ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

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ボク、おかしくなっちゃった(前編)

 夕霧綴理だよ。今日は朝からとある場所へ向かうために寮の廊下を歩いている。その途中で考え事をしていた。

 

 最近、自分の身に何か変なことが起きていると思うことがある。

 それはある人を見ていると、ある人と一緒にいると起きる。心臓の鼓動が早くなる。もしかして死んじゃうのかなって感じる時があるくらいに……。

 

 

「れい……」

 

 

 そのある人の名前だ。

 半月くらい前に突然この学校に来た男の子。男の子なのにどうして女子高に来たのか、どうしてボクたちの部に入ったのか、その理由は話してくれないから分からない。でも怪しい人ではないと思った。なんとなく、感覚だけど。

 

 そんなことを考えながらある場所の前に到着した。

 寮の中でも一番大きくて広い部屋。そう、れいの部屋だ。

 今日は祝日でお休みだけど、昨日の夜にナイトプールで騒ぎがあった後の帰り道、れいがボクにこっそり『明日の朝、誰にも言わず俺の部屋に来てくれ』と呟いてきた。理由は言ってなかったけどボクは反射的に頷いてしまった。誰にも言わずってどういうことだろうと思いながら、朝に弱いボクが珍しく目が冴えている。さやに起こされずに自分で起きて、朝の支度をしたのは久しぶりだ。これもこっそりとれいに会うという、心臓の鼓動が早くなることがあるからかもしれない。1人で寝坊せずに起きたのはいつぶりだろう。

 

 

「れい、来たよ」

 

 

 ドアをノックする。するとすぐにドアが開いてれいが顔を見せた。

 

 

「よぉ、ちゃんと誰にも言わずに来たか?」

「うん」

「入れ」

 

 

 なんか刑事ドラマでよくある秘密の取引に誘われた時のセリフみたい。それだとボクたちが犯人役になっちゃうし、それに大体どっちかが死んじゃうんだよね。れいのことだから大丈夫か。

 そんなこんなで部屋に案内される。以前にみんなで夜食を作った時にここに来たけど、あの頃から部屋の中はあまり変わっていない。必要最低限だけ揃っているって感じがする。もしかしてミニマリストってアレのことかな。ただ高級ホテルのように最初から物が揃っていたので、自分の物を持ち込む必要はなかったのかもしれない。

 

 部屋を見まわしていると、れいがソファに案内してくれた。

 

 

「お~っ、こんなふかふかなソファ見たことない。これからここでお昼寝しようかな」

「まだ朝なんだけど……。寝るのは勝手だけど、相変わらず無防備だなお前」

「えっ?」

「男の部屋で寝ようとしたり今もこうやって言われてホイホイ部屋に来たり、ちょっとは警戒しねぇのかよ。ま、誘ったのは俺なんだけどさ」

 

 

 警戒するって何をするんだろう。れいは友達だし、友達に部屋に遊びに行くくらいは普通だと思う。みんなの部屋にも良く行ってるから変なことじゃないと思うんだけど……。

 いや、ボクの感性はみんなとはズレている。それは自覚している。だからやっぱりボクが変なのかも……。

 

 

「どうした?」

「うぅん、なんでもない。警戒はしてないよ。むしろれいと一緒に居られる時間が増えて嬉しいな」

「そうか」

 

 

 れいは優しく微笑んだ。その表情に心がビクってしてしまう。

 れいがそんな表情をすることってあまりない。いつもはどちらかと言えば、そう、カッコよく笑う。何もかも見抜いた時のれいの顔。あれは確か……ドヤ顔って言うんだっけ? れいのその表情が好き。幽霊騒動の時に見たその表情。それから好きになってしまった。思わず顔が熱くなってしまうくらいに。

 

 人の表情を見ることは良くある。顔を見れば考えていることが分かるような気がするから。

 でも、れいほど分からない人はいない。この学校に来た目的もそうだけど底が見えない人だ。ボクは人を色で見ることがあって、さやだったら『みずいろ』、瑠璃乃は『明るいももいろ』とか。だけどれいは色がない。透き通るような透明で、何を混ぜても色になることはない。悪い人ではないと思ったのはそれが理由。彼には悪意の黒なんて一切ない。何か目的が合ってもそれは彼に一本の強固な芯が通っていて、それに従って行動している。多分ボクたちは知らず知らずのうちにれいに助けられているんだろうな。

