俗にこの学校で広まっている『ABCトリオ』の一角である『C』の方。薄茶色の髪を肩まで伸ばしており、目がツリ目で瞳に強烈な意志を宿すくらい眼光が強く存在感がある。
同じトリオ仲間である『A』の
彼女の本性と言うべきか本来の性格は正論を振りかざす正義の執行者。事前に事実ベースでの証拠を揃え、相手の逃げ場を徹底的に潰す。だから相手と同じ土俵に立った時には既にコイツの勝ちが確定している状況となる。どうやら梢に負けないくらいのお嬢様らしく、幼い頃から帝王学を身に着けてきた影響か相手を説き伏せる手腕はこれまでの話を聞いていても光り輝いている。全く隙が無いから大賀美が手を焼く理由も分かる。あの七草七海以来だよ、厄介な奴が現れたと思ったのは。
椎葉はまず俺の存在が蓮ノ空女学院に及ぼす悪影響を3つ上げた。
・校則を超えた、または違反に迫る着飾りをする人が増えた
・神崎零に頼ればいいと言う風潮になっている
・カースト制度が暗黙的に構築されている
言ってしまうと結果はいずれも生徒たちの意識次第なのだが、俺がその結果の諸悪の根源となっているのは間違いない。だから俺がいなくなるというその一点が果たされれば全てが解決するという考えは間違えではない。というかそれが風紀を守る上で一番の近道だろう。
その指摘だけでも合理的な判断を下している椎葉だが、どうやらまだ彼女には俺を追放せんとする武器があるようだ。
「次にここ最近この学校で勃発している事件についてです。これまで平和も平和だったこの学校ですが、神崎1年生が来てからこの3週間で尋常ではないほど短期間で事件が発生しています。これがここ最近の事件の一覧です」
・食堂の貯蔵物窃盗事件
・幽霊騒動事件
・エルフ事件
・ナイトプール事件
・蓮ノ空ジェノサイド事件
「どうですか? すべて心当たりがあるでしょう?」
いやあるもなにも全部自分が大なり小なり関わった事件だ。
ただ疑問なのはこの中には真実どころかその存在すら秘匿されている事件もある。訳アリだったから俺たち関係者の中で秘密にしておく約束だったのだが、なぜコイツが知っているのか甚だ疑問だ。
「どうしてお前が知ってんだ? 特に幽霊のことは俺たち以外に誰も知らないはずだけど」
「愚問ですね。調べれば分かることです」
「はぁ? 大賀美が漏らしたんじゃねぇのか? 同じ生徒会だし、ついうっかり」
「違う違う。彼女の調査能力は半端じゃないんだ。人の話や現場検証で証拠を着実に揃え、そして自らの推理で答えを導く。確かに最終的にあたしがゲロちゃったけど、それも彼女の推理が寸分狂わず的確で追及された側のあたしに逃げ場がなかったんだよ。だから降参して話すしかなかった」
「情けない話だな」
「あぁ、全くだ」
大賀美が生徒会長の右腕として椎葉を即採用した理由が分かるな。ていうかむしろ会長のポジションが侵食されてしまいそうになってるけど、大賀美には長としてのカリスマ性があるからな。そのおかげでギリ今の立場を維持できているのかもしれない。
にしても自らの調査だけで事件の全容を把握するとか、それだけ有能ならもうコイツがいれば俺がいなくても事件なんて余裕で解決できるだろ。俺のやるべきことはスクールアイドル病の治療だけだからあまり余計なことにこっちを巻き込まないで欲しい。と言ってもこの巻き込まれ体質、事件呼び込み体質の両方を備え持つ自身の性能を何とかしない限り無理なんだろうな。
「いずれも神崎1年生がこの学校に編入して来てから起きた事件です。しかも食材の窃盗は故意で起こしており、ナイトプール事件は学外にも迷惑をかけている始末。自ら風紀を乱すこともあった他、その乱れを学外にまで知らしめてしまっている。これだけでも追放を判断する材料としては十分です」
「で、でも零クンはたくさんの事件を解決してくれたんだよ!? それに一昨日学校がめちゃくちゃになっちゃったのは零クンのせいじゃないみたいだし……」
「誰のせいだとか、そこは問題ではありません日野下1年生。問題なのは彼がここに来てからたくさんの事件が起きているのが事実であるということ。それに一昨日のジェノサイド事件ですが、どうやら襲来した女性は彼の知り合いだったとか。もしかして痴情の縺れではないのですか?」
