ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

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ボク、おかしくなっちゃった(後編)

 転入生活16日目、祝日の朝。今日は綴理を自分の部屋に呼んでいる。

 昨晩のナイトプール事件で綴理、瑠璃乃、慈の3人のスクールアイドル病の発症を示す身体の傷を発見できた。その事件は事件で解決までかなり面倒だったのだが、一気に3人もの病気を治す手がかりを掴めたのは大きい。だからその翌朝である今、早速綴理を呼び出して治療に向けて策を練ろうと思っている。

 

 他の奴らともそうだが、意外と2人きりになる時間はこれまで多くなかった。そもそも俺がここへ来てから2週間ちょっとだからってのもあるけど、それ以上にみんなで一緒にいることが多く、こうして狙わないと中々1対1の状況を作り出せない。傷に触れるためにはコイツらに裸になってもらう必要があるんだ、流石にタイマンでないと相手が恥ずかしがるだろう。

 

 そんなわけでこうして呼び出したわけだが、話しているうちに彼女が抱える心の闇を察したので、それを掘ったら案の定その闇が噴き出してきた。まさか俺に対して少しトラウマを抱いていたなんて思わなかったけど、何も考えてないように見えて心の中ではあぁでもないこうでもないと色々考えてしまう繊細な部分があるのはコイツらしいと思った。まぁ、相手とすれ違わないよう言葉選びで苦戦しているのはみんな同じだ。だからコミュニケーションで悩むなんて普通のことだと伝えてやったのだが、表情が緩やかになったのでどうやら上手く受け止めてくれたようだ。

 

 そうやって精神を安定させた綴理だったが、その後に俺ともっと一緒にいたいだのあまりにも恋愛感情が濃すぎる発言をかましてきやがった。ただ本人が恋に疎いのは見ての通りであり、恋愛なんてものも理解していないと思われる。気付いていないだけ、と言った方がいいかもしれない。

 

 しかし、これはチャンスだ。コイツといい雰囲気になれば裸を見させてくれるようなムードになるかもしれない。裸とは言っても別に全部脱いでもらう必要はなく、傷がある場所を見せてくれるだけでいい。そうしたら俺がこの指で触れるだけで傷口を塞ぐことができる。

 だけでいいとは言っても、そこへ辿り着く過程が難しいのは言わずもがなだが……。

 

 

「ん……? ボクの顔をじっと見てどうしたの?」

「いいや。相変わらず警戒心も何もなくぼぉ~っとしてるなって思ってさ」

「うん、ありがとう」

「なぜ感謝された……」

 

 

 心の中で色々考えて繊細だとは言っても、言葉にされなくては何を考えてるのか意図が読めない。俺が如何に相手の心を読み取るのに長けているとは言えども、コイツのような不思議ちゃん相手には少々分が悪い。人間は合理的な思考の上で言動を行うと思っている都合上、不思議ちゃんみたいな突拍子もない奴らの行動原理が理解できない場合があるんだ。

 

 とは言え、今以上に心の距離を近づける必要がある。ただコイツなら『裸を見せてくれ』とストレートで言ったらもしかしたら行けるかもしれないという、妙な期待が合ったりする。他の5人の反応なら大体予想できるが、コイツがどんな反応をするのかは気になるところだ。変に関係が悪化しそうな雰囲気もないし、埒が明かないなら一か八か風呂に誘ったりしてもいいかもしれない。個人的な好奇心を結構含んじゃってはいるけど。

 

 ちなみに綴理の身体の傷の位置は右太ももの内側。性器部分にかなり近いところで、制服であればスカートの下から除けばもしかしたら目視できるかもしれない部分だ。

 ただし、綴理はいつも黒のストッキングを履いてるため制服であっても下から除いて確認はできない。まあ今は私服でズボンを履いているので最初から不可能な話だったが、そもそもコイツって肌を晒すのが嫌いなのか脚どころか手も常に手袋を装着している。水着ですら肌を隠すようなタイプの水着だったため、もし昨晩コイツの傷をラッキーで見つけてなかったら探すのは困難だっただろう。

 

 

「で? 一緒にいるっつったけど何やんだよ?」

「う~ん、特に何も考えてない。こうして一緒にお喋りしてるだけで楽しいよ」

「好きなんだな、喋ること」 

「うん。誰かのお話を聞くことも、喋ることも好きだよ」

 

 

