「いやぁ~今回も大変だったみたいだね~」
「お前が変に焚きつけたからだろ。他人事みたいに言うな」
隣にいる秋葉が弁当を突きながら俺を労おうとしている。ただいつもの如く大体コイツのせいなので、もちろん感謝することはない。むしろ事態を余計にややこしくしたことを謝罪して欲しいものだが、コイツのことだ、現場が荒れることなんて見越した敢えての行動だったのだろう。相変わらずの悪魔っぷりだな、慣れたけど。こうやって慣らされてることすらコイツの計算の内だったりするのか……?
『ラブライブ!』の決勝が終了し、時間が流れて現在は年明け。本日から3学期の授業が始まっている。教師の俺はもちろん、非常勤講師であるコイツも久々に授業にしに学校へ来ていた。非常勤とは言っても今年度はほとんど海外にいたから、もはや教師としての役職なのかすら怪しくなってるけど……。
気になっているであろう結論から先に言ってしまうと、Liellaは優勝した。審査員やファンからの投票で決まるのだが、サニパとウィーンと接戦を繰り広げた後に一歩抜け出して何とか1位。正直ギリギリだったのでアイツらが飛びぬけて凄かったわけではないが、それでも栄冠を手に入れたのは事実。見事結ヶ丘にトロフィーを持ち帰った。
そんなわけで無事に大会も終了し、張り詰めていた緊張の糸も解れたので久々に落ち着いた日々を過ごしていた。
でも、まだ俺とLiellaの関係の話が残っている。ただあれ以降みんなから動きはなく、そのまま年末年始を過ぎて今に至る。優勝で盛り上がったと思ったらすぐに年越しだったから、俺との関係をどうするのか整理をする時間はなかったのだろう。ま、そんなに急ぐことでもないしな。
そんな状況で始まったのが3学期で、こうしてほのぼのとしている最中に起こったのがこのシチュエーション。昼休みに飯に誘ってきたと思ったら、掛けてきた言葉がさっきの煽りだ。自分で七草やウィーンを焚きつけて俺たちに差し向けたくせによく言うよ。そのせいでLiellaの面々も大なり小なり焦ってたし、背中を押すって意味だとしても強引過ぎるだろ……。
「他人事って、零君が女子高生と恋愛してることや、かのんちゃんの留学のことは私に関係なかったことだしぃ。ちょっとでも面倒事があると私のせいにする癖やめてよね」
「だったら自分の日頃の行いを思い返してみろ。それに、どうせ俺がこの学校に来ることを仕組んだのもお前だろ。理事長が漏らしそうだったぞ」
「えっ、ホント? 全く、あの理事長ってば節々でツメが甘いんだから……」
「それには同意だけど、とにかく俺とアイツらがこんな関係になってしまったのは間接的にお前が原因ってことだよ。教師と生徒で男女の関係って大概だぞ……」
「既に実姉や実妹と関係を持ってる男が言うと余計に背徳感増すよねぇ。このままもっと色んな属性の女の子をゲットしちゃおっか?」
「するか」
反省の色ゼロ。むしろコイツから反省が見られた日には地球の終わりそうだが。
それにしてもこの調子だと、またいつか別の女子高に俺を差し向けそうだなコイツ。自分の人生に愉しみがなく、弟の人生を弄んで愉悦を感じるしかない人格破綻者だから仕方がないか。それでもそのおかげで俺も色んな女の子に出会えているってメリットもあるため、あまり強くは言えないところがジレンマだったりする。
「んで、どうするの? これは真面目な話」
「アイツらのことか? 別に俺からはどうもしない。アイツらも自分から言う気満々みたいだから」
「っそ。そうやってカッコつけてるけど、内心楽しみにしてるんでしょ? 零君も案外惚れっぽいからねぇ澄ました顔してるわりに」
「そうだな」
俺は弁当箱の蓋を閉じ、立ち上がる。
「好きになったのは、俺の方が早いかもな」
チョロさで言えば人のことは言えないかもしれないと、改めて自覚した。
~※~
「七海ちゃん、本気……?」
「もちろん」
「失望しちゃうかも……」
「一応親友だったよしみで遺言を聞いてあげようとしてるから、むしろ感謝して欲しいよ」
「え……?」
部室に来てみたら、拳銃を手に持ち銃口をかのんに向ける七草がいた。一方かのんは部室の端に追い詰められ、まさに一触即発の状況である。
ちなみに拳銃はどう見てもちゃっちいモデルガンのようであるが、知識のない人が見たら勘違いするのも無理はない。現にかのんがその状況のようだ。
「せ、先生!! 七海ちゃんが……七海ちゃんが……!!」
「なにしてんだよ……」