大体当たってやがる。まあ楓の件は間違いなく秋葉を含めた俺たち兄妹の問題だったので、そこは素直に原因が自分だと認めざるを得ない。そう考えるとナイトプール事件も秋葉の仕込みだから諸悪の根源扱いされても仕方がないと言えばそうになる。反論を許さない的確な攻め。大賀美や花帆たちが上手く反論できないのも当然だろう。
「ちなみにですが、蓮ノ空女学院の学校の理念はご存じですか?」
「えぇ。『厳粛な規律と、確固たる伝統』。創立から100年経った今でも引き継がれている理念ね」
「そうです。でもその規律と伝統が破壊の危機に立たされている。生徒たちの風紀は乱れ、学校内外で様々な事件が起きています。俗物に塗れた生徒たちの浮ついた雰囲気、何か事件の香りがする怪しい雰囲気。それらが発生しだしたのは彼がここに来てからです。会長や先輩方は長くこの学校で生活してきているのでより鮮明に感じているでしょう」
「伝統を守るために異質は排除する必要がある。それはあたしも分からないことはないけどもね……」
「歯切れが悪いですね。先輩方も経験してきているでしょう。スクールアイドルとしての挫折と後悔を。脚のケガで立ち直れなくなった。仲間が引退したことによる焦りでライブ当日の振り付けを変更して不和が生まれた。スクールアイドルクラブを守るために生徒会長となったはいいものの、コミュニケーション不足で後輩とすれ違いが生じた。ただそのような挫折や後悔があったにせよ、それは間違いなく人の成長、この学校の確固たる伝統の1つとして後輩に受け継がれていく大切な過去です。しかし、今はたった1人の男性に興味を持ってもらいたいからと浮ついた雰囲気が全校に蔓延したり、怪しい事件が短期間で起こったりと、もはや個々の活動はもちろん組織の活動としても悪影響が出ています。このままでは厳粛な規律を守ることも伝統を作り出すこともできません」
「ボクたちのこともそこまで知ってるなんて……」
「確かに後輩にもその反省を伝えられて伝統の一部にはなっているけれども……」
「そうなんだよ。そうなんだどさ……」
2年生たちは何か言いたげだけど言えないようだ。
椎葉の容赦ない正論。『正しさ』を振りかざす鉄槌に大賀美を含む7人は口を紡ぐことしかできない。何かが違う、誰しもがそう思っていながらもそれは個人の感情であり、反論しようにもそれは合理的な正論という巨大なハンマーに待ち針1本で対抗するようなもの。とても勝負にならない。別に意見の取り交わしは相手を捻じ伏せる勝負ではないので勝敗はないのだが、椎葉の毅然とした態度と意見に勢いがあるため物怖じせざるを得ないのだろう。
実際に椎葉の言い分は全て正しい。コイツの意見の主題はこの学校の理念である『厳粛な規律と、確固たる伝統』を守ること。その目的を達成する、そのたった1つを達成するためであれば俺を追放するってのは最も手っ取り早い方法だ。その他の感情論は一切なく、その目的に対して自分の意見を一貫させているからこそ聡明な大賀美や乙宗でさえ口を抑え込む。
「言ってることは正しいけど、なんつうかモヤっちゃう……」
「筋道が通っていているからこそどうしても考え込んでしまいますね……」
「合ってるけど本当に……? 言いたいことはあるのに、あたしの言葉じゃ上手く説明できないよ……」
1年生たちも悩む。何か言い返したいという感情論では到底太刀打ちできないことが分かっており、負け確を意識してしまっているので思考がロックされているのだろう。ただされていなくてもコイツの正論に迎え撃つのは困難だとは思うが。
このまま追放されるしかないのか。黙ったまま正論に屈服するのか。
「どうですか? ご理解いただけましたか?」
もちろん―――――そんなことはない。
というか―――――
「それがどうかしたか?」
「はい?」
俺の言葉に椎葉はもちろん大賀美たちも驚き、視線も一斉にこちらに向く。
「どうかした、というのはどういうことでしょうか?」
「お前が語る風紀の問題、この学校の理念、それに築き上げてきた伝統なんて俺には全く関係のないことだ」
「関係がないって、この学校の生徒としてそんなことが……」
「別に俺はこの学校に所属してるつもりはねぇよ。俺はたった1つの目的を果たすためにここにいる。自分にしかできない、誰かを救うって目的だ」
