「というわけで先生、今日は校舎裏にある古井戸の調査に行きますの」
「なにが『というわけで』だよ……」
部室に着た瞬間に夏美から突拍子もなく提案を押し付けられた。
今日部室にいるのは2年生と1年生のみ。3年生は放課後に進路ガイダンス&進路調査の集会に強制参加させられているため部活は欠席。だから今日の練習は軽めだろうし顧問の俺も楽ができると思っていた矢先にこれだ。なんか既に面倒事に巻き込まれそうな臭いがプンプン漂ってくるな……。
「古井戸って、ゴミ捨て場の近くにあるアレのことか?」
「はい。むしろそれ以外にないですの」
「先生も知っているんすね。あの井戸のこと」
知っているも何も、あの井戸はいわく付きだ。
2年前、かのんたちがまだ1年生の時代にあの井戸に霊魂が大量に漂う事件が発生した。その理由が性欲を滾らせたまま無念にお亡くなりなった奴らの魂が残留思念として残り、女子高に
ちなみに顛末は知り合いの幽霊である愛莉の助力、および俺とかのんたちによるラブロマンス(演技)を見せつけたことで霊魂たちは満足し、全て成仏したことで解決した。今思い返しても俺が経験した事件の中でトップクラスに茶番だったな……。
「で? なんの調査に行くんだよ?」
「どうやら夕暮れ時にその井戸が発光することがあるらしいんですの。しかも色とりどりで明るく……。これは事件の匂い、そして動画のいいネタになること間違いなしですの!」
「ウチのクラスではかなり話題になってたぞ。なぁ四季?」
「うん。その光の色が怪しいというよりネオンみたいに明るかったから、別名『ゲーミング古井戸』って呼ばれてる」
「なんか一気に胡散臭くなったな……」
また幽霊でも出たのかと思ったけど違うのか? 幽霊が出たと騒いでいた2年前はそれなりに深刻そうな雰囲気があったけど、コイツらの様子からしても余裕綽々だからホラーな噂としては出回ってないのだろう。まあ幽霊が出たことはなるべく内緒にしているため、誰もあの時の事件が再発したなんて思わねぇか。
「そういえば、私たちのクラスでも噂になっていたわね。休み時間になるたびにその井戸に行ってた人もいたみたい」
「そうですね。私は予習をしていたので詳しいことは分かりませんが、どうやら1年生にも噂は波及しているようです」
「きな子たちのクラスも盛り上がってたっす。先生が噂を知らないということは、3年生には広まってないんすか?」
「あぁ。3年は進路なり受験なりで若干ピリついてるからな……」
目前に迫る自分たちの進路に集中してるため、そんな浮ついた噂は耳に入らないのだろう。みんな自分のことを考えるので精一杯なんだよ。
ただ、そいつらの担任としても集中力を途切れさせないため、くだらない噂でも火消しはしておいた方がいいかもな。最初は面倒事に巻き込まれそうだから避けようと思ってたけど、コイツらが調査に行くのであれば便乗していいかもしれない。
「話を戻すけど、調査に行くのはマジの話か?」
「マジですの。これほど動画としてバズるネタはありませんの。それにレジェンド扱いされているスクールアイドルたちもそういったエンタメでも人気を博していたらしいので、これはLiellaとしてもチャンスかと」
「いやアイツらも好きでやってるわけじゃねぇからな。巻き込まれてる側だ」
「あなたが行くところ行くところ事件が起こるものね。付き合わされる側は大変だわ」
「先生がトラブルメーカー説もあるということですか」
「間違ってないけど認めたくねぇ……」
これまで俺が関わってきたスクールアイドルたちも幾度となくスクールアイドルとは全く関係ない事件を経験してきた。そして俺がトラブルを引き寄せている原因なのも否めない。だって俺が行くところ秋葉がいたり幽霊が出たりともう俺自身がいわく付きの可能性すらある。しかもお祓いでもどうにもできないため重度過ぎる疾患だ。
「動画のネタはさて置き、このままだと先輩たちに余計な心配をかけさせてしまうので、ここで解決しておくのが合理的では?」
「あぁ、だろうな」
「先生がやる気だなんて珍しいな。こういうのっていつも嫌々ついてくるイメージなのに。やっぱり頼りになるぜ」
「でもなんだかんだ一番前線になって立ってくれて、颯爽と解決してくれるのが先生」
