「オニナッツー! 日々のあれこれエトセトラー。あなたの心のオニサプリ、オニナッツこと鬼塚夏美ですのー! 今日は現役スクールアイドルがスクールアイドル館に来て、スクールアイドルの魅力をたっぷりお伝えしちゃいますの! 既にスクールアイドルって言葉がゲシュタルト崩壊しそうなくらいですが、皆さんこの動画が終わるまでにスクールアイドルって言葉が何回出てくるのか、数えてみるのも面白いかもですのー! それでは最初のブースに移動しますの!」
夏美はそこで一旦動画を止める。
今日は夏美に誘われてスクールアイドル館に来ていた。そこではスクールアイドルのグッズはもちろん、過去のライブ映像が見られたり、歴史について学んだりできる、まさにスクールアイドル好きのためにあるような聖地だ。スクールアイドルと言えば今や世間を賑わすサブカルチャーの最先端。その魅力がたっぷり詰まっているここを動画ネタにすれば、視聴数も評価も伸びると踏んでの撮影だろう。
ちなみにスクールアイドル館はどのブースも動画撮影OKであり、動画サイトやSNSで拡散されることでスクールアイドルの更なる知名度発展を目指しているらしい。そこのところの規制の緩さと情報伝達スピードの利用はまさに若者娯楽って感じだな。
「つうかさ、どうして俺が呼ばれてるわけ? しかも練習のない放課後に」
「だって先生の方が私よりも断然スクールアイドルに詳しいので、スクールアイドルの歴史を語る上で役に立つかと思いましたの。あれだけのスクールアイドルと付き合っているのですから」
「お前の動画ネタのためかよ……。だったら俺よりも、スクールアイドルファンの可可やメイと一緒に来れば良かったじゃねぇか」
「その2人だと、オタク特有の早口で動画がほぼその2人の絵面になるのが見え見えだったのでダメですの」
「はは……」
確かに。スクールアイドルの歴史紹介って名目で動画を回しても、ソイツらの場合は目を輝かせてカメラの前を占拠しそうだもんな。もうどっちが動画のメインだよって話になるか……。
そして、白羽の矢を立てたのが俺らしい。先日の文化祭で俺が他のスクールアイドルたちと関係を持っていることは1年生たちに話したので、その情報を今回フル活用されたことになる。そりゃそんじゃそこらの奴らより詳しいのは確かだけどけどさ。まあこっちは実際に付き合ったりしてるわけだしな……。
そんなわけで夏美の金稼ぎの道具と使われることを知ってしまったわけだが、別に嫌悪感があるわけでもないので付き合ってやることにする。
それに、文化祭の例の一件以降でコイツと2人きりになれたのはこれが初めてだ。誘ってくるってことは七草やウィーンといった恋のライバルがいることに対して臆してはないってことだろうが、なんにせよ互いの距離を縮めるのにはいい機会だろう。
とりあえず、最初にスクールアイドルのライブ映像が流れるブースへとやって来た。過去のライブイベントはもちろん、『ラブライブ!』などの大会での映像もあちこちの画面で流れている。
そんな中、夏美は1つの映像に目と止めた。
「これは確か、Aqours……」
「あぁ、2年前にスクフェスで優勝した時のライブだ」
夏美は目を輝かせながらAqoursのライブシーンを観ている。
コイツがこんな目をするのは珍しく、目を光らせる時の大抵は自分の利益になること、つまり金絡みの時だけだ。その瞳の光も裏の心が透けて見えているのでくすんでおり、誰の目から見ても胡散臭いってことが分かる。
しかし、それもスクールアイドルを始めてから変わった。コイツの心境の変化が一番の要因だろう。
「この時、先生はAqoursの皆さんをご指導されていたんですの?」
「あぁ。ただ教育実習に行っていたのはスクフェスより前の話で、この頃はその延長線上って感じかな。夏休みだったから、アイツらの方から俺に会いに東京に来てたんだよ」
「それで優勝させているのですから凄いことですの。愛と恋の力ってそんなに強いものなんですの?」
「別にそれだけがアイツらの力の源とは思ってないけど、好きな人に自分の魅力を伝えたいって意志は強かったと思うぞ」
過去に愛が人格を狂わせた事件があったように、それだけ自分に大きな影響を与えるのが愛の力だったってことだ。Aqoursなんてまだ結成して数か月のグループだったのに、それでμ'sやA-RISEを押しのけてスクフェス優勝だなんて普通はあり得ない。それを可能にしたのがその力だったんだ。
