ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

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過去への扉:心の声を聴け!

 スクールアイドルもそれなりに歴史のあるジャンルになってきた。μ'sやA-RISEが活躍していた頃とは比べ物にならないくらいにグループ数も増え、今やその手の界隈に興味がない一般の人でも『スクールアイドル』って言葉くらいは聞いたことがあるレベルだ。

 

 そこまでグループ数が増えれば当然その歴史を築いてきたグループは憧れの対象、度が過ぎると崇拝レベルにまで崇めている奴も多くなる。学校の部活動でアマチュア集団とは言えどもアイドルはアイドル、熱狂的なファンがいるのは芸能界とそう変わらない。もうこの界隈自体、そうやって過去の伝説を持ち上げようとする風潮(夏美と言ったスクールアイドル館とか)があるくらいだしな。

 

 ちなみに俺としてはμ'sやA-RISEが伝説の神のような扱いを受けていることに違和感しかない。そりゃ日常的に隣にいた奴らだし、今でも深く付き合いのある奴らばかりだからだ。むしろパフォーマンス面ではスクールアイドル全体として知識や経験が蓄積されてきたことで、昔よりも今の方がいいように感じる。別にアイツらに魅力がないって言ってるんじゃなくて、あくまでスクールアイドルとしての魅せ方って意味でな。

 

 そういった違和感を抱く瞬間はこれまで何度もあったが、その中で最も強い瞬間が――――

 

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおっ!! 今のサビのところすげぇ良かった! なぁ、先生もそう思うよな!? なぁ!?」

「はいはい、そうだな……」

 

 

 部室で動画を見ていたメイがハイテンションで俺に同意を求めてくる。

 否定したいのだが、圧が強すぎて選択肢が「はい」か「YES」の2択になっているので仕方なく頷くしかない。

 

 色々な世代のスクールアイドルたちと付き合ってきている都合上、世代が進めば進むほどこうしたオタクのようなファンでかつスクールアイドルって奴と知り合うことも増えた。そうなると当然こうして歴代たちのライブ映像を一緒に見る機会があるわけだが、俺はその歴代たちとも身近で一緒にいたためにどうも盛り上がれない、というか熱狂する要素がない。未だにμ'sやA-RISEが神格化されていることが違和感だし、自分は別に女の子が魅力的なところを見たいだけでライブパフォーマンスに関しては素人なので、さっきも言った通りぶっちゃけ今と昔で差があるとは思えない。

 

 物凄いギャップ。だけど今のスクールアイドルの子たちと付き合っていくには歴代を崇め奉る習慣に慣れていく必要があるため、そこが一番面倒なところだな。スクールアイドルの子たちと一緒にいるのは楽しいけど、唯一でそこの価値観の違いだけが疲れるところだ。

 

 

「おい先生、さっきから欠伸ばかりしてるけど真面目に見てるのかよ。こんなにいいライブ、何度見ても盛り上がるはずだろ」

「いや、何度も見てるからこそだろ。そのライブ映像だって俺が高校時代に生で観たやつだし、これまで付き合ってきたグループ全員がその映像を見てたから俺だって何度も見てきてんだよ。お前こそ何回も同じのを見て、何度も同じところで盛り上がってよく飽きねぇよな」

「先生は情熱が足りないんだよ。やっぱり大人になると社会の現実っていうのを思い知って、自分の夢も情熱も失うって本当のことだったんだな」

「結構非情なこと言うなお前……」

 

 

 まさに通りなんだろうけど、俺の場合はかろうじて夢は残されてるぞ。だからこそこうやって女子高にいるわけだしな。この学校に来たのは秋葉と理事長の策略だけど……。

 

 それはさて置き、コイツはもう自分が熱中できる趣味を何も隠さなくなっている。こうして本心から燃え上っているコイツを見ていると、入学したて頃に強面でツンケンしていた頃とのギャップが凄まじく感じる。人を遠ざけるオーラがあったという意味では、恋が氷の女王様だった頃とよく似ているな。

 

 

「半年前はオタク趣味なんて興味ないどころか、鼻で笑うような不良みたいな目をしてたのに、今となっては瞳も目尻も垂れて限界オタクだもんな。人は変わるもんだ」

「あの時は本当のことを話すと馬鹿にされると思ってたんだよ。こんな怖い顔した奴がスクールアイドル好きだなんて、皆に知られたら入学早々ぼっち確定だから……」

「周りに本心を隠してあんな強面を振りまいてたら、それこそ友達できなかっただろ。そういった意味では四季がいてくれて良かったな」

「それはまぁ、そうかもしれない……」

 

 

