ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常2~   作:薮椿

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【最終話】Dream lover Believers(後編)

 編入生活の最終日、放課後。授業が終わった瞬間に花帆たちは教室を飛び出した。

 今朝いきなり俺がここを離れると伝えられ、朝会と1時間目の間の休み時間に光速で俺の送別会が計画された。ただ放課後から準備をしていたら俺の帰りに間に合わないためか、花帆たちは休み時間のたびに教室を飛び出していた。別に大掛かりなことをしてもらわなくてもいいと思ったけど、アイツらがやる気になっている中で水を差すのも悪いとも思ったので特に言ってはいない。

 

 ちなみに俺が学校を去ると聞いて騒いでいるのはアイツらだけではない。クラスメイトもそうだし学校中がその話題で持ちきりになっているようで、休み時間のたびに入れ代わり立ち代わりで俺のいる教室に生徒が押し寄せる事態となった。この学校に編入してからずっと各所の事件事故を片付けていたためか交友関係が広がりまくっており、そのせいでたくさんの生徒たちにお別れの挨拶をされた。昼休みなど長い休み時間では人が集まり過ぎて収拾がつかなくなったのか生徒会が介入するほどの大事となり、放課後になってようやくその荒波が収まりつつある。

 

 そんな事情もあってか休憩時間に全然休めていない。だから体力を回復するなら波が収まった今がチャンスだと思い教室でゆっくりすることにする。それにまだ部室の飾り付けが終わってないから待ってい欲しいと連絡が来たから、どのみちどこへ行く当てもない。どうせ送別会になったらまた騒がしくなるんだ、今ここでHPを蓄えておこう。瑠璃乃の充電切れってこんな感じなんだろうなと今更にながらに共感した。

 

 机にぐったり身体を伏せて休もうとした時、3つの人影が近づいてくる気配があったので視線を向ける。

 ABCトリオと巷では呼ばれている奴らだ。本人たちは芸人のトリオ名みたいだからってあまり気に入ってはいないようだが、語呂の良さから学校中に浸透しているので今更改名を求めようとはしてない模様。校内という閉じたコミュニティとはいえ、多人数の意識を当事者本人が変えられないのは社会の縮図そのものだな。

 

 

「零っち今日は大変だったねぇ~。まあそれだけ人気者だってことだから誇っていいんじゃない?」

「んな承認欲求ねぇけどな。むしろ注目されると疲れるから無視された方がいい」

「この学校で一番輝いて目立っているのに、口と行動が伴ってないですね~」

「おめぇらが面倒事を持ってくるからだろ。たまには自分で解決しろよ」

 

 

 ABCトリオの『A』と『B』の英川(えいかわ)英奈(えな)美堂(びどう)美和子(びわこ)。どいつもコイツも手放しに褒めやがって。転生モノのテンプレ展開かよ。

 こっちはスクールアイドル病だけ解決できれば良くて、そのためだけに時間を使いたかったのに、気付けばいつの間にか他の有象無象といる時間も多くなっていた。ただそのおかげで学校中で俺の価値が認められ、アイツらへの信頼度も上げることができたので結果オーライと言えばそうか。その代償としてどこを歩いても声をかけられたり注目されたり、落ち着く時間が減ったのはちょっとキツかったけど。

 

 

「でも零っちもういなくなっちゃうのかぁ。これまで扱き使う、じゃなかった、頼りにしてたのになぁ」

「心の声漏れてんぞ……」

「できれば合唱部の男性パート役に抜擢したかったのですが、叶わぬ夢だったようですね~」

「なんで女子の合唱部に男を入れようとしてんだよ」

「え、だって零っちがいるだけで全体の士気が上がるんだよ? そりゃ囲い込みたくなるでしょ。花帆ちゃんたちが確保してなかったらウチらがかっさらってたよ」

「それに零君がいれば色々使い道ありそうですからね~。色々発散に使えそうですし」

「何する気だ……」

「ふふっ……」

「ひひっ……」

 

