてくるロリ少女。こうして見ると、幼いながらも顔立ちは整っていて結構な美人寄りだ。これは中学に上がって思春期特有の色気が出てきたら化けるかもな。

 そんなことはいいとして、どうやら何やら言いたげな様子。眉が上がっており、少し怒ってる……?

 

 

「あなた、さっきからやたらとタメ口じゃない? どう見ても私の方が年上でしょ!?」

 

 

 そんなことかよ……。

 確かに今の俺は幼稚園児レベルの背丈であり、いくら男子とは言えども女子小学生には身長で負けている。だけどここまで激詰めするようなことか……?

 

 

「タメ口はまだいいけど、そうだなぁ、せっかくだし『お姉ちゃん』って呼んで」

「はぁ? なんで?」

「私は弟か妹が欲しいの! お母さんたちにそう言ってもはぐらかされるし、お姉ちゃんにもサラッと流されるし……」

「そりゃそうだろ……」

 

 

 子供の頃に弟や妹が欲しいと容赦ない純粋無垢で親を攻撃した人は多数いるだろう。成長してその願望を実行する方法を知って察するまでがお約束だ。まあ小学生で子作りのメカニズムを知って、その上で弟妹が欲しいなんて言ってる方が怖いが……。

 

 それよりも、お姉ちゃん呼びを強要されている方が問題だ。現在何故か俺の両手を掴んでおり、目を輝かせて俺を見つめている。もはや言わないと離してくれそうにもないのだが、姉呼びするのは秋葉のせいでかなり抵抗がある。アイツのことだって呼び捨てだし、相手は違うけどその呼び方をするのは恥ずかしいんだよな。

 

 

「んなこと言ってないで、とっとと行くぞ」

「え~~っ!? 呼んでよほら! 『お姉ちゃん』って! そうすればあなたの悩みも全て吹き飛んじゃうから!」

「因果関係が分かんねぇよ……」

 

 

 ここまでお姉ちゃんに固執するなんて、普段から相当抑圧されているのか? 姉がよく家事をサボるとか、姉らしい振る舞いをあまりしてないとか。俺も兄らしいことは何もしてないのであまり自分が言えた義理ではないが……。

 

 しばらくゴネられていたが、一貫して姉呼びしない態度を取り続けていたら諦めたようだ。俺を励ましたり姉呼びさせたいなどとコイツの目的がコロコロ変わっているが、小学生なんて興味の対象がすぐに切り替わる生き物だし、多少支離滅裂なコミュニケーションでも仕方ないか。

 

 そんな中、名も知らぬ少女と一緒に街を練り歩く。小学生と幼稚園児が親同伴なしで並んで歩くって、見た目だけだと相当目立つ気もするけど……。

 

 

「そういえば、どうして花を見てたの?」

「どうしてって、花が問題解決の糸口になりそうだから……かな」

「ん~? よく分かんないけど、花を見てると悩みが解決するってなんかロマンティックだね!」

「そうか? 男だぞ、俺?」

「別にいいじゃん男の子でも。花は綺麗だから見惚れちゃうものだし!」

 

 

 ニカッと笑う赤カチューシャの金髪少女。ロマンティックってよりメルヘンな考え方だが、この悩み何もなさそうな明るい笑顔を見たら誰でも前向きになる気はするな。今は別に落ち込んだりしてない(アイツに対する呆れの方が強い)が、仕事でストレスがあったらコイツに励ましてもらうのもありかもしれない。成人男性が女子小学生に対して何言ってんだって感じだけど、コイツの笑顔にはその力があるんだよ。女の子の笑顔をたくさん見てきた俺なら分かる。

 

 

「それにそれに、私の名前もお花から来てるんだよ! 綺麗な花を見ると落ち着いて元気が出る。つまり私を見ればその魅力であらゆる人のどんな悩みも吹っ飛んじゃうってわけ!」

「だから因果関係……。てかどれだけナルシストなんだよ」

 

 

 小学生の段階でここまで自画自賛が凄いと、成長するとふとしたことでもイキるようになってしまって苦労するぞ。今の俺もそんな感じだけど、俺の場合は実力が伴ってるから――――って、これがダメなのか。

 

 

「ナルシストっていうのは知らないけど、お姉ちゃんが同じような性格だから移っちゃったのかも。だってお姉ちゃんも花の名前だしね」

「えっ……?」

 

 

 姉も花の名前? 金髪、美人顔、世話焼きで人情がある、面倒事を避けたがる、油断するとナルシスト、そして、花の名前――――まさか、もしかして!!

 

 

「あっ、薬局に着いた! ちょっとお薬買ってくるから待っててね!」

「おいっ!」

 

 

 行っちまった。そういや妹がいるとか言ってたし、俺の予想が正しければアイツの正体は間違いない。

 その時、俺のいる場所に影かかかる。後ろを振り返ってみると――――

 

 

「キミ、先生に似てる」

「おい四季! こんな小さい子に急に話しかけるとか驚かせちまうだろ!」

「メイの声の大きさの方が驚くと思う。それと強面の顔」

「それはどうでもいいだろ! ゴメンな君、コイツ表情がなくて怖いだろ?」

 

 

 四季とメイ!? なんでここにコイツらが!?

 コイツらこんな大きかったっけと思ったが、俺が極端に小さいだけだった。

 相変わらず幼馴染コントを繰り広げられる2人だが、警戒すべきは四季の方。俺の正体がバレてしまうと元に戻れなくなってしまうので、教え子の中でも特に察しのいいコイツに見つかってしまうのは不幸中の不幸。なんとかはぐらかさねぇと……。

 

 

「キミ、こんなところで1人か? お父さんやお母さんは?」

「えぇっと、薬局から帰ってくるのを待ってるだけだから」

「もしかして先生の可能性」

「いやでも先生は結婚してないから子供はいないだろ」

「意外といたりするかも。女性関係が豊富な人だから、どこかで知らないうちに誰かを孕ませてしまって、みんなに内緒で隠し子を育てている可能性もある」

「失礼な奴だな」

「「えっ?」」

「あっ、い、いや、それはその先生って人に失礼じゃないかなぁ~って……」

 

 

 あぶねっ!! 思わず口に出ちまった!

