妹の楓によって蓮ノ空女学院はまるで爆撃に見舞われたかのようにボロボロに朽ち果てていた。もちろん爆破されたとかではなく、どこから持ってきたのか薙刀1本で粉塵が上がるくらいに校舎を壊滅状態にしている。どうやったらここまでの惨状を生み出せるんだと気になるところではあるが、ブラコンを拗らせたアイツが兄の強制連行に納得がいかず憤るのは普通のことだ。だからと言って校舎破壊でストレスを発散していい理由にはならないが、こうなってしまった以上はもう止められない。
となればその対処を俺に押し付けられるのは当然のことであり、今回も面倒事を処理する係となってしまった。ただ自分の妹の不祥事なので当然と言えば当然だし、このままずっと秋葉に鎮静剤を打ち続けられるのもかなり忍びなかったので、ここで事情を話して納得してもらえればお互いにすっきりできる。話す機会ができたと思えばこの最悪の状況も少しはポジティブに捉えられるだろう。
そうは言いつつも、この子供の姿で楓と会うわけにはいかない。今のこの身体は秋葉によって誰にもバレてはいけないというある種の呪いみたいなのがかかっており、バレたらその時点で身体が溶け落ちるというもの。毎回毎回張る必要のない命を張っている気がするが、この枷のせいでこれまで何度もヒヤヒヤさせられてきた。
そして、今回の相手は実妹。アイツは俺の幼い頃も良く知っているため、この姿を見たら一発で正体を見破られてしまうだろう。一応最終兵器として元の姿に戻る薬があるのだがそれはそれでリスクがある。なるべくそれを使わずに穏便に済ませられればいいのだが、バーサーカーモードとなっているアイツをこの姿でどう止めるのかは考えものだ。
「う~ん……」
「ん? めぐちゃんどうしたの?」
「暴れてるあの人。どこかで見たことあるような気がするんだよね」
「慈センパイもですか? あたしも直接会ったことはないんですけど、どこか見覚えがあるんですよ」
「とてもお綺麗な方だったので、ファッション雑誌とかテレビとかで活躍されている方しょうか?」
「そう言われてみればルリも……パッと思い出せない。もっと身近な人だった気がするけど」
「スクールアイドル……。ボク、その動画で観たことがある気がする」
「それよ。綴理の言う通り、あの人はスクールアイドル『μ's』の元メンバーの――――神崎楓さんね」
ヤバいバレた。まあスクールアイドルをやってればレジェンドと呼ばれた『μ's』のことを知らない奴はいないだろうし、アイツと対面したらいずれバレてたか。楓にあまり踏み込まれると芋づる式に俺の正体に関する情報が漏洩する可能性があるためできるだけ伏せておきたかったのだが、こればっかりは仕方ないだろう。
「今はかなり荒れているようだけれど、それでもあの圧倒的で魅惑的なオーラは神崎楓さんで間違いないわ」
「μ'sかぁ、どうりで見覚えがあると思ったよ。でもそんな有名人がどうしてこんなことしてるの?」
「お兄さんを探しているみたいですけど、この学校に男性は零さんしかいませんし……」
「零クンがそのお兄さん……なわけないよね」
「もしかしたら大人が小さくなっているかもしれない。ボクそういう漫画を見たことあるよ」
「いやいや綴理パイセン、流石にフィクション過ぎてそれはないですって!」
「はは……」
早速真実に近づかれてると言うよりもう迫ってたぞ大丈夫かこれ……。
非常に悪い流れだ。楓の話題を広げれば広げるほど過去に俺がした会話の矛盾点がはっきりしかねない。これまで家族構成などボロが出そうな情報は意図的に話さないようにしてきたが、この姿で日常生活を送っている以上常に矛盾を潰しまわるのは不可能だ。
このままアイツの話題を続けられると都合が悪いので、ここらで切り返すとするか。
「おい、そろそろ行くぞ。このままだと校舎が倒壊して全員生き埋めだ」
「あっ、うんそうだね。動けないみんなの分まであたし頑張るから!」
お前らが話して分かってくれる相手じゃないような気もする、とはやる気を出してるコイツらの前では言えない。
ただ俺の姿を晒せない以上コイツらに頑張ってもらうしかない。スクールアイドルが目の前に現れたとなればアイツの気も少しは逸らせるだろうしな。
~※~
「いた、あそこだ」
周りをキョロキョロしながら廊下を歩く楓を発見した。俺を探しているのだろう、茶髪のウェーブを靡かせて歩く美少女というどこから見ても絵になる構図になるアイツだが、手に握られている薙刀があまりにもミスマッチで恐ろしすぎる。しかもたまに無意味に振り回すためそのたびに校舎が傷ついている。頭に血が上っているのは俺の目から見て明らかであり、秋葉がバーサーカーと言った理由もアイツの動きを見ているだけでよく分かる。
「先に1つ注意しておくけど、アイツと話すなら俺の名前は出すなよ。絶対にだ」