 

 英川も美堂も何考えてやがる。こんなショタ捕まえて発散することって、もう淫らな妄想しか思い浮かばない。おねショタジャンルとか俺の趣味じゃねぇよ、こちとらSキャラ通してんだぞ一応。

 

 その様子を見てかそうでないのか、今まで黙っていた椎葉(しいば)椎菜(しいな)が呆れた顔をしながら話に入ってきた。

 

 

「捕食者の眼になってるよ2人共。どうせ元々は部外者なんだから、いなくて当然の存在にそこまで入れ込まなくても……」

「相変わらずキッツい物言いだなお前」

「合法的に追放できて風紀を乱す輩がいなくなる。学校の秩序も取り戻せて願ったり叶ったりだよ」

「まだ諦めてなかったのかよ。てか俺の追放って大賀美を立ち直らせるためのネタじゃなかったのか……」

「半々と言ったところでしょうか、神崎一年生」

「ここで仕事モードになるなよ……」

 

 

 椎葉は大賀美から直々に指名されて生徒会役員となった超スーパーエリートちゃんだ。

 その生徒会特権により先日呼び出され、追放命令を下されたばかりなのは記憶に新しい。まあその命令自体大賀美の腑抜けを解消するための手段だったわけだが、どうやら丸っきりウソでもないらしい。てことは半分くらい本気で俺を追い出したいと思っているのか。もしかしたら今日の追い出し会を一番ウキウキしながら待ってるのはコイツかもしれない。

 とは言っても口角を上げているので本気か冗談かで言えば後者の方が比率は高いだろう。多分……。

 

 

「こんなこと言ってっけど、椎菜も零っちのこと感謝してるんだよ。だって学校で起こる事件を一手に引き受けてくれて、しかもスピード解決しちゃうんだからそりゃ頼りがいあるもん」

「そういうの言わなくていいから。まぁ手駒として使える人が減ってしまう、といった点だけは残念かな」

「またまたそんなこと言ってますけど、零君がいなくなったあと『彼がいた頃の方が良かった』と言われないようにと自分を奮い立たせていたので、椎菜ちゃんの成長にも影響してるんですよ~。その点でも感謝してましたよね、椎菜ちゃん♪」

「だから、そういうのいいから……」

「事件は俺のせいで引き起こされている、とか言ってた奴とは思えねぇな」

「幽霊騒動とかあなたのおかげで解決した事件もあるし、必要悪だったということで」

 

 

 完全に認めてくれないあたり椎葉だなって思うよ。あの大賀美や梢たち先輩すら論破するロジカリストだから、コイツに認められようと思ったらコイツの確固たる自信を揺るがさないといけないからな。以前に俺がやったみたいにさ。

 それでも俺を追放しようとしていた奴が僅かにでも俺がこの学校に存在する意味を認めてくれたのであれば、それはそれで遺恨を残さずに学校を去れるので良かったかもな。

 

 

「ま、零っちがいなくなってウチらみんな寂しいってことだよ」

「それを追い出し会で紛らわせればいいんじゃねぇのか」

「送別会は行かないよ。だからせめてここでお別れを言っておこうと思ってね」

「『行けない』じゃくて『行かない』のか?」

「そうです。私たちは邪魔をしない方がいいと思いまして~」

「邪魔って、何を?」

「あなたは女心を学んだ方がいいよ」

 

 

 なんとなく意味は分かった。つまりスクールアイドルクラブの奴らと俺だけの空間にしようとしているのか。最後だからこそ絆の繋がりが一番強い奴ら同士で組ませると。中々に粋な計らいだが、意図的にそんな空間を作られたら俺もより真剣ならなきゃいけない。自分の想い、もうちょい整理しておくか。

 

 

「それじゃあ、また来てよ。何度でも歓迎するからさ」

「またお会いできる日を楽しみしていますね~」

「その事件を呼び込む死神体質が改善したら、また戻ってきてもいいですよ」

「お前なぁ……。ったく、そうだな、気が向いたらまた来るよ」

 