 言語化が苦手だと自分で分かっていながらも、それから逃げずにコミュニケーションを取るのが好きだっていうのはそれを克服しようとしているからだろうか。それか過去に梢や慈、大賀美と離れ離れになってしまったトラウマから、少しでも相手のことを理解しようと頑張って交流をしようとしているのか。不思議ちゃんタイプって他人に興味なさそうだけど意外とそうでもないんだよな。虹ヶ先の璃奈だって口下手だけど喋るのは好きだったはずだ。

 

 

「だから、ボクはれいのことをもっと知りたい。れいと一緒にいるといつもドキドキするから、その理由を知りたい」

「俺は割と自分を曝け出してるつもりだけどな」

「隠してることいっぱいあるのに?」

 

 

 コイツ、いきなりぶっ込んでくるな。

 俺が隠し事をしているのは恐らく他の奴らも知っているだろう。それでもなお俺を迎え入れてくれるのはそれだけの信頼関係があるからだと思っている。男が女子高に来た理由なんて誰もが気にするはずなのに、それを追求してこないのは掘られたくない事情があるのだと察しがついているからに違いない。誰しもが誰にも知られたくない秘密ってのを1つや2つ抱えてるものなんだよ。ま、俺が秘密を保持してるのも全部スクールアイドル病のせいだから自分が原因ではないんだけどさ。

 

 

「誰にだって言いたくねぇことはあるだろ。お前が俺に言いづらかったようにな」

「でも悪い人じゃないっていうのだけは分かるよ。でないとこんなにドキドキしない」

「はぁ……。漠然と伝えても理解できないだろうし、仕方ねぇから直接言ってやる。それは『恋心』ってやつだ」

「恋……?」

「やっぱ認識してなかったか……」

 

 

 自分を意識してる相手に対して『恋心』を指摘するのもおかしな話だな。でもこうでもしないとコイツが鈍すぎて話にならない。ここまで直球でないと伝わらないのってこれまで関わって来た女の子の中でも初めてかもしれない。

 

 

「ボクがれいのことを好きってこと? もう好きなんだけど、恋……よく分からないな」

「俺に抱いている期待や感情、好意や思慕。それは他の奴らと違うものだろ?」

「うん。れいの暖かさはみんなが与えてくれる暖かさとは違う。時には優しくて、時には燃やし尽くされるかのように熱くて、時には見惚れるくらいにカッコいい。このドキドキが恋?」

「お前の感じ方次第だから俺からはそうだとは言えないけど、その人のことが頭から離れないってなったら本物じゃねぇか」

「ずっと離れないよ。昨日の夜、キミに誘われた時からずっと……」

 

 

 あまり表情変化はないものの、赤面したその顔色が彼女の心境を映し出している。夕霧綴理、ようやく恋ってのを自覚したか。ここまで言わないと理解できないのも相当だが、恐らく自分の抱く感情に疑問を抱く性格が災いしただのだろう。大賀美と壁を作っていた時も、アイツのやることは正しいと自分の考えを押し殺して正当化していたみたいだしな。

 

 綴理は真っすぐ俺を見つめる。そのピンクパール色の瞳が一際輝いて見える。これまでモヤモヤしていた悩みも解け、俺への想いの理由も理解したその心境はいかなるものなのか。いつも心の中であれこれ考えてしまう彼女にとって、ここまで何の(しがらみ)もなく晴れ晴れとした気持ちになるのは珍しいことなのかもしれない。ホントに何も考えてない時もありそうっちゃありそうだけど……。

 

 さて、ここまで話が進んだもののこれからどうすればいいか。コイツの身体の傷の位置が太ももだから下半身を脱がす必要がある。でも一緒に風呂とか入るとかお互いに倫理観を乗り越えない限りそれは叶わない。コイツなら鈍いし、もしかしたら混浴してくれそうなものだけど……流石に騙してるみたいで悪いよな。そんなことで女の子の尊厳を奪うわけにはいかない。とは言っても早く治療しないと症状がいつ悪化するかも分からないのでそこがジレンマだ。

 

 

「ちょっと身体が熱くなってきた。これが恋?」

「いや俺に訊かれても。つうかどこかが痛むとか、そういうのはないか? もしかしたら病気とかかもしれねぇし」

「そこまで心配してくれるんだ」

「そのためにここに来たからな。それだけは言える」

「……? よく分からないけど、れいはボクたちの救世主だね」

「大袈裟だろ」

 

 