「もう用済みってやつだよ、センセー♪ 澁谷ちゃんたちが『ラブライブ!』に優勝したことでアタシの目的は達せられた。そう、Liellaを優勝に導いたらセンセーに恋できる権利を得るっていうね。だからもうLiellaは用済み。1人1人消していく」
「ちょっと本気!?」
本気ではない。本気なのはかのんだけで、部屋の隅で怯える彼女を見て七草はほくそ笑んでいた。よく見たらモデルガンより明らかにオモチャ感があり、ハンドメイドであることがはっきりする。
秋葉もそうだけど、どうして俺の周りには悪女までもが揃っているのか。アイツの言う通り色んな属性の女性を引き寄せる体質が故か……。
「安心して。仲間の死に顔を見せないよう、澁谷ちゃんを真っ先に逝かせてあげるんだから……♪」
「信じてたのに……」
「じゃあね♪ 楽しかったよ、友情ごっこ」
そして、七草は引き金を引いた。
かのんの胸元から赤い液体が飛び散る。
「ぐぅぅううううううううううう――――――って、え? 痛くない」
「だって発射したの絵具だもん、それ。血がそんな鮮やかな色なわけないでしょ」
「えっ!?」
赤い液体は絵の具であり、かのんの身体から飛び散ったのではなく、銃口から発射されたものだった。肉眼でも簡単に絵具の入った玉が確認できたし、その玉が制服に当たった瞬間に中身が飛び散ったのだろう。
かのんは自分の胸に付着した赤い液体を人差し指で
そしてそれを認識した瞬間に顔が真っ赤になり、立ち上がってつかつかと歩いて七草に詰め寄る。
「七海ちゃん、今日という今日は……!!」
「どうどう。『ラブライブ!』の優勝者がしちゃいけない顔してるよ。スクールアイドルとは言えどもアイドルなんだから、アイドルの子がそんな顔しちゃダメ」
「よく言えたねぇそんなこと!!」
鬼の形相になるかのん。そりゃそうなるわとしか言いようがなく、もはや俺は口を挟むタイミングすらも見失っていた。
「とりあえず、この絵具塗れになった制服をどうしてくれるの?? ねぇねぇ?? まだ午後の授業あるんだよ? ねぇねぇ??」
「アタシはね、これでも感謝してるんだよ。澁谷ちゃんたちLiellaにはね」
「へ……?」
「これでようやくアタシにもチャンスが巡って来た。センセーをようやく手に入れられる、そのチャンスが。生まれた時から願い続けてきた夢が叶うんだよ」
「七海ちゃん……」
急に真面目なムードになる七草。彼女の過去を知っている俺たちからすると、チャンスが来て夢が叶いそうになっているというフレーズにはかなりの重みを感じられる。秋葉に植え付けられた想いとは言え、幼い頃から、物心が付く前から好きだった男にようやく手が届きそうになるんだ。その足掛かりをくれたLiellaに感謝しているっていうのは、もしかしたら本心なのかもしれない。
普段は人をからかって小悪魔な笑みを浮かべているコイツでも、人に感謝する気持ちってあるんだな。
「というわけでセンセー、これからは容赦しないんでヨロシク~」
「容赦って、監禁までしておいてまだ激しくなんのかよ……」
「センセーだってチャンスだよ。色んな属性の女の子をゲットする、ね」
「するか」
秋葉と同じこと言いやがって。アイツに教育されただけに思考回路もアイツ寄りになってんじゃねぇかコイツ。ただウィーンの方はそうでもないから、元からこういった性格なのかもしれない。監禁までするヤンデレメスガキってどこに需要があるんだか。いやまぁ、ありそうなのが怖い……。
「そういえば先生は七海ちゃんのことをどう思っているんですか……? なんだか七海ちゃんだけ盛り上がっているような気もしますけど……」
「俺? 俺は来るもの拒まずのいつものスタイルだから、相手がお前らだろうが七草だろうが関係ないよ。向かってくる相手に真正面から挑んで応えるだけだ」
「そういうこと。だからアタシがセンセーを監禁しようが嬲ろうが、何をしても許してくれるってこと」
「いやそこまでは言ってねぇ……」
「んなわけで、昼休みも終わりそうだからそろそろ帰るよ。澁谷ちゃんも遅れないようにしなよ」
「えっ、同じ教室なんだから一緒に行けば――」
「それじゃ!」
七草は足早に部室から去った。まるで逃げるような素ぶりだったが、その理由はかのんの今の姿を見れば明白。
「あっ、絵具!? このベタベタになった制服どうするんですか!?」
「俺に聞かれても……」
かのんの制服は赤の絵の具によりベッタリと汚れていた。途中で真面目な話を差し込んできたから、かのんの追及を逃れるために話題を切り替えたに違いない。どこまでも策士っつうか、読めない奴っつうか……。