 

 別れの言葉と思いきや、3人共俺がここに舞い戻る前提なのですげぇ前向きだと思った。別れが悲しくなるほど交流がなかっただろと言われるかもしれないが、実際のところそうではないので単にコイツらの精神が強いだけだろう。こうして未来の期待に向けた言葉ってのは別れ際に寂しくならず、それどころか激励の意味も込められているのでいい言葉だな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 花帆からもう少しだけ待って欲しいと追加の懇願が来た。そのため校内をブラつきながら時間を潰すことにする。

 ここには3週間しかいなかったけど懐かしさを感じてしまうのは、それだけここでの学校生活が濃縮されているからだろうか。むしろ短期間で休みほぼなく動いてたら勝手に思い出くらいできるわな。まさかこの歳になって学生としての記憶が新しく刻まれるとは思ってなかったけど。

 

 かなり日が暮れている。窓を通じて廊下も黄昏色に染まっており何とも風情だ。この光景を見ると大賀美が悩みを漏らしてくれた時を思い出す。俺の前ではちょいちょい弱音を吐くことはあったので、出会った頃からある程度は信頼されていたのかもしれない。器のデカさで言えば花帆や綴理と同じくらいだろう。

 

 

「やぁ少年。送別会の準備をするからって部室から追い出されたのかい?」

「大賀美……。んなわけねぇだろ」

 

 

 タイミングバッチリだ。狙ってねぇだろうなコイツ。

 大賀美のことを考えていたらまさかの本人登場。飄々とした性格で掴みどころがなく、慈曰く猫みたいな自由な人でもあるのでいきなりふらっと消えたり、逆にいつの間にか忍び寄っているとか日常茶飯事らしい。俺に面倒を押し付ける時も何の前触れもなくいきなり現れるし、今回も図ったかのように急に出くわすあたり最初から最後までコイツの魔の手からは逃げられなかったってことか。

 

 

「ん? 会ってはいけない人みたいな反応されたような……。人の顔を見るなりそれはないんじゃないかい?」

「俺がいつも事件解決に奔走してた原因の一部がお前だろ。生徒会なんだったらそっちで解決しろよな」

「だってみんなは少年を求めてるんだから、キミが行かないと満足してもらえないだろ? それに一部事件はそのためのマッチポンプだって噂もあったし、火を消すために結局はキミを連れて行かないと解決できない。仕方なかったのさ」

「そういえば椎葉がそんなこと言ってたな」

 

 

 俺に会いたいがために自分で事件を起こすなんて、そんなことされたら椎葉が俺のせいで風紀が悪くなったと思うのは無理ねぇわな。事実としてそうなんだから。

 

 

「で? 最後の最後にまた面倒事か?」

「違う違う。送別会に参加しない分ここでお礼を言っておこうと思ってね」

「別に感謝されることは何もしてねぇけどな。むしろ風紀乱してたらしいし」

「キミの謙遜は相変わらずだね……。でもお礼を言いたいのは生徒会長としてとか、学校の代表としてじゃない。あたし個人としてだよ」

「お前個人?」

「うん。去年綴理たちと別れて今年和解した後も残り続けていた、人との距離感の取り方。軋轢を生みだす恐怖を抱えていたせいで一歩を踏み出せないあたしの背中を押してくれたんだ、キミが。今まで前に進みながらも後ろを振り返ることが多くて、立ち止まることも多かったけど、キミの励みのおかげでようやく自信を持って前を向けるようになった。これは感謝すべきことだよ、とても」

 

 

 妙にあと一歩の押しが弱かったのは去年の失敗が尾を引いていたからだろう。決別のトラウマが染みついてしまって自分で自分を縛り付けていたが、先日今と同じ暁に照らされた廊下で2人で話した時にその呪縛を解き放ってやった。いくら生徒のトップに立つ生徒会長であろうとも、本人自身の年齢はまだ思春期レベル。そりゃ歳相応に悩んだりするわな。人間関係に年齢は関係ないかもしれないけど。