 何も分かってないのに妙に核心を突くようなことを言えるのはこれも才能なのか? 歌詞もダンスの振り付けも雰囲気で決めてしまうその感受性の高さが故か。察しのいい子は普段は好きだが、俺がこの学校で置かれている立場と己の正体を考慮すると、今だけはその直感の良さを発揮するのはやめて欲しい。

 

 

「最初会った時は変な子だって思ったよ」

「お前に変って言われたらおしまいだ。自分が普通とは思ってねぇけどさ」

「そうだね。れいは今でも変だ。でも……」

「ん? えぇっ!?」

 

 

 なんといきなり綴理に抱きしめられ、そのまま一緒にソファに寝転がる形となった。

 いきなりの身体接触に思わず女性慣れしてない童貞のような声が出てしまったが、そりゃそんなムードじゃなかったのにいきなり抱きしめられたら誰でもこうなる。

 必然的に顔と顔が向かい合う体勢となった俺たち。綴理は相変わらず紅い表情から変わっていないが、非常に珍しく少し恥ずかしそうにしていた。そんな顔を見せるのは俺が見る限り初めてなので新鮮であり、それでいてこんな少女らしい振る舞いもできたんだと驚きもある。

 

 しかもだ、さっき本人が言っていた通り身体が熱い。これもコイツの感情が昂っている証拠なのか。それともスクールアイドル病が発症しつつあるのか。昨日傷を見た際はさやかの時のように赤くなっておらずヤバい感じはなかったが、今朝になってどうなっているかはもちろん確認できていない。僅かだが息が切れているようにも窺えるので、やっぱりスクールアイドル病の発作が起きてる可能性もある。身体の熱さもそのせいかもしれない。

 

 だったら早く対処する必要があるが、どうする……?

 

 

「暑いね……。くらくらしてきた」

「安心しろ。なんとかしてやっから」

「むぅ……」

「なんだよ」

「またドキドキすることを言われた。そんなこと言われたらもっと暑くなる」

 

 

 どうすりゃいいんだよじゃあ。

 見ると汗もかいているようだ。このまま放っておくとどうなるか分かったものではない。もう下を脱がすしかないか。綴理であれば鈍いし誤魔化せるだろうと脳裏によぎる。できればこんな形で脱がせたくはないが、先日のさやかが見せた辛さを思い出すと、他のみんなにあんな顔をさせたくないという気持ちが強くなる。これは医療行為だ、我慢してもらおう。

 

 抱きしめられてソファに倒れ込んでいるため、手のみで綴理の下半身あたりをまさぐる。

 すると、ズボンの生地の感触に加えて何やら段差のような手触りを感じた。これはもしかして――――

 

 

「お前、下にズボンの下に見せパン履いてるのか?」

「見せパン?」

「見せてもいいパンツのことだ」

「あぁ、うん。こずとかさやに履いた方がいいって。ボクが不用心でスカートがすぐ捲れるからだって」

「真っ当なアドバイスだな。でも今は暑いんだろ? 長ズボンは脱いだらどうだ?」

「うん、そうする」

 

 

 なんとなしの助言を何の考えもなしに受け入れた綴理は、俺を片方の腕で抱きしめながらもう片方の手で器用に長ズボンを脱いだ。

 やはり見せパンだったが、普段からふらふらしていて危なっかしいコイツのことだ、梢やさやかが履けと言う理由も分かる。長ズボンでも履いている理由は不明だが、コイツのことだから特に理由もなく履けと言われたから履いているのだろう。でも今回は別の意味で僥倖だった。

 

 抱き寄せられながらも辛うじて目線を彼女の下半身に向ける。綺麗な白い脚が見えたのと同時に、見せパンが少し捲れ上がって太ももの大部分が露出している光景も目に映った。

 そこからさらに内側、そこに昨晩見たのと同じ模様の傷があった。丸の中に二本線が入って、その円形の左右の外側にも線が飛び出すように傷が付いている。まるで鳥のくちばしと羽のようだが、その色は赤く濁っていた。さやかの時とは違ってまだ鮮やかではないが何かを体調不良を来たしていることに間違いはない。

 

 

「綴理、少し我慢してくれ」

「え……?」

 

 

 狙いを定めずに指で太ももに触れるとただの痴漢行為になってしまうので、確実に命中させるために自分の指と傷の位置を横目で確かめる。

 そして、その傷に触れた。

 

