ラブライブ!~μ's&Aqoursとの新たなる日常~   作:薮椿

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 今回はまさかの秋葉さん回――――なのですが、内容的には零君回と言った方が正解かもしれません。

 ちなみに秋葉さんと聞くとドタバタギャグを想像してしまいますが、割とマジになる時だってあるんですよ!!


※原作キャラは一切登場しませんので注意


秋葉お姉ちゃんの裁き

 

「おめでとーーーーー!!」

「なんだよ急に……」

 

 

 同棲生活も残すところあと3日となり、週末にはライブが控えているという忙しい時期に、俺は再び秋葉に呼び出され彼女の研究室に来ていた。

 相変わらず整理整頓がなされていない部屋であり、小難しい医学書や意味不明な方程式が書かれたレポート用紙が床にまで散らばっている。その惨状を見れば数日間また研究に没頭していたことが分かるのだが、そのせいで部屋を掃除していないのと妙な薬品の匂いが相まって言葉では表せない不思議で鼻につく匂いが漂っていた。

 

 

「用件があるなら早くしてくれ。あまりお前の茶番に付き合っている余裕はない。精神的な意味で……」

「まあそう辛気臭い顔しなさんな♪私はただ見事ミッションを達成した零君を褒め称えてあげたいだけだよ♪」

「ミッション……?あぁ、アイツらのことか……」

 

 

 俺はμ'sのみんなと同棲生活をする前に、コイツから1つのミッションを与えられていた。それは雪穂、亜里沙、楓、この3人の悩みを解決することだ。

 μ'sの顧問(とは言っても代理程度の扱いだが)となった秋葉は、一度μ'sの練習を見に来たことがある。彼女自身アイドルの経験は微塵も存在しないのでアドバイスと言えるほどのアドバイスはできていなかったが、メンバー1人1人の動きや発声の弱点を見つけ口出しをすることぐらいはできていた。そこはやはり天才と言うべきか、この年にしてたくさんの研究員を受け持っているだけはある。ちなみに絵里たちもその一員だ。

 

 

「なんで俺がアイツらの悩みを全部解決したって知ってるんだ?」

「楓ちゃんがうれしそぉおおおおに電話掛けてきたんだもん。その会話の中で雪穂ちゃんや亜里沙ちゃんがいつもより元気だって聞いて、もしやと思ったんだよ。その様子を見ると案の定だったね♪」

 

 

 秋葉は何故か意地の悪そうな顔で、まさに『してやったり』という表情をしている。

 相変わらず人を苛立たせることに関しては右に出る者がいない。日頃からの人体に関わる研究(幼児化や性転換、精神入れ替えなど)といい、ここまで対人間に特化した生物はコイツにおいて他にいないのではないかと思う。

 

 

「これで彼女が3人増えたも同然!!いや~リア充爆発しろ♪」

「同然って……まだ彼女になると決まったわけじゃないだろ」

「そ~お?零君がその気になればもっともっとハーレムを拡大できる思うけど?このままだと零君、ハーレムの王様になれちゃうかも!?」

「ハーレムの王様だって……?」

 

 

 ハーレム。

 

 いい言葉だ。1人の男が複数の女性をはべらせる、男の天国。誰を切り捨てるのでもなく、誰1人だけを愛するのでもない。全員を平等に愛する。そして女性同士はそのことに関して憤りを持つことがない、まさに男の理想、夢である。

 

 歴史上を紐解いてみればハーレムとはごく当たり前のことであり、1人の男が何十何百という女性を側室としていたことはかなり有名である。そこでは男が王であり、女性は男の命令を拒むことは許されない。いや、許されないというのは語弊がある。正しくは女性が"拒むことをしない"のだろう。彼のことが好きだから彼の命令には絶対に従うという、ある種絶対君主に近い。

 

 

 だから俺自身もそうしたいのか?穂乃果たちを自分の周りにはべらせて、命令して、それを拒まずにむしろ喜んで受け入れてくれる、そんなハーレムを築き上げたいのか?