 

 

「あたしだけじゃなくて、みんなが前向きになったことで一体感が増したように見えるよ。あの子たちなんて特に。キミは寸鉄を込めるのが上手いから、それだけ絆の輪が広がるのも早いんだろうね。椎菜の言った通り多少は風紀が乱れることがあったかもしれないけど、それ以上に生徒みんなが活気づいて学校生活が楽しくなったと思う人も多くなってるんだ。それは間違いなくキミのおかげだよ。これはあたし個人ではなく生徒会長して感謝すべきことだね」

「俺はただ、自分の目的のために動いていただけだ」

「意地でも自分の功績を誇ろうとはしないんだね。そうやって承認欲求に動じず泰然としているところに女の子は惹かれるのかもねぃ。あたしも付き合うならキミかなって思うよ」

「んだよそれ」

「冗談冗談。忘れてくれ」

 

 

 ナチュラルにぶっ込んできやがって。本人は冗談で済ませているが、あまりにも自然な流れだったので実は本心の可能性もある。とはいえ別れ際のナイーブな雰囲気の中でそれを追求するとムードが壊れるので、ここは敢えて黙っておくことにする。

 

 

「伝えたいことはそれだけ。また機会があれば帰ってきてよ。みんな喜ぶこと間違いなしだからさ」

「そうだな。暇があればお前の卒業式に顔を出していいかも」

「卒業か……。となるとキミと会える機会はあまりないかもしれないね……」

「別に卒業したって会えるだろ。絆が繋がっている限りはな」

「キミの繋がる力は本当に安心するね。じゃあ、またどこかで」

「あぁ」

「あと、みんなをよろしくね」

 

 

 『みんな』というのは花帆たちのことだろう。送別会に参加しないのも、俺とアイツらのみで特別な空間を作らせたいからに違いない。椎葉たちと同じ考えを持っているが示し合わせてはいないと思う。てことは周りのみんなは俺とアイツらがより特別な関係だと認識しているってことか。なんかそこまで期待されると想いを打ち明けるためのハードルを上げられている気がする……。

 

 ともかく、大賀美とのストーリーも一旦これで終わり。ただ縁を深く紡いだこともあり、俺の仕事はあちこちを右往左往することでもあるから、思いがけずまたどこかで会える時が来るだろう。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「零クンの送別会、はじまりはじまり~! はい乾杯!」

「「「「「乾杯!」」」」」

 

 

 しばらくして送別会の準備が整ったと言うことで部室に来たら早速始まった。

 てかお別れってより祝賀会のようなお祝いムードの様に見えるが、変に悲壮感を出されても困るので盛り上がる分には問題ない。こうして持ち上げられること自体に不快感はないんでね。

 

 部室はそれなりに豪華に飾り付けられていた。時間がなかったのか多少チープさはあるものの、短時間で準備したにしては上出来だ。ただデカい紙に『零クンのありがとう!!』と書いてあるのはちょっと恥ずかしい。パーティの主役されることに慣れていないからだろう。

 

 

「にしても、ピザにチキンにポテトって誕生会みてぇだな」

「家庭科室を借りるにあたり、料理部の人たちに相談したら快く食材を譲ってくれたので思わず腕を振るってしまいました」

「だとしても自力で作れるのはすげぇよ」

「料理部の人にも手伝ってもらいながら、ですけどね」

 

 

 飾りつけもそれなりに頑張っていたが料理はもっと頑張っていた。料理部の手ほどきがあったとはいえ店で作られたかのような出来栄えなので、もう店に金を払うのが馬鹿らしくなってしまいそうだ。綴理がさやかをママ扱いして飯をねだる理由も分かる気がするな。

 

 

