『ラブライブ!』の決勝も近づき、スクールアイドル界隈の盛り上がりも最高潮に達している今日この頃、その熱気を更に激しくさせるイベントが開催されることになっている。
決勝戦に出場するグループへのインタビュー、および壮行会だ。インタビューはテレビで生放送され、壮行会ではディナーバイキングまで開催されるという大盤振る舞い。昔から大きな大会の前にはこういった行事があったと言えばあったのだが、最近は規模が違う。昨今の界隈の盛り上がりのおかげかスクールアイドル事業の利益は大きく伸び、ライブを伴わない催し物にも金をふんだんに使えるようになったのだろう。
今回のイベントには決勝に出るグループ全てが参加しており、その中にLiellaはもちろんSunny Passionやウィーン・マルガレーテも当然いる。決勝よりも前にいち早く現在をときめくスクールアイドルたちが集結するイベントなので、界隈の熱量はそれはそれは大きく上がるようだ。
そんな中、俺はLiellaの顧問枠としてイベント会場への入場を許されていた。ただ顧問がインタビューを受けたり壮行会で登壇したりすることはないので、夜の開催と言うこともあり生徒の引率という位置付けだ。さっきも言ったが壮行会の後には無料のバイキングが解放されるので、タダ飯を食えるのならそりゃ行くだろうって話。今晩はいつも飯を作ってくれる妹が用事でいないのでちょうどいい。
ただ、1つ気になるのは――――
「なんでお前がいるんだよ七草。スクールアイドルの関係者じゃねぇだろ」
「Liellaのお手伝いって言ったら入れちゃった♪ ちょろいちょろい」
「どんなセキュリティしてんだよここ……」
まあ同じ制服を着てるから勘違いするのも無理ねぇけど、隣にいる奴みたいなのが侵入するから来場者名簿くらい作っとけよな……。
そんなこんなで俺たちは会場内のイベントステージのある大ホールの隅っこにいる。もうすぐで各スクールアイドルたちが登壇して意気込みを語るインタビューが行われるので、その準備の邪魔をしないよう端っこにいるわけだ。
そして、俺の隣にいる七草七海。赤髪ツインテールの小柄な美少女。ただスタイルは良く出ているところは出ており、しかもイマドキ女子っぽく制服を着崩しているので胸や太ももなどその肉付きの良さが際立っている。
元々はLiellaの良き理解者でかのんと可可が2人でやっていた時から応援してくれていた古参勢であり、更に他の部活の手伝いもしていた結ヶ丘のヒーロー的ポジションだった。だけどそれは単なる猫被りであり、その実態は人を小馬鹿にして弄ぶことを愉悦としている小悪魔だ。いい子ちゃんをしていたのも目的あってのことで、もはやあの頃のコイツと今のコイツが全くの別人に見えてしまう。
「いやぁ、澁谷ちゃんたちが無事に決勝に行ってくれて助かった助かった。これで途中で負けたなんて言ったら恨みの炎で消し炭になって今頃この世に存在してなかったから、あの子たち」
「勝手に自分の想いを人に乗せておいて良く言うよ……」
「背負った想いの数だけ強くなるって言葉もあるから。主人公ならね」
「残念ながらここは現実。そんな甘くはねーよ」
「そうだねぇ。この世界は誰しも自分が主人公、ではなくて、センセーが主人公の世界だもんねぇ」
「何言ってんだお前は……」
七草はくすくすと笑いながら皮肉を漏らす。こうやって人を煽るような言動をするコイツだが、何故か憎めない。顔がいいからなのかは知らないが、確かにこの終わっている性格で顔も並程度だったら間違いなくパンチしていたので人を惹きつける魅力はあるのだろう。
そんなコイツがLiellaの決勝進出を心の底から喜んでいるわけもなく、それはあくまで自分の未来を叶えるために手段に過ぎない。どうやら育て親である秋葉から、俺と恋愛する場合はLiellaを『ラブライブ!』で優勝させることが必要条件と伝えられてるらしい。どうしてアイツがそんな課題を出したのか、どうしてコイツが従っているのかは不明だが、育て親としてある種の洗脳教育みたいなのを施されてきたせいかもしれない。その割にコイツは秋葉のことを悪魔だのなんだの言ってるが、そう考えるとコイツも被害者なんだよな……。
「センセーも鼻が高いんじゃないの? 自分の女がスクールアイドルの頂点だなんて。あっ、でもそんな経験いくらでもあるか。人気のスクールアイドルの裏にはいつもセンセーがいるもんね」
「まるで俺が黒幕みたいな言い方だな……」
「実際にそうでしょ? センセーのために女は自分を磨き、その魅力をセンセーのために振りまいて、ついでに優勝しちゃうみたいな? どうどう? 本来スクールアイドルはファンや不特定多数を有象無象に勇気と元気を与える存在。そんな女たちが本当は自分しか見えてなくって、しかもその全員とお付き合いしていて、更にはエッチなことまでしちゃってる優越感は??」
「今更だな。だから何も思わない」
「おぉ~強者のセリフだねぇ。そうそう、コレクターっていうのは自分の手に入れたトロフィーを数えたくなるもの。そしてそれはいくつあってもいい。ふふっ、男にとって本来その
コイツ、俺のことを煽って何がしたいんだよ……。そうやって俺の立場を自覚させることで、自分も一緒に取り込んでもらおうって腹か?