そして、次に目に入ったのはμ'sと虹ヶ先のライブ映像。どのグループも世間を魅了するくらいのライブをしており、来場客の目を引いている。
「μ'sや虹ヶ先の皆さんも、先生に想いを伝えたいからこうして魅力的に見えますの……?」
「虹ヶ先の奴らは間違いなくそうだな。μ'sの奴らも意識くらいはしてくれていたかも」
「色んな女の子に影響を与えすぎですの、先生は……」
「自分の夢を叶えようとしていたら、いつの間にかそうなってただけだ」
μ'sの場合は最初は廃校阻止が目的だったから、ライブは特段俺を意識していたってことはない。ただスクールアイドルを続けていく過程で色々、本当に色々あってからというもの、特に雪穂たちが入った世代は恋色を強く意識したステージになっていたと思う。
虹ヶ先の場合は、グループ自体が俺にアピールするために作られてたと言っても過言ではないからライブの内容も俺に魅せることが第一だ。そういった経緯で集まった連中だからかライブパフォーマンスはかなりのもので、世間の盛り上がりはスクールアイドルの人気上昇時期と重なったことも相まって、μ'sとA-RISE時代よりも注目されて盛り上がっていた印象がある。
「夢……。先生は、女の子の笑顔が見たい……」
「そう。先輩たちから聞いてないか?」
「散々聞かされてますの。私がまだスクールアイドルでなかった時、やたらと先生に絡まれることを先輩たちに話したら、『それが先生の優しさ』だって微笑むばかりで……」
「絡まれるってひでぇ言い草だな……」
「先輩たち、それと同時に『また他の女の子にやってるんだ、同じこと』って呆れてもいましたの」
「どいつもコイツもひでぇなオイ……」
こちとら善意でやってるのに言ってくれるな。まあ女心に土足で踏み込み過ぎるから、気の強い女の子、Liellaだったらすみれみたいな子からは仲良くなるまではかなり警戒されるけども……。
夢って言葉に、夏美は少し敏感だ。スクールアイドルに入ったのも、自分が初めて本気で続けて結果を出せると思ったから。
これまで自分のやりたいことがあって、挑戦してきたのにも関わらず結果が実らず、いつしか挑むことをやめてしまった。そんな中でお金稼ぎだけは地道に続ければ貯まっていくってことで、動画投稿をしたりバイトをしたりとせこせこしていた過去がある。
「そういえば、私がLiellaの皆さんに近づいた時から、ずっと先生は私のことを気にかけてくださっていましたの」
「ただ動画ネタにしたいって雰囲気じゃなかったし、お前。ネタにしたうえで金稼ぎが目的だって思惑が透けて見えてたからな」
「だったら普通は自分の教え子に関わらないように遠ざけようとしますの。でも先生は遠ざけるどころか、そっちから私の内情を探りに来たので驚きましたの」
「そりゃ高校1年生の女子が金に貪欲なんて知ったら気になるだろ、普通。それに俺は教師、授業の担当じゃなくても部活の担当じゃなくても、お前が結ヶ丘の生徒である限り俺の教え子だよ。気にするにきまってるだろ」
「ふ~ん、意外としっかり教師をしていて驚きですの」
「ナメてんのか……」
結果的にはその子の悩みやトラウマを解消できているものの、毎回毎回女の子の懐を無理矢理にでも探る異常行動をしているせいで100%良い印象で残らないのが辛いところだな。今みたいにこうやってイジられたりするし、残り数%の悪い情報だけが独り歩きして、親しくない女の子の耳に入って疑いの目だけを向けられることもある。
ただ裏でコソコソやるのは苦手なんだよな。だから女の子の心をこじ開けるような真似をしているんだけど、まあデリカシーはないわな……。
「それでも、私の本心に最初に気付いてくれたのは先生でしたの……」
「そういやそんなこと言ってたな。ま、さっき言ったみたいに強引なことばかりしてるから、そのおかげで相手の真意を知るのは得意だよ」
「そうやって弱みに付け込んで、今まで幾多の女性を泣かせてきたってことですの」
「いやみんなちゃんと幸せにしてるから! お前だって知ってるだろ……」
関わってきた女の子は誰一人として蔑ろにしていないはずだ。人間だけでなく幽霊の女の子だって満足させて成仏させてやったんだぞ、信じてもらわないと困る。てか信じろ。
~※~
そんなことを話しながら、今度はグッズ売り場へとやって来た。スクールアイドル館は常設されているのだが、ここ限定のグッズも結構あり通販もしていないため遠方から足を延ばす人も多く、常設にしては平日でもそれなりに人はいる。
夏美はまた動画を回してグッズ紹介の映像を取った後、録画を止めて今度は個人的に色々とグッズを物色し始めた。