「零君、飲み物がなくなっているわ。コーヒーにする? 紅茶にする? ジュースにする?」

「零くんのお皿も空っぽじゃん。ルリが取ってあげるよ―――――はいっ、ピザ3枚重ねミルフィーユ!」

「れい、ポテトいる? はい、あーん――――ん、食べた? じゃあ次。はい、あーん」

「チキンもあるよ。めぐちゃん直伝スパイスソースをかけて、はいこれあーん。次はめぐちゃん秘蔵のチーズクリームをかけて、はいこれもあーん」

「いやそんなパクパク食えねぇって! わんこそばかよ!」

 

 

 さっきから俺の隣の席に座る奴が絶え間なく入れ替わる。そのたびに飯や飲み物を渡され、それを食べきったらまた次と無限ループ。ピザ、ポテト、チキンのわんこそばループとか1周しただけでダウンするっつうの。ただでさえガキの姿になったせいか胃袋が小さくなってんのに……。

 

 

「ゴメンなさい。私もだけれど、みんな零君と一緒に居られる時間がこれで最後だと思うとどうしても……ね」

「だったらあたしもほら! 昨日あたしが食べてたチョコレート! また買ってきたから零クンにあげるよ! あっ、あ~んした方がよかった?」

「めぐちゃんたちに餌付けしてもらえるなんて、いくらお金を払ってもできない贅沢だぞ~。今のうちに堪能しておけ~」

「いや自分で食うからいい」

「ガーーーン!! あたしだけあーん拒否された!」

「れい、さっぱりしてるね。最後までずっと変わらない」

「自分の意志を貫き通す頑強なところは相変わらずですね」

 

 

 もはや誰も好意を隠さなくなってきてるな。それだけオープンになってもいいと各々が判断しているからだろう。俺と2人きりの時は誰にも見られてないのでガードが緩くなるのも分かるが、こうして他の人がいる場でも羞恥を感じずに押しが強くなるのは完全に心を許している証拠。出会った当初のコイツらに今の光景を見せたらどんな反応するんだろうな。ちょっと面白そう。

 

 ただ、今までも言ってきたがその好意をただ受け取るだけではダメだ。コイツらと絆を結んだのはスクールアイドル病を治療するためという目的の他に、俺自身の夢である『女の子の笑顔が見たい』の『女の子』にピッタリの魅力的な子たちでもあったからだ。それに好意を浴びるだけ浴びて何の反応もしないなんて鈍感属性みたいなこと、絶対にしたくない。

 昨日まではスクールアイドル病の治療のためどうコイツらに接近するのか、傷の位置の特定やその傷に触れるためにどう服を脱いでもらうかなど、ずっとそんなことばかり考えてたから自分の想いを言葉にする暇なんてなかった。そしてミッションを全て達成したと思ったらもう帰還だ。息をつく暇もない。

 

 だから今こそ最初で最後の、絶好のタイミングだ。

 

 

「じゃあここで、零くんが蓮ノ空で一番思い出に残ったことを発表してもらいましょ~」

「なんだよ急に……」

「こういうの送別会の定番っしょ? ほらほら思い出プリーズ!」

 

 瑠璃乃が右手をグーにして、マイクに見立てる形で俺の口元に突き出してくる。

 自分のタイミングで言おうと思ったけど思いがけずそのタイミングが来てしまった。ま、どのみち言うつもりだったからいいか。

 

 みんなの目が輝いて、その綺羅星を俺にぶつけてくる。そんな大層なことを言うつもりはないけど、少なくとも俺がここにいたって証くらいはコイツらに深く刻みつけておいてやるか。

 

 

「俺がここに来たのはとある目的のためだった。理由は言えないけど、最初はとっととやるべきことを片付けて帰るつもりだったんだ。こんな姿にさせられて、牢獄みたいな山奥の女子高に編入なんて冗談じゃねぇと思ったからな」

 

 

 本当のことだ。向こうに残してきた奴らもいるし、スクールアイドル病なんてウソみたいな設定の病気が蔓延しているなんて信じられもしなかったからな。

 

 