 四季の奴、相変わらず容赦なく失礼なことを言いやがって……。

 

 

「待ってるのはいいけど、こんな小さい子を1人で待たせてるなんて危ないよな。一緒にいてやるか」

「流石メイ、優しい」

「うっせぇ。心配することに優しいも何もないだろ、普通だ。キミもそれでいいか? いいよな??」

「えっ、あぁ……」

「メイ、そんな威圧的な言い方ではダメ。キミ、もしかして怖い? このお姉ちゃん、ちょっと顔怖いけど不審者とかじゃないから」

「だったらお前は表情変化乏しくてこえぇよ。子供には笑顔を見せるんだよ、笑顔」

「メイだって苦手なくせに」

「お前ほどじゃねぇよ」

 

 

 なに幼馴染漫才してんだコイツら。イチャつくなら別のところでやれ……。

 それにしても、コイツらとずっといると正体バレの危険性があるからマズい。しかも小さい子を1人でここに待たせている育児放棄気味の親の代わり、みたいな感じでコイツら一緒にいる気満々だし、1人で逃げ出すこともできなさそうだ。

 

 アイツ、早く帰って来ないかな。成人男性が自分の子供じゃない見ず知らずの女子小学生をここまで待ち遠しく思うなんて……。

 

 そうやって焦っていると、薬局の自動ドアが開く。出てきたのは待ちに待っていた金髪少女。

 そして、俺は今からプライドを捨てる。今の自分が神崎零だと悟られぬようにするにはこれしかないんだ――――!!

 

「あっ、ちゃんと待っててくれたんだ。えらいえらい!」

「う、うん……お姉ちゃん」

「え?」

「「へ??」」

 

 

 言ってしまった……!! でもこの状況を穏便に打破するにはこの方法しかなかったんだ!

 

 

「お姉ちゃんって言った!? 今言ったよね!? うん、お姉ちゃんだよ! 弟くんは可愛いねぇ~♪」

「ちょっ、抱き着くな!」

 

 

 名も知らぬJSに抱き着かれる成人男性(幼稚園児)。もはや状況説明なしでは何を言っているのか分からないが、まあ犯罪ギリ手前ってところか。こっちから抱き着いてるわけじゃないからな、まだセーフの部類だろう。

 

 

「なんだ、お姉ちゃんを待ってたのか。だったら最初からそう言えばいいのに」

「メイの圧が強かったから――――ん? あなた、もしかして……」

「あっ、あなたたちって確かお姉ちゃんの後輩の――――」

「あぁ、そういえばお前。覚えてるか? メイだよ。こっちが四季」

「はい、覚えてます! すみれお姉ちゃんがいつもお世話になってます!」

 

 

 やっぱりそうだった。この女の子、すみれの妹だ。

 最初から色々ヒントは出ていたが、そもそも女子小学生に声をかけられたり手を引かれたりと特殊な状況に陥っていたせいで、別のことに脳のリソースを割いていたから気づくのが遅れてしまった。

 

 そして、そうすれば自ずと元に戻るためのあの謎も解ける。

 

 

「そういえば、その薬は誰かに教えてもらって買ったのか?」

「うん。怪しそうで優しそうなお姉さんに教えてもらったから」

「ちょっと見せてみろ」

「あっ、なにするの!?」

 

 

 あった。カバンの中に風邪薬のほかに謎の薬が。これが元に戻るための薬に違ない。怪しいお姉さんと言ったらこの世で最も怪しいのは秋葉(アイツ)しかいないから、これで間違いないだろう。

 メッセージにあった『金色の花の蕾』というのは、まさにすみれの妹であるコイツのことだったんだ。金色は金髪、花はすみれの名前、蕾はその妹、という意味。ちょっと考えればすぐ分かったな……。

 

 とりあえず、カバンから例の薬だけこっそり拝借しておいた。

 ようやくこれで元に戻れるな。何もかも万事解決ってことだ。

 

 

「それじゃあ俺、用事あるからここで」

「えっ、悩み事はどうしたの?」

「大丈夫、もう解決したから」

「えぇ~!? じゃあもう一回呼んでよ! お姉ちゃんって!」

「だからなんで抱き着く!?」

 

 

 また駄々こねモードに戻ってしまった。まあこれからこの姿で会う予定もないし、後腐れなくもう1回呼んでやってもいいかもしれない。今回の件はこれで()()に解決だろうしな。

 

 

「あの子の方が弟ってことは、つまりすみれ先輩って弟がいたのか!?」

「それは初耳。まさか隠し子とか」

「お前そういうの好きだな……。でもここまで隠してたってことは……」

「その可能性がある。また問い詰めてみよう」

 

 

 やべぇ、無事じゃなかった。

 ゴメンすみれ! あとでフォローしておくから!!

 




 後に続きそうですが、ちゃんと元に戻れたので今回で1話完結です。

 ラブライブでは基本姉妹には名前が付いているのに、すみれの妹だけどうして名前がないんでしょうかね。アンソロジーのコミックでも登場しているので、付けてあげてもいいような気がします。

 今回はすみれの妹だからその妹の名前も花の名前だと思って謎解きのヒントにしてしまったのですが、アニメ3期で全然違う名前を割り当てられたらどうしよう……
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