「えっ、どうしてですか?」
「いいからそれだけは守れ。それができないのならここからは俺1人で行く」
「大丈夫。めぐちゃんたちにお任せ!」
「よし、じゃあ行く―――――ッ!?」
矛盾が浮き彫りにならないように、俺の存在を匂わせないようコイツらに釘を刺しておいた。
これで準備は完了と思っていたのだが、その矢先に楓が一瞬こっちを振り向いた。それを察知して咄嗟に柱の後ろに隠れたので顔は見られてないと思うが、ここまで大所帯でストーカーすればアイツのことだからすぐ存在に気付かれる。変に怪しまれると何をしでかすか分かったものじゃないし、だからコソコソするのは終わりにしたいのだが……。
その時、楓が薙刀を握る手に力を入れたのが目視できた。
俺は咄嗟に花帆たちに飛び込むため踏ん張り――――
「伏せろ!!」
「「「「「「えっ!?」」」」」」
6人に向かって飛び込んで無理矢理この場から引き離す。突然の出来事に各々声を上げるが、その瞬間に斬撃が真空波となって俺たちのいた柱の近くを切り裂きながら通過した。俺たちを直接狙ったわけではないものの、その床は綺麗に切れ込みができておりその威力を物語っている。
「え、え!? あたしたち切られたの!?」
「さっき切られた空間から裏の世界見えたんですけど!? ルリ見たもん!!」
「鼻ある? ボクの鼻ある? さっき擦った気がした」
「大丈夫ですよ綴理先輩。ちゃんとキレイな顔のまま整っていますから」
「風を切る音をこんな間近で聞いたのは初めてかも。危うく鼓膜切り刻まれそうだったよ……」
「とりあえずみんな無事みたいね。ありがとう零君」
「あ、あぁ……」
楓の奴、やはりこちらの存在を感じ取ったようだ。俺たちが後を付けてきた気配を感じ取ったんだろうが、まさか直接切りつけてくるのではなく空気の刃を飛ばしてくるとは思ってもいなかった。しかも床を八つ裂きにするくらいの威力。アイツ、俺の知らないスキルを身に着けてやがる。いや怒りの臨界点を超えたせいで潜在能力以上の力が引き出されているのか。
てかこれバトルマンガの解説みたいじゃねぇか。俺の日常はほのぼのラブコメたまに事件モノかと思っていたが……。
「こ、梢センパイ! 制服が……!!」
「えっ? あっ、少しだけ裂けてるわね……」
「ッ!? 梢お前……」
「えっ、どうしたの? あっ、あまり見てはダメよ……」
「いやなんでもない……」
さっきの空気の刃で誰もケガはなかったものの刃の一部が梢の制服、具体的には胸元あたりを少し
ここであの傷に触れてしまえば梢のスクールアイドル病を治療できるのだが、今はそれどころではない。あからさまに負のオーラを巻き散らしている最凶の妹がこちらに迫ってきている。無理に治療しようとして逃げ遅れ、正体バレでもしたら一巻の終わりだ。
「やべ、来る。俺は姿を見られるわけにはいかないからあっちに隠れておく。策を考えておくからしばらく任せたぞ」
「えっ、ちょっと零クン!? あっ――――」
俺が崩れた壁の後ろに隠れると同時に、楓が花帆たちの前に現れた。遂に両者が対峙する。
「あなたたちは……?」
「えぇっと、
「スクールアイドルか。お兄ちゃんのいるところスクールアイドルありだね。どうりであなたたちからお兄ちゃんの匂いがプンプンするわけだ」
「えっ、そんなにニオイますかあたしたち!?」
「そりゃもうね。この世で一番香しい匂いがありとあらゆるところに染み込んでるよ。それはつまり、お兄ちゃんの居場所を知っているという他ないってことか……!!」
「ひっ!? めぐちゃんちょっとヤベーんですけどこの人……」
「私に言われても……。でもアイツに任されたって言われたし……」
楓の圧力に完全に尻込みしてるなアイツら。そりゃ校舎を破壊するほどの威圧とスクールアイドルの大先輩という要素が混ざり合わさって、自分たちが強く物事を言えるような立場でないと察しているのだろう。実際に楓は女王様気質があるため、その上から目線の圧力は年下にしてみれば凄まじいプレッシャーだ。アイツと怯まずに話ができるのは親族を除いたらそれこそ同じμ'sメンバーくらいのものだろう。
「あの、お兄ちゃんと仰っていますが、わたしたちが知っているのは小学校を卒業したての男の子であって成人の男性ではありません。それにこの学校は生徒はもちろん教師も女性ばかりで、男性はその男の子1人しかいません。なのであなたが探している人はここにはいないかと……」
「さや、毅然としてるね。度胸ある」
「正直後ずさりしそうなくらいの威圧でしたけど、何か言わないと切られそうでしたから……」
「小学生……」
「そうです! すっごく頼りになってあたしたちみんな助けられていて、まるでヒーローみたいな子なんですよ!」
「ヒーロー……?」
花帆の奴、余計なこと言いやがって!!