それらしく花帆たちに目を向けると、同じくこちらを見つめていたコイツらと目が合った。俺によって自分たちが救われていることは薄々勘付いていると思う。以前に瑠璃乃がそれで感謝してきたし、なんとなくだけど俺がいきなりスクールアイドルに接触した目的も詳細も知らないにせよ、その結果が何をもたらすのかコイツらも薄っすら理解しているだろう。しかもこの目配せで確信に変わったと言ってもいい。
そんな中、大賀美は黙ったままだが椎葉は少し動揺していた。あまりにも予想外な回答に反論材料を持ち合わせていなかったのだろう。頭脳派によくある自分のカバーできる範囲から逸脱されると弱いってやつか。
「規律とか伝統とか、コイツらが築き上げてきた過去も俺には関係ないし興味もない。だからそんな綺麗事を叩きつけられても俺の心にいささかも届かない。ま、お前と考え方の前提が違うってことだ。だからお前がどんな証拠を並べようが俺には関係のないんだよ」
「そんな自分勝手な……」
「そうだよ。俺がいることで害をもたらしているかもしれないが、俺は自分に手の届く範囲で事件を解決してるつもりだよ。他の奴らに色々頼み事をされるけど、それも全部解決してる。それは周りからの信頼を得るっていう俺の目的の達成に必要なことだからだ。規律とやらで誰かを救えるのか? 伝統で誰かを苦しみから解放できるのか? 過去を語れば誰かを守れるのか? 俺は自分の課題を解決しようとしているだけに過ぎない。周りからの評価や影響なんて知ったことか。俺は今を生きてるんだ。過去は過去でただの経験。所詮は過ぎ去ったことだ。それを土台として語っている時点で俺とは話が合わねぇよ」
「そ、それは……」
椎葉は俯いて口を紡ぐ。自分とは全く違う切り口の考えを持つ奴に別視点での考えをぶつけられ、頭の整理が追い付いていないのだろう。コイツの言うことは間違っていない。学校の規律と伝統を守るためであれば俺の追放は合理的だ。だが昔を見つめてそれを大事にするコイツと、過去は過去で過ぎ去ったモノとして考えて前を見つめる俺とでは話が合わないのは当然。この学校の生徒ならその理念を守ってこそという下地のもとでの議論だと思っていたのだろう。そのベースを覆されて混乱しているようだ。
「だから俺はお前が語る御大層な綺麗事を聞き入れるつもりはない。そんなのに従って救うものも救えないんじゃ意味ねぇからな。今を見据えるか過去を振り返るか、俺とお前の決定的な違いはそこだ」
「…………」
マジで何も言わなくなってしまった。別に差があるとは言っておらず、あくまで考え方の違いがあると伝えたつもりだが認識ズレてたか? 自己調査の有能さや証拠を余さず綺麗に揃えたりなど自分の信念を強く持っていたようなので、真正面からならまだしも横からボディブローのような意見をキメられて怯んでしまったのかもしれない。
「すみません。ちょっと出ます」
「えっ、椎菜ちゃん!?」
椎葉は表情をこちらに見せないまま生徒会室から飛び出していった。
あまりの突然の行動に驚いたが、まさか言葉で滅多打ちにされたとか思ってるのだろうか。同じことをコイツらも考えていたのか、再び俺に目線が集まる。ただ今回は呆れを含めたやや淀んだ目線だ。
「あ~あ、いつものロジハラせいで椎菜ちゃん飛び出しちゃった」
「言葉で相手を説き伏せるのは零くんの方が一枚上手だったみたいだね」
「いや別に戦ってねぇよ。自分の意見を言っただけだ」
「でも零さん、これからどうするんですか?」
「俺が何かをする必要はないと思うけど……」
「そうはいっていられないでしょう」
「うん。それにそう言いながられいがこのあとどうするのか、ボクたち知ってるよ」
「行ってあげて、零クン!」
「なんで俺なんだよ……」
まあ俺のせいで飛び出していったのなら俺が介抱するのが責任ってものだけどさ。全く、この学校の奴らはどいつもコイツも世話の焼ける奴らばかりだ。そりゃ大人と高校生では考え方も視点も違うから仕方ないけども。ただロジハラって言われるのは違うと思う……。
「じゃああたしも行くよ。同じ生徒会の仲間としてこのまま放っておくわけにはいかないからね」
