転入生活6日目。今日は転入してから初めての休日である。
ただせっかくの休日なのに昨晩の夜食会で騒ぎ過ぎた影響か、午前中はぐっすりと眠ってしまって1日を無駄にした気分だ。だけど何気ない日常をアイツらと一緒に過ごしたって観点では、俺に対する好感度を上げることができた(と思う)ので結果オーライかもしれない。アイツらと仲良くなることが例の問題解決に向けての一番の近道だからな。
例の問題、それはこの学院のスクールアイドルに巣食う病気である『スクールアイドル病』のことだ。
スクールアイドルの子の身体のどこか、通常では周りから見えない部位のどこかに傷ができる。それは周りの人間は愚か本人も認識できず、痛みもない。ただその傷は時期が経つにつれて徐々に広がっていき、やがては全身に侵食して身体の崩壊を招く。
どうしてそんな病気があるのかは知らないが、秋葉によるとどうやらこの学校のスクールアイドル、つまりあの6人の誰かがその病気にかかっているということだ。
知っているのであれば早く治してやれよと言いたいが、どんな運命なのか不幸なことなのかその傷とやらは俺にしか見えないらしい。しかも手の甲など日常で目視できるところに傷は付かないらしいので、その子を裸に引ん剝くしか確認方法がない。裸を見せろなんて言ったら好感度が低い状態では通報されかねないので、だから治療より先に好感度を上げる必要があるんだ。
ただ、残念ながらアイツらが俺に向ける好感度はそれほど高いとは言えない。
そりゃそうだ、女子高にいきなり男子が入って来るなんて何か裏があるに決まってる。だからアイツらもそれを警戒しているのは分かる。唯一1人だけやたらと俺との距離が近い奴がいるが、脳内お花畑っぽいから警戒心はゆるゆるなんだろう。
そんなわけで、昨晩みんなでバカ騒ぎしてたけどお互いの距離を少しでも縮められたいい機会だった。
ま、最初から狙ってたわけじゃなくて、俺がただ夜食にからあげを食いたくなった結果がアレなだけだが……。だからこそ結果オーライなんだよ。
そういった事情があって、好感度のためにはアイツらと一緒にいる時間を増やした方がいい。いつもだったら休日にまで練習に足を運ぶことはないが、これも仕方のないことだ。
今日は土曜日だが午後は練習があるとのことで、部室にやって来たのだが――――
「あれ? 日野下たちは来てねぇのか?」
部室には2年生しかいなかった。お茶を飲んでのんびりしているようだが、乙宗と藤島は呆れた様子でこちらを見つめていた。
「まずは『こんにちは』でしょう、全く……。花帆さんたちは昨日あなたが盗んできた材料を調理室に返しに行ってるわ」
「えっ、なんで?」
「罪悪感じゃないの。あんたの代わりに返しに行ってるんだから、戻ってきたら感謝するよーに」
「たかが数人分の材料なんて、向こうはいつも百単位で作ってんだから誤差だしバレねぇって」
「れいって、ろんりてき? だよね」
「ただいい加減なだけでしょ」
「うるせぇ」
俺は何も気にならないけど、アイツらは良心が痛んだか。昨晩は深夜テンションでハイになってたから気にしてなかったけど、寝て起きて冷静になったら気になり過ぎたから正直になろうってパターンだろう。まだまだ青春時代駆け出しの高校1年生だし、そこまではみだし切れなかったようだ。
「とりあえず、練習は花帆さんたちが戻ってくるまで待つことにしたわ」
「んじゃ俺も何か飲むか。コーヒーでも入れてくれ」
「
「エスプレッソ、フルシティロースト、お湯の温度は95℃、あとはお前の力量に任せた」
「暗号みたいでボク全然分からない」
「細かいわね……。残念ながら、部員でコーヒーを飲む人がいないから用意してないの」
「品揃えわりぃなこの店」
「喫茶店でもないのだけれど……」
今思えば部室のくせに色んな種類のお菓子や飲み物が存在していた学校の方がおかしいか。これまで関わって来たスクールアイドルの部室には漏れなくそれがあったので、今もそのノリで注文してしまった。
そもそもスクールアイドルって体型がモロに注目されるのに、太りそうな要因を部室に蔓延らせておくって結構意味わからねぇな……。
そんなことを考えていると、藤島がこちらをジト目で睨みつけていることに気が付く。
コイツが俺のことに呆れた目を向けるのは出会った時からなのでもう慣れた。でも今回はやたらと圧が強い気がする。
「なんだよ」
「相変わらず上級生に対して口の利き方がなってないなぁ~と思って」
「もう1週間も経ってんだ、そろそろ慣れろ」