「きな子もそういう男らしいところが好きっす!」
「これだけ期待を煽られたら行くしかありませんの! 先生!」
「ったく……。分かったよ」
元々行く予定だったが、2年生たちの褒め殺しと期待の壁により逃げ道を防がれたのでどのみちだったらしい。俺の性格を見抜いてナチュラルに退路を塞ぐとは、伊達に1年間一緒にいたわけじゃなかったようだな。俺のことを熟知してやがる。
そんなわけでゲーミング古井戸と呼ばれる発光する井戸を見に行くことになった。
幽霊の仕業とかではないと思うけど、少なくても超常現象でないことだけは祈るよ。
~※~
1年生組と2年生組を引き連れて校舎裏の古井戸へと向かう。
夏美は既に動画を回しており、冒頭の挨拶から道中の会話までしっかり動画映えを狙った進行をしている。この1年でLiellaとして有名になったことで動画のチャンネル登録者数が爆伸びし、こういったスクールアイドルとは関係ない日常動画も再生数が回るようになっている。だからこそ今回のネタはコイツにとって格好の的なのだろう。
「きな子先輩は何を持っているのですか? ゴミ袋?」
「これっすか? 以前きな子の実家から送られてきた野菜を使ってみんなですき焼きパーティをしたじゃないっすか、その時のゴミっす。ゴミ捨て場が井戸の近くだからついでに捨てようと思って。毎日回収されないから部室の奥に置いておいたんすけど、ちょうど今日の夕方が回収日なのでいい機会っす」
「部室であんなことをして怒られないか心配でしたけど……」
「四季は何を装着してるんだ? しかもやたらとチカチカ光って目に悪いんだけど」
「幽霊透視スコープ。これを着ければ幽霊の正体が暴ける。光っているのは私の趣味、ゲーミングっぽくしてあるだけ。メイにも後で貸してあげる」
「いらねぇ。もっとスクールアイドルのためになる発明にしろよな」
「ライブの照明にも使える。だから夕焼けを取り込むともっと激しく発光するようにした。このために何度も試行錯誤して、連日何台もの試作品が廃棄された故の賜物だから」
「物は言いようだな……」
コイツら本当にスクールアイドルかってくらい自由だな。まあ1年も経ってるし気が抜けるのも分かる。俺も教師生活の開始直後は身も心も引き締まってたけど、今や日常生活として浸透しているせいでダラダラと過ごしているのが実情。まあ刺激を求めるとなると厄介事に巻き込まれるので、これくらいの緩い塩梅がちょうどいいんだろうな。
怪しい井戸を調べに行く道中なのに全く緊張感のない話をするスクールアイドル部。ホラー要素ゼロだと思われているようだが果たして……。
そして、例の古井戸に到着した。
「なんだ、光ってねぇじゃねぇか。ま、いつも光ってたら噂どころじゃ済まないか」
「それにしても不気味な井戸だな。錆びれてるし誰も使ってないんだろ? だったら撤去すればいいのに」
「別に誰も近寄らない場所だし、金かけてわざわざ取り壊す必要もないってことなんだろ」
古井戸は校舎裏の木々の中にある。井戸はもちろん周りの手入れもされていないのか、木々や雑草で覆われて外からではここに井戸があるなんて知らないと分からないだろう。
俺は特別霊感が強いわけではないが、現時点では特に何も感じない。2年前は近づいただけで霊魂が飛び出してきて大変な目に遭ったので、とりあえず危険はなさそうで良かったよ。単なる噂で終わればそれでいいんだけどな。
「中は結構深いですの」
「でもライトで照らせば底は見えますね。落ち葉や枝が散乱しているだけのようですが。どうやら動画ネタになりそうなものはなさそうですね、姉者」
「ぐぅ~っ!! 絶対に再生数爆盛り案件なのに、『調べたけど分かりませんでした~』なんてオチは許されませんの! 情報ゼロの『いかがですかブログ』になってしまいますの!!」
「こうなったらこの幽霊透視スコープの発光を利用してマッチポンプするしかない。発光能力を上げる名目にもなるし、研究用の部費もふんだくれる」
「いやそんなヤラセでLiellaが炎上したらどうすんだ!? ダメだダメだ!!」