ただ名前を出すなとは言ったが俺のことについて話すなとは明確に言ってなかったので、アイツが口走ってしまったのは俺の指導不足か。情報伝達って難しいとしみじみ感じるが、今はそんな呑気なことを言っている場合ではない。
案の定楓は何か疑っているみたいだ。普通なら成人男性を探しているのにここにいるのが小学生のみとあれば身を引くのが当然である。でもアイツは俺の妹であり秋葉の妹。常識では考えられない非日常というものに慣れている。しかも俺の匂いから俺がここに居ることを確信しているため、そう簡単に納得を得られるとは思えない。
そのため、これ以上アイツらに俺のことを喋らせない方がいい。とは言え俺は隠れてなきゃいけないから当然声も出せない。ここは――――
「あんなに物語の主人公みたいな子いないよね。ルリ、あの子と一緒にいるだけで楽しくなっちゃう――――えっ?」
「ん? 何さっきの音?」
「た、多分壁が崩れた音です。みんな、
流石は梢、気付いてくれたか。話の腰を折ってやろうと思って崩れそうな壁を軽く叩いてみたのだが、その音で梢が察してくれたようで話題を逸らしてくれた。
ただ想定より大きな音が出で屑が舞ったのでどれだけ朽ち果ててるんだよと思ってしまう。どうやったら薙刀でここまで破壊できるんだか……。
「なるほど、小学生だけど人助けのヒーローみたいな男がいると。そしてあなたたちはその子にお熱だと。スクールアイドルの子が1人の男にお熱ねぇ。どっかで聞いたことがあるシチュエーションだなぁ~」
誰に聞かせてるんだそれは。皮肉混じりの独り言か、花帆たちに疑念を植え付けようとしているのか、それともどこかで息を潜めてるだろう俺に向かって言っているのか。なんにせよ真実の目の前まで迫っていることに変わりはない。
ただ言い訳しようにもこの姿のままではダメだし、まだチャンスを待つしかないか。
「それで、あなたたちはその男を守るために必死なわけだ」
「好きな人からのお願いだから、ボクはその約束を守ってるだけだよ」
「好きって、先輩この状況でなんてことを……!?」
「でもみんなも同じだよね?」
「ま、まぁそりゃアイツには色々借りがあるし、それに事件が起きたらいつも任せっきりだから今回はみんなで一緒に解決しようって思ってるけどさ……」
「スクールアイドルに好かれてる男の子、か。そんな典型的な主人公属性の男がこの学校にいると。しかも女子ばかりの中で唯一の男、これは偶然だと思う?」
「思うと言われましても、
完全に煽ってやがるアイツ。これまで偶然やら奇跡やら現代の常識では説明できないことはたくさん起きてきたが、それも全て秋葉が絡んでいるとなればアイツと関わりの深い奴なら納得できる。増して楓は秋葉の妹、これだけ俺と結びつける証拠があれば大体察することとができるだろう。俺が変な薬で子供になっていることくらいは想像できるだろう。
ちなみに楓がコイツらを煽ってる理由は、単に俺とスクールアイドルの関係が良好なのが気に食わないだけだ。これまでもそうだった。ただ愚痴ることはあっても物理的に手を出したりはしないので、如何に怒りの臨界点を超えていようが花帆たちの身が傷つけられることはない。煽って弄って遊ばれるかもしれないけど……。
「じゃあその子のこと、どう想っているのか言ってみて」
「えっ、なんですかそれ!?」
「言ってみてって言ってるの。その想いが私の心に伝われば潔く帰るよ。関係を深めてるって証拠を出してくれれば、その子が嫌々ここに居座ってる訳じゃないってことが分かる。理由は分からないけど
少し冷静になったみたいだ。どうやらアイツらと俺との関係性を自分が認めれば帰ってくれるらしい。