ただ、コイツの言うことは間違ってはいない。そりゃあれだけたくさんの美女美少女たちと付き合っていると男として頂に立ってるなって優越感に浸れる。同時にたくさんの女の子の笑顔を見るという俺の目標も達成できて、自分を取り巻くこの環境への満足感も高くなる。七草の言ったようなトロフィーコンプという表現は考えたことがなかったが、そうやって言われてみるとそれに近いのかもしれない。もちろん慕ってくれる女の子たちのことを優越感を満たすための称号なんて思っちゃいないがな。
「そうやってあなたはいつもいつも……。いい加減、この人を困らせるのはやめなさい」
そうやって七草に煽られていると、別のところから鋭い声が割り込んできた。
エレガントパープルの艶やかな長い髪の少女――――ウィーン・マルガレーテがこちらに歩み寄ってくる。眉間にしわとまでは行かないが、雰囲気的に何やら怒っている様子。こうやって感情を出さずに静かに怒る奴ほど怖いんだよな。中学生相手に何ビビってんだって話だけど、コイツどこからどう見ても中学生には思えねぇんだよ……。
「関係者ではないのにここに忍び込んだ挙句にこの人にまで迷惑をかけるなんて、相変わらず好き勝手し放題ね、七海」
「大丈夫、センセーは迷惑だなんて思ってないから。むしろこんな美少女まで手に入れることができてラッキー、みたいな?」
答えづらい質問を振るなよ……。
ウィーンと七海は同じ出自と境遇であり、秋葉を育て親としているところも同じ。言ってしまえば幼馴染の関係にある。お互いに名前で呼び合っているものの、仲がいいのか悪いのか。今のやり取りや文化祭で七草による監禁事件の時もそうだけど、傍から見ると関係がギスってるように感じるのは俺だけだろうか……。
「どうでもいいけど、お前こんなところにいていいのか? もうすぐインタビューが始まるらしいけど」
「大丈夫。出番の直前に舞台袖にいればいいから。それに私の出番は最後の方で、あまり騒がしいのは得意じゃないからここに来た。余計な誰かさんが余計なことをしないように見張っておくためにも」
「余計を強調しないでくれるかなぁ~? で、Liellaのみんなとは挨拶したの?」
「少しだけ」
あまり多くを語らないのがウィーンの性格。挨拶と言っても向こうから話しかけてきたのを一言で返しただけなんだろうと容易に想像できる。
「そうやって誰にでもお堅く振舞ってると嫌われちゃうよ?」
「そうやって誰でも見下すような性格をしてると嫌われるわよ」
「どっちもどっちだなお前ら……」
売り言葉に買い言葉。そうやってお互いを牽制しあっているのか。お調子者とお堅い性格で相反するように見えるけど、一緒にいるのなら趣味は合っても同じ性格の奴とはそりが合わないって聞くし、意外と仲はいいのかもしれない。でないとこうやって2人が顔を合わせることも、喋ることもしないだろうしな。
「でもビックリ。まさかマルがこういうイベントに参加するなんて。騒がしいのは苦手だから、そもそも来ないかと思ってた」
「いつもならそうしてるわ。でも今回は見せつける必要があるから、自分と言う存在を。
「俺……?」
「そう。私はこの大会で優勝して、自分の想いを伝える」
七草に恋愛するための条件が課せられていたように、ウィーンにも同じくミッションがある。好きな奴と恋愛するってだけでもそれなりにハードルがあるとは思うのだが、そもそも恋愛に漕ぎ着ける前に別のハードルがあるって今思うと意味分かんねぇよな。
ウィーンが恋愛する条件はまさしく今コイツが言った通り、この『ラブライブ!』に優勝することだ。コイツの人の目を釘付けにする圧倒的なパフォーマンスと歌唱力はスクールアイドル界隈だけでなく一般メディアも騒がせた。実力は過去のスクールアイドルと比べても上位クラスなのは間違いなく、基本は複数人でグループを組むのが普通なのにコイツは1人でここまでの成績を打ち出したりと、それこそ本当に自分1人の実力でのし上がってきた証明となる。