「でも、お前らと関わる毎日は意外と楽しかったよ。自分が本当にこの学校の生徒で青春を送っていると思っちまうくらいにはな。自分の目的を達成しようとする中で必然的にお前たちと一緒にいることが多かったから、俺もどこか心が蓮ノ空の色に染まっていたのかもしれない。これまで経験したことのない色で染められた生活、誰とも違う魅力があって笑顔が綺麗な子たち。ここでの生活は間違いなく満たされていた。最初は目的達成するためだけの事務的な学校生活になるだろうとか思ってたのに、いつの間にか別れが少し名残惜しいと思っちまうくらいには楽しかったんだよ」

 

 

 スクールアイドルなんてもう出会い過ぎて目新しさもなかったけど、やはり会ってみたら会ってみたで毎回その子たち特有の魅力を感じている。1人1人の輝きが違うのは当たり前なんだけど、訳も分からずガキの姿にされて女子高に放り込まれた衝撃で少しナーバスになっていた影響で魅力に気付くのが少し遅れたのかもしれない。

 

 

「その中でお前らの想いを受け取って分かったんだ。俺がお前らに対するこの想いも同じだってことがな。これまで想いを抱いた奴なら何人もいた。だけどお前たちに向ける想いはまた違う。立場も環境も違うから当たり前だけどさ。でも久しぶりに味わったよ、同じ立場の女の子と同じ想いを共有するってのは」

 

 

 μ's以来か、同じ立場の女の子と同じ想いを共有し合ったのは。

 自分が意外と惚れっぽいのは自覚している。スクールアイドルは当然アマチュアでもアイドルを冠しているから可愛い子、美人な子が多いので、そりゃ俺が惚れっぽくなるのは仕方がないだろう。でも幾多のスクールアイドルの子たちと関わってきて、誰1人としてその想いの内容が同じだったことはない。誰とも違わぬユニークで、その想いを抱くたびに新鮮な恋の色を感じられる。

 

 

「花帆、梢、さやか、綴理、瑠璃乃、慈」

 

 

 黙って俺の話を聞いていた6人は名前を呼ばれてピクリと反応する。各々微妙に反応は違うが、顔面を紅潮させているところだけは同じだ。

 

 

「俺はお前たちのことが好きなんだよ。誰か1人だけじゃない。お前らみんなことが。この気持ちを最後に伝えたかった。受け取る物だけ受け取って、何も返さねぇのは不公平だからさ」

 

 

 誰にでも言ってるこの言葉だが、もちろん俺がコイツだと見込んだ奴にしか言っていない。今回はその対象が6人いただけであり、別に1人に限定する必要もない。自分の素直な気持ちを伝えるのに人数制限はないからな。

 

 花帆たちは眼球が飛び出すんじゃないかってくらい目を開く。口を情けなく開けて唖然としている奴もいれば、髪を弄ったり指を絡ませたり気持ちの整理がつかなそうな奴もいる。俺がこんなことを言い出すとは思わなかったのだろう。

 しばらく沈黙が続いた。前触れもなくいきなり告白めいたことを言われてどう返せばいいのか分からないのだろう。

 

 実はさっき秋葉から『もうすぐここから出る』と連絡が来た。こっちの言いたいことは伝えたし、受け取ったモノを返せたからこれでギブアンドテイクの義理は通したぞ。満足した。あとは帰るだけ――――

 

 

「零クン!」

 

 

 花帆に名前を呼ばれたので立ち止まる。

 さっきまでどう反応しようか、どう返答しようか迷っているような表情をしていたが、どうやら決心はついたようだ。他の奴らも同じ。お互いに伝えることは伝えているが、それでまだ伝えたいことがある。自分の気持ちなんて掘れば掘るほど溢れ出てくるものだ。

 

 

「あたしも同じ気持ち! だからもっと! もっともっとスクールアイドル頑張るから! もっと大きく花咲いてみせるから! その時にまた、絶対零クンに会いに行くよ!」

 

 