 するとさやかの時と同様に傷口がみるみるうちに塞がっていく。人間の細胞ってこんな急速に変わることがあるのかって思うほどだ。

 そして間もなく綴理の身体の熱も徐々に収まっていく。彼女自身の感情が昂っているので完全に熱が消えることはないが、それでもスクールアイドル病が消えたことによる影響は凄まじく、いつのまにか息切れも汗も止まっていた。抱き着かれてるからそれがよく分かる。

 

 

「軽くなった。わたあめみたいにふわふわしてる」

「そりゃ良かったな」

「なにかしてくれたの? ちょっとだけビリって来たような気がしたけど……」

「別に何もしてねぇよ」

「ありがとう」

「何もしてないって言ったろ……」

 

 

 綴理には俺の考えがある程度お見通しなのかもしれない。物事の本質を見抜く力は相変わらず長けているようだ。それを言語化してコミュニケーションに活かせないから困っていた。なんとも天才らしい悩みだ。

 

 だが今のコイツはそんな悩みから解放されて涼しげな表情している。スクールアイドル病が治療されたおかげで体調も戻ったのだろう、ここまで感情を吐露したり表情が動く姿を見るとまるで『普通』の少女だ。他人と自分が違い過ぎることに悩んでいたが、そんな心配は一切いらないと断言できる。

 

 身体の熱も収まり感情の暴走もある程度は落ち着いただろうが、それでも俺を巻き込んだままソファから起き上がろうとはしなかった。

 そして、綴理の目線は俺と横になってからずっとこちらを捉えている。相手をよく観察する綴理らしいのだが、その目線の熱は明らかに『恋』色を含んでいた。

 

 

「れい、もうちょっとだけこうしていていい? 練習の時間までずっとこうしていたい。ずっとれいを見ていたい」

「あぁ、いいよ。もう心配することはなくなって俺も安心したからな」

「ありがとう」

 

 

 綴理のスクールアイドル病を治療した。傷の位置を特定して意気揚々と自室に呼びつけたのは良いものの、結局は彼女が俺を抱き倒してムードが出た流れで治療できたようなもんだ。傷の特定自体も運が良かっただけだし、ここまで誰にも正体がバレてないことも相まって運だけで生きてるな相変わらず。同じく傷の位置が分かっている瑠璃乃と慈はもう少しスマートに治療してやりたいが、鈍感な綴理ですらここまで苦労したから難しいよな……。

 

 ただ、今だけは彼女を無事に救えた安心感に浸っておくか。ガキの身体で女の子に抱かれるシチュエーションってのも珍しいしな、今だけの限定イベントってことで体験しておくのも悪くない。

 

 

「そうだ。写真撮ってもいい?」

「ダメだ。せめてズボン履け」

 

 

 この状況はこの状況で堪能できるけど、他の奴らにはバレねぇようにしないとな。また秘密が増えちまった……。

 




 綴理回の後編でした。
 今回は前後編通して彼女の雰囲気っぽくゆる~い感じで話が進み、そのせいで同じくスクールアイドル病で熱を発症しながらもさやかの時よりも切羽詰まった感はなかったかもしれません。一応本人はピンチで本当ならドタバタする展開なんですけども(笑)


 次回は瑠璃乃の個人回で、これまで通り前半が女の子側の視点、後半が彼視点の予定です。


 ちなみにですが、小説が600話を迎えました。
 特に特別編は予定していませんが、ここで感謝の言葉だけ。ありがとうございます!




【キャラ設定集】
零から蓮ノ空キャラへの呼称
・日野下花帆 → 花帆
・村野さやか → さやか
・乙宗梢   → 梢
・夕霧綴理  → 綴理
・大沢瑠璃乃 → 瑠璃乃
・藤島慈   → 慈

蓮ノ空キャラから零への呼称(零への好感度 0~100で50が普通)
・日野下花帆 → 零クン  (96)
・村野さやか → 零さん  (94)
・乙宗梢   → 零君   (76)
・夕霧綴理  → れい   (82→95 ※好き)
・大沢瑠璃乃 → 零くん  (86)
・藤島慈   → 零    (77)

スクールアイドル病の治療状況
・日野下花帆 → 傷の位置未特定
・村野さやか → 治療済
・乙宗梢   → 傷の位置未特定
・夕霧綴理  → 治療済
・大沢瑠璃乃 → 傷の位置特定済
・藤島慈   → 傷の位置特定済

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