ここで気になることは、七草とウィーンの恋愛条件の矛盾だ。
「お前らって目標がお互いに反対だよな。七草はかのんたちの優勝、ウィーンは自分の優勝。つまりどっちかが条件を達成できないってことだろ?」
「そうだねぇ。でも別にいいんじゃない。できなかったらできなかったで別の方法を考えるだけだし、これっきりで終わりじゃないからね」
「えぇ。私は自分を魅せるのが得意、七海は人を操るのが得意。お互いの特徴を捉えたミッションだから、特段問題はないわ」
なるほど、全力を出せるからこそ恨みっこはないってことか。そもそも七草が言っていた通り条件達成に失敗したところで人生が終わるわけではないから、そこまで気負う必要もないのだろう。でも自分の長所を俺に見せ付けるいい機会だから、自分のミッションをクリアするのは自分の実力を示したという確固たるアピールとなる。だからこそ人生が終わるわけではないけど頑張る理由があるのか。引っかかる部分もあるがとりあえず納得はした。
「なんにせよ、私たちはどちらもセンセーに告白するために生きているってこと。どう? 2人の美少女から愛されるのは??」
「いちいち感想を聞いてくんな……。でも答えるのなら『嬉しい』の一言だろ。男なら誰でも同じ回答になりそうだけどさ」
「拒む意志がないという気持ちが分かっただけでも安心。あなたからしたら、いきなり見ず知らずの女から好意を向けられて困っているだろうから」
「入れ込んでるな、俺に」
「そりゃそうだよ。生まれた時からずっと好きだったんだから」
それは流石に言い過ぎだとしても、虹ヶ先の奴らと同じく火事現場で俺に救われた1人ではあるから、恩義を感じたり恋愛感情を抱くのは分からなくもない。でもコイツらの場合は当時まだ生まれてなくて、俺が助けたのはその母親だったらしい。その時の記憶がないから思い出せないけど。
そしてコイツらを使えると思ったのか、秋葉は2人の母親を上手く騙し教育係として潜り込むことで、コイツらに過去の出来事と俺という存在を物心が付く前から叩き込んだ。そう考えたらまぁ、生まれた時から慕っていたってのはあながち間違いでもないのかもな。
「あっ、先生だ。おーいっ!」
「ん? 悠奈……?」
元気のいい声が聞こえてきた。
少し離れたところにいるSunny Passionの1人――――聖澤悠奈が手を振ってこちらに近寄って来た。その後ろには彼女の相棒の柊摩央もいる。
「先生! 久しぶりです!」
「お久しぶりです」
「久しぶりって、顔は合わせたことあるけどな」
「でもそれって、先生がかのんちゃんたちのビデオ電話にたまたま映り込んだ時だけじゃないですかー!」
「そうだっけか」
まさかのサニパともエンカウント。
こうして生身で会うのは久々、みたいな雰囲気だが、実は少し前に俺だけコイツらの姿を見たことがあるので久々感はない。あの時は楓と一緒にかのんと共にいたコイツらを見かけた上に、恋愛相談をしているところを意図せず盗聴してしまった。そのせいでコイツらの顔を見るたびに、あの時のことバレてねぇよなって警戒しちゃうんだよな……。
「そちらの方は、確かウィーン・マルガレーテさん、ですよね?」
「えぇ」
「初めまして。私は柊摩央、こちらの騒がしいのは聖澤悠奈」
「おぉ~凄い! こうして実際に見てみるとすっごく綺麗だね! いつもライブ見てるよ!」
「どうも」
「一緒にいるということは、先生とウィーンさんはお知り合いなのですか?」
「あぁ、ちょっとな」
サニパ勢の挨拶に対し、壁にもたれながら一言で返すウィーン。もっと愛想良くしろよとは言いたいがそれを言わせぬお堅いオーラを醸し出しており、七草の言っていた堅すぎるって意味が改めて分かった気がする。
ちなみに俺とウィーンの関係を聞かれて少し焦ったのは内緒。実際にどういった関係なのか言葉にしづらい。本当のことを言うわけにもいかないし、今だと教え子のライバルのスクールアイドル、とかになるのか?