「今ここに他の1年坊主たちはいない。だからここらでちょいと分からせちゃおっかなぁ~」
「めぐ、後輩いびり?」
「躾だよ。し・つ・け」
藤島が腕を組みながら俺を見下ろす。秋葉の薬で背が縮んでしまった影響で、2年生の中でも背の低い藤島にすら身長が届かない。なんとも屈辱的な絵面だが、年下にこんな舐められた態度を取られたらコイツのオラついた性格を考えればそりゃ頭に来るか。本当の年齢を言えないのがもどかしいな……。
「生意気な後輩に力の差を分からせてあげるよ――――梢がね!」
「えっ、私?」
「クラブで一番の圧力を持つ梢こそ、後輩分からせ要員に
「慈。あなた、私をそういう風に見ていたのね……」
「ほらこういうところ! すぐ真顔で威圧してくる! 綴理もそう思うでしょ!?」
「飛び火した……。ノーコメンツ」
「なぜ複数形なのよ……」
まぁ藤島の言わんとしていることは分かる。日野下も俺にこっそり漏らしていたが、乙宗の圧は確かに重い時がある。見た目もお嬢様で性格も厳粛で、自分に厳しいためか雰囲気もお堅いと思われがちだ。実際には後輩には甘々なのでその見方は間違っているのだが、同級生にはやたらと辛辣なところもあるので藤島はその部分を指しているのだろう。
とはいえ、辛辣なのはどちらかと言えば対抗心よるものなので、意外にも可愛いところがあるのが彼女だったりする。
そんなわけで優雅にお茶をしていたところを藤島に無理矢理引っ張り出された乙宗。
一体何をしようってんだと思っていた矢先、藤島は背の高い小さなテーブルを俺と乙宗の間に置く。
「力を見せ付けるためには力比べで圧倒的に勝利する。だから――――腕相撲だよ」
「はぁ?」
「力を見せるって、本当に文字通りの意味だったのね……」
いつもの口喧嘩レベルの争いかと思ってたらマジでやんのかよ。しかもこんな古典的な勝負で、更に自分の勝敗を同級生に預けて高みの見物ってやることやってんなオイ。
「だってコイツ、頭もいいし機転も利くし、頭脳勝負だったら間違いなく勝ち目ないもん」
「れい、とっても頭いいもんね」
「そもそもあなた、頭の勝負だったら1年生たちにも負けるのではないかしら? 赤点ギリギリばかりでスクールアイドルの練習すら参加が危うかった記憶しかないわ」
「うるさいうるさい! 今は私のことはいいの! 今日こそ生意気な後輩を徹底的に叩き潰して、目上の人への礼儀を分からせてやるんだから!」
「部に戻ってきた頃のめぐみたいだね。休部している間に軟弱になったこの部を更生するとか言ってた」
「だから私の話はいいの!」
自分のこと棚に上げすぎだろコイツ。流石は蓮ノ空のギャグキャラ要員、過去に関わって来たギャグキャラの面影が思い浮かぶこと浮かぶこと。
「腕相撲はいいけど、女の子相手だったら流石に負けねぇと思うぞ。歳の差があるとは言っても男と女だし」
「あら、勝てると思っているのかしら?」
「むしろ負けねぇって思ってんのか?」
「なるほど。慈の案に乗るのは癪だけど、これはやるしかないみたいね」
「どんな形であれやってくれればいいよ。じゃあ2人共、テーブルに肘をついて」
「こずもれいもがんばれ~」
「ったく……」
夕霧の覇気のない応援に力が抜けそうになりつつ、テーブルに肘をついて乙宗と手を組む。
第一印象で手が暖かい。セクハラ発言の様に思えるが、手のひらと言えども実際に肌を合わせているのだからそう思っても仕方がないだろう。それにやはり指も腕も細い。鍛えているとのことだが、男女差も考えても最悪同等レベルだろう。握ってくる手の握力もそれほどではなく、むしろ柔らかい。
だが乙宗も余裕そうだ。そこまで力に自信があるのか。相手が男と言ってもまだ中学生に上がったばかりのガキだからって舐めているのか。
また、男に手を握られていると言ってもそれに対し何か異性を思わせる感情は抱いてないっぽい。まあ俺の見た目もガキだし、好感度もそれほど高くないしで異性に思われる要素が少ないからそりゃそうだろって話だが、直近で担当していたグループである『Liella』がこういった身体接触に悉く耐性のない奴らばかりだったのでコイツの反応が新鮮ではある。とは言ってもこれが普通なんだろうけども。
「スリーカウントで始めるよ。スリー、ツー、ワン、ファイ!!」
開始と同時に俺は乙宗の手を軽く捻り倒そうとする。
しかし、動かなかった。ある程度の力を入れているのにも関わらずビクともしない。
鍛えている影響が想定以上に大きかったのかと思い、今度は本気で力を入れてみる。