「だったらお前が行けば……って、そんな目で見んな。はぁ、勝手にしろ」
~※~
「ありがとう」
「なんだよいきなり」
日も落ちかけており夕日の暁が窓を通して廊下を照らしていた。
椎葉がどこへ行ったのかは花帆たちが連絡を取っても出ないので分からないとのことで、とりあえずそこらを探してみようと決めて歩いている途中で突然の感謝。俺のせいで事態が拗れたっぽいのにお礼を言われることあったかと疑問に思ってしまう。
「自分で言うのもおかしいけどあたしも不器用だから、あの子と同じレベルで真正面からぶつかってくれる子がいて助かった。あの子の意見も間違ってはないけどさ、あたしじゃ納得させることはできなかったんだよね。だから少年を呼んだんだ。さっきキミにも情けないって言われたけどその通りだよ。生徒会長なのになんてザマだって思っちゃう」
自己嫌悪に陥る大賀美。
コイツの過去は梢たちから聞いて知っている。去年学校の権力者からの圧力で生徒たちの自由が縛られそうになった際、自身が生徒会長になることで生徒の自由を守る方針を提唱し、見事に実現して生徒を守った。ただ生徒会役員は部活に所属できない根底のルールは曲げられず、やむを得ずスクールアイドルは引退。もちろん苦渋の決断だったらしい。
ただ、そうした本心を後輩たちに明かしても結局はスクールアイドルを辞めるという事実は変わらないからという理由で、後輩たちの前では平静を装っていた。そのことが主に綴理に『クラブやスクールアイドルに対して何の思い入れもない』という印象を与えてしまい不和の原因となってしまった
結局は本心を打ち明けあったことで和解できたそうだが、大賀美にとっては自身の意図を上手く伝えられないことに自らの弱点を感じているのだろう。
「今だってそうだ。自分の中にしっかりとした意見があるのに伝えられなかった。もしかしたら怖がっているのかもしれないね、またすれ違いになるのが」
全校生徒の上に立つ生徒会長にはあるまじき度胸の無さだが、コイツもまだ高校生だから対人関係にビビっちまうのも仕方がない。ていうか大人であっても人間である以上は対人は怖いものだ。またすれ違いになるのなら敢えて自ら身を引いた方がいいと、引っ込み思案な選択をしてしまいそうなのも分かる。
でも――――
「泣き言はそれだけか?」
「え?」
「吐いた唾は呑み込めない。言葉は大切に選ぶべきだ。言葉1つで一生の関係を失うこともある。だけど恐れていたら前には進めない。言いたいことがあるなら言え。当っていようが間違っていようが、自分の芯が通っていれば相手にその意図は伝わる。受け入れてもらえるかどうかは別としてな。でもどこかで自分の意図が伝わりさえすればやり直せるチャンスはきっとくる。お前や綴理たちがそうだったように。昔のことはもはや経験でしかない。過去を原因にして今を殺すな。昔を経験として今に立ち向かえ。そのために俺についてきたんだろ? 椎葉のことを俺に任せっきりにできないって、もう自分でも分かってんじゃねぇか」
「少年……」
コミュニケーションの相手はロボットじゃなく数多の感情を持つ人間なんだ。そりゃ軋轢も生まれるだろう。ただそこで無理矢理にでも進むのか、一度立ち止まってその関係を考え直すのかはその人次第。大賀美は怖かっただけだ、立ち止まってしまうと自分の取った選択が誤っていると感じてしまうからな。そんな縛りを捨てて綴理たちとの関係を立ち止まって見直す機会があれば、もっと早く仲直りできていたかもしれない。
「やっぱり少年と会えて良かったよ。ちょっと話すだけでも前向きになれる。自分が変われる」
「俺はきっかけを作ってるだけに過ぎないよ。変わっているのはお前ら自身が決めたことだ」
人は自分で変わる必要がある。俺はいつも発破をかけているだけで人を変えてはないからな。
「にしても、お前の選択にとやかくは言えないけどスクールアイドルを続けてる路線も見てみたかったな。生徒会長のお前って印象が強くて、あまりスクールアイドルってイメージが湧かないから逆に見たいって欲がある」
「物好きだね。じゃあ少年だけにこっそり見せてあげようかな。実は花帆たち1年生ちゃんたちも見たがってたんだけど、彼女たちには内緒でね」
