「いやぁ~今回も大変だったねぇ。でも無事に終わってなによりなにより」
「超他人事だなお前……」
花帆のスクールアイドル病を治療した日の夜、外出していた秋葉が戻ってきたので全てが終わった旨を報告した。
その開口一番がさっきのセリフ。俺に問題を投げるだけ投げてあとはヨロシクなんて、仮に会社の上司から出された指示だとしたら不満続出だぞ。こういうのはコマンダーが実行役にトップダウンで計画伝えるものだ。何から何まで実行役がしてたら指示役が存在する意味ねぇだろうが。
というツッコミが心の中で溢れ出ているのだが、何を言っても言い訳を垂れ流すだけだろうし、それに反応するのも面倒だから敢えて口には出さないようにする。まあコイツが事件を持ってきて、それを俺が解決する流れはいつも通りだからな。虹ヶ先のただ一人の信仰対象として俺を学校に呼び寄せたり、結ヶ丘の廃校の阻止のため教師として赴任させられたり、この蓮ノ空にだってスクールアイドル病の治療のためガキの姿にして生徒に紛れ込ませる形で送り込みやがった。それに音ノ木坂の入学や浦の星の教育実習もコイツの計らいだったって噂もあるし、もう何年コイツの元で強制労働させられているのか分からない。そろそろ給料、請求してもいいか?
そうやって多少の苛立ちは湧き上がるものの、デカい事件を解決した余韻で心が落ち着いているのかそういった不満はいつの間にか消えている。勉強でも仕事でも途中は辛いけど、いざ終わって振り返ってみればいい思い出だと感じる現象と同じだろう。今の俺もそんな感じだ。だからまたコイツに都合良く利用されるんだろうな。
現在の時間は夜。
俺の部屋にやって来た秋葉と今回の事件について話していた。
「結局スクールアイドル病ってなんなんだよ。俺にしか治せない病気って、そんなのありえんのか?」
「詳しいことは分からない。私もたまたま見つけてなければ存在すら知らなかったし、あまりに未知の病気だねぇ。ただ今回キミが頑張ってくれたおかげで調査も進むから、治療薬の作成には取り掛かれると思う。それまでに病気が発生したらまたキミには働いてもらう必要があるけど」
「ったく……。治療があまりにも俺依存だから、最初はお前が俺の活躍を見たいがために意図的にウイルスを作って撒いたのかと思ってたぞ」
「だとしたら、どうする?」
「え? マジ?」
「んなわけないでしょ。そんなマッドサイエンティストに見える?」
「見える」
「即答とはこれまたショックだこと」
つうか今までの所業からコイツをまともな人間だと判断する奴がいると思うか? まともだと思う奴はコイツに洗脳されていると疑ってもいいくらいだ。
しかもコイツ、虹ヶ先の奴らが幼い頃にいた施設を燃やしたことあるからな。俺が女の子たちを必死に助ける姿が見たい、ただそれだけのために。本来なら牢屋こそが自宅になる奴だが、実際に今回の件みたいにスクールアイドルを救う足掛かりをかけた実績もある。だから必要悪と化してるんだ。俺だけだったら間違いなく花帆たちはスクールアイドル病に蝕まれていただろうし、女の子の笑顔を守りたい俺からしたらコイツとの縁はもう切っても切れなくなっている
「ただ、また俺が出動することになってもガキの姿にするのだけはやめて欲しいな。正体を誤魔化すの大変だったんだぞ」
「いや誤魔化せてなかったけどね。侑ちゃんや七海ちゃんにはバレかけて私もヒヤヒヤしたもん」
「そう簡単に自我を隠せるかよ。それにガキにする薬に正体バレで身体が溶けるなんて副作用がなければ何も心配する要素なかったろ」
「だって簡単に事件を解決されたらつまらないじゃん。私にとってキミの行動っていうのはエンタメなんだから。ちょっとヒヤッとする展開があった方が面白いでしょ」
マジで警察に突き出そうかなコイツ……。
恐らく秋葉が事件を持ってくるのは誰かを救う目的ってよりも、どちらかといえば俺が活躍しているシーンを見て楽しみたいがためだろう。俺の夢が女の子の笑顔を見たいと知っているからこそ女の子がピンチに陥っている事件を嗅ぎつけて持ってくる。ただ目的はどうであれ、それで女の子たちが救われてるんだから責めようにも責められない。やっぱ必要悪か。幽霊騒動の時はコイツも想定外だったのか真面目に解決に協力してくれたので、悪魔な性格と言えども一応人情は存在するらしい。
「それにしても流石だね。キミが編入して22日目だよ? たった3週間であの子たちに接触し、絆を結んで、自分に虜にさせて、そしてスクールアイドル病を治療する。恋愛ゲームも真っ青の攻略スピードだよ。もしレビューがあったら『女の子たちが即落ちし過ぎ。俺強い系のテンプレ過ぎてつまらない』って低評価を付けられるね」