 お互いの想いが同調して1つになる。突然の出会いから始まり、同じ部で活動し、時には事件に巻き込まれたり、時には悩みを共有して一緒に解決した。山あり谷ありの一蓮托生だったが、だからこそ今この瞬間に同じ想いを持つ者たちで1つになれたんだと思う。

 それはもちろん、他の奴らも同じだ。

 

 

「同じ想いを共有する大切な人。不思議ね、その人のためならどれだけでも頑張れる気がするわ。この慈愛を胸に、あなたにもっと振り向いてもらえるよう努力するわね」

「慕情というものを抱いたことはなかったのですが、とても暖かいです。同時にこれまでにない情熱を頂くことができました。零さんの心をもっと躍らせられるよう、わたしも日々精進します」

「これが『好き』ってことなんだね。れいだけに抱く特別な『好き』。 身を焦がし心を焦がすこの気持ち。また感じさせて欲しい、この熱く燃え滾るような想いを」

「ルリも零くんのことが大好きだからここでお別れは寂しいけど、次に会う時にもっともーっとレベルアップしてやっからね! 刮目して見とけよー!」

「最初はヤな奴とか思ってたのに、まさかここまで恋に揺れる関係になっちゃうとはね。めぐちゃんのハートを射抜いた責任、いつか絶対に取ってもらうから覚悟しておくように♪」

 

「お前ら……。あぁ、楽しみにしてるよ」

 

 

 お互いの気持ちを伝え、心の距離はもう密着するくらいに近づいた。お互いの夢に大きな影響を与えたこの3週間は長いようで短いが、その短期間に濃縮された思い出はあまりに濃く舌鼓を打てそうなくらいだ。

 意外にも誰も涙は流さない。また会えると信じているからだろう。

 会うならまたこの子供の姿で会うことになる。今のこの姿もれっきとした『神崎零』であり、コイツらにとっては今の俺こそが『神崎零』だから。大人の俺も子供の俺も『神崎零』であることに変わりはないからな。

 

 そして帰宅の時間が迫り、いつの間にか星が見えるくらい夜空が広がっていた。

 蓮ノ空女学院。その校門の少し先に秋葉が乗った車が止まっている。花帆たちは最後の最後まで俺を見送るつもりでついてきたが、とうとうここが俺たちが一緒に地を踏む最後の場所となった。

 

 ここに来る途中は特に会話がなく、時折少し寂しそうな雰囲気を漂わせる奴もいた。でも泣かない。俺が好きなのは女の子の笑顔だってみんな知ってるから。

 

 

「ここまでか。じゃあ、これで」

 

 

「うん。また会おうね! 絶対だよ!」

「あなたの好きなコーヒーや紅茶、いつでも部室に用意しておくわ」

「またお会いしましょう。お元気で」

「また楽しい思い出、作ろうね」

「シーユーアゲイン、零くん!」

「じゃあね! 私たちの活躍、しっかり確認しておくように!」

 

 

「あぁ、分かってるよ。またな」

 

 

 その後は振り返らず車へと向かう。

 花帆たちは車が視界から消えるまでずっと手を振ってくれた。俺の好きな、最高の笑顔を見せながら。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 月日は流れ。桜が舞うこの季節。

 スクールアイドルクラブに新しい花が芽吹いた。

 

 新入部員を含めて9人となったこのクラブでは、全員が揃っての初めてのミーティングが行われようとしていた。

 

 

「それではミーティングを始めます。その前に、1年生の皆さんには伝えておきたいことがあります」

 

 

 梢の改まった言葉に1年生たちは首を傾げる。

 

 