「もうガッツリ洗濯するしかねぇだろうし、午後はジャージで過ごすしかないな」
「恥ずかしい……。そして七海ちゃんが絶対に笑ってくる。『クスクス。どうしてあの子ジャージなの』って。う゛っ、考えただけで頭が……」
「お前ら、本当に親友なんだよな……?」
「怪しいかもしれない……」
コイツらのやり取りを見るたびに毎回本当に友情が芽生えているのか疑わしくなってくる。もはやその芽が刈り取られてるんじゃないかとも思うが、なんだかんだ一緒に出掛けたりすることもあるらしいので、やっぱり仲は良い方なのだろう。七草の仕掛けるイタズラもかのんだったら、Liellaだったら大丈夫という信頼があるからかもしれない。
結局のところ、Liellaが優勝しても七草の調子はいつも通りだった。もしかしたらかのんたちの勝利を確信していたのかもしれないが、それでも自分にとってのチャンス、そして夢の到達点が見えてきたことには大きな喜びが滲み出ていた。これでも2年間アイツを見てきた(とは言っても1年半くらいは仮面被ってたけど)から、外面では分からなくても内面でテンションが高いときの様子くらいすぐ分かる。
どんな事情があるにせよ、アイツだって恋する乙女の1人だ。それはかのんたちと何ら変わりはない。最初は恋のライバルみたいなポジションで本性を現したけど、来るもの拒まずスタイルの俺に浮気の概念が存在しないことを知っていたアイツは元からライバルなんてつもりはなく、だからと言って誰かの邪魔をして出し抜くこともしない。あくまで自分の恋を叶えるために全力を出しているため、その真っすぐな信念は俺も認めざるを得ないところだ。
アイツもまた俺との関係を望んでいるのであれば、さっきも言った通りそれを真正面から受け止める。アイツのイタズラ好きな小悪魔なところも、本性を現した後もLiellaや他の部活のサポートを続けているお節介焼きなところも、色んな魅力を知ってるから受け入れるには十分な子だ。
「保健室でジャージ借りてきます……」
「じゃあ身体にこのタオル巻いとけ。その恰好で歩いてたら、この学校が戦場になったのかと驚かれるだろうから」
「あっ、そっか……」
ま、たま~に遺恨が残りそうなイタズラをするのは今後の課題かもな……。
~※~
もうすぐで昼休みは終わりだが、昼一に俺の授業はないため一旦職員室に戻ることにした。
その途中、理事長室の前を通り過ぎようとしたとき、その部屋の中から出てきた人物を見て足を止める。
「ウィーン?」
「あっ、先生」
理事長から出てきたのはウィーン・マルガレーテだ。
相変わらずの美人で周囲の空気を一変させるような威厳もあるので、これが中学3年生のオーラなのかとこっちが萎縮してしまいそうだ。年上に対しても堂々とした口ぶりは変わらず、かと言って敬意はしっかり払えるので不快感はない。毎回コイツを見るたびに男の惚れ心が揺さぶられるのは、そういった女性や人間としての立ち振る舞いが出来上がっていて魅力に見えるからだろう。
「久しぶりだな。あけましておめでとう、って言った方がいいか」
「あけましておめでとうございます。こちらから会いに行こうと思っていたので、ちょうど良かった」
「そうなのか。俺も会いたかったよ。決勝が終わってお前すぐにいなくなって、そのあとずっと会ってなかったから気になってたんだ」
「心配させてしまってゴメンなさい。立ち話も迷惑だから、歩きながら話しましょう」
ウィーンは俺に背を向けて歩き始めた。その歩き方もモデルかのように綺麗で、制服のスカートから見える艶やかで長い脚を見ても中学3年生とは思えねぇな。
俺はウィーンの隣に追いつくと、彼女は決勝後の当時のことを語り始めた。
「何も言わずにいなくなったのは、私が負けたからよ。敗者がステージに留まる理由はないもの」
「厳しいな、自分に」
「えぇ。そうやって自分を磨いてきたから」
さっきの七草のチャラチャラした雰囲気とは全然違う。2人は幼馴染らしいんだけど、よく今までその関係を保てたもんだ。ウィーンからしてみれば七草のノリなんて相性最悪に思えるが、逆に物心つく前から一緒だったから慣れたのかもしれない。
「そうか。お前が敗北に納得してるのなら俺から言うことはねぇな。慰めなんてお前の最も嫌いそうな言葉だし」
「そうね。慰めは『自分が人に優しくしている』って承認欲求を満たすための自分のための言葉」
「厳しすぎるだろ……」
「それに『ラブライブ!』は来年もあるから、慰めを受ける暇が合ったら自分を磨いた方が効率的よ」