 

 

「俺もお前と2人きりになりたかったんだ。こういう機会って全然なかっただろ」

「ずっと一緒にいた気がするけど、言われてみれば不思議だね。あっ、れいがいつも女の子たちに囲まれてるからかな? あまり一緒にいられない理由」

「え、そうか?」

「うん。常に女の子と一緒にいるイメージ。めぐが言ってたよ、『零って女タラシ』だって」

「アイツ余計なことを……」

 

 

 れいはこの学校に来てから色んな人に頼りにされている。誰かに頼まれて、誰かを助けて、その名声が広がってまた誰かに頼まれる。ボクたちだけではなく他の人へもその信頼がどんどん広がっていく。

 ボクはそんなれいに興味があった。教室とかでれいの話題が出ると何故かボクも嬉しくなった。1人1人の話をしっかり聞いて手を差し伸べてくれる優しいれいのことを、誰かが褒めてくれるのが嬉しかった。

 

 みんなを照らす太陽のような人。ボクはそう思っている。

 だからこそ、ボクは少しおかしくなっちゃったのかもしれない。

 

 

「そういやお前、朝飯は食ったのかよ?」

「さやが買ってきてくれたおまんじゅうを食べたよ。れいと2人で出かけた時に買ったって言ってた」

「そういやみんなの分の土産を買ってたな。別に旅行しに行ったわけじゃないのに律儀なことで」

「さやはいつもみんなことを考えてるんだよ」

「それはお前らもだろ」

「ふふっ、そうだね。そういえばおみやげを渡してくれたときのさや、とてもいい顔をしてた。なにかあった?」

「大したことねぇよ。アイツが満足するように動く。男の役目を果たしたまでだ」

 

 

 普段は太陽のように目立つけど、水のように形を変える時もある。いつもは我が道を行くって感じだけど、寄り添う時はその人に合わせて自分を変える。水のように形がなく、でもその流れに相手を乗せる。流れが止まった時、全てが終わって笑顔が咲き乱れる。同じ志を持つるりがれいに興味津々なのも分かる気がする。

 

 だけど、その水の流れは時に強烈で巻き込まれてしまうことがある。自分に悩みがあって、でもそれから目を背けていたけれど、巻き込まれた衝撃で思い出してしまう。彼と一緒にいると強制的にそれに向き合わされてしまい心が黒くなってしまう時がある。れいから流れてくる想いは強烈。だから悩みやコンプレックスがあるとれいと会うのがちょっと怖くなるかも。

 

 ボクも最近そう思うことがある。

 

 そんな中、れいは目を閉じる。

 何か考え事をしているのかなと思ったら、目を開けたと同時にボクに問いかけてきた。

 

 

「お前、俺と話す時にたまに曇る時あるだろ」

「え?」

「表情には出てないけど分かるんだよ。お前ってただの天然の時もあるけど、性根の部分は他の奴らと同じくらいまともで、誰よりも繊細なんだってな。だから俺のせいでお前の悩みが大きくなってるんじゃないかって思ったんだよ」

 

 

 これだ。まさにさっき思った通りのことが起きた。

 どうしてキミはそこまで察しがいいんだろう。人の心を的確に見抜く。まだ中学1年生のはずなのにコミュニケーションの取り方を知り過ぎている。それ故にこうしてボクは自身の悩みと向き合うことになってしまった。今まで考えないようにしていたのに……。れいのせいでおかしくなっちゃう。

 

 でも、さやはれいと2人きりの時に何かがあってそれで元気になっていた。だからボクももっとれいと一緒にいて、たくさんお喋りすれば何か変わるのかも。こずやめぐとも違う、かほやさや、るりとも違う、いつの間にか特別な存在になっているれいに話をすれば何かが……。

 

 