 

 

 答えは"否"だ。

 

 

「俺はそんなハーレムを作るためにみんなと恋人同士になったんじゃない。アイツらの隣で、ずっと笑顔を見ていたいから。ただそれだけの話だよ。そしてこれからもその笑顔を守って、みんなを幸せにしてみせる」

「ふ~ん……じゃあそれが、零君のやりたいことなんだ?」

「そうだ」

 

 

 本当にそれだけの話。

 

 彼女たちが大好きだから。そんな彼女たちの笑顔を誰よりも近くでずっと見ていたいから、俺は9股という最低の道を選んだ。後悔などは一度もしたことはなく、これからだってするつもりもないし、アイツらにもさせるつもりはない。"あの9日間の惨事"と今回の同棲生活で、俺はそう心に誓ったんだ。

 

 

「はぁ~……」

 

 

 秋葉は俺から目を逸らし頭に手を当て溜め息をつく。まるで問題児相手に教育指導をしているが、全く更生しないから困っているような様子。その溜め息は呆れに呆れ返っていると、誰にでもすぐに分かるものだった。

 

 そんな"問題児"の俺は再び秋葉と目が合ったのだが、彼女の雰囲気が別物だと感じるのに少し時間が掛かってしまった。

 

 溜め息からここまでは一瞬。だが俺には俺と秋葉の間に流れる時間だけはとてつもなく長く感じられた。彼女の口が開く。その挙動でさえも数分の時間を使っているかのように。

 

 

 俺に冷たい嫌な汗が流れ、遂に秋葉は言葉を発する。

 

 

 

 

「粋がってんじゃねぇぞ、このガキが……」

 

 

 

 

 分かっていた、何かしらの罵倒が来ることは。

 

 分かっていた、何かしらの否定が来ることは。

 

 それでも秋葉の言葉は俺の胸にブスリと突き刺さる。楓の悩みを聞いていた時と同じ、妹が心の底に抱いていたものを自分の全身全霊で受け止めた時と全く……

 それはやはり俺と同じ家族、姉だからだろうか?穂乃果たちの悩み事を聞いている時とは違う、家族だからこそ彼女たちの心の底からの声が俺の心の底にまで響き渡る。

 

 だが楓が"悩み"だったのに対し、秋葉は"怒り"(?)のようなものなのだが……

 

 

 秋葉がここまで感情を顕にするのは非常に珍しい。

 基本的には常に笑顔であるが、その笑顔はかなり歪だ。俺たちに妙な発明品を使って楽しんでいるその姿、一見すればただ面白がっているだけのように見えるかもしれないが、視点を変えれば自分の発明品で俺たちがどんな状況に陥ろうとも常にその笑顔は崩さないということである。ある意味では体裁がよく。ある意味では不気味だ。

 

 一歩間違えれば俺たちの人生が棒に振られてしまう可能性だって幾度となくあった。そんな危険があることは秋葉自身が一番よく分かっているはずだ。だが秋葉は笑顔を崩さない。それが本当に心の底から楽しんでいるのか、いやいや本当は俺たちの心配をしてくれているのか、そこは定かではない。

 

 

 だからこそ。

 

 

 今の秋葉のように、誰にでも彼女の感情が理解できるという状況自体が珍しい。家族がゆえそれにより敏感となってしまう。

 

 

「みんなの笑顔を守る……か。そんなもの、ただの前提に過ぎないよ」

「なに……?」

 

 

 俺は目を見開いて、秋葉の目を見つめ返した。

 

 

「笑顔を守るとか幸せにするとか、そんなこと当たり前なんだよ。今のあなたは与えられた前提条件をただ列挙しているだけ。重要なのはその先、みんなの笑顔を守って幸せにして、それを満たした上で零君は何をしたいのかって聞いてるの」

 

「……」

 

 

 指摘されて初めて気がついた。自分から穂乃果たちに告白して、その笑顔を守り幸せにするとは言っても、そんなものは秋葉の言う通り絶対に満たされなければならない前提条件なのだ。数学の証明の問題で、仮定だけを列挙してすぐに結論を書くようなもの。俺はその仮定から導き出される内容がスカスカに空いている状況なんだ。証明問題で重要なのはその途中の内容であるはずなのに……

 

 

「零君はみんなと一緒に何がしたいの?隣で笑顔を見ていたいから付き合ったの?その先も考えずに?まさか大切な彼女たちを自分のお先真っ暗な未来に巻き込んじゃったの?」

「……」

 

 

 秋葉は俺を煽るように質問の嵐を巻き起こすが、俺はそれに飲み込まれるだけで何1つ答えることができない。ただ彼女に自分が如何にその場しのぎで対処をしてきたのかを思い知らされるだけだ。"お先真っ暗な未来"と言われ足元がふらつきそうになる。それくらい自分がそこまで何も見据えていなかったことに衝撃を受けた。