 どうやら高校に入る前からの知り合いらしいんだけど、四季がメイに強い興味を持っていたから高校までついてきたそうだ。でもそのおかげでクラスから完全に孤立せずにいられた上に、スクールアイドルに入る後押しも四季との関係があったおかげだったので、これはもうアイツに足を向けて寝られねぇな。

 

 

「それに、こうしてスクールアイドルをやれているのは先生のおかげでもあるよ。四季以上に纏わりついてきてたから、良くも悪くも忘れることはなさそう」

「そんな寄生虫みたいに言うなよ……。やりたいことがあるのにそれをずっと隠してるのが勿体ないと思っただけだ」

「それで毎回毎回声をかけてくるか普通。先生が先生じゃなかったら、女子高生に声をかけるただの犯罪者だぞ」

「だったらお前もずっと練習を覗き見して、十分に怪しかっただろ」

 

 

 あの頃のメイは自分の中の大好きを押し殺していたのにも関わらず、完全には隠しきれなかったようで、Liellaの練習をちょくちょく覗き見ていた。クラスメイトのきな子がかのんたちと関わりを持ってからは同級生がスクールアイドル入りしたのが気になったのか、覗き見する頻度も多くなり、もはや俺や四季だけでなく他の奴らにすら奇行がバレそうなほどであった。それでもずっとかのんたちに見つからなかったのはコイツの隠密性能が高かったのか、それともアイツらが鈍感なだけだったのか……。

 

 そんな感じで、コイツは当初ただのファンとしてLiellaを眺めているだけで、自分がスクールアイドルをやってみたいという気持ちを隠していた。それに気付いた俺は周りをコソコソしていたコイツに何度も声をかけたのだが、案の定最初の方は迷惑がられていたな。また気難しい奴が現れたと、俺も俺で呆れてたけどさ。

 

 

「先生も大概おかしかったぞ。先輩たちを覗き見ていた私を見つけて、追い払うとか注意するのかと思えば普通に話しかけてきて。開口一番が『気になるのか? スクールアイドル』って、自分で言うのもアレだけど覗き見してた奴に言うような言葉じゃないなって」

「そりゃお前、あれだけキラキラした目をしてたらスクールアイドルに興味があるって思うだろ。それにこれまでの経験上、スクールアイドルに付き纏っている奴は何かしらアイドルに思い入れのある奴らばかりだったからな」

 

 

 μ'sのにこや、Aqoursの花丸やルビィ、虹ヶ先の栞子やミアといった奴らが真っ先に思い浮かぶ。もちろんそれ以外にも大なり小なりスクールアイドルに興味をもっていたけどやるか渋っていた奴もいる。俺がいない時に加入した奴もいるが、スクールアイドルをやりたいと思っている奴は目が違う。周りには気付かれてないかもしれないけど、俺の目を誤魔化せない輝きと憧れがあるんだ。

 

 メイなんてまさにそうで、かのんたちの練習を見て1人で盛り上がっているものだからスクールアイドル好きと気付かない方がおかしいだろう。

 それにだ、俺だってコイツがただのファンなら覗き見を注意するだけで終わっていたと思う。だけど話している内に自分でもやってみたい意志を感じられたため、それはもう後押ししてやるしかないと思った次第だ。やりたいことがあるならやりたいって素直に言えばいいのに、どいつもコイツも尻込みするから俺の仕事が増えるんだよな……。

 

 

「確かにあの頃の自分はスクールアイドルをやりたかったけど、同時に向いていないとも思ってたからああやって遠くから眺めて応援することしかできなかった。それに私はツリ目で見た目も強面だから、なおさら自分には似合わないって思ってたよ」

「眉間にしわを寄せると威嚇してる風にしか見えなかったからな。最初その目を見た時は不機嫌のハードルが低い奴だって思ったくらいだ」

「それを直接本人に言う精神がどうかしてる。教師として生徒にかける言葉とは思えなかったよ、あの時。『スクールアイドルをやりたいんじゃないのか?』って聞かれたから『この怖い風貌で似合うと思うか?』って聞き返したら、即座に『怖いな、よく見ると』って! これでも私は女なんだからちょっとは遠慮しろよ!」

 

 

 遠慮なんてしてたら女の子の本心は見抜けないんでね。とは言いつつも自分勝手に人の心を引っ掻き回すからデリカシーがないだの言われるんだろうけど……。

 

 メイが強面で悩んでいるのは出会った初期から本人の口から聞いていたので知っていた。確かに覗き見していた時の目はLiellaの練習風景を生で観られて感動していた輝きはあったものの、時たま眉間にしわを寄せて仏頂面になっていることもあった。スクールアイドルに興味があるのと同時に憎んでるんじゃないかとも思ってしまい、だからこそ声をかけたって経緯もある。