「ボクは、太陽に見えるキミに焼き尽くされそうになることがある。水のように見えるキミにも押し流されそうになることがある」

「え、いきなり何その例え。俺のことをそう思ってる前提で話されても俺知らねぇから。なんとなく意味は分かるけどさ……」

「そう、そうやってれいは何でも理解できる。みんなの楽しさも悲しみも、喜びも悩みも全て察して、その人にとって適切な言葉をかけてあげることができる。それが凄いと思う。そして、ボクは悩む。僕もれいみたいに上手く気持ちを受け止めて、しっかりコミュニケーションを取れれば今までみんなを傷つけずに済んだのかなって。自分が人とは違うことを、たまに実感しちゃうんだ……」

 

 

 ボクはふと思うことがある。ボクって変なんだって。周りから変わった人、変な人だって思われているのは知っている。こずやめぐ、さやにだってそう言われることがあるから別にそれ自体は何も思っていない。もし思ってもすぐに忘れる。

 だけど、れいを見ているとそれを思い知らされる。自分が普通じゃないんだって。

 

 

「ボクは過去に自分の気持ちを上手く言葉にできなくて、それですれ違いが起きたことが何回もあった。さち、こず、さや。大切な人が離れていく、離れ離れになるのは辛い。もう経験したくない。そう思うと普段の会話でも相手の気持ちを汲み取り過ぎてしまうことがある。ボクは言葉にするのが苦手だから……」

「それでまたすれ違いになってしまうんじゃないかってビビってるわけか」

「うん。いつもはそう思わないけど、れいが上手くやれているのを見るとボクってまだ弱いんだなって思って……」

 

 

 嫉妬……ではない。憧れているんだと思う。だから自分が普通ではないと実感してしまう。何を考えているのかあまり分からないとよく言われるくらいだから、やっぱりボクはみんなと違うんだ。どうすれば普通になれるんだろう……。

 

 

「そうか。人の能力や心を見抜く能力はあるけど、それが上手く表現できない故のジレンマか。天才肌によくありがちだな」

「れいはそういうことないよね」

「そうだな。俺はやりたいことをやってるだけで、それが人のためになるとか考えてねぇよ。でも――」

「でも?」

「誰かの悩みを聞いて何か言葉をかける時、本当にこの言葉でいいのかって思うことはたまにある。更に傷つけちまうんじゃねぇかってな」

「え、れいもそう思うの?」

「あたりめぇだろ人間なんだから。完璧な人間なんてこの世にいやしねぇよ。だから自分の信念の従って伝えればいいんだ。自分の熱が入ってない言葉なんて相手の心に響かない。だからお前も苦労しながらで良いから自分の言葉で思いを伝えればいいんだよ。そもそも自分が普通じゃないって言ったけど、誰かと比べる必要なんてねぇだろうが。お前は俺にはなれねぇし、俺だってお前になれない。それでも気持ちは相手にしっかり伝わってると思うぞ。梢たちはお前の気持ちを察せない人間じゃねぇだろ。そりゃ一緒にいれば衝突することだってあるさ。でもそれは逆に相手のことを知り過ぎているからだ。だったらもっと奥深くまで知ればいい。向こうは向こうのやり方で距離を詰めようとしてくるはずだから、お前はお前なりのやり方で詰めればいい。間違ってねぇよ、お前は普通だ。その証拠に同じ悩みをアイツらも抱えてるはずさ」

「こずたちも?」

「あぁ、別に表立って言う必要ないことだからお前が知らないだけだろ。普通なんだよ、お前の悩みなんてのは」

 

 

 もやもやが少し晴れたような気がした。誰かと比べて自分は普通じゃないんだって思ってたから、いつかみんなと同じになりたいって心の隅で感じていた。れいが来たことでそれは大きなもやもやになったけど、間違ってないって言われた瞬間に目の前が明るくなった気がする。普通だって言われて安心したからかもしれない。

 

 

「それにだ、お前より俺の方がよっぽど普通じゃねぇよ。お前も散々見てきただろ俺のことを。俺に比べればお前なんて全然マシだ」

「確かに、れいは変な子だもんね」

「そこはそんなことないよって慰めるべきところだと思うが、まぁいいよ。俺がいればお前がまともに見えるならそれで」

「じゃあれいと一緒にいないとボクは普通じゃなくなっちゃう? ということは、ずっとれいと一緒にいられるんだ。わーい」

「ずっとは無理かもしれないけど、何かあったら助けてやっから心配すんな」

 