「アイツらの命がかかってたんだ、悠長にしてられねぇだろ。傷の位置をたまたま特定できたとか、運が良かったってのもあるけどな」
「その幸運込みで主人公だねキミは。でも展開がちょっとばかり単調だったかもね。だってこのソファ1つだけで3人と抱き合ったでしょ?」
「えっ、何で知ってんだよ……」
「キミのことは何でも知ってるよ。な~んでも」
怖すぎる。やっぱり蓮ノ空に至る所に監視カメラや盗聴器があって行動は常に見張られていたのだろう。プライベートもあったものじゃねぇな。
ちなみに俺の部屋のソファは綴理、梢、花帆と3人のスクールアイドル病を治療した場所であり、コイツの言った通り抱き合った場所でもある。そう考えるとなんかすげぇ伝説感あるな。女の子を3人も抱いた(決して一線は超えてない)ソファって。
「そういやいつもキミの活躍を見て思うけどさぁ、もっと自分の功績をアピールしていいんだよ? スクールアイドル病のことはあの子たちに話さないようにしてるけど、そこを上手く誤魔化しつつ自分をアピールできれば好感度なんて限界突破するでしょ」
「んなことして何の意味があるんだよ。俺の目的は自分を魅せることじゃなくて治療だろ。それに承認欲求のパワーは凄すぎて本来の目的を上書きされちまうから、そんなの持たない方がいい」
「そうならないよう謙虚であるためにも、敢えて俺様系で強いところを見せてるんだよね分かる分かる。でもこの学校ではあまり俺様俺様してるところ見なかったかも」
「ガキの姿だしな。背も低いし、あまり胸を張って威張ると子供が背伸びしてるみたいで微笑ましく思われんだよ」
俺の性格があまり知られていない転入したての頃は子供扱いされることがよくあった。いろんな悩みやプチ事件を解決していくにつれそんな扱いをされることも減ったのだが、正体を隠す目的もあり可能な限り傲慢な態度は取らないよう心掛けていた。とは言っても仲良くなった奴らの前では思わず素が出ることも多かったが。梢や慈に聞けば今でもナマイキな奴だと思ってんじゃねぇかな。
これまで色々な学校に送り込まれてきたが、今回を振り返ってみると初めてのことが多かった。ガキの姿になって二度目の青春を送ったり、寮生活のせいで女の子たちと一緒にいる時間が長くなったり、病気の治療に奔走したり等々。経験になると言われたら怪しいが、もしまた別の学校に送り込まれて意外な状況に直面したとしてもちょっとやそっとのことでは驚かないだろう。だからと言ってガキの姿だけはゴメンだけど。
「それで? いつ帰る? 今?」
「今はねぇだろ夜も遅いし。それにアイツらに黙っては帰れねぇよ」
「あの子たちのこと気にしてるんだ」
「人間を『俺』か『それ以外』で区分する奴には分かんねぇだろうよ。それに知ってるだろうけど俺は惚れっぽいんだ。チョロいって言われても否定できねぇくらいにな」
「健気だねぇ零君も。子供になったことで思春期時代の甘酸っぱい恋心が戻ってきたのかな」
「うっせ」
「よし。じゃあ退学届はこっちでやっておくから、最後の日を有効活用するといいよ。後ろ髪を引かれないようにね」
「あぁ、分かってるよ」
勝手に明日が最後の日だと決められてしまったが、既に別の面倒事を準備しているのだろう。蓮ノ空のスクールアイドルたちからスクールアイドル病を取り除く、という目的が達成されたので俺の役目は終わった。だったらもうここに留まる理由はない。他の学校に送り込まれた時は月単位、年単位でそこに留まっていたのだが、それはそれだけの期間が必要だったからであり、今回は早期解決が求められていたこともありかなり短い期間での滞在となった。
だとしてもここで積み重なった思い出の色の濃さは他の思い出に負けていない。
ラストの一日。この思い出を胸にどう過ごすかを決めないといけないな。
~※~
「どういうこと零クン! 今日が最後の日だなんて!!」
「どうって言われても……」
翌日の朝。クラスの担任より俺が蓮ノ空に滞在する最終日であることが伝えられた。
あまりに突然の連絡に教室はざわついたが、その中でも特に驚いていたのは当然花帆たちだった。一応近々この学校から去ることは伝えていたものの、昨日まで何の気配もなかったのにいきなりその連絡を受ければそりゃ驚きもするか。
唐突にお別れを宣告されて気が昂ってしまったのか、俺は花帆たち1年生組に教室の外に連れ出されていた。別に悪いことはしてないのに尋問っぽくなっているのは、心の準備が完全にできていない中で立ち去る当日にその連絡を受けたことに対して気が立っているからだろうか。