やっぱり噂は噂だったってことか。確かにこんな古井戸がゲーミングっぽく光るなんて考えられないし、作り話のような気がしてならない。思春期学生ってのは噂好きで、この学校は下級生に生徒が多いからこういうガキ見たいなウソ話も広まりやすいのだろう。話題の内容なんて正直どうでもよくて盛り上がることができればいい、みたいな。
「どうやら無駄足だったみたいね」
「ん? なんかちょっと残念そうだな」
「そうね。あなたの活躍を見られると思ったけど、今回は空振りみたいで拍子抜けよ。残念だわ」
「別にいつもお前が期待するほど活躍してるわけじゃねーよ」
「それは私の目で判断するわ」
マルガレーテは常に俺が活躍するシーンを目に焼き付けようとしている。流石は生きる理由が俺なだけのことはある。そのためならマッチポンプとして自ら火を点けることも厭わない気がする。クールだけど俺のことになるとあらぬ方向で熱くなるんだよなコイツ。前にナンパ回避の実践をした時も結局負けてマゾ化してたし……。
そうして撤収ムードが漂う中、ゴミを捨てに行っていたきな子が戻って来た。
「どうすか? 井戸の謎は解明したっすか??」
「全然ですの。むしろ何もなさ過ぎて、このままでは骨折り損のくたびれ儲けで終わってしまいますの」
「だったらいいじゃないすか。平和が一番っすよ平和が」
「うぐぅ……。今回ばかりは仕方ない、諦めますの」
「姉者がここで引くなんて。昔だったら拾ったネタは自作自演であろうと無理矢理動画にしていたのに……」
「そんなことしなくても、Liellaの練習シーンをアップロードしているだけで万再生は固いですの……」
「じゃあ井戸に拘る理由もなかったのでは……?」
そんなわけで撤収。
あまりにも収穫の無さに夏美は嘆くが、意外と俺や他の奴らも虚無感を抱いていた。厄介事に巻き込まれたくはないが少しくらいの刺激は感じたい欲があるのだろう。特に最近は学校やスクールアイドルの活動でも特に目立ったことはなく、いつも通り淡々と毎日を食いつぶしてるだけだしな。それに噂であろうともゲーミング古井戸なんてものがあれば、物珍しさで見てみたいと思ってしまうのが普通だ。だから期待外れで意気消沈してしまうのも仕方がないことだ。
ま、きな子の言う通り平和が一番と思って納得するしかないか。
~※~
部室に戻る途中、校舎内。最上階へ行き、そこから渡り廊下を使って部室へ戻っている最中。
いつの間にか日が暮れかかって夕日の朱色が辺りを照らし始めていた。そろそろ3年生たちの進路ガイダンスも終わった頃だろうか。もうこんな時間だから今日の練習は休みにするか。元々コイツらだけで練習する予定だったが、余計なことに時間を使ってしまいそんな暇もなくなってしまった。
「初めて『時間の無駄』って言葉が似合う体験をした気がするな」
「メイだって少しは期待してたくせに」
「そりゃ最初は面白そうだと思ったけどさ……」
「騒ぎ立てて申し訳なかったですの……」
「いや夏美ちゃんのせいじゃないっすよ。きな子も気になっていたのは本当っすから」
これは誰のせいでもないだろう。強いて挙げればデマを流した奴だが、別に誰かを不幸にするようなウソでもないし、これくらいはお遊びの許容範囲内だ。SNSが発達しているこのご時世、流れてくる話が全部が全部本当なわけねぇしな。噂もまた然りだ。
「別にいいんじゃねぇの。噂はデマだったって事実が確認できただけでも」
「そうですね。以後余計なことに思考が奪われなくなるのは3年生の先輩たちにとっても良いことかと」
「あぁ。だからそういった意味では意味のある――――ッ!?」
「先生?」
ふと窓の外を見た。
すると風情のある夕日の色に照らされた光景の中に、目に悪い色で青、紫、赤、黄、緑と次々に変色する光が見えた。ちょうど井戸のある方向だ。あまりに夕焼け色とマッチしなさ過ぎて最上階の窓からでも簡単に目視できる。
気付いたら廊下を校則無視で猛ダッシュしていた。
「先生!?」
「井戸だ! 井戸が光ってる!」
「えっ――――あっ、ホントっす!!」
「ウソ!? やっぱり噂は本当だったんですの!!」
アイツらも気付いたようだ。
階段を一段飛ばしで降りて最上階から一階へ数秒で辿り着く。その勢いのまま裏口から校舎裏に飛び出し、体育倉庫や物置の横を駆け抜ける。その先にある背の高い雑草や木々を避けながら走り、再度古井戸にまでやって来る。