「そっちのツインテの子もスクールアイドル?」
「いえいえ~! 私はかのんちゃんたちを応援しに来ただけですよ!」
「そうなんだ! あれ、でもここってスクールアイドルとその顧問しか入れなかったはず……」
「マネージャーみたいなものなので、特別に入れてもらったんですよ♪」
猫被ってる……。あまりの性格の豹変っぷりにウィーンも溜息を漏らしていた。
いわゆる
にしてもこの笑顔と人当たりの良さ、コミュ力の高さを見るとコイツの本性になんて初見で気付ける奴いねぇよな。俺たちだって1年半気付かなかったわけで、しかもコイツからネタばらししてきたから下手をしたらずっと気付かなかった可能性が高い。勉強もできて運動もできて、演技力も完璧。つくづく能力の高い奴だなって思うよ。
「お前らも油売ってるってことは、インタビューはまだ先なのか?」
「はい。なので先ほどLiellaの皆さんに挨拶した時に先生が会場にいらっしゃると聞いたので、是非ともご挨拶をと」
「律儀な奴だな。ま、頑張れよ。応援してる」
その瞬間、サニパの2人は目を丸くした。同時にサニパが来てから微動だにしなかったウィーンも身体をぴくりとさせ、七草もこちらを見上げた。
「応援してくれるんですね、私たちのこと。Liellaの顧問なのに」
「別にいいだろ。俺は贔屓しない。アイツらに勝って欲しいとも思ってるし、お前らやウィーンに勝って欲しいとも思っている。確かに顧問って肩書はあるけど、俺が見たいのはお前らが輝く姿だからな。そこに所属も肩書も関係ねぇよ。ぶっちゃけて言えば、応援するのにライブなんてシチュエーションすらもいらない。スクールアイドルとか関係なく、何事にも真剣に向き合う女の子は魅力的だから応援したくなるのは当たり前だ。サニパもウィーンも、七草も、そういった意味ではみんな同じだろ。だから応援する、誰であっても」
大会だから誰かが勝って誰かが負ける。悔しい思いをする奴は絶対にいるだろうが、それ以上に悔しいけど後悔はしないライブをして欲しいと思っている。自分のやりたいことに対して全力で、そして最高の笑顔を見せて欲しい。その俺の想いは誰かを贔屓するとかは一切なく、ただ単に自分を取り巻く女の子たちの可愛い姿を観たいだけなんだ。
それはスクールアイドルをやっているサニパやウィーンに対しても言えるし、別にそれと関係がない七草にも言える。コイツの場合かのんたちを後押しする方法は結構あくどいけど、それでもアイツらの恋愛感情を焚きつけて前進させているのは事実なので、結果だけ見れば助かっている部類だ。だから俺は七草であろうと応援する。
普通のことを言ったはずなのに、4人は俺の顔を見つめたまま目を離さなかった。
「そういうトコ。そういうトコだよねぇセンセーは……」
「これが神崎零という男性……。なるほど……」
「あはは、結構恥ずかしいねぇこれ……」
「そ、そうですね。でも、ありがとうございます……」
この場所だけ気温が上がった気がする。ただ応援してるだけなのに心が揺れ動き過ぎだろコイツら……。
「応援されたからには頑張らないといけないですね。私たちももう3年生。島起こしのため、島の人たちにワクワクを届けるため、そして何より私たちの高校生活最後の思い出作りのため、絶対に優勝してみせますよ!」
「はい。島の方々の期待を背負い、ステージでは精一杯楽しみながら皆さんにも感動を届けられればと思います」
サニパにも勝つ理由があるってことか。大会に参加してるってことは大なり小なり何かしらステージに立つ思いはあるはず。だからコイツらもLiellaやウィーンに負けないくらいの思いがあったってことだ。
誰しもが勝ちたいという気持ちを抱いている。その気持ちこそ彼女たちがより魅力的に映る源になる。今回はそれを知ることができたからここに来て良かったかもな。
To Be Continued……
こうやってサブキャラたちを描いていると、サブもサブでいい子たちばかりでスピンオフとかやってみたくなる衝動に駆られます(笑)
それでメインキャラに昇格したのが雪穂、亜里沙、楓なのですが、あの頃は時間があって1週間に大量に話を投稿できたのでサブをメインに押し上げることができましたが、週1投稿になった今ではそれもキツイ現状がありますね。サブキャラばかり活躍させてメインキャラをおざなりにするなんてできませんから。
今回は前編でサブキャラ回でしたが、次回の後半ではしっかりLiella回です!
年末に最終回を迎えるにあたりクライマックスが近づいている関係上、結構真面目な話が続くのでご了承ください!