「未だにμ'sやA-RISEのグッズが売ってますの。流石は伝説級のスクールアイドル……」
「伝説ねぇ。いつも思うけど、そこまで持ち上げるような奴らか……?」
「スクールアイドルをやっている身からしたら伝説そのものですの」
「俺はアイツらと同年代でずっと隣にいたせいか、どうもそうは思えねぇんだよな……」
伝説やらレジェンドやら、これも原理主義ってやつなのかねぇ。特撮ヒーローや女児アニメでも初代はやたらと持ち上げられるし、他のジャンルだって大体一作目ってのは定期的にピックアップされる。ただμ'sもA-RISEも、本人たちは自分たちがスクールアイドルの開祖で言われてるほど崇高な存在だとは一切思ってねぇみたいだけどな。
「そういやLiellaのグッズはねぇんだな」
「そんなものがあったら、既にメイや可可先輩が発狂して喜んでますの。Liellaは名が知られてきたとは言えサニパ程ではないですし、まだこれと言って大会で結果も残せていないので、グッズがなくてもおかしくないですの」
「それもそうか。去年の『ラブライブ!』も準優勝だったしな」
普通に考えたら初出場で2位は凄まじい成績なのだが、この世はスクールアイドル戦国時代だ。グッズ化されるためには大会での優勝か、他のグループすらも圧倒する特別な魅力がなければならない。Liellaにもその魅力はあると思うのだが、やはりこれだけスクールアイドルがいると雑踏に埋もれてしまいがちなのは仕方ないか。だからこそ今年は優勝しようとみんなで意気込んでいるわけだ。
「お前も自分のグッズが欲しいって思うのか?」
「そりゃスクールアイドルをやってるなら」
「お前個人に金は入ってこねぇぞ。グループにはある程度還元されるけど、大体はそのスクールアイドルが所属する会社か学校の資金になっちまうし」
「そんな金の亡者みたいに言わないで欲しいですの!」
「いやどの口が言ってんだ……」
出会った頃は何か儲けのネタがあると分かるとすぐ目を円マークに変えてたくせに……。
だけど、スクールアイドルになってからは徐々にそんな薄汚い貪欲さは次第に見せなくなっている気がする。スクールアイドルになったおかげで自分の中の軸がしっかり固定されたおかげか。それまではさっき言った通り、実りのない人生にフラフラしっぱなしだったみてぇだしな。
「でも、このまま目立ち続ければお前のグッズもいずれ出るだろ」
「えっ、それホントにですの!?」
「それはLiellaが『ラブライブ!』に優勝できるかにかかってるよ。そのためにはグループとしての魅力も大事だけど、個人としても目立つ必要があるだろ? そしてお前の夢は諦めずに目標を達成し、満足感と自己肯定感を得ること。大会に優勝してグッズが商品化されれば、目標が達成された確かな証拠にもなる」
「な、なるほど……」
何かしらご褒美があった方がいいってのは、小学生がテストでいい点を取ったら何か買ってもらえるからモチベが上がるのと一緒だ。コイツの場合はこの歳になるまでそういうのがなかったっぽいから、単にスクールアイドルとしていい結果を残すって目標よりも、結果が出た故の物的証拠が残る方がモチベが上がりやすいだろう。
そうやってゴール地点を設定してやっている中、夏美は俺のことをちらちらと見たり、目を背けたりしていた。
「なんだよ……」
「い、いや、先生は、私のグッズが出るまでずっと顧問でいてくれるのかと気になっただけで……」
「んだよそれ。そもそも前提が違う。別に部の顧問でなくなったとしても、俺はお前の隣で見守り続けるだけだよ」
「そ、そう、ですの……」
頬を染めて俯いちまった。こういうところが女の子を泣かせてるとか言われる所以なんだろうな。でも本当に見守りたいって思ってんだから仕方ねぇだろ……。
「それに言ったじゃねぇか、お前がスクールアイドルをやるって決意したあの夜。『お前が自分自身に満足するまで、俺が隣にいてやる』って」
2年生との実力差を埋めるため、特訓として1年生は北海道にあるきな子の実家の別荘に合宿へ行ったことがあり、俺も引率した。その時はまだコイツは加入しておらず、あくまで練習風景を動画に撮って自分のチャンネルに投稿する(ついでに収益をいただく)ためについてきた。
ただ、その中で夢に向かって努力を重ねるきな子たちの姿に感銘を受けたのか、夜にこっそりステップをやってみるなど影響を受けていたんだ。それを見ていたきな子たちに誘われ、俺の後押しもあって加入に至る。