 結果的に遠目の時に強面になってしまうのは視力があまりよくないから、という理由が後から四季によって語られた。つまり憎むどころか大好きなLiellaをもっとよく見たいという、ある意味で純粋な気持ちの現れだったらしい。だがその面の怖さが原因で、友達と言えるのが四季くらいになってしまったわけだが……。

 

 

「怖いとか思っておきながら、結局私に何度も何度も話しかけてきて物好きな先生だなって思ったよ。こんなスクールアイドルに似合わない奴なんて放っておけばよかったのに」

「見過ごせなかったんだよ。やりたいことがあるのにそれを隠して、でも練習を覗きに来るくらいには好きで好きで堪らなくて、結果本心を隠しきれていない中途半端なお前をな。そんな情緒不安定な奴、放っておけないだろ普通」

「放っておくんだよ普通は。教師だから生徒の心配をしてただけかもしれないけど……」

「別に俺が教師だからとか、お前が生徒だからとか、そういった職業の差は関係ないけどな。女の子が困っていたから助けた、それだけ」

「女しか助けないのかよ……」

「俺の夢に男は含まれていない」

「教師としては満点だけど、人間性には問題ありって理事長が言ってたことは本当だったんだな……」

 

 

 なに生徒に吹き込んでんだあのババア。自分では存続させられなかった学校を救った恩人になんて言い草だ。まあ男は見捨てて女を救うって言ってることは最悪だからな。そもそも俺の周りに男がいないから問題になってないだけで……。

 

 

「それにだ、私は自分を『女』として見られたいってのはあるけど、『女の子』って呼ばれるのには抵抗があるんだ。そんな可愛い存在じゃねぇし……。だから先生が目をつけるほどじゃねぇってことだよ」

「可愛いと思うけどな、俺は」

「は、はぁ!? どこがだよ!? 顔も怖いし口調も汚いし、こんなガサツな女の子を誰が可愛いって!?」

「そうやって自分の魅力に気付いていないところだよ。スクールアイドルを初めて何か月も経ってるのに、まだ似合わねぇとか思ってるのか?」

「それは先生のおかげで少しは改善したけど……。でも愛想のいいきな子とか夏美とか、美人の四季の方がまだいいだろ……」

 

 

 スクールアイドルを始めてからは自分に対してある程度の自信がついてきたメイだが、それでもまだ自分が強面風貌なことは少し気にしている様子。まあスクールアイドルをやってるんだから周りがみんな美女美少女なのは仕方がない。アマチュアでもアイドルなんだから、容姿のレベルが高い奴らで集まらないと人気も出ないだろうしな。

 

 その悩みはスクールアイドルになる前から漏らしていたことで、俺もその時からコイツの悩みは知っていた。だからこそ――――

 

 

「あの時も言っただろ、他の奴らと比べる必要はない。スクールアイドルやるような奴はみんな可愛いんだから、比べるだけ時間の無駄だ。だったらすみれみたいに自分がNo.1と思っている方がまだマシだよ。どうしても比べてしまうのであれば、俺がお前だけの魅力を引き出してやる。顧問としてもそうだし、男として女の子を輝かせるのは当然だ、ってな」

「そんな恥ずかしいこと、真正面から良く言えるなって思ったよ。しかも『そんな眉間にしわ寄せるなよ。いい顔なのに勿体ないな』って、褒められたのは四季以外で初めてだった」

「自分の気持ちにウソは付けないんでね。それにあの頃のお前は自分に自信もなくて、本心を隠したがる面倒な奴だったからな、相手にするならまずは自分から本心を曝け出さないとって思ったんだよ」

 

 

 自分に自信がない子ってのは他の子と自分を比べがちだから、まず比較する必要がないことを教え込むことが重要。それでも気にするのであれば、お前の魅力をまず俺だけに魅せてくれとお願いする。もちろんそれで全てが解決するわけじゃないけど、その子の行動理念がちょっとでも変わってくれればそれでいい。隙さえできれば心に入り込む手段はいくらでもある。

 

 

「そこからだったよな、お前がスクールアイドルをやりたいって漏らしたのは」

「こんな私でも受け入れてくれる人がいる、見てくれる人がいるって思ったからな。それに『誰にも話せねぇし、笑いもしない。だからまず俺だけでいいから話してくれ。お前のやりたいこと』って、真剣に聞かれたら言うしかないだろ。そこまでひたむきに応援されたらもう逃げるわけにはいかねぇじゃん。あっ、もしかしてそうやって私の逃げ場をなくしていたのか?」