「ルリたち怒ってるかんね。いきなり言われてもどうしたらいいのか分かんないじゃん」
「授業がなくなるわけでもあるまいし、普通にいつ通り過ごせばいいだろ」
「いつかいなくなっちゃうのは覚悟してたけど、まだ大丈夫かなぁって思ってたんだよ! 勝手に!」
「それは勝手に思い込んでるお前が悪いだろ……。それにいつ帰るかなんて俺も分からなかったんだから仕方ねぇって」
いつスクールアイドル病の治療が完了するかなんて分からなかったからな。昨日だって花帆の身体の傷の位置を特定し、その傷に触れられるまでをスムーズにできたから良かったものの、もちろんそうはいかない場合もあった。そうなると俺の学校生活はまだ続くことになるので自分でもここを去る日がいつになるか分からなかったんだ。
「零さんが学校を去る。ということは自身の目的を全て果たした、ということでしょうか?」
「あぁ」
「やはりそうですか。だからほっとした様子なんですね」
「え、そう見えるか?」
「はい。たまにですが、わたしたちを過剰に気にかける時があったので。あっ、過剰と言うのは迷惑をしていたという意味ではなく、自分でも分かるくらい心配してくださっているなって」
「そうだったのか、気が付かなかった」
いつ重症化してもおかしくない病気だったから、そりゃ心配するよなって話だ。でもそんなオーラを発していたなんて言われるまで気が付かなかった。全てが終わった今それを指摘されるくらいだから昨日まで俺と今の俺の雰囲気にかなりギャップがあったのだろう。思い返せばコイツらの体調の変化をよく気にかけていたから、ちょっとばかり過保護ではあったかもな。
「その目的っていうのはあたしたちに教えてくれないの? 零クンがどんな理由でこの学校に来たのか最初は気になっていて、仲良くなっていくにつれてどうでもよくなってたんだけど、全てが終わったって聞いたらまた気になってきちゃった」
「それは言えない。でも、危機は全部取り除いたよ」
「多分ルリたちが知らないところで頑張ってくれたんだよね。えらいねーよしよ~し」
「撫でるな……」
瑠璃乃は笑顔で俺の頭を優しく撫でる。俺の背は校内でもかなり背の低い部類のコイツよりももっと低いので、並んで立つとより俺が子供っぽく見えるんだよな。そのせいでコイツ以外にもたまに撫でられる時があって腹立たしい。大人の尊厳壊れちまうよ。
ちなみにスクールアイドル病のことは全てが終わった後でも誰にも話さないことにした。秋葉によれば再発はないようだが、またスクールアイドルの誰かが同じ症状になる可能性がある。その場合、副作用が発生する条件の1つである本人に知られたらアウトという条件が意図せずに満たされることがないよう、可能な限り口外しないという方針にした。下手に話を広めれば誰かがうっかり漏らしてしまうリスクが高まるからな。当面は秋葉が独自で調査し、もし何かあれば俺が動くことになるだろう。
廊下で1年生組と話していると、近くの階段から物凄く下品な足音が聞こえた。
ソイツは最後の2段を無視してジャンプで飛び降りると、俺の近くに華麗に着地した。
「ちょっと零、これどういうこと?」
「めぐちゃん!?」
「慈、廊下は走らない」
「梢センパイ!?」
「お邪魔します」
「綴理先輩も!」
2年生組が1年生教室の前までやって来た。慈がチャットグループの画面を見せ付けてくる。どうやら花帆が部のチャットに俺の帰還について連絡したようだ。だからわざわざ下級生のテリトリーに来たのか。相変わらずぞろぞろと集まりやがって騒がしいな。
「零。今日で帰るだなんていきなり過ぎない?」
「またそのやり取りすんのかよ……。やることが終わったんだから当たり前だろ。元々目的が達成され次第帰る予定だったしな」
「そうなんだ。れいは寂しい? ボクは寂しい」
「二択なら『寂しい』だろうな。でも名残惜しくはないよ、金輪際会えなくなるわけじゃねぇんだから。また別のところへ行くだけだよ」
「そう……。いつかこういう時が来るって分かってはいたけれど、いざその時が来ると何を話していいものか悩むものね」
「いつも通りでいいって。悩めば悩むほど余計に別れづらくなっちまうぞ」
俺は何度も所属する学校が変わってこういった別れにも慣れてるが、コイツらからしてみれば大切な人との別れはこれが初めてレベルだろう。しかも大切な仲間という括りだけでなく、自分が初めて愛した異性という自分の人生にまで影響を与えるような存在と別れることになる。だからいきなり帰ると言われて苦言を呈するのは普通のことなんだよな。