ただアイツらにとってはかなり恥ずかしい状況に陥っている。好きな男の好きなところを言うなんて、恋愛経験が初めてのコイツらにとってはハードルが高い。しかもその相手は今崩れかけた壁の裏にいてこの場を見てるんだ。そりゃ羞恥心に襲われて言うに言えないだろう。
暫しの沈黙が流れる。誰も何も言わない。
楓はその状況から軽く落胆したような様子を見せ、薙刀を持つ手に力を入れる。コイツらを切るわけではなく、恐らく俺が近くで見ていることを察しているから周りを破壊して俺を無理矢理見つけようって魂胆なのだろう。楓は俺の女性関係には厳しいが、別に禁止しているわけではない。ただ俺と釣り合わない女性が俺に近づくことに対しては容赦がない。その面倒な性格が今回も発動してしまっている。
渋ったまま動かない6人。
しかし、このままでは埒が明かないのも事実。だから――――まず花帆が顔を上げた。
「好き……だと思います。だからもっと一緒にいたいんです! 隣にいるだけで自分が花咲ける存在になれる。あたしの太陽ですから!」
覚悟は決まっているようだ。そんな彼女を見て他の奴らも追随する。
「彼はもうスクールアイドルクラブの一員です。共に歩み共に笑い、共に窮地を乗り越えてきました。一心同体と呼べるほど、大切な存在となっています」
「わたしはあの人に何度も助けてもらいました。そして芽生えたこの想いは、絶対に偽りではありません」
「一緒にいると本当の自分と向き合える。心の靄も全部晴れる。気持ちいいんだ、それが」
「みんなを笑顔にして誰1人漏らさずに救い出す。そんなヒーローなあの子のことが、ルリは好き」
「生意気だけどそれがカッコいい。唯我独尊で自信満々。そんな頼りがいのあるアイツに惹かれちゃうんだよね、悔しいけど」
力強い言葉。各々の言葉は短かったが、目力も気迫もその時だけ楓を超えていた。
それにしてもそうやって想っていてくれていたのか。誰かから自分の評価を聞くのは照れ臭いけど、アイツらは本気の想いを言葉にしてくれた。これまでもやってきたつもりだけど、これからはもっとその気持ちに応えてやらないとと改めて決心がついた瞬間だった。
そして、楓は表情を変えずに彼女たちの想いの言葉を聞いていた。
小さく溜息をつく。
「そう。じゃあその想いを無駄にしないようにね。」
それだけ言うとこちらに背を向けてこの場から去った。
ただ沈黙が流れている時に見せていた落胆の様子は消えており、特にこれ以上被害を出すこともなかったため、完全に納得はしてないようだが一応アイツの中で落としどころを見つけたのだろう。
それにしても、『想いを無駄にするな』って
危機が去って安心しているところにスマホが震える。
見ると秋葉からのメッセージが来ていた。
『乗っ取られていた電波は取り戻したから。あとはそっちだけ。頑張れ』
内容を見ると向こうも無事にミッションを達成したらしい。とりあえずこっちも終わったことを返信しておく。
『もう終わったよ』
『おっ、さっすが零君!』
いや、今回は俺ではなくて――――
『アイツらのおかげだよ』
当の本人たちは必死に想いを伝え楓に受け止めてもらえたことで安心して脱力したのか、その場でしばらく立ち止まったままだった。
間違いなくお前らのおかげだよ。良くやったな。
じゃあこっちも最後にやることをやっておくか。
~※~
「あ~イライラする。あんな奴らに丸め込まれるなんて……。でもあんな本気の気持ちを聞いたら誰でも冷めちゃうって……」
楓は蓮ノ空女学院の校門に向かって歩いていた。やはり完全に納得は言ってない様子で、まだ苛立ちは残っているようだ。でも身を引いたのは自分の課したラインをアイツらが超えてきたからで、そのラインは兄に対する気持ちの大きさによるものだ。しこりが残っても自分で制定したルールは守っているので、そこがコイツの憎めないところなのだろう。
だからこそ、その残りのケアが必要なわけで――――