「どうだかな。俺は聞きたかっただけだよ、お前の心の声をさ」

 

 

 その子の本心が聞ければもうこっちのものだ。ストーカーと言われようとも、ねちっこく話しかけてきていると文句を言われようとも、その子の心を解放することができれば話は簡単に進む。

 結局のところ、コイツは自分がスクールアイドルになれない理由を探していただけだ。やりたいって気持ちは根底にあったわけだから、誰かがコイツの悩みを受け入れて、それでも後ろには引かずに後押ししてやるだけで良かったんだよな。

 

 同期のきな子や四季、夏美はもっと分かりやすい奴だったのに、コイツはひたすらやらない理由を自分に言い聞かせてたから、自分で自信をつけさせるのに苦労した思い出がある。それでも今ではステージ上でいい笑顔を見せてくれるから、やっぱり俺の見立ては間違ってなかったし、なによりコイツの心配は杞憂だったってことだ。今ではその強面ながらイケメンと見られることも多く、そういったファンも少数ながらいるっぽいしな。

 

 

「本当に、先輩たちも言ってたけど先生が心の中を掘りに穿(ほじく)ってくるってマジの話だったんだなって。ちょっとでも隙を見せたら先生の想いが雪崩れ込んできて、いつの間にか一歩を踏み出している。これ、ある種の洗脳教育じゃねぇか??」

「失礼な。もう何年こういうことをやって来たと思ってんだ、慣れてるからに決まってるだろ」

 

 

 μ's時代からカウンセリング地味たことをやってるから慣れるのは当たり前だ。それにスクールアイドルの子ばかりを相手にしてるわけでもないので、その子の本音を聞き出すために無茶をしたことはコイツらの想像以上に多いと思うぞ。自慢することじゃねぇけど……。

 

 

「そこからはあまり邪険にされることはなくなった気がするな。むしろ笑顔が増えて、そっちから話しかけてくれてたっけ」

「だ、だって私を立ち直らせるだけ立ち直させておいて、その後はあまり絡んでこなくなったじゃねぇか! あれだけねちっこく話しかけてきたのに急に……」

「そりゃ後はお前がスクールアイドルに入るってアイツらに伝えるだけだからな。もしかして、俺に会えなくて寂しかったとか?」

「う、うるせぇ!! 自惚れんな!!」

 

 

 顔を真っ赤にして言われても説得力ねぇ……。 

 ただコイツから話しかけてくるようになったのは本当で、自分への自信の問題を解決した後はもう1つの問題を解決すべく俺を頼ってきたわけだが、もうその時点でコイツの中で俺が信頼を置ける人物になっていたことに嬉しく感じた。別に打算的な結果を求めてるわけじゃないが、女の子から頼られるって気持ちいいもんな。

 

 ちなみにそのもう1つの課題ってのは四季のことで、メイは自分がスクールアイドルに入ることで四季が1人ぼっちになるのを気にしていたみたいだが、それはまたアイツと昔話をする時にでも語られるだろう。

 

 

「ま、なんにせよまたそうやって自分が好きなことを誰の目も気にせず楽しめるようになったのはいいことだな」

「それはそうだけど……。何もかも先生の想い通りになってるみたいで釈然としねぇな」

「捻くれてんなぁお前。ただどんな手を使おうと、お前の心からの笑顔が見られたから俺の勝ちってことで」

「なんだよそれ。感謝はしてるけど……」

「そういうのは小さな声じゃなくて聞こえるように言うもんだぞ」

「聞こえてんじゃねぇか!! ほら、さっさと仕事に戻れ!!」

「お前が動画を観るから一緒に来いって誘ってきたんだろうが……」

 

 

 恥ずかしさのあまり部室から追い出しやがったアイツ。すげぇ理不尽を押し付けられたような気がしたけど……。

 でも、そういった恥ずかしがる姿を向けてくれるようになっただけでも、俺たちの関係は良い感じに進んでいるのかもな。

 




 今回はメイの個人回でした!
 零君ってみんなにカウンセリングをやってるので、もはやこの小説の世界線のLiellaは零君が作ったまでありますね(笑)


 ちなみに今回の投稿で話数が555話といい感じの数になりました!
 何か記念回とか描きたいのですが、今のLiella編の第二章の終了予定話数から逆算すると、あまり特別編を描けないジレンマが……。
虹ヶ先映画が上映している期間で虹ヶ先の特別編、というより侑とのいい感じのお話を1個考えていたのですが、明らかにタイミングを失ってしまったのでいつか公開したいと思います。
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