そして、その時に打ち明けたコイツの悩みは、重くはないけど思春期特有のもので俺も理解できたし、何よりきな子たちが共感していた。何事にも熱く打ち込めず、結果も出せないというジレンマに苛まれながらも底辺エルチューバ―として活動を続けていた。それでも自分の力で何かしら目標を達成したい、諦めたくない気持ちはあったようで、最初は金稼ぎの道具としか見ていなかったLiellaの努力に次第に憧れを抱くようになり、いつしか自分も輝いてみたいと思うようになったそうだ。
その夜、初めてそういった感情を吐露したためかコイツは涙を見せていた。悔しかったのだろう、何もできない自分が。その合宿でも結局自分は動画撮影に回っていただけだし、その動画がバズったとしてもそれは自分が輝いているとは言い難い。何かしら自分の手で掴み取ることのできる夢が欲しかったんだ。
「ま、お前を悩みの淵から引っ張り上げてくれた
「分かっていますの。でも、先生にもお礼を言わなくちゃいけないんですの。いくら後押しされたとしても、結局決めるのは自分自身。その決意をくれたのは先生ですの。ストーカーかってくらい付きまとわれて、根負けしてポロっと自分の心境を話したせいで見事に巧みな話術で心を掴まれたと言いますか……。安心させられたと言った方がいいかもしれませんの。先生がずっと見守ってくれたおかげで、また何か新しいことに挑戦してもいい、今度は隣にいてくれる人がいる、と安心できましたの」
最後の不安が払拭されたのは俺のおかげってことか。だったら俺がいた意味もあったってもんだ。
コイツも言っていたが、いくら後押しされようが決断するのは自分自身。後押しされていない、もしくは押されたとしても拭いきれていない不安が残っていたら決意が鈍る。そこのところを俺のおかげで乗り越えられたらしい。
改めて思うのは、女の子の心に寄り添うにはやっぱり直接隣にいた方がいいってことだな。それが変態変人扱いされるんだけど、今のように感謝されていい表情を見られるから、それでプラスマイナスゼロだ。
「それで、『ずっと隣にいてくれる』という言葉は本当ですの……?」
「なんで疑ってんだよ。ホントだよ。でなきゃ放課後に2人きりでこんなところに来ないって」
「もしかして迷惑、でしたの……?」
「いや、むしろ嬉しいよ。文化祭のこともあったしさ、そのことに臆せず誘ってくれて安心したってのもあるかな」
「そ、それは先生と2人きりのタイミングを逃したくないといいますか……。そんなことで後れは取りたくない、と思っていますの……」
「そうか。強くなったな、お前も」
スクールアイドルをやる前は積極的な性格に見せかけて実は後ろ向きだったけど、今は恋敵がいたとしてもその圧力に負けず自分に素直になれる積極さがある。元々金稼ぎに貪欲でがめついところがあったから、やると決めたことに対してはコイツの性格上前向きになることはできるのだろう。どうやらやると決意を固めるまでと、結果が伴わず心が折れた時のリカバリが苦手なだけらしい。
「じゃ、そろそろ次へ行くか。それとも何か買うのか?」
「えっ、奢ってくれる……とか??」
「ねぇよ」
「えぇ~っ!? 教え子の未来のために何卒投資を……!!」
「ただのグッズじゃねぇか。いやグッズじゃなくても金は出さねぇよ、デートじゃあるまいし」
「じゃあデートだったら奢ってくれますの……?」
「そりゃそうだろ。自分の女に払わせるわけねぇからな」
「そ、そうですの……」
女の子と2人きりでお出かけならそれはデート、って誰かが言ってた気がするけど、今回はどうなんだろうか……。
とりあえず、また頬を染めて俯いて考え事をしてるコイツをここから引っ張り出すか。客が増えてきて店内も混んできたしな。
「デート、デート……」
うわ言のように何やら呟いている夏美。俺を誘うことには抵抗がないのかな……?
どうであれ、コイツは俺との関係を進展させることに対して特に臆してないようだ。1年生の他の3人も同じだといいんだけど、また近いうちに様子を見てみよう。
今回は夏美の個人回でした!
彼女の場合、悩みはあるけど年相応って感じがして、アニメを見ていて私も少し共感してしまいました。だからこそアニメではもっと掘り下げて欲しかったのですが、2期は駆け足気味だったのが本当に惜しかったなぁと思っています。
だからこそ、この小説ではキャラの魅力を個人的解釈ですが描いていきたいと思います。まあ零君が成長しきっているので、恋物語は女の子たちを動かすしかないっていうのが一番の理由ですが(笑)