「お前ってかっこいい系も可愛い系も似合いそうだから楽しみにしてるよ」
「可愛いか?」
「可愛いだろ」
「なるほど、なるほどねぃ。こうやってみんなをオトしてきたのか。恐ろしいねこりゃ」
そんな大したことは言ってないはずだけど、これで女の子を手籠めにしたと言われてもそれは女の子側が雑魚だとしか言いようがない。たかが日常会話レベルで女の子を狙ってると思われたくねぇな。逆に俺のコミュニケーションのレベルが心配になるっつうの。
しかも大賀美の奴、さっきより距離詰めてきてるし、まさかコイツ雑魚側か??
「あの、神聖なる校舎内でラブコメの波動を感じさせないでもらえますか?」
「えっ、椎菜!?」
目の前にいきなり椎葉が現れた。ちょうど階段の影となっているところから音もなく現れたので直前まで全く気が付かなかった。
大賀美は慌てて俺と少し距離を取る。飄々とした性格で誰からも頼りにされるカリスマ性はあるけど、実のところはやはり年相応の女の子なのかもしれない。まあガキの姿になっている俺と同じくらいの背のコイツが並んでると、学生カップルってより仲のいい子供同士にしか見えねぇけどな。
「えぇっと、もう大丈夫なのかい?」
「大丈夫……? まさか私が打ちのめされて落ち込んでいるとでも思っていたのでしょうか?」
「あれ、違う?」
「えぇ。あまりにも横暴で、だけどどこか納得のいく彼の説明に混乱していただけです。別に神崎君の意見に負けたとか、それで心を折られたとかそういうことではないです。ただ単に情報整理をしていただけです。あの場にいると皆さんの目がこちらに集まって集中できませんでしたから」
「な、なるほど。杞憂だったみたいだね」
本人にダメージはないようだ。ここで自分の意見が勝っていると言い張って逆上してくるのが最悪のシナリオなので、多少頭が固いところはあれど健常な常識人で助かったな。
「まさか私を心配してここへ?」
「あぁ、俺ってより花帆たちが心配してたからな」
「花帆ちゃんたちが……」
「普段は肩書を付けずにそうやって呼ぶんだよな」
「それはあんな喋り方をしていたら迷惑でしょ。それに呼び方もいちいち長くなって面倒だし……」
「面倒って自覚あったのかよ……」
どちらかと言えば生徒会室にいた頃のアイツが作った自分であって本来はこっちが素なのだろう。俺に対しては敬語が抜けているところからもそれが分かる。
「それで椎菜、少年のことはどうする気だい?」
「今のところは様子を見ます。その目的とやらが達成されればこの学校からいなくなるのでしょう? それであればそれまでの辛抱ですから」
「待ってな。すぐ終わらせてやっから」
「ふふっ、期待してるよ」
その期待は俺が早く消えることなのか、それとも誰かを助けるなら早くしろということなのか。どちらにせよ椎葉の魅せた笑みが少し無邪気さを含んでいたことから、もしかしたら何が何でも俺を追放したいという意志は最初からなかったのかもしれない。ただ俺が半端なことを言ったら問答無用で追放してやるくらいの勢いはあったので、俺の回答が椎葉にしっかり響いたということだろう。
だがそうだとすると、生徒会室にまで呼び出してあんな大々的に俺を追い詰めた本当の理由は――――
「会長もどこか気が晴れたような顔をしています。心のつっかえは取っ払われましたか?」
「あぁ、そうだね。少年と話したおかげで真の意味で前を向けた。この役職になってからここまで自信がついたのは初めてだよ。もう誰にも、もちろんキミにも物怖じせず心から向き合えそうだ」
「良かったです。私が生徒会に入った時の会長は、尊敬する先輩でありつつもどこか脆さを感じられましたから。彼と話す絶好の機会が訪れて良かったです」
「えっ、キミ、まさか……」
「椎葉。お前、大賀美のことを……?」
「さぁ、どうでしょう」
まさか俺たちを呼び出したのも、自分が敵になるかもしれないリスクを払ったのも、わざわざ飛び出したのも全部コイツの策略だったりするのか? 俺の出した意見に驚いていたのはマジな反応をしていたので間違いないと思うけど、そうなることもそれなりに予想はできており、もしかしたら大賀美と俺を2人で話すきっかけを作って大賀美から俺に過去の話から悩みを切り出すように仕向けた……とか?