「よしっ! だったら今日の放課後、部室で送迎会をしようよ! 部活は明日から本気を出すとして、今日は零クンのためにパーティの準備をしてたくさん美味しいモノを作って食べる! いいですよね梢センパイ!」
「いいとは思うけれど、自分が食べたい欲も少し混じっていそうね……」
「そ、それはそうですけど、零クンのお祝いが一番ですよもちろん!」
「いつの間に祝われることになってんだ俺……」
「零クン目的達成おめでとうってことだよ!」
内容知らねぇくせに……。
そんなわけで話の流れで送別会をすることになってしまった。別に自分の責任を果たしただけだから特に労わってもらう必要もないんだけど、皆がやる気になっている中で水を差す必要もない。ここは素直に祝われておくとするか。
「そうなると部室で送別会をする許可や、最悪夜遅くまで学校に残るかもしれないから時間外届けも出さないとね」
「そのへんは沙知先輩に頼んでおけば大丈夫でしょ。そうだ、あの人も零のお世話になってたっぽいし参加させちゃおうよ」
「いいね。じゃあボクがさちを誘ってみる」
「あと参加してもらえそうなのは椎菜ちゃんたちかな。聞いてみるだけタダだからルリ聞いてみるよ」
「それではわたしは料理を作りますね。梢先輩、お手伝いをお願いしてもよろしいでしょうか?」
「えぇ、もちろんよ」
「あたしは部室を飾り付けます! 今から用意できるものはあまりないけど、できる限りで!」
「じゃあ私は総監督ってところかなぁ。コマンダーめぐちゃん、いい響き!」
「めぐちゃんそれサボるって言ってるようなものだから……」
とんとん拍子で話が進んでいく。まあやるなら放課後しかねぇし、その放課後に計画を立ててたのでは間に合わねぇからな。決めたら即実行する花帆の勢いがいい方向に傾いたのだろう。花帆は俺と2人切りの時に心に淀む寂しさを払拭しているので、この中で誰よりも前向きになっている。そして他の5人にもそれが影響したらしい。精々別れの際に泣き叫ぶのだけはやめてくれよ。帰りづらくなるから。
ここまでの会話の中でも向こうからの気持ちがビンビンに伝わってくる。
だが、俺からは伝えられていない。ガキの姿になっているとはいえ同じ目線で学校生活を送ったのは久しぶりで、更に途中で退場するなんて経験はないから、俺自身どういった気持ちを伝えればいいのか実は迷っているところはある。普通に楽しかったとかでいいのだろうか。ちょっとあっさりし過ぎな気もする。高校の卒業の時ってどんな気持ちだったかあまり覚えてねぇな。
さっき綴理にも言ったが寂しいかそうでないかと問われれば前者なので、コイツらを悲しませない心配をするよりまず自分の気持ちを整理した方がいいだろう。
大人になって、そして教師になって数年が立ち、もう新しい経験なんて早々ないだろうと思ってたけどそんなことは全くなかったな。子供の姿になって女子高に編入するなんて特別すぎるイベントと言えばそうだけど、それ以上に久々に女の子たちと同じ目線に立って見えたものがあった。大人と子供の関係ではない、同年代の立場として。だからこそ特別な経験として思いを馳せてしまう。こうして感傷に浸るのも久しぶりだ。
向こうから気持ちを受け取るだけではダメだ。俺も示さなければならない。
最後の日、この想いが行き着く先は――――――
To Be Continued……
本編中でも零が言っていましたが、何気に別れを描くのってこれだけ話数を重ねてきて初めてなので、今更ながらにかなり新鮮味を感じます。Aqours編も一応お別れエンドでしたが、直後のスクフェス編ですぐ再会しているのでノーカンの認識です。今回は別れた後いつ会えるのかも分からないのがちょっと寂しさがありますね。
そんなわけで次回が最終話となります。
蓮ノ空編は次の最終回の後編で完結予定ですが、そのあとに一話だけ特別編を予定しています。(総和数をキリよくするため)
【キャラ設定集】
零から蓮ノ空キャラへの呼称
・日野下花帆 → 花帆
・村野さやか → さやか
・乙宗梢 → 梢
・夕霧綴理 → 綴理
・大沢瑠璃乃 → 瑠璃乃
・藤島慈 → 慈
蓮ノ空キャラから零への呼称(零への好感度 0~100で50が普通)
・日野下花帆 → 零クン (100)
・村野さやか → 零さん (94)
・乙宗梢 → 零君 (97)
・夕霧綴理 → れい (95)
・大沢瑠璃乃 → 零くん (96)
・藤島慈 → 零 (93)
スクールアイドル病の治療状況
・日野下花帆 → 治療済
・村野さやか → 治療済
・乙宗梢 → 治療済
・夕霧綴理 → 治療済
・大沢瑠璃乃 → 治療済
・藤島慈 → 治療済