「すげぇストイックだな……」
負けて悔しいって気持ちはあるだろうが、別に落ち込んだりはしていないようだ。そんな暇が合ったら次に繋げる動きをする。そういった前向きな気概は俺は好きだ。
プライドが高そうに見えるけど、負けたところで嫌味を言ったりもせず、もちろん負け惜しみも言わない。決勝が決まった後の舞台袖でかのんたちとどういった会話をしたのかは聞いてないが、アイツらから特にコイツの印象が悪くなった話は聞かないので、お互いに健闘を称え合ったのだろう。そう言った誠実な態度も俺好みだ。
「そういや、どうしてこの学校に? 自分の学校はいいのかよ」
「自分のところはまだ冬休みだから大丈夫。それにこの学校にはちょっとした考えがあってね。それで理事長に話をつけにきたの」
「考えって、どんな?」
「…………内緒よ、今はね。でも時が来たら分かる。そう遠くないから」
最初言いそうな雰囲気だったけど、途中で迷って誤魔化しやがったな。どんな思惑があるのかは知らないが、どうやら結構なサプライズが用意されているようだ。
もしくはかのんがウィーンの学校に留学するって話があったから、それ関係だろうか。ちなみにかのんは留学するかしないかの答えを出したらしいのだが、それはまたアイツと会った時にでも話そうと思っている。さっきは着替えるのが先決だったからな……。
事情を隠してはいるが、決意を固めているような表情をしているウィーン。今回こそ自分の夢に手が届かなかったものの、もう既に次を見据えて行動している。具体的にどんな行動をとるのかは不明だけど、次は確実に夢を掴んでやるって気合は十分のようだ。隣にいるだけでもその意気込みが感じられた。
「次こそはあなたに恋をするチャンスをモノにしてみせる。最高の舞台で、最高の私を見せ付けて」
「そんなことをしなくても恋愛はできるだろ、って慰めは野暮か。一度でも妥協しないって決めたからには、その目標を達成するまで1ミリも手を抜かない。それがお前だもんな」
「分かっているであればそれでいいわ。あなたはそれまで愉しんでおきなさい。あの子たちや七海と」
「まるで俺が女の子をとっかえひっかえしてるみたいに言うなよ……」
まるでアイツらが前座みたいな言い方に聞こえるな……。そうやって煽りを入れてくるあたり、やはり少しは俺に手が届かなかったことを悔やんでいる部分はあるのかもしれない。まあまだ中学生だしな、完全に大人な対応ってのも難しいだろう。現時点ではLiellaの誰よりも大人っぽく見えるけど。
ウィーンも七草と同じ境遇で育てられたから、物心がついたときから俺が好きだったのも同じ。恋するための条件は『ラブライブ!』の優勝だったのだが今回は惜しくも敗れた。
だけど、コイツはそんなことは忘れて今はしっかりと先を見据えていた。敗けても恋愛はしていいなんて甘えも許さず、自分に厳粛に、一切の妥協がない自分を磨き上げようとしている。そうやって編み出された最高の自分を俺に魅せようと努力している。自分にも他人にも厳しいけど、乙女心って意味では愚直で真っすぐだ。
そんな誠実さ、そして健気さに俺も心を動かされていた。俺たちの距離が縮まるのも、そう遠くはないのかもしれないな。
To Be Continued……
最終話は前編、中編、後編の3部に分ける予定です
そして今回はサブキャラたちのその後を描く回でした。サブキャラの様子を最終話で描くのはこれまであまりなかったのですが、中には今後メインキャラに昇格する子もいるのでね。誰とは言いませんが(笑)
秋葉はLiella編での出番はかなり少ない方ですが、それでも彼女がいてこそ余計な設定なく物語を展開できるので、私の中では誰よりも超重要キャラです。
七海はLiella編の第一章と同じ流れにならないようにカンフル剤として投入したキャラですが、個人的には良い働きをしてくれたと思っています
ウィーン・マルガレーテはアニメのようなヘイトが集まらないキャラにしようと思って描写を色々試行錯誤していましたが、最終的に今の性格に落ち着いてこちらも個人的には満足しています!
最終話の中編は1期生、後編が2期生の回となる予定です。
小説の投稿日ですが、あと2話を残す状況の中でいつも通り月曜日の0時投稿を続けていると年内にギリギリ収まらないため、平日のどこかで1話を投稿し、綺麗に年内でこの章を終わらせる予定です。
候補としては今週の21日(木)の0時(水曜日の24時)に中編、いつも通り来週の月曜0時に後編を投稿予定です。