しかし、動かない。
その瞬間、俺の手を握る彼女の握力が大幅に上がる。
あまりの出来事から一瞬動揺している隙に、思いっきり手の甲をテーブルに叩きつけられてしまった。
「いってぇ!!」
「あっ、ゴメンなさい神崎君! 大丈夫!?」
「梢のかちぃ~!!」
「わぁ~ぱちぱちぱち~」
圧倒的敗北。乙宗も意外とあっさり俺を倒せたことに驚いているのか、力加減を完全に間違えていたようだ。その結果俺の手の甲が赤くなってしまったため、心配してか再び手を握ってくれた。もちろん今回は優しく柔らかく、労わるようにだ。
「全然接戦でもなんでもなかったじゃん。口ほどにもなかったね、神崎後輩♪」
「どうしてお前が嬉しそうなんだよ……。つうか、想像の何倍も力が強かった。すげぇ握力で握られた時なんて、プロのファイターと組んでるみてぇだった……」
「それは分かるかも。私みたいなか弱い可憐な女子には持てない荷物も、梢は汗1つかかずに軽々運んじゃうからね」
「ボクもこの前こずに怒られてるときに肩を掴まれて、危うく脱臼しそうになった」
「ちょっと人をゴリラみたいに言うのはやめなさい!」
あまりにも一般女子からかけ離れたエピソードが飛び出してきたせいで、乙宗は慌てて会話を遮る。でもあの時に感じた握力は間違いなくその年代の一般女子には出せない力だった。鍛えてるって公言していたのもあながち誇張ではなかったようだ。
にしても、この姿って俺の思った以上に非力だったんだなとしみじみ感じた。成年男性の身体と比べて筋力が衰えているのは当然分かってはいたが、いざこうして力の無さを突き付けられると自分がマジモノのガキになってしまったのだと実感させられる。中学1年生とは言ってもその中でもかなり小柄な背丈で、もちろん成長期も来てないので力がないのは仕方ないと言えばそうなんだけどさ。
つうか、年齢が若くなってるけどまた成長期って来るのかこれ? いやそんなのが来る前にこの学院でのミッションを終わらせて、元の姿に戻りたいところだ。
「どう神崎? 梢の馬鹿力をその身で感じて上級生のパワーってものを思い知ったでしょ? もう参ったする?」
「だから、馬鹿力ではないから。ない……わよね?」
「上級生つっても、思い知らされたのは乙宗の力なのであってお前の力じゃねぇからな」
虎の威を借りる狐とはまさにこのこと。力でねじ伏せようとするのはコイツが愉快なお
「じゃあ綴理にも分からせ役をやってもらおうかな」
「ボク? ボクは平穏に過ごしたいから戦いはヤダ」
「じゃあ背の高さで勝負。はいこれで綴理の勝ち。これでいい?」
「やった。勝利のブイ」
「雑だなオイ。でも身体的特徴で競うのはどうかと思うぞ。最近の世間はそういうのに敏感なんだ」
「そうだね。じゃあれいは背伸びしていいよ」
「いや見なくても分かるだろ。それでも勝てねぇから絶対」
的外れのアドバイスに脱力してしまう。
コイツっていつも発言がふわふわしていたり、素っ頓狂だったりするから笑える時もあればこうして力が抜ける時もある。いわゆる一緒にいると時の流れが遅く感じる系人間なのだが、スクールアイドルとしてステージに立つと人が変わったかのように動きが機敏になる。やる時のみやれる人間、こういうのを天才っつうんだろうな。そういう実力があるからか、村野がコイツから技術を盗もうと何だかんだ世話を焼くわけだ。
「測ってみなきゃ分からないよ。くっつけば大体分かるかな」
「えっ?」
「「えぇっ!?」」
なんと、夕霧がいきなり俺の後ろに密着してきた。
いや密着程度ならまだ可愛いものの、何故か俺の腰に腕を回してくる。こうすると後ろから抱き着かれる形となるが、それだけでもまだ可愛い方で、今度はそのまま持ち上げられてしまった。
「おお~、れいって軽いんだね」
「ちょっ、放せ!」
「つ、綴理!? 早く降ろしてあげなさい」
「背の勝負とは言ったけどそこまでしろとは言ってないから!」
「そっか。なんか簡単に持ち上げられそうだったから、つい」
「つい、でやることかよ……」
夕霧は2人に諭されて俺を降ろした。
コイツこそ力がなさそうなのにあれほど軽々持ち上げるなんて、俺の身体ってどれだけ軽いんだよ。小柄で筋力がないからってことなのか? ちょっと悲しくなる事実だな……。
にしても夕霧の奇行には驚いた。いつも突拍子もない発言はするけど、行動は割とまともなこともあるので今回どうしてこんなことをしたのか意味が分からない。ただの好奇心なだけなのか……?