「私たちにはもう1人、大切な仲間がいるの。今この学校にはいないけれど、絶対に再会すると約束をしている。だからその時までに、花帆の言葉を借りるならもっと花咲くと誓ったの。花帆もさやかさんも瑠璃乃さんも、綴理も慈も、もちろん私も、みんなその人から教わったことを胸に前を向いて自分の道を歩んでいる。その人が教えてくれたのは『前を向く力』と『繋がる力』。人生を変えるような奇跡的な出会いだった。だから1年生のみんなにも心に留めておいて欲しいわ、今ここにいるメンバーは奇跡的な出会いであるということ。そしてその繋がる力は絶対にあなたたちを裏切らないこと。これからたくさんの悩み事が生まれると思うけれど、臆することなく私たちに相談して欲しい。その壁を打ち破るお手伝いをするから。奇跡が起こったかと思うくらい、その高くて頑丈な壁を簡単に破れるように。そう、私たちがあの人にやってもらったように……ね」

 

 

 紡いだ絆がまた新しい絆を繋ぐ。

 蓮ノ空女学院スクールクラブは再スタート。だが受け継がれた『力』は残された者に大きく根付いており、新しい芽にも浸透し始めた。

 

 再会を夢見て、彼女たちの新たな物語が始まる。

 




 蓮ノ空編、完結しました! ここまで追いかけてくださった方も途中から見てくださった方も、皆さんありがとうございました!

 やはりアプリでのみのストーリー展開のためかアニメがある他のシリーズとは違って内容やキャラを知っている人は少なかったと思われますが、本当に出来栄えの良いストーリーなので公式の方も是非ご覧いただきたいです。主要キャラの性格は珍しくほとんど崩さずに描写しているので、公式を見ても乖離を感じることは少ないはず……

 私が蓮ノ空の好きなところはやはりキャラで、特にアプリのストーリーの場合は1話1話にしっかり時間が設けられている影響でキャラの解像度が高く表現されています。それ故に非常に愛着が持ちやすいのが『キャラが好き』と断言できる要因かなと思っています。

 今回の章では零がμ's編以来となる主要キャラと対等な立場に戻ったことで、私もあの頃と同じ気持ちに戻って描けました。μ's編の彼のようなちょっと小生意気感があったのも妙に懐かしかったです。
そういった点もあり、もはや大人の彼より子供の彼の方がデフォルトと思ってしまうくらいには今の彼に慣れてしましました(笑)

 今回の章での反省点として、良かったのは主要キャラが虹ヶ先やLiellaと比べて少ないので1人1人をしっかり描けたこと、スクールアイドル病の解決というストーリーを主軸にした展開を上手く捌けたことが挙げられます。虹ヶ先編2でもそうですが、ミッション系は起承転結を章を通して描けるので話を書きやすいです。ただ逆に悪影響もあります。
 逆にあまり良くなかったのはその悪影響の部分で、章の後半のほとんどがストーリーを進めるための話でかつ前後編で埋まってしまったことで、日常パートに話数が全然割けなかったことですね。もっとおふざけ系の話が合っても良かったなと思っています。

 最後になりましたが、ここまで追いかけてくださった方に感謝を。中でも感想を送っていおただいた方には更に特大級の感謝を。
 これからも続けていく予定なので、次回投稿された際もまた読みに来てくださると嬉しいです。

 なお、最後みたいな雰囲気を醸し出していますが、次回は特別編でもう1話だけ蓮ノ空編が続きます。よくあるOVAみたいな感じです。


【キャラ設定集】
零から蓮ノ空キャラへの呼称
・日野下花帆 → 花帆
・村野さやか → さやか
・乙宗梢   → 梢
・夕霧綴理  → 綴理
・大沢瑠璃乃 → 瑠璃乃
・藤島慈   → 慈

蓮ノ空キャラから零への呼称(零への好感度 0~100で50が普通)
・日野下花帆 → 零クン  (100)
・村野さやか → 零さん  (94→100)
・乙宗梢   → 零君   (97→100)
・夕霧綴理  → れい   (95→100)
・大沢瑠璃乃 → 零くん  (96→100)
・藤島慈   → 零    (93→100)

スクールアイドル病の治療状況
・日野下花帆 → 治療済
・村野さやか → 治療済
・乙宗梢   → 治療済
・夕霧綴理  → 治療済
・大沢瑠璃乃 → 治療済
・藤島慈   → 治療済

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