 

 

 未来を見据える。

 

 まだ遠くだと思っていたことがたった今現実として叩きつけられた。高校3年生としての自分の未来と、彼女たちと共に歩む未来。どちらか1つでも途方もなく長い時間のことだというのに、それを2つ同時に見据えなければならないという苦しい現実。

何も考えず、とりあえずその場しのぎで問題を解決してきた俺にとっては非常に重い。もしかしたら今まで俺は問題を解決してきたのではなく、問題を掻い潜ってきただけなのかもしれないという考えまで浮かんできてしまう。またいつかその問題が火山のように暴発して、今度こそ手が付けられない事態に陥るかもしれない。そう考えると未来を見据えることに恐怖を覚えてしまう。

 

 

「ただ勢いだけで9股をして、さらに楓ちゃんたちを巻き込んで、何も考えていないあなたにそれでもみんなの未来を保証できるの?」

「俺は……」

 

 

 最後の追い討ちを掛けられた。

 

 

 "何も考えていない"

 

 

 秋葉の言葉の意味を辿っていけば俺が何も考えていなかったことは明白だ。当たり前のことを当たり前のように前提条件を列挙して、その先に待ち構えているかもしれない問題に目を向けようともしない。いや、目を向けようしていないのではなく考えてすらいなかったと言った方が正しいか。どちらにせよ、自分のお先真っ暗な未来に穂乃果たちを巻き込んでしまったことは事実だ。

 

 

 

 

 そこで唐突に、俺の頭に穂乃果たちの笑顔を思い浮かんだ。

 学校生活で見られる日常的な笑顔。悲しみから救った時に見られた安心するような優しい笑顔。ライブの時に見られる明るい笑顔。そしてライブが終わった時に見られる、少し涙を含んだ感動した笑顔。

 

 俺は各状況に応じた1人1人の笑顔を明確に覚えている。これが俺の守りたかったものなんだから。

 

 

 

 

 だから俺は――――

 

 

 

 

「俺は……それでもその前提条件を追い続ける」

「……」

 

 

 今度は秋葉の目が大きく見開いた。それは俺が答えられず縮こまると思っていたのか、それとも想定していた俺の答えとは違ったからなのか。どちらにせよ俺は自分の想いをぶつけるだけだ。

 

 

「お前の言う通り、確かに彼女たちを笑顔にして幸せにすることなんて当たり前のことだ。だけど、その前提条件は"誰かを幸せにし続けることのできる力を持つ人"の条件だ。俺はまだそんな当たり前のことすら満たせない。雪穂たちの悩みだってお前がいなかったら解決できなかったどころか、認識すらできなかったんだから。今の俺には、穂乃果たちをずっと笑顔で幸せにしてやれる力はない」

 

「だから、追い続けるの……?」

 

「ああ。それが俺のやりたいことだ」

 

 

 みんなの笑顔を隣で見たい。だからその笑顔を守るために俺は9股という道を選んだ。雪穂や亜里沙、楓からの好意を素直に受け取ろうと決心した。

 そう決心したからといって、以降みんながずっと笑顔でいられたかといえばそれは違う。何度も失敗したし、悲しい涙を幾度となく見てきた。1人でスクールアイドルを始めた時、俺が雪穂たちの悩みに気づかず彼女たちの心がほとんど閉ざされていた時、そしてそこから彼女たちの笑顔が消えた時、俺は明確な"失敗"を感じたんだ。

 

 だから彼女たちの笑顔を追い続ける。今度は失敗しないように前提条件を繰り返してもいい、同じことを何度列挙してもいい。それ以前に、彼女たちの笑顔を守ることを前提条件という枠に入れてしまうということ自体が間違っている。前提条件は既に果たされなければならないものだ。

 

 『彼女たちの笑顔を守った!!』と言えるのはいつだ?それ以前に笑顔を守り続けることに終わりなどあるのか?完成系はあるのか?『彼女たちの笑顔を守ったから、これ以降はこの笑顔が崩れることはないだろう』ということが果たされたということなのか?