果たしてその井戸は――――
「はぁ、はぁ……ひ、光って、ない……?」
さっき確認した時と全く同じ状態だった。俺がここに来るまでの間に光が消えてしまったのか。それとも錯覚だったのか。周りを確認しても特に変化はなさそうだ。
一体何が起こったのか。見間違えかと思ったが窓から見た時は明らかに光っていた。アイツらも見てるから間違いないはずだ。
混乱している間にみんなも追いついてきた。あまりに突然走り出したのでほとんどが息絶え絶え。でも井戸を見た瞬間に俺と同じく呆気に取られていた。
「あれ、光ってないの?」
「どういうことですの? さっき上から見た時は明らかにゲーミングぽく光ってましたの!」
「私たち全員が見ていたとなれば、見間違えではなさそうですが」
「おい、これってまさか――――怪現象!?」
「えぇっ!? 幽霊でもいるってことっすか!?」
「これは良い展開になって来たわね」
何故かマルガレーテだけ喜んでいるが、多分俺の活躍が見られると思っているのだろう。
それはさて置き、何が起こったのか確かめたい。過去に霊魂が大量に宿っていたこの古井戸。本当にその類が復活しているとしたら見過ごすことはできない。でも実際に訪れてみたら何の変哲もない井戸が鎮座しているだけだ。おかしいところは何もない。
「これは予想以上の怪現象ですの! 取れ高取れ高!」
「本当に幽霊だとしたら、動画にすることで逆に呪われそうな気もしますが。怪しげな古い井戸に怪現象。呪いのビデオのシチュエーションにしてはピッタリです」
「ひぃっ!? ちょっ冬毬! 変なこというんじゃないですの!」
「私はがぜん興味が出てきた。夏美ちゃん、動画回して」
「ちょっ、ちょ~っと心の準備が……」
やべぇな。コイツらの中でホラー説が高まっている。あまり怖がらせたくはないからその説を否定してやりたいけど、ガチの幽霊を知っているせいかどうも自分の中で説得力が生まれない。やはり自分で幽霊の仕業ではないことを証明するしかないか。
「私この手の話は苦手なんだよ……。意外と平和的な原因だったりしないか? ほら、井戸の中に電飾があってそれを光らせてるとか……」
「そんなもの誰が何のために用意するのよ。こんな古井戸に」
「だ、だよなぁ~……」
「夏美ちゃん。最初に来た時にこの周辺の動画を撮ってたけど、おかしいのが映ってたりしないの?」
「え゛っ!? そ、それは心霊写真……ってことですの!?」
「Exactly」
「そ、そんなことを言われると怖くて見たくないと言いますか……」
「そのための動画だったんじゃないんすか!?」
本当に幽霊とかの類なのか?? さっきも言ったがホラー系の匂いは感じない。でも井戸やその周辺に変わったところなんてない。周辺にあるとすれば校舎か大きなゴミ捨て場くらいだ。ゴミがなくなっているところを見ると、俺たちが立ち去った後に回収されたらしい。きな子が『今日の夕方はちょうど回収される時間帯』だと言っていたので、まさにさっきのことだろう。
こうして考えている間にもコイツらの中では幽霊説がどんどん濃厚になってきている。そんなはずはないと思いつつ、過去の経験から考えると否定はできないもどかしさ。本当に幽霊が原因だったら愛莉を呼ぶしかないけど……。
頭を悩ませていると、四季の制服のポケットがやたら光っていことに気が付いた。しかもその光は――――ゲーミング特有の目が悪くなるあの光り方だ。
「おい四季。お前そのポケット……」
「あぁ、これ? 幽霊透視スコープのこと?」
「凄く光っていますけど、この光ってさっき校舎から見た光と同じではないですか?」
「そういやお前、そいつに夕焼けを取り込むとより鮮明にゲーミング発光するって言ってなかったか?」
「うん」
「それを作るのに試行錯誤しまくって、何台もの試作品が廃棄されたって」
「うん。試作品は光が弱くて、発光してもすぐに薄くなっちゃうはず」
まさか1回目に来た時には光ってなくて、日が暮れかけてた時に光ってたのって……。
そして同じ発明品が大量に廃棄されて捨てられて、回収日は今日の夕方。更に光が弱くてすぐに消える……。