「中学生とは言えども異性なのだから、いきなり抱きしめたりしたらいけないわ」
「れいが可愛かったから、思わず衝動的にやってしまいました。ただ反省はするけど後悔はない」
「ちょっとカッコよくキメてんの腹立つ……」
可愛いかぁ? やっぱり小さいとそう見えんのかな?
秋葉も俺の身体検査をする時にいつも『子供の頃のキミに戻ったみたいで可愛い』って言ってくるし、こっちの姿はこっちの姿でモテる可能性はあるかもしれない。まぁ今はどちらかと言えばクソガキにしか見えてないだろうけど……。
「可愛いって、めぐちゃんの方が可愛いけどね」
「お前の可愛さと俺のは違うだろ。それに可愛さってのは競うものじゃねぇよ」
「ふ~ん、結構分かったような口利くんだね」
「分かるさ、女の子の可愛さはな」
「…………」
今までのおふざけとは違い、真剣な言葉で返した。
藤島は何も言い返してこず、こちらをじっと見つめたままだった。いつもなら即レスしてくるが、どうやら言葉の重みを彼女も感じ取ったようだ。
そりゃ女の子との付き合いは長いし、魅力的な女性の笑顔を見ることを人生の目標にしている俺からしたら、その子の可愛さを本人よりも良く知っている。もちろんそれは藤島に対してもそうであり、誰かと比べられるものじゃない。その考え方には絶対的な自信があり、さっきみたいに誰かに生意気な口を叩かれる筋合いは一切ないし、させることすら許さない。だから柄にもなくシリアスになってしまった。
「はぁ……なんかどうでもよくなってきちゃった」
「自分で言いだしておきながらかなりの言い草ね……」
「ま、生意気な後輩っていうのは躾甲斐もあるしね。今後の調教を楽しみにしておくといいよ」
「減らず口だなお前……」
「みんながまた仲良くなってくれたみたいで、ボクは満足」
「お前ともな」
「うん、仲良くなった」
「なったの、これ?」
「なった……のではないかしら?」
微妙なところだが、俺としては2年生だけとこうして交流する機会はこれまでなかったので有意義だった。どうしても同級生である日野下たちと一緒にいることが多いから、割と貴重な時間だった気がする。休日にまでここに来た甲斐があったってものだ。
好感度が稼げたかどうかまでは不明だけど、また1つ俺と過ごした時間をコイツらに意識付けすることはできたと思う。結局お互いを意識するのは心境が変化するほどのビッグイベントが発生するのが一番だけど、こうして一緒に過ごした何気ない時間の積み重ねも大事だからな。そういうものだろ、距離の詰め方ってのはさ。
「そういや、めぐだけれいと勝負してない」
「そうだけど、もう別にいいって」
「確かに、私たちがやったのであればあなたもやるべきよ。あ、ちょうどいいところに花帆さんが忘れていった数学の教科書があるわね」
「わざとらしく言っちゃってぇ!! 最初からこれを狙ってたでしょ!?」
「それでは、慈は神崎君と数学の勝負ね」
「いやぁあああああああああああああああああああああああ!!」
苦手分野での勝負に始まってすらないのに藤島の悲鳴が上がる。
結果は言うまでもない。ボコボコにしてやった。
でもこれ、好感度下がってない? 大丈夫だよな……?
無理に敬語を使わせるのも良くないですが、相手が自分の尊敬するに足りえないと分かると基本上から目線になる彼の性格にもそれなりに問題がある気がします(笑)
ただ蓮ノ空のシチュエーションに限っては実年齢は年上なので、そこは小さくされてしまって同情するしかないかも……
次回はちっちゃい生徒会長が登場予定!
【キャラ設定集】※更新版
零から蓮ノ空キャラへの呼称(そのキャラへの印象)
・日野下花帆 → 日野下 (やっぱり笑顔が好き)
・村野さやか → 村野 (ツッコミご苦労さん)
・乙宗梢 → 乙宗 (ゴリラパワー)※更新!
・夕霧綴理 → 夕霧 (一緒にいると脱力する)※更新!
・大沢瑠璃乃 → 大沢 (テンション壊れてた人)
・藤島慈 → 藤島 (ギャグキャラか?)※更新!
蓮ノ空キャラから零への呼称(零への好感度 0~100で50が普通)
・日野下花帆 → 零クン (? 楽しい時間をありがとう!)
・村野さやか → 神崎さん (55 テンション高くないですか?)
・乙宗梢 → 神崎君 (48→49 非力な彼に少しドキっとした)※更新!
・夕霧綴理 → れい (60→61 可愛いし軽い)※更新!
・大沢瑠璃乃 → 神崎くん (55 ヤンキープレイいいじゃん
・藤島慈 → 神崎 (38→39 頭の良さだけは認める)※更新!