だとすると追放する云々はもしかしたら100%の本気ではなく、あくまで
「そろそろ帰ります。花帆ちゃんたちにはよろしく言っておいてください。あぁそうだ、英奈ちゃんと美和子ちゃんにも声をかけておかないと。余計な心配をかけさせちゃったし。それでは」
挨拶をすると椎葉はその場をそそくさと去っていった。結局自分の本当の狙いは話さなかったか。
「行っちゃった。なんかこう、逞しい子だね」
「まんまとしてやられたんじゃねぇか、生徒会長さん」
「あぁ。でもいい後輩が出来たよ。スクールアイドルの後輩だけでなく、あの子と少年という最高の後輩がね」
「俺もかよ……」
「あぁ、キミもだよ」
生徒会のごたごたに巻き込まれ、最初はスクールアイドル病の解決方法の模索を邪魔されて鬱陶しく思っていたが、なんかいい雰囲気で終わってすっきりしたので許してやろう。間接的に俺の目的によって果たされる結果を花帆たちに伝えることもできたし、これで多少の無茶なら許されると思えば収穫はないことはない。梢のスクールアイドル病の治療と花帆の身体の傷の調査も進めやすくなるだろう。
それでも椎葉椎菜の動向には注意しておいた方がいいかもしれない。また何かやらかそうものなら今度こそ本気で追放されかねないからな……。
生徒会編、および沙知先輩回でした。
沙知の回は本来作るかどうか迷っていたのですが、もし蓮ノ空編の次作を作るとなった際に彼女はもう卒業してしまい登場させるのも難しくなってしまうので、今やっておくしかないと思いました。
椎菜はLiella編の七海と同じくモブキャラをサブキャラに昇格させた形となりますが、七海もそうだしたが原作キャラでありつつオリキャラになっちゃってますね(笑)
ただヘイトは集まらないようにしたいのと話に深みを持たせられるキャラにはして、読者様にも愛着はもってもらいたいのでキャラ付けには結構試行錯誤しました。
ただ蓮ノ空編ももう話数が少ないのでそれほど彼女に出番があるわけではないですが(笑)
次回は梢の個人回となります。
【キャラ設定集】
零から蓮ノ空キャラへの呼称
・日野下花帆 → 花帆
・村野さやか → さやか
・乙宗梢 → 梢
・夕霧綴理 → 綴理
・大沢瑠璃乃 → 瑠璃乃
・藤島慈 → 慈
蓮ノ空キャラから零への呼称(零への好感度 0~100で50が普通)
・日野下花帆 → 零クン (96)
・村野さやか → 零さん (94)
・乙宗梢 → 零君 (76)
・夕霧綴理 → れい (95)
・大沢瑠璃乃 → 零くん (96)
・藤島慈 → 零 (93)
スクールアイドル病の治療状況
・日野下花帆 → 傷の位置未特定
・村野さやか → 治療済
・乙宗梢 → 傷の位置特定済
・夕霧綴理 → 治療済
・大沢瑠璃乃 → 治療済
・藤島慈 → 治療済