「夏美。お前さっき窓から井戸を見た時に動画撮ってたろ?」
「は、はい」
「見せてみろ」
廊下を飛び出した時に一瞬だが夏美が動画を回していたことには気づいていた。あんな状況でもジャーナリズムを存分に発揮してくれたことが解決の糸口になるかもしれない。
夏美からスマホを受け取って動画を観る。見間違えではない、光っている――――井戸のある場所の
予想通りだ。ようやく全てが分かった。
~※~
「えっ!? 四季が廃棄した試作品が光ってた!? それだけか??」
真相が分かったのでここでお披露目タイム。みんな大なり小なり驚いていたが、真っ先にメイが声を上げた。
ふたを開けてみればホラー展開でもなんでもない、ただ複合的な原因が重なって起きた事故のようなものだ。
「あぁ。四季が捨てたスコープの試作品は光が弱かったらしいけど、大量に捨てたんなら話は変わる。1つ1つの光が微弱でも合わされば遠くからでも見えるくらい大きくなるからな」
「じゃあ夕暮れ時にその光が見えていたって噂は、四季先輩のその発明品が夕日を取り込んで発光していた光景。だから夕暮れ限定だったのね」
「そう。ちなみに光が消えたのは試作品ですぐ弱まる欠陥があったからなのと、すぐにそのゴミが回収されたから。きな子が言ってただろ、今日はゴミ回収がある日だってことと、毎日は回収してないってこと。それに四季が連日ごみを捨ててたとも言ってただろ? 最近は日が落ち始める時間が同じ時間帯で、ゴミ回収も数日おき間隔で同じ時間帯だから、都合よく光が弱まっている時に回収されて、あたかも消えたように見えたんだよ。あのゴミ捨て場は毎回ゴミ溜まってるから、光が薄かったらゴミを回収する人も気付かないだろうしな」
「でもよく分かりましたね。井戸ではなくゴミ捨て場で光ってるって」
「井戸のすぐ近くだし、さっき夏美の動画を観たら違和感にすぐ気づいたよ。光ってるのは井戸のある方向だけど、距離的にはその奥で発光してるってな」
「なるほど。噂を流した人があそこに古井戸があるってのを知っていて、その方向が光ってるとなれば『古井戸が光ってる』と勘違いしてもおかしくないでしょう」
「その通り。井戸は木や雑草で外から見えないから、勘違いするのも無理ねぇよ」
結局のところ、四季がゲーミングの幽霊透視スコープの試作品を連日大量に捨てていたこと、試作品は光がすぐ弱くなること、そのタイミングとゴミ回収の時間と重なったこと、井戸が木々や草で隠れて見えづらかったこと、それらが奇跡的に噛み合って発生した演出だったってわけだ。また幽霊の仕業じゃなくて良かったよ。俺の経験するホラーは決まって夜中まで付き合わされたうえに面倒事ばかりだから、平和に終わって助かった。
「夏美ちゃん良かったっすね。これで動画ネタは完璧すから」
「Liella、学校に蔓延るホラー系の噂を調査し、無事解決する。なんとも興味を掻き立てられるストーリーになりましたの!」
「大量に試作品を廃棄した私のおかげでもある」
「つうか夏美が動画を上げて、四季が噂の原因を作ったとなればそれこそマッチポンプを疑われる気がするぞ」
「ということは、Liellaが炎上せずに活動を続けられるかは姉者の編集の腕ということでしょう。託しましたよ」
「うっ、いきなりハードルが……」
確かにこのままだと自作自演になるから、何かしら事実をゆがめる必要はあるかもな。まあそこはコイツら自身で決めてもらうことにしよう。くだらねぇことに頭を使ったせいか俺は疲れた。
そして、別件でプチ事件が1つ――――
「マルガレーテ。お前さっき俺を盗撮してただろ」
「何もかもを暴いてキメ顔してるあなたに惚れてただけよ。後から眺め直したいから撮っただけ」
「キメ顔言うなイったみたいだろ……」
こういう歪んだ女心が一番解決しにくいんだよな。今回みたいに証拠が転がっていて筋道を立てれば正解できるならどれだけ楽だったか……。
この小説あるある、学校中に噂が流れ、その調査と解決を何故か零とスクールアイドルが担う。
というわけで一応新章のたびに恒例となっているホラー回(のつもり)でした。
内容の通り全然ホラー感はなく、どちらかと言えば日常回の方が雰囲気近かったかも……