「お前でも負けることあるんだな」
「えっ、お、お兄ちゃん!? え、でも小学生になってるんじゃ? えっ? へ?」
このまま帰らせるのも忍びないのでコイツの前に出てきてやった――――
楓は俺のもとに駆け寄ってくると、目を輝かせて嬉しそうな表情をする。
「本当にお兄ちゃんだよね!?」
「いやお前なら本物かどうかなんてすぐ分かるだろ」
「そっか。そうだよね。だったら私、もしかして凄く勘違いしてたかも……? いやでも……」
「秋葉に頼まれて、ここ最近スクールアイドル関係のいざこざに巻き込まれてただけだよ。それであちこちを転々として色んなスクールアイドルに関わってから家にいなかったんだ。何も言ってなくて悪かったよ」
「そ、そうなんだ。まあお姉ちゃんが無理矢理連行したんだと思うし、許すよ。でもさっきの小学生って?」
もしかしたら小学生の俺と今の俺が同一人物ではない方向に思考が傾き始めているのかもしれない。身長が伸び縮みする薬くらい秋葉が開発できることはコイツも知ってるだろうが、まさかこんな短時間で同一人物っぽい奴が現れるとは流石に思ってなかったのだろう。アイツの作る薬は時間経過で元に戻るのがデフォだからな。急いで薬を飲んでここまで走ってきた甲斐があった。
「やっぱり私の勘違い? ただ荒らしただけになっちゃった!?」
「はは……そういうことになるな」
「えぇ……。お姉ちゃんを脅してわざわざここまで来させたのに時間の無駄だったか……」
「そう。だから早く帰るよ」
「お姉ちゃん!?」
楓の背後から耳元で囁きながら秋葉が現れた。楓は距離を取ろうとするが秋葉が一瞬の隙をついて首根っこを掴む。
「じゃあこの子を送ってくから、零君あとは事後処理お願いね」
「事後処理?」
「お兄ちゃん! たまには家に帰ってきてね! 絶対だよ!」
「あぁ、すぐ帰るよ」
そうやって俺に言葉を投げかけながら秋葉に引きずられていった。
心配しなくてもすぐに帰れるような状況にしなければならない。そう、スクールアイドル病を治療するために急がなきゃいけないからな。悠長に学校生活は送っていられないわけだ。
僥倖なことに今回は梢の傷の位置が特定できたし、これで調査も進展した。あとは慈と梢の治療、および花帆がスクールアイドル病を患っているかを調べるだけだ。そう考えるとかなり進展している。俺が生徒としてこの学校に居られる時間も、そう多くはないのかもしれない。
そうだ、とりあえず元の姿に戻る……いや元はこの姿か。またガキの姿に戻らないと。最近ずっとガキだったからあっちが元かと勘違いしちまった。なんかもう1人自分に慣れてるから怖いな……。
そして、ふと校舎を振り返る。
そこには平和になったボロボロの校舎が……。
「つうか、事後処理ってこれかよ!? 元に戻してけよアイツ!?」
当初はギャグテイストの話になるつもりでしたが、意外とまともな話になってしまった。蓮ノ空編も後半なのでそういう展開が必然的に多くなっちゃいますね。
次回は慈の個人回です。いつも通り前後編でお送りします。
【キャラ設定集】
零から蓮ノ空キャラへの呼称
・日野下花帆 → 花帆
・村野さやか → さやか
・乙宗梢 → 梢
・夕霧綴理 → 綴理
・大沢瑠璃乃 → 瑠璃乃
・藤島慈 → 慈
蓮ノ空キャラから零への呼称(零への好感度 0~100で50が普通)
・日野下花帆 → 零クン (96)
・村野さやか → 零さん (94)
・乙宗梢 → 零君 (76)
・夕霧綴理 → れい (95)
・大沢瑠璃乃 → 零くん (96)
・藤島慈 → 零 (77)
スクールアイドル病の治療状況
・日野下花帆 → 傷の位置未特定
・村野さやか → 治療済
・乙宗梢 → 傷の位置特定済
・夕霧綴理 → 治療済
・大沢瑠璃乃 → 治療済
・藤島慈 → 傷の位置特定済