 

 

 

 

 そもそも彼女たちの笑顔を守ることというのは、未来に待ち受けるどんな問題を度外視してでも真っ先にやるべきことなのではないのか。その場所に自分のやりたいことを置くのは、決して間違っていることではない。

 

 

 

 

「それと、お前はさっき俺にお先真っ暗な未来と言ったな。確かに俺の未来は真っ暗かもしれない。だけど、俺にはみんながいる。未来へと続く道は真っ暗かもしれないけど、その時はきっとみんなが俺の歩むべき道を照らしてくれる!!照らしてくれた先がどうなっているのかは分からない。だが問題が立ちはだかったら乗り越える方法をみんなで考えればいい。俺たちに未来を見据える力はほとんどない。だから手を取り合って一緒に未来を歩むんだ!!」

 

 

 大人の秋葉から見ればこんな考えは幼稚なのかもしれない。

 だけどそれの何が悪い。未来を見据えることができないのなら、来るべき問題に備えてみんなで手を繋ぎ、一緒に解決できるようにしておけばいいだけの話ではないか。何も一から十まで未来を見据える必要はない、彼女たちと共に障害を乗り越えていけば、その先に笑顔と幸せが待っている。俺たちにはそんな見通しさえあれば十分なんだ。

 

 

「はぁ~……」

 

 

 秋葉は再び溜め息を吐く。

 だが今回は"怒りを含んでいる呆れ"ではなくて"安堵を含んでいる呆れ"となり、溜め息も非常に軽かった。

 

 

「それが零君の答えなのかぁ~ふ~ん♪」

「なんだよ嬉しそうに……」

「いやぁ~予想外というか、いかにも零君らしい答えだったから感心も含めてね♪」

「予想外が俺らしいって、俺が偏屈みたいじゃねぇか……」

「え?偏屈でしょ?」

「お前に言われたくねぇよ!!」

 

 

 偏屈の王に偏屈認定されて嬉しいわけないだろ……

 そもそもその言葉って褒め言葉なのか?少なくともそれを言われて喜ぶ奴は偏屈だろうが……

 

 

「でもよかった♪このまま零君が何の考えもなしにハーレムを続けるって言ったら、その身体を使って人体実験するところだったよ♪ちょっと楽しみだったのになぁ~……ジュルリ♪」

「怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!やっぱり今のお前が一番こえぇよ!!」

「あはは♪」

 

 

 くそっ、いい笑顔してやがる。コイツの笑顔は俺のヘイトが貯まるので精神衛生上よろしくない。それなのにその笑顔はとても綺麗(煽りの意味も込めて)なため素直に怒れないこのジレンマ。いい加減、誰か男を見つけてその人に養ってもらってくれ。いつまでも実験の矛先が俺に向けられるのは嫌だ!!

 

 

「でもさぁ~やっぱり穂乃果ちゃんたち愛されてるよねぇ~」

「それ俺の前で言うセリフか?今まで当たり前当たり前って言ってきたけど、それこそ当たり前だろ」

「うんうん♪零君に任せておけば安心だね♪」

「何を言っているんだお前は……もう用が済んだのなら帰るからな」

 

 

 肩の力がスッと抜けたのか、さっきまで忘れていたこの研究室独特の鼻につく匂いが再び漂ってきた。

 俺は秋葉に背を向け、研究室のドアノブに手を掛ける。

 

 

「ねぇ零君」

「ん?」

 

 

 今にも研究室から立ち去ろうとした時、秋葉に声を掛けられる。ただその言葉は少し弱々かった。

 俺は何も考えず、ただその場で振り向く。

 

 

 

 

「もし私から笑顔が消えそうになったら、あなたは私の元に駆けつけてくれる?」

 

 

 

 

 その言葉の意味はあまり考えられなかった。頭で考えるよりも、先に口が開いてしまったから。

 

 

 

 

「当たり前だろ」

 

 




 秋葉さんに最後の言葉を言わせたかったがためにこの話を執筆しました。秋葉さんがどのような気持ちであんな言葉を言ったのか、零君の答えに対してどう思ったのかはまた後日ということで。

 毎回真面目回を書くたびに「自分には似合わねぇな」と思ってしまう始末。特に今回は地の文多めのガチ構成だったので、執筆中ずっと肩凝ってました(笑)
花陽やことり辺りに肩叩いてもらいたいです!!

 久々にヤンデレモノを書いてみたくなり、色々と構想を練っていたのですが、また新しく書くのは面倒なので『非日常』のリメイクを考えています。考えているだけなのであまり期待せずにお待ちください。


Twitter始めてみた
 https://twitter.com/CamelliaDahlia

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