 

 これだ、このカッコいい笑顔が好きなんだ。自信満々で絶対に自分のところまで駆けつけてくれる安心感。凄くドキドキしてしまう。

 この気持ちが何なのかは分からない。自分のことなのにこんなに分からないのは初めてで、目も頭もぐるぐるしちゃいそう。この胸が熱くなってボクがおかしくなっちゃう原因、それを知りたい。

 

 

「れいともっと一緒にいれば何か分かるかな?」

「いつもの如く脈略ねぇな。今一緒にいるだろ」

「もっとキミのことが知りたい。この胸を焦がす想いはどこから来て、ボクが何を感じようとしているのかを確かめたい」

「お前、それって……」

 

 

 れいは何かに気付いたような反応をする。相変わらず察しがいい。それを教えて欲しいけど、多分これは自分で気付かないとダメな気がする。

 

 

「今日しばらくずっと一緒にていい? 練習の時間まで」

「それはいいけど、一緒にいるって具体的にどうすんだよ」

「う~んとね、一緒にお昼寝するとか。このソファとかふかふかだし、一緒に寝たら絶対に気持ちいいよ」

「いいのかよ? ホントに警戒心ってものがないんだな……」

「さっきも言ってたよね。何を警戒するの?」

「お前は無防備すぎる。叩き込んでやった方がいいのかも……」

 

 

 何をされるんだろう……。れいの表情があまり見たことのない肉食系で獲物を狙う時のような顔に変わった。この前みんなで夜食を食べた時にから揚げを作っていた時の目だ。と言うことはボク、食べられちゃう……?

 

 

「おぉ~ボクはおいしくないよ」

「心の声と実際の発言で1つの文章にするんじゃねぇよ。こっちからしてみると全然分かんねぇから」

「よく分かったね」

「言ったろ。おめぇのことなんてお見通しだって。それにだ、俺だってお前と一緒にいる理由があるから練習時間まで付き合ってやるよ」

 

 

 れいの方からボクを誘ってきたのに付き合ってやるって……まあいいか。

 そんなことでしばらくれいと一緒にいることになった。2人きりになることってあまりなかったから嬉しいな。

 

 でも、一体なにをされるんだろう……?

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 というわけで綴理回の前編でした。
 彼女はワードチョイスも独特でぶっちゃけ小説に反映できているかと言われたら微妙ですが、綴理視点でずっとそれをやるとカロリーが高くなるのでこれで良かったんじゃないかと思います(笑)
 ちなみに普通か普通じゃないか論争ですが、零君の方が明らかに普通ではないので女の子たちは安心して欲しいくらいです(笑)

 次回は綴理回の後半戦。さやかの時と同様に後編は零視点です。


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7月8日(月)から6日間、毎日21時より企画小説として様々な作家さんのラブライブ小説を投稿するイベントをやることになりました。以前にやっていた企画小説と同様の形式です。
私のアカウントから投稿され、私も投稿予定なので、そちらも是非ご覧ください。


【キャラ設定集】
零から蓮ノ空キャラへの呼称
・日野下花帆 → 花帆
・村野さやか → さやか
・乙宗梢   → 梢
・夕霧綴理  → 綴理
・大沢瑠璃乃 → 瑠璃乃
・藤島慈   → 慈

蓮ノ空キャラから零への呼称(零への好感度 0~100で50が普通)
・日野下花帆 → 零クン  (96)
・村野さやか → 零さん  (94)
・乙宗梢   → 零君   (76)
・夕霧綴理  → れい   (82)
・大沢瑠璃乃 → 零くん  (86)
・藤島慈   → 零    (77)

スクールアイドル病の治療状況
・日野下花帆 → 傷の位置未特定
・村野さやか → 治療済
・乙宗梢   → 傷の位置未特定
・夕霧綴理  → 傷の位置特定済
・大沢瑠璃乃 → 傷の位置特定済
・藤島慈